説明

偽造防止用紙及びその作製方法

【課題】 基材に他の要素を加えることなく、偽造防止性の高い偽造防止用紙を提供する。
【解決手段】 基材表面の少なくとも一部に、凹部による線状の潜像体を含む偽造防止用紙であって、潜像体は、規則的に配列された複数の凹部連続線から成る背景領域と、背景領域を構成している凹部連続線の一本一本の一部に、所定の方向に沿って規則的に配列された凹部断絶線から成る潜像領域から構成され、凹部連続線と凹部断絶線は、基材と同色又は異色で構成されたことを特徴とする偽造防止用紙である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止用紙に関するものである。特に、銀行券、株券、印紙、証紙等の有価証券、パスポート、免許書及び各種証明書等の偽造防止用紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有価証券、貴重書類等の偽造防止策は、インキに蛍光材料又は光学材料等を含ませた凹版印刷やオフセット印刷等により印刷層を基材に形成すること又はホログラム等の金属箔を基材に貼付することで機能性を付与している。これらの技術は、基材上の一部に積層して形成する。また、用紙内に偽造防止策を付与する技術としては、スレッド、混抄及び多層紙等がある。これらの技術は、用紙上又は用紙内に付与する技術であり、基材に他の要素を加えて成る。
【0003】
一方、基材に他の要素を加えないで、基材のみの変形又は変色等によって偽造防止策となる代表的な技術としては、銀行券に見るようなすかしがある。しかし、基材に他の要素を加えない偽造防止策は、基材に他の要素を加える偽造防止策と比較して、技術の種類やバリエーションは少ないのが現状である。言い換えれば、基材に他の要素を加えない偽造防止策は、製品コストが抑えられ、製造工程も低減できるため、有効な技術ではあるが、構成が単純になりやすいため、極めて高い偽造防止効果を挙げることは難しい。
【0004】
ところで、基材に他の要素を加えないで、かつ、基材の変形で偽造防止策となる技術として、すかし以外に、エンボスにより縦横の万線を基材に形成する方法が開示されている。この方法では、潜像パターンの領域とその周囲部の領域に、万線状の凹凸の方向を変えることで、斜めから観察した場合、潜像パターンが視認できる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
さらに、基材にフィルムを用い、レーザ光により万線状の溝を異なる方向に設け、斜めから観察することで、潜像が視認できる技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、微細な穿孔を基材に複数設けて、反射光では穿孔による情報は視認できないが、透過光で穿孔による情報が視認できるという技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
また、基材に印刷する技術ではあるが、基材に、潜像を施さない領域には連続線、潜像を施す領域には断絶線を印刷し、複写したときに潜像を施した領域の断絶線が再現できなくなるという、複写防止技術が開示されている(例えば、特許文献4及び5参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2002−154262号公報
【特許文献2】特許3514291号公報
【特許文献3】特表2000−501036号公報
【特許文献4】特許3268418号公報
【特許文献5】特許3368327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1及び特許文献2によると、万線状の凹凸又は溝は、潜像領域とその背景領域において、例えば、縦方向と横方向に配列方向を変えて構成しているが、単純な万線で構成しているため、潜像領域と背景領域の境界は潜像化され難く、基材を真上から視認した場合でも潜像が見えてしまうという欠点があった。また、エンボスにより凹凸を形成して潜像を作製する場合は、基材の一方の面は凹部、もう一方の面は凸部となることから、凸部を有する面は盛り上がりが発生してしまうため、手触りにより潜像体の存在が明らかになってしまう。さらには、万線を縦方向と横方向とで構成しているため、偽造が容易にできるという課題があった。
【0010】
また、特許文献1は、基材に、エンボスにより万線状の凹凸を施しているので、エンボス用の版面を作製するための装置とノウハウを要し、さらには、基材にエンボス版面を押圧する装置が必要となることから、設備に多大な費用を要し、また、作製するのに前準備を含めて多くのとき間が掛かる。
【0011】
特に、特許文献2では、基材を紙ではなくフィルムに限定しているが、フィルムは光の反射性が高く、かつ、フィルム表面と万線状の溝との光反射性が異なることから、フィルムの真上から視認した場合でも潜像が視認しやすく、フィルムをはがして再利用する改ざんに対しての効果は高いが、潜像としての効果は弱い。
【0012】
また、特許文献3での構成では、基材を貫通した穿孔で設けているため、潜像体を設けている領域は、用紙の強度が低下してしまう。また、複写及び複製した場合に、穿孔部は、黒く再現されてしまい、さらに、その黒く再現された穿孔部を針等で孔を開ければ、容易に複製できてしまうという課題があった。
【0013】
また、特許文献4及び特許文献5による構成では、潜像を施す領域には、複写機で再現できない程度の微細な断絶線を印刷し、複写後は断絶線が再現できないため、複写効果を有することが発明のポイントとなるが、年々複写機の性能が向上し、微細な点まで再現されるため、複写防止効果は低下するという課題があった。
【0014】
なお、基材のみの偽造防止技術として代表的なのは、銀行券に見るようなすかしである。すかしは、抄紙機により紙料が湿紙状態のときに凹凸の画像を形成する。しかし、微細な凹凸による線や点を形成しようとしても、抄紙機の乾燥部に到達するまでに微細な凹凸は湿紙状態であるため、その形態を留めることは困難であり、すかしでは、微細な凹凸による潜像形成体は形成できない。このため、すかしの画像は、比較的幅の広い線や点で画像を形成している。また、この方法では、同じ図柄を継続的に作製する場合は優れるが、多種少量の製品を作製する場合は、ダンディロール等の図柄を短い周期で交換する必要があるため、作業効率が悪く、製造コストが高いなどの課題があった。
