説明

偽造防止機能付き非接触個別認証用冊子

【課題】偽造防止効果の高い非接触個別認証用冊子を提供する。
【解決手段】非接触ICモジュール30の一方の面に表面カバーシート11、他方の面に見返りシート12を設け、それぞれのシートの対向する側の面に接着剤層15を設け、それぞれの接着剤層同士を積層してなる表紙部5を有する冊子であって、表面カバーシート11と見返りシート12の対向する面上で、かつ、非接触ICモジュール30が設けられた領域以外の領域に蛍光材料を用いた印刷層16が形成される偽造防止機能付き非接触個別認証用冊子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個人情報が入った非接触ICモジュールを内臓し、蛍光材料が印刷された偽造防止機能付き個別認証用冊子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非接触のICモジュール(非接触ICカード、ICインレット、ICタグ)が普及する中、例えはパスポートや預貯金通帳などに、個人情報などの記録が可能なICモジュール(以下、ICインレットと呼ぶ)を内臓した非接触個人認証用冊子が利用されてきている。
【0003】
このような非接触個別認証用冊子に内臓されているICインレットは、ICチップとこのICチップに接続されたアンテナの両面を樹脂シートで挟み込み、接合強度に優れたラミネーション処理を行うことで形成されたものが知られている。
【0004】
最近、非接触個人認証用冊子においては、ICインレット内臓によるセキュリティ効果に加えて、新しい意匠性を持ち、偽造防止効果の高い印刷技術が望まれている。このため、近年、干渉マイカや酸化フレークマイカ、顔料コートアルミニウムフレーク、光学的変化フレーク等の特殊な光反射性粉体をインキや塗料に配合することで、観察角度によって色彩変化を生じさせるカラー・フリップフロップ性に優れた印刷物や観察角度によって画像が変化するホログラム等の光学的なセキュリティ要素を貼付したものが多く存在するようになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記のような光学的な変化を示す偽造防止印刷は、一般的に高価な装置及び材料を必要とするため、付加的な製造工程が必要となり、製造コストが高いという問題があった。また、内蔵されているICインレットのセイキュリティ効果は高いが、ICインレットからの情報を読み取る装置は高価であるため、簡易的な真偽判定においては利便性を欠いていた。
【0006】
偽造防止印刷として、ブラックライト等を用いて紫外線を照射することによって蛍光色を発する染料や顔料を含むインクを用いて図柄印刷を表面に設けたものがある。しかし、同じ色相に蛍光する染料や顔料を入手すれば容易に公知の印刷手段を用いて偽造できるという欠点があり、偽造防止効果としては不十分であった。また、表面に印刷されているため、蛍光材料が印刷されている部分と印刷されていない部分で表面の物性がことなり、紫外線を照射しなくとも角度によって目視で視認することができたりすることも問題であった。
【0007】
そこで本発明は、このような問題点を考慮してなされたものであり、偽造防止効果を安価に、且つ、ICインレットと組み合わせることにより更にセキュリティー性の高い非接触個別認証用冊子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の偽造防止機能付き非接触個別認証用冊子は、以下の各態様に記載の手段により上記の課題を解決するものである。
【0009】
本発明の第1の態様は、非接触ICモジュールの一方の面に表面カバーシート、他方の面に見返りシートを設け、前記それぞれのシートの対向する側の面に接着剤層を設け、前記それぞれの接着剤層同士を積層してなる表紙部を有する冊子であって、前記表面カバーシートと前記見返りシートの対向する面上で、かつ、前記非接触ICモジュール部が設けられた領域以外の領域に蛍光材料を用いた印刷層が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様において、前記印刷層は、前記見返りシートの前記接着剤層の表面に設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の第3の態様は、前記第1の態様において、前記印刷層は、前記見返りシートと前記接着剤層の間に設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の第4の態様は、前記第1から前記第3の何れかの態様において、前記表面カバーシートの光学濃度が2.00から2.50の範囲にあることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の第5の態様は、前記第1から前記第3の何れかの態様において、前記見返りシートの光学濃度が0.85から1.39の範囲にあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蛍光材料を印刷する印刷層を冊子表紙部の内部に設けることにより、類似の前記蛍光材料を入手することができても容易に偽造が出来なくなると共に、紫外線の照射によって蛍光発色を確認でき、安価で高い偽造防止効果が得られる。また、簡易的な真偽判定においては、高価な読取装置を必要としないため、判定を行う場所の自由度を高くすることができる。
さらに、ICインレットと前記蛍光材料によって印刷された図柄情報とを、組み合わせることにより、前記ICインレットに記録されている情報と前記図柄情報とを、照合したり、又は前記ICインレットからの情報と前記図柄情報からの情報を組み合わせることにより、さらに高いセキュリティー性を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ICインレット30の平面図である。
