説明

偽造防止媒体

【課題】偽造困難であり、大面積でも比較的安価で製造可能な偽造防止媒体を提供する。
【解決手段】フィルム状の基材に、第一領域と、第二領域と、第三領域とを備えた偽造防止媒体であって、前記第一領域は散乱素子を含む透明窓を有し、前記第二領域と前記第三領域のうちの少なくとも一方の領域は、凹凸構造の反射層を有し、前記基材の表面を垂直方向から観察した際に測定される前記第二領域と前記第三領域の色差をΔE1とし、前記ΔE1が測定される際と同じ測定条件にて、前記基材の表面を前記第一領域越しに観察した際に測定される前記第二領域と前記第三領域の色差をΔE2としたとき、前記ΔE1と前記ΔE2は、下記の式1又は式2の何れか一方を満たすことを特徴とする。
式1…|ΔE1 − ΔE2| > ΔE1 (ただし ΔE2 > ΔE1)
式2…|ΔE1 − ΔE2| > ΔE2 (ただし ΔE1 > ΔE2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば銀行券等の証券又は公文書などの証書に好適に用いることができる、偽造防止媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、証券、又は証書が真正品であることを証明するため、即ち偽造防止のために、ホログラム及び回析格子等の光学的可変技術、保安線条若しくは細片、マイクロプリント、微細線若しくは『透かし』模様、モアレ誘発模様、蛍光インキ、燐光インキ、真珠光インキ又はメタメリックインキ等の他の光学的変性インキ等が偽造防止構造体として使用されてきた。
【0003】
一方で、特許文献1では証書に開口部を設け、その開口部をフィルムで覆うことによって、証書の一部分に透明窓を形成する技術が紹介されている。
証券内における透明窓の形成自体が特殊な加工を必要とすることに加え、この窓が十分な透明性を有している場合、前述の偽造防止構造体を窓に対して設置することにより、表裏から偽造防止構造体の効果を確認することが可能となる。
【0004】
表裏どちら側からでも真偽検証可能であるため、真偽検証が容易であることから、偽造抑止効果に寄与する。
更に近年では、証券の透明窓利用した、新たな偽造防止技術が提案されている。例えば特許文献2では、証券の基材を折り畳むことによって、証券内の「透明窓の領域」と、証券内に別途設置された「偽造防止構造体の領域」とを重ね合わせ、偽造防止構造体の新たな効果を得る事で自己証明を可能としている。
【0005】
特許文献2における、「透明窓の領域」と「偽造防止構造体の領域」の組合せの具体例としては、マイクロレンズアレイの透明窓とマイクロプリントの組合せ、彩色透明窓とメタメリックインクの組合せ、偏光透明窓同士の組合せ、モアレ誘発模様同士の組合せが挙げられている。これらの「透明窓の領域」と「偽造防止構造体の領域」の組合せによると、これら領域を重ね合わせることによって、自己証明可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平9−503711号公報
【特許文献2】特表2000−505738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、マイクロプリント、モアレ誘発模様等の印刷は、市販のプリンターで模造される可能性が高いという課題がある。一方、メタメリックインクは特殊な顔料を使用する必要があり、また、透明偏光窓は特殊な染料を配向して作る必要がある。これらの特殊材料は高価であることから、使用される面積が小さく、真偽判断の際に判り難くなるという課題がある。
【0008】
そこで、この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、偽造困難であり、大面積でも比較的安価で製造可能な偽造防止媒体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[発明1] 本発明の一態様に係る偽造防止媒体は、フィルム状の基材に、第一領域と、第二領域と、第三領域とを備えた偽造防止媒体であって、前記第一領域は散乱素子を含む透明窓を有し、前記第二領域と前記第三領域のうちの少なくとも一方の領域は、凹凸構造の反射層を有し、前記基材の表面を垂直方向から観察した際に測定される前記第二領域と前記第三領域の色差をΔE1とし、前記ΔE1が測定される際と同じ測定条件にて、前記基材の表面を前記第一領域越しに観察した際に測定される前記第二領域と前記第三領域の色差をΔE2としたとき、前記ΔE1と前記ΔE2は、下記の式1又は式2の何れか一方を満たすことを特徴とする。