【0015】
本発明は、上記事情にかんがみなされたものであり、基材に他の要素を基材に加えないで、基材のみで得られる偽造防止技術である。本発明の潜像体は、レーザ加工機により加工された線状の凹部から成り、その凹部は、カラーコピー機やスキャナでは再現されないことに着目し、完成された発明である。また、潜像体を真上から視認した場合は、潜像体の潜像体画像は視認できるが、所定の観察角度から視認すると潜像画像のみが視認できる偽造防止用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の請求項1に係る発明は、基材表面の少なくとも一部に、凹部による線状の潜像体を含む偽造防止用紙であって、潜像体は、規則的に配列された複数の凹部連続線から成る背景領域と、背景領域を構成している凹部連続線の一本一本の一部に、所定の方向に沿って規則的に配列された凹部断絶線から成る潜像領域から構成され、凹部連続線と凹部断絶線は、基材と同色又は異色で構成されたことを特徴とする偽造防止用紙である。
【0017】
本発明の請求項2に係る発明は、凹部連像線と凹部断絶線が、所定の領域に対する単位当たりの面積が等しいことを特徴とする偽造防止用紙である。
【0018】
本発明の請求項3に係る発明は、凹部断絶線が、凹部連続線と異なる角度で配列されていることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0019】
本発明の請求項4に係る発明は、凹部断絶線が、凹部連続線と90度異なって配列されていることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0020】
本発明の請求項5に係る発明は、凹部断絶線が、一定の間隔で配列されていることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0021】
本発明の請求項6に係る発明は、凹部断絶線が、凹部連続線と平行に配列されていることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0022】
本発明の請求項7に係る発明は、凹部連続線の線幅が、0.30mm以下であることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0023】
本発明の請求項8に係る発明は、凹部断絶線の短辺が、0.15mm以下であることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0024】
本発明の請求項9に係る発明は、潜像体が、万線、地紋模様、彩紋模様又はレリーフ模様のいずれか一つで視認できることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0025】
本発明の請求項10に係る発明は、基材表面の少なくとも一部に、非貫通の凹部の線状により形成された背景領域と潜像領域から成る潜像体を含んだ偽造防止用紙の作製方法であって、背景領域は、複数の凹部連続線を規則的に配列し、潜像領域は、背景領域を構成している凹部連続線の一本一本の一部に、所定の方向に沿って凹部断絶線を規則的に配列し、背景領域の凹部連続線と潜像領域の凹部断絶線を、基材と同色又は異色により作製することを特徴とする偽造防止用紙の作製方法である。
【発明の効果】
【0026】
(潜像画像の視認)
本発明の潜像体は、潜像体を真上から観察した場合に、潜像体画像は視認できるが、潜像画像は視認できない。一方、所定の観察方向から視認した場合、潜像画像のみが視認できる。また、潜像体の凹部の線幅と、線間隔を所定の長さにした場合は、真上から潜像体を視認した場合、潜像体画像も視認できないか、又は視認し難くなる構成も可能である。この場合は、所定の観察方向から視認した場合、潜像画像が視認できるほか、潜像体画像も視認でき、2種類の潜像画像が視認できる。
【0027】
また、レーザ加工機で潜像体の凹部が焦げ等で着色した場合でも、潜像領域の凹部を微細に、かつ、潜像領域と背景領域との凹部の単位当たりの面積を同等にすることで、潜像体を真上から観察した場合に潜像体画像は視認できるが、潜像画像は視認できない。一方、所定の観察方向から視認した場合、潜像画像が視認できる。したがって、潜像体における凹部の着色の有無にかかわらず、潜像効果が得られるため、基材のレーザ光に対する着色性に限定されない。
【0028】
(基材のみでの潜像効果)
また、本発明の潜像体は、基材をレーザ加工機によって加工して作製しているため、基材に他の要素を加えることなく、基材に対して他の要素を加える技術と比較してコストが低減できる。例えば、基材に他の要素を加える技術として、蛍光材料及び光学材料等を含む印刷インキ、スレッド、ホログラム等を基材に付与する技術は、夫々の材料費が高価な上、要素を付与するための専用の装置が必要となる。しかし、本発明では、材料費が不要であり、レーザ加工機のみで実施できる。また、本発明は、用紙の製造段階で付与するのではなく、用紙が完成した後に付与するため、潜像体となる画像や潜像画像などは自由に設定できる。したがって、大量の用紙に、同じ画像の潜像体を連続し形成することも可能であるし、用紙一枚一枚の潜像体の画像を変えることも可能である。
【0029】
一方、レーザ加工機で本発明の潜像体の凹部を形成しているため、エンボスで作製する場合に対し、基材の一方の面に凸部による盛り上がりは発生しない。したがって、凸部による手触りにより潜像体の存在は確認できず、より隠蔽が可能となる。
【0030】
(複写及び複製防止効果)
さらに、本発明の潜像体は、潜像体の凹部と基材表面との表面形状(又は表面粗さ)は若干異なるが、同色とした場合、人間の視覚には、潜像体の凹部と基材表面との反射光の差をとらえ、真上から観察した場合に潜像体画像を視認できる。一方、複写機やスキャナによって、潜像体の画像を入力しようとしても、人間の視覚ほどの感度や解像度を機械では備えていないため、潜像体の凹部で構成する潜像体画像は入力できない。その結果、潜像画像は言うまでもないが、潜像体の存在そのものを再現することができない。したがって、複写及び複製防止機能としての大きな効果を果たす。
