説明

偽造防止用スレッド及び偽造防止用紙

【課題】スレッドの基材に紙を採用して、スレッドとシート状基材との層間強度を高めて、層間剥離がなく、携帯性に富む偽造防止用紙を提供する。
【解決手段】複数ビットのメモリを内蔵し、かつ、アンテナ配線を備えた半導体チップを、細幅にスリットした紙製基材の片面に接着または埋没させて成ることを特徴とする偽造防止用スレッドであり、本発明の第二手段は、偽装防止用スレッドをシート状基材の表面に貼合またはシート状基材の内部に挿入して成ることを特徴とする偽造防止用紙である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて高度な偽造防止手段を備えた偽造防止用スレッド及び偽造防止用スレッドを用いた偽造防止用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
紙幣や商品券等には、不正な変造又は偽造を防止するため、透かし、着色、蛍光発色繊維若しくは紙片若しくは粒子状物の抄き込み又はケミカルリアクション等の偽造防止対策が施されている。偽造防止対策の考え方の一つは、容易に製造できないように高度な製造技術を用いて用紙を製造することである。その一例として、プラスチックフィルムや薄葉紙等をマイクロスリッターで数mm程度の細幅にスリットしたスレッドを紙層内に抄き込んだ「スレッド入り紙」と呼ばれる偽造防止用紙があり、各国の紙幣等で多く使用されている。
【0003】
一方、電波を用いてデータの読み出しや書き込みを行い、非接触で対象物を自認する技術(RFID:Radio Frequency Identification)が実用化され、微細な半導体チップを紙またはフィルム状の媒体中に挿入することが提案されている。このような半導体チップとして、例えば、複数ビットのメモリを内蔵しかつアンテナ配線を備えた一辺0.5mm以下の半導体チップが使用されている。
【0004】
最近では、非接触で対象物を自認する技術(RFID技術)を採用したICカードが開発されている。ICカードは、例えば、学校、図書館若しくは病院等の公共施設、銀行、企業又は交通機関等において、利用者の確認や識別のための通行証、保険証又は会員登録証等として使用されている。ICカードは、アンテナコイルやコンデンサ等の共振回路と半導体チップを実装した非接触型ICタグをICカード基材に封入した構成を有している。したがって、膨大な量の情報の蓄積、書換え又は消去等を容易に成し得るため、非常に便利である。
【0005】
上記のような利便性から、ICカードは徐々に利用されてきているが、更なる普及を図る観点から、カードの薄型化や製造コストの低減が求められている。しかしながら、ICカード基材には、通常、ポリエステル樹脂、ABS樹脂又は塩化ビニル樹脂等のプラスチックが用いられているため、カードの薄型化や製造コストの低減を図ることは困難な状況である。そこで、カードの薄型化、印刷等の加工処理の容易さ、コストの大幅な低減等の要求からICカード基材として紙を用いたICカードが求められている。
【0006】
ICカード基材に紙を使用する例としては、カード紙とカード用台紙との間に半導体チップが挟み込まれて成るICカード用台紙(特許文献1参照)、電気的に非接触で偽造防止情報の読出し、及び書き込みが可能な超小型ICチップを挿入等して成る偽造防止印刷媒体(用紙)(特許文献2参照)、第1紙層と第2紙層との間に、記録された識別情報を無線で送信する無線タグを挟み込んで成る紙(特許文献3参照)等がある。
【0007】
また、ICカード基材に紙を使用するその他の例としては、半導体チップを細幅にスリットしたフィルムに接着等して成る偽造防止用スレッドを、シート状基材の表面に貼合またはシート状基材の内部に挿入して成る偽造防止用紙(特許文献4及び5参照)、多層用紙基材を構成する紙層のうち少なくとも一つの紙層内に、非接触型ICタグが漉き込まれてなる用紙(特許文献6参照)がある。
【0008】
しかしながら、偽造防止用スレッドのシートフィルムは、セロファン、ポリプロピレン、ポリエステル又はナイロン等であるので、この偽造防止用スレッドを紙層内に抄込んだ場合に、紙との接着性が非常に悪く、層間で剥離を生じてしまい、その結果、半導体チップが損傷するという問題があった。また、非接触型ICタグを紙層内に抄込んだ偽造防止用紙において実用化されているものは、坪量が200g/m以上であるので、坪量が小さくて薄い偽造防止用紙の提供が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開2003−85518号公報
