説明

偽造防止用表示体

【課題】本発明は、より製造が困難な偽造防止用の表示体の提供を課題とした。
【解決手段】フィルム基材1上の樹脂層3は、概ね200nm以下の一定のピッチで伸在し、その向きが伸在方向に沿って巨視的大きさで変化する、振幅が100〜300nmの凹凸部を備え、さらに前記凸部表面には、厚みが100〜300nmの範囲の金属層2を備えることをを特徴とする偽造防止用表示体であって、前記金属層の向きが連続的に変化していることを特徴とする偽造防止用表示媒体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品が真正品なのか偽造品なのかを判別するために物品に貼付して使用する偽造防止用表示体の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
有価証券、証明書、ブランド品及び個人認証媒体などの物品は、偽造が困難であり、真正品と非真正品の判別が容易に可能であることが望まれる。しかしながら、現実には、多くの物品で偽造技術があり、社会には判別が難しいコピー品が溢れている。そのため、偽造されては困る物品には、高度な偽造技術が必要で、そのため偽造してもコストが合わず、かつ自他識別が容易な表示体を別に製造して物品に貼付させている。
【0003】
このような偽造防止用表示体の多くは、回折格子や特定の向きに配向させた液晶などの偏光性を有する微細構造を含んでいる。これら微細構造は、解析して模倣することが困難であり、これら微細構造を含んだ表示体を製造するためには、電子線描画装置などの高価な製造設備が必要である。それゆえ、このような表示体の偽造は困難で費用がかさむ一方、偏光子であるこれらの表示体は、特定の偏光板を通して観察したときに発現するパターン形状により、容易に真贋判別を行うことが出来る。
【0004】
このような表示体の一例として、特許文献1には、第1の方位に配向された偏光子を通して観察したときに可視である第1の構成と、第1とは別個の第2の構成であって、第2の方位に配向された偏光子を通して観察したときに可視である第2の構成とを生成し、方位が異なる少なくとも2つの回折格子を形成するための型打ちされたフィルムを備えた表示体であって、前記回折格子はそれぞれ、周期が550nm未満であって、振幅と周期の比が基準面に対して0.25〜0.5範囲である表示体の記載がある。
【0005】
また、偏光子としては液晶以外に、ワイヤーグリッド偏光子がある。これは細い金属層(線)を、照射する電磁波の波長より短いピッチ(1/2以下)で並べたもので、金属層(線)の並ぶ方向に平行に振動する電磁波は透過し、金属層(線)の長く伸びている方向に平行に振動する電磁波は反射するので、入射光を反射でも透過でも直線偏光にする偏光素子となる。
【0006】
例えば、特許文献2には下記のようなワイヤーグリッド偏光子の記載がある。
透明で柔軟な基板上に金属膜を形成し、金属膜の融点以下で基板と金属膜とを延伸することにより、金属膜が切れて異方的な形状を有する金属部分と誘電体部分とからなる構造が形成されたもので、特に金属の短い方向の長さが光の波長より短く、長い方向の長さが光の波長より長い構造である。精密に制御された外形形状を持つ金属薄膜の作成方法については、特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−535670号公報
【特許文献2】特開2001−74935号公報
【特許文献3】特表2009−535670号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】宮崎大輔, 池内克史, "偏光の基礎理論とその応用"情報処理学会論文誌「コンピュータビジョンとイメージメディア」、Vol.1、No.1、p64−72、2008年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記の表示体であっても偽造されるという問題がある。
特に、前記表示体が明/暗の単純な絵柄表現しか出来ない事が偽造を容易にしている。
そこで本発明の目的は、より高い偽造防止効果を実現することにあり、前述の従来技術に対して、さらに新たな光学効果を加えることにより、より不正な偽造を困難とすることができる高いセキュリティ効果を有する光学素子(偽造防止用表示体)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するための請求項1に記載の発明は、フィルム基材上に、200nm以下の一定のピッチで伸在し、その向きが伸在方向に沿って巨視的大きさで変化する、幅が50〜100nmの範囲で厚みが100〜300nmの範囲の金属層が敷設されていることを特徴とする偽造防止用表示体としたものである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、フィルム基材上の樹脂層は、200nm以下の一定のピッチで伸在し、その向きが伸在方向に沿って巨視的大きさで変化する、振幅が100〜300nmの凹凸部を備え、さらに前記凸部表面には、厚みが100〜300nmの範囲の金属層を備えることを特徴とする偽造防止用表示体としたものである。