説明

偽造防止用紙

【課題】磁性材料からなるフィラメントを内包した透明中空繊維ユニットを、紙に混入した偽造防止用紙であり、長期的な視認性の維持や磁石への応答性に優れた偽造防止用紙を提供する。
【解決手段】紙に、比透磁率が10〜10の範囲にある磁性材料からなるフィラメントを内包した透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙において、磁性フィラメントの大きさや、形状や、磁気的性質を適正化することにより、視認性と磁石への応答性を両立させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体からなるフィラメントが内包された透明中空繊維ユニットを紙に混入した偽造防止用紙に関する。特に、前記透明中空繊維ユニットをパルプ繊維と分散して、抄紙した紙の全面に分散して形成された偽造防止用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
有価証券などの偽造は大きな社会問題となっており、紙幣、商品券、小切手、株券、パスポート、身分証明書、カードなどは不正に変造、偽造できないように、各種の偽造防止対策が施されている。偽造防止対策は、非特許文献1記載のように、二つに大別できる。万人が自らの力ではっきりと対象物の真贋を判定できる「眼に見える、公開された偽造防止対策」(オバート)と、専用の機器を用いなければ真贋判定できず、一般にはその内容が知らされていない「眼に見えない、非公開の偽造防止対策」(コバート)である。
【0003】
オバートは、偽造品を第一次的に直接授受する一般の人々が知っておく必要があるものである。したがって、複雑な操作を必要とする道具などを使わずに、人間の持つ五感を使って、直ちに真贋判別できる判定のしやすい技法が好ましい。
紙の分野では、代表的なオバート技術としてすかしが挙げられる。すかしの技術は、紙幣、有価証券、旅券など、広く使われている。その他のオバート技術としては、紙へ特殊物質を混入する方法がある。特殊物質として着色繊維や蛍光発光繊維などの表示材料を混入した紙が、有価証券などの用紙に使用されている。
【0004】
一方コバートは、一般には関係者以外には秘密を保ちながら、多くの場合特殊な機器を使用しながら専門家が真贋判定するものである。また、自動販売機、ATMなどの紙幣処理機器など機器による真贋判定技術もコバート技術に含まれる。
紙に関わるコバート技術には、赤外線インキによる印刷などそれ独自の独立した方法もあるが、多くの技法はオバート技術の延長上にある。例えば、紙へ特殊物質を混入する場合には、レアメタルなど一般には検知できない物質を混入する。その他、紙層中に金属繊維、磁性材などを混入し、その分布状態をコンピュータに記録した後、真贋判定においてそれを検知・照合する方法がある。コバートにおいて混入される特殊物質としては、金属繊維、磁性材料などの情報記録材が一般的である。したがって、トレーサビリティなどにも用いることができる。
【0005】
近年、コンピュータ、スキャナー、プリンターなどの高性能化や廉価化によって、比較的容易に偽造紙幣などを作ることが可能になり、プロの偽造集団ではない素人による偽造が増えている。したがって、一般の人々が(あまり精巧ではないが)偽造紙幣などに接する機会が増えており、紙幣の真贋を彼ら自身が行わなければならなくなってきている。このような現状においては、コバートのような隠れた偽造防止技術以上に、誰にでも見分けられるオバート技術の重要性が増している。
【0006】
紙またはフィルム状の媒体の偽造防止を行う目的で、何らかの表示材料および/または記録材料を内包した透明中空繊維ユニット(以下、透明中空繊維ユニットとする)を混入した、特許文献1のような偽造防止用紙が提案されている。
特許文献1における、偽造防止用紙の形態を、図3に示す。透明中空繊維ユニット310は、表示材料や記録材料(以下、内包物質とする)311、透明中空繊維312からなる。図3では、内包物質311として黒色粒子が例示されている。例えば、黒色粒子が磁性粉である場合、310aの状態にある透明中空繊維ユニット内部には磁性粉が表示材料として観察されるので、オバート機能を発現する。また、磁石を近づけることにより磁性粉が移動するという独特の効果もある。
一方、310bの状態にある透明中空繊維ユニットは紙層内部にあるため(図4の断面図参照)、オバート機能はない。しかし、磁性粉を内包しているので、磁気センサーなどに検知される記録材料として働き、コバート機能を発現する。また、紙層内部のオバート機能、つまり視認性を向上させるために、特許文献2では、透明中空繊維中に蛍光染料などを内包させる技術が開示されている。
【0007】
また、スレッド入り紙と呼ばれる偽造防止用紙もオバートの一種であり、各国の紙幣などで多く使用されている。紙層中に抄き込むスレッドの形態は、一般に10〜100μm程度の厚みで、0.2〜30mmの巾の糸状あるいはテープ状のものであり、例えば、金糸、銀糸、プラスチックフィルム、金属蒸着フィルム等が使用される。
