説明

偽造防止媒体

【課題】複写防止機能や偽造防止機能を備えた偽造防止媒体であって、この偽造防止媒体と同一の複写物を作成することを困難とすると共に、たとえコピーやスキャナーによるスキャニングを利用して複写物を作成しても、複製元が有している複写防止機能や偽造防止機能までは具備できないようにした偽造防止媒体を提供する。
【解決手段】複数の網点からなる網点潜像部と複数の網点からなる網点背景部とで構成されている網点状光吸収層が、網点潜像部と網点背景部とが目視で区別できない状態で設けられていると共に、その網点状光吸収層の上部には光学的に透明で、所定波長の光を選択的に反射する選択的光反射層が配置されていることを特徴とする偽造防止媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隠し文字や隠しパターン等の潜像が視認不可能な状態で潜在化されていて、顕像化シートを介して観察すると潜像が視認できるようにした偽造防止媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から銀行券、商品券、パスポート等の有価証券類には、偽造防止対策の一つとして、その一部に偽造が困難な媒体を貼り付けたり、内在させておくことがある。そして、そのような偽造防止対策が施された偽造防止媒体の真偽の判定は、目視または検証機によって行っている。
【0003】
しかし、目視によって真偽の判定が行なえるようになっている偽造防止媒体は、施されている偽造防止に係る技術情報が目視によって比較的容易に知られてしまうため、知り得た偽造防止技術情報に基づいて偽造物が複製され易いという欠点がある。
【0004】
これに対して、微細な多数の平行線群からなる万線潜像の周辺を微細な多数の平行線群からなる万線背景パターンで囲い、万線潜像を目視不可能な状態で潜在化させておき、透明フィルムに微細な多数の平行線状の万線が規則的に施されている顕在化シートを介して観察することにより、万線潜像が視認できるようにした、「万線モアレ」を応用した偽造防止媒体が提案されている。また、二つ以上の万線潜像を潜在化しておき、一つの顕在化シートで二つ以上の万線潜像を視認できるように工夫されたものも提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、このような偽造防止媒体は、そこに施されている偽造防止技術が目視で確認しづらいものの、そこに設けられている万線潜像やその周辺の万線背景パターンは所謂印刷パターンであるため、コピーやスキャナーを利用して複写物を作成した場合、複写物上でも同じように再現されてしまい、得られた複写物も複写元と同じような偽造防止機能を有してしまうことになる。
【0006】
本発明は、複写防止機能や偽造防止機能を備えた偽造防止媒体であって、この偽造防止媒体と同一の複写物を作成することを困難とすると共に、真偽判定を容易にし、たとえコピーやスキャナーによるスキャニングを利用して複写物を作成しても、複製元が有している複写防止機能や偽造防止機能までもは保持できないようにした偽造防止媒体を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2001−213042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決課題とするものであり、複写防止機能や偽造防止機能を備えた偽造防止媒体であって、この偽造防止媒体と同一の複写物を作成することを困難とすると共に、真偽判定を容易にし、たとえコピーやスキャナーによるスキャニングを利用して複写物が得られたとしても、複製元が有している複写防止機能や偽造防止機能までもは保持できないようにした偽造防止媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するためになされ、請求項1記載の発明は、複数の網点からなる網点潜像部と複数の網点からなる網点背景部とで構成されている網点状光吸収層が、網点潜像部と網点背景部とが目視で区別できない状態で設けられていると共に、その網点状光吸収層の上部には光学的に透明で、所定波長の光を選択的に反射する選択的光反射層が配置されていることを特徴とする偽造防止媒体である。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の偽造防止媒体において、前記網点潜像部を構成する複数の網点と前記網点背景部を構成する複数の網点は、それらの網点角度かピッチのいずれかが異なっていることを特徴とする。
【0011】
さらにまた、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の偽造防止媒体において、前記網点状光吸収層は、光学的に透明な基材の一方の面に設けられていると共に、基材のもう一方の面には、その網点状光吸収層を覆うように選択的光反射層が設けられていることを特徴とする。