【特許文献2】特開2003−58856号公報
【特許文献3】特開2004−102353号公報
【特許文献4】特開2002−319006号公報
【特許文献5】特開2004−139405号公報
【特許文献6】特開2005−350823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第一の目的は、紙製の基材に半導体チップが接着又は埋没された偽造防止用スレッドを提供することである。本発明の第二の目的は、前記偽造防止用スレッドとシート状基材との層間が一体化した偽造防止用紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、フィルム製スレッドの抄紙上での欠点、及び紙製スレッドの特性において鋭意検討を行い、半導体チップを含む紙製スレッドを製造すると共に紙製スレッドを用いた偽造防止用紙を完成するに至った。
前記課題を解決するための本発明の第一の手段は、複数ビットのメモリを内蔵し、かつ、アンテナ配線を備えた半導体チップを、細幅にスリットした紙製基材の片面に接着または埋没させて成ることを特徴とする偽造防止用スレッドである。
前記課題を解決するための本発明の第二の手段は、前記偽装防止用スレッドをシート状基材の表面に貼合またはシート状基材の内部に挿入して成ることを特徴とする偽造防止用紙である。本発明の第二の手段における好ましい態様としては、前記偽装防止用スレッドとシート基材とにおけるJAPAN.TAPPI−54で規定される紙層内強度が、少なくとも200J/mであり、ポリアクリルアミド、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂の少なくとも1つを内添して成ることである。
【発明の効果】
【0012】
偽造防止用スレッドの基材に紙を採用することにより、偽造防止用スレッドとシート状基材との層間強度を高めることができるので、層間剥離を生じ難い偽造防止用紙を提供することができる。さらに、前記のとおり、本発明の偽造防止用紙は、層間剥離を生じ難いため、印刷等の加工処理性の向上や製造コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[偽造防止用スレッド]
以下、本発明の偽造防止用スレッドについて説明する。
本発明の偽造防止用スレッドは、複数ビットのメモリを内蔵し、かつ、アンテナ配線を備えた半導体チップを、細幅にスリットした紙製基材の片面に接着または埋没させて成ることを特徴とする。
【0014】
<半導体チップ>
前記半導体チップとしては、(1)複数ビットのメモリを内蔵した一辺0.5mm以下の半導体チップに、外部アンテナを接合したもの、又は(2)複数ビットのメモリを内蔵し、かつ、アンテナ配線を備えた一辺0.5mm以下の半導体チップに、さらに外部アンテナを接合したものを挙げることができる。この様な外部アンテナ付半導体チップは、バッテリレス非接触認識方式によりメモリ内に記憶させた情報をアンテナ配線を介して読みとることができるものである。
【0015】
前記半導体チップは次のような方法によって製造される。まず、鏡面で純度が高いシリコン単結晶ウエハを準備する。このウエハ表面に、各種酸化膜や窒化膜などの絶縁膜により絶縁する工程を経て、ホトレジスト工程によって、回路設計された各種の素子パターンが形成されたガラスマスクを通して、レジストパターンを形成する。このレジストパターンを通して、前記の絶縁膜をエッチングしたり、不純物をインプラしたりして、電気的デバイス層を形成し、最終的には各種トランジスタ、ダイオード、抵抗、容量素子となる拡散層を形成する。さらに、その上に配線パターン層を形成して、前記拡散層の素子間接続を終了して回路機能を発揮する形態とする。本発明では、さらにコイル素子およびコンデンサ素子による共振回路を形成して、マイクロ波エネルギと信号を得るための外部アンテナを形成する。その代表的な方法について以下に述べる。
【0016】
第1の方法は、再公表特許WO2000−36555号に開示されている方法、即ち前記半導体回路が形成された側の面に外部アンテナを接続するためのバンプを形成した後に、ダイヤモンドブレードを用いて一辺が0.5mm以下のサイズの半導体チップに分離し、バンプと外部アンテナとを異方導電性接着剤を使用して接続する方法である。
【0017】
