説明

偽造防止表示体及び情報印刷物

【課題】ホログラム同士では、観察者に類似した印象を与えるという問題点を可決し、観察条件に多少の変化があっても再生像の色変化の少ない偽造防止表示体を提供すること。
【解決手段】偽造防止表示体は、複数の画素により構成されており、反射画像及び透過画像の2つの画像を構成する画素は凹凸構造部、印刷部、平坦部からなり、前記表示体の反射画像及び透過画像の濃淡に基づき、前記画素の前記凹凸構造領域に配置する前記凸部又は前記凹部の面積及び印刷領域に印刷する面積が決定されるとともに、前記画素は、前記金属薄膜層から前記凹凸構造形成層に向けて突出する複数の凸部又は前記凹凸構造形成層から前記金属薄膜層に向けて凹む複数の凹部が可視光の波長未満の中心間距離でランダム又は周期的に配列する光透過性機能を持つ凹凸構造領域と印刷領域又は凹凸構造領域のみ又は印刷領域のみの何れかで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止などで用いられ、観察条件によって見え方が変化する画像表示体に関するものであり、特に照明光の角度、観察方向などによって像の明るさや色図が変化する偽造防止表示体及び情報印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商品券や小切手等の有価証券類やクレジットカードやキャッシュカード、IDカード等のカード類、パスポートや免許証等の証明書類の偽造防止を目的として、通常の印刷物とは異なる視覚効果をもつ表示体を転写箔やステッカー等の形態にして、前記証券類やカードなどの証明書類の表面に貼付、圧着するなどして設けられている。また、有価証券類や証明書類以外の物品においても偽造品の流通が社会問題化しており、そのような物品についても同様の偽造防止技術を適用する機会が多くなってきている。
【0003】
偽造防止技術としては、マイクロ文字、特殊発光インキ、透かし、回折格子、ホログラムなどがある。この偽造防止技術は大きく二つに分けることができる。一つは、簡易な機器や測定装置などを使用して真偽を判別する技術である。もう一つは、肉眼で容易に真偽判定が可能な技術である。
【0004】
近年では、電子線描画装置(EB装置)で様々な微細構造を作製し目視で類似技術と差別化できるセキュリティデバイスの開発が行われている。最も一般的なセキュリティデバイスとして、表面レリーフタイプのレインボウホログラムがある。レインボウホログラムは、普通の印刷物に比べて構造が複雑で、高い微細加工技術を持つ特定の業者でないと作製が困難であり、複製を行うときに大規模な複製装置を必要とするので、小規模な複製が行いにくいという特徴がある。このため、偽造品の作製が困難である(非特許文献1)。
【0005】
また、照明光を当てたときに、単波長に近い光で再生されるため虹の七色に対応した明るく鮮やかな色で観察でき、観察条件が変化したときに色や画像パターンが変化するという特徴的な見え方をする。このため、他の部材との違いが目視で容易に判別できる。
【0006】
これらのことから、レインボウホログラムは目視によるセキュリティ用途として優れており、偽造防止用の画像表示体として広く用いられてきている。しかし、レインボウホログラムは、観察条件の変化が僅かであっても再生像の色が大きく変化するので、画像の色の違いを識別するのが難しい。このため、異なる画像が記録されているレインボウホログラムであっても、観察者に類似した印象を与えやすく、ホログラム同士では記録されている画像の違いを判別することが難いという問題もある。
【0007】
一般的に回折光を射出するためには、周期構造が必要であり、それによって虹色が見えてしまう(特許文献1)。
【0008】
そのような問題点を解決するために、パターンの表面区分の背景面とパターン要素とで、レリーフ構造体の周期(d;d)を変化させ、格子角度や構造体深度を変えることが提案されている。しかしながら微細構造の反射光のみの制御であり、ホログラム同士観察者に類似した印象を与えやすい(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−72320号公報
【特許文献2】特表2005−518956号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「ホログラフィの原理」、オプトロニクス社、P.ハリハラン著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、複写機による複製が不能であり、かつホログラフィ手法によっても複製不能で、しかも安価な光学的変化を遂げるセキュリティー素子を提供することにあり、透過光と反射光で表示体を観察した際に異なる画像を表示させることにより、ホログラム同士では、観察者に類似した印象を与えるという問題点を可決し、観察条件に多少の変化があっても再生像の色変化の少ない偽造防止表示体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、光透過性の基材と、前記基材の一方の面の上に設けられた凹凸構造形成層と、前記凹凸構造形成層を被覆する金属薄膜層とを備えると共に、前記凹凸構造形成層が設けられた基材面とは反対側の基材面の上、前記基材と凹凸構造形成層との間、あるいは前記凹凸構造形成層と金属薄膜層との間に印刷層を備えて構成され、凹凸構造形成層の有無及び印刷層の有無によって画像を表示する偽造防止表示体であって、
