説明

偽造防止媒体

【課題】目視角度の変化に応じて反射色に変化が生じる多層薄膜層を有し、さらにオバート機能とコバート機能を具備してなる偽造防止媒体であり、特に目視による真偽判定が容易であり、かつ偽造・改ざん・変造・複写を困難にする偽造防止媒体を提供する。
【解決手段】基材11の一方の面側に設けられている、可視光線の照射下で目視角度に対応して色変化が生じる多層薄膜層18の上に、少なくともパターン状光反射層13が設けられ、さらにそのパターン状光反射層の一部もしくは全面を覆うように位相差層14が設けられていることを特徴とする偽造防止媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目視角度の違いに応じて反射色に変化が生じる多層薄膜層を有し、オバート機能とコバート機能とを共に備える偽造防止媒体に関わり、特に目視による真偽判定が容易であり、かつ偽造・改ざん・変造・複写を困難にする偽造防止媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、偽造を防止する手段としては、例えば、物品そのものを真似することが困難なものとするとか、或いは真似することが困難なものを本物であることの証明として物品に取りつけることにより、本物と偽物を区別できるようにする手段がある。後者の代表的なものとしては、近年多用されているレリーフ型ホログラム、リップマン型ホログラムなどのホログラムを利用した偽造防止手段がある。ここで利用されるホログラムの中で、例えばレリーフ型ホログラムは、干渉縞を微細な凹凸状に再現したものであり、ここで生じる光の回折と干渉により目視角度の違いに応じて固有のカラーシフト(反射光の色変化)を起こす。従って、このようなホログラムを偽造防止の一手段として用い、その部分におけるカラーシフトの有無を確認することにより、真正物であるか否かを容易に判定でき、真偽の確認が容易に行われるようになる。ところが、近年では上述のようなホログラムは、その原理や構造が簡単で、しかも一般に広く知られるようになってきているため、偽造されやすくなりつつあることから、これを用いた偽造防止の効果が薄れてきている。
【0003】
これに対し、このホログラムと同様にカラーシフト(反射光の色変化)の効果を有するものとして、屈折率の異なる二種以上のプラスチックフィルムを多層に積層して一定の条件の下で延伸して得られる、虹彩性多層フィルムを用いた偽造防止手段が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
虹彩性多層フィルムは、例えば、二種以上のプラスチックフィルムを多層に積層して一定の条件下で延伸して得られ、光の干渉作用を利用してカラーシフトが得られるようにしたものであり、特定の波長域に反射・透過特性を有し、観察する位置を違えることによりこの反射・透過特性が変化し、見える色が異なるようになっている。従って、このよう虹彩性多層フィルムを偽造されたくないものの一部に担持させておき、真偽の判定が必要な時に対象物のカラーシフトの有無を確認することにより、真正物であるか否かを容易に判定することができる。この時、この虹彩性多層フィルムはそれを形成する基材が透明フィルムのままでは色の変化が判りづらいこともあって、虹彩性多層フィルムの下地として黒等の濃色の着色層を付加する場合がある。
【0005】
これらのホログラムや虹彩性多層フィルムにおけるカラーシフト(反射光の色変化)は、目視角度の違いによる色の変化が偽造物に対して真偽の判定を可能とし、特にカラーコピー機を利用して不正に複写をしようとした場合にはこのような光学特性までは再現することが不可能であるため、偽造・変造を困難とし、さらには偽造・変造を諦めさせるよう作用する。
【0006】
このような効果がより期待できるようにするために、最近ではシール、または転写箔、転写シート等への展開が図られている。例えば、目視角度の変化に応じて反射色に変化が生じる虹彩性多層フィルムやホログラム等からなる層をその一部に一旦担持しておき、虹彩性多層フィルムやホログラム等の形成層を被貼着物に貼着、または転写させるようにすることにより、所望の物品にホログラム等を形成せしめ、上記した特性を発揮するようにしている。このような場合、さらにより高いセキュリティを付加すべく、特にその層構成
を考慮し、シールを剥離困難な構成のものとするとか、或いは脆性シールのように剥離後に再生困難となるような構成のものとし、一度貼り付けた後に剥離しようとするとホログラム等の一部もしくは全体が破壊されることで、偽造ができなくなるだけでなく、改竄などの操作が加えられたことが一目で判別できるようにしている。
【0007】
さらに、虹彩性多層フィルムのカラーシフト効果を利用し、虹彩性多層フィルムに一定角度のエンボスをつけることにより、様々な色に見えるようにした偽造防止媒体もある(特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、虹彩性多層フィルムは簡単に入手できてしまうために、簡単に偽造されてしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−333884号公報
