説明

偽造防止用形成体

【課題】鮮明な発現が可能な不可視画像を形成するとともに、不可視画像を発現させた時に可視画像によって視認性が阻害されない偽造防止用形成体を提供する。
【解決手段】基材に、第1の画線領域と第2の画線領域が第1の間隔で交互に第1の方向に配置され、第3の画線領域と第4の画線領域が第1の間隔で交互に第2の方向に配置され、第5の画線領域と第6の画線領域が第2の間隔で交互に第3の方向に配置され、第7の画線領域と第8の画線領域が第2の間隔で交互に第4の方向に配置され、それぞれに所定の規則によって画線が配置されることによって第1乃至第4の不可視画像が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、株券、債券等の有価証券、各種証明書及び重要書類等の偽造防止又は複製防止が必要とされる偽造防止用形成体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に証明書類の貴重印刷物では、偽造防止効果を与えるために様々な技術が適用されているが、近年、カラー複写機の高画質化及びカラー製版技術のコンピュータ化に伴い、証明書類の偽造技術が多様化する傾向にある。これに伴う証明書類の偽造防止策も、高度化することによって対応してきた。しかし、その一方で、偽造防止策に費やす製造コストも上がり、偽造防止効果を確認する環境を得るために特殊な機械器具から成る専用設備を導入するなど、真偽判定にて高コストとなる場合があった。
【0003】
低コストで真偽判定を可能にする有用な方法に、印刷物上に判別具を重ねて行う技術がある。つまり、不可視画像が施されている印刷物に判別具を重ねることによって、不可視画像を可視画像として発現させるもので、この判別具の主な形態は、平行線スクリーンを印刷した透明シート(以下「万線フィルタ」という。)であったり、レンチキュラーレンズであったりする。この判別具を用いて不可視画像を発現させる技術は、主に二種類の方法があり、点位相変調(Dot phase modulation)と線位相変調(Line phase modulation)とが存在する。
【0004】
このような万線フィルタから成る判別具を重ね合わせることにより潜像画像が発現する印刷物とその真偽判別方法としては、万線(又は網点)画線で印刷した背景画像部と、背景画像部と異なる位相の万線(又は網点)画線で印刷した潜像画像部とを有する印刷物が存在する。当該印刷物の背景画像部と潜像画像部は、区分けして視認することが一見困難であるが、万線フィルタを印刷物に所定の位置で重ね合わせた場合には、背景画像部と潜像画像部を区分けして視認できる方法が知られている。
【0005】
点位相変調(Dot phase modulation)の一例としては、第1の方向と第2の方向に位相変調されたパターンが形成された印刷物と、当該印刷物の第1の方向と万線状フィルタの万線状パターンの方向とを一致するように前記万線状フィルタを重ね合わせることにより形成される第1の多階調画像と、前記万線状フィルタの重ね合わせる角度を前記印刷物の第2の方向に一致するように変えると第2の多階調画像が形成された印刷物及び画像形成法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、点位相変調(Dot phase modulation)の一例としては、基材上に、レンズアレイ(ハエの目レンズ、ハニカムレンズ、レンチキュラーレンズ等)を重ねることにより画像が現れるドットパターンを構成するそれぞれのドットが、少なくとも二種類以上のスクリーン線数で、かつ、少なくとも二種類以上のスクリーン角度の網点から成る印刷物において、真正物であればドットパターンを構成するそれぞれのドットの網点面積率が同じであるため、レンズアレイを重ねることにより不可視画像が発現し、複写物の場合は、コピーすることによりスクリーン線数の大きさ又は網点角度で再現されるドットが潰れ、ドットの濃度が変化することにより前記不可視画像と異なる画像が発現する印刷物がある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、海外の点位相変調(Dot phase modulation)の一例としては、アストロン・デザイン社(オランダ)のイソグラム(Isogram)がある(例えば、非特許文献1340頁参照)。これは、一見して均一な濃度を有する平坦な模様の中に、拡大すると微細な網点の位相によって不可視画像が施され、印刷物上に専用のシートを重ねると、ネガポジ状のどちらかに可視画像化されたものである。しかし、これは、均一な濃度を有する平坦な模様故に、鮮明に画像を発現させることができない。
【0008】
また、本願出願人等は、点位相変調(Dot phase modulation)を用いた印刷物に関する特許出願を行っている。これは、基材上に複数の等色の画素が規則的に配列されて二つの潜像模様が形成された潜像印刷物であって、前記複数の画素において、第1の方向に位相をずらして配列された第1の領域による第1の潜像模様(不可視画像)と、機能性を有するインキにより印刷された第2の領域による第2の潜像模様(不可視画像)とを有する(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
線位相変調(Line phase modulation)の一例としては、基材上に、線部と非線部を有し、同一ピッチ及び幅から成る万線パターンに対し、万線位相を2分の1ピッチずらして形成された潜像部を備えている複数種の潜像万線パターンが、それぞれ異なる角度で重ね合わされて印刷された潜像を有する印刷物であって、前記複数種の潜像万線パターンがそれぞれ色違いであることを特徴とする印刷物と、前記印刷物の万線パターンと同一ピッチのフィルムを前記複数種の不可視画像に重ね合わせることにより潜像部が可視画像化されたものがある(例えば、特許文献4参照)。
【0010】
また、海外の線位相変調(Line phase modulation)を用いた印刷物には、ユラ社(ハンガリー)のHIT(Hidden Image Technology)がある(非特許文献1341頁参照)。一見して均一な濃度を有する平坦な模様の中に、拡大すると微細な万線の位相によって不可視画像が施され、印刷物上に専用のシートを重ねると、ネガポジ状のどちらかに可視画像化される。なお、印刷物では通常視でも不可視画像が確認できてしまうおそれがあるため、カムフラージュ模様として万線の一部の画線幅を変化させて可視画像を設けている。また、白抜き画線によって可視画像を設けてもよい。ただし、このカムフラージュ模様は、専用のシートを重ねて不可視画像を可視画像化した際、カモフラージュ模様も可視画像として同時に発現するので、不可視画像の発現時の視認性を阻害するという問題がある。
【0011】
一般的に、点位相変調(Dot phase modulation)又は線位相変調(Line phase modulation)により形成された模様は、平坦な形状となっている。
【0012】