【0031】
一方、レーザ加工機で潜像体の凹部が着色した場合でも、複写機やスキャナでも潜像体の凹部による画像の再現は可能であるが、潜像効果は消失するため、複写及び複製による偽造防止抵抗力は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、本発明における偽造防止用紙の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の概要図である。図2は、本発明の潜像体を構成する線の構成図である。図3は、本発明における第1の実施形態である潜像体の構成図である。図4は、本発明の潜像体を真上から観察した場合の模式図である。図5は、図4の一部拡大図である。図6は、本発明の潜像体のX−X’線断面図と第1の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。図7は、一般的な環境で、第1の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。図8は、本発明の潜像体のY−Y’線断面図と第2の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。図9は、一般的な環境で、第2の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。図10は、本発明における第2の実施形態における潜像体の構成図である。図11は、本発明の潜像体のX−X’線断面図と第1の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。図12は、一般的な環境で、第1の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。図13は、本発明の潜像体のY−Y’線断面図と第2の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。図14は、一般的な環境で、第2の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。
【0033】
(偽造防止用紙の概要)
まず、図1は、本発明の概要図である。本発明の偽造防止用紙1は、商品券であり、基材2には、黄色の上質紙に料額や種別の情報3がオフセット印刷や凹版印刷で印刷されている。また、基材2の任意の領域には、潜像領域と背景領域から成る潜像体40が形成されている。なお、本実施の形態は、商品券で説明しているが、銀行券、パスポート、切手、印紙、証紙等の貴重性や金銭的価値のある物品に適用できる。また、基材2の色は、黄色に限らず制約はない。
【0034】
(潜像体の線構成)
図2は、本発明における潜像体40を構成する1本分の線を示す。例えば、図2(a)に示すように、凹部41Lが基本的な線となり、凹部41Lは非貫通の凹状であり、連続的な直線や曲線で構成することが好ましい。ただし、点線又は破線でも本発明の効果が得られれば構わない。また、潜像体40をある所定の観察方向で視認したときに潜像が視認できるように、凹部41Lの所定領域を潜像領域42とし、線の形状を変化させて凹部42Lを微細な非貫通の凹状として形成し、複数配置する。なお、図示しないが潜像領域42以外は、背景領域41となる。
【0035】
凹部42Lの形状としては、任意の方向に線を断絶している。具体的には、図2(b)と図2(c)は、縦方向に断絶している例であり、図2(d)と図2(e)は、横方向に断絶している例であり、図2(f)は、縦横方向に断絶している例である。詳しくは、図2(b)は、直線の凹部41Lに対して、断絶線の線分である凹部42Lは、90度垂直方向に形成している。図2(c)は、直線の凹部41Lに対して、断絶線の線分である凹部42Lは斜め、方向に形成している。図2(d)は、凹部41Lに対して、断絶の線分である凹部42Lは、同一方向に形成しており、二重線となっている。図2(e)は、図2(d)の変形例であり、三重線となっている。図2(f)は、図2(e)の変形例であり、三重線を更に縦方向にも断絶している。
【0036】
また、本発明の潜像体40は、直線の凹部41Lと、直線の凹部41L及び断絶線の凹部42Lとを、等間隔に複数配置し、潜像領域42において、図2(b)〜図2(f)のような凹部42Lを1種類選択し、潜像領域42を所望の文字、図柄又はマークになるように配置することで、潜像体40を真上から視認したときに、凹部41L及び又は凹部42Lでなる潜像体40の画像は視認できるが、凹部42Lで構成する潜像画像は視認できない。一方、所定の観察方向で視認したときに潜像画像のみが視認できる。なお、図2の矢印は、潜像画像が視認できる方向を示している。また、好ましくは、凹部41Lと凹部42Lの中心を合わせ、同一線上に配列することと、凹部41Lと凹部42Lとの凹部との単位面積当たりの面積が等しくなる構成が好ましい。この理由は、後述する潜像体画像の視認原理で説明する。
【0037】
(第1の潜像体の構成)
次に、図3を用いて、具体的な潜像体40の構成を説明する。図3(a)に示すように、潜像体40は、背景領域41と潜像領域42とで構成され、背景領域41には直線の凹部41Lを複数等間隔で配列し、一方、潜像領域42には、縦方向に断絶した断絶線の凹部42Lが複数等間隔で配列されている。このとき、凹部41Lと凹部42Lはレーザ加工機により非貫通で加工している。なお、本実施の形態では、凹部をレーザ加工機により形成しているが、これに限定されるものではなく、微細な凹部を形成できる方法であれば良い。
【0038】
図3(b)は、図3(a)の潜像体40の一部を拡大した図である。背景領域41の直線の凹部41Lが複数等間隔に配置されている。凹部41Lの線幅W1は、0.05〜0.10mm、好ましくは0.1〜0.30mmであり、凹部41Lの間隔P1は、0.1〜1.0mmであり、一定の間隔(定周期)であることが好ましい。したがって、ここでいう「直線」とは、凹部41Lになる。
【0039】