式1…|ΔE1 − ΔE2| > ΔE1 (ただし ΔE2 > ΔE1)
式2…|ΔE1 − ΔE2| > ΔE2 (ただし ΔE1 > ΔE2)
【0010】
[発明2] 本発明の別の態様に係る偽造防止媒体は、フィルム状の基材に、第一領域と、第二領域と、第三領域とを備えた偽造防止媒体であって、前記第一領域は散乱素子を含む透明窓を有し、前記第二領域と前記第三領域のうちの少なくとも一方の領域は、凹凸構造の反射層を有し、前記基材の表面に所定の角度から可視光が照射された際に測定される前記第二領域と前記第三領域の前記可視光の正反射率の差をΔr1とし、前記Δr1が測定される際と同じ測定条件にて、前記第一領域越しに測定される前記第二領域と前記第三領域の前記可視光の正反射率の差をΔr2としたとき、前記Δr1と前記Δr2は、下記の式3又は式4の何れか一方を満たすことを特徴とする。
式3…|Δr1 − Δr2| > Δr1 (ただし Δr2 > Δr1)
式4…|Δr1 − Δr2| > Δr2 (ただし Δr1 > Δr2)
【0011】
[発明3] また、上記の偽造防止媒体において、前記散乱素子は凹凸構造によって構成されていることを特徴としてもよい。
[発明4] また、上記の偽造防止媒体において、前記散乱素子は微粒子を含む樹脂によって構成されていてもよい。
[発明5] また、上記の偽造防止媒体において、前記散乱素子は異方性散乱素子であることを特徴としてもよい。
[発明6] また、上記の偽造防止媒体において、前記反射層の凹凸構造は、特定の波長領域の電磁波を反射、回折、散乱、吸収する構造であることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、例えば、自己証明可能である新規な「透明窓」と「偽造防止構造体」の組合せであって、市販されていない材料で構成されていることから偽造困難であり、また高価な特殊染料等を使用しないことから、大面積でも比較的安価で製造可能である「自己証明型証券及び証書」を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】自己証明型証券の一例を示す概念図。
【図2】自己証明型証券を半分に折り畳み、自己証明している概念図。
【図3】第二領域と第三領域からなる検証領域の一例を示す断面図(その1)。
【図4】第二領域と第三領域からなる検証領域の一例を示す断面図(その2)。
【図5】第一領域の一例を示す断面図(その1)。
【図6】第一領域の一例を示す断面図(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る偽造防止媒体の一例として、自己証明型証券とその製造方法を図面を参照しながら説明する。
(自己証明型証券の全体構成例)
図1は、本発明の実施形態に係る自己証明型証券1の構成例を示す概念図である。図1に示すように、この自己証明型証券1は、証券基材2に設けられた、散乱効果を有する透明窓からなる第一領域3と、後述するように証券基材2を折り畳むことによって第一領域3と平面視で重なる検証領域4とを有する。
【0015】
この検証領域4は、反射層を有する微細凹凸構造からなる第二領域と第三領域で構成されており、図1の状態(即ち、証券基材2を折り畳んでいない状態)では第二領域と第三領域とが目視で区別がつかない(即ち、検証領域4に文字が現れない)ようになっている。なお、この自己証明型証券1において、第一領域3と、第二領域、第三領域はそれぞれ、少なくとも1つ以上用意されていればよい。
【0016】
図2は、半分に折り畳まれた自己証明型証券10であって、第一領域3と第二領域11、第三領域12とを重ね合わせて、自己証明している様子を示す概念図である。
図2に示すように、半分に折り畳まれた自己証明型証券10では、散乱効果を有する透明窓からなる第一領域3と検証領域4とが平面視で重なる。そして、第一領域3を通して検証領域4を観察すると、背景の第二領域11に対して明確なコントラストを有する第三領域12が出現する。この図では、「TOPPAN」の文字が出現している。