また、画像形成シート上に、単位ブロック内をm列n行に等形上分割した各々最小単位ブロックb1、b2、b3、b4、・・・を、それぞれ1単位画素g1、g2、g3、g4、・・・とする各々潜像画像G1、G2、G3、G4、・・・が形成され、その単位画素g1、g2、g3、g4、・・・は、万線本数1本分以上の万線により構成される万線パターンであって、ピッチp1、p2、p3、p4、・・・の各々万線ピッチpと、角度θ1、θ2、θ3、θ4・・・の各々万線角度θの万線により構成される、異なる各々万線パターンのうち、いずれかの万線パターンにより構成された偽造防止用画像形成体であり、1単位画素g1、g2、g3、g4、・・・を構成する万線パターンと、同一の万線ピッチp及び万線角度θの万線により構成されるそれぞれ異なる万線パターンを、透明シートに形成した顕像化用の万線シートを重ね合わせることで、潜像画像G1、G2、G3、G4、・・・が顕像化するようにした偽造防止用画像形成体が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0013】
この特許文献5による偽造防止用画像形成体は、各々の単位画素において万線パターンのピッチ及び角度を異ならせることにより、複数の潜像画像を顕像化するものではあるが、可視画像としては、一様な背景模様としか表現できない。また、複数の潜像画像がブロックによって分割されるために潜像画像を構成する実用面積が少なくなり、顕像化した画像が不鮮明になるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第4132122号公報
【特許文献2】特許第4013450号公報
【特許文献3】特開2008−207335号公報
【特許文献4】特開2004−174997号公報
【特許文献5】特開2007−15120号公報
【非特許文献1】Optical Security and Counterfeit Deterrence Techniques IV Vol.4677 ( by SPIE-The International Society for Optical Engineering )
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1〜4は、同一の万線フィルタ等の判別具を用いて、印刷物と判別具の重ねる方向によって、異なる不可視画像が確認できる印刷物であるが、同一の判別具を用いるため、印刷物の真偽判別の容易性に優れる一方で、どのような不可視画像が印刷物内に埋め込まれているか容易に判別され、偽造者に複製されるおそれがあった。
【0016】
上記、問題を解決するために、特許文献5では、二種類以上の判別具を用いて複数の不可視画像が出現する技術が開示されている。
【0017】
しかしながら、特許文献5は、可視画像が形成された所定領域内に複数の不可視画像が埋め込むことが可能な印刷物ではなかった。また、複数の潜像画像がブロックによって分割されるために潜像画像を構成する実用面積が少なくなり、顕像化した画像が不鮮明になるものもあった。非特許文献1及び特許文献1〜4についても同様に、可視画像が形成された所定領域内に複数の不可視画像が埋め込むことが可能な印刷物ではなかった。つまり、非特許文献1及び特許文献1〜5については、不可視画像を埋め込む領域は、平坦な濃度領域に形成する必要があったために、可視画像を形成することは不可能であった。
【0018】
本発明は、上記事情にかんがみ、特殊な画線の配列を用いることによって、可視画像が形成された領域内に四つの不可視画像を埋め込むことが可能であり、さらに、可視画像内に埋め込まれた不可視画像は、二種類以上の判別具により四つの不可視画像が視認可能であり、不可視画像の視認性は、可視画像の画線に阻害されることなく、鮮明な発現が可能な偽造防止用形成体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、基材に、第1の画線領域と第2の画線領域が第1の間隔で交互に第1の方向に配置され、第3の画線領域と第4の画線領域が第1の間隔で交互に第2の方向に配置され、第5の画線領域と第6の画線領域が第2の間隔で交互に第3の方向に配置され、第7の画線領域と第8の画線領域が第2の間隔で交互に第4の方向に配置され、隣接する前記第1の画線領域と前記第2の画線領域において、前記第1の画線領域内に第1の画線又は前記第2の画線領域内に第2の画線の一方が配置されることで第1の不可視画像が形成され、隣接する前記第3の画線領域と前記第4の画線領域において前記第3の画線領域内に第3の画線又は前記第4の画線領域内に第4の画線の一方が配置されることで第2の不可視画像が形成され、隣接する前記第5の画線領域と前記第6の画線領域において、前記第5の画線領域内に第5の画線又は前記第6の画線領域内に第6の画線の一方が配置されることで第3の不可視画像が形成され、隣接する前記第7の画線領域と前記第8の画線領域において、前記第7の画線領域内に第7の画線又は前記第8の画線領域内に第8の画線の一方が配置されることで第4の不可視画像が形成されることを特徴とする偽造防止用形成体である。
【0020】
本発明は、前記第1の画線と前記第2の画線の面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色であり、前記第3の画線と前記第4の画線の面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色であり、前記第5の画線と前記第6の画線の面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色であり、前記第7の画線と前記第8の画線の面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色であることを特徴とする偽造防止用形成体である。
【0021】
本発明は、前記第1の画線領域、前記第2の画線領域、前記第3の画線領域、前記第4の画線領域、前記第5の画線領域、前記第6の画線領域、前記第7の画線領域及び前記第8の画線領域において、いずれかの領域が交差する領域はいずれの画線も形成しないことを特徴とする偽造防止用形成体である。
【0022】
本発明は、前記第1の画線、前記第2の画線、前記第3の画線、前記第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色であることを特徴とする偽造防止用形成体である。
【0023】
本発明は、前記第1の画線の前記第2の画線の色彩と、前記第3の画線の前記第4の画線の色彩と、前記第5の画線の前記第6の画線の色彩と、前記第7の画線の前記第8の画線の色彩が相互に異なることを特徴とする偽造防止用形成体である。
【0024】
本発明は、前記第1の画線、前記第2の画線、前記第3の画線、前記第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の画線の画線幅と、前記交差する領域の幅が略同一であることを特徴とする偽造防止用形成体である。
【0025】
本発明は、前記第1の方向に対して、第2の方向は90度、第3の方向は45度、第4の方向は135度で形成されることを特徴とする偽造防止用形成体である。
【0026】
