説明

偽造防止用紙

【課題】オンマシンウエットエンボス法やオフマシンエンボス法による透かし入り紙の問題点、具体的には、用紙を水に浸漬し水を吸収させて用紙を形成する繊維が膨潤した後に用紙を乾燥させると、透かしの画像がぼやけてしまうという問題を起こさず、しかも少ロットでも効率的に製造できる偽造防止用紙を得ることを課題とする。
【解決手段】オフマシンエンボス法により製造した透かし入り紙の両面に耐水浸透性に優れたプラスチックフィルムを貼合したことを特徴とする偽造防止用紙である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偽造防止用紙に関し、より詳しくは、透かし入り紙の新規提案に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポート、商品券、小切手等の偽造防止印刷物には種々の偽造防止技術が採用されているが、これらの印刷物に使用される用紙の代表的な偽造防止技術には「透かし」がある。
【0003】
JIS P0001:1998(非特許文献1)では、「透かし(すき入れ)」を以下のように定義している。『紙を透かしてみたとき現れる模様。参考:明るく見える白すき入れと、暗く見える黒すき入れの2種類がある。方法には、手すき、円網のすき網及びダンディロールのワイヤに希望の模様の凹凸をつけたもので抄造したり、プレス部等で凹凸模様のあるロールで湿紙にプレスすること等がある。』
【0004】
上記の透かし入り紙の中で、円網抄紙機のすき網(例えば特許文献1)及び長網抄紙機のダンディロールのワイヤに希望の模様の凹凸をつけたもの(例えば特許文献2)で抄造された透かし入り紙は、紙の断面方向に厚みの厚い部分と薄い部分、即ち用紙を構成する主成分であるセルロース繊維の量に差を生じさせて、紙を透かして見た場合に、厚みの厚い部分は光の透過量が薄い部分と比較して少ないことで透かし画像が現出する。
【0005】
この透かし入り紙の特徴は、上記したように、紙の厚さ方向で単位面積当たりの繊維量が異なっているので、用紙を水に浸漬し水を吸収させた後に用紙が乾燥しても、透かしの画像がぼやけると言う問題は起きない。
【0006】
一方、抄紙機上の湿紙を凹凸模様のあるロールでプレスする方法(オンマシンウエットエンボス法)の場合は、ロールの凸部でプレスされることで生じる紙の凹んだ部分は密度が高くなり、密度の低い部分と比較して光の透過量が増加することで透かし画像が現出する(例えば特許文献3)。エンボス法には、乾燥させた紙を加湿して凹凸模様のあるロールでプレスする方法(オフマシンエンボス法)もある(例えば特許文献4)。
【0007】
これらのエンボス法による透かし入り紙は、紙の断面方向に厚みの厚い部分と薄い部分、即ち用紙を構成する主成分であるセルロース繊維の量に差は無いが、用紙に密度差を生じさせることによって透かして見た場合に、厚みの厚い部分は光の透過量が薄い部分と比較して少なくなることにより透かし画像が現出する。
【0008】
この透かし入り紙の特徴は、上記したように、紙の厚さ方向で単位面積当たりの繊維量が同じなので、用紙を水に浸漬すると透かしの画像がぼやけてしまうと言う問題を起こしやすい。オンマシンウエットエンボス法の場合は、湿紙の水分量が20〜50質量%のときにエンボス圧力を高くすると繊維の結合力(水和結合)が高くなり、透かしがぼやけにくくなるが、用紙表面の凹凸差が大きくなり、精密印刷には適さない用紙となりやすい。オンマシンウエットエンボス法の場合は、抄紙機上の湿紙にエンボスを施すため少ロットの透かし入り紙の製造には適さないと言う別の問題点もある。
【0009】
一度紙を製造した後にエンボスを施す方法(「オフマシンエンボス法」)は、オンマシンウエットエンボス法と比較して透かしの効果が劣ることが問題点としてあげられる。また、水の吸収により透かし画像がぼやけると言う欠点はオンマシンウエットエンボス法よりも顕著に現れることも問題となる。しかし、オフマシンエンボス法は、抄紙機で製造し
た紙をエンボス処理するので、オンマシンウエットエンボス法と比較して少ロットの生産に適するという利点がある。
【0010】
上記した問題点があるため、これらエンボス法による透かし入り紙は高度な偽造防止効果を要求される紙幣用紙、パスポート用紙、小切手用紙等にはあまり採用されていないのが現状である。
【0011】
透かし入り紙には、この他に、疑似透かし、若しくはケミカル透かしと呼ばれる製法が知られている。この方法は、紙に浸透して光の透過率を高める物質、一般的には透明な合成樹脂を溶剤に溶解したインキを用いて紙に画像を印刷して、印刷した部分の光の透過率を高めることで透かしを現出させる(例えば特許文献5)。他の方法は、二酸化チタン等の光の透過率を低下させる効果の大きな白色顔料とバインダーよりなるインキを用いて紙に画像を印刷して、印刷した部分の光の透過率を低下させることで透かしを現出させる方法である(例えば特許文献6)。
【0012】
一方、用紙に偽造防止機能を有した繊維、粒子、細片を混抄した偽造防止用紙も種々知られている。例えば、紫外線の照射で蛍光発色する顔料を練り込んだ合成繊維や微細な粒子を混抄した用紙や、真珠顔料の塗工層を表面に設けた細片を混抄した用紙である(例えば特許文献7、8)。この用紙は、偽造防止機能を有した繊維、粒子、細片が用紙を構成するセルロース繊維との接着性が劣るため、オフセット印刷時にインクのタックにより、これらがブランケットにとられる問題があった。