第2の方法は、前記ウエハを、例えばダイヤモンドブレードを用いて一辺が0.5mm以下のサイズの半導体チップに分離することにより、半導体チップを製造し、さらにこの半導体チップに、配線パターン層を利用して、コイル素子およびコンデンサ素子による共振回路を形成して、オンチップにてマイクロ波エネルギと信号を得る内部アンテナを形成する。この内部アンテナはマイクロ波であるために、時定数が小さく、たとえば、コイルのインダクタンスは2ナノヘンリー、コンデンサは2ピコファラッドとすることなどによって、小さな部品回路によって共振回路を実現することが可能である。これによって、一辺が0.5mm以下の平面寸法の半導体チップ上に内部アンテナを配置することが可能となる。内部アンテナを形成するコイル素子とコンデンサ素子は並列または直列に接続されて、半導体チップの中に実現される高周波受信回路に接続される。
【0018】
アンテナ内蔵型の半導体チップは電波の到達距離が数mmであるので、電波の到達距離を大きくするためにさらに外部アンテナを接合する。具体的には、内部アンテナの先端に外部アンテナを接合するためのバンプを形成し、このバンプと外部アンテナとを異方導電性接着剤を使用して接続する方法が代表的な方法である。
【0019】
本発明で使用する外部アンテナ付きの半導体チップは上述した方法により製造することができ、外部アンテナの最大幅は、後に述べる偽造防止用スレッドの幅以下にすることが好ましい。偽造防止用スレッドの幅より外部アンテナの幅が大きいと、偽造防止用スレッドを連続的に繰り出す際等に外部アンテナが損傷しやすくなり、また局所的に過度の加重がかかり、偽造防止用スレッドの繰り出しをスムーズに行うことが困難になるためである。外部アンテナの長さは使用する電波の1/4波長の整数倍にすることが好ましく、取り扱いを容易にすることと電波の到達距離が数十cmあれば実用上十分であるので、通常は数十〜100mm程度とする。
【0020】
半導体チップの寸法は、一辺を0.5mm以下とする。一辺が0.5mmより大きいと、チップの複製物が比較的容易に製造されうるようになるとともに、スレッド幅より半導体チップが大きくなると、半導体チップを設けたスレッドをシート状物に貼合または挿入する際に、半導体チップがスレッドから脱落しやすくなり、さらにはシート状物を折り曲げた場合に、半導体チップがシート状物を突き破り外部に露出しやすくなる。更には、スレッド幅が広くなることによって、抄紙の際にスレッド部の脱水性が、スレッドがない部分と異なることによる紙の縦割れが発生してしまうという問題がある。半導体チップの厚さは好ましくは0.1〜120μmとする。0.1μmより薄い半導体チップを製造することは技術的に難しく実用し得ない。また120μmより厚くなると、シート状物に貼合または挿入した際に半導体チップの箇所が過度に厚くなってしまい、薄い偽造防止用紙を得ることができない。
【0021】
<紙製基材>
本発明においては、偽造防止用スレッドに紙製基材を用いることが重要である。
【0022】
前記紙製基材の原料パルプには、各種のパルプを使用できる。前記原料パルプとしては、例えば、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)若しくはソーダパルプ(AP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)若しくはケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)若しくはリファイナーグランドウッドパルプ(RGP)等の機械パルプ、楮、三椏、麻若しくはケナフ等を原料とする非木材繊維パルプ又は古紙を原料とする脱墨パルプ等を挙げることができ、これら単独でも又は2種以上を混合して使用しても良い。
【0023】
本発明においては、紙製基材の引張強度を高める観点から、広葉樹晒クラフトパルプと針葉樹晒クラフトパルプ又は非木材パルプとを混合して使用するのが好ましい。
針葉樹晒クラフトパルプと広葉樹晒クラフトパルプとを混合する場合には、全パルプに対する針葉樹晒クラフトパルプの配合率が10%〜70%であるのが良い。10%未満では強度発現が十分ではなく、70%を超えると地合が調整しにくくなり、逆に強度が低下してしまう。非木材パルプと広葉樹晒クラフトパルプとを混合する場合には、全パルプに対する非木材パルプの配合率が3%〜50%であるのが良い。3%未満では強度発現が十分ではなく、50%を超えると地合が調整しにくくなり、逆に強度が低下してしまうだけでなく、コストアップになる。
【0024】