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記金属層の向きが連続的に変化していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の偽造防止用表示体としたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明になるメタルグリッド型の金属層を備えた偽造防止用表示体は、回折格子や液晶偏光体が、光の波長程度の加工技術が必要なのに対し、金属あるいは樹脂加工のサイズが波長の1/2以下望ましくは1/3以下である必要があり、より微細加工が要求される技術を使用するため模倣が極めて難しい。
【0014】
また、従来の光学素子とは異なり、金属層を彎曲させて形成することで、偏光板を通して観察した表示体の明暗の図形構成がグレー諧調で表現されているといった見え方で、表示体の図形構成がより複雑であるため、偽造防止効果を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明になる偽造防止用表示体の構成の一例を説明する図面で、(a)斜視図、(b)断面図、である。
【図2】本発明になる偽造防止用表示体の構成の別の一例を説明する図面で、(a)斜視図、(b)断面図、である。
【図3】本発明になる偽造防止用表示体を偏光版を通して観察した時の見え方を説明する模式図である。(a)表示体の上面視図、(b)偏光版の偏光軸の方向、(c)明暗濃淡の見え方。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明になる偽造防止用表示体は、図1と図2に示すように、幅が50〜100nm、厚さが10〜50nmの金属層2が、隣り合う金属層とのピッチが200nm以下で、かつ、概ね一定となるように基板1上に並んだ構造であり、さらに、この平行に並んだ多数の金属層2は、目に見える寸法(長さも幅も)で連続的もしくは段階的に向きが異なっていることを特徴とする偽造防止用表示体である。
【0017】
図1はフィルム基材1上に直接金属層2を敷設した場合であり、図2は、樹脂からなる凹凸パターン2を形成してからその凸部上に金属層2を形成した場合である。
【0018】
平行に並ぶ金属層2のピッチpが入射する電磁波の波長λに比べて小さくなると(可視光については、pは200nm以下)、金属に対して電場と磁場が特定の向きをなす電磁波しか透過し得なくなってくる。電磁波は直交する2つのベクトルに分解できるが、電磁場の金属層(線)の長手方向に平行なベクトル成分は全部反射され、それと直交するベクトル成分は透過するので平行に並ぶ金属層は、反射波と透過波で偏光方向が異なることになる。
【0019】
したがって、金属層(線)からの反射光もしくは透過光は、回転する偏光板をかざして観測すると、90度周期で明暗が反転する。もし平行に並んだ金属層の向きが、例えば図3(a)又はその左側の上下の小図に示すように湾曲していると、同図(b)で示す偏光軸方向5を有する偏光板4をかざすと、同図(c)に示すような明部6,6’と暗部7が混在することになる。これら巨視的に観察される明暗のパターンが意図したものであるか否かで表示体自体の真贋を判定し、該表示体が偽であればそれが貼付された物品が贋品と判断される。ここで巨視的とは、肉眼あるいはルーペ等で観察したときに曲がって見える程度という意味である。
【0020】
金属層の向きは、図3(a)に示すように滑らかに曲線を描くように曲がっていてもよいし、ジグザグ上に鋭角的に曲がっていても構わないし、種々の曲がり方が混在しても構わないが、隣接する金属層同士は微視的には平行を保っているのが望ましい。
そうでないと入射光に対して偏光性が付与できない場合や低下する場合もあり、視覚的には意匠性が劣る表示体となるが、偏光性が発現する限り、目的意識的にそうした構造とすることを否定するものではない。
【0021】
また、金属層2の背面にλ/4の位相板と反射層を部分的に敷設して、透過光を反射させて明暗をさらに変調するようなこともできる。
【0022】
金属層2の形成位置については、フィルム基材1上に、金属層2の下地となる樹脂層3に凹凸部を形成してから凸部に金属膜を気相法で製膜してもよいし(図2)、平らな基材1上に金属の連続膜を形成してから、エッチングなどによりパターニングして直接形成しても構わない(図1)。
【0023】