【0012】
さらにまた、請求項4記載の発明は、請求項1または2記載の偽造防止媒体において、前記網点状光吸収層が、光学的に透明な基材の一方の面に設けられていると共に、その網点状光吸収層の上には選択的光反射層がさらに設けられていることを特徴とする。
【0013】
さらにまた、請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の偽造防止媒体において、前記選択的光反射層は、高虹彩性多層薄膜か、光干渉性顔料、コレステリック液晶顔料、またはコレステリック液晶のいずれかを含有する薄膜のいずれかからなるものであることを特徴とする。
【0014】
さらにまた、請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれかに記載の偽造防止媒体において、前記選択的光反射層が設けられている面とは逆側の面に粘着層が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の偽造防止媒体は、複数の網点からなる網点潜像部と複数の網点背景部とで網点状光吸収層が構成され、その網点潜像部と網点背景部は目視では区別できないような状態で設けられていて、顕像化シートを重ねると、潜在化されていた網点潜像が顕像化し、その内容が視認できる。したがって、顕像化シートによる網点潜像の顕像化と顕像化された網点潜像の内容を検証することにより、真偽の判定が可能となる。
さらに、観察者側に位置するように設けられている選択的光反射層においては、光の一部を透過し、それ以外は反射する。選択的光反射層を透過した光は下部に位置する網点状光吸収層に吸収され、選択的光反射層で反射した光は観察者に所定の色相で観察されるようになるので、潜在化されていた網点潜像が所定の色相で視認可能となる。
また、本発明の偽造防止媒体は、たとえカラーコピー機やカラースキャナー等を利用して似たようなものが複製されたとしても、上述したような効果を奏することはない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の偽造防止媒体の概略の断面構成を示す説明図である。
【図2】本発明の他の偽造防止媒体の概略の断面構成を示す説明図である。
【図3】本発明のさらに他の偽造防止媒体の概略の断面構成を示す説明図である。
【図4】本発明の偽造防止媒体がその一部に貼り付けられている有価証券の断面状態を示す説明図である。
【図5】本発明の偽造防止媒体がその一部に貼り付けられている有価証券の平面状態を示す説明図である。
【図6】本発明の偽造防止媒体上に顕像化シートを重ね合わせ、潜像を顕像化しているときの様子を示す説明図である。
【図7】網点潜像部を構成する複数の網点における網点角度、ピッチ及び位相の関係を示す説明図である。
【図8】網点状光吸収層の構成と、網点状光吸収層を構成する網点潜像部と網点背景部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の偽造防止媒体を、図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
本発明の偽造防止媒体は、図1にその一例を示すように、複数の網点からなる網点潜像部2と複数の網点からなる網点背景部3とで構成されている網点状光吸収層4が、網点潜像部2と網点背景部3とが目視で区別できない状態で設けられていると共に、その網点状光吸収層4の上部には光学的に透明で、所定波長の光を選択的に反射する選択的光反射層5が配置されている。図1の偽造防止媒体は網点状光吸収層4を覆うように粘着層7がさらに設けられている。
【0019】
一方、図2と図3には、本発明の他の実施形態に係る偽造防止媒体が示してある。図2に示す偽造防止媒体は、複数の網点からなる網点潜像部22と複数の網点からなる網点背景部23とで構成されている網点状光吸収層24が、光学的に透明な基材26の一方の面に設けられていると共に、基材26のもう一方の面には、その網点状光吸収層24の上部に選択的光反射層25が位置するように設けられている。網点状光吸収層24の上には粘着層27が積層して設けられている。
【0020】
また、図3に示す偽造防止媒体は、複数の網点からなる網点潜像部32と複数の網点からなる網点背景部33とで構成されている網点状光吸収層34が、光学的に透明な基材36の一方の面に設けられていると共に、その網点状光吸収層34の上には選択的光反射層35が積層して設けられている。また、基材36のもう一方の面には粘着層37が積層して設けられている。
【0021】