前記画像は、透過画像と反射画像とで構成されており、かつ、これら透過画像と反射画像とは、それぞれ、複数の画素によって構成されており、
凹凸構造形成層を有する部位を凹凸構造部、印刷層を有する部位を印刷部、これら凹凸構造形成層と印刷層のいずれも存在しない部位を平坦部とするとき、前記印刷部はその色彩に応じて光を反射する色光反射部を構成しており、凹凸構造部は凹凸構造形成層に設けられた凸部又は凹部であって、可視波長未満の中心間距離で配列された凸部又は凹部を有していて、この凸部又は凹部に基づいて、光を反射することなく透過する透過部を構成しており、平坦部は、金属薄膜層に基づいて光源光を反射する光源光反射部を構成しており、
複数の前記画素のうち、少なくとも一部の画素が、凹凸構造部と印刷部又は平坦部の少なくとも2種類の部位を有している、
ことを特徴とする偽造防止表示体である。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、前記反射画像の反転画像が、透過画像に含まれ、反射画像の明部が凹凸構造領域で構成され、透過画像上の反転画像以外の暗部が印刷領域で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止表示体である。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、前記画素に占める前記凹凸構造領域と前記印刷領域の面積が略同一であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の偽造防止表示体である。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、前記画像の濃淡が2値であり、濃淡に応じて前記画素の前記凹凸構造領域及び印刷領域の有無が決定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の偽造防止表示体である。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、前記凹凸構造領域と印刷領域の色度が略同一であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の偽造防止表示体である。
【0017】
また、請求項6に記載の発明は、前記複数の凸部又は凹部の中心間距離が100nm以上500nm未満であり、前記複数の凸部又は凹部の高さ又は深さが100nm以上50
0nm未満であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の偽造防止表示体である。
【0018】
また、請求項7に記載の発明は、前記金属薄膜層の平坦面における膜厚が50nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の偽造防止表示体である。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、前記複数の画素が二次元的に配列されており、凸部又は凹部の形状が矩形状であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の偽造防止表示体である。
【0020】
また、請求項9に記載の発明は、前記画素の一辺の長さが145μm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の偽造防止表示体である。
【0021】
また、請求項10に記載の発明は、光透過性を有する印刷物基材からなる情報印刷物であって、情報印刷物表面の一部の領域に、請求項1〜9のいずれか1項に記載の偽造防止表示体を備えたことを特徴とする情報印刷物である。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、この表示体は光透過性機能を持つ凹凸構造領域と印刷領域を有している。光透過性機能を持つ凹凸構造領域は、低反射領域であり観察方向から光を照明して表示体を観察する(反射観察)と、黒色や暗灰色などで表示される。また観察方向と反対方向から光を照明して表示体を観察する(透過観察)と透過光を観察することができる。一方、印刷領域は反射観察すると、印刷した色を知覚することができる。しかし、透過観察しても透過光は確認できない。また、凹凸構造領域や印刷領域が無い部分では反射観察すると金属薄膜層により照明光が正反射されるため照明光の色が観察される。つまり、凹凸構造領域と印刷領域を画素毎に設けることによって反射観察した場合に認識する画像と透過観察した場合に認識する画像を異なるものにできる。