【0017】
図3は、第二領域21と第三領域25からなる検証領域20の構成例を示す断面図である。図3に示すように、この検証領域20において、第二領域21と第三領域25は、微細凹凸形成層22、26と、反射層23、27とにより構成され、これらは接着層24、28によって証券基材2に接着されている。第二領域21と第三領域25は、微細凹凸構造のアスペクト比(即ち、深さ/幅の比)が異なる構造となっている。
【0018】
図4は、第二領域31と第三領域35からなる検証領域30の断面図である。図4に示すように、この検証領域30において、第二領域31と第三領域35は、微細凹凸形成層32、36と、反射層33、37とにより構成され、これらは接着層34、38によって証券基材2に接着されている。第二領域31と第三領域35は、微細凹凸構造の凹部密度が異なる構造となっている。
【0019】
なお、図3、4では、第二領域、第三領域ともに微細凹凸構造を利用しているが、何れか一方の領域は、色彩顔料や色彩染料とバインダー樹脂とを混合した、色彩インクによって構成されていてもよい。このようなインクは、散乱効果を有する第一領域越しに観察した場合、散乱効果によって明度は上がるものの、色相は大きく変化しない。
また、このような色彩インクからなる層と、第一領域越しで色相や明度が極端に変化する微細凹凸構造とを組み合わせて、検証領域としてもよい。色彩インク層と微細凹凸構造について、どちらが第二領域でどちらが第三領域でも構わない。また、色彩染料としての顔料として、反射層を有するメタリック顔料や、干渉パール顔料を利用しても構わない。
【0020】
図5は、第一領域40の構成例を示す断面図である。図5に示すように、この第一領域40は、証券基材2の上に散乱インク層41を設けた構成である。
図6は、非周期性の凹凸構造を型押しで作成した、散乱性を有する第一領域50の断面図である。図6に示すように、微細凹凸形成層51は特定方向の複数の溝によって構成されている。特定色調や虹色を発生さず、白色の散乱光を得るためには、複数の溝が非周期性であることが好ましい。微細凹凸形成層51の複数の溝が有る側の面には、透明反射層52が設けられている。微細凹凸形成層51と透明反射層52は、接着剤53によって証券基材2に接着されている。
【0021】
ところで、本発明では、図1に示した(半分に折り畳まれていない状態の)自己証明型証券1において、証券基材2の表面を垂直方向から観察した際に測定される第二領域と第三領域の色差をΔE1とする。また、図2に示したように、半分に折り畳まれた状態の自己証明型証券10において、ΔE1が測定される際と同じ測定条件(例えば、同じ照明環境で同じ測定機器を用いる等)にて、第一領域3越しに観察した際に測定される第二領域と第三領域の色差をΔE2とする。このとき、ΔE1とΔE2は、下記の式1又は式2の何れか一方を満たす。
式1…|ΔE1 − ΔE2| > ΔE1 (ただし ΔE2 > ΔE1)
式2…|ΔE1 − ΔE2| > ΔE2 (ただし ΔE1 > ΔE2)
【0022】
或いは、本発明では、図1に示した(半分に折り畳まれていない状態の)自己証明型証券1において、証券基材2の表面に所定の角度(例えば、30°、60°、90)から可視光が照射された際に測定される第二領域と第三領域の正反射率の差をΔr1とする。また、図2に示したように、半分に折り畳まれた状態の自己証明型証券10において、Δr1が測定される際と同じ測定条件にて、第一領域3越しに測定される第二領域と第三領域の可視光の正反射率の差をΔr2とする。このとき、Δr1とΔr2は、下記の式3又は式4の何れか一方を満たす。
式3…|Δr1 − Δr2| > Δr1 (ただし Δr2 > Δr1)
式4…|Δr1 − Δr2| > Δr2 (ただし Δr1 > Δr2)
【0023】
第二領域と第三領域の色差、或いは、可視光の正反射率の差が、上記各式の関係を満たすことにより、自己証明型証券1、10はその折り畳みの前後で、検証領域4における表示状態が著しく変化し、文字、記号若しくは図形等を高コントラストに出現させることができ、又は、出現していたそれらを消滅させることができる。
【0024】
次に、上記の自己証明型証券1の各部について、より詳細に説明する。