【0013】
一方、基紙の表面に真珠顔料と接着剤を主体とした異なった色相の塗工層が複数本ストライプ状に形成された偽造防止用紙が知られている(たとえば特許文献9)。この偽造防止用紙は真珠光沢が高いほど偽造防止効果が大きくなるので塗料中の真珠顔料の比率をなるべく高くした方が好ましいが、そうすると用紙との接着力が低下するので、接着剤の添加割合をむやみに低くすることは出来ないと言う問題点があった。
【0014】
一方、細い帯状のスレッドを紙に抄き込んだスレッド抄き込み紙が知られている。例えば、均一な厚さの矩形紙と、該紙の実体を確認するための、反射照明下で該紙の両表面上で解読可能な印刷された第一の表示と、該紙が真正であることを示すための、該紙の所定位置において該紙の該両表面間に配設された第二の表示とから成る安全紙において、該第二の表示は、透明プラスチック帯片上に直接箔押する又は真空蒸着装置においてマスク若しくはテンプレートを使用する選択的金属化を含む方法、金属化と化学的腐食による非金属化とを含む方法、或いは透明プラスチック帯片上に金属インキを直接的に印刷することを除くその他の方法によって、該透明プラスチック帯片上に施された付着金属によって規定されており、該プラスチック帯片及び該第二の表示は反射照明下では該紙の該両表面上に現出しないが、該第二の表示は該両表面を透過する透過照明下では解読可能になる、ことを特徴とする安全紙が知られている。上記の透明プラスチック帯片上に真空蒸着装置においてマスクを使用する選択的金属化を含む方法は、デメタライジング加工と呼ばれ、現在使用されているマイクロ文字入りスレッドの代表的な加工方法である。より具体的に述べると、透明プラスチックフィルムの表面に真空蒸着されたアルミニウム層表面に、耐アルカリ性インキワニスによってマイクロ文字を印刷した後に、水酸化ナトリウム溶液に浸漬することで耐アルカリ性インキワニスで被覆されていないアルミニウム層を溶解除去する。次いでフィルムは水で洗浄され水酸化ナトリウムを除去した後に乾燥され、マイクロスリッターによりスレッドが作製される。次いで公知の方法でスレッドを用紙に抄き込むことでスレッド抄き込み紙を製造する(例えば特許文献10)。
【0015】
上記方法で作製したスレッドを使用して製造したスレッド抄き込み紙は、長時間酸性水溶液やアルカリ性水溶液に浸漬すると、耐アルカリ性インキワニスで被覆されたアルミニ
ウム層(マイクロ文字)の側面からこれら水溶液が徐々に浸透してアルミニウム層を溶解してしまい、マイクロ文字が視認出来なくなると言う問題点を有しており、紙幣用紙等の高度な耐久性を要求される用途では大きな問題点となっていた。このためデメタライジング加工した表面に薄い透明プラスチックフィルムを貼合してこの問題点を解決することが行われているが(特許文献11)、貼合加工に高度な技術が必要になることや、スレッドの厚みが厚くなり、ワインダーで用紙を巻き取る際に巻き取りに皺が生じること、ギロチンカッター等で用紙を裁断する際に刃こぼれを起こす等の問題点があった。
【0016】
また、特許文献12には、用紙の流れ方向に連続的にスレッドが抄き込まれた偽造防止用紙において、該スレッドが、ベースフィルムの少なくとも片方の表面に蒸着金属膜を粉砕した金属粉末とバインダーを主成分とした高光沢金属インク層よりなるマイクロ文字が形成され、さらにその上に接着剤層を必要に応じて形成されたスレッドであることを特徴とする偽造防止用紙が記載されている。
【0017】
上記方法で作製したスレッドを使用して製造したスレッド抄き込み紙は、酸性水溶液やアルカリ性水溶液に浸漬すると、短時間で蒸着金属膜を粉砕した金属粉末が溶解してしまい、マイクロ文字が視認出来なくなると言う問題点を有しており、紙幣用紙等の高度な耐久性を要求される用途では大きな問題点となっていた。
【0018】
転写箔は特許文献13に記載の通り、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等からなる支持体上に、剥離層、ホログラム等の回折格子パターン形成層を積層し、このパターン形成層にエンボス版等の型押しにより回折格子パターンを設け、このパターン面に、アルミニウム等の蒸着で金属反射層を形成し、さらにこの面に接着剤層を設けたものである。この転写箔を所望の被転写媒体に接着剤層側から重ね、刻印により熱と圧力を掛け刻印形状に転写するスポット転写箔、ストライプ状にスリットした転写箔をロールにより熱と圧力を掛け全面を転写する転写方法で用いられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2001−303486号公報
【特許文献2】特開昭60−110995号公報
【特許文献3】特公昭56−017480号公報
【特許文献4】特開2000−127268号公報
【特許文献5】特公昭50−3802号公報
【特許文献6】特開平09−156199号公報
【特許文献7】特開平6−128807号公報
【特許文献8】特開2000−096490号公報
【特許文献9】特開2002−266288号公報
【特許文献10】特公平06−062030号公報
【特許文献11】米国特許第5068008号公報
【特許文献12】特許第4017572号公報
【特許文献13】特開平11−286194号公報
【0020】