【0008】
スレッド入り紙には大きく分けて2種類がある。スレッドが紙層内に埋没されていて用紙表面に露出しない種類のものであり、もう一つは、スレッドの一部が用紙表面に露出した窓開きスレッド入り紙である。後者は、用紙の流れ方向に間欠的に厚みを薄くした窓開き部を形成し、この窓開き部でスレッドが露出していることが特徴である。したがって、一般には窓開きタイプの方が、オバート効果は高い。また、このようなスレッド入り紙の偽造防止効果をより一層高めるために、窓開きスレッド入り紙の窓開き部内にすき入れを施したり(特許文献3参照)、スレッド表面に金属蒸着層からなるマイクロ文字やマイクロ画像を形成したりすることも行われている。
【0009】
上記の従来のスレッド入り紙は、スレッドを抄き込む技術、間欠的に窓開き部にスレッドを露出させる技術、窓開き部にすき入れを施す技術、スレッドにマイクロ文字やマイクロ画像を形成する技術などの高度の技術を要するため、偽造防止手段として好ましく採用されている。
しかし、スレッドを抄き込んだ従来の偽造防止用紙における偽造防止効果をさらに高めるために、前記の透明中空繊維技術との融合も提案されている。特許文献4記載の偽造防止用紙では、短繊維として紙に透きこんでいた透明中空繊維を、スレッドとして挿入している。スレッドとして透明中空繊維ユニットを含む偽造防止用紙は、透明中空繊維の製造、透明中空繊維への表示材料や記録材料の内包、スレッド化など、偽造が困難な要素をいくつも含んでいる点で、高度な偽造防止手段として好ましい。
【0010】
【非特許文献1】先端偽造防止技術―事例集―、技術情報協会、p.5−18(2004)
【特許文献1】特願2005−370641号公報
【特許文献2】特願2006−204264号公報
【特許文献3】特開平9−316796号公報
【特許文献4】特願2006−297569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の表示材料や記録材料を内包した透明中空繊維ユニットを混入した、偽造防止用紙やスレッド入り紙製造には、高度の技術を要するため、偽造防止手段として好ましく用いられる。
【0012】
しかしこれらの偽造防止手段も、長期的な安定性と観点からは技術的課題を残している。すなわち、内包物に液体を併用する場合には、透明中空繊維からの内液が漏れたり、内液が蒸発したりする。また、液体中に微粒子が分散しているような系では、微粒子が凝集したり沈降したりする。さらに、微粒子は点として動くため、視認しにくい場合もあった。以上のような経時的な内液の減少、微粒子の凝集や沈降、微粒子故の視認のしにくさは、すべて視認性の低下に繋がる要素である。本発明は、視認性を長期的に維持可能な偽造防止用紙を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、磁性体からなるフィラメントが内包された透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙という、新規な偽造防止手段を提供するものである。本発明では、内液を必要とせず、凝集の恐れもなく、点ではなく線で移動する視認性に優れたフィラメントを用いる。すなわち、本発明は以下の(1)〜(6)の構成を含む。
【0014】
(1)磁性体からなるフィラメントを内包する透明中空繊維の少なくとも一本を、紙に混入したことを特徴とする偽造防止用紙。
(2)前記透明中空繊維をスレッドとして紙に挿入したことを特徴とする偽造防止用紙。
(3)前記フィラメントの径が、10μmから300μmの範囲にある(1)または(2)に記載の偽造防止用紙。
(4)前記フィラメントの長さが、1mmから30mmの範囲にある(1)〜(3)のいずれかに記載の偽造防止用紙。
(5)前記フィラメントの比透磁率が、10〜10の範囲にある(1)〜(4)のいずれかに記載の偽造防止用紙。
(6)前記フィラメントが、撚線からなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の偽造防止用紙。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る偽造防止用紙によれば、内包物に液体を併用する必要がないので、長期の視認性の維持が可能である。また、フィラメントは、粒子と異なり、点ではなく線として動くので、視認性向上の効果も高い。よって、一層高度で確実な偽造防止手段を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の偽造防止用紙の一例の概念図を図1に、断面図を図2に示す。図1および図2に示すように、偽造防止用紙100は、磁性体からなるフィラメントを内包した透明中空繊維ユニット110が紙に混入された状態で形成される。