(第一領域)
上述の散乱インク層41は、少なくともバインダーと、散乱粒子で構成されている。散乱インク層の表面が平滑である場合では、バインダーと散乱粒子との屈折率差は0.2以上必要である。また、散乱粒子は、球形状、針状、多孔質形状のほか不定形粒子でも使用してよい。平均粒径は散乱定数から1ミクロン以上であれば可視光をMIE散乱し、白色の散乱光を発する。粒度分布が狭い場合には、特定の波長を散乱させることから、粒度分布の広い粒子を選択することが好ましい。
【0025】
散乱粒子の典型的な材質は、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム等の無機粒子のほか、アクリル、スチレン、ウレタンなどの有機粒子を使用してもよい。また、第一領域は透明性のある散乱素子である必要がある。これは、第一領域越しに第二、第三領域を観察するためである。散乱度や散乱インク層の反射率が高い場合には、透過率が低下し、式1乃至4を満足させることが困難となる。
なお、散乱インク層の表面凹凸によって散乱を生じさせることも可能である。この場合は、後述のフィラーを使用することが可能であり、粒子を使用した非周期の凹凸構造がその例として挙げられる。
【0026】
(第一領域としての微細凹凸構造)
第一領域としての微細凹凸構造は、上述したように、非周期性の凹凸構造を型押しで作成した、散乱構造を有する透明窓であってもよい。ここで、散乱構造は、等方性であっても、異方性であってもよい。
等方性の散乱構造は、ランダムな凹凸によって構成され、微細凹凸構造平面において、凸部及び凹部が特定の方向に配向することなく、視回転角に依存しないランダムな散乱光を発する。
異方性散乱構造は、微細凹凸形成層の片側表面に設けられた、特定方向の複数の溝によって構成されている。光源に対する特定の視回転角において散乱光を発することが特徴である。特定色調や虹色を発生さず、白色の散乱光を得るためには、複数の溝が非周期構造であることが好ましい。
【0027】
図6において、微細凹凸形成層51の複数の溝が有る側の面には、透明反射層52が設けられている。透明反射層52としては、硫化亜鉛、酸化チタン等が例として挙げられるがこの限りではない。微細凹凸形成層51よりも0.2以上の屈折率を有する塗膜であれば使用可能である。均一な膜厚による均一な反射率が必要となることから、透明反射層52はドライコーティングによって設けることが好ましい。
【0028】
(第二、第三領域としての微細凹凸構造)
第二、第三領域としての微細凹凸構造は、特定の波長領域の電磁波を反射、回折、散乱、吸収する構造であることを特徴とし、例えば、回折格子、ホログラム、等方性散乱構造、異方性散乱構造、サブ波長構造等の他、一定深さの矩形構造による特定波長領域の選択反射、又は選択吸収構造等が例として挙げられるがこの限りでない。
図3又は図4に示したように、第二、第三領域としての微細凹凸構造の表面には反射層23、27、又は、33、37が設置される。これら反射層の材料としては、金、銀、銅、アルミニウム、錫、ニッケル、チタンなどの金属のほか、該金属の酸化物等が例として挙げられるがこの限りでない。
【0029】
反射層を有する微細凹凸構造は、第一領域越しに観察することによって色相や反射率が著しく変化する特性を有してよい。例えば図3に示したように、凹部形状のアスペクト比(深さ/幅の比)の異なる2つの散乱構造の領域は、常態での色相に大きな差が無いが、第一領域越しに観察すると反射率や色相が変化する特性を有することが確認された。
また別の例として図4に示したように、同一の凹部形状であってもその密度を変化させた2つの領域は、常態での色相に大差無いが、第一領域越しに観察すると反射率や色相が変化する特性が確認された。
本発明の第二、第三領域として使用可能な微細凹凸構造は、微細な構造であること、及び特定波長領域の反射吸収、回折、散乱等の特殊な光学効果を有しており、複製困難であり、偽造防止性が高い。
【0030】
なお、図3、4では、第二、第三領域ともに微細凹凸構造を利用しているが、上述したように、第二、第三領域のうちの何れか一方の領域は、色彩顔料や色彩染料とバインダー樹脂とを混合した、色彩インクによって構成されていてもよい。このようなインクは、散乱効果を有する第一領域越しに観察した場合、散乱効果によって明度が上がるものの、色相は大きく変化しない。