本発明は、前記第1の画線、前記第2の画線、前記第3の画線、前記第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の画線の画線は、それぞれ長方形の形状、それぞれ楕円形の形状、それぞれ半円形以下の形状、それぞれ多角形の形状であることを特徴とする偽造防止用形成体である。
【0027】
本発明は、前記第1の画線、前記第2の画線、前記第3の画線、前記第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の画線が、光輝性材料を含むインキで印刷され、前記第1の画線、前記第2の画線、前記第3の画線、前記第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の画線の少なくとも一部の画線上に、無色透明材料を用いてベタ刷りにより所望の模様を形成することを特徴とする偽造防止用形成体である。
【0028】
本発明は、前記第1の画線領域、前記第2の画線領域、前記第3の画線領域、前記第4の画線領域、前記第5の画線領域、前記第6の画線領域、前記第7の画線領域及び前記第8の画線領域が存在しない領域に配置された第9の画線領域を更に有し、前記第9の画線領域に第9の画線が形成されることにより可視画像が形成されることを特徴とする偽造防止用形成体である。
【0029】
本発明は、前記第9の画線が、光輝性材料を含むインキで印刷され、前記第9の画線の少なくとも一部の画線上に、無色透明材料を用いてベタ刷りにより所望の模様を形成することを特徴とする偽造防止用形成体である。
【0030】
本発明は、前記第1の画線、前記第2の画線、前記第3の画線、前記第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の画線は、光輝性材料を含むインキで印刷され、前記第9の画線上に、前記第9の画線と同じ若しくは小さい画線面積から成る任意の有色インキで印刷された第10の画線を更に備え、前記第10の画線によって第2の可視画像が形成されていることを特徴とする偽造防止用形成体である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の印刷物は、可視画像が形成された領域内に四つの不可視画像を埋め込むことが可能である。埋め込まれた四つの不可視画像は、二種類以上の判別具によって四つの不可視画像が視認可能であるため、鑑別者には印刷物の真偽判別の容易性に優れるとともに、偽造者には一つの判別具によって、その判別具に対応した不可視画像が形成されていることがわかったとしても、他の判別具に対応した不可視画像が埋め込まれていることに容易に気づかれることがないため、偽造することが困難である。
【0032】
さらに、本発明の印刷物は、可視画像が形成された領域内に四つの不可視画像が埋め込まれた印刷物であるにもかかわらず、特殊な画線の配列(特に、交差する領域(空間部)を設ける)を用いることによって、判別具を重ねた場合に、不可視画像が可視画像の画線や他の不可視画像の画線よって視認性が阻害されず、鮮明に発現することが可能なため、鑑別者は容易に真偽判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1〜4による印刷物と判別具とを示す斜視図。
【図2】同印刷物を目視により観察した時に視認される模様の一例を示す説明図。
【図3】同印刷物に所定の角度で判別具を重ね合わせた時に視認される模様の一例を示す説明図。
【図4】同印刷物に所定の角度に対して90度を成す角度をもって判別具を重ね合わせた時に視認される模様の一例を示す説明図。
【図5】同印刷物に所定の角度に対して45度を成す角度をもって判別具を重ね合わせた時に視認される模様の一例を示す説明図。
【図6】同印刷物に所定の角度に対して135度を成す角度をもって判別具を重ね合わせた時に視認される模様の一例を示す説明図。
【図7】本発明の実施の形態1〜4すべてに関わる基本的な画線構成を示す図。
【図8】本発明の実施の形態1〜4すべてに関わる印刷物上にレンチキュラーレンズを重ね合わせて目視で観察する様子を示す説明図。
【図9】16種類のunit(a)〜(p)をマトリクス状に規則的に配置するための図形領域を示す説明図。
【図10】実施の形態1における印刷物に印刷された印刷模様3を構成するマトリクス状に配置されるunitを示す模式図。
【図11】図10の模式図に示される画線の配置に基づいて実施の形態1における16種類のunit(a)〜(p)の画線構成を示す説明図。
【図12】実施の形態2における印刷物に印刷された印刷模様3を構成するマトリクス状に配置されるunitを示す模式図。
【図13】光輝性材料から成る画線A、画線B、画線C、画線D、画線A’、画線B’、画線C’、画線D’及び画線Eと、有色インキから成る画線Fが印刷されている状態を示した図。
【図14】印刷物1を拡散光領域と正反射光領域とで観察したときのそれぞれの照明光源10と視点11と印刷物1の三つの位置関係を示す説明図。
【図15】拡散光領域で印刷物1を目視で観察した場合と、正反射光領域で印刷物1を目視で観察した場合とを示す説明図。
【図16】拡散光領域で印刷物1を目視で観察した場合と、正反射光領域で印刷物1を目視で観察した場合とを示す説明図。
【図17】画線の形状の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態1〜4による偽造防止用形成体について、図面を用いて説明する。しかし、本発明は、以下に述べる実施の形態1〜4に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0035】
本発明の実施の形態1〜4による偽造防止用形成体は、図1に示されたように、印刷物1に第1の判別具2aまたは第2の判別具2bを重ね合わせることにより、容易に不可視画像を発現させて真偽性を判別することができるものである。第1の判別具2a及び第2の判別具2bは、透明性を有するフィルタに複数の直線が万線状に一方向に沿って形成された万線フィルタ又はレンチキュラーレンズ等である。印刷物1の印刷模様3を通常の可視条件において目視により観察すると、図2に示されたように、任意の図形及び文字等から成る模様4が視認される。そして、印刷物1上に第1の判別具2aを所定の角度(これを0度とする)をもって重ね合わせると、図3(a)又は図3(b)に示されたような第1の不可視画像5が可視画像となって発現する。また、印刷物1上に第1の判別具2aを所定の角度に対して90度を成す角度をもって重ね合わせると、図4(a)又は図4(b)に示されたような第2の不可視画像6が可視画像となって発現される。さらに、印刷物1上に第2の判別具2bを所定の角度に対して45度を成す角度をもって重ね合わせると、図5(a)又は図5(b)に示されたような第3の不可視画像7が可視画像となって発現する。さらに、印刷物1上に第2の判別具2bを所定の角度に対して135度を成す角度をもって重ね合わせると、図6(a)又は図6(b)に示されたような第4の不可視画像8が可視画像となって発現する。図3(a)又は図3(b)、図4(a)又は図4(b)、図5(a)又は図5(b)、図6(a)又は図6(b)に示されるようにネガポジ状のどちらかに見えるのは、判別具2と印刷物1との間の相対的な位置によって生ずるものであり、本発明の効果の範囲内である。