【0017】
透明中空繊維ユニット110は、磁性体からなるフィラメント111と透明中空繊維112からなる。図1および図2では、これに限定されるものではないが、磁性体からなるフィラメント111として黒色に着色されたフィラメントが例示されている。フィラメントは黒色であることから、紙の中では、透明中空繊維ユニット内部の表示材料として観察されるので、オバート機能を発現する。また、磁石を近づけることにより黒色のフィラメントが移動するという独特の効果もある。さらに、フィラメントは磁性体であることから、磁気センサーなどに検知される記録材料として働き、コバート機能を発現する。
【0018】
次に本発明の偽造防止用紙の材料について説明する。
磁性体からなるフィラメント111の材料としては、比透磁率が10〜10の範囲にあるものを用いることができる。
ここで透磁率(μ)とは、磁界(B)と磁束密度(H)の関係をB=μHで表したときの比例定数μであり、真空の透磁率μ0とのμ/μ0の比を比透磁率(μs)と言う。一般に磁石に対する応答性の高い材料ほど、はじめ(低磁束密度)の比透磁率は小さいものの、磁束密度が上がるのに従い急激に比透磁率が大きくなる傾向がある。本発明においては、実用的に磁石に応答できるような磁性材料を選別するための指標として比透磁率を用いた。
その結果、比透磁率が10〜10の範囲にある材料を好適に用いることができることがわかった。比透磁率が10未満では、磁石に対する応答性が弱いため、表示材料たるフィラメントが十分に移動しない。一方、一般に比透磁率が大きいほど加工時の変形などによる磁気特性の変動が大きい。したがって、機器検知による真贋判定まで考慮した場合には、10を越える比透磁率の材料は、磁性の変動が大き過ぎて好ましくない。比透磁率が10〜10の範囲にある材料として、JIS規格におけるSUSなどのステンレス鋼を用いることができるが、これらに限定されるものではない。その他に、例えばマグネタイト、フェライトをはじめとする鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性を示す金属、あるいはこれらの元素を含む合金、または化合物(例えば酸化物など)の中から、材料を適宜選定することができる。
【0019】
前記磁性体からなるフィラメント材料は、外径として10μmから300μm程度のものが使用でき、好ましくは30μmから300μmである。10μm未満では、オバートとして用いた時に人間の目に観察されないおそれがある。一方、300μmを超えると、中空繊維の中での移動がスムースでなくなり、磁石を近づけても動かなくなる可能性がある。
【0020】
前記磁性体からなるフィラメントの長さは、1mmから30mmの範囲にあるものを好適に用いることができる。フィラメントの長さが1mmより短いと、特にフィラメントの径が小さい場合において、視認しにくくなる。一方、フィラメントの長さが30mmを越えると、特に透明中空繊維が曲がっている場合に、透明中空繊維中をフィラメントがスムースに移動できなくなることがある。
【0021】
また、前記フィラメントは、単一線からなるモノフィラメントでも、複数の線を撚ったマルチフィラメント状の撚線でもよい。また、いずれの場合も樹脂などでコーティングしてから用いてもよい。特に撚線の場合は、フィラメントの内部に樹脂を内包できることから複合化が容易であり、その結果として着色したり比重を調整したりする上で有利である。また、樹脂を介して着色材料や蛍光材料を含有されることにより視認性を向上させることができる。
【0022】
また、透明中空繊維には、磁性体からなるフィラメントだけでなく、コントラストを上げたり他の色を表示したりするために、無機系粒子、有機ポリマー粒子、無機・有機複合粒子などを内包させてもよい。例えば、これらに制限されるわけではないが、無機系粒子としては、酸化チタン、水酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、炭酸カルシウム、鉛白、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、カドミウムオレンジ、チタンイエロー、紺青、群青、コバルトブルー、コバルトグリーン、コバルトバイオレット、酸化鉄、カーボンブラック、マンガンフェライトブラック、コバルトフェライトブラック、銅粉、アルミニウム粉などが挙げられる。有機ポリマー粒子としては、ウレタン系、ナイロン系、フッ素系、シリコーン系、メラミン系、フェノール系、スチレン系、スチレン−アクリル系、ウレタン−アクリル系などが挙げられる。また、スチレン−アクリル系から成る中空粒子も挙げられる。これらの粒子は顔料や染料により着色されたものであってもよい。特に、蛍光染料を添加することなどにより、オバート機能を向上させることができる。
【0023】
