説明

偽造防止用紙

【課題】本発明の目的は、紙に表示材料および/または記録材料を混入した偽造防止用紙の提供であり、さらには、表示材料や記録材料が偽造防止用紙から容易に剥離することがなく、オバートとコバートを効率よく両立した偽造防止用紙を提供する。
【解決手段】表示材料および/または記録材料を透明中空繊維に内包した透明中空繊維ユニットを、紙に混入した偽造防止用紙。また透明中空繊維ユニットの両末端が、熱融着加工または接着加工により封止され、さらに透明中空繊維ユニットの、長さが0.5〜50mm、外径が10〜500μm、かつ内径が5〜490μmの範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示材料および/または記録材料を混入した偽造防止用紙に関する。さらに詳しくは、紙に、表示材料および/または記録材料を内包する透明中空繊維ユニットを、適宜分散配置させた偽造防止用紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に記載されているように、偽造防止技術は二つに大別できる。万人が自らの力ではっきりと対象物の真贋を判定できる「眼に見える、公開された偽造防止対策」(オバート)と、専用機器を用いなければ真贋判定できず、一般にはその内容が知らされていない「眼に見えない、非公開の偽造防止対策」(コバート)である。
【0003】
オバートは、偽造品を第一次的に直接授受する一般の人々が知っておく必要があるものである。したがって、複雑な操作を必要とする道具などを使わずに、人間の持つ五感を使って、直ちに真贋判別できる判定のしやすい技法が好ましい。
紙の分野では、代表的なオバート技術としてすかしが挙げられる。すかしの技術は、紙幣、有価証券、旅券など、広く使われている。その他のオバート技術としては、紙に特殊物質を混入する方法がある。特殊物質として着色繊維や蛍光発光繊維などの表示材料を混入した紙が、有価証券などの用紙に使用されている。また、紙層の中に細い扁平な糸状のスレッドを挿入するセキュリティスレッドも、オバート技術の一つである。
【0004】
一方コバートは、一般には関係者以外には秘密を保ちながら、多くの場合特殊な機器を使用しながら専門家が真贋判定するものである。また、自動販売機、ATMなどの紙幣処理機器など機器による真贋判定技術もコバート技術に含まれる。
紙に関わるコバート技術には、赤外線インキによる印刷などそれ独自の独立した方法もあるが、多くの技法はオバート技術の延長上にある。例えば、紙へ特殊物質を混入する場合には、レアメタルなど一般には検知できない物質を混入する。その他、紙層中に金属繊維、磁性材などを混入し、その分布状態をコンピュータに記録した後、真贋判定においてそれを検知・照合する方法がある。コバートにおいて混入される特殊物質としては、金属繊維、磁性材料などの情報記録材が一般的である。したがって、偽造防止以外にもトレーサビリティなどに用いることができる。
【0005】
近年、コンピュータ、スキャナー、プリンターなどの高性能化や廉価化によって、比較的容易に偽造紙幣などを作ることが可能になり、プロの偽造集団に限らず、素人による偽造が増えている。したがって、一般の人々が(あまり精巧ではないが)偽造紙幣などに接する機会が増えており、紙幣の真贋を彼ら自身が行わなければならなくなってきている。このような現状においては、コバートのような隠れた偽造防止技術以上に、誰にでも見分けられるオバート技術の重要性が増している。
【0006】
偽造防止用紙に何らかの物質を混入する方法では、混入する物質と紙との親和性が重要である。すなわち、混入する物質と紙との親和性が低過ぎると、その物質が紙から剥離(もしくは脱離)してしまう。例えば、特殊物質が金属繊維、磁性材などの場合、紙との親和性が低く、そのままでは紙から分離してしまう。そのため金属繊維などを含む紙層をさらに他の紙層でサンドイッチし多層化するなどの処理を行わなければならず、製造工程が複雑になりコスト高になるという問題があった。
【0007】
また特許文献1では、紙基材に顕色剤を塗工し、高分子物質からなるマイクロチューブに発色剤を内包したものを紙に混入した偽造防止用紙が開示されている。紙が切断された際に、微細なマイクロチューブに内包された発色剤が、顕色剤と反応して色を呈することにより偽造防止の効果を発現する。この発明では、非発色時において、発色剤と顕色剤を分離する目的でマイクロチューブを用いているが、マイクロチューブの材質が紙との親和性が高い高分子物質である場合には、マイクロチューブと紙が分離しないという副次的な効果を発現していると思われる。
【0008】
しかし、特許文献1の発明は、内包した物質が発色物質である染料に限定されること、顕色剤を必要とすること、破壊しなければ真贋判定できないことなどから、その応用範囲は限定されている。また、前記の発明は、技術的思想の点で、後に詳述する本願とは大きく異なる。すなわち、特許文献1の発明は、マイクロチューブを単に染料を顕色剤と反応させないための一時的な壁としているのに対し、本願は透明中空繊維を、様々な表示材料や記録材料を保持する容器として用いている。
【0009】