【非特許文献1】JIS P0001:1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、前記したオンマシンウエットエンボス法やオフマシンエンボス法による透かし入り紙の問題点を解決することを課題とする。具体的には、用紙を水に浸漬し水を吸収させて用紙を形成する繊維が膨潤した後に用紙を乾燥させると、透かしの画像がぼやけて
しまうという問題を起こさず、しかも少ロットでも効率的に製造できる偽造防止用紙を得ることを課題とする。
【0022】
また、本発明は、前述した偽造防止機能を有した繊維、粒子、細片を混抄した偽造防止用紙の問題点、具体的にはオフセット印刷時にインクのタックにより、これらがブランケットにとられると言う問題点を解決することも目的とする。
【0023】
また、本発明は、前述した基紙の表面に真珠顔料と接着剤を主体とした異なった色相の塗工層が複数本ストライプ状に形成された偽造防止用紙の問題点、具体的には接着剤の添加割合をむやみに低くすることは出来ないと言う問題点も解決することを課題とする。
【0024】
また、本発明は、前述したデメタライジング加工で製造したスレッドを抄き込んだ用紙の問題点、具体的には、長時間酸性水溶液やアルカリ性水溶液に浸漬すると、耐アルカリ性インキワニスで被覆されたアルミニウム層(マイクロ文字)の側面からこれら水溶液が徐々に浸透してアルミニウム層を溶解してしまい、マイクロ文字が視認出来なくなると言う問題点を解決することを課題とする。
【0025】
また、本発明は、前述したベースフィルムの少なくとも片方の表面に蒸着金属膜を粉砕した金属粉末とバインダーを主成分とした高光沢金属インク層よりなるマイクロ文字が形成され、さらにその上に接着剤層を必要に応じて形成されたスレッド抄き込み紙の問題点、具体的には、酸性水溶液やアルカリ性水溶液に浸漬すると、短時間で蒸着金属膜を粉砕した金属粉末が溶解してしまい、マイクロ文字が視認出来なくなると言う問題点を解決することを課題とする。
【0026】
また、本発明では、前述した転写箔は各層が薄膜のコーティング層であり、物理的および化学的な刺激により破壊され易いことが問題点であったが、この問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、オフマシンエンボス法により製造した透かし入り紙の両面に耐水浸透性に優れたプラスチックフィルムを貼合したことを特徴とする偽造防止用紙である。
【0028】
また、請求項2に記載の発明は、前記透かし入り紙が、それ自身がセルロース繊維と自着性を持たないか若しくは自着性に劣る、偽造防止能を有する繊維、粒子または細片を混抄した紙であることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙である。
【0029】
また、請求項3に記載の発明は、前記透かし入り紙の表面に、耐スクラッチ性に劣る偽造防止能を有する印刷層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙である。
【0030】
また、請求項4に記載の発明は、前記透かし入り紙が、デメタライジング加工によるマイクロ文字を設けたスレッドを抄き込んだスレッド抄き込み紙であることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙である。
【0031】
また、請求項5に記載の発明は、前記透かし入り紙が、ベースフィルムの少なくとも片方の表面に蒸着金属膜を粉砕した金属粉末とバインダーを主成分とした高光沢金属インク層よりなるマイクロ文字が形成され、さらにその上に接着剤層を必要に応じて形成したスレッドを抄き込んだスレッド抄き込み紙であることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙である。
【0032】
また、請求項6に記載の発明は、耐水浸透性に優れたプラスチックフィルムの表面に偽造防止効果を有する加工を施し、この面が前記透かし入り紙側に隣接するように貼合されていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の偽造防止用紙は、オフマシンエンボス法により製造した透かし入り紙の両面に耐水浸透性に優れたプラスチックフィルムを貼合したので、水に浸漬したときに透かしが不鮮明となる問題点を解決できる。また、少ロットの偽造防止用紙を効率よく製造できる。
【0034】
また、偽造防止機能を有した繊維、粒子または細片を混抄した偽造防止用紙の問題点、具体的にはオフセット印刷時にインクのタックにより、これらがブランケットにとられると言う問題点や、基紙の表面に真珠顔料と接着剤を主体とした異なった色相の塗工層が複数本ストライプ状に形成された偽造防止用紙の問題点、具体的には接着剤の添加割合をむやみに低くすることは出来ないと言う問題点や、デメタライジング加工で製造したスレッドを抄き込んだ用紙の問題点、具体的には、長時間酸性水溶液やアルカリ性水溶液に浸漬すると、耐アルカリ性インキワニスで被覆されたアルミニウム層(マイクロ文字)の側面からこれら水溶液が徐々に浸透してアルミニウム層を溶解してしまい、マイクロ文字が視認出来なくなると言う問題点や、用紙表面に転写した転写箔の耐性が弱いという問題点を解決できる。
【0035】