透明中空繊維112の材料としては、実質的に表示材料等が認識できる程度の透明性があればよい。透明性の観点から選択できる具体的な材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体(ABS系樹脂)、フッ素系樹脂(例えば、4フッ化エチレン樹脂)、シリコーン系樹脂、ナイロン系樹脂、塩化ビニル系樹脂などを挙げることができる。
【0024】
透明中空繊維112の材料の中でも、セルロイドやアセチルセルロースなどは好適に用いられる。これからの材料は、特に紙との親和性が強い。セルロイドやアセチルセルロースなどからなる透明中空繊維ユニットを、本発明の偽造防止用紙から剥離しようとした場合、該透明中空繊維ユニットは紙からうまく剥がれず、むしろユニットそのものが壊れてしまう。したがって、偽造を目的とした透明中空繊維ユニットの再利用が困難である。
【0025】
透明中空繊維112は内径として40μmから490μm程度、外径として50μmから500μm程度のものが使用できる。内径40μm未満では、フィラメントを送入するのが困難になる。一方、外径500μmを超えると、一般的な紙の厚みに比べ厚過ぎるようになり、外観上好ましくないだけでなく、紙から剥離しやすくなる。また、中空繊維の肉厚が薄すぎる脆くなくなる。材料にもよるが一般に10μm以上の肉厚が好ましい。
【0026】
次に、本発明の偽造防止用紙100の用紙の原料となるパルプ繊維について説明する。パルプ繊維としては、針葉樹や広葉樹などの木材パルプからなる植物繊維、イネ、エスパルト、バガス、麻、亜麻、ケナフ、カンナビスなどの非木材パルプからなる植物繊維、またはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックから作られた合成繊維などが用いられる。
【0027】
本発明に用いる用紙は、原料である前記のパルプ繊維を水中にて叩解し、抄いて絡ませた後、脱水・乾燥させて作られる。このとき、紙は主成分であるセルロースの水酸基間の水素結合により繊維間強度が得られる。また、紙に用いるてん料としてはクレー、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタンなどがあり、サイズ剤としてはロジン、アルキル・ケテン・ダイマー、無水ステアリン酸、アルケニル無水コハク酸、ワックスなどがあり、紙力増強剤には変性デンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、尿素−ホルムアルデヒド、メラミン−ホルムアルデヒド、ポリエチレンイミンなどがあり、これらの材料をそれぞれ抄紙時に加え、長網抄紙機、円網抄紙機などで抄造する。
【0028】
また、植物繊維以外の例えば合成繊維を混入した紙の場合は、合成繊維間に水素結合などの結合力を持たないため結着剤を必要とすることが多いので、合成繊維の配合比率と結着剤量は、紙の強度を落とさない程度に適宜決めるのが好ましい。
【0029】
次に本発明の偽造防止用紙の製造法について説明する。
透明中空繊維は、例えば、以下のようにして製造できる。略同心円状の二層構造のポリマー繊維を溶融紡糸法などにより製造し、該繊維を延伸して外径50〜500μm程度の繊維を得る。このときに、内層は成形後に水洗や有機溶剤などで溶解する樹脂である。溶解によって内層の樹脂を取り除くことにより、透明中空繊維を得ることができる。あるいは、内層の溶解性樹脂の代わりに予め流体を導入しておけば、後から樹脂を取り除く必要がなくなり、より簡便に透明中空繊維を製造することが可能になる。この際導入する流体としては、空気や窒素ガスのような気体が好ましい。
【0030】
次に、予め内包するフィラメントを用意しておき、前記透明中空繊維に送入する。具体的には、透明中空繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、続いて、フィラメントをチャンバー内に導入することにより、該フィラメントを中空繊維内に送入することができる。
【0031】
内包したフィラメントが外部に出ないように、あるいは内部に異物が混入しないように、透明中空繊維末端を必要に応じて封止してもよい。封止には、接着剤を用いる方法、加熱により透明中空繊維材料を溶解させる方法、レーザー光で透明中空繊維を断裁すると同時に封止も行う方法などがある。接着剤としては、水系接着剤、エマルジョン系接着剤、溶剤系などの一般に公知の接着剤が適宜使用されるが、溶剤系の接着剤が好ましく用いられる。例えば、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、アルキド系、アミド系、アクリル系などの接着剤が使用できる。また、UV硬化樹脂のような特殊な接着剤を用いてもよい。
【0032】
加熱により中空繊維材料を溶解させる方法では、一般にカッターの刃を熱したヒートカッターが用いられる。またレーザー光を用いる方法では、炭酸ガスレーザー(COレーザー)、イットリウム−アルミニウム−ガーネット結晶レーザー(YAGレーザー)、半導体レーザーなどが利用できる。