一方、潜像領域42は、潜像体40を真上から視認したとき、単純な万線として視認できるように、断絶線で形成している。詳しくは、断絶線は、線分となる凹部42Lと基材表面から形成している。このとき、前述の直線と断絶線との中心Sは、同一にすることが好ましく、このため、断絶線の間隔P2と直線の間隔P1は、同一である。また、凹部42Lは、凹部41Lと90度方向を変え、凹部42Lと凹部42Lとの間隔P3は、一定の間隔(定周期)に配置している。なお、凹部42Lは、方形であり、短辺W2、長辺W3及び間隔P3の長さは、凹部41Lの線幅W1によって設定される。
【0040】
背景領域41における凹部41Lと基材表面から成る所定の領域41Eと、潜像領域42内における凹部42Lと基材表面から成る所定の領域42Eとを同一面積とした場合、例えば、領域41Eの面積は、a(凹部41Lの1ピッチ分:P1)×b(凹部42Lの1ピッチ分:P3)とすると、領域41E内における凹部41Lの面積X1は、b×線幅W1、一方、領域42E内における凹部42Lの面積X2は、W2×W3となる。このとき、面積X1(b×W1)=面積X2(W2×W3)とすると、所定の領域内での凹部面積は、等しくなる。
【0041】
なお、潜像体40を所定の観察方向で視認したときに潜像画像が視認できなければ、凹部41Lと凹部42Lとの中心Sが同一でなくても構わず、領域41Eと領域42Eの凹部の面積が異なっても構わない。また、凹部42Lの短辺W2が短すぎると、光を反射する側壁の領域が小さいと潜像画像が視認できなくなるので、0.10〜0.50mmの範囲が好ましい。また、凹部42Lの長辺W3は、潜像体40を真上から視認したときに、万線として視認するためには、凹部41Lの線幅W1に対して、1.1倍〜2.0倍の範囲が好ましい。
【0042】
ここでいう「潜像体画像」とは、背景領域41の凹部41Lと潜像領域42の凹部42Lとの線で構成した全体の画像のことであり、本実施形態では、直線が集合した「万線」として視認できる。なお、このとき、潜像領域42の凹部42Lで形成した潜像画像は、視認できない。一方、潜像画像とは、潜像領域42の凹部42Lの線で構成した画像をいい、本実施形態では、「T」の文字として視認できる。本実施形態では、潜像画像を背景領域で囲む構成としているが、背景領域を潜像画像で囲む構成でも構わない。また、本実施形態では、潜像体を線の集合体である万線で例示しているが、曲線や直線による地紋模様、彩紋模様及びレリーフ模様等の集合模様でも構わない。
【0043】
(潜像体画像の視認原理)
図4は、潜像体40の断面図と真上から観察した場合の模式図であり、図5は、図4の凹部41L又は42Lを拡大した模式図である。なお、ここでいう、潜像体40を真上から視認したときとは、正確には、潜像体40の画像の中心に視点を合わせて上から視認した場合のことである。
【0044】
図5(a)に示すように、基材2の表面は、平滑であるのに対して、凹部41L又は凹部42Lの底部は、レーザ加工で物理的に削除しているために、ミクロ的に見ると凹凸を有する。ただし、どちらも表面は、同色である。このとき、基材表面の反射光は、平滑であるため、略一定の方向に光を反射するが、一方、凹部41L又は凹部42Lの反射光は、凹凸があるため任意の方向へと反射し、観察方向K1(真上)から視認したときには、互いの反射光に差異を生じ濃度差として知感できるため、凹部41L又は凹部42Lが視認できる。この結果、図5(b)に示すように、潜像体40の潜像体画像、正確には万線が視認できる。なお、線幅W1を短くした場合は、四角形とも視認できる。また、潜像体40の画像の視認性は、極めて微弱であり、照明環境や観察角度により見えない場合もあり得る。図5(a)では、基材表面と凹部の形状の差を分かりやすくするため誇張して示しているが、実際は、このような極端な凹凸は認められない。なお、レーザ加工条件によっては、基材表面と凹部表面を同等の形状にすることも可能であり、この結果、基材表面と凹部の反射光を同一とし、潜像体画像が視認できない構成も実現できる。しかし、加工とき間、加工効率及び本発明の効果を考慮すると、必ずしも基材表面と凹部の形状を同等にする必要はない。
【0045】
また、凹部41Lと凹部42Lとの所定の領域に対し、単位あたりの凹部の面積を同一とし場合、凹部面積が同等のため、凹部41Lと凹部42Lとの反射光も略同一となり、同一の色濃度として人の目には捉えられ、分断した凹部があるにもかかわらず、潜像体40を真上から視認した場合には、1本の線として認識できる。なお、凹部41Lと凹部42Lとを着色した場合は、色として認識するため、凹部41Lと凹部42Lとの所定の領域に対し、単位あたりの凹部の面積を同一にすることが好ましいが、凹部41Lと凹部42Lとを着色しない場合は、色ではなく、凹部と基材の反射光の差異で認識するため、必ずしも、凹部41Lと凹部42Lとの所定の領域に対して単位あたりの凹部の面積が同一でなくても構わない。
【0046】
前述した発明の構成及び作用によって、機械的な潜像体40の潜像体画像の取り込みが困難となる。具体的には、複写機及びスキャナで潜像体40の潜像体画像を入力した結果、基材と凹部は同色であることと、基材と凹部との反射光の差が微弱であることから、潜像体画像は取り込めず、潜像体40の潜像体画像は再現できない。特に、凹部41Lの線幅W1を0.1mm以下にし、それに応じて凹部42Lを構成すると、凹部41L及び凹部42Lの反射光が極めて微弱となり、複写及び複製防止効果が高くなる。
【0047】
なお、潜像体40の潜像体画像を、真上から視認できないか、又はより視認し難くする構成は、直線の凹部41の線幅を短く、かつ、広い間隔で配置することで実現できる。具体的には、例えば、凹部41Lの線幅W1を0.10mm以下とし、かつ、凹部41Lの間隔P1を0.50mm以上とし、これに応じて凹部42Lを適宜設計すれば良い。さらに、基材の色には制約はなく、白、原色及び中間色でも構わない。
【0048】
(潜像画像の視認原理)
図6及び図7を用いて、潜像体40を所定の角度で視認した場合の潜像画像の視認原理を説明する。なお、潜像画像の出現原理を簡単に理解できるように、ここでは、まず、図6を用いて一般的な室内照明の他に、光の直進性が高いスポット光Sを用いて説明する。
【0049】