【図2】ICインレット30の断面図である。
【図3】蛍光材料16を見返りシート12と表面カバーシート11の対向する面に印刷した表紙部5の構造を示す断面図である。
【図4】蛍光材料16を見返りシート12と接着層15の間に印刷する表紙部10の構造を示す断面図である。
【図5】(a)は、ICインレット30を表面カバーシート11、見返りシート12で挟み込み表紙部10を作成する状態の図である。同図(b)は、同図(a)の表紙部10に中身ページ部20を取り付け指定サイズに裁断された冊子である。
【符号の説明】
【0016】
1 非接触個別認証用冊子
5 表紙部
10 表紙部
11 表面カバーシート
12 見返りシート
15 接着剤層
16 蛍光材印刷層
20 中身ページ部
30 ICインレット
31 アンテナ
32 ICチップ
33 アンテナシート
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図1から5を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係わる非接触個別認証用冊子の非接触ICモジュールとして用いるICインレット30の平面図である。非接触ICモジュールとしては、他にICタグ等もあるが、本説明においては、非接触モジュールとしてICインレット30を使用した例にして説明する。ICインレット30は、アンテナ31が形成されたアンテナシート33と、アンテナシート33に取り付けられたICチップ32とを備えている。
図2は、ICインレット30の断面図である。
【0018】
アンテナシート33の材料としては、PET(Polyethylene Terephthalate)、PVC(Polyvinyl Chloride)、ABS(Acrylonitril Butadiene Styrene)等からなる各種樹脂フィルムを好適に採用することができる。
【0019】
ICチップ32は、アンテナシート33のアンテナ31と電気的に接続されており、これによってICインレット30は、外部のデータ読取装置との間において、非接触でデータの送受信を行うことができる。
【0020】
図3は、表紙部5の構造を示す断面図である。表紙部5は、ICインレット30の一方の面に表面カバーシート11を、他方の面に見返りシート12を、表面カバーシート11と見返りシート12が対向するそれぞれの面に接着剤を塗布して設けた接着剤層15を介して積層し形成されており、さらに、それぞれ何れかの接着剤層15の表面に、ICインレット30が設けられた領域以外の領域に蛍光材印刷層16が形成されている。
【0021】
図4は、表紙部10の構造を示す断面図である。表紙部10は、ICインレット30の一方の面に表面カバーシート11を、他方の面に見返りシート12を、表面カバーシート11と見返りシート12が対向するそれぞれの面に接着剤を塗布して設けた接着剤層15を介して積層し形成されており、さらに、ICインレット30が設けられた領域以外の領域において、見返りシート12と見返りシート12の接着剤層15の間に蛍光材印刷層16が形成されている。蛍光材印刷層16は、図柄のみが印刷されることにより使用する蛍光材料が少なくて済むため、低コストで偽造防止を図ることができる。
【0022】
蛍光材印刷層16は、蛍光材料として蛍光顔料及び蛍光染料共に使用することが可能で、蛍光材料をシルク印刷用溶剤に溶かして使用し、シルク印刷にて形成する。インクジェット印刷でも可能であるが、乾燥後の蛍光材印刷層の厚みが3〜6μm必要であり、印刷層を厚くできるシルク印刷が好適である。
【0023】
接着剤層15に使用する接着剤は、有機フィラー、シリカ、高沸点背急系溶剤、トリメチルベンゼン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ヘキサメチレン、熱可塑性樹脂からなるものを好適に採用することができる。接着剤は、低温熱硬化型を有するものが好ましく、低温熱硬化型の特徴により強固な接着効果と高い耐候性、耐光性が得られる。
【0024】
表面カバーシート11は、光学濃度(OD値:Optical Density)が2.00から2.50の範囲にあり、厚みが190〜250μm程度のオレフィン樹脂や塩化ビニルを紙にコーティングしたものなどを使用することができる。見返りシート12は、光学濃度(OD値)が0.85から1.39の範囲にあり、厚みが170〜310μm程度のオレフィン系樹脂シートを使用することができる。透過率にして見返りシートは10%前後、表面カバーシートは、1%以下であり、通常の室内照明では、蛍光の確認はできない。このため、表紙部5及び表紙部10の蛍光材印刷層16の図柄の視認には、暗室での強い蛍光照射、もしくはブラックライトが必要である。
【0025】
上記のように、表紙部5及び表紙部10の蛍光材印刷層16は、太陽光の下では痕跡も確認するとは出来なく、ブラックライト等を用いた強い紫外線照射の下においてのみ、確認できることで、簡易的な真偽判定も利用可能である。さらに、ICインレット30との組み合わせることにより、蛍光材印刷層16に印刷された図柄情報とICインレット30に記録されている情報とを、それぞれの情報を照合、又は組み合わせることにより、偽造防止に加え高いセキュリティー性を持たせることができる。
【0026】
図5は、本発明による非接触個別認証用冊子1を作成する一例を示す図である。