【0031】
このような色彩インク層の特徴は、第一領域越しで色相や明度が極端に変化する微細凹凸構造との組み合わせることによって検証領域とすることも可能である。色彩インク層と微細凹凸構造について、どちらが第二領域でどちらが第三領域でも構わない。また、色彩染料としての顔料として、反射層を有するメタリック顔料や、干渉パール顔料を利用しても構わない。
【0032】
(微細凹凸構造の形成方法)
第一領域としての微細凹凸構造の形成、又は、第二、第三領域としての微細凹凸構造の形成を行うには、微細凹凸構造を有する金属スタンパー(金型)を準備する。例えば、金属スタンパーは回折格子を作成するプロセスを活用してもよい。切削やエッチング、フォトリソグラフィーによって微細凹凸構造の樹脂原版を作成した後に、ニッケル電鋳によって金型を作成する方法が例として挙げられるがこの限りでない。得られた金属スタンパーを微細凹凸形成層に押し当てて、プレス法、P2法等の公知の方法で微細凹凸構造を複製してもよい。
【0033】
プレス法であれば、熱可塑性樹脂を主材とした微細凹凸形成層を使用すればよい。この場合、プレス加工時の熱により軟化、変形しない支持基材上に、熱可塑性樹脂を公知の方法でコーティングして微細凹凸形成層を設けた後に、プレス法によって微細凹凸構造を形成してもよい。
P2法で微細凹凸構造を複製する場合、微細凹凸形成層は、放射線により硬化する樹脂によって構成されてよい。放射線硬化性樹脂の例としては、エチレン性不飽和結合をもつモノマー、オリゴマー、ポリマー等を使用することができる。モノマーとしては、例えば、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。オリゴマーとしては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられる。ポリマーとしては、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂が挙げられる。
【0034】
また、別の光硬化性樹脂の例としては、特開昭61−98751号公報、特開昭63−23909号公報、特開昭63−23910号公報、特開2007−118563号公報に記載されているような光硬化性樹脂を挙げることができる。また、微細凹凸形状を正確に形成するために反応性をもたないアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等のポリマーを添加することができる。
【0035】
また、光カチオン重合を利用する場合には、エポキシ基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマー、オキセタン骨格含有化合物、ビニルエーテル類を使用することができる。また、上記の電離放射線硬化性樹脂は、紫外線等の光によって硬化させる場合には、光重合開始剤を添加することができる。樹脂に応じて、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、その併用型(ハイブリッド型)を選定することができる。
【0036】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン系化合物、アントラキノン、メチルアントラキノン等のアントラキノン系化合物、アセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、α−アミノアセトフェノン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノプロパン−1−オン等のフェニルケトン系化合物、ベンジルジメチルケタール、チオキサントン、アシルホスフィンオキサイド、ミヒラーズケトン等を挙げることができる。
【0037】
光カチオン重合可能な化合物を使用する場合の光カチオン重合開始剤としては、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ホスホニウム塩、混合配位子金属塩等を使用することができる。光ラジカル重合と光カチオン重合を併用する、いわゆるハイブリッド型材料の場合、それぞれの重合開始剤を混合して使用することができ、また、一種の開始剤で双方の重合を開始させる機能をもつ芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩等を使用することができる。