本発明の紙製基材に使用されるパルプは、公知の方法により叩解して使用することができる。叩解機には特に限定はなく、ビーター、ジョルダン、デラックス・ファイナー(DF)又はダブル・ディスク・レファイナー(DDR)等の種々の叩解機が使用される。2種以上の原料パルプを配合する場合には、原料パルプを混合する前に各々の原料パルプを単独で叩解しても良いし、原料パルプを混合した後に叩解しても良い。叩解の程度としては、厚さと地合を考慮して任意に設定できるが、なかでも、JIS P8121で規定されるカナディアン・スタンダード・フリーネスが、混合パルプとして500ml以下、特に、400ml以下になるまで叩解するのが好ましい。
【0025】
本発明の紙製基材を抄紙する抄紙機としては、従来から使用されている長網、円網又は傾斜ワイヤー等を使用することができる。乾燥機としては、多筒ドライヤー、ヤンキードライヤー又はエアースルードライヤー等を使用することができる。地合調整の容易さの点から抄紙機には傾斜ワイヤーを使用するのが好ましい。また、半導体チップを固定しやすい平滑面を形成する点から、乾燥機にはヤンキードライヤーを使用するのが好ましい。
【0026】
本発明の紙製基材の抄紙に際して、必要に応じて種々の内添薬品を使用できる。内添薬品としては、紙力増強剤、濾水歩留り向上剤、耐水化剤、消泡剤又は染料等を挙げることができる。前記紙力増強剤としては、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂若しくはメラミン樹脂等の湿潤紙力増強剤、澱粉又はポリアクリルアミド樹脂等を挙げることができる。なお、本発明においては、紙層内に挿入等した際における偽造防止用スレッドとシート状基材とのパルプ結合を良くするため、サイズ剤は使用しないことが好ましい。
【0027】
また、無機填料又は有機填料が使用可能である。たとえば、カオリン、タルク、クレー、炭酸カルシウム、焼成クレー、酸化チタン、珪藻土微粒子状無水シリカ、活性白土、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸亜鉛、硫酸バリウム、二酸化珪素若しくはコロイダルシリカ等の無機填料又は尿素ホルマリン樹脂フィラー、ナイロンパウダー若しくはポリエチレンパウダー等の有機填料が挙げられる。ただし、これらの填料を多量に配合する場合は、搾水性を考慮して、凝集剤を適宜使用する必要がある。
【0028】
本発明においては、紙製基材の表面強度を向上させる目的で、各種バインダーを塗布することができる。塗布装置としては、エアナイフコータ、ロールコータ、リバースロールコータ、ブレードコータ、バーコータ、グラビアコータ、キスロールコータ、キャストコータ、カーテンコータ、ダイスロットコータ、チャンプレックスコータ、ブラシコータ、ゲートロールコータ、ハミルトンコータ、KCMコータ、サイズプレスコータ、メタードサイズプレス又はメタードフィルムトランスファロールコータ等の塗布装置を備えたオンマシンやオフマシンコータを挙げることができる。
【0029】
前記各種バインダーとしては、酸化澱粉、酵素変性澱粉、カチオン変性澱粉、エステル澱粉若しくはエーテル澱粉等の澱粉類、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メトキシセルロース、ヒドロキシセルロース、完全若しくは部分鹸化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール若しくは珪素変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、アクリル酸アミド、アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸アミドアクリル酸エステル、メタクリル酸共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体のアルカリ塩、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、カゼイン等の水溶性高分子、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリブチルメタクリレート、スチレン・ブタジエン共重合体等のラテックス等を使用することができるが、多量に使用すると、紙製基材の表面強度か高くなりすぎ、偽造防止用スレッドを層間内に挿入等した場合に、偽造防止用スレッドとシート状基材とのパルプ結合性が悪化するため好ましくない。
【0030】