【0033】
前記透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙の抄紙方法は、通常の植物繊維紙の製造に用いられる方法でよく、原料濃度を0.01〜5%、好ましくは0.02〜2%の水希釈原料で十分に膨潤させた繊維をよく混練し、スダレ・網目状のワイヤーなどに流して並べて搾水後、加温により水分を蒸発させて作られる。抄紙後は必要に応じて、クリヤ塗工、ラミネート処理、抄合せなどの処理を施してもよい。
【0034】
本発明の透明中空繊維ユニットは、スレッドタイプの偽造防止用紙としても用いることができる。
透明中空繊維ユニットは糸状のままでも、スレッドとして用いることができるが、特開2005−250066号公報で開示されている図4のような装置を用いて、繊維を束ねシート状に加工してもよい。繊維ユニット同士の接着剤としては、水系接着剤、エマルジョン系接着剤、溶剤系等の一般に公知の接着剤が適宜使用されるが、溶剤系の接着剤が好ましく用いられる。例えば、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、アルキド系、アミド系、アクリル系などの接着剤が使用できる。
【0035】
前記透明中空繊維ユニットをスレッドとして挿入した偽造防止用紙の抄紙方法は、通常のスレッド入り紙の製造に用いられる方法でよい。すなわち、多層抄き抄紙機の少なくとも最終の抄き合わせの前に、スレッドを挿入し、抄き合わせ時の水分および乾燥工程においてスレッドと紙を接合することによって偽造防止用紙が得られる。
以下、オバートに優れる窓開きタイプがオバートの観点から好ましいため、窓開きタイプのスレッド紙の製造法につき示すが、スレッド埋没タイプを本発明から除外するものではない。
【0036】
窓開きスレッド入り紙を製造する方法としては、ワイヤー上の紙料懸濁液に、凹凸部を有するガイドの凸部先端にスレッドを通した溝を有するベルト機構を埋没して製造する方法(特許文献5参照)や、凹凸状に加工した網を円網抄紙機の上網に使用し、スレッドを網表面の凹凸部に接触させながら挿入して窓開き部分にスレッドを抄き込む方法(特許文献6参照)や、円網抄紙機の円網シリンダー表面上にテープを一定間隔で貼り付けて網目を塞いでおき穴が空いた紙層を形成する方法(特許文献7参照)や、長網抄紙機のワイヤー上の回転ドラム内に圧縮空気ノズルを内蔵させ、予め紙匹に挿入したスレッド上のスラリーを圧縮空気で間欠的に吹き飛ばしてスレッドを用紙表面に露出させる方法(特許文献8参照)等が提案されている。窓開きスレッド入り紙を製造する方法としては上記の方法を含めどのような方法でもかまわない
【0037】
【特許文献5】特公平5−85680号公報
【特許文献6】米国特許第4462866号公報
【特許文献7】特開平10−292293号公報
【特許文献8】特開平6−272200号公報
【0038】
本発明の偽造防止策が施された偽造防止用紙への印刷は、従来の紙の場合と同じ設備と方法が使用可能である。すなわち、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法などの各種印刷法で文字や絵柄を印刷することができる。
【0039】
本発明の偽造防止用紙は、透明中空繊維ユニットに内包された磁性フィラメントの存在により、特別な器具を用いなくとも目視により真偽判定するものである。また透明中空繊維ユニットに内包された磁性フィラメントの存在により、磁気センサーを用いて真贋判定するものである。すなわち、オバートとコバートを両立するものである。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1
<磁性体からなるファイラメントの準備>
冷間加工処理を施した径80μm、長さ3mmのJIS規格SUS301のステンレスフィラメントを300本用意した。このステンレスフィラメントの比透磁率は14.0であった。なお、紙に抄きこまれたときの視認性を良好にするために、マジックインキにてフィラメントの表面を着色した。
【0042】
<透明中空繊維の作製>
溶融押出成型機を用い、ノズルの中心部のガス吐出孔から前記内包物質を流しつつ、該中心部の周りのノズルから、ポリエステル樹脂を押し出した。押出機温度は250℃にした。溶融したポリエステル樹脂の押出し速度は0.20kg/hrであった。押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径120μm、内径100μmの透明中空繊維を得た。
【0043】
<透明中空繊維ユニットの作製>
続いて、前記透明中空繊維を100本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、前記フィラメントをエタノールに分散させた液をチャンバー内に導入することにより、該分散液で透明中空繊維を充満した。