図6(a)は、図3(a)のX−X’線断面図であり、正確には、背景領域41の凹部41Lの凹部に合わせた断面図である。このとき、潜像領域42は断絶線となっているため、凹部42Lと基材表面が交互に同一間隔で複数配列されている。一方、背景領域41は、直線となっているため、凹部41Lは連続的に凹んでいる。
【0050】
図6(b)は、図6(a)の斜視図であり、第1の観察方向から、潜像画像を視認している。潜像体40に対し、蛍光灯など室内照明に加えて、斜め方向からスポット光Sでも照射している。観察位置K2は、スポット光Sと略同じ位置であり、観察位置K3は、観察位置K2と逆方向から視認した模式図である。なお、ここでいう「第1の観察方向」とは、潜像画像が視認できる方向であり、具体的には、図3(a)に示すX−X’方向である。また、第1の観察方向には、観察位置K2と観察位置3があるが、どちらでも潜像画像は視認できる。なお、観察位置K2で視認した場合とは、正確には、X→X’方向から潜像体40の画像の中心を基点とし、基材に対して斜め上方向から、10〜50度で視認した観察位置をいい、観察位置K3で視認した場合とは、正確には、X’→X方向から潜像体40の画像の中心を基点とし、基材に対して斜め上方向から10〜50度で視認した位置をいう。
【0051】
まず、第1の観察方向の観察位置K2の視認状態を説明する。潜像領域42の凹部42Lの側壁42a(図中では凹部42Lの右側部)により、スポット光Sの光が白く反射して視認でき、さらに、凹部42Lの間隔が斜め方向で視認することで圧縮されることから、潜像領域42は、潜像画像として白く視認できる。一方、背景領域41の凹部41Lでは、スポット光Sの光を反射する断続的な凹部が存在しないため、通常の状態、すなわち、基材表面と同じ黄色で視認できる。このため、図6(c)に示すように、潜像領域42は白色、背景領域41は黄色で視認できることから、潜像画像の「T」(ただし、横向き)が視認できる。
【0052】
また、もう一方の観察位置K3の視認状態は、潜像領域42の凹部42Lの側壁42b(図中では凹部42Lの右側部)により、スポット光Sの光は、基材表面で遮られて基材よりも暗く視認でき、さらに、凹部42Lの間隔が斜め方向で視認することで圧縮されることから、潜像領域42は、潜像画像として黒く視認できる。また、背景領域41の凹部41Lでは、前述のとおり、光を反射する断続的な凹部が存在しないため、通常の状態、すなわち、基材表面と同じ黄色で視認できる。このため、図6(d)に示すように、潜像領域42は黒色、背景領域41は黄色と異なる色で視認できることから、潜像画像の「T」(ただし、横向き)が視認できる。したがって、スポット光Sを用いて、観察位置K2では、潜像画像は白い潜像画像、一方、逆方向の観察位置K3では黒い潜像画像として視認できる。
【0053】
(一般的な環境下での潜像の視認)
前述では、スポット光Sを用いて潜像の視認原理を説明したが、一般的な室内照明として考えると、スポット光のような特定の方向に直進する照明を備えているのは、展示場やショールーム等に限られ、一般的ではない。したがって、多くの室内照明は、部屋全体に略均等に光が拡散するような設計となっているのが一般的であるため、このような環境下における潜像体40の潜像画像の視認状態を説明する。なお、観察方向及び観察位置は、前述の図4及び図6と同様なため、説明は省略する。まず、潜像体40を真上(観察方向K1)となる角度から視認した場合、前述の図4及び図5での説明と同様であり、潜像体40の潜像体画像が視認できる。
【0054】
次に、第1の観察方向の観察位置K2及び観察位置K3で視認した模式図が図7(a)である。図6(b)と比較すると、観察位置K2及び観察位置K3ともに凹部42は、白く視認できる。この理由は、潜像体40には、任意の角度から光が照射されるため、基材表面により遮断されて影となり、黒くなる領域がないためである。したがって、一般的な環境では、潜像体40を観察位置のK2及びK3で視認した場合、図7(b)及び図7(c)に示すように、凹部42Lの側壁42a又は側壁42bに光が反射して、潜像画像の「T」(ただし、横向き)が視認できる。なお、背景領域41の視認性は、前述と同様である。本実施形態では、潜像体40の線構成を横方向としたため、潜像画像が横向きに視認できるが、線構成を縦方向にすれば、潜像画像は、縦方向(正対)として視認できるため、観察及び認証する方向によって、適宜、潜像体の線を設計すれば良い。また、本実施形態では、基材を黄色で説明したが、色の制約はなく、どのような色を使用しても潜像画像は白く認識できる。
【0055】
(第2の観察方向での視認状態)
まず、第1の実施形態における第2の観察方向を利用する場合は、真上から潜像体画像が視認できない形態で潜像体40を作製した場合に効果を発揮する。その理由は、第2の観察方向では潜像体画像が圧縮して視認できるため、既に真上から潜像体画像が視認できる形態で、第2の観察角度により視認する必要がない。したがって、第2の観察方向を利用する場合は、真上から潜像体画像が視認できない形態が好ましい。
【0056】
図8及び図9を用いて、第2の観察方向による視認状態を説明する。なお、ここでいう「第2の観察方向」とは、第1の観察方向と90度異なった方向であり、具体的には、図3(a)に示すY−Y’方向である。第2の観察方向は、観察位置K4のようにY→Y’方向及び観察位置K5のようにY’→Y方向の二通りがある。図8(a)は、図3(a)のY−Y’線断面図であり、正確には、潜像領域42の凹部42Lの凹部に合わせた断面図である。このとき、潜像領域42では断絶線となっているため、凹部42Lと基材表面が交互に同一間隔で断続的に複数配列されている。一方、背景領域41は、直線となっているが、直線との直交方向であるため、こちらも、凹部41Lと基材表面が交互に同一間隔に断続的に複数配列している。
【0057】
(潜像画像の視認原理)
図8(b)は、図6(b)と観察位置を除いて同じ観察条件であり、スポット光Sと同一位置の観察位置K4と逆方向の観察位置K5から視認した模式図である。なお、図6(b)と視認原理は、同じであるため、現象面のみ説明する。観察位置K4では、図8(c)に示すように、背景領域41の凹部41Lと潜像領域42の凹部42Lと白く視認できることから、万線が圧縮されて四角形が白く視認できる。一方、観察位置K5では、図8(d)に示すように、背景領域41の凹部41Lと潜像領域42の凹部42Lとが黒く視認できることから、万線が圧縮されて四角形が黒く視認できる。したがって、第2の観察方向では、真上から視認した潜像体画像が圧縮された形で視認できる。