前記の金属繊維などを含む紙層をサンドイッチした偽造防止用紙や、特許文献1の高分子物質からなるマイクロチューブに発色剤を内包したものを、紙に混入した偽造防止用紙には、金属繊維やマイクロチューブ内部の発色剤は表面から見えないため、オバートの効果はない。磁気センサーで検知したり、切断したときにはじめて発色したりすることから、一種のコバート技術と考えられる。
【0010】
オバートを目的に、金属繊維など紙との親和性が低い材料を用いる場合は、スレッドなどの技術を用いるのが一般的である。一方、例えば、着色繊維や蛍光発光繊維などは、一般に金属繊維や磁性材に比べ紙に混入させやすい。紙表面に表れた着色繊維や蛍光発光繊維などは、直接観察することができるのでオバートとして働く。しかし、着色繊維などでも、紙との親和性が低いものがあり、さらに液体や気体の場合には、紙に直接混入させることはできない。前述のようなマイクロチューブなどに内包した方法はあるが、一般に不透明なマイクロチューブに内包させた時点でオバートの機能を失ってしまう。
【0011】
前述のように、紙に何らかの物質を混入するということにより、オバートとコバートそれぞれの観点から別々に偽造防止対策を施すことができる。しかし、オバートとコバートの機能を同時に両立する偽造防止技術は、これまで確立されていなかった。特にオバートにおいては、混入する物質の制約が厳しいという大きな問題もあった。
【非特許文献1】先端偽造防止技術−事例集−、技術情報協会、p.5−18(2004)
【特許文献1】特開平11−158799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、紙に、表示材料および/または記録材料を混入した偽造防止用紙の提供であって、さらには、表示材料や記録材料が偽造防止用紙から容易に剥離することがなく、オバートとコバートを効率よく両立した偽造防止用紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、紙に表示材料および/または記録材料を混入した偽造防止用紙において、表示材料や記録材料を内包する容器として、紙との親和性が良好な樹脂系の中空繊維を用いることにより、表示材料や記録材料の紙からの剥離の課題を解決するものである。また、中空繊維として透明材料を用いることにより、可視化を可能とし、オバートとコバートの両立という課題を解決するものである。すなわち、本発明は以下の(1)〜(9)の構成を含む。
【0014】
(1)表示材料および/または記録材料を透明中空繊維に内包した透明中空繊維ユニットを、紙に混入したことを特徴とする偽造防止用紙。
(2)前記透明中空繊維ユニットの両末端が、熱融着加工または接着加工により封止されている(1)項に記載の偽造防止用紙。
(3)前記透明中空繊維ユニットの、長さが0.5〜50mm、外径が10〜500μm、かつ内径が5〜490μmの範囲にある(1)項または(2)項に記載の偽造防止用紙。
(4)前記透明中空繊維を形成する材料の無機性値/有機性値(I/O値)が0.2〜5.8の範囲にある(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の偽造防止用紙。
(5)前記透明中空繊維を形成する材料が、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、およびポリオレフィン樹脂から選択される少なくとも1種である(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の偽造防止用紙。
【0015】
(6)前記表示材料および/または記録材料が、磁界または電界の印加により、移動または回転する材料を含む(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載の偽造防止用紙。
(7)前記表示材料および/または記録材料が、紙と識別可能な色調を呈する材料を含む(1)項〜(6)項のいずれか1項に記載の偽造防止用紙。
(8)(1)項〜(7)項のいずれか1項に記載の偽造防止用紙に、さらに他の紙を抄合せたことを特徴とする偽造防止用紙。
(9)(1)項〜(8)項のいずれか1項に記載の偽造防止用紙の表面に、クリヤ塗工層を形成したことを特徴とする偽造防止用紙。
【発明の効果】
【0016】
本発明の偽造防止用紙は、紙に、表示材料および/または記録材料を内包した透明中空繊維ユニットを混入することにより、極めて優れた偽造防止性を備え、さらには、表示材料や記録材料が偽造防止用紙から容易に剥離することなく、オバートとコバートを効率よく両立した偽造防止用紙を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の偽造防止用紙は、表示材料や情報記録材料を、紙と親和性の良好な樹脂系の透明中空繊維に内包させたユニットを、紙に混入させることにより構成される。
本発明の偽造防止用紙の概念図および断面図の各例を、図1、図2に示す。両図に示すように、偽造防止用紙100は、紙全面に、表示材料および/または記録材料を内包した透明中空繊維(以下、単に透明中空繊維ユニットと称する。)110が、均一に分散した状態で形成される。また110aは透明中空繊維ユニットが紙表面に表れており、見ることができる状態であり、110bは紙内部に存在しており、表面からは見えない状態を示している。なお、紙に混入された透明中空繊維ユニット110は一本以上であれば、紙に混入できる限り何本でもよい。
【0018】