以下、図2に示すような表示体につき本発明を説明する、
左右に湾曲した矩形凸部は、フィルム基材1上の樹脂層3に形成するが、樹脂層3は、例えば、PET等のプラスチックフィルム上に熱可塑性樹脂を塗布し、これに凸部が設けられた原版を、熱を加えながら押し当てる方法により形成する。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂、これらの混合物をのいずれかを使用する。
【0024】
あるいは、基材上に熱硬化性樹脂を塗布し、凸部が設けられた原版を押し当てながら熱を印加し、その後原版を取り除く方法により形成してもよい。熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、これらの混合物のいずれかを使用できる。
【0025】
あるいは、基材上に放射線硬化樹脂を塗布し、凸部が設けられた原版を押し当てながら紫外線や電子線を照射して硬化させ、その後原版を取り除く方法により形成してもよい。放射線硬化樹脂は、典型的には、重合性化合物と開始剤とを含んでいる。重合性化合物と
しては、例えば、光ラジカル重合性化合物があるが、例えば、エチレン性不飽和結合又はエチレン性不飽和基を有するモノマー、オリゴマー又はポリマーを使用できる。
【0026】
この場合の開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン系化合物、もしくはアントラキノン系化合物、フェニルケトン系化合物から選択して使用する。
【0027】
樹脂層に凸部を形成する際に押し当てる原版は、例えば、電子線描画装置又はナノインプリント装置を用いて製造する。これらの装置を使用することで、ピッチpが200nm以下で、50nm以上の高さhを有する湾曲しつつ整列する凸部を高い精度で製造できる。通常は、原版の凹凸を反転した反転版を製造し、この反転版の凹凸を転写した複製版を製造する。そして、必要に応じ複製版を原版として反転版を製造し、この反転版の凹凸構造を転写した実用版を押し当てに供する。
【0028】
金属パターン2の支持体は、典型的には、基材1とその上に形成された樹脂層2から構成される。基材1としては、フィルム基材を使用するが、例えば、PETフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PEN)フィルム及びポリプロピレンフィルム等のプラスチック基材を使用する。あるいは、紙、合成紙、プラスチック複層紙又は樹脂含浸紙を使用してもよい。
【0029】
樹脂層2は、例えば、上述した押し当て法により形成されるが、樹脂層2の厚みは、0.1〜10μmの範囲内が好ましい。厚みが大きすぎると、加圧時の樹脂のはみ出しやしわが生じやすくなる。薄すぎると、所望の凹凸構造の形成が困難となる。樹脂層2の厚みは、そこに設けるべき凹部の深さhと同じか又は厚くして概ね10倍以下とするのが望ましく、典型的には3〜5倍の範囲とする。
【0030】
凹凸構造は、具体的には、凸部の高さhが100nm以上、凸部上部の幅が50〜100nm、ピッチが200nm以下とする。
但し、ピッチpは、使用する電磁波の波長λに相対的に決まるものであり、波長の長い赤外線を使用する場合には可視波長程度あっても構わない。
【0031】
光透過性を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、ニトロセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルスチレン共重合体、塩化ビニル及びポリメタクリル酸メチルが挙げられる。
【0032】
湾曲した樹脂性凸部2の頂部に金属層3を形成する必要がある。金属層3は、例えば、アルミニウム、銀、錫、クロム、ニッケル、銅、金及びこれらの合金などの金属材料からなる金属又は合金層を使用することができる。この場合、金属層3は、典型的には、真空製膜法を用いて形成する。真空製膜法としては、例えば、真空蒸着法、CVP法及びスパッタリング法の気相体積法が挙げられる。金属層3の厚みは、例えば、1〜100nmの範囲内が好ましい。
【0033】
気相堆積法であれば、金属粒子が凹凸部に上方から下降すると、ピッチpと厚みhによっては自然に頂部近傍だけに選択的に堆積する。それは頂部に堆積した金属層がスリット9側に張り出してスリット底部に向かって蒸着粒子が進入するのを妨げるからである。ピッチpが200nm程度であれば開口は100nm程度であり、凹部にはほとんど金属は堆積しない。しかし堆積量を多くしすぎると、凹部に堆積する上に開口部が塞がって見かけ上は連続膜となる場合がある。連続膜にならないが開口内に堆積した場合には、この部分をも含めてピッチが概略半分になった金属グリッドとみなせないこともない。
【0034】