また、本発明の偽造防止用紙は、両面にプラスチックフィルムを貼合するので、耐折強度や引き裂き強度等の物理的強度を高めることができる。植物繊維を主体にした偽造防止用紙は、従来、物理的強度を高めるためにコットンなどの高価な繊維を使用していたが、本発明では物理的強度が劣る木材繊維を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、透かしの画像を彫刻された金属製のエンボスロール3と弾性体からなるトップロール2,カウンターロール4を備えたオフマシンエンボス装置の概念図である。
【図2】図2は、透かしの画像を彫刻された金属製のエンボスロール3と弾性体からなるカウンターロール4を備えた他のオフマシンエンボス装置の概念図である。
【図3】図3は、デメタライジング加工によるマイクロ文字を設けたスレッドの一例を示す上面図である。
【図4】図4は、本発明の偽造防止用紙の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
前述したように、エンボス法による透かし入り紙の製造方法にはオンマシンウエットエンボス法とオフマシンエンボス法がある。オンマシンウエットエンボス法は、抄紙機上の湿紙をエンボスロール等でエンボスする方法である。以下詳細に説明する。
【0038】
[オンマシンウエットエンボス法よる透かし入り紙の製造例]
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の木材パルプやコットン、コットンリンター、マニラ麻、竹、藁、ケナフ、等の非木材繊維を主体とし、ビーターやディスクリファイナー等を使用して通常フリーネス250〜450mlC.S.F.に叩解処理し、これに合成繊維、白土、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム等の各種填料、サイズ剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、歩留まり向上剤、消泡剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、定着剤等を適宜併用し紙料を調製する。次いで、この紙料を使用して、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機等の抄紙機を使用して抄紙する。用紙の重量(乾燥換算)は通常60〜120g/mとする。
【0039】
抄紙機上の、通常、含有水分20〜50質量%の湿紙に周知の方法でエンボス処理して透かしを賦与する。上記含有水分量とは紙に含まれる水分重量に対する紙の絶乾重量の割合を百分率で表した値を意味する。その後常法に従い乾燥する。乾燥後に、マシンカレンダー処理して紙を平滑処理することも適宜行う。
【0040】
[オフマシンエンボス法による透かし入り紙の製造例]
上記したオンマシンウエットエンボス法よる透かし入り紙の製造例と同様にして紙料を調製する。次いで、この紙料を使用して、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機等の抄紙機を使用して常法に従い抄造した紙を乾燥する。用紙の重量(乾燥換算)は通常60〜120g/mとする。
【0041】
次いで、この乾燥した紙に周知の方法によりオフマシンエンボス処理して透かしを賦与する。この際、エンボス効果を高くするために紙の含有水分を高めておくことが好ましい。紙の含有水分を高める方法としては、抄紙機の乾燥を緩くして高含有水分の紙を製造する方法、紙に水を噴霧する方法、紙に水蒸気を吹き付ける方法等の周知の方法を採用できる。含有水分は通常10〜30質量%とする。水を噴霧したり、水蒸気を吹き付けた後に水分が紙に均一に分布させるために、一度紙を巻き取り一定時間放置し、その後エンボス処理することも適宜行うことができる。エンボス処理時の線圧は通常65kg/cm〜85kg/cmが好ましい。また、エンボス処理後に紙の含有水分を調整するために周知の乾燥ゾーンを通過させることも適宜採用できる。
【0042】
前記したオンマシンエンボス装置やオフマシンエンボス装置は、例えば米国特許第1325529号、特公昭56−017480号、特開2000−73299号、特開2004−183163号、特開平11−081177号、特開2000−073299号、特開2000−127268号、特開2004−183163号、特開2005−199612号等に開示された装置をいずれも採用できる。
【0043】
エンボス処理方法の一例を挙げると、図1に示したように、トップロール2、周知の方法で凹凸部を形成した透かしの画像を設けたエンボスロール3、カウンターロール4の順で配置したロールの間に巻取り紙1から巻き出した原紙(湿紙)を通過させてエンボス処理し、その後常法に従い乾燥する。若しくは、図2に示したように周知の方法で凹凸部を形成した透かしの画像を設けたエンボスロール3、カウンターロール4の順で配置したロールの間に湿紙を通過させてエンボス処理する。エンボスロールの透かし画像は、機械加工法、彫刻ロール加工法、レーザ加工法、手彫り加工法等によって行うが、最大深度は通常0.5mm程度である。この際エンボスロールの画像を凹部から凸部に至るまでを連続的に深さが変化するように階調をつけて形成すると、得られる透かしは「黒透かし」となり、凹部凸部を、階調をつけないでオン、オフで表現すると、得られる透かしは「白透かし」となる。
【0044】
各ロールの材質等について説明する。一例を挙げると、1)透かし画像を彫刻法や腐食法等の周知の方法で形成した金属製の凸ロールと凹ロールの2本のロールを組み合わせた装置、2)透かし画像を彫刻法や腐食法等の周知の方法で形成した金属製の凸ロールと表面が平らな金属ロールの2本のロールを組み合わせた装置、3)透かし画像を彫刻法や腐食法等の周知の方法で形成した金属製のロールとゴム等の表面が平らな弾性体ロールの2