【0038】
本発明に係る微細凹凸形成層には、放射線硬化樹脂と光重合開始剤を0.1〜15質量%配合することにより得られる。樹脂組成物には、更に、光重合開始剤と組み合わせて増感色素を併用してもよい。また、必要に応じて、染料、顔料、各種添加剤(重合禁止剤、レベリング剤、消泡剤、タレ止め剤、付着向上剤、塗面改質剤、可塑剤、含窒素化合物など)、架橋剤(例えば、エポキシ樹脂など)、などを含んでいてもよく、また、成形性向上のために非反応性の樹脂を添加してもよい。また、塗膜が白濁しない程度であれば、レリーフ原版に対する離型性を向上させるために、フッ素化合物やシリコーン化合物を添加したり、あらかじめ共重合させて導入しておいても良く、無機フィラーなどを添加してもよい。
【0039】
微細凹凸形成層の厚みは、0.1〜10μmの範囲で適宜設ければよい。未硬化塗膜の粘度(流動性)にも依るが、塗膜が厚すぎる場合にはプレス加工時に未硬化塗膜の樹脂のはみ出しや、シワの原因となり、厚みが極端に薄い場合には十分な成型ができない。
また、成形性は原版の微細凹凸の形状によって変化するため、所望する深さの3〜10倍の膜厚の微細レリーフパターン形成層を設けることが好ましい。
【0040】
微細凹凸形成層を設ける際には、コーティング法を利用してよく、特にウェトコーティングであれば低コストで塗工できる。また、塗工膜厚を調整するために溶媒で希釈したものを塗布乾燥してもよい。この場合、未硬化の離型層の上に設けることから、極力離型層を再溶解させない希釈溶媒を選択する必要がある。
コーティング以外で微細凹凸形成層を積層する場合は、フィルム状基材に塗工した未硬化の離型層と、別途フィルム状基材の上に転写可能に設けた微細凹凸形成層を準備し、それらをラミネートして積層してもよい。
【0041】
(放射線)
上記微細凹凸形成層に用いられる放射線硬化性樹脂は、放射線を照射して硬化させる。放射線としては、紫外線(UV)、可視光線、ガンマー線、X線、又は電子線(EB)などが適用できる。なお、放射線で硬化する放射線硬化性樹脂は、紫外線硬化の場合は光重合開始剤、及び/又は光重合促進剤を添加し、エネルギーの高い電子線硬化の場合はそれらを添加しないでよい。また放射線と熱を併用することにより反応性が向上し、架橋密度の高い塗膜を得ることも可能である。
【0042】
微細凹凸形成層は、微粒子を平面上に集積した、単層粒子膜であってもよい。このような粒子膜は単分散性の無機微粒子、又は有機粒子を使用することができる。典型的な無機粒子の例としては、シリカ、硫酸バリウムなどが挙げられる。また、典型的な有機粒子としてはアクリルやスチレン等が例として挙げられるがこの限りでない。このような粒子膜は、粒子をバインダーと混合した溶液に基材を浸し、徐々に引き上げることにより作成する「引き上げ法」のほか、公知のコーティング機を利用し、塗液の表面張力を利用した「自己組織化」を利用した単層粒子膜の製法が知られている。
【0043】
これらの方法によって得られる粒子膜は、その塗液に使用する微粒子材料の種類や、微粒子とバインダーの配合量等によってその充填率を変化させることが可能である。特に可視光の波長以下の周期で微粒子を集積することによって、特定波長領域の電磁波を吸収させたり、散乱させたりすることが可能であり、第二、第三領域の構造として利用することが可能である。また、充填率のみが異なる単層粒子膜を第二、第三領域の募債凹凸構造として利用することも可能である。
【0044】
(証券基材)
証券基材は、紙、樹脂フィルム、紙と樹脂フィルムの積層品であってもよい。以下の実施例では、第二、第三領域として単層粒子膜による凹凸構造を利用した自己証明証券について詳細に説明する。
【実施例1】
【0045】
散乱インクのバインダーとして、ソルバインA(日信化学(株))と、平均粒径3.4ミクロンのシリカ粒子を2/10の固形重量比で混合して「散乱インク」を調整した後に、透明PET基材に対して、グラビア印刷法にて楕円パターンで該散乱インクを塗布した。その後、証券基材に楕円状の開口部を設け、上記の「散乱インク」印刷済みのPET基材を証券基材の開口部に貼り付け、第一領域を得た。