図1および図2に示した偽造防止用紙100の全面に均一に分散された透明中空繊維ユニット110の構成と機能について、一例を挙げて説明する。透明中空繊維ユニット110は、透明中空繊維111、表示材料や記録材料(以下、内包物質とする)112からなる。内包物質112として黒色粒子が例示されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、黒色粒子が磁性粉である場合、110aの状態にある透明中空繊維ユニット内部には磁性粉が表示材料として観察されるので、オバート機能を発現する。また、磁石を近づけることにより磁性粉が移動するという独特の効果もある。一方、110bの状態にある透明中空繊維ユニットは紙層内部にあるため、オバート機能はない。しかし、磁性粉を内包しているので、磁気センサーなどに検知される記録材料として働き、コバート機能を発現する。
【0019】
次に本発明の偽造防止用紙の材料について説明する。
まず、透明中空繊維111の材料としては、紙との親和性に優れたものが好ましい。紙の主成分がセルロースであることを鑑みれば、セルロースとの親和性が高い材料を用いることが好ましい。セルロースとの親和性のパラメータとして、相溶性パラメータ、無機性値/有機性値(以下、I/O値とする)などの指標が挙げられる。本発明者らは、鋭意検討の結果、親水性・親油性バランスの尺度である無機性値/有機性値(I/O値)が特定の範囲にある材料を用いることにより、セルロースと十分な親和性を保てることを見出した。
【0020】
本発明において用いるI/O値に関しては、文献(有機概念図、甲田善生著、三共出版(1984))に詳しく述べられている。有機性値(O値)は炭素原子1個の有機性を20と定義するので、分子内に含まれる炭素数を20倍することで算出できる。また、無機性値(I値)は、表1に示す無機性基表から求めることができ、有機性も有する置換基については表1のO値も求め、先に求めたO値に加算する。さらに、得られたI値を、O値で除すことによってI/O値を求めることができる。
【0021】
【表1】

【0022】
一般にI/O値が大きいものほど親水性が高く、小さいものほど親油性が高い。セルロースは、比較的親水性の高い材料の一つであり、そのI/O値は約3.0である。したがって、一般にI/O値が、3.0に近い材料ほどセルロース、すなわち紙との親和性が高い傾向がある。
【0023】
本発明の透明中空繊維用材料としては、I/O値が0.2〜5.8の範囲にある材料を使用することが好ましい。I/O値が0.2未満の場合は親油性が高すぎて、I/O値が5.8を超える場合は、親水性が高すぎて紙との親和性が悪くなることがある。I/O値が0.2未満の樹脂からなる透明中空繊維ユニットでも紙に漉きこむことはできるが、I/O値が0.2以上のものに比べて紙から剥離するおそれがある。
【0024】
さらに、クリヤ塗工や抄合わせの技術を併用することにより、透明中空繊維ユニットの剥離を防止することができる。すなわち、透明中空繊維ユニットが紙の全面に分散した紙の上から、PVA、でんぷんなどでクリヤ塗工を施したり、ラミネート処理したり、透明中空繊維ユニットが紙の全面に分散した紙を中層として上下から薄い紙で抄合わせを行ったりすることにより、I/O値が比較的小さい樹脂からなる透明中空繊維であっても、十分に本発明に用いることができる。
【0025】
また、透明中空繊維111の材料としては、実質的に表示材料等が認識できる程度の透明性があればよい。透明性の観点から選択できる具体的な材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体(ABS系樹脂)、フッ素系樹脂(例えば、4フッ化エチレン樹脂)、シリコーン系樹脂、ナイロン系樹脂、塩化ビニル系樹脂などを挙げることができる。
【0026】
透明中空繊維111の材料の中でも、セルロイドやアセチルセルロースなどは好適に用いられる。これからの材料は、特に紙との親和性が強い。セルロイドやアセチルセルロースなどからなる透明中空繊維ユニットを、本発明の偽造防止用紙から剥離しようとした場合、該透明中空繊維ユニットは紙からうまく剥がれず、むしろユニットそのものが壊れてしまう。したがって、偽造を目的とした透明中空繊維ユニットの再利用が困難である。
【0027】
前記の透明中空繊維ユニットの長さは、0.5〜50mm程度のものが好ましく使用される。0.5mm未満では、オバートとして用いた時に観察しにくいことがある。一方、50mmを超えると、紙に漉き込むのが困難なことがある。また、前記透明中空繊維ユニットの外径は、10〜500μm程度のものが好ましく使用される。10μm未満では、オバートとして用いた時に観察しにくいことがある。一方、500μmを超えると、紙に漉き込むのが困難なことがある。さらに、前記透明中空繊維ユニットの内径は、5〜490μm程度のものが好ましく使用される。5μm未満では、オバートとして用いた時に観察しにくいおそれがある。一方、490μmを超えると、好ましい外径範囲を考えると、中空繊維の肉厚が薄すぎて脆くなり、内包物質が漏れてしまうおそれがある。
【0028】
透明中空繊維に内包する物質112は、固体、液体、気体、またはこれらの混合物でもよい。例えば、図1および図2の磁性粉を内包した透明中空繊維ユニットを例にすれば、磁性粉だけでなく酸化チタンを混ぜてコントラストを上げたり、シリコーンオイルのような液体を併用し、磁性粉の移動をスムースにさせたりすることにより、オバート機能を向上させることができる。