前記紙製基材の坪量としては、半導体チップの厚さや紙製基材の表面強度等に応じて適宜決定でき、本発明では10〜150g/mであるのが好ましい。半導体チップを紙製基材に接着する場合には、紙製基材の厚さをできるだけ薄くする必要があることから、坪量は10〜50g/mであるのが好ましい。一方、半導体チップを紙製基材に埋没させる場合には、坪量は50〜120g/mであるのが好ましい。
【0031】
前記紙製基材の厚さとしては、製造する偽造防止用紙の厚さを考慮する必要があるが、半導体チップを紙製基材に接着する場合には、20〜50μmが好ましく、半導体チップを紙製基材に埋没させる場合には80〜150μmが好ましい。
【0032】
紙製基材には、必要に応じて種々の処理、例えば、ヌレ指数の改善のためのコロナ放電処理を施すことができる。
【0033】
上記の様にして製造された紙製基材は、マクロスリッターを用いて細幅にスリットされ、本発明に使用する偽造防止用スレッドの基材として用いられる。
【0034】
スリット幅としては、外部アンテナ付半導体チップの外部アンテナの最大幅以上であれば、特に制限はなく、外部アンテナの大きさに応じて適宜変更可能である。
【0035】
<半導体チップの接着及び埋没>
本発明の偽造防止用スレッドは、半導体チップを紙製基材の片面に接着または埋没させて成ることを特徴とする。
【0036】
前記接着する際に使用する接着剤は、PVA、澱粉、アルギン酸ソーダ等の水溶性接着剤、ポリクロロプレン系接着剤、ポリウレタン系接着剤、熱可塑性SBR系接着剤、ホットメルト系接着剤、エポキシ系接着剤、ビニル系接着剤、フェノキシ樹脂系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリスルホン系接着剤等を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。特に、耐水性と耐熱性に優れた接着剤、例えば、2液硬化型のエポキシ接着剤が好ましい。また、接着剤を瞬間的に硬化させたい場合には、紫外線硬化型の接着剤を使用することができる。
【0037】
半導体チップを埋没させる方法としては、特開平11−91711号公報又は特開平11−227870号公報等に開示されている方法、例えば、エンボスによるポケット加工法又は一般的なパンチ加工法が採用できる。この場合、ポケット加工法又はパンチ加工法により形成されるエンボスポケット及びパンチ穴の大きさとしては、半導体チップの大きさに対して数〜20μm程度大きくするのが好ましい。また、エンボスポケットの深さとしては、半導体チップの突出を回避するため、半導体チップの厚さよりも数〜10μm深いのが好ましい。
【0038】
尚、半導体チップを埋没させる場合には、アンテナ内蔵型半導体チップを使用することができるが、アンテナ内蔵型半導体チップを使用すると、リーダーでの検地距離が著しく短くなることから、外部アンテナを接合した外部アンテナ付半導体チップを使用するのが好ましい。
【0039】
[偽造防止用紙]
次に、本発明の偽造防止用紙とその製造方法について説明する。
本発明の偽造防止用紙は、前記偽装防止用スレッドをシート状基材の表面に貼合またはシート状基材の内部に挿入して成ることを特徴とする。
【0040】
<シート状基材>
前記シート状基材としては、紙であれば特に制限はなく、例えば、市販の上質紙、中質紙、コート紙、新聞紙、包装用紙又は板紙等を使用することができる。シート状基材の原料パルプ、叩解機、各種内添薬品、填料、バインダー等は前記<偽造防止用スレッド>で述べたのと同様のものを使用することができる。
【0041】
本発明においては、偽造防止用紙が、ポリアクリルアミド、澱粉、ポリビニルアルコール又はポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂の少なくとも1種を内添して成るのが好ましい。これらの水系ポリマーを含むことにより、偽造防止用スレッドとシート状基材との間でパルプ繊維の結合が強化され、紙層内強度が向上する。
【0042】
本発明の偽造防止用紙の表裏面に、一般コート層、インクジェット受容層、感熱層、昇華熱転写、などあらゆる印刷やメディアに対応した塗工層を設けることができる。
【0043】
<偽造防止用スレッドのシート状基材への貼合又は挿入>
前記偽装防止用スレッドをシート状基材の表面に貼合させる際に用いられる接着剤としては、PVA、澱粉、アルギン酸ソーダ等の水溶性接着剤、ポリクロロプレン系接着剤、ポリウレタン系接着剤、熱可塑性SBR系接着剤、ホットメルト系接着剤、エポキシ系接着剤、ビニル系接着剤、フェノキシ樹脂系接着剤、ポリエステル系接着剤又はポリスルホン系接着剤等を挙げることができ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、前記偽装防止用スレッドをシート状基材の内部に挿入させる場合は、フィルム製スレッドを紙層内に挿入する際に用いられる方法を使用することができる。