本を組み合わせた装置、4)透かし画像を周知の方法で形成した硬度の高い弾性体ロールと表面が平らな弾性体ロールを2本或いは3本を組み合わせた装置等である。エンボス処理時の線圧は通常65kg/cm〜85kg/cmが好ましい。また弾性体ロールは、弾力性に優れ、耐摩耗性も大きいウレタンゴムやニトリルゴムを使用することが好ましい。ゴム硬度は、ショアー硬度でD25度〜45度のものが好ましく使用される。
【0045】
図4を用いて本発明の偽造防止用紙を詳しく説明する。本発明では、このようにして製造した透かし入り紙(偽造防止用紙原反)9の両面に耐水浸透性に優れたプラスチックフィルム11を接着剤層12を介して貼合する。耐水浸透性に優れたプラスチックフィルムの種類としては、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、液晶ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸エチル、ポリスチレン等の透明若しくは本発明の目的を阻害しない範囲で半透明の、半合成、若しくは合成樹脂フィルム等を使用する。本発明においては、ベースフィルムの代表例として、物理的な強度が大きく、化学的にも安定なポリエステルフィルムが好適に使用できる。これらのフィルムの表面に印刷適性を向上させる為の塗工層や光の透過率を調節するための塗工層を設けたり、表面をサンドブラスト加工してもよい。フィルムの厚みは通常、5〜20μmのものを使用する。
【0046】
フィルムと透かし入り紙を接着剤層12を介して貼合する。本発明において好ましい貼合方法は、透かしの画像がぼやける問題を回避できるため、有機溶剤系のドライラミネート接着剤を使用したドライラミネート方式である。ドライラミネート用接着剤としては、フィルムと透かし入り紙に対して、所望の接着性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ポリエステルウレタンやポリエーテルウレタン又はアクリルウレタン等のポリウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、シアノアクリレート系接着剤等の使用が可能である。また、共押出し、押出しコート、アンカーコート剤を用いた熱ラミネーション等による方法も採用できる。
【0047】
前述したように、エンボス処理により透かしを賦与された紙の表面は当然のことながら凹凸差がある。偽造防止を目的とした精密印刷、例えば細紋印刷を施すには用紙に高い平滑度が要求されるが、エンボス処理された紙は凹凸差が原因で精密な印刷がし難いという問題点を生ずる。この場合、紙の両面にフィルムを貼合すると平滑度を高めることが出来るのでこの問題点を解消できる。
【0048】
また前述したように、用紙に偽造防止機能を有した繊維、粒子、細片を混抄した偽造防止用紙も種々知られている。例えば、紫外線の照射で蛍光発色する顔料を練り込んだ合成繊維や微細な粒子を混抄した用紙や、真珠顔料の塗工層を表面に設けた細片を混抄した用紙である。本発明に使用する透かし入り紙にはこれらの技術を併用できる。この用紙は、偽造防止機能を有した繊維、粒子、細片が用紙を構成するセルロース繊維との接着性が劣るため、オフセット印刷時にインクのタックにより、これらがブランケットにとられる問題があったが、紙の両面にフィルムを貼合することでこの問題点を解消できる。
【0049】
また前述したように、基紙の表面に真珠顔料と接着剤を主体とした異なった色相の塗工層が複数本ストライプ状に形成された偽造防止用紙が知られている。本発明に使用する透かし入り紙にはこれらの技術を併用できる。この用紙は真珠光沢が高いほど偽造防止効果が大きくなるので塗料中の真珠顔料の比率をなるべく高くした方が好ましいが、そうすると用紙との接着力が低下するので、接着剤の添加割合をむやみに低くすることは出来ないと言う問題点があったが、紙の両面にフィルムを貼合することでこの問題点を解消できる。
【0050】
また前述したように、デメタライジング加工で製造したスレッドを抄き込んだ用紙が知
られている。本発明に使用する透かし入り紙にはこれらの技術を併用できる。このスレッド抄き込み紙は、長時間酸性水溶液やアルカリ性水溶液に浸漬すると、耐アルカリ性インキワニスで被覆されたアルミニウム層(マイクロ文字)の側面からこれら水溶液が徐々に浸透してアルミニウム層を溶解してしまい、マイクロ文字が視認出来なくなると言う問題点があったが、紙の両面にフィルムを貼合することでこの問題点を解消できる。
【0051】
また前述したように、ベースフィルムの少なくとも片方の表面に蒸着金属膜を粉砕した金属粉末とバインダーを主成分とした高光沢金属インク層よりなるマイクロ文字が形成され、さらにその上に接着剤層を必要に応じて形成されたスレッド抄き込み紙の問題点、具体的には、酸性水溶液やアルカリ性水溶液に浸漬すると、短時間で蒸着金属膜を粉砕した金属粉末が溶解してしまい、マイクロ文字が視認出来なくなると言う問題点があったが、紙の両面にフィルムを貼合することでこの問題点を解消できる。
【0052】