【特許文献2】特開2005−85094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点を解決課題とするもので、目視角度の違いに応じて反射色に変化が生じる多層薄膜層を一部に有すると共に、オバート機能とコバート機能を併せ持つようにした、セキュリティ性の高い偽造防止媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するためになされ、請求項1に記載の発明は、可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層の上に、少なくともパターン状光反射層が設けられ、さらにそのパターン状光反射層の一部もしくは全面を覆うように位相差層が設けられていることを特徴とする偽造防止媒体である。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層の上に、少なくとも光の干渉や回折による光学的可変画像の表示を可能とする微小な凹凸を表面に有するエンボス層とパターン状光反射層とが順次設けられ、さらにそのパターン状光反射層の一部もしくは全面を覆うように位相差層が設けられていることを特徴とする偽造防止媒体である。
【0013】
さらにまた、請求項3に記載の発明は、可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化を生じさせる多層薄膜層の上に、少なくとも光の干渉や回折による光学的可変画像の表示を可能とする微小な凹凸を表面に有するエンボス層とパターン状光反射層と偏光層とが順次設けられ、さらにそのパターン状光反射層の一部もしくは全面を覆うように位相差層が設けられていることを特徴とする偽造防止媒体である。
【0014】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の偽造防止媒体において、前記多層薄膜層が基材の一方の面側に設けられていることを特徴とする。
【0015】
さらにまた、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の偽造防止媒体において、前記基材のもう一方の面側にさらに光吸収層が設けられていることを特徴とする。
【0016】
さらにまた、請求項6に記載の発明は、可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層の上に、少なくともパターン状光吸収層と反射層とが順次設けられていることを特徴とする偽造防止媒体である。
【0017】
さらにまた、請求項7に記載の発明は、可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層の上に、少なくとも光の干渉や回折による光学的可変画像の表示を可能とする微小な凹凸を表面に有するエンボス層とパターン状光吸収層と反射層とが順次設けられていることを特徴とする偽造防止媒体である。
【0018】
さらにまた、請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の偽造防止媒体において、前記多層薄膜層が基材の一方の面側に設けられていることを特徴とする。
【0019】
さらにまた、請求項9に記載の発明は、請求項8記載の偽造防止媒体において、前記基材のもう一方の面側の一部もしくは全面に位相差層が設けられていることを特徴とする。
【0020】
さらにまた、請求項10に記載の発明は、請求項8または9に記載の偽造防止媒体において、前記基材のもう一方の面側に偏光層が設けられ、さらにその偏光層の一部もしくは全面に位相差層が順次設けられていることを特徴とする。
【0021】
さらにまた、請求項11に記載の発明は、請求項1乃至4、請求項9、10のいずれかに記載の偽造防止媒体において、前記位相差層の光軸が少なくとも2軸方向に配向していることを特徴とする。
【0022】
さらにまた、請求項12に記載の発明は、請求項1乃至11のいずれかに記載の偽造防止媒体において、一方の面側に接着層または粘着層がさらに設けられていることを特徴とする。
【0023】
さらにまた、請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の偽造防止媒体において、一部に切欠き及び/またはミシン目がさらに設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以上のような構成のものであるので、目視角度の違いによりカラーシフト(反射光の色変化)が視認できると共に、オバート機能とコバート機能とを併せ持っているため、検証機により所定のパターンを現出させて視認できるようになっており、これにより真偽の検証が確実に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の偽造防止媒体の概略の断面構成を示す説明図である。