【0044】
紙製スレッドを紙層内に挿入する方法としては、1層抄きの方法としては、例えば長網抄紙機のスライスから抄紙網に供給される紙料と共にスレッドを繰り出して、抄紙網上に形成される紙層の内部にスレッドを埋没させるように挿入する方法(特開昭51−13039号公報)や、長網抄紙機のフローボックスから流出する紙料へスレッドの挿入装置を設置し、空気流でスレッドと紙料を非接触状態としながらスレッドを抄き込む方法(特開平2−169790号公報)が挙げられる。
【0045】
多層抄きの方法としては、例えば多槽式円網抄紙機を用いて最外層の紙層と内層の紙層との少なくとも2層からなる抄合わせ紙を製造するに際して、各紙層を重ね合わせる直前でスレッドを紙層間に挿入して抄き込む方法が採用できる。
【0046】
半導体チップを接着したスレッドを多層抄合わせ紙の紙層内に埋没するように抄き込んで挿入する場合は、スレッドが挿入される部分の紙層だけ薄くして、スレッドを挿入するための溝を形成しておくことが有効である。このようにすることで、用紙に圧力が加わった際、紙層の厚い部分がクッションとなり、溝(薄い部分)に挿入されたスレッド上の半導体チップを前述した圧力から保護することが可能となる。紙層の厚い部分と薄い部分の厚みの差は、半導体チップの厚みや材質、シートの厚みによって適時変更することができるが、およそ半導体チップの厚みの0.5〜2倍が好ましい。
【0047】
上記した溝を紙層に形成する方法は、公知のすき入れの技術を使用することができる。例えば、円網シリンダーの上網に針金、金属、樹脂、紙等をハンダ付けしたり接着剤で貼り付けたりする方法、網に塗料や樹脂を塗布して網目を塞ぐ方法、抄紙網自体に直接凹凸をつける方法、網に感光性樹脂を利用して型を取り付ける方法、湿紙の状態で、溝を形成したい部分に圧縮空気を吹きかける方法、湿紙の状態で、溝を形成したい部分を擦過ロールにより擦過する方法等が挙げられる。
【0048】
本発明の偽造防止用紙は、1層構造又は2層以上の多層構造のいずれであってもよいが、特に、3層以上からなる多層紙が好ましい。中層に偽造防止用スレッドを挿入する場合は、偽造防止用スレッドと半導体チップの厚さを考慮して、中層の坪量を決める必要がある。
【0049】
<偽造防止用スレッドとシート状基材とにおける紙層内強度>
本発明の偽造防止用紙においては、前記偽装防止用スレッドとシート状基材とにおける紙層内強度が、少なくとも200J/mであるのが好ましい。前記紙層内強度が少なくとも200J/mであれば、偽造防止用紙として、印刷や貼合、ラミネーションなどの加工時に紙層内で剥離することがないので好ましい。一方、200J/m未満では、紙層内で剥離し、加工後の製品に不具合を生じるだけでなく、半導体チップが剥離した紙の摩擦や衝撃により破損するという問題が生じる。本発明では、紙製スレッドを使用することにより、従来のフィルムスレッドと比較して、飛躍的に強い紙層内強度を達成することができる。前記紙層内強度は、JAPAN.TAPPI−54に従って測定し、アルミアングルと試料ホルダーの間に両面テープで接着する試料は、剥離方向が試料の縦方向になるように、更に、スレッド部がセンターに位置するように配置した。
【0050】
本発明の偽造防止用スレッドを貼合、または挿入した偽造防止用紙の坪量は、1000g/mまで対応可能であるが、本発明においては、70g/m以上200g/m未満であるのが好ましい。
【0051】
以下、本発明の偽造防止用スレッドについて、図面を参照して詳述する。なお、図面に示された偽造防止用スレッドは、本発明の偽造防止用スレッドの一態様であって、本発明の偽造防止用スレッドは図面によって何ら制限を受けることはない。
【0052】
図1に示された偽造防止用スレッド1は、紙製基材2と、半導体チップ4を備えた外部アンテナ3とを、接着して成る。
【0053】
図2に示された偽造防止用スレッド1は、外部アンテナ3を備えた半導体チップ4を埋没させて成る。前記偽造防止用スレッド1においては、ポケット加工法を用いて紙製基材2に形成したエンボスポケット6に、外部アンテナ付半導体チップの半導体チップ4が嵌合されている。紙製基材2と、紙製基材2に接する外部アンテナ3とは、接着剤を介して接合している。エンボスポケット6における半導体チップ4と紙製基材2との空隙部分には、半導体チップ4と紙製基材2とを接着するための接着剤が充填されていてもよく、また充填されていなくてもよい。