さらに、図4には、複数の網点からなる網点潜像部42と複数の網点からなる網点背景部43とで構成されている網点状光吸収層44が、光学的に透明な基材46の一方の面に設けられていると共に、基材46のもう一方の面には、その網点状光吸収層44の上部に位置するように選択的光反射層45が設けられ、網点状光吸収層44の上には粘着層47が積層して設けられてなる偽造防止媒体が有価証券49の一部に貼り付けられている状態の断面構成が示してある。
【0022】
図2、図3、図4に示す偽造防止媒体は、その選択的光反射層が、例えばコレステリック液晶を含有する薄膜で構成されていると、下部に網点状光吸収層がない箇所では若干の反射色が観察されるが概ね無色を呈するようになる。一方、下部に網点状光吸収層のある箇所では、そこを透過した光はその下部の網点状光吸収層の部分で吸収されると共に、そこでは所定の反射色の光が観察される。従って、後述するような顕像化シートを介して観察すると、その反射色で網点潜像が視認されるようになる。
【0023】
以下、このように作用する選択的光反射層を構成するコレステリック液晶について詳しく説明する。
【0024】
螺旋軸が右及び左のコレステリック液晶は、キラル相を有する三次元架橋性液晶物質を配向させ、三次元架橋させることで得られる。コレステリック液晶の部分で反射した光は円偏光である。液晶物質の中でもコレステリック液晶はねじれ構造を有し、そのねじれ軸(螺旋軸)に沿って光の屈折率が周期的に変動するため、そのねじれ構造のピッチに等し
い波長の光を選択的に反射する。従って、ねじれ構造のピッチを温度、及びまたはカイラル剤を用いて制御することで所望の反射色を作り出すことが可能である。また、ねじれ構造を有するコレステリック液晶は、各分子が層を成して配置されており、層中で均一に配列されることで初めてその光学的特性を示すようになる。
そして、分子は層毎にその配列方向を変えるのでねじれ構造が生じる。各分子の配向は、例えば配向層または電解または磁界によって制御できる。また、分子の配向は、例えばキラル相を有する三次元架橋性液晶と多官能性重合化合物を組合せてなるコレステリック高分子液晶材料により薄膜を形成し、しかる後にこの薄膜に紫外線を照射することで三次元架橋させて固定化すればよい。
【0025】
コレステリック高分子液晶の出発物質としては、紫外線から赤外線の光の波長に対して等しいピッチのねじれ構造を有する全てのコレステリック液晶物質が利用できる。
キラル相を有する液晶物質はネマチック構造やスメクチック構造をとる液晶にキラル物質を加えることで製造できる。キラル物質の種類及び分子量がねじれ構造の向きやピッチ、延いては反射光の波長を決定する。さらにネマチック構造やスメクチック構造中に不整炭素を持つ液晶であればキラル物質の添加無しにねじれ構造をとらせることも可能である。キラル物質の添加、無添加に関わらず、ねじれ構造のピッチを変更させるには温度の変更が有効である。ただし、ピッチは温度が低いと長くなり、温度が高いと短くなるため、温度が低すぎる場合には反射光は赤外線領域の光となり、高いと分子による吸収を除けば紫外線領域の光となり、さらには等方層となり液晶性を示さなくなる点があるため、偽造防止にとって必要な反射光が得られるように適切な温度管理をする必要がある。
【0026】
また、コレステリック液晶物質と組み合わせて用いる、重縮合性基または重付加に有効な基を有するエネルギー線硬化性化合物としては、特に分子中に2個ないしそれ以上のエネルギー線硬化性基を有する単量体、オリゴマーを含有するものが好ましく用いられる。例えば、ラジカル系光重合性単量体としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能性単量体、ポリウレタンポリアクリレート、エポキシ樹脂系ポリアクリレート、アクリルポリオールポリアクリレート等の他官能性オリゴマー類を挙げることができる。一官能性の単量体としては、アルキル(C1〜C18)(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アルキレン(C2〜C4)グリコール(メタ)アクリレート、アルコキシ(C1〜C10)アルキル(C2〜C4)(メタ)アクリレート、ポリアルキレン(C2〜C4)グリコール(メタ)アクリレート、アルコキシ(C2〜C10)ポリアルキレン(C2〜C4)グリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。また、カチオン系光重合性単量体としては、芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル系化合物が挙げられる。3次元架橋性液晶ポリオルガノシロキサンも好ましく用いられる。
【0027】