【0036】
本発明における基本的な画線構成は、図7の印刷模様3に示されるような二種類の間隔の配列から成る微細な画線群である。第1の間隔Saと第2の間隔Sbとはそれぞれ異なる間隔を成すものである。この第1の間隔Sa及び第2の間隔Sb二種類の間隔の配列において、万線フィルタ又はレンチキュラーレンズ等の第1の判別具2aの有効角度は、図3及び図4の説明で示された角度と同様に、線L1の角度を0度、線L2の角度を90度となり、第2の判別具2bの有効角度は、図5及び図6の説明で示された角度と同様に、線L3の角度を45度、線L4の角度を135度となる。線L1と線L2の交差部及び線L3と線L4の交差した部分は空間部9となっている。この空間部(交差する領域)9は印刷される画線が存在しない領域である。空間部(交差する領域)9の幅は、第1の画線、第2の画線、第3の画線、第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の画線の画線幅と、略同一であることが好ましい。空間部9を設けた偽造防止用形成体の効果は、埋め込む画像が二つであっても、三つであってもの数に限定されることなく、効果を得ることができる。
【0037】
また、空間部9は線L1と線L2の交差部及び線L3と線L4の交差した部分に存在するものであり、図7においては、線L1と線L2の交差部分と、線L3と線L4の交差部分とが共有する空間部9となっているが、必ずしも共有しなくともよい。ただし、本発明を有効に作用させるには、可能な限り線L1と線L2の交差部分と、線L3と線L4の交差部分とが共有していることが望ましい。
【0038】
第1の判別具2a及び第2の判別具2bは、透明性を有するフィルタに複数の直線が万線状に一方向に沿って形成されたものであり、図8に示されたように、図7のような構成から成る印刷模様3を、例えばレンチキュラーレンズから成る第1の判別具2a又は第2の判別具2bを印刷物1上の印刷模様3に重ね合わせ、正面から目視で観察することによって、印刷模様3に施されている第1の不可視画像、第2の不可視画像、第3の不可視画像及び第4の不可視画像のいずれかを可視画像として発現させることができる。
【0039】
さらに、本発明は、unitと称する16種類の画線の集合体によって構成されるものである。例えば図9に示されるような図形領域に、可視画像と不可視画像を構成する画線群なら成る16種類のunit(a)〜(p)をマトリクス状に規則的に配置することによって、第1の不可視画像5、第2の不可視画像6、第3の不可視画像7及び第4の不可視画像8が印刷模様3に適用される。このunit(a)〜(p)に含まれる画線要素は、複数の画線A及び画線A’のいずれか又はその複数と、複数の画線B及び画線B’のいずれか又はその複数と、複数の画線C及び画線C’のいずれか又はその複数と、複数の画線D及び画線D’のいずれか又はその複数とによって構成される。
【0040】
(1)実施の形態1
本発明の実施の形態1による偽造防止用形成体について説明する。
図10は、本実施の形態1における印刷物に印刷された印刷模様3を構成するマトリクス状に配置されるunitを示した模式図である。線L1、線L2、線L3、線L4は、判別具であるレンチキュラーレンズの中心線の角度と一致するもので、線L1は0度、線L2は90度、線L3は45度、線L4は135度となっている。また、線L1及び線L2の第1の間隔Saを1としたとき、線L3及び線L4の第2の間隔Sbは√2としている。本実施の形態1では、例えば第1の間隔Saを340μmとしたとき、第2の間隔Sbは481μmとしている。なお、本実施の形態1では、第1の間隔Sa及び第2の間隔Sbを1mm以下の寸法としている。つまり、unitが正方形の形状を有する場合は、一辺の長さが1mm以下の寸法となる。
【0041】
図10で示されたように、画線Aと画線A’とは、線L1の角度である0度の軸もって対向しており、相互にオンオフの関係にある。このオンオフの関係とは、例えば、一方が黒(オン)のときは他方は白(オフ)、一方が有着色のときは他方は無着色であり、基本的には双方ともに黒又は双方ともに白であることがないということである。そして、画線Aと画線A’とは、面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色である。このような画線Aと画線A’とが存在することで通常の可視条件下では視認されない。画線Aのみによる不可視画像(ネガ又はポジ)、画線A’のみによる不可視画像(ポジ又はネガ)がそれぞれ形成される。
【0042】
同様に、画線Bと画線B’とは、線L2の軸もって対向してオンオフの関係にあり、かつ、面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色である。画線Bのみにより第2の不可視画像(ネガ又はポジ)、画線B’のみにより第2の不可視画像(ポジ又はネガ)がそれぞれ形成される。さらに、同様に、画線Cと画線C’とは、線L3の角度の軸もって対向してオンオフの関係にあり、かつ、面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色である。画線Cのみにより第3の不可視画像(ネガ又はポジ)、画線C’のみにより第3の不可視画像(ポジ又はネガ)がそれぞれ形成される。併せて、画線Dと画線D’とは、線L4の角度の軸もって対向してオンオフの関係にあり、かつ、面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色である。画線Dのみにより第4の不可視画像(ネガ又はポジ)、画線D’のみにより第4の不可視画像(ポジ又はネガ)がそれぞれ形成される。
【0043】
さらに、図10で示すように、線L1と線L2の交差部及び線L3と線L4の交差した部分は空間部9となっている。そこに空間部9を備えていることにより、画線A、画線A’、画線B、画線B’、画線C、画線C’、画線D及び画線D’が重なり合うことなく配置されている。
【0044】
次に、図9に示したunit(a)〜(p)における個別の画線構成を説明する。まず、unit(a)にて構成される画線は、画線Aがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線A、画線B’、画線C’及び画線D’がunit(a)における主要画線となっている。次に、unit(b)にて構成される画線は、画線Bがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線B、画線A’、画線C’及び画線D’がunit(b)における主要画線となっている。次に、unit(c)にて構成される画線は、画線Cがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線C、画線A’、画線B’及び画線D’がunit(c)における主要画線となっている。次に、unit(d)にて構成される画線は、画線Dがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線D、画線A’、画線B’及び画線C’がunit(d)における主要画線となっている。