【0029】
透明中空繊維に内包する固体としては、無機系粒子、有機ポリマー粒子、無機・有機複合粒子などが使用されるが、特に、これらに制限されるわけではない。無機系粒子としては、酸化チタン、水酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、炭酸カルシウム、鉛白、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、カドミウムオレンジ、チタンイエロー、紺青、群青、コバルトブルー、コバルトグリーン、コバルトバイオレット、酸化鉄、カーボンブラック、マンガンフェライトブラック、コバルトフェライトブラック、銅粉、アルミニウム粉などが挙げられる。有機ポリマー粒子としては、ウレタン系、ナイロン系、フッ素系、シリコーン系、メラミン系、フェノール系、スチレン系、スチレン−アクリル系、ウレタン−アクリル系などが挙げられる。また、スチレン−アクリル系から成る中空粒子も挙げられる。これらの粒子は顔料や染料により着色されたものであってもよい。
【0030】
透明中空繊維に内包する固体の中でも、特に磁性粉は好適に用いられる。磁性粉は表示材料としてオバート機能を発現し、記録材料としてコバート機能を発現するからである。ここで言う磁性粉とは、磁性体単独、或いは2種以上の磁性体の混合、又は磁性体とポリマーからなる混合物などからなり、例えばマグネタイト、フェライトをはじめとする鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性を示す金属、あるいはこれらの元素を含む合金、または化合物(例えば酸化物など)の微粒子が挙げられる。
【0031】
透明中空繊維に内包する液体としては、種々の液体が使用され、例えば、シリコーン系オイル、脂肪族炭化水素系オイル、芳香族炭化水素系オイル、脂環式炭化水素系オイル、ハロゲン化炭化水素系オイル、各種エステル類、またはその他の種々の油などを単独、または適宜混合したものが使われる。また、これらの液体は着色して用いることもできる。これらの液体の着色には、アゾ系、ビスアゾ系、トリアゾ系、アントラキノン系、トリフェニルメタン系、スチルベン系、フェロシアン化合物、酸化コバルト化合物、フタロシアニン化合物、イソインドリノン化合物、モリブテン化合物などの各顔料や染料などが挙げられる。
また気体としては、空気、窒素などが用いられるが、取り扱いが容易であることなどから、空気が好ましく使用される。
【0032】
次に、本発明の偽造防止用紙100の用紙の原料となるパルプ繊維について説明する。パルプ繊維としては、針葉樹や広葉樹などの木材パルプからなる植物繊維、イネ、エスパルト、バガス、麻、亜麻、ケナフ、カンナビスなどの非木材パルプからなる植物繊維、またはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックから作られた合成繊維などが用いられる。
【0033】
本発明に用いる用紙は、原料である前記のパルプ繊維を水中にて叩解し、漉いて絡ませた後、脱水・乾燥させて作られる。このとき、紙は主成分であるセルロースの水酸基間の水素結合により繊維間強度が得られる。また、紙に用いるてん料としてはクレー、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタンなどがあり、サイズ剤としてはロジン、アルキル・ケテン・ダイマー、無水ステアリン酸、アルケニル無水コハク酸、ワックスなどがあり、紙力増強剤には変性デンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、尿素−ホルムアルデヒド、メラミン−ホルムアルデヒド、ポリエチレンイミンなどがあり、これらの材料をそれぞれ抄紙時に加え、主として長網抄紙機で抄造する。
【0034】
また、植物繊維以外の、例えば合成繊維を混入した紙の場合は、合成繊維間に水素結合などの結合力を持たないため結着剤を必要とすることが多いので、合成繊維比率と結着剤量は、紙の強度を落とさない程度に適宜決めるのが好ましい。
【0035】
次に本発明の偽造防止用紙の製造法について説明する。
透明中空繊維は、例えば、以下のようにして製造できる。略同心円状の二層構造のポリマー繊維を溶融紡糸法などにより製造し、該繊維を延伸して外径10〜500μm程度の繊維を得る。このときに、内層は成形後に水洗や有機溶剤などで溶解する樹脂である。溶解によって内層の樹脂を取り除くことにより、透明中空繊維を得ることができる。あるいは、内層の溶解性樹脂の代わりに予め流体を導入しておけば、後から樹脂を取り除く必要がなくなり、より簡便に透明中空繊維を製造することが可能になる。この際導入する流体としては、空気や窒素ガスのような気体が好ましい。
【0036】
次に、予め内包する物質を用意しておき、内包物質を前記透明中空繊維に含浸する。具体的には、透明中空繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、続いて、内包物質をチャンバー内に導入することにより、該内包物質で中空繊維を充満することができる。