【図2】本発明の他の偽造防止媒体の概略の平面状態を示す説明図である。
【図3】図2に示す偽造防止媒体を検証いている時の様子を示す説明図である。
【図4】本発明のさらに他の偽造防止媒体の概略の断面構成を示す説明図である。
【図5】本発明のさらに他の偽造防止媒体の概略の断面構成を示す説明図である。
【図6】本発明のさらに他の偽造防止媒体の概略の断面構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る偽造防止媒体の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1に示す偽造防止媒体は、基材11上に可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層18が設けられ、さらにその上には光の干渉や回折による光学的可変画像の表示を可能とする微小な凹凸を表面に有するエンボス層、例えば、反射光に色変化を生じさせるレリーフ型ホログラムに係わる微小な凹凸を表面に有するエンボス層12が設けられている。さらに、エンボス層12の上には所定形状のパターン状光反射層13と、位相差層14とが順次設けられている。そして、多層薄膜層18におけるカ
ラーシフトをより効果的にするために、基材11のもう一方の面側には吸収層15が設けられている。図中、17は粘着層を示している。
【0028】
また、図4に示す偽造防止構造体は、基材41上に、可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層48が設けられ、さらに光の干渉や回折による光学的可変画像の表示を可能とする微小な凹凸を表面に有するエンボス層42が設けられている。さらにその上には所定形状のパターン状光反射層43と、偏光層46と、位相差層44とが順次設けられている。そして、多層薄膜層48のカラーシフトをより効果的にするために、基材41の一方の面側は吸収層45が設けられている。図中、47は粘着層を示している。
【0029】
さらにまた、図5に示す偽造防止構造体は、基材51上に可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層58が設けられていると共に、その多層薄膜層58の上には所定形状のパターン状光吸収層55が設けられ、さらに光の干渉や回折による光学的可変画像の表示を可能とする微小な凹凸を表面に有するエンボス層52と、反射層53と、粘着層57とが順次設けられている。基材51のもう一方の面側には位相差層54が設けられている。
【0030】
そして、図6に示す偽造防止構造体は、基材61上に可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層68が設けられていると共に、その多層薄膜層68の上には所定形状でパターン状光吸収層65が設けられ、さらに光の干渉や回折による光学的可変画像の表示を可能とする微小な凹凸を表面に有するエンボス層62と、反射層63と、粘着層67とが順次設けられている。基材61のもう一方の面側には偏光層66と、位相差層54とが順次設けられている。
【0031】
一方図2には、本発明の偽造防止媒体を正面から観察したときの状態が示してある。この偽造防止媒体は、2軸方向に配向軸を持ち、所定のパターン形状で設けられている位相差層21、22を有しているが、目視ではその存在が確認できないようになっている。また、反射層23は目視で確認でき、反射層の無い部分は、その下層に位置する多層薄膜層の反射色が観察されるようになっている。そして、このような構成の偽造防止媒体を検証機(偏光子)を用いて観察すると、図3に示すように、パターン状に設けられている位相差層21、22においては、その下層に反射層23がある箇所に対応した部分のみが確認できるようになる。
【0032】
図1、3、4、5、6にそれぞれ示す偽造防止媒体も、検証機(偏光子)を用いて観察すると、偏光子を通過して偏光された自然光が位相差層のある部分では位相がずれて反射層で反射され、さらに位相がずれて戻ってくるが、位相差層のない部分ではそのまま反射層から戻ってくる。そして、再度偏光子を通過するとき、一方の偏光光を通し、他方の偏光光を遮断するようになるため、コントラストに差が生じて位相差層の形成パターンに対応した潜像が視認できるようになる。
【0033】
このような構成の偽造防止媒体の一部を構成する基材11、41、51、61は、押出加工やキャスト加工により作製された無延伸フィルム及び、延伸加工により作製された延伸フィルム等を用いることができる。
【0034】
延伸フィルムには、伸ばし方により、1軸延伸フィルム及び2軸延伸フィルムがあるが、いずれのものでも使用可能である。また、延伸フィルムや無延伸フィルムの構成材料としては、セロハン、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリオレフィン(PO)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)等を挙げることができる。
【0035】