次に、unit(e)にて構成される画線は、画線A及び画線Bがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線A、画線B、画線C’及び画線D’がunit(e)における主要画線となっている。次に、unit(f)にて構成される画線は、画線A及び画線Cがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線A、画線C、画線B’及び画線D’がunit(f)における主要画線となっている。次に、unit(g)にて構成される画線は、画線A及び画線Dがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線A、画線D、画線B’及び画線C’がunit(g)における主要画線となっている。次に、unit(h)にて構成される画線は、画線B及び画線Cがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線B、画線C、画線A’及び画線D’がunit(h)における主要画線となっている。次に、unit(i)にて構成される画線は、画線B及び画線Dがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線B、画線D、画線A’及び画線C’がunit(i)における主要画線となっている。次に、unit(j)にて構成される画線は、画線C及び画線Dがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線C、画線D、画線A’及び画線B’がunit(j)における主要画線となっている。次に、unit(k)にて構成される画線は、画線A、画線B及び画線Cがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線A、画線B、画線C及び画線D’がunit(k)における主要画線となっている。次に、unit(l)にて構成される画線は、画線A、画線B及び画線Dがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線A、画線B、画線D及び画線C’がunit(l)における主要画線となっている。次に、unit(m)にて構成される画線は、画線A、画線C及び画線Dがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線A、画線C、画線D及び画線B’がunit(m)における主要画線となっている。次に、unit(n)にて構成される画線は、画線B、画線C及び画線Dがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線B、画線C、画線D及び画線A’がunit(n)における主要画線となっている。次に、unit(o)にて構成される画線は、画線A、画線B、画線C及び画線Dがオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線A、画線B、画線C及び画線Dがunit(o)における主要画線となっている。次に、unit(p)にて構成される画線は、画線A’、画線B’、画線C’及び画線D’がオンであり、その他はオフとしている。すなわち、画線A’、画線B’、画線C’及び画線D’がunit(k)における主要画線となっている。
【0045】
図11は、図10の模式図に示される画線の配置に基づいて本実施の形態1における16種類のunit(a)〜(p)の画線構成を示したものである。これら16種類のunitは、図9に示される画線領域(a)〜(p)に適用される。図11(a)は、本実施の形態1におけるunit(a)を構成するものであり、画線Aと、画線B’と、画線C’と、画線D’とで構成されている。図11(b)は、本実施の形態1におけるunit(b)を構成するものであり、画線Bと、画線A’と、画線C’と、画線D’とで構成されている。図11(c)は、本実施の形態1におけるunit(c)を構成するものであり、画線Cと、画線A’と、画線B’と、画線D’とで構成されている。図11(d)は、本実施の形態1におけるunit(d)を構成するものであり、画線Dと、画線A’と、画線B’と、画線C’とで構成されている。図11(e)は、本実施の形態1におけるunit(e)を構成するものであり、画線Aと、画線Bと、画線C’と、画線D’とで構成されている。図11(f)は、本実施の形態1におけるunit(f)を構成するものであり、画線Aと、画線Cと、画線B’と、画線D’とで構成されている。図11(g)は、本実施の形態1におけるunit(g)を構成するものであり、画線Aと、画線Dと、画線B’と、画線C’とで構成されている。図11(h)は、本実施の形態1におけるunit(h)を構成するものであり、画線Bと、画線Cと、画線A’と、画線D’とで構成されている。図11(i)は、本実施の形態1におけるunit(i)を構成するものであり、画線Bと、画線Dと、画線A’と、画線C’とで構成されている。図11(j)は、本実施の形態1におけるunit(j)を構成するものであり、画線Cと、画線Dと、画線A’と、画線B’とで構成されている。図11(k)は、本実施の形態1におけるunit(k)を構成するものであり、画線Aと、画線Bと、画線Cと、画線D’とで構成されている。図11(l)は、本実施の形態1におけるunit(l)を構成するものであり、画線Aと、画線Bと、画線Dと、画線C’とで構成されている。図11(m)は、本実施の形態1におけるunit(m)を構成するものであり、画線Aと、画線Cと、画線Dと、画線B’とで構成されている。図11(n)は、本実施の形態1におけるunit(n)を構成するものであり、画線Bと、画線Cと、画線Dと、画線A’とで構成されている。図11(o)は、本実施の形態1におけるunit(o)を構成するものであり、画線Aと、画線Bと、画線Cと、画線Dとで構成されている。図11(p)は、本実施の形態1におけるunit(p)を構成するものであり、画線A’と、画線B’と、画線C’と、画線D’とで構成されている。
【0046】
本実施の形態1は、図11に示される画線の配置と構成をもって図9に示される各々の領域に適用されたものである。これによって、図8に示されたように、例えば、レンチキュラーレンズから成る第1の判別具2a又は第2の判別具2bを印刷物1上の印刷模様3に重ね合わせ、正面から目視で観察することによって、図3に示された第1の不可視画像5、又は図4に示された第2の不可視画像6、又は図5に示された第3の不可視画像7、又は図6に示された第4の不可視画像8のそれぞれが可視画像となって発現される。
【0047】
本実施の形態1によれば、印刷物上に二種類の判別具をそれぞれ重ね合わせることによって、画線A及びA’、画線B及びB’、画線C及びC’、画線D及びD’で形成される不可視画像を容易に、かつ、鮮明に発現させることが可能である。また、不可視画像を鮮明に発現させる要素として、図10に示された空間部9を備えている。これにより、判別具を重ねた際、判別具が確実に目的とする画線を捕らえるため、不可視画像が鮮明に発現される。なお、本実施の形態1では、線L1及び線L2の第1の間隔Saを1としたとき、線L3及び線L4の第2の間隔Sbは√2としているので、線L1と線L2の交差部分と、線L3と線L4の交差部分とが共有する空間部9となっている。