また、図3に示すような押出成型機を用いて、表示材料や記録材料を内包した透明中空繊維ユニットを一時に作製することも可能である。押出成型機は、略同軸のノズル部1およびノズル部2を有する。ノズル部1は、内包物質を押出す部分であり、ノズル部2は、透明中空繊維用材料を押出す部分である。このようなノズルを使用して、加熱しながら同時に押出し、延伸して所定の直径になるように延伸して繊維化する。
【0037】
内包した物質が漏れないように、あるいは異物が混入しないように、繊維末端を封止する必要がある。封止には、接着剤を用いる方法、加熱により透明中空繊維材料を溶解させる方法、レーザー光で透明中空繊維を断裁すると同時に封止も行う方法などがある。接着剤としては、水系接着剤、エマルジョン系接着剤、溶剤系などの一般に公知の接着剤が適宜使用されるが、溶剤系の接着剤が好ましく用いられる。例えば、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、アルキド系、アミド系、アクリル系などの接着剤が使用できる。また、UV硬化樹脂のような特殊な接着剤を用いてもよい。
【0038】
加熱により中空繊維材料を溶解させる方法では、一般にカッターの刃を熱したヒートカッターが用いられる。またレーザー光を用いる方法では、炭酸ガスレーザー(COレーザー)、イットリウム−アルミニウム−ガーネット結晶レーザー(YAGレーザー)、半導体レーザーなどが利用できる。
【0039】
前記透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙の抄紙方法は、通常の植物繊維紙の製造に用いられる方法でよく、原料濃度を0.01〜5%、好ましくは0.02〜2%の水希薄原料で十分に膨潤させた繊維をよく混練し、スダレ・網目状のワイヤーなどに流して並べて搾水後、加温により水分を蒸発させて作られる。抄紙後は必要に応じて、クリヤ塗工、ラミネート処理、抄合せなどの処理を施してもよい。
【0040】
クリヤ塗工や、ラミネート処理の材料としては、透明中空繊維の材料と同様に実質的に表示材料等が認識できる程度の透明性があればよい。透明性の観点から選択できる材料としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体(ABS系樹脂)、フッ素系樹脂(例えば、4フッ化エチレン樹脂)、シリコーン系樹脂、ナイロン系樹脂、塩化ビニル系樹脂などが好ましく用いられる。さらに好ましくは、紙塗工分野で一般的に使用されているポリビニルアルコール(PVA)やでんぷん等が用いられる。
【0041】
クリヤ塗工や、ラミネート処理により形成される塗工層としては、塗工量が1〜20g/mの範囲が好ましい。これらの塗工量が1g/m未満ではクリヤ塗工で保護する効果が十分に得られないことがあり、塗工量が20g/mを超えると透明中空繊維ユニットが見えにくくなり、オバート効果が小さくなることがある。
抄合わせに用いる紙料の坪量としては、5〜15g/mの範囲が好ましい。抄合せ紙料の坪量が5g/m未満ではその効果が十分に得られないことがあり、紙料の坪量が15g/mを超えると透明中空繊維ユニットが見えにくくなり、オバート効果が小さくなることがある。
【0042】
本発明の偽造防止策が施された偽造防止用紙100への印刷は、従来の紙の場合と同じ設備と方法が使用可能である。すなわち、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法などの印刷法で文字や絵柄を印刷することができる。
【0043】
本発明の偽造防止用紙100の断裁加工は、内包物質を混入した透明中空繊維ユニットが漉き込まれているため、断裁前に断裁部分を熱融着加工し、内包物質が外に漏れないように注意する必要がある。
【0044】
本発明の偽造防止用紙100は、表面に表れた透明中空繊維ユニット(110a)に内包された表示材料の存在により、特別な器具を用いなくとも目視により真偽判定するものである。また紙層内部の透明中空繊維ユニット(110b)に内包された記録材料の存在により、専用機器を用いて真贋判定するものである。すなわち、オバートとコバートを両立するものである。なお、ここで言う専用機器とは、磁気センサーや金属センサー、紫外線、赤外線鑑定機など含むが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお実施例中の「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味する。
【0046】
実施例1
<内包物質の作製>
磁性粉(商品名:BL−100、チタン工業製、平均粒径0.4μm)6g、酸化チタン(試薬、アルドリッチ社製)4gを乳鉢で物理的に混合した。シリコーンオイル(商品名:TSF−451−10、GE東芝シリコーン製)50gに上記の混合物、界面活性剤(商品名:TSF4700、GE東芝シリコーン製)0.2gを添加し、超音波分散機で10分間分散した。
【0047】
<透明中空繊維の作製>
溶融押出成型機を用い、ノズルの中心部のガス吐出孔から窒素ガスを流しつつ、該中心部の周りのノズルから、I/O値=0.7のポリエステル樹脂を押し出した。押出機温度は250℃にし、窒素ガスをほぼ大気圧に保った。溶融したポリエステル樹脂の押出し速度は0.15kg/hrであった。押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径100μm、内径70μmの透明中空繊維を得た。