前記分散液を内包する透明中空繊維を十分に乾燥しエタノールを除去した後に、刃を熱したカッターを用いて、カット長が概ね15mmになるように切断した。切断時に透明中空繊維の切断面部分が溶かされながら潰れることにより端部はシールされ、内部に磁性フィラメントを有する透明中空繊維ユニットが形成できた。
【0044】
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商品名:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料に、前記の磁性粉と酸化チタンを内包した透明中空繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量70g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが容易には剥離しない偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は135μmであった。
【0045】
<偽造防止の効果>
磁石を当てた部分では、透明中空繊維ユニット内でフィラメントの移動が目視観察できたことから、オバートの効果を確認した。
一方、磁気センサー(商品名:ST008型、日本シーディーアール製)のヘッドを本偽造防止用紙表面に当てながら左右にスライドさせた際、ヘッドが透明中空繊維ユニットに近づいた時に、磁気センサーが磁性フィラメントに反応しピーという音が発生し、コバートの効果も確認した。
【0046】
実施例2
磁性体からなるファイラメントを、冷間加工処理を施した径30μm、長さ1mm、比透磁率10のJIS規格SUS302のステンレスフィラメントに変更した以外は、実施例1と全く同様に偽造防止用紙を作製した。
【0047】
<偽造防止の効果>
磁石を当てた部分では、透明中空繊維ユニット内でフィラメントの移動が目視観察できたことから、オバートの効果を確認した。
また、磁気センサー(商品名:ST008型、日本シーディーアール製)のヘッドを本偽造防止用紙表面に当てながら左右にスライドさせた際、ヘッドが透明中空繊維ユニットに近づいた時に、磁気センサーが磁性フィラメントに反応しピーという音が発生し、コバートの効果も確認した。
【0048】
実施例3
磁性体からなるファイラメントを、冷間加工処理を施した径15μmのJIS規格SUS301のステンレスワイヤ7本を撚り合わせた撚線のフィラメントに変更した以外は、実施例1と全く同様に偽造防止用紙を作製した。この撚線の径は50μm、長さは3mm、比透磁率は14.0であった。
【0049】
<偽造防止の効果>
磁石を当てた部分では、透明中空繊維ユニット内でフィラメントの移動が目視観察できたことから、オバートの効果を確認した。
また、磁気センサー(商品名:ST008型、日本シーディーアール製)のヘッドを本偽造防止用紙表面に当てながら左右にスライドさせた際、ヘッドが透明中空繊維ユニットに近づいた時に、磁気センサーが磁性フィラメントに反応しピーという音が発生し、コバートの効果も確認した。
【0050】
実施例4
<磁性体からなるファイラメントの準備>
径300μm、長さ30mmの、JIS−C-2531で鉄ニッケル合金と規格されるパーマロイのフィラメントを3000本用意した。このフィラメントの比透磁率は、8.0×10であった。なお、紙に抄きこまれたときの視認性を良好にするために、マジックインキにてフィラメントの表面を着色した。
【0051】
<透明中空繊維ユニットの作製>
ポリエステル樹脂の代わりに、ポリプロピレン樹脂を用いた以外は、実施例1と同様に押し出し成型し、押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径500μm、内径400μmの透明中空繊維を得た。
続いて、前記透明中空繊維を1000本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、前記フィラメントをエタノールに分散させた液をチャンバー内に導入することにより、該分散液で透明中空繊維を充満した。
【0052】
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商品名:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。