【0048】
また、本実施の形態1によれば、図10に示されたような画線Eを用いて、自由度が高く意匠性を有する鮮明な可視画像を、図2の模様4に示されたように、不可視画像の発現時における視認性を阻害することなく形成することができるため、有価証券等の印刷物においても有用である。また、印刷物上に二種類の判別具をそれぞれ重ね合わせることによって、画線A及びA’、画線B及びB’、画線C及びC’、画線D及びD’で形成される不可視画像を容易、かつ、鮮明に発現させることが可能である。さらに、本発明における印刷物を構成する各画線を同一色とした単色印刷のみでも十分な偽造防止効果が得られる上に、製版及び印刷方法等について何ら限定しないため、コストを低減させることができる。
【0049】
(2)実施の形態2
実施の形態1では、線L1と線L2の交差部分と、線L3と線L4の交差部分とが共有する空間部9となっている例で説明したが、本実施の形態2では、線L1と線L2の交差部分と、線L3と線L4の交差部分とが共有していない空間部9を有する例を説明するものである。
【0050】
図12は、本実施の形態2における画線の配置の一例を示した模式図である。本発明の効果を高めるには、線L1と線L2の交差部分と、線L3と線L4の交差部分の位置が等しく、また画線A、画線A’、画線B、画線B’、画線C、画線C’、画線D及び画線D’が重なり合わない配置が望ましいが、必ずしもその条件を満たさなくともよい。すなわち、図12に示されたように、線L1、線L2、線L3及び線L4の全ての交差部分において空間部9が設けられていることにより、画線A、画線A’、画線B、画線B’、画線C、画線C’、画線D及び画線D’の一部が重なり合ったとしても実施の形態1と等しい効果を奏することを可能にしている。
【0051】
また、本実施の形態2によれば、図12に示されたような画線Eを用いて、自由度が高く意匠性を有する鮮明な可視画像を、図2の模様4に示されたように、不可視画像の発現時における視認性を阻害することなく形成することができるため、有価証券等の印刷物においても有用である。また、印刷物上に二種類の判別具をそれぞれ重ね合わせることによって、画線A及びA’、画線B及びB’、画線C及びC’、画線D及びD’で形成される不可視画像を容易、かつ、鮮明に発現させることが可能である。さらに、本発明における印刷物を構成する各画線を同一色とした単色印刷のみでも十分な偽造防止効果が得られる上に、製版及び印刷方法等について何ら限定しないため、コストを低減させることができる。
【0052】
(3)実施の形態3
実施の形態1又は実施の形態2では、レンチキュラーレンズ等の判別具を用いて視認することができる少なくとも一種類以上の不可視画像を設けた偽造防止用形成体を説明したが、実施の形態3よる偽造防止用形成体では、レンチキュラーレンズ等の判別具を用いて視認することができる不可視画像に加え、判別具を用いずとも視認できる不可視画像を施した例について説明する。
【0053】
図13は、本実施の形態3における画線構成を示したものである。基本的な画線構成は、図10に示された画線の配置と同様である。図13に画線A、画線B、画線C、画線D、画線A’、画線B’、画線C’、画線D’及び画線Eは、光輝性材料を含むインキ、例えば金属光沢を有する銀インキ等で印刷された印刷模様3を構成している。そして、印刷模様3における画線E上に、任意の有色、例えば薄紫色インキから成る画線Fを印刷している。この画線Fは、画線Eにて構成される可視画像とは別に、印刷物の観察条件によって現出する画像を構成するものである。本実施の形態3では、画線Fの配置にて「N」の文字を構成している。また、本実施の形態3における画線Eの画線面積は、画線Fと同じ乃至画線Fよりも大きい。なお、本実施の形態3における光輝性材料並びに有色インキは何ら限定するものではい。
【0054】
図14は、本実施の形態3における印刷模様3が印刷された印刷物1において、印刷物1を拡散光領域と正反射光領域とで観察したときのそれぞれの照明光源10と視点11と印刷物1の三つの位置関係を図示したものである。照明光源10と視点11と印刷物1が図14(a)の位置関係にあるとき、拡散光領域で観察したことになり、照明光源10と視点11と印刷物1が図14(b)の位置関係にあるとき、正反射光領域で観察したことになる。
【0055】
図14(a)で示されたように、拡散光領域で印刷物1を目視で観察した場合、図15(a)で示されたように、印刷模様3上に施された薄紫色の画線Fが視認され難くなり、主として銀インキから成る画線D及びEで構成された可視画像1及び2が視認できる状態となる。一方、図14(b)に示されたように、正反射光領域で印刷物1を目視で観察した場合、図15(b)で示されたように、銀インキから成る画線A、画線B、画線C、画線A’、画線B’、画線C’、画線D及び画線Eは、正反射光がもたらす光輝性の作用によって明度が高まり、光輝性の作用を有さない薄紫色インキから成る画線Fのみが強調されて視認される。したがって、画線Fの配置で構成した「N」の文字が観察される。
【0056】
(4)実施の形態4
本実施の形態4は実施の形態3と同様に、レンチキュラーレンズ等の判別具を用いて視認することができる少なくとも一種類以上の不可視画像に加え、判別具を用いずとも視認できる不可視画像を施した例について説明する。
【0057】
本実施の形態3における基本的な画線構成は、図10に示された画線の配置と同様であり、画線A、画線B、画線C、画線D、画線A’、画線B’、画線C’、画線D’及び画線Eは、光輝性材料を含むインキ、例えば金属光沢を有する銀インキ等で印刷された印刷模様3を構成している。そして、印刷模様3上に無色透明材料、例えば透明ニス等から成る模様Gを印刷している。この模様Gは、画線A、画線B、画線C、画線D、画線A’、画線B’、画線C’、画線D’及び画線Eの配置と特別な位置関係は無い。本実施の形態4では、模様Gの配置にて「N」の文字を構成している。模様Gは、文字、数字、図柄、絵柄、ロゴマーク等、特に限定されるものではない。なお、本実施の形態7における光輝性材料及び無色透明材料は何ら限定するものではい。
【0058】
図14は、本実施の形態4における印刷模様3が印刷された印刷物1において、印刷物1を拡散光領域と正反射光領域とで観察したときのそれぞれの照明光源10と視点11と印刷物1の三つの位置関係を図示したものである。照明光源10と視点11と印刷物1が図14(a)の位置関係にあるとき、拡散光領域で観察したことになり、照明光源10と視点11と印刷物1が図14(b)の位置関係にあるとき、正反射光領域で観察したことになる。
【0059】
図14(a)で示されたように、拡散光領域で印刷物1を目視で観察した場合、図16(a)で示されたように、印刷模様3上に施された無色透明材料から成る模様Gは完全に透過しているので、主として銀インキから成る画線D及びEで構成された可視画像1及び2が視認できる状態となる。一方、図14(b)に示されたように、正反射光領域で印刷物1を目視で観察した場合、図16(b)で示されたように、銀インキから成る画線A、画線B、画線C、画線D、画線A’、画線B’、画線C’、画線D’及び画線Eは、正反射光がもたらす光輝性の作用によって明度が高まり、無色透明材料から成る模様Gの部分については、画線A、画線B、画線C、画線D、画線A’、画線B’、画線C’、画線D’及び画線Eの光輝性の作用が抑制される。これにより、模様Gのみが光輝性の違いで強調されて視認される。したがって、模様Gの配置で構成した「N」の文字が観察される。模様Gは、文字、数字、図柄、絵柄、ロゴマーク等、特に限定されるものではない。