続いて、前記透明中空繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、前記磁性粉と酸化チタンをシリコーンオイルに分散させた液をチャンバー内に導入することにより、該分散液で透明中空繊維を充満した。
【0048】
<透明中空繊維の両末端の封止>
前記分散液を内包する透明中空繊維を、刃を熱したカッターを用いて、カット長が約15mmになるように切断した。切断時に透明中空繊維の切断面部分が溶かされながら潰れることにより端部はシールされ、内部に磁性粉と酸化チタンを有する透明中空繊維ユニットが形成できた。このとき透明中空繊維ユニットを曲げてみたが、透明中空繊維ユニットが壊れることはなく、したがって内部の分散液が漏れるようなことはなかった。
【0049】
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商品名:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料に、前記の磁性粉と酸化チタンを内包した透明中空繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量70g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し、90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが容易には剥離しない偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は135μmであった。
【0050】
<偽造防止の効果>
紙の表面にある透明中空繊維ユニット110aでは、磁石を当てた部分における磁性粉の集合状況を目視により観察して、オバートの効果を確認した。さらに、本偽造防止用紙を300μmのセルギャップのITOガラス電極にサンドイッチし、電圧を印加すると、透明中空繊維ユニット110a中の酸化チタンが、電界の向きに対応して電気泳動する様子も観察され、電圧印加によるオバート効果も確認できた。
一方、紙層内部の透明中空繊維ユニット110bでは、磁気センサー(商品名:ST008型、日本シーディーアール製)のヘッドを本偽造防止用紙表面に当てながら左右にスライドさせた際、ヘッドが紙層内部の透明中空繊維ユニット110bに近づいた時に、磁気センサーが磁性粉に反応してピーという音が発生し、コバートの効果を確認した。
【0051】
実施例2
<内包物質の作製>
下記のようにして、二色に色分けされた粒子を作製した。この二色粒子の半球面の主成分は酸化鉄であり、磁石を近づければ、二色粒子を任意に回転させることができる。
2.9%のアルギン酸ナトリウム(試薬)水溶液100gと、10%の酸化鉄(試薬、0.3μ径)分散液100gを、水1560gに混ぜてこれをA液とした。次に2.9%アルギン酸ナトリウム(試薬)100gと、20%シリカ(商品名:サイロジェット703A、グレースデビソン社製)顔料分散液73gを、水1560gに混ぜてこれをB液とした。
A液体、B液体を各々スプレイ(商品名:アドマイザー7ml、TSUBAKI製)にとり、互いに対向させ噴霧した。噴霧されたミストを3%塩化カルシウム溶液に落下させ、該ミストを粒子状に硬化させた。この時、各々の噴霧されたミストが接触合体したもの、未接触のものが混合されていた。顕微鏡観察により、接触合体した粒子のみとりだし蒸留水で洗浄し、さらにメタノール、酢酸エチルで洗浄した。その後乾燥させ、直径30μmの二色粒子を得た。透明セル中に前記二色粒子を入れ、一方から磁石を近づけると二色粒子が回転した。
【0052】
<透明中空繊維の作製>
ポリエステル樹脂の代わりに、I/O値=1.7のナイロン樹脂を用いた以外は、実施例1と同様に押し出し成型し、押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径120μm、内径80μmの透明中空繊維を得た。
続いて、前記透明中空繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、前記の二色粒子をチャンバー内に導入することにより、透明中空繊維に二色粒子を充填した。
【0053】
<透明中空繊維の両末端の封止>
前記二色粒子を内包する透明中空繊維をカット長が約20mmになるように切断した。切断後の末端にUV硬化型樹脂(商品名:NOA65、NORLAND PRODUCTS製)で接着した後、100Wの水銀ランプにて350nmの波長の光を5分間照射することにより末端を封止した。このとき透明中空繊維ユニットを曲げてみたが、透明中空繊維ユニットが壊れることはなく、したがって内部の二色粒子が漏れるようなことはなかった。
【0054】
<偽造防止用紙の作製>
実施例1と同様の紙料に、前記の二色粒子を内包した透明中空繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量80g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し、90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが容易には剥離しない偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は150μmであった。