【0058】
(一般的な環境下での潜像の視認)
また、図9(a)は、図7(a)と観察位置を除いては同じ観察条件であり、一般的な観察環境で視認した模式図である。なお、図7(a)と視認原理は同じであるため、現象面のみ説明する。観察位置K4及び観察位置K5では、図9(b)及び図9(c)に示すように、共に万線が圧縮されて四角形が白く視認できる。したがって、第2の観察方向では、潜像体画像が圧縮され白く視認できることになる。このため、第1の実施形態で、かつ、真上から潜像体画像が視認できない潜像体40を作製すると、90度異なる二つの観察方向で、異なる2種類の潜像画像が視認できる。
【0059】
(第2の潜像体の構成)
次に、別の実施形態である第2の潜像体40を図10を用いて説明する。第2の潜像体40は、第1の形態の潜像体40に対して、潜像領域42の線構成と潜像画像の観察方向は異なるが、その他は同様の構成であるため、同じ説明は省略する。
【0060】
図10(a)に示すように、潜像領域42には、図2(d)のような二重線の凹部42Lが配列されている。図10(b)は、図10(a)の潜像体40の一部を拡大した図である。背景領域41には、直線の凹部41Lが複数配置されており、凹部41Lの線幅W1及び間隔P1等の条件は第1の実施形態と同様である。また、潜像領域42は、横方向に分断した二重線であり、線分となる凹部42Lは、凹部41Lと同一方向に平行に配置している。さらに、凹部42Lの線幅W2は、凹部41Lの線幅W1によって設定され、二重線の凹部42Lの線幅W2は、直線である凹部41Lの線幅W1の1/2であることが好ましい。なお、凹部42Lの線幅W2は、三重線であれば1/3、四重線であれば1/4・・・・・n重線であれば1/nと、適宜凹部41Lの線幅W1を、n分割すれば良い。したがって、単位当たりの凹部の面積は、所定の領域内(領域41Eと領域42E)で等しくなる。なお、凹部42Lの線幅W2が短すぎると、光を反射する側壁の面積が小さくなるため、0.10mm以上が好ましい。また、凹部42Lの間隔P3は、特に制約はないが、凹部41Lの線幅W1を超えると、潜像体40を真上から視認したときに、潜像画像が視認しやすくなるため、直線の凹部41Lと二重線の線分である凹部42Lが一部接していることが好ましい。なお、凹部42Lは、線幅W2が短辺となり、線幅W2と直交する方向が長辺となる。
【0061】
(潜像体画像の視認原理)
潜像体40の画像を真上から観察した場合は、第1の形態の潜像体と同様であるため、同じ説明は省略する。
【0062】
(潜像画像の視認原理)
第2の潜像体40における潜像画像の視認原理は、基本的には第1の潜像体40と同様であるが、本実施形態では、潜像領域と背景領域とに設けた凹部の数が異なることで反射する光の反射量に起因し、潜像画像が視認できる。
【0063】
図11(a)は、図10(a)に示す潜像体40のY−Y’線断面図であり、図11(b)は、図6(b)と観察方向は異なるが、同じ条件で第1の観察方向で視認したときの模式図である。背景領域41の直線の凹部41Lに対して、潜像領域42は、二重線の凹部42Lとしているため、凹部の数は、背景領域41に対して潜像領域42が2倍となる。そのため、観察位置K2では、背景領域41の凹部41Lの側壁41aと潜像領域42の凹部42Lの側壁42aとも、スポット光Sの光を反射するが、潜像領域42の方が側壁42aの数が多い分、潜像領域42は、より多くの光を反射する。さらに、斜め方向で視認することで、凹部41L及び凹部42Lの間隔が圧縮されることから、図11(c)に示すように、潜像領域42は、背景領域41よりも明度が高い「T」の潜像画像が白く視認できる。一方、背景領域41は、潜像領域42よりも明度が低いが白く視認できるため、「四角形」の画像が視認できる。
【0064】
一方、観察位置K3では、背景領域41の凹部41Lの側壁41bと潜像領域42の凹部42Lの側壁42bが基材表面により光が遮られ、黒く視認できる。このため、前述のとおり、潜像領域42は、背景領域41より凹部の数が多いことから、潜像領域42は、背景領域41よりも暗く視認できる。この結果、図11(d)に示すように、潜像領域42は、背景領域41よりも明度が低い「T」の潜像画像が視認できる。一方、背景領域41は、潜像領域42よりも明度が高い「四角形」の画像が視認できる。
【0065】
(一般的な環境下での潜像の視認)
第1の実施形態と同様に、第2の潜像体40を一般的な環境で視認した場合は、図12に示すように、潜像体40には光が均一に照射されることから、真上から視認したときは、潜像体40の潜像体画像が視認できる。一方、観察位置K2及び観察位置K3では、図12(b)及び図12(c)に示すように、共に潜像領域42の潜像画像「T」と背景領域41の画像「四角形」が白く視認できる。
【0066】
したがって、第1及び第2の実施形態から、潜像画像が視認できる第1の観察方向とは、潜像領域42の凹部42Lの長辺方向に対し、垂直方向となる。
【0067】
(第2の観察方向での視認状態)
次に、図13及び図14を用いて、第2の観察方向での視認状態を説明する。具体的には、図10(a)に示すX−X’方向であり、図13(a)は、正確には、背景領域41の凹部41Lと潜像領域42の凹部42Lとの凹部に合わせた断面図である。なお、第2の潜像体40の場合、第2の観察方向では画像は視認できない。第2の観察方向については、第1の実施形態と観察方向は異なるが、その他の条件や前提が同じであるため、同じ説明は省略する。
【0068】
図13(a)は、潜像体40を第2の観察方向である観察位置K4及び観察位置K5で視認した模式図である。背景領域41における直線の凹部41L及び潜像領域42の二重線の凹部42Lは、スポット光Gの光を反射、又は遮る断続的な凹部がないため、凹部41L及び凹部42Lは、基材と同じ色で視認できる。その結果、図13(c)及び図13(d)に示すように、第2の観察方向では画像は視認できない。また、一般的な環境下での視認状態を、図14に示すが、同様の理由から、こちらも画像は視認できない。