また、エネルギー線硬化を起こすための光重合開始剤としては、ラジカル系光重合開始剤である、α−ヒドロキシアセトフェノン系、α−アミノアセトフェノン系等のアセトフェノン系、ベンゾインエーテル系、ベンジルケタール系、α−ジカルボニル系、α−アシルオキシムエステル系等の光重合開始剤が使用される。より具体的にはα−アミノアセトフェノン、アセトフェノンジエチルケタール、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチルフェニルプロパノン、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、イソプロピルチオキサントン、ベンゾフェノンとN−メチルジエタノールアミンとを併用したもの等が用いられる。また、カチオン系光重合開始剤も特に制限なく使用することができる。
【0028】
選択的光反射層中には、公知の増感剤や過酸化物をさらに適宜含有させるようにしても
よい。例えば、アリルヨードニウム塩−α−ヒドロキシアセトフェノン系、トリアリルスルホニウム塩系、メタロセン化合物−パーオキサイド併用系、メタロセン化合物−チオキサントン併用系、メタロセン化合物−アントラセン併用系等の増感剤である。
【0029】
コレステリック液晶を含有する選択的光反射層は、上述の如き材料を用いて調製した構成材料を使用し、コンマコーター、マイクログラビアコーターオフセット等公知のコーティングや印刷方法で膜厚0.5〜20μm、好ましくは2〜10μm程度となるよう基材上に塗布し、しかる後にメタルハライドランプ高圧水銀ランプ等の公知の活性エネルギー線照射装置から活性エネルギー線を照射して架橋させることで得られる。
より具体的には、3次元架橋性液晶ポリオルガノシロキサンと光重合開始剤の混合溶液を用いる場合には、この混合溶液を、金属基材、プラスチック基材またはガラス基材等の基材上に加温しながらドクターを用いてせん断力を加えて塗布し、液晶分子を配向させ、しかる後にその塗膜に紫外線を照射して三次元架橋させる方法を挙げることができる。
用いる基材としては、例えばポリイミドまたはポリビニルアルコールから成る配向層が設けられていてもよい。さらに、液晶分子の配向方法としては、2枚のシート間でせん断力を加えながら配向させる方法を採用することも可能である。
【0030】
なお、架橋を速やかに進めるため、活性エネルギー線照射環境を不活性ガス不雰囲気にして酸素濃度を下げるようにしたり、架橋させる部分をポリエチレン等のフィルムで覆うことにより酸素阻害を回避させる方法を併用するようにしてもよい。
また、ある基材上に構築したコレステリック液晶を含有する選択的光反射層の光反射層面に接着剤を塗布し、必要に応じた形状で別の基材に転写し、そこにコレステリック液晶を含有する選択的光反射層を設けるようにしてもよい。
【0031】
一方、選択的光反射層としては、その中にパール顔料を含有したものであってもよい。選択的光反射層中に含ませるパール顔料としては、可視光域の光を透過させ、屈折率が2.0以上程度の金属酸化物からなる薄膜を単層もしくは複層で雲母の表面に被覆したものが採用される。雲母に反射性(高虹彩反射)を与えるための金属酸化物としては、例えば、Sb2S3、Fe2O3、PbO、ZnSe、CdS、Bi、TiO、PbCl、CeO、Ta、ZnS、ZnO、CdO、Nd、Sb、SiOおよびInO等が挙げられる。
【0032】
上述したような雲母と金属酸化膜が組み合わされてなるパール顔料は、雲母と金属酸化膜の屈折率の差が0.4より大きいことから、入射した白色光の反射量が多くなり、また同時に雲母と金属酸化膜の界面で、複屈折を起こすことから、高虹彩反射性となり、これを含む選択的光反射層の変色効果をより効果的にする。
【0033】
雲母を金属酸化膜で被覆する場合、金属酸化膜の膜厚を制御することで任意の色調の高虹彩反射性を有するパール顔料とすることができる。その膜厚は、1〜1000nm、望ましくは20〜200nm程度の範囲のものとすることにより、可視光域の光に対して優れた高虹彩反射性を示すようになる。
【0034】
このようなパール顔料を結着剤、分散剤および助剤等と混練させてインキ化し、得られたインキを用いて、グラビア印刷やスクリーン印刷等の各印刷方法により選択的光反射層を形成すればよい。インキ化に際しては、例えば上記パール顔料と蛍光顔料とをその配合比がおおよそ1:1〜3:1となるようにして含有させると共に、これらの顔料の含有割合を20〜50質量%程度とすることにより、より優れた高虹彩反射性を発現できるようになる。
【0035】
また、選択的光反射層としては、例えば屈折率がおおよそ2以上の高屈折率材料からな