【0060】
なお、本実施の形態1の偽造防止用形成体の構成である画線A、画線B、画線C、画線A’、画線B’、画線C’上に無色透明材料、例えば透明ニス等から成る模様を印刷してもよい。
【0061】
実施の形態1乃至4のいずれかにおいて、例えば、0°の方向に沿って配置された画線Aと、画線Aと同一方向に配置された画線A’が一対となって形成された第1の画線要素が一定のピッチで複数配置され、90°の方向に沿って配置された画線Bと、画線Bと同一方向に配置された画線B’が一対となって形成された第2の画線要素が一定のピッチで複数配置され、45°の方向に沿って配置された画線Cと、画線Cと同一方向に配置された画線C’が一対となって形成された第3の画線要素が一定のピッチで複数配置され、135°の方向に沿って配置された画線Dと、画線Dと同一方向に配置された画線D’が一対となって形成された第4の画線要素が一定のピッチで複数配置される。さらに、一対となって形成された画線Aと画線A’の面積が同一であり、一対となって形成された画線Bと画線B’の面積が同一であり、一対となって形成された画線Cと画線C’の面積が同一であり、一対となって形成された画線Dと画線D’の面積が同一の必要がある。なお、一対となって形成された画線同士の面積が同一であれば良く、画線ABCD、画線A’B’ C’D’のそれぞれの画線面積は異なっていてもよい。さらに、ある一つの一対となって形成された画線Aと画線A’と、他の一対となって形成された画線Aと画線A’面積も異なっていてもよい。また、ある一つの一対となって形成された画線Bと画線B’と、他の一対となって形成された画線Bと画線B’面積も異なっていてもよい。同様に、ある一つの一対となって形成された画線Cと画線C’と、他の一対となって形成された画線Cと画線C’面積も異なっていてもよい。また、ある一つの一対となって形成された画線Dと画線D’と、他の一対となって形成された画線Dと画線D’面積も異なっていてもよい。
【0062】
実施の形態1乃至4のいずれかにおいて、画線Aと画線A’からなる各々の第1の画線要素はオンオフの関係によって第1の不可視画像を形成し、画線Aによって第1の不可視画像のポジ画像又はネガ画像の一方が形成され、画線A’によって第1の不可視画像のネガ画像又はポジ画像の他方が形成される。また、画線Bと画線B’からなる各々の第2の画線要素はオンオフの関係によって第2の不可視画像を形成し、画線Bによって第2の不可視画像のポジ画像又はネガ画像の一方が形成され、画線B’によって第2の不可視画像のネガ画像又はポジ画像の他方が形成される。さらに、画線Cと画線C’からなる各々の第3の画線要素はオンオフの関係によって第3の不可視画像を形成し、画線Cによって第3の不可視画像のポジ画像又はネガ画像の一方が形成され、画線C’によって第3の不可視画像のネガ画像又はポジ画像の他方が形成される。またさらに、画線Dと画線D’からなる各々の第4の画線要素はオンオフの関係によって第4の不可視画像を形成し、画線Dによって第4の不可視画像のポジ画像又はネガ画像の一方が形成され、画線D’によって第4の不可視画像のネガ画像又はポジ画像の他方が形成される。第1の不可視画像、第2の不可視画像、第3の不可視画像及び第4の不可視画像は、文字、数字、図柄、絵柄、ロゴマーク等、特に限定されるものではない。
【0063】
実施の形態1乃至4のいずれかにおいて、画線A、画線B、画線C、画線D、画線A’、画線B’、画線C’及び画線D’の形状及び色を同一の構成にすることによって、偽造防止用形成体にレンチキュラーレンズを重ねた場合において、四つの不可視画像が等色で視認される。また、別の形態としては、画線Aと画線A’から成る第1の画線要素と、画線Bと画線B’から成る第2の画線要素と、画線C及び画線C’から成る第3の画線要素の色が互いに異なる構成と、画線D及び画線D’から成る第4の画線要素の色が互いに異なる構成にすることによって、偽造防止用形成体にレンチキュラーレンズを重ねた場合において、四つの不可視画像がそれぞれ異なる色で視認される。この構成では可視画像の色彩と、レンチキュラーレンズを重ねて観察した場合の不可視画像の色彩が異なるため、容易に不可視画像が確認できる効果を有する。
【0064】
実施の形態1乃至4のいずれかにおいて、図17に示すように画線A、画線B、画線C、画線D、画線A’、画線B’、画線C’及び画線D’の画線の形状は、図17(a)に示すようにそれぞれ長方形の形状、図17(b)に示すようにそれぞれ楕円形の形状、図17(c)に示すようにそれぞれ半円形以下の形状、図17(d)に示すようにそれぞれ多角形の形状を有することが好ましい。この形状によって、四つの不可視画像は、レンチキュラーレンズを重ねない段階での四つの不可視画像の不可視性に優れる。また、画線Eの画線の形状は、それぞれ円形の形状、それぞれ楕円形の形状、それぞれ半円形以下の形状、それぞれ多角形の形状を有することが好ましい。この形状によって、四つの不可視画像は、レンチキュラーレンズを重ねた場合において、四つの不可視画像の視認性が向上する。
【0065】
以上の実施の形態から本発明の偽造防止用形成体は、基材に、第1の画線領域と第2の画線領域が第1の間隔で交互に第1の方向に配置され、第3の画線領域と第4の画線領域が第1の間隔で交互に第2の方向に配置され、第5の画線領域と第6の画線領域が第2の間隔で交互に第3の方向に配置され、第7の画線領域と第8の画線領域が第2の間隔で交互に第4の方向に配置され、隣接する第1の画線領域と第2の画線領域において、第1の画線領域内に第1の画線(画線A)又は第2の画線領域内に第2の画線(画線A’)の一方が配置されることで第1の不可視画像が形成され、隣接する第3の画線領域と第4の画線領域において第3の画線領域内に第3の画線(画線B)又は第4の画線領域内に第4の画線(画線B’)の一方が配置されることで第2の不可視画像が形成され、隣接する第5の画線領域と第6の画線領域において、第5の画線領域内に第5の画線(画線C)又は第6の画線領域内に第6の画線(画線C’)の一方が配置されることで第3の不可視画像が形成され、隣接する第7の画線領域と第8の画線領域において、第7の画線領域内に第7の画線(画線D)又は第8の画線領域内に第8の画線(画線D’)の一方が配置されることで第4の不可視画像が形成されることを特徴とする。また、本発明の偽造防止用形成体は上記構成に加えて、第1の画線領域、第2の画線領域、第3の画線領域、第4の画線領域、第5の画線領域、第6の画線領域、第7の画線領域及び第8の画線領域が存在しない領域に配置された第9の画線領域を更に有し、第9の画線領域に第9の画線(画線E)が形成されることにより可視画像が形成される。
【0066】