【0054】
図3に示された偽造防止用スレッド1は、外部アンテナ3を備えた半導体チップ4を埋没させて成る。前記偽造防止用スレッド1においては、パンチ加工法を用いて紙製基材2に形成したパンチ穴7に、外部アンテナ付半導体チップの半導体チップ4が嵌合されている。紙製基材2と、紙製基材2に接する外部アンテナ3とは、接着剤を介して接合している。
【0055】
図4に示された偽造防止用スレッド1は、外部アンテナ3を備えた半導体チップ4を埋没させて成る。前記偽造防止用スレッド1においては、ポケット加工法を用いて紙製基材2に形成したエンボスポケット6に、外部アンテナ付半導体チップの半導体チップ4を嵌合し、更に、外部アンテナ付半導体チップを、カバーテープ、例えば、紙製テープ5で覆蓋して成る。前記カバーテープで覆蓋することにより、外部アンテナ付半導体チップの飛出し防止を行うこともできる。カバーテープの厚さとしては、10〜20μmであるのが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の記載中、「%」は「質量%」を示す。また、特に記載の無い限り、抄造した紙は、JIS P8111に準じて前処理を行った後、測定やテストに供した。尚、前記偽装防止用スレッドとシート状基材との紙層内強度は、JAPAN.TAPPI−54に従って測定した。
【0057】
<偽造防止用スレッドの製造>
(偽造防止用スレッドA)
フィリピン産麻パルプ(S2グレード、アリンデコ)30%と広葉樹晒クラフトパルプ70%とを配合し、ダブルディスクリファイナーでカナディアンスタンダードフリーネス400mlまで叩解し、湿潤紙力剤としてPS−1250(ポリアクリルアミド樹脂、荒川化学製)を対パルプ固形分で0.1%添加して、傾斜ワイヤーで抄紙し、次いで、ヤンキードライヤーで乾燥して、坪量15g/m、厚さ30μmの用紙Aを製造した。この用紙Aをマイクロスリッターで、幅4mmにスリット加工した。スリット加工した用紙Aの高平滑面に外部アンテナ付半導体チップ(0.4×0.4×0.075mm)をビニル系接着剤で貼り付けて、偽造防止用スレッドAを製造した。
(偽造防止用スレッドB)
針葉樹晒クラフトパルプ50%と広葉樹晒クラフトパルプ50%とを配合し、ダブルディスクリファイナーでカナディアンスタンダードフリーネス400mlまで叩解し、湿潤紙力剤としてPS−1250(ポリアクリルアミド樹脂、荒川化学製)を対パルプ固形分で0.1%添加して、傾斜ワイヤーで抄紙し、次いで、ヤンキードライヤーで乾燥して、坪量70g/m、厚さ90μmの用紙Bを製造した。この用紙Bをマイクロスリッターで、幅4mmにスリット加工した。スリット加工した用紙Bにプレス成形を行い、縦0.41×横0.41×深さ80μmのポケットを形成し、該ポケットに半導体チップ(0.4×0.4×0.075mm)を埋没後、外部アンテナを貼り付け、偽造防止用スレッドBを製造した。
(偽造防止用スレッドC)
針葉樹晒クラフトパルプ50%と広葉樹晒クラフトパルプ50%とを配合し、ダブルディスクリファイナーでカナディアンスタンダードフリーネス400mlまで叩解し、湿潤紙力剤としてPS−1250(ポリアクリルアミド樹脂、荒川化学製)を対パルプ固形分で0.1%添加して、傾斜ワイヤーで抄紙し、次いで、ヤンキードライヤーで乾燥して、坪量70g/m、厚さ90μmの用紙Bを製造した。この用紙Bをマイクロスリッターで、幅4mmにスリット加工した。スリット加工した用紙Bにパンチ加工を行い、縦0.41×横0.41mmのパンチ穴を形成し、外部アンテナ付半導体チップ(0.4×0.4×0.075mm)を、半導体チップがパンチ穴穴に埋没するように貼り付け、偽造防止用スレッドCを製造した。
【0058】
<実施例1>
パルプ原料として針葉樹晒クラフトパルプ30%と広葉樹晒クラフトパルプ70%とを配合し、ダブルディスクリファイナーでカナディアンスタンダードフリーネス400mlまで叩解し、紙力剤として水系ポリマー(PS1250、ポリアクリルアミド樹脂、荒川化学製)を対パルプ固形分で0.1%添加して、抄紙原料とした。この抄紙原料を使用して、円網抄紙機で半導体チップが接触する表層の坪量を70g/m、中層の坪量を15g/m、裏層の坪量を30g/mに調整して、中層に偽造防止用スレッドAを挿入して、厚さ170μmの偽造防止用紙を製造した。紙層内強度は、370J/mであった。
【0059】
<実施例2>