また、本発明では、前述した転写箔は各層が薄膜のコーティングであり、物理的および化学的な刺激により破壊され易いことが問題点であったが、透かし用紙と貼り合わせるフィルムの、透かし用紙と貼り合わせる側に予めセキュリティ部材を形成もしくは転写することにより、貼り合わせ後フィルムの内側に配置することにより貼りあわせるフィルムが保護層となるため、物理的および化学的な刺激により破壊されてしまう問題点を解消できる。
【0053】
セキュリティ部材の例としては、ホログラムや回折構造体が挙げられる。ホログラムや回折構造体は、レーザの2光束干渉光をフォトレジスト表面に記録もしくは電子線により格子をレジスト表面に記録し、現像により生成した凹凸を元に作成される。凹凸をニッケル電鋳により金型を取りスタンパーを得ることができる。
透かし用紙と貼り合わせるフィルム上に直接金型を押し付けて形成しても、一旦転写箔の中に成型したものをフィルム上に転写しても構わない。
以下実施例に基づき、本発明に係る偽造防止用紙についてさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0054】
<偽造防止用紙原反の製造>
針葉樹晒しクラフトパルプ30質量部(乾燥換算、以下同じ)、広葉樹晒しクラフトパルプ70質量部をフリーネス350mlC.S.F.に叩解し、乾燥紙力増強剤(商品名「ポリストロン」、荒川化学工業株式会社製造)を0.4質量部、サイズ剤(商品名「サイズパインE」、荒川化学工業株式会社製造)を1.0質量部、湿潤紙力増強剤(ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂(商品名「WS−500」、日本PMC株式会社製造)硫酸バンドを3.5質量部加え、紙料を調製した。
【0055】
次いで、2槽式円網抄紙機の第1槽目と第2槽目で、それぞれ坪量30g/m(乾燥換算、以下同じ)の紙匹を抄造し、両者を抄き合わせ、次いでサイズプレス装置で、ポリビニルアルコール(商品名「クラレPVA117」の5質量%水溶液)を塗工し、次いでシリンダードライヤーで常法に従い乾燥し巻き取り、偽造防止用紙原反を製造した。抄紙幅は、1120mmであった。次いで、加湿機に通して紙の含有水分量を25質量%にして巻取った。
【0056】
前記の原反巻取り紙を図1に示したオフマシンエンボス装置で処理した。巻取り紙1を、透かしの画像を彫刻された金属製のエンボスロール3とゴム製のトップロール2,カウンターロール4よりなるオフマシンエンボスに供給し、エンボス加工して透かしを施し巻取装置で巻取りロール状の巻取り紙5を製造した。エンボス処理時の線圧は70kg/cm、処理速度は50m/分とした。
【0057】
カウンターロール4は、弾力性に優れ、耐摩耗性も大きいウレタンゴムを使用した。ゴ理後の紙は乾燥ゾーンを通過させて含有水分量を8質量%に調整した。
【0058】
<ドライラミネート接着剤によるフィルムの貼合>
二酸化珪素を練り込んだ厚み12μmのポリエステルフィルム(東レ株式会社製造)の表面に、周知のドライラミネーターを使用して2液硬化型ドライラミネート接着剤(TM595(100部)+CAT56(18部)東洋モートン社製)を5μm(乾燥換算)塗工し、前述した偽造防止用紙と貼合した。エージング処理してドライラミネート接着剤を硬化させた後に、上記と同じフィルムの表面に、周知のドライラミネーターを使用して上記と同一のドライラミネート接着剤を5μm(乾燥換算)塗工し、前述した偽造防止用紙の反対面と貼合後エージング処理し偽造防止用紙を製造した。得られた偽造防止用紙の坪量(乾燥換算)は、95g/mであった。
【0059】
上記偽造防止用紙用原反と、実施例1の偽造防止用紙を使用して水浸漬試験を行った。25℃の水に24時間浸漬した後に紙を取り出し、自然乾燥させた後の透かしの画像を処理しない紙と比較した。評価は、「5点:変化無し、4点:僅かに透かしが不鮮明になる、3点:かなり不鮮明になる、2点:不鮮明になる、1点:画像が失われる」の5点法で行った。処理後の偽造防止用紙原反の透かしは「3〜2点」であったが、実施例1の偽造防止用紙は「5点」で変化は認められなかった。
【実施例2】
【0060】
[ドライエンボス法による透かし入り紙にそれ自身がセルロース繊維と自着性を持たない蛍光発色繊維を混抄し両面に耐水浸透性に優れたプラスチックフィルムを貼合した偽造防止用紙の製造例]
<紫外蛍光発色繊維の製造とこの繊維を混抄した原反用紙の製造>
2%owf(繊維重量対比染料重量)に相当する蛍光染料(日本化薬株式会社製「MIKA
WHITE KTS EXTRA CONE」)を、酢酸0.2g/Lを添加した40℃の湯浴中にポリエステル繊維(長さ8mm、繊度10dtex)を投入した。次に、これを2.2℃/分の割合で昇温し、100℃で30分間保温した。その後、これを3.3℃/分の割合で降温した。このようにして、紫外線の照射で青白く蛍光発色する蛍光発色繊維を得た。この蛍光発色繊維を実施例1と同一の紙料に0.02質量%(乾燥換算)添加し、実施例1と同様の方法で偽造防止用紙原反を製造した。
【0061】
<ドライラミネート接着剤によるフィルムの貼合>
実施例1と同様の方法でフィルムを上記用紙の両面に貼合して偽造防止用紙を製造した。
【0062】
上記偽造防止用紙用原反と、実施例2の偽造防止用紙を使用してオフセット印刷試験を行った。偽造防止用紙原反は、ブランケットに蛍光発色繊維がとられる現象が生じて、印刷品質は著しく低下したが、実施例2の偽造防止用紙は何ら問題は無かった。
【実施例3】
【0063】