一方、二槽のシリンダーバットを備えた円網抄紙機の、一槽目の円網シリンダーの同一円周表面上にあらかじめ1cm×1cmの形のテープを1cm間隔で貼り付けて網目を塞いでおき、第一紙層(風乾米坪70g/m)として1cmおきに1cm×1cmの穴が空いた紙層を形成するようにした。二槽目の円網シリンダーには細工を施さず、無地の第二紙層(風乾米坪140g/m)を形成するようにした。また、スレッド巻き出し装置を一槽目と二槽目のシリンダー間に設置し、前記透明中空繊維ユニットからなるスレッドが第一紙層の穴と重なる位置に、第二紙層とアルミ蒸着面側が接する向きで挿入されるようにした。用紙の原料として、前記の紙料を用い、第一紙層と接するヤンキードライヤーとこれに続くシリンダードライヤーで乾燥後、マシンカレンダー処理した。上記工程により、透明中空繊維ユニットをスレッドとする窓開きタイプのスレッド入り偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は400μmであった。
【0053】
<偽造防止の効果>
スレッドとして紙の表面にある透明中空繊維ユニットで、磁石を当てた部分では、透明中空繊維ユニット内でフィラメントの移動が目視観察できたことから、オバートの効果を確認した。
また、磁気センサー(商品名:ST008型、日本シーディーアール製)のヘッドを本偽造防止用紙表面に当てながら左右にスライドさせた際、ヘッドが透明中空繊維ユニットに近づいた時に、磁気センサーが磁性フィラメントに反応しピーという音が発生し、コバートの効果も確認した。
【0054】
比較例1
磁性体からなるファイラメントを、冷間加工処理を施した径20μm、長さ0.8mm、比透磁率は1.02のJIS規格SUS316のステンレスフィラメントに変更した以外は、実施例1と全く同様に偽造防止用紙を作製した。
【0055】
<偽造防止の効果>
磁石を当てた部分でも、透明中空繊維ユニット内でのフィラメントの移動は視認できなかった。
また、磁気センサー(商品名:ST008型、日本シーディーアール製)のヘッドを本偽造防止用紙表面に当てながら左右にスライドさせ、ヘッドが透明中空繊維ユニットに近づけたが、磁気センサーからは反応がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
偽造防止の決め手は、できるだけ多くの偽造防止対策を組み合わせて採用することにより、偽造犯をあきらめさせることである。本発明は、磁性フィラメントの移動という新規の偽造防止手段と、磁性センサーへの応答という既存の偽造防止手段とを組合わせたものであり、複数の偽造防止対策を施した点で偽造防止効果が高く、よって産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の偽造防止用紙の概念図
【図2】本発明の偽造防止用紙の断面図
【図3】透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙の概念図
【図4】透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙の断面図
【符号の説明】
【0058】
100:本発明の偽造防止用紙
110:本発明の透明中空繊維ユニット
110a:透明中空繊維ユニットが紙表面に表れている状態
110b:透明中空繊維ユニットが紙層内部にある状態
111:本発明の磁性体からなるフィラメント
112:本発明の透明中空繊維
300:透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙
310:透明中空繊維ユニット
310a:透明中空繊維ユニットが紙表面に表れている状態
310b:透明中空繊維ユニットが紙層内部にある状態
311:磁性粉
312:透明中空繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体からなるフィラメントを内包する透明中空繊維の少なくとも一本を、紙に混入したことを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項2】
前記透明中空繊維をスレッドとして紙に挿入したことを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項3】
前記フィラメントの径が、10μmから300μmの範囲にある請求項1または2に記載の偽造防止用紙。
【請求項4】
前記フィラメントの長さが、1mmから30mmの範囲にある請求項1〜3のいずれかに記載の偽造防止用紙。
【請求項5】
前記フィラメントの比透磁率が、10〜10の範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載の偽造防止用紙。
【請求項6】
前記フィラメントが、撚線からなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の偽造防止用紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−196096(P2008−196096A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150242(P2007−150242)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】