【0069】
したがって、第1及び第2の実施形態の潜像体40は、潜像体40を真上から視認した場合は、潜像画像は視認できないが、所定の観察方向から視認することによって、潜像画像が視認することができる。ただし、第1の実施形態は、潜像領域42の凹部42Lの反射光のみで潜像画像が視認できるが、第2の実施形態は、背景領域41の凹部41Lと潜像領域42の凹部42Lとの数による反射光の差異が生じ潜像画像が視認できるため、第1の実施形態の潜像体40の方が潜像画像の視認性はより高い。
【0070】
(第1及び第2の実施形態の作用)
ところで、レーザ加工機のレーザ光の照射条件、基材にコート紙やアート紙等の紙表層にコーティングを施している用紙やカード等のプラスチック基材を使用する場合、コーティングしている材料又はプラスチック材料がレーザ光と反応し、レーザー加工機で加工した後の凹部41L及び凹部42Lに焦げが発生し、黒く着色してしまう場合があり、潜像体40の画像は、一見してインキを用い、印刷したようにも視認できる。しかし、本発明の第1及び第2の実施形態では、凹部41Lと凹部42Lとの凹部面積において、単位面積当たりを同一にすること及び凹部41Lと凹部42Lで構成する直線と断絶線の中心を合わせることで、凹部41L及び凹部42Lが着色した場合でも、潜像体40を構成する個々の線は、連続した1本の線としか視認できない。このため、潜像体40の凹部41L及び凹部42Lが着色した場合でも、第1及び第2の実施形態で潜像体40を形成すれば、真上から視認すると、着色した潜像体画像は視認できるが、この状態では潜像画像は視認できない。一方、所定の観察方向で視認した場合は、潜像画像が視認できる。このため、凹部41L及び凹部42Lの着色の有無にかかわらず、本発明の効果は発揮できる。
【0071】
しかし、偽造防止の観点から見れば、凹部41L及び凹部42Lを着色しない場合は、複写機、スキャナ等では潜像体の画像が取り込めず、再現できないことから、より偽造抵抗力を高める場合は、着色しない形態の方が好適である。一方、凹部41L及び凹部42Lを着色する場合は、瞬ときに本物か偽物かを判断する必要がある場所又は環境、例えば、引換所、検閲所、対応窓口又は金券ショップ等では、潜像体の位置が簡単に特定及び検出できないと、潜像画像の有無による真偽判定もできないため、本発明の潜像体40を瞬ときに真偽判定する利用法では、凹部を着色した形態が好適である。
【0072】
また、直線である凹部41Lの線間隔P1及び断絶線である凹部42Lの線間隔P2が狭すぎると凹部が密集し、潜像体40を真上から視認すると潜像体画像が視認しやすくなるが、逆に、線間隔を広すぎると、線と線との間隔が空きすぎ、傾けたときの潜像画像が視認し難くなるため、適切な線間隔P1及びP2に設定する必要がある。
【0073】
また、第1及び第2の実施形態では、潜像体40の潜像領域の凹部42Lを縦方向と横方向で分断した例で示しているが、分断する方向は任意である。なお、本実施形態では、直線で例示しているが、曲線又は波線などでも構わない。ただし、曲線の場合、湾曲が高いと潜像の視認性が低下してしまうので、湾曲を小さく設計する必要がある。
【0074】
また、凹部41Lと凹部42Lの凹部形状は、鋸状、鍵状、台形状、円状等の形状の制限はなく、また、基材に対して凹部の側壁は、45〜90度が好ましい。また、凹部の深さは0.01mm以上、好ましくは、0.02mm以上である。なお、本実施形態では、紙で例示しているが、プラスチック等のカードにも適用可能である。また、本発明はレーザ加工機による製造方法で説明したが、エンボス版面を用意し、印刷機等で押圧する製造方法の場合は、凹部の深さを浅くすることが好ましい。
【0075】
また、第1及び第2の実施形態では、潜像領域42の断絶線に対し、背景領域41の直線により囲む構成としているが、潜像領域42と背景領域41を逆の構成としても良い。また、潜像領域42の断絶線の凹部42Lと潜像領域の直線の凹部41Lは、接しない構成がより好ましい。
【実施例1】
【0076】
基材1に、厚さ0.09mmの白色上質紙を用いて、図3に示す第1の実施形態で潜像体40を作製した。炭酸ガスレーザ加工機を用いて上記基材1に加工を施し、非貫通の凹部41Lと凹部42Lを形成した。レーザ光の照射とき間及び照射出力を調整することで、凹部41Lと凹部42Lの最大深さが約0.05mmになるように設定した。なお、凹部41Lと凹部42Lの最大深さは、0.05mmとしたが、この数字に制約されるものではない。
【0077】
潜像体40の線構成は、表1に示すような、9水準による潜像体40を作製した。また、図4に示すように、潜像体40を真上から視認した場合の潜像体画像の視認性と、図7に示すように、潜像体を斜めから視認した場合の潜像画像の視認性を評価し、表1に記載した。なお、いずれの水準も、潜像体40を真上から視認した場合、潜像画像は視認できない。
【0078】
【表1】

【0079】
その結果、潜像体40を真上から視認した場合の潜像体画像の視認性は、水準1及び水準5〜水準9の6水準は、潜像体画像(万線)は視認できるが、水準2〜水準4の3水準は、潜像体画像(万線)は視認できないか、又は視認し難い。一方、潜像体を所定の観察方向(斜め方向)から視認した場合の潜像画像(T)は、どの水準においても視認できる。したがって、9水準とも、潜像体を真上から視認した場合、潜像画像(T)は視認できないが、所定の観察方向(斜め方向)から視認すると潜像画像(T)が確認できるため、いずれの水準でも本発明の効果を得ることができた。また、特に潜像画像(T)の視認性が高い水準としては、水準1、水準5又は水準8である。
【0080】
また、真上からの潜像体画像(万線)の視認性は、潜像体画像(万線)を視認できる構成と視認できない構成を選択することができる。なお、潜像体画像(万線)を視認できない構成にした場合は、第2の所定の観察方向から潜像体画像(万線が圧縮した四角形)が視認できた。また、本実施例の線間隔、線幅、潜像体画像及び潜像画像の図柄は、一例であり、本発明の効果が得られれば、制約は特段ない。
【実施例2】
【0081】