図5(a)は、表面カバーシート11又は見返りシート12のそれぞれどちらかの接着剤層15の表面に、蛍光材印刷層16が形成された表面カバーシート11、見返りシート12でICインレット30を挟み込み、表紙部5を作成する状態の図である。表紙部5作成においては、見返りシート12は冊子表紙の折り曲げ位置に対応したスリット13を形成し、表面カバーシート11と前記見返りシート12の間にICインレット30を挟み込み、接着剤層15を介して接着する。ラミネート機を使用することで、皺無く加工することができ、外観上の品質は高品位に保たれる。
【0027】
図示は無いが、表紙部10は、見返りシート12と接着剤層15の間に、蛍光材印刷層16が形成された見返りシート12と表面カバーシート11でICインレット30を挟み込み形成する。表紙部5の作成と同様に、見返りシート12は冊子表紙の折り曲げ位置に対応したスリット13を形成し、表面カバーシート11と前記見返りシート12の間にICインレット30を挟み込み、接着剤層15を介して接着する。ラミネート機を使用することで、皺無く加工することができ、外観上の品質は高品位に保たれる。
【0028】
図5(b)は、図5(a)の表紙部5に中身ページ部20を取り付け、指定サイズに裁断された冊子である。中身ページ部20は、表紙部5と一緒にミシン等で縫い合わされ、中抜き機や断裁機などで指定のサイズに裁断され冊子となる。スリット13を設けることにより、冊子の折り曲げ部が薄くなり、折り曲げやすく、縫い合わせるミシンの負荷も軽減される効果が得られる。
【0029】
(実施例1)
図3の表紙部5を使用し、下記に構成で本発明の冊子を作成した。その結果、目視で、通常の太陽光線下では蛍光発色を確認することは出来なく、ブラックライトを用いて強い紫外線照射することにより、表裏共に蛍光発色を確認することができた。また、外観上の品質の良好な冊子が得られた。
図4の表紙部10を使用し、本発明の冊子を作成した場合も、表紙部5を使用した場合と同様の結果を得られた。
【0030】
(実施例1)
図3の表紙部5において、下記に構成で本発明の冊子を作成した。その結果、表面カバーシート11及び見返りシート12の、それぞれの面から明瞭な蛍光発色による図柄を確認できた。

【0031】
(1)アンテナシート
厚さ70μm、材質:PET
(2)ICチップ
ICチップの厚み:50μm
(3)表面カバーシート(2種類)
A.材質:青色に着色されたポリオレフィン樹脂を紙にコーティングしたもの
製品名:エパロン8Q200 (ダイニック株式会社製)
厚み250μm
OD(Optical Density)値:2.00(測定値)
B.材質:紺色に着色された塩化ビニル樹脂を紙にコーティングしたもの
製品名:ロンニックVK540 (ダイニック株式会社製)
厚み190μm
OD(Optical Density)値:2.50(測定値)
(4)見返りシート(4種類)
材質:オレフィン系樹脂シート
A.製品名:TeslinSP700 PPG社製 厚み178μm
OD(Optical Density)値:0.85(測定値)
B.製品名:TeslinSP800 PPG社製 厚み203μm
C.製品名:TeslinSP1000 PPG社製 厚み254μm
D.製品名:TeslinSP1200 PPG社製 厚み305μm
OD(Optical Density)値:1.39(測定値)
(5)接着剤
各シートに厚み10μm塗布する。
接着剤:太陽インキ株式会社製 低温硬化型接着剤
(主剤 RCA−2000LT210)
(硬化剤 AD−100LT110)
(6)蛍光材料
蛍光染料 製品名:ルモゲンFイエロー083 BASFジャパン株式会社製
溶剤 製品名:ACT800メジウム セイコーアドバンス社製
配合比 5.0%〜0.2%
配合比は、0.2%以下では蛍光発色が弱く、また、5.0%以上からは、蛍光発色の輝度に変化は無かった。
シルク印刷方式にて塗布 (乾燥後印刷厚 3〜6μm)
【0032】
上記表面カバーシート2種類、見返りシート4種類を使用し、全ての組み合わせでラミネート機にて冊子を作成した。全ての組み合わせにおいて明瞭な蛍光発色による図柄を確認できた。
【0033】
(実施例2)
図4の表紙部10において、実施例1と同様の様式で冊子を作成した。その結果、明瞭な蛍光発色による図柄を確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触ICモジュールの一方の面に表面カバーシート、他方の面に見返りシートを設け、前記それぞれのシートの対向する側の面に接着剤層を設け、前記それぞれの接着剤層同士を積層してなる表紙部を有する冊子であって、前記表面カバーシートと前記見返りシートの対向する面上で、かつ、前記非接触ICモジュール部が設けられた領域以外の領域に蛍光材料を用いた印刷層が形成されていることを特徴とする偽造防止機能付き非接触個別認証用冊子。
【請求項2】
前記印刷層は、前記見返りシートの前記接着剤層の表面に設けられていることを特徴とする請求項1記載の偽造防止機能付き非接触個別認証用冊子。
【請求項3】
前記印刷層は、前記見返りシートと前記接着剤層の間に設けられていることを特徴とする請求項1記載の偽造防止機能付き非接触個別認証用冊子。
【請求項4】
前記表面カバーシートの光学濃度が2.00から2.50の範囲にあることを特徴とする請求項1から3何れか一項に記載の偽造防止機能付き非接触個別認証用冊子。
【請求項5】
前記見返りシートの光学濃度が0.85から1.39の範囲にあることを特徴とする請求項1から3何れか一項に記載の偽造防止機能付き非接触個別認証用冊子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−67020(P2013−67020A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205115(P2011−205115)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】