一方、可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層18、48、58、68としては、例えば、屈折率の異なる二種以上のプラスチックフィルムを多層に積層して一定の条件の下で延伸してなる虹彩性多層フィルムを用いることができる。前記した基材がこのような構成の虹彩性多層フィルムからなる場合は、その上に、可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層をさらに設ける必要はない。
【0036】
また、多層薄膜層としては、上述したような基材11、41、51、61の上に設けられる、例えば、屈折率がおよそ2以上の高屈折率材料と、屈折率が1.5程度の低屈折率材料とを所定の膜厚で積層した多層薄膜であってもよい。
【0037】
上記の高屈折率材料としては、例えば、Sb(3.0=屈折率n:以下同じ)、Fe(2.7)、TiO(2.6)、CdS(2.6)、CeO(2.3)、ZnS(2.3)、PbCl(2.3)、CdO(2.2)、WO(2.0)、SiO(2.0)、Si(2.5)、In(2.0)、PbO(2.6)、Ta(2.4)、ZnO(2.1)、ZrO(2.0)等が使用可能である。
【0038】
また、低屈折率材料としては、MgO(1.6)、SiO(1.5)、MgF(1.4)、CeF(1.6)、CaF(1.3〜1.4)、AlF(1.6)、Al(1.6)等が使用可能である。
【0039】
これらの高屈折率材料と低屈折率材料から少なくとも一種を選択し、それらかなる所定膜厚の薄膜を交互に積層させることにより、特定の波長の可視光線を吸収又は反射し、可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化を生じさせる多層薄膜層を得ることができる。なお、このような多層薄膜層としては、高屈折率層、低屈折率層及び高屈折率層との3層構成になるものや、この3層構成のものに低屈折率層及び高屈折率層を積層した5層構成というように、両端を高屈折率層とした奇数層の構成のものが、目視角度を違えて観察した時に色変化を大きくすることができるので好ましく用いられる。
【0040】
一方、エンボス層12、42、52、62は、光の干渉や回折による光学的可変画像の表示を可能とする微小な凹凸を表面に有する層であって、例えば、光の干渉を利用したレリーフ型ホログラムや回折格子に係る回折構造パターンを内在する微小な凹凸を表面に有し、立体画像の表現が変化したり、目視角度の違いによりパターンが変化するようにした層である。
【0041】
レリーフ型のホログラム(回折格子)は、例えば、光学的な撮影方式により微細な凹凸パターンからなるレリーフ型のマスター版を作製した後、電気メッキ法により前記マスター版からパターンを複製したプレス版を得、このプレス版をポリカーボネート樹脂等からなる層に押し当てて賦型することによって得られる。エンボス層12、42、52、62へレリーフ型ホログラムの形成する場合もこのような方法、すなわちプレス版を加熱してエンボス層形成用材料からなる薄膜に押し当て、ホログラムを形成する方法が採られる。それゆえ、エンボス層12は熱による成形性が良好で、プレスムラが生じ難く、明るい再生像が得られる材料によって構成する。
【0042】
このエンボス層12、42、52、62の構成用材料としては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂や、反応性水酸基を有するアクリルポリオールやポリエステルポリオール等にポリイソシアネートを架橋
剤として添加、架橋したウレタン樹脂や、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂等の熱硬化樹脂、エポキシ(メタ)アクリル、ウレタン(メタ)アクリレート等の紫外線或いは電子線硬化樹脂を、単独もしくはこれらを複合して使用できる。また、前記以外の樹脂であっても、光の干渉や回折による光学的可変画像の表示を可能とする微小な凹凸を表面に形成できるものであれば適宜使用可能である。
【0043】
また、光反射層53、63及びパターン状光反射層13、23、43は、前記したエンボス層12、42、52、62の光学的効果をより高めるために設けられる。この光反射層53、63及びパターン状光反射層13、23、43の構成材料として用いられるものとしては、光学反射率の高いAl、Sn、Cr、Ni、Cu、Au等の金属材料等が挙げられる。膜厚は、構成材料の反射率や用途によって異なるが、概ね1〜100nmとすればよい。また、上記したような金属を含有するペーストを用いてスクリーン印刷法もしくはグラビア印刷法等により設けるようにしてもよい。
【0044】
図1、図2、図4に示すように、パターン状光反射層13、23、43を設ける場合には、例えば所望の文字や絵柄等のパターンで光反射層形成用材料からなる薄膜を部分的に形成すればよい。このようなパターン状光反射層13、23、43を設けると、意匠性を向上させると共に加工を複雑にし、より高い偽造防止効果を付与することができる。