ピッチpが狭く連続膜となってしまう場合、あるいは平坦な基材1上に、凹凸を設けずに直接金属層2を敷設する場合には、金属の連続膜を形成してから、金属層の上にマスクパターンを形成し、定法のエッチングによって金属層の一部を除去することで行う。後者の場合の連続膜の形成方法としては、真空製膜以外に、電解めっき、無電解めっき、ゾルゲル法によるウエットプロセスによる製膜も可能である。ピッチが狭い場合はドライエッチングを採用する必要がある。
【0035】
図3(a)に示すように金属層2が並んだ表示体を、上下方向に偏光軸5がある偏光板4を通して観察すると、金属層2が偏光板の偏光軸5方向と平行な向きの時に光が透過して明るくなり、偏光板の偏光軸方向から傾斜すると傾斜する角度が大きくなるに従い透過しにくくなり、直交する時、透過しなくなる(図3(c))。
【0036】
一般的に、部分偏光した光を直線偏光板を通して観測した場合、偏光板を回転させると透過する光量が変化し輝度が変化する。偏光板を回転させた時、最も高い輝度をI_max、最も低い輝度をI_min とする。また、偏光版に対して、図4のように偏光版を含む面と平行な平面上にx、y軸を取った時、偏光版を透過した光の偏光軸とx軸のなす角をv(向きは図4の通り)とする。この時、偏光板の透過光の輝度Iは以下の式で表される。なお、ψはI_max が観測された時の角度vである(非特許文献1)。
【0037】
I=(I_max+I_min)/2+(I_max−I_min)cos(2v-2ψ)/2・・・・・・(1)
上記の場合、表示体を透過、もしくは反射した偏光は表示体の金属層の向きによりその偏光軸が異なる。この偏光を、透過光の偏光軸が常にy軸と一致する向きに固定した偏光板を通して観測すると、式(1)は、
{(I_max+I_min)−(I_max−I_min)・cos2ψ}/2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
となる。
【実施例】
【0038】
先ず、紫外線硬化用樹脂として、50.0重量部のウレタン(メタ)アクリレートと、30.0重量部のメチルエチルケトンと、20.0重量部の酢酸エチルと、1.5重量部の光開始剤を含む組成物を準備した。ウレタン(メタ)アクリレートとしては、多官能性且つ分子量が6000であるものを使用した。光開始剤としては、チバスペシャリティ製「イルガキュアー184」を使用した。
【0039】
次に厚みが23μmの透明PETフィルム上に、前記組成物を乾燥膜厚が1μmとなるように、グラビア印刷により塗布した。
【0040】
次いで、幅が100nm、高さが100nmの複数の彎曲する凸部がピッチ200nmで設けられた原版を版胴の円筒面に支持させ、この原版を先の塗膜に押し当てながら、PETフィルム側から300mJ/cmで紫外線を照射し、紫外線樹脂を硬化させた。プレス圧力は2kgf/cmとし、プレススピードは10m/分とした。これにより凹凸構造を得た。
【0041】
次に、凹凸構造層の上にアルミを30nm程真空蒸着させ、燐酸と硝酸の4:1混合液でフラッシュエッチングしたところ庇部分がエッチングされほぼ平行な端部形状を呈する金属パターンが形成された。得られた表示体を自然光の下で偏光版を回転させながら観察したところ図3(c)で示す明暗の変化が観察された。
【符号の説明】
【0042】
1、フィルム基材
2、金属層
3、樹脂層(の凹凸部)
4、偏光板
5、偏光軸方向
6、明部
7、暗部
8、狭い(明部)
9、スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材上に、200nm以下の一定のピッチで伸在し、その向きが伸在方向に沿って巨視的大きさで変化する、幅が50〜100nmの範囲で厚みが100〜300nmの範囲の金属層が敷設されていることを特徴とする偽造防止用表示体。
【請求項2】
フィルム基材上の樹脂層は、200nm以下の一定のピッチで伸在し、その向きが伸在方向に沿って巨視的大きさで変化する、振幅が100〜300nmの凹凸部を備え、さらに前記凸部表面には、厚みが100〜300nmの範囲の金属層を備えることを特徴とする偽造防止用表示体。
【請求項3】
前記金属層の向きが連続的に変化していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の偽造防止用表示体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−109267(P2013−109267A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255980(P2011−255980)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】