【0046】
次に、単層粒子膜を作成するための微粒子溶液のバインダーとして、PVAHC((株)クラレ ポバール)と、球状微粒子である、3300B((株)モリテック ススチレン粒径300nm)を、固形重量比1/20で混合し、25μmPETフィルムに「TOPPAN」の文字をポジパターンで印刷し、120℃オーブンにて3分乾燥させ、第三領域の微細凹凸構造を作成した。得られた領域の単層粒子膜は、粒子が一重平面状に82%の面積充填率で配置されていることを確認した。
【0047】
同様に、単層粒子膜を作成するための微粒子溶液のバインダーとして、PVAHC((株)クラレ ポバール)と、球状微粒子である、3300B((株)モリテック ススチレン粒径300nm)を、固形重量比1/15で混合し、25μmPETフィルムに「TOPPAN」の文字をネガパターンで印刷し、120℃オーブンにて3分乾燥させ、第二領域の微細凹凸構造を作成した。得られた領域の単層粒子膜は、粒子が一重平面状に60%の面積充填率で配置されていることを確認した。
【0048】
その後、2つの領域の単層粒子膜の微粒子表面に対し、真空蒸着法によってアルミニウムを800Åの厚みで蒸着して、第二、第三領域を得た。
得られた第二、第三領域は、通常の光源下では、通常光源下ではダークグリーンを呈しており、文字パターンが認識できなかったが、第一領域越しに、第二、第三領域を観察すると、「TOPPAN」のポジ文字が黒く表示された。色差計「X−Rite 530」での測定により、上記の式1を満たしていた。
【実施例2】
【0049】
散乱インクのバインダーとして、ソルバインA(日信化学(株))と、平均粒径3.4ミクロンのシリカ粒子を2/10の固形重量比で混合して「散乱インク」を調整した後に、透明PET基材に対して、グラビア印刷法にて楕円パターンで該散乱インクを塗布した。その後、証券基材に楕円状の開口部を設け、上記の「散乱インク」印刷済みのPET基材を証券基材の開口部に貼り付け、第一領域を得た。
【0050】
次に、第二、第三領域を作成するため、下記に示すように、微細凹凸形成層のインキ組成物、及び離型層のインキ組成物を用意した。
微細凹凸形成層インキ組成物(紫外線硬化型樹脂)
ウレタン(メタ)アクリレート(多官能、分子量20,000) 50.0重量部
メチルエチルケトン 30.0重量部
酢酸エチル 20.0重量部
光開始剤(チバスペシャリティー製イルガキュア184) 1.5重量部
厚み23μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる支持体上に、離型層インキ組成物を乾燥膜厚1μmとなるように塗布し、120℃、30secの条件で乾燥して微細凹凸形成層を製膜した。得られた塗膜はややタック性があり、透明、平滑であった。
【0051】
その後、離型層の乾燥塗膜上(放射線未照射)に、微細凹凸形成層インキ組成物を乾燥膜厚1μmとなるように上塗りし、120℃、30秒の条件で乾燥して微細凹凸形成層を製膜した。得られた塗膜は殆どタック性が無く、透明、平滑であった。
得られた積層体を、ロールフォトポリマー法によって成形した。プレス成形に使用した原版には、非周期性で、深さ140nmの散乱構造からなる、第三領域の微細凹凸構造によって「TOPPAN」のポジ文字をパターンで設け、非周期性で、深さ80nmの散乱構造からなる、第二領域の微細凹凸構造によって「TOPPAN」のネガ文字をパターンで設けた。
【0052】
回折格子構造の円筒型金属版を使用し、プレス圧力を2Kgf/cm2、ロール温度を80℃、プレススピードを10m/分にて、成形加工した。成形と同時に高圧水銀灯で300mJ/cm2露光を行い、形状転写されたと同時に硬化させた。
その後、真空蒸着法によって、微細凹凸表面に対してアルミニウムを600Åの厚みでドライコーティングして、第二、第三領域を得た。
【0053】