【0045】
パターン状光反射層13、23、43を形成する手法としては、溶解性の樹脂からなる薄膜をパターン状に形成した後、その部分を覆うように金属薄膜を設け、しかる後に溶解性樹脂とその部分の金属薄膜を洗浄して除去する方法や、金属薄膜上に耐酸或いは耐アルカリ性の樹脂を用いてパターンを印刷した後、金属薄膜を酸やアルカリでエッチングする方法、或いは光を露光することによって、溶解する或いは溶解し難くなる樹脂材料を塗布し、所望の形状でマスク越しに光を露光した後、不要部分を洗浄或いはエッチングして除去する方法等を挙げることもできる。以上は一例であり、パターン状光反射層の形成方法はこれらに限定されるものではなく、部分的に金属薄膜等の光反射性薄膜を形成する一般的な技術であれば適宜利用可能である。
【0046】
一方、位相差層14、21、22、44、54、64の形成用材料としては、複屈折性の材料を使用することができる。複屈折性の材料とは、物質の屈折率が光軸方向によって異なる光学材料であって、この中を光が透過するときにその速度が異なってくるので、物質通過後の光には通過速度の差の分だけ位相差が生じることになる。位相差値は屈折率と膜厚で決定することができる。
【0047】
この位相差層14、21、22、44、54、64において光軸方向を一定の方向に配向させるためには、例えば一定の方向に配向処理を行った配向膜の上に液晶材料を塗布すればよい。また、2軸方向に配向させる場合には、例えば、部分的に配向処理の方向を変えた配向膜の上に、液晶材料を塗布するようにすればよい。
【0048】
上記のようにして得られる位相差層14、21、22、44、54、64の形成に当たって用いられる液晶材料としては、メソゲン基の両端にアクリレートを設けた光硬化型液晶モノマー、EB若しくはUVで硬化させた高分子液晶、ポリマー主鎖にメソゲン基を提げた高分子液晶、分子主鎖自体が配向する液晶性高分子を挙げることが出来る。これらの液晶材料は、配向膜の上に塗布した後、NI点の少し下の温度で熱処理することにより、配向を促進することが可能である。
【0049】
液晶材料を配向させるための配向膜の配向処理には、例えば光配向法若しくはラビング配向法を用いることが出来る。
【0050】
光配向法とは、配向膜に偏光等の異方性を有する光を照射若しくは非偏光光を斜めから照射し、配向膜内の分子の再配列や異方的な化学反応を誘起する方法で、配向膜に異方性を与え、これによって液晶分子が配向することを利用したものであるより具体的には、適当な波長帯域の偏光光若しくは斜めからの非偏光光によりパターン露光することにより行われる。
【0051】
また、偏光潜像部と偏光背景部との2区分に分割して、それぞれの部分における配向方向を変える場合は、フォトマスクで配向方向を変えたい部分をカバーしてパターン露光し、さらにフォトマスクでカバーされていた未露光部を処理するために方向を変えてその部分にパターン露光をすれば良い。または、一度全面をパターン露光した後に、部分的にフォトマスクでカバーして方向を変えて再度露光しても良い。
光配向のメカニズムとしては、アゾベンゼン誘導体の光異性化、桂皮酸エステル、クマリン、カルコンやベンゾフェノン等の誘導体の光二量化や架橋、ポリイミド等の光分解等が挙げられる。
【0052】
他方、ラビング法は、基材上にポリマー溶液を塗布して成膜された膜を布で擦り、配向膜を作成る方法で、擦った方向に膜表面の性質が変化し、この方向に液晶分子が並び配向膜が得られるという性質を利用したものである。配向膜を作成するために用いられるポリマー溶液としては、ポリイミド、PVA等を用いたものを挙げることができる。
【0053】
また、光軸を2軸方向に配向させる場合には、配向方向を変えたい部分をマスクでカバーして布で擦った後にマスクを除去し、今度は先ほどラビングした部分をマスクでカバーし、再び方向を変えて布で擦った後、マスクを除去する方法や、全面を布で擦った後に、部分的にマスクでカバーし、方向変えて布で擦った後、マスクを除去する方法を採用すればよい。
【0054】
これらの配向膜を形成するための薄膜の形成方法としては、グラビアコーティング法、マイクログラビアコーティング法等の公知の薄膜形成手法を用いることが出来る。
【0055】
また、光吸収層15、45及びパターン状光吸収層55、65は、多層薄膜層18、48、58、68の光学特性をより強調させるために設ける層である。多層薄膜層18、48、58、68はその膜厚により特定の波長を吸収し、それ以外の波長を反射させる性質を持つ層であるが、吸収波長をこの光吸収層15、45及びパターン状光吸収層55、65によって吸収することにより、より鮮明に反射波長のみが見えることになる。この光吸収層15、45及びパターン状光吸収層55、65の色は、多層薄膜層18、48、58、68によって吸収される光の波長を吸収出来る色で有れば特に限定はなく、一般的には濃色の色を用いるが、黒色が一般的に使用される。
【0056】