る薄膜と、屈折率が5程度の低屈折率材料からなる薄膜を所定の膜厚で積層したものであってもよい。積層材料としては、例えば、Sb(3.0=屈折率n:以下同じ)、Fe(2.7)、TiO(2.6)、CdS(2.6)、CeO(2.3)、ZnS(2.3)、PbCl(2.3)、CdO(2.2)、Sb(2.0)、WO(2.0)、SiO(2.0)、Si(2.5)、In(2.0)、PbO(2.6)、Ta(2.4)、ZnO(2.1)、ZrO(2.0)、MgO(1.6)、SiO(1.5)、MgF(1.4)、CeF3(1.6)、CaF(1.3〜1.4)、AlF(1.6)、Al(1.6)、GaO(1.7)等のセラミックスが挙げられる。積層材料としては、Al、Fe、Mg、Zn、Au、Ag、Cr、Ni、Cu、Si等の金属またはこれらの合金であってもよい。さらにまた、低屈折率の有機ポリマー、例えばポリエチレン(1.51)、ポリプロピレン(1.49)、ポリテトラフロロエチレン(1.35)、ポリメチルメタアクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.60)等も用いることができる。これらの高屈折率材料もしくは30%〜60%程度の光透過性の金属薄膜より少なくとも一種、低屈折率材料の薄膜より少なくとも一種を選択し、所定の厚さで交互に積層させることにより、特定の波長の可視光に対して所定の吸収性あるいは反射性を示す選択的光反射層を得ることができる。
【0036】
高屈折率材料と低屈折率材料を所定の膜厚で積層してなる選択的光反射層は、上記した各材料から屈折率、反射率、透過率等の光学特性や耐候性、耐薬品性、層間密着性等を考慮し、適宜のものを選択し、薄膜とし、それらを複数に積層して形成すればよい。
【0037】
薄膜の形成方法は、公知の手法を用いることができ、膜厚、成膜速度、積層数、或いは光学膜厚(=n・d、n:屈折率、d:膜厚)等の制御が可能な、通常の真空蒸着法、スパッタリング法等の物理的気相析出法や、CVD法等の化学的気相析出法に係る薄膜形成方法を適宜用いることができる。
【0038】
また、低屈折率有機ポリマーを利用して薄膜を成膜する方法としては、公知のグラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等の印刷方法や、バーコート法、グラビア法、ロールコート法等の塗布方法を用いることができる。
【0039】
なお、高屈折率材料と低屈折率材料を所定の膜厚で積層してなる選択的光反射層の構成材料としては、上記したセラミックスや金属以外に、これらと同等、或いは類似する屈折率と反射率を有するものであれば、用いることが可能である。
【0040】
このような選択的光反射層のより具体例な例としては、その層厚が50〜2000nmの範囲にあり、例えばZnS、TiO、ZrO、In、SnO、ITO、CeO、ZnO、Ta、Al、Fe、Mg、Zn、Au、Ag、Cr、Ni、Cu、Si等の高屈折率材料からなる薄膜と、例えばMgF、SiO、CaF、MgO、Al等の低屈折率材料からなる薄膜とを交互に積層し、その積層数が2層以上、好ましくは2層〜9層としたものが挙げられる。
【0041】
本発明の偽造防止媒体は、その一部を構成する選択的光反射層が、前述のように、ある基材の一方の面に積層されたものである以外に、光学的に透明で、所定波長の光を選択的に反射する虹彩性多層フィルムの単層であってもよい。
虹彩性多層フィルムは、屈折率の異なる2種類以上のプラスチック系薄膜を交互に積層したものである。このプラスチック系薄膜は、プラスチック材料を主体とし、これらに必要に応じて各種助剤等を添加してなるプラスチック系材料からなるものである。
【0042】
上記のプラスチック系材料の主体となるプラスチック材料としては、高屈折率のプラスチック材料であるポリエチレンナフタレート(PEN;1.63=屈折率n:以下同じ)
、ポリカーボネート(PC;1.59)、ポリスチレン(PSt;1.59)、ポリエチレンテレフタレート(PET;1.58)等や、低屈折率のプラスチック材料であるナイロン(Ny;1.53)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA;1.49)、ポリメチルペンテン(1.46)、フッ素系PMMA(1.4)等を挙げることができる。虹彩性多層フィルムは、これらの高屈折率プラスチック材料の中から少なくとも一種、低屈折率プラスチック材料の中からから少なくとも一種を選択し、それぞれを所定の厚さの薄膜として交互に積層させることにより得ることができる。得られたフィルムは、特定の波長の可視光に対する所定の吸収性あるいは反射特性を示し、目視角度の変化に応じてカラーシフトが生じる。
【0043】
一方、前述した選択性光反射層を設けるための基材としては、押出加工やキャスト加工により作製された無延伸フィルムや、延伸加工により作製された延伸フィルム等を用いることができる。延伸フィルムには、伸ばし方により、1軸延伸フィルム及び2軸延伸フィルムがあるが、両者とも使用できる。
【0044】
これらの無延伸フィルム及び延伸フィルムの材料としては、セロハン、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリオレフィン(PO)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)等が挙げられる。