パルプ原料として針葉樹晒クラフトパルプ30%と広葉樹晒クラフトパルプ70%とを配合し、ダブルディスクリファイナーでカナディアンスタンダードフリーネス400mlまで叩解し、紙力剤として水系ポリマー(PS1250、ポリアクリルアミド樹脂、荒川化学製)を対パルプ固形分で0.1%添加して、抄紙原料とした。この抄紙原料を使用して、円網抄紙機で半導体チップが接触する表裏層の坪量を25g/m、中層の坪量を70g/mに調整して、中層に偽造防止用スレッドBを挿入して、厚さ170μmの偽造防止用紙を製造した。紙層内強度は、430J/mであった。
【0060】
<実施例3>
中層に偽造防止用スレッドCを挿入した以外は実施例2と同様にして、厚さ170μmの偽造防止用紙を製造した。紙層内強度は、400J/mであった。
【0061】
<実施例4>
実施例2において、外部アンテナ付半導体チップを挿入後、用紙Aを澱粉(王子エースA、王子コーンスターチ製)で偽造防止用スレッドBに貼り合せた以外は同様にして、厚さ200μmの偽造防止用紙を製造した。紙層内強度は、350J/mであった。
【0062】
<実施例5>
紙力剤の水系ポリマー(AF−255、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、荒川化学製)を変更した以外は実施例3と同様にして厚さ170μmの偽造防止用紙を製造した。紙層内強度は、450J/mであった。
【0063】
<比較例1>
厚さ20μm、4mm幅のポリエステル製フィルムスレッドを使用した以外は、偽造防止用スレッドAと同様にしてフィルム製スレッドを製造し、実施例1と同様にして170μmの偽造防止用紙を製造した。紙層内強度は、180J/mであった。
【0064】
実施例と比較例との対比から明らかなように、本発明の要件を満たす偽造防止用シート状基材は、本発明の偽造防止用スレッドを使用することにより、表裏層と一体化し紙層内強度が強く、印刷などの後工程において紙層間剥離トラブルが発生しないという特徴を持つ。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の偽造防止用紙は、ICカードのみならず、有価証券、金券、プリペイドカード等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の紙製基材に、半導体チップが埋没するように外部アンテナ付半導体チップを装着して成る偽造防止用スレッドの断面図である。
【図2】本発明の紙製基材に、半導体チップが埋没するように外部アンテナ付半導体チップを装着して成る偽造防止用スレッドの断面図である。
【図3】本発明の紙基材に形成したパンチ穴に、半導体チップが埋没するように外部アンテナ付半導体チップを装着して成る偽造防止用スレッドの断面図である。
【図4】外部アンテナ付半導体チップを紙製テープでカバーして成る偽造防止用スレッドの断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1・・・偽造防止用スレッド 2・・・紙製基材 3・・・外部アンテナ
4・・・半導体チップ 5・・・紙製テープ 6・・・エンボスポケット
7・・・パンチ穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数ビットのメモリを内蔵し、かつ、アンテナ配線を備えた半導体チップを、細幅にスリットした紙製基材の片面に接着または埋没させて成ることを特徴とする偽造防止用スレッド。
【請求項2】
前記偽装防止用スレッドをシート状基材の表面に貼合またはシート状基材の内部に挿入して成ることを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項3】
前記偽装防止用スレッドとシート状基材とにおけるJAPAN.TAPPI−54で規定される紙層内強度が、少なくとも200J/mであることを特徴とする前記請求項2に記載の偽造防止用紙。
【請求項4】
ポリアクリルアミド、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂の少なくとも1つを内添して成ることを特徴とする前記請求項2又は3に記載の偽造防止用紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−21197(P2008−21197A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193530(P2006−193530)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】