[ドライエンボス法による透かし入り紙に耐スクラッチ性に劣る偽造防止能を有する印刷層を形成し両面に耐水浸透性に優れたプラスチックフィルムを貼合した偽造防止用紙の製造例]
<真珠顔料をストライプ状に塗工した原反用紙の製造>
実施例1で得られた偽造防止用紙原反に、下記処方の塗料をグラビアコーターを使用して厚み5μm、幅15mmのストライプ状に塗工した。
パール顔料(メルク株式会社製造「カラーストリームF10−00」・・・10kg
バインダー(東洋紡績株式会社製造「バイロン24SS」)・・・10kg
MEK・・・6.0kg
トルエン・・・5.0kg
【0064】
<ドライラミネート接着剤によるフィルムの貼合>
実施例1と同様の方法でフィルムを上記用紙の両面に貼合して偽造防止用紙を製造した。
【0065】
上記偽造防止用紙用原反と、実施例3の偽造防止用紙を使用してオフセット印刷試験を行った。偽造防止用紙原反は、ブランケットにストライプ状に塗工した真珠顔料塗工層がとられる現象が生じて、印刷品質は著しく低下したが、実施例3の偽造防止用紙は何ら問題は無かった。
【実施例4】
【0066】
[ドライエンボス法による透かし入り紙にデメタライジング加工によるマイクロ文字を設けたスレッドを抄き込み両面に耐水浸透性に優れたプラスチックフィルムを貼合した偽造防止用紙の製造例]
<デメタライジング加工によるマイクロ文字を設けたスレッドを抄き込んだ原反用紙の製造>(図3参照)
基材として、厚み12μmの透明ポリエステルフィルム(東レ社製)の巻き取りを使用し、その両面に、金属アルミニウムを50nm(ナノメートル)ずつ真空蒸着機を使用して常法に従い蒸着した。この片面には、グラビア印刷機を使用して青色に着色した耐アルカリ性樹脂インキ(デメタライジング加工用アクリル系樹脂100質量部に青色染料:オレオゾールブルー(住友化学工業社製)を20質量部配合)を使用して着色した樹脂印刷層(マイクロ文字印刷層)を形成した。基材の反対面には、赤色に着色した耐アルカリ性インキ(デメタライジング加工用アクリル系樹脂100質量部に赤色染料:オレオゾールファーストレッド(住友化学工業社製)を15質量部配合)を使用して着色した樹脂印刷層(マイクロ文字印刷層)を形成した。
上記マイクロ文字は、「★ABCD」の文字からなり、その大きさは2.5ポイント(ポイント数はアメリカ式ポイント数を意味し、1ポイントは約0.35mmである)、文字と文字の間隔は0.4mm、文字列と文字列の間隔は0.8mmとした。文字列は、基材の流れ方向に対して、18度傾斜して印刷されている。次いで、常法に従い、水酸化アルミニウム水溶液を使用して、デメタライジング加工を施し、水洗、乾燥してロールに巻き取った。
さらにこの片面に、エチレン-酢酸ビニル系の感熱接着剤を1.5μmの厚みでグラビアコーターを使用して塗工し接着剤層を形成した。次いでマイクロスリッターを使用して巾2mmのスレッドを製造した。このスレッドをボビンに巻き取った。
このスレッドを用いて定法に従い、実施例1と同一処方の原反用紙を製造する際に紙層間にスレッドを抄き込んで原反用紙を製造した。
【0067】
<ドライラミネート接着剤によるフィルムの貼合>
実施例1と同様の方法でフィルムを上記用紙の両面に貼合して偽造防止用紙を製造した。
【0068】
上記偽造防止用紙用原反と、実施例4の偽造防止用紙を使用して耐アルカリ性試験を行った。具体的には、2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に紙を浸漬して、アルミニウム蒸着層が溶解して無くなる時間を測定した。結果、偽造防止用紙原反は、アルミニウム蒸着層が3時間で溶解されて消失したが、実施例4の偽造防止用紙は24時間後でも何ら変化は無かった。
【実施例5】
【0069】
[ドライエンボス法よる透かし入り紙に蒸着金属膜を粉砕した金属粉末とバインダーを主成分とした高光沢金属インク層よりなるマイクロ文字を設けたスレッドを抄き込み、両面に耐水浸透性に優れたプラスチックフィルムを貼合した偽造防止用紙の製造例]
<蒸着金属膜を粉砕した金属粉末とバインダーを主成分とした高光沢金属インク層よりなるマイクロ文字を設けたスレッドの製造>
ベースフィルムとして、厚み12μmのポリエステルフィルム(東レ(株)製造)を使用し、その裏面に、蒸着法により製造したアルミニウム金属粉を使用したスクリーン印刷用高光沢金属インク(商品名「MIR−9100ミラーシルバー」、帝国インキ製造(株)製造)を使用して、ロータリースクリーン印刷機で4μmの厚みで印刷し、マイクロ文字印刷層を形成した。マイクロ文字は「secure」の文字の繰り返しとし、文字1字の大きさは1mm、文字と文字の間隔は1mm、文字列と文字列の間隔は1mmとした。フィルムの裏面には、エチレン−酢酸ビニル系の感熱接着剤を4μmの厚みで塗工して感熱接着剤層を形成した。次いでマイクロスリッターを使用して文字列と文字列の丁度中央でスリットすることにより、文字列が中央に位置する巾2mmのスレッドを製造した。このスレッドを用いて定法に従い、実施例1と同一処方の原反用紙を製造する際に紙層間にスレッドを抄き込んで原反用紙を製造した。
【0070】
<ドライラミネート接着剤によるフィルムの貼合>
実施例1と同様の方法でフィルムを上記用紙の両面に貼合して偽造防止用紙を製造した。
【0071】