【0055】
<偽造防止の効果>
紙の表面にある透明中空繊維ユニット110aでは、磁石を当てた部分における二色粒子が回転状況を目視により観察して、オバートの効果を確認した。さらに、本偽造防止用紙を、セルギャップ300μmのITOガラス電極にサンドイッチし、電圧を印加すると、透明中空繊維ユニット110a中の二色粒子が、電界の向きに対応して回転する様子も観察され、電圧印加によるオバート効果も確認できた。
一方、紙層内部の透明中空繊維ユニット110bでは、磁気センサー(商品名:ST008型、日本シーディーアール製)のヘッドを本偽造防止用紙表面に当てながら左右にスライドさせた際、ヘッドが紙層内部の透明中空繊維ユニット110bに近づいた時に、磁気センサーが二色粒子中の酸化鉄に反応してピーという音が発生し、コバートの効果を確認した。
【0056】
実施例3
<内包物質の作製>
オイルブルーN(アルドリッチ社製)0.5g、スーダンレッド7B(アルドリッチ社製)0.5g、テトラクロロエチレン(アルドリッチ社製)417gおよびアイソパーG(エクソン化学社製)74gを1L(リットル)のフラスコに入れ、60℃に昇温して6時間撹拌した。これを室温まで冷却した。溶解成分であるオイルブルーNやスーダンレッド7Bが青色を表示する表示液が作製できた。
【0057】
<透明中空繊維の作製>
溶融押出成型機を用い、ノズルの中心部のガス吐出孔から前記表示液を流しつつ、該中心部の周りのノズルから、I/O値=0.1のポリ塩化ビニル樹脂を押し出した。押出機温度は150℃にした。溶融したポリプロピレン樹脂の押出し速度は0.20kg/hrであった。押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径90μm、内径60μmの透明中空繊維を得た。透明中空繊維の製造時に同時に表示液を送入することにより、表示材料などを内包した透明中空繊維の簡便な製造が確立できた。
【0058】
<透明中空繊維の両末端の封止>
前記透明中空繊維を、半導体レーザー(商品名:UDL−15V、オリンパスプロマーケティング(株)製)によって、カット長が約10mmになるように切断した。レーザー光はシングルモードで、波長810nmの連続波を30Wの出力で40ms照射した。切断時に透明中空繊維の切断面部分が溶かされながら潰れることにより端部はシールされ、透明中空繊維に青色染料を内包する透明中空繊維ユニットが形成できた。
前記の透明中空繊維ユニットとともに、実施例1の透明中空繊維ユニットを準備した。
【0059】
<偽造防止用紙の作製>
0.8%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:400ccCSF)に紙力増強剤(商品名:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料に、前記の青色染料を内包した透明中空繊維ユニットと実施例1の透明中空繊維ユニットの両方を混入し、ツインワイヤー型抄紙機により速度300m/minで抄造し、坪量60g/mの紙を抄紙した。乾燥工程の後、さらにゲートロールコーターにより、PVA系樹脂(商品名:Px−CVG、ユニチカ社製)5.4%水溶液を塗工し、乾燥してクリア塗工層を形成した。この時の塗工量は両面合計1.0g/mであった。次いで、オンマシンソフトニップカレンダー設備(淀川製鋼所製)で表面温度90℃、線圧50Kg/cmの条件で仕上げた。
透明中空繊維ユニットが紙層の全面に一様に分散し、紙層の表面が透明なPVA塗膜に保護されており、該透明中空繊維ユニットが容易には剥離しない偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は110μmであった。
【0060】
<偽造防止の効果>
紙の表面にある透明中空繊維ユニット110aでは、青色染料を内包した繊維を、透明なPVA塗膜を通して、目視により観察可能なことからオバートの効果を確認した。
一方、紙層内部の透明中空繊維ユニット110bでは、磁気センサー(商品名:ST008型、日本シーディーアール製)のヘッドを本偽造防止用紙表面に当てながら左右にスライドさせた際、ヘッドが紙層内部の磁性粉内包透明中空繊維ユニット110bに近づいた時に、磁気センサーが磁性粉に反応してピーという音が発生し、コバートの効果を確認した。
【0061】
実施例4
<透明中空繊維の作製>
ポリエステル樹脂の代わりに、I/O値=0のポリプロピレン樹脂を用いた以外は、実施例1と同様に押し出し成型し、押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径100μm、内径70μmの透明中空繊維を得た。
続いて、前記透明中空繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、実施例1の磁性粉と酸化チタンをシリコーンオイルに分散させた液をチャンバー内に導入することにより、該分散液で透明中空繊維を充満した。
【0062】
<透明中空繊維の両末端の封止>