図3に示すように、網点状光吸収層と選択的光反射層とが同一面上に設けられる場合には、不透明な基材、例えば紙も適宜使用可能である。
【0045】
次に、網点状光吸収層に関して図を用いて詳細に説明する。
【0046】
網点状光吸収層4、24、34、44は、網点潜像部2、22、32、42と網点背景部3、23、33、43とが目視で区別できない状態で設けられていて、網点潜像部2、22、32、42を形成する複数の網点と網点背景部3、23、33、43を形成する複数の網点とは、網点の大きさ、網点角度、ピッチ及び位相のいずれか1つ以上が異なっている。
【0047】
個々の網点の形状は、角ドット状、丸ドット状、網ドット状、格子ドット状、またはこれらの組み合わせによるドット状のものであればよい。
【0048】
次に、網点潜像部と網点背景部を構成する複数の網点の網点角度、ピッチ及び位相について図7を用いて説明しておく。網点角度は図7(a)のθを指し、規則的に並んでいる複数の網点の傾きを表す。網点のピッチは図7(a)のDを指し、1つの網点から隣の最近接している網点までの距離を表している。また、ピッチD内での網点部と非網点部の比率を網点比率と呼ぶ。
【0049】
そして、網点の位相とは、図7(b)のkを指し、規則的に並んでいる複数の網点の周期を表している。図7(b)では、網点Aと網点Bは、位相がgだけずれている状態を示している。
【0050】
個々の網点の大きさは、小さすぎても大きすぎても、潜在化してある網点潜像を可視化するために顕像化用シートを重ねて観察しても網点潜像が視認しづらくなるので、10〜1000μmの範囲、好ましくは10〜500μm程度に設定することが望ましい。また、網点比率(=網点部/(網点部+非網点部)は任意に設定してもよいが、1/10〜9/10の範囲で、好ましくは1/3〜2/3の範囲で設定することが望ましい。比率を1/2にすればさらに好ましい。よって、網点のピッチは20〜2000μm、好ましくは20〜1000μm程度の範囲に設定することが望ましい。
【0051】
本発明の偽造防止媒体に顕像化シートを重ねて網点潜像を顕像化させるためには、前述したように、網点背景部と網点潜像部とで、それらを構成する網点の大きさ、網点角度、ピッチ及び位相のいずれか1つ以上を異なるようにすればよい。具体的な設定に当たっては、それぞれの違いが近似しすぎていると網点潜像が見えづらくなるので、考慮すべきである。
【0052】
一方、図8(a)は、網点潜像部と網点背景部、並びにこれらが組み合わされてなる網点状光吸収層の平面状態を示している。図8(b)は網点背景部のみを、図8(c)は網点潜像部のみを切り出して示している。ただし、図8においては、説明のために、網点を大きくし、ピッチも広くしている。
【0053】
図8に示す網点状光吸収層は、網点潜像部と網点背景部を形成する複数の網点が、同一ピッチ及び同一網点比率となっていて、網点角度だけが異なるように配置されている。図示の例では、網点潜像部と網点背景部の複数の網点の網点角度は30°異なるために、顕像化シートを介して観察した場合、0°方向と30°方向のそれぞれで潜像パターンのネガポジ像が反転した状態で現れることになる。
【0054】
顕像化シートとしては、例えば、網点背景部若しくは網点潜像部を形成する複数の網点のピッチ及び網点比率と同じピッチ及び網点比率からなる複数の網点が規則的に配列されてなるものが使用できる。複数の網点は、透明性を有するシート状の基材に公知の印刷方法により設ければよい。この際、材料等は特に限定しない。この顕像化シートは、前記したような複数の網点が規則的に配列されたもの以外に、網点背景部若しくは網点潜像部を形成する網点のピッチ及び網点比率と同じ万線比率(=万線部/(万線部+非万線部))の複数の万線または格子が規則的に設けられたものであってもよい。
【0055】
また、本発明の偽造防止媒体においては、顕像化シートを重ねる位置または角度を変えて観察した時に複数の網点潜像が顕像化するような構成のものとすることも可能である。複数の網点潜像部は、完全に独立した領域に形成されていても良いし、網点の特性を活かして、それぞれの網点潜像部をその一部が少なくとも重なるように設け、同一箇所で複数の網点潜像をそれぞれ顕像化させることも可能である。
【0056】
このような構成のものとすることにより、潜在化されている網点潜像の顕像化に際しては、個々の網点潜像を可視化させるための複数の顕像化シートを用意しなければならず、たとえ潜像の存在に気づいたとしても、複数の全ての網点潜像を視認できるようにする顕像化シートを用意し、その内容を検証することは非常に難しくなり、偽造防止の効果を一段と向上させることができるようになる。
【実施例1】
【0057】