さらにまた、偏光層46、66は、例えば、PVAにヨウ素もしくは2色性染料を含浸させ、延伸配向させた吸収型偏光子、もしくは、2色性染料を配向膜状で配向させた吸収型偏光子、もしくはコレステリック液晶にλ/4位相差子を組み合わせた反射型偏光子、複屈折性多層フィルムを積層した反射型偏光子、ブルースター角でレンチキュラーレンズ状に形成したプリズム偏光子、複屈折物質を回折格子状に形成した複屈折回折偏光子、回折構造の溝を深く形成した回折偏光子等からなる層である。これらの偏光子以外にも、反射光、もしくは、透過光にて特定偏光成分を分離もしくは抽出できる素子からなる層であってもよい。
【0057】
また、本発明の偽造防止媒体は、その一部に粘着層や接着層が設けられていてもよい。偽造防止媒体に図に示すように設けられている粘着層17、47、57、67は、それと接する吸収層15、45及びパターン状光吸収層55、65や、基材11、41、51、
61、多層薄膜層18、48、58、68、パターン状光反射層13、23、43及び光反射層53、63もしくはエンボス層12、42、52、62を変質させたり、冒すものでなければ、一般的な粘着材料を用いて形成することが出来る。例えば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル系ポリアミド、アクリル系、ブチルゴム系、天然ゴム系、シリコン系、ポリイソブチル系の粘着剤を単独、もしくはアルキルメタクリレート、ビニルエステル、アクリルニトリル、スチレン、ビニルモノマー等の凝集成分、不飽和カルボン酸、ヒドロキシ基含有モノマー、アクリルニトリルなどに代表される改質成分や重合開始剤、可塑剤、硬化剤、硬化促進剤、酸化防止剤等の添加剤を必要に応じて添加したものを用いることが出来る。粘着層17、47、57、67の形成には公知のグラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等の印刷方法やバーコート法、グラビア法、ロールコート法等の塗布方法等を用いることが出来る。
【実施例1】
【0058】
以下、本発明の実施例について説明する。
まず、基材として、2軸延伸ポリエステルフィルムであるルミラー25T60(東レ社製)を用い、その一方の面側に、3層のセラミック材料からなる厚さ400nmの多層薄膜層を真空蒸着法により設けた。この多層薄膜層は、高屈折率層(厚さ100nm)/低屈折率層(厚さ200nm)/高屈折率層(厚さ100nm)の順に積層したものであり、高屈折率層の構成材料としてはTiOを、低屈折率層の構成材料としてはSiOをそれぞれ用いた。
【0059】
次に、得られた多層薄膜層の上に、エンボス層形成用材料をグラビア印刷法により厚さ0.8μmで塗工した。続いて、微小な凹凸の回折格子パターンを有するニッケル製の金型を165℃に加熱し、ロールエンボス法により前記工程で形成された薄膜の上に押圧することで、その一部に微小な凹凸状の回折格子パターンを形成した。次に回折格子パターンの上にアルミニウムからなる蒸着薄膜を真空蒸着法にて厚さが80nmとなるようにして成膜した。そして、成膜されたアルミニウムの蒸着薄膜の上に、日進化学社製の塩化ビニル・酢酸ビニル系変性樹脂であるソルバインAをインキ化し、ダイレクトグラビア印刷法にてパターン状に印刷した後、5%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬してエッチングを行い、不要な蒸着薄膜を部分的に除去し、パターン状の光反射層を得た。
【0060】
そして、パターン状の光反射層を覆うように、光配向剤であるIA−01(大日本インキ化学工業社製)を用い、マイクログラビア印刷法により薄膜を塗布した。この光配向剤は、365nmの偏光光を照射すると、偏光方向に液晶配向力をもつ材料である。光配向剤からなる薄膜に対して偏光紫外線を用いて全面で2J/cmの照射を行った後、全面照射した偏光方向に対して90°の角度差をつけた方向にフォトマスクを配置してパターン状に偏光紫外線を用いて2J/cmの照射を行った。その後、大日本インキ化学工業製のUVキュアラブル液晶UCL−008をマイクログラビアにて塗工し、酸素雰囲気下でUV硬化を行い、位相差層を得た。
【0061】
さらに、基材のもう一方の面側には、東洋インキ製造社製のSS66 911墨を用いてダイレクトグラビア印刷法にて厚さが0.8μmの光吸収層を設けた。さらに、東洋インキ製造社製の粘着剤(BPS5160)を用いダイレクトグラビア印刷法にて厚さが10μmの粘着層を設けると共に、その上に離型紙を貼り合わせた後、所定の大きさに切り取り本発明の偽造防止媒体(偽造防止シール)を得た。
【0062】
このようにして得られた偽造防止媒体を目視で観察したところ、反射層がある部分は回折構造によるパターンが目視角度を変えることにより、色変化することが確認された。さらに、反射層が無い部分は、可視光域中の特定の波長に対して反射特性を示し、目視角度の変化に応じて反射色が赤から緑に変化することが確認された。さらには、偏光子を検証