実施例1と同様の方法で、前記分散液を内包する透明中空繊維を、刃を熱したカッターを用いて、カット長が約10mmになるように切断した。切断時に透明中空繊維の切断面部分が溶かされながら潰れることにより端部はシールされ、内部に磁性粉と酸化チタンを有する透明中空繊維ユニットが形成できた。このとき透明中空繊維ユニットを曲げてみたが、透明中空繊維ユニットが壊れることはなく、したがって内部の分散液が漏れるようなことはなかった。
【0063】
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商品名:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料に、前記透明中空繊維ユニットを混入した紙料を坪量50g/mの中層として、さらに前記透明中空繊維ユニットを含まない紙料をそれぞれ坪量10g/mの表裏層として、抄合わせ型抄紙機により速度100m/minで抄造し、坪量70g/mの紙を抄紙した。乾燥は抄紙機のシリンダードライヤーを用いて90℃で行った。
透明中空繊維ユニットが紙の中層に一様に分散し、中層の表裏が薄紙層で保護された構成を有し、透明中空繊維ユニットが容易には剥離しない偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は150μmであった。
【0064】
<偽造防止の効果>
中層の紙の表面にある透明中空繊維ユニット110aでは、磁石を当てた部分における磁性粉の集合状況を目視により観察した。抄合わせをした場合でも、抄合わせした紙層の坪量が一定の範囲内であれば、オバートの効果を発現することを確認した。
一方、中層の紙層内部の透明中空繊維ユニット110bでは、磁気センサー(商品名:ST008型、日本シーディーアール製)のヘッドを本偽造防止用紙表面に当てながら左右にスライドさせた際、ヘッドが紙層内部の透明中空繊維ユニット110bに近づいた時に、磁気センサーが磁性粉に反応してピーという音が発生し、コバートの効果を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
偽造防止の決め手は、できるだけ多くの偽造防止対策を組み合わせて採用することにより、偽造犯をあきらめさせることである。本発明は、オバートとコバート両方の観点からも、複数の偽造防止対策を可能にするものであり、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の偽造防止用紙の概念図
【図2】本発明の偽造防止用紙の断面図
【図3】本発明の押出し成型機の概念図
【符号の説明】
【0067】
100:本発明の偽造防止用紙
110:本発明の透明中空繊維ユニット
110a:透明中空繊維ユニットが紙表面に表れている状態
110b:透明中空繊維ユニットが紙層内部にある状態
111:本発明の透明中空繊維
112:本発明の内包物質の一例




【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示材料および/または記録材料を透明中空繊維に内包した透明中空繊維ユニットを、紙に混入したことを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項2】
前記透明中空繊維ユニットの両末端が、熱融着加工または接着加工により封止されている請求項1に記載の偽造防止用紙。
【請求項3】
前記透明中空繊維ユニットの、長さが0.5〜50mm、外径が10〜500μm、かつ内径が5〜490μmの範囲にある請求項1または2に記載の偽造防止用紙。
【請求項4】
前記透明中空繊維を形成する材料の無機性値/有機性値(I/O値)が0.2〜5.8の範囲にある請求項1〜3のいずれかに記載の偽造防止用紙。
【請求項5】
前記透明中空繊維を形成する材料が、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、およびポリオレフィン樹脂から選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の偽造防止用紙。
【請求項6】
前記表示材料および/または記録材料が、磁界または電界の印加により、移動または回転する材料を含む請求項1〜5のいずれかに記載の偽造防止用紙。
【請求項7】
前記表示材料および/または記録材料が、紙と識別可能な色調を呈する材料を含む請求項1〜6のいずれかに記載の偽造防止用紙。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の偽造防止用紙に、さらに他の紙を抄合せたことを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の偽造防止用紙の表面に、クリヤ塗工層を形成したことを特徴とする偽造防止用紙。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−169842(P2007−169842A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370641(P2005−370641)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】