得られた第二領域、及び第三領域は、常態では白い散乱光を発しており、文字パターンが殆ど判らなかったが、第一領域越しに、第二、第三領域を観察すると、「TOPPAN」のポジ文字が黒く表示された。色差計「X−Rite 530」での測定により、上記の式3を満たしていた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の自己証明証券は、例えば、自己証明可能である新規な「透明窓」と「偽造防止構造体」の組合せであって、市販されていない材料で構成されていることから偽造困難であり、また高価な特殊染料等を使用しないことから、大面積でも比較的安価で製造可能である「自己証明型証券及び証書」を提供することが可能である。このことから、本発明の自己証明証券は、高い偽造防止性を有する紙幣、公文書などに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…自己証明型証券
2…証券基材
3…第一領域
4…検証領域
10…半分に折り畳まれた自己証明型証券
11…第二領域
12…第三領域
20…検証領域(図1、2に示した検証領域4の一例)
21…第二領域(図2に示した第二領域11の一例)
22…微細凹凸形成層
23…反射層
24…接着層
25…第三領域(図2に示した第三領域12の一例)
26…微細凹凸形成層
27…反射層
28…接着層
30…検証領域(図1、2に示した検証領域4の一例)
31…第二領域(図2に示した第二領域11の一例)
32…微細凹凸形成層
33…反射層
34…接着層
35…第三領域(図2に示した第三領域12の一例)
36…微細凹凸形成層
37…反射層
38…接着層
40…第一領域(図1、2に示した第一領域3の一例)
41…散乱インク層
50…微細構造による第一領域
51…微細構造形成層
52…透明反射層
53…接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状の基材に、第一領域と、第二領域と、第三領域とを備えた偽造防止媒体であって、
前記第一領域は散乱素子を含む透明窓を有し、
前記第二領域と前記第三領域のうちの少なくとも一方の領域は、凹凸構造の反射層を有し、
前記基材の表面を垂直方向から観察した際に測定される前記第二領域と前記第三領域の色差をΔE1とし、
前記ΔE1が測定される際と同じ測定条件にて、前記基材の表面を前記第一領域越しに観察した際に測定される前記第二領域と前記第三領域の色差をΔE2としたとき、
前記ΔE1と前記ΔE2は、下記の式1又は式2の何れか一方を満たすことを特徴とする偽造防止媒体。
式1…|ΔE1 − ΔE2| > ΔE1 (ただし ΔE2 > ΔE1)
式2…|ΔE1 − ΔE2| > ΔE2 (ただし ΔE1 > ΔE2)
【請求項2】
フィルム状の基材に、第一領域と、第二領域と、第三領域とを備えた偽造防止媒体であって、
前記第一領域は散乱素子を含む透明窓を有し、
前記第二領域と前記第三領域のうちの少なくとも一方の領域は、凹凸構造の反射層を有し、
前記基材の表面に所定の角度から可視光が照射された際に測定される前記第二領域と前記第三領域の前記可視光の正反射率の差をΔr1とし、
前記Δr1が測定される際と同じ測定条件にて、前記第一領域越しに測定される前記第二領域と前記第三領域の前記可視光の正反射率の差をΔr2としたとき、
前記Δr1と前記Δr2は、下記の式3又は式4の何れか一方を満たすことを特徴とする偽造防止媒体。
式3…|Δr1 − Δr2| > Δr1 (ただし Δr2 > Δr1)
式4…|Δr1 − Δr2| > Δr2 (ただし Δr1 > Δr2)
【請求項3】
前記散乱素子は凹凸構造によって構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の偽造防止媒体。
【請求項4】
前記散乱素子は微粒子を含む樹脂によって構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の偽造防止媒体。
【請求項5】
前記散乱素子は異方性散乱素子であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の偽造防止媒体。
【請求項6】
前記反射層の凹凸構造は、特定の波長領域の電磁波を反射、回折、散乱、吸収する構造であることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の偽造防止媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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