本実施例の線構成は、図10に示す第2の実施形態と同様であり、表2に示すような9水準による潜像体40を作製し、図4に示すように、潜像体40を真上から視認した場合の潜像体画像の視認性と、図12に示すように、潜像体を所定の観察方向(斜め方向)から視認した場合の潜像画像の視認性を評価した。なお、その他の構成及び作製方法は、実施例1と同様のため、説明を省略する。
【0082】
【表2】

【0083】
その結果、潜像体40を真上から視認した場合の潜像体画像(万線)の視認性は、実施例1と同様である。一方、潜像体を所定の観察方向(斜め方向)から視認した場合の潜像画像(T)は、水準1〜水準4は潜像画像(T)が顕著に現れず、水準5〜水準9の5水準で潜像画像(T)が視認できるため、水準5〜水準9の線構成が好ましい。したがって、実施例2の構成では、潜像体を真上から視認した場合、潜像体画像が視認できず、所定の観察方向(斜め方向)から視認すると潜像画像が視認できるという効果を有する構成は困難であった。ただし、水準5〜水準9において、潜像体を真上から視認した場合には潜像画像(T)は視認できず、所定の観察方向(斜め方向)で視認した場合には、潜像画像(T)は視認でき、本発明の効果を得ることができる。また、特に潜像画像の視認性が高い水準としては、水準5又は水準8である。
【0084】
なお、複写防止効果をカラーコピー機で確認したところ、潜像体画像を再現できない水準は、実施例1及び実施例2で水準1〜水準7である。一方、実施例1及び実施例2の水準8、水準9は、潜像体画像の線を部分的に再現できるが、潜像画像体の万線として再現できず、よって、万線として視認もできない。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の一実施の形態を示す概要図である。
【図2】本発明の潜像体を構成する線の構成図である。
【図3】本発明の第1の潜像体の構成図である。
【図4】本発明の潜像体を真上から観察した場合の模式図である。
【図5】図4の一部拡大図である。
【図6】本発明の潜像体のX−X’線断面図と第1の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。
【図7】一般的な環境下で、第1の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。
【図8】本発明の潜像体のY−Y’線断面図と第2の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。
【図9】一般的な環境下で、第2の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。
【図10】本発明の第2の潜像体の構成図である。
【図11】本発明の潜像体のX−X’線断面図と第1の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。
【図12】一般的な環境下で、第1の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。
【図13】本発明の潜像体のY−Y’線断面図と第2の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。
【図14】一般的な環境下で、第2の観察方向で潜像画像を視認したときの模式図である。
【符号の説明】
【0086】
1 偽造防止用紙
2 基材
3 情報
40 潜像体
41 背景領域
41L 凹部
42 潜像領域
42L 凹部
S スポット光
41E 所定の領域
42E 所定の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面の少なくとも一部に、凹部による線状の潜像体を含む偽造防止用紙であって、
前記潜像体は、規則的に配列された複数の凹部連続線から成る背景領域と、前記背景領域を構成している凹部連続線の一本一本の一部に、所定の方向に沿って規則的に配列された凹部断絶線から成る潜像領域から構成され、
前記凹部連続線と前記凹部断絶線は、前記基材と同色又は異色で構成されたことを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項2】
前記凹部連像線と前記凹部断絶線は、所定の領域に対する単位当たりの面積が等しいことを特徴とする請求項1記載の偽造防止用紙。
【請求項3】
前記凹部断絶線は、前記凹部連続線と異なる角度で配列されていることを特徴とする請求項1又は2記載の偽造防止用紙。
【請求項4】
前記凹部断絶線は、前記凹部連続線と90度異なって配列されていることを特徴とする請求項1〜3記載の偽造防止用紙。
【請求項5】
前記凹部断絶線は、一定の間隔で配列されていることを特徴とする請求項1〜4記載の偽造防止用紙。
【請求項6】
前記凹部断絶線は、前記凹部連続線と平行に配列されていることを特徴とする請求項1又は2記載の偽造防止用紙。
【請求項7】
前記凹部連続線の線幅は、0.30mm以下であることを特徴とする請求項1〜6記載の偽造防止用紙。
【請求項8】
前記凹部断絶線の短辺が、0.15mm以下であることを特徴とする請求項1〜6記載の偽造防止用紙。
【請求項9】
前記潜像体が、万線、地紋模様、彩紋模様及びレリーフ模様のいずれか一つで視認できることを特徴とする請求項1〜8記載の偽造防止用紙。
【請求項10】
基材表面の少なくとも一部に、非貫通の凹部の線状により形成された背景領域と潜像領域から成る潜像体を含んだ偽造防止用紙の作製方法であって、
前記背景領域は、複数の凹部連続線を規則的に配列し、
前記潜像領域は、前記背景領域を構成している凹部連続線の一本一本の一部に、所定の方向に沿って凹部断絶線を規則的に配列し、
前記背景領域の凹部連続線と前記潜像領域の凹部断絶線を、基材と同色又は異色により作製することを特徴とする偽造防止用紙の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−83154(P2009−83154A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252785(P2007−252785)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】