用部材として用いて、得られた偽造防止媒体を観察したところ、図3のように、反射層がある部分で潜像が確認された。さらに、この偽造防止媒体をコピー機にて複写したところ、得られた複写物は目視角度を違えることにより色が変化することがなく、偏光子を通して観察しても潜像を確認することが出来ず、真正品と複製品を容易に区別する機能を有していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の偽造防止媒体は、複写防止機能及びオバート機能及びコバート機能を兼ね備えているために、優れたセキュリティ性を有しており、有価証券やブランド品、証明書等の偽造を防止するために使用されるラベルや、転写箔、偽造防止用紙等に幅広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
11 41 51 61・・・基材
12 42 52 62・・・エンボス層
13 23 43・・・パターン状光反射層
53 63・・・光反射層
14 21 22 44 54 64・・・位相差層
15 45・・・光吸収層
55 65・・・パターン状光吸収層
46 66・・・偏光層
17 47 57 67・・・粘着層
18 48 58 68・・・多層薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層の上に、少なくともパターン状光反射層が設けられ、さらにそのパターン状光反射層の一部もしくは全面を覆うように位相差層が設けられていることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項2】
可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層の上に、少なくとも光の干渉や回折による光学的可変画像の表示を可能とする微小な凹凸を表面に有するエンボス層とパターン状光反射層とが順次設けられ、さらにそのパターン状光反射層の一部もしくは全面を覆うように位相差層が設けられていることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項3】
可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化を生じさせる多層薄膜層の上に、少なくとも光の干渉や回折による光学的可変画像の表示を可能とする微小な凹凸を表面に有するエンボス層とパターン状光反射層と偏光層とが順次設けられ、さらにそのパターン状光反射層の一部もしくは全面を覆うように位相差層が設けられていることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項4】
前記多層薄膜層が基材の一方の面側に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の偽造防止媒体。
【請求項5】
前記基材のもう一方の面側にさらに光吸収層が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の偽造防止媒体。
【請求項6】
可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層の上に、少なくともパターン状光吸収層と反射層とが順次設けられていることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項7】
可視光線の照射下で目視角度に対応して反射光に色変化が生じる多層薄膜層の上に、少なくとも光の干渉や回折による光学的可変画像の表示を可能とする微小な凹凸を表面に有するエンボス層とパターン状光吸収層と反射層とが順次設けられていることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項8】
前記多層薄膜層が基材の一方の面側に設けられていることを特徴とする請求項6または7に記載の偽造防止媒体。
【請求項9】
前記基材のもう一方の面側の一部もしくは全面に位相差層が設けられていることを特徴とする請求項8記載の偽造防止媒体。
【請求項10】
前記基材のもう一方の面側に偏光層が設けられ、さらにその偏光層の一部もしくは全面に位相差層が順次設けられていることを特徴とする請求項8または9に記載の偽造防止媒体。
【請求項11】
前記位相差層の光軸が少なくとも2軸方向に配向していることを特徴とする請求項1乃至4、請求項9、10のいずれかに記載の偽造防止媒体。
【請求項12】
一方の面側に接着層または粘着層がさらに設けられていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の偽造防止媒体。
【請求項13】
一部に切欠き及び/またはミシン目がさらに設けられていることを特徴とする請求項1
2に記載の偽造防止媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−115974(P2011−115974A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273409(P2009−273409)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】