上記偽造防止用紙用原反と、実施例5の偽造防止用紙を使用して耐アルカリ性試験を行った。具体的には、2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して、アルミニウム金属粉が溶解して無くなる時間を測定した。結果、偽造防止用紙原反は、アルミニウム金属粉が30分で溶解されて消失したが、実施例5の偽造防止用紙は24時間後でも何ら変化は無かった。
【実施例6】
【0072】
[耐水浸透性に優れたプラスチックフィルムの表面に偽造防止効果を有する加工を施し、この面が透かし入り紙側に隣接するように貼合した偽造防止用紙の製造]
16μmのPETフィルム上にアクリル樹脂からなる剥離層および2液硬化型のウレタン樹脂層からなる回折構造形成層をそれぞれ1μmの厚みでマイクログラビアコーティング法を用いて塗布し、回折構造形成層に回折構造を形成した金型を200℃の温度で型押しし回折構造を複製した。複製した回折構造の上にアルミニウムからなる反射層を、真空蒸着法を用い50nmの厚さで形成し、さらに、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体からなる接着層を1μmの厚さでマイクログラビアコーティング法を用いて塗布し、回折構造転写箔を得た。この転写箔を12μmのPETフィルムの片面にホットスタンピング法を用い転写し、転写面が内面になるように透かし入り紙と2液硬化型のウレタンからなる厚さ5μmのドライラミネート接着剤でドライラミネートし、更に裏面に12μmからなるPETフィルムを同様にラミネートすることにより、偽造防止用紙を得た。
<比較例1>
【0073】
実施例1の偽造防止用紙原反の製造に用いたものと同一の紙料を調製し、実施例1と同一の2槽式円網抄紙機の第1槽目と第2槽目で、それぞれ坪量47g/m(乾燥換算、以下同じ)の紙匹を抄造し、両者を抄き合わせ、次いでサイズプレス装置で、ポリビニルアルコール(商品名「クラレPVA117」の5質量%水溶液)を塗工し、次いでシリンダードライヤーで常法に従い乾燥し巻き取り、用紙を製造した。
【0074】
実施例1〜6で得られた偽造防止用紙と、比較例1で得られた用紙を用いてJIS P−8115に規定する耐折回数と、JIS P−8116に規定する引裂強さの測定を行った。結果を表1に示す。実施例1〜6の偽造防止用紙は比較例の用紙と比較して耐折回数及び引裂強さ共に大幅に向上したことが判る。
【0075】
【表1】

【0076】
以上のような特性を生かして本発明で得られる偽造防止用紙は、その製造に極めて高度の技術が必要なため、偽造防止を目的とした用途、例えば、紙幣、商品券、小切手、株券、債券、カード、各種チケット、機密文書、パスポート、身分証明書等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0077】
1・・・巻取り紙
2・・・トップロール
3・・・エンボスロール
4・・・カウンターロール
5・・・透かしを施した巻取り紙(透かし入り紙)
6・・・(裏面の)金属蒸着層
7・・・基材
8・・・(表面の)着色された樹脂印刷層
9・・・偽造防止用紙用原反
10・・・透かし部分
11・・・耐水浸透性に優れたプラスチックフィルム
12・・・接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフマシンエンボス法により製造した透かし入り紙の両面に耐水浸透性に優れたプラスチックフィルムを貼合したことを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項2】
前記透かし入り紙は、それ自身がセルロース繊維と自着性を持たないか若しくは自着性に劣る、偽造防止能を有する繊維、粒子または細片を混抄した紙であることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙。
【請求項3】
前記透かし入り紙の表面に、耐スクラッチ性に劣る偽造防止能を有する印刷層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙。
【請求項4】
前記透かし入り紙は、デメタライジング加工によるマイクロ文字を設けたスレッドを抄き込んだスレッド抄き込み紙であることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙。
【請求項5】
前記透かし入り紙は、ベースフィルムの少なくとも片方の表面に蒸着金属膜を粉砕した金属粉末とバインダーを主成分とした高光沢金属インク層よりなるマイクロ文字が形成され、さらにその上に接着剤層を必要に応じて形成したスレッドを抄き込んだスレッド抄き込み紙であることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙。
【請求項6】
耐水浸透性に優れたプラスチックフィルムの表面に偽造防止効果を有する加工を施し、この面が前記透かし入り紙側に隣接するように貼合されていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止用紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−246832(P2011−246832A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119175(P2010−119175)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】