実施の形態1、2及び4は、可視画像を形成しているが本発明はこれに限定されることなく、可視画像を形成しない形態も実施可能である。この場合は、実施の形態1、2及び4で示した画線Eは形成しないこととなる。
【符号の説明】
【0067】
1 印刷物
2 判別具
2a 判別具
2b 判別具
3 印刷模様
4 模様
5 不可視画像
6 不可視画像
7 不可視画像
8 不可視画像
9 空間部
10 照明光源
11 視点
A 画線
B 画線
C 画線
D 画線
E 画線
F 画線
G 模様
L1 線
L2 線
L3 線
L4 線
S 間隔
Sa 第1の間隔
Sb 第2の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に、第1の画線領域と第2の画線領域が第1の間隔で交互に第1の方向に配置され、第3の画線領域と第4の画線領域が第1の間隔で交互に第2の方向に配置され、第5の画線領域と第6の画線領域が第2の間隔で交互に第3の方向に配置され、第7の画線領域と第8の画線領域が第2の間隔で交互に第4の方向に配置され、
隣接する前記第1の画線領域と前記第2の画線領域において、前記第1の画線領域内に第1の画線又は前記第2の画線領域内に第2の画線の一方が配置されることで第1の不可視画像が形成され、
隣接する前記第3の画線領域と前記第4の画線領域において前記第3の画線領域内に第3の画線又は前記第4の画線領域内に第4の画線の一方が配置されることで第2の不可視画像が形成され、
隣接する前記第5の画線領域と前記第6の画線領域において、前記第5の画線領域内に第5の画線又は前記第6の画線領域内に第6の画線の一方が配置されることで第3の不可視画像が形成され、
隣接する前記第7の画線領域と前記第8の画線領域において、前記第7の画線領域内に第7の画線又は前記第8の画線領域内に第8の画線の一方が配置されることで第4の不可視画像が形成されることを特徴とする偽造防止用形成体。
【請求項2】
前記第1の画線と前記第2の画線の面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色であり、前記第3の画線と前記第4の画線の面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色であり、前記第5の画線と前記第6の画線の面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色であり、前記第7の画線と前記第8の画線の面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色であることを特徴とする請求項1記載の偽造防止用形成体。
【請求項3】
前記第1の画線領域、前記第2の画線領域、前記第3の画線領域、前記第4の画線領域、前記第5の画線領域、前記第6の画線領域、前記第7の画線領域及び前記第8の画線領域において、いずれかの領域が交差する領域はいずれの画線も形成しないことを特徴とする請求項1又は2記載の偽造防止用形成体。
【請求項4】
前記第1の画線、前記第2の画線、前記第3の画線、前記第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の面積が同一又は略同一で、かつ、色彩が等色であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項記載の偽造防止用形成体。
【請求項5】
前記第1の画線の前記第2の画線の色彩と、前記第3の画線の前記第4の画線の色彩と、前記第5の画線の前記第6の画線の色彩と、前記第7の画線の前記第8の画線の色彩が相互に異なることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項記載の偽造防止用形成体。
【請求項6】
前記第1の画線、前記第2の画線、前記第3の画線、前記第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の画線の画線幅と、前記交差する領域の幅が略同一であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の偽造防止用形成体。
【請求項7】
前記第1の方向に対して、第2の方向は90度、第3の方向は45度、第4の方向は135度で形成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の偽造防止用形成体。
【請求項8】
前記第1の画線、前記第2の画線、前記第3の画線、前記第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の画線の画線は、それぞれ長方形の形状、それぞれ楕円形の形状、それぞれ半円形以下の形状、それぞれ多角形の形状であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の偽造防止用形成体。
【請求項9】
前記第1の画線、前記第2の画線、前記第3の画線、前記第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の画線は、光輝性材料を含むインキで印刷され、
前記第1の画線、前記第2の画線、前記第3の画線、前記第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の画線の少なくとも一部の画線上に、無色透明材料を用いてベタ刷りにより所望の模様を形成することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の偽造防止用形成体。
【請求項10】
前記第1の画線領域、前記第2の画線領域、前記第3の画線領域、前記第4の画線領域、前記第5の画線領域、前記第6の画線領域、前記第7の画線領域及び前記第8の画線領域が存在しない領域に配置された第9の画線領域を更に有し、前記第9の画線領域に第9の画線が形成されることにより可視画像が形成されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の偽造防止用形成体。
【請求項11】
前記第9の画線は、光輝性材料を含むインキで印刷され、
前記第9の画線の少なくとも一部の画線上に、無色透明材料を用いてベタ刷りにより所望の模様を形成することを特徴とする請求項10のいずれか一項に記載の偽造防止用形成体。
【請求項12】
前記第1の画線、前記第2の画線、前記第3の画線、前記第4の画線、前記第5の画線、前記第6の画線、前記第7の画線及び前記第8の画線は、光輝性材料を含むインキで印刷され、
前記第9の画線上に、前記第9の画線と同じ若しくは小さい画線面積から成る任意の有色インキで印刷された第10の画線を更に備え、前記第10の画線によって第2の可視画像が形成されていることを特徴とする請求項10のいずれか一項記載の偽造防止用形成体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−253750(P2010−253750A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104842(P2009−104842)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】