二軸延伸ポリエステルフィルム(ルミラー25T60;東レ社製)を基材とし、その上に、スクリーン印刷にて墨インキ(SS NSA 911墨;東洋インキ製造社製)を用いて、図8に示すような構成の網点状光吸収層を設けた。この網点状光吸収層は、複数の網点からなる網点パターン(網点潜像部)と、それを構成する複数の網点と同じ網点比率及びピッチで網点角度が30度異なる複数の網点からなる網点パターン(網点背景部)の2つの部分から構成されたものである。
【0058】
次に、基材の網点状光吸収層を設けなかった面に、下記組成のインキを用いてグラビア印刷法により薄膜を形成した後、80℃で1分の乾燥を行ない、しかる後に、高圧水銀灯にて500mjの照射を行って塗膜を硬化させ、選択的光吸収層(膜厚;5μm)を設け
た。
【0059】
[インキの組成]
ネマチック液晶(パリオカラー LC242 BASF(株)製) 30重量部
カイラル剤 (パリオカラー LC756 BASF(株)製) 1.5重量部
重合開始剤 (イルガキュア184 チバガイギー(株)製) 1.5重量部
溶 剤 (メチルエチルケトン) 67重量部
【0060】
このようにして得られた偽造防止媒体に、その網点状光吸収層の網点潜像部を構成する複数の網点と同じ網点比率で同じピッチの複数の網点が規則的に配列されている顕像化用シートを、0°方向に重ねると、図3(a)のように網点背景部が黒色に視認された。また、顕像化シートを30°回転させて重ねると、図3(b)のように網点潜像部が黒色に視認された。
【0061】
このように、本発明の偽造防止媒体は、顕像化シートを重ねることにより、網点状光吸収層中に潜在化されている網点潜像を顕像化させることができることが分かった。
【0062】
また、偽造防止媒体を正面から見ると、網点状光吸収層が形成されている部分においてはその複数の網点の部分が緑色の反射色を示し、傾けると青色の反射色を示した。
【0063】
また、偽造防止媒体を複写機によりカラーコピーを行なったところ、複写物には複写元の偽造防止媒体の色変化は起きず、複写物であることが容易に判別可能であることが分かった。
【符号の説明】
【0064】
2、22、32、42・・・網点潜像部
3、23、33、43・・・網点背景部
4、24、34、44・・・網点状光吸収層
5、25、35、45・・・選択的光反射層
7、27、37、47・・・粘着層
36、46・・・基材
49・・・有価証券
50・・・偽造防止媒体
60・・・顕像化シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の網点からなる網点潜像部と複数の網点からなる網点背景部とで構成されている網点状光吸収層が、網点潜像部と網点背景部とが目視で区別できない状態で設けられていると共に、その網点状光吸収層の上部には光学的に透明で、所定波長の光を選択的に反射する選択的光反射層が配置されていることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項2】
前記網点潜像部を構成する複数の網点と前記網点背景部を構成する複数の網点は、それらの網点角度かピッチのいずれかが異なっていることを特徴とする請求項1記載の偽造防止媒体。
【請求項3】
前記網点状光吸収層は、光学的に透明な基材の一方の面に設けられていると共に、基材のもう一方の面には、その網点光状吸収層を覆うように選択的光反射層が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の偽造防止媒体。
【請求項4】
前記網点状光吸収層が、光学的に透明な基材の一方の面に設けられていると共に、その網点状光吸収層の上には選択的光反射層がさらに設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の偽造防止媒体。
【請求項5】
前記選択的光反射層は、高虹彩性多層薄膜か、光干渉性顔料、コレステリック液晶顔料、またはコレステリック液晶のいずれかを含有する薄膜のいずれかからなるものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の偽造防止媒体。
【請求項6】
前記選択的光反射層が設けられている面とは逆側の面に粘着層が設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の偽造防止媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−183635(P2011−183635A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50334(P2010−50334)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】