【0023】
請求項2の発明によれば、反射画像の反転画像が、透過画像に含まれ、反射画像の明部が凹凸構造領域で構成され、透過画像上の反転画像以外の暗部が印刷領域で構成され、これにより、2枚の画像の対応関係や凹凸構造領域や印刷領域の設置場所が明確になる。
【0024】
請求項3の発明によれば、画素内にある凹凸構造の面積と印刷の面積が略同一であることよって、反射観察した場合と透過観察した場合に観察される画像が反転させることが可能である。
【0025】
請求項4の発明によれば、画像の濃淡が2値である。2値であることによって反射観察と透過観察で観察される画像の区別がより明確にすることができる。
【0026】
請求項5の発明によれば、凹凸構造領域と印刷領域の表示色が略同一である。略同一であることによって凹凸構造領域と印刷領域を反射観察した場合に区別できないようにすることが可能である。
【0027】
請求項6の発明によれば、複数の凸部又は凹部の中心間距離が100nm以上500nm未満であり、複数の凸部又は凹部の高さ又は深さが100nm以上500nm未満である。上記条件で成形することによって効果の高い低反射機能を発現することが可能である。
【0028】
請求項7の発明によれば、金属薄膜層の平坦面における膜厚が50nm以上100nm
以下である。この条件にて金属薄膜層を成形することで、平坦面と凹凸構造領域の透過率差を最大にすることが可能である。
【0029】
請求項8の発明によれば、画素が二次元的に配列されており、形状が矩形状である。矩形状であることによって、画像の取り扱いが向上する。
【0030】
請求項9の発明によれば、画素の一辺の長さは145μm以下とすると良い。一辺の長さが145μm以下の画素を整然配列することで、表示体を肉眼で観察した際に、画素の形状が認識されるのを防ぐことができる。
【0031】
請求項10の発明によれば、本発明の表示体を印刷物やカード、その他の物品に貼りあわせる、または、組み合わせることによって、従来の物品に高い偽造防止効果を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の表示体の概略図。
【図2】図9に示す表示体のI−Iの断面を示した図。
【図3】図1に示す表示体に採用可能な構造の一例を示した断面図。
【図4】図2の低反射領域20の凸構造を示した斜視図。
【図5】図4の凸構造を示した平面図。
【図6】図2の低反射領域20の凸構造に採用可能な形態の一例を示した斜視図。
【図7】図6の凸構造を示した平面図。
【図8】金属薄膜層の一例を示す断面図。
【図9】図1の点線領域Aを拡大した図。
【図10】低反射領域及び印刷領域の占有面積による反射光の観察時と透過光の観察時の違いを示した図。
【図11】表示体10を観察者側から光源を表示体に入射させ観察した場合に得られる画像。
【図12】表示体10を観察者の反対側から光源を表示体に入射させ観察した場合に得られる画像。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下本発明を実施するための形態を、図面を用いて詳細に説明する。本発明の図1は、本発明の表示体の実施例を示す概要図である。図2は、図1の点線領域Aの拡大図である図9に示す表示体のI−I線に沿った断面図である。
【0034】
図2における凹凸構造部20は、凸構造200が、光透過性基材100上に積層されている凹凸構造形成層101に、凸構造200を持った金型からエンボス加工により、凹凸構造形成層101には、凹構造として形成されるが、観察者は光透過性基材100側から観察するために、凸構造200として見える。
【0035】
表示体10は、光透過層11(光透過性基材100と凹凸構造形成層101)と印刷層103と金属薄膜層102との積層体を含んでいる。この例においては、光透過層11は光透過性基材100と凹凸構造形成層101からなり、凹凸構造形成層101に凸構造200が、形成されている。図2に示す例では、印刷層103側を前面側(観察者側)とし、金属薄膜層側を背面側としている。図2では、光透過層11の上に印刷層103を示しているが、図3に示すように光透過層11と金属薄膜層102との間に形成していても良い。
【0036】
光透過性基材100は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートか
ら形成されている。光透過性基材100の材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)などを用いることができる。
【0037】
凹凸構造形成層101は光透過性基材100の上に形成された層であり、この凹凸構造形成層101の表面には、凸構造200が形成されている。凹凸構造形成層101に凸構造200を形成する方法としては、例えば光透過性基材100の上に樹脂を塗布し凹凸構造形成層101を形成して、この層にスタンパを押し当てながら樹脂を硬化させる方法を用いることができ、光透過性基材100の上に塗布される樹脂としては、光透過性を有する熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などを使用することができる。
【0038】
金属薄膜層102の材料としては特に限定されないが、可視光に対し高い反射率を示すアルミニウムなどの金属材料を用いることが好ましい。また金属薄膜層の膜厚は光学特性から50〜100nm程度が好ましい。反射層を積層する方法として、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により、レリーフ構造に追従して、高精度に薄膜にすることができる。
【0039】
印刷層103は、文字や絵柄、記号などの画像を表示するもので光を透過しない特性を有しており、印刷層103の印刷方式に応じて、オフセットインキ、活版インキ、グラビアインキなど様々なインキが用いられている。印刷用に用いられるインキは、樹脂タイプのインキ、油性インキ、水性インキなど組成による分類や、酸化重合型インキ、浸透乾燥型インキ、蒸発乾燥型インキ、紫外線硬化型インキなど乾燥方式による分類ができ、基材の種類や印刷方式に応じて適宜選択される。
【0040】
また、帯電性をもったプラスチック粒子に黒鉛、顔料などの色粒子を付着させたトナーを、静電気を利用してポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムや紙などの基材に転写させ、加熱し定着させることで印刷層103を形成する技術も一般的である。
【0041】
表示体10は接着層、粘着層などの他の層をさらに含むことができる。この場合、接着層や粘着層は、金属薄膜層102を被覆するように形成することが望ましい。また接着層や粘着層は光透過性を有している。表示体10が光透過層11と金属薄膜層102の両方を含む場合、通常、金属薄膜層102の表面の形状は光透過層11と金属薄膜層102との界面の形状とほぼ等しい。したがって、上記のように接着層又は粘着層を設けると、金属薄膜層102の表面が露出するのを防止できる。それ故、偽造を目的とした凹凸構造の転写による複製を困難とすることができる。
【0042】
次に凹凸構造形成層101に形成されている凹凸構造部20について説明する。凹凸構造部20は、金属薄膜層102から凹凸構造形成層101に向けて突出する複数の凸構造200、又は凹凸構造形成層101から金属薄膜層102に向けて凹む複数の凹構造が、100nm〜500nmの中心間距離Dでランダム又は、周期的に配列している。
【0043】
また、凸構造200の高さ又は凹構造の深さが100nm〜500nmである。今後は説明の簡略化のため凸構造200に特化して説明を行うが凸構造200を凹構造に置き換えても差し支えない。図4、5に可視光の波長未満の中心間距離Dで凸構造200がランダムに並んでいる斜視図及び平面図を示す。また図6、7に凸構造200がX軸及びY軸に平行して周期的に配列している斜視図及び平面図を示す。上記には典型的な凸構造200を配列した例を示しており、X軸とY軸が45度の角度で交差する直線と平行に配列されていても良い。
【0044】
凸構造200は、典型的にはテーパ形状を有している。テーパ形状としては、例えば、半紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、切頭円錐及び切頭角錐などの切頭錐体形状な
どが挙げられる。凸構造200の側面は、傾斜面のみで構成されていてもよく、階段状であってもよい。凸構造200のテーパ形状は、後述するように凹凸構造部20に入射する光の反射率を小さくするのに役立つ。なお、スタンパを利用して凸構造200を形成する場合、テーパ形状は、硬化した凹凸構造形成層101のスタンパからの取り外しを容易にし、生産性の向上に寄与する。
【0045】
上述したように、凸構造200はテーパ形状が適しており、このような構造を採用した場合、中心間距離DD1が十分に短ければ、凹凸構造部20はZ方向に連続的に変化した屈折率を有していると見なすことができる。そのため、どの角度から観察しても反射率は小さい。
【0046】
したがって、表示体10のうち凹凸構造部20に対応した部分は、その法線方向から反射観察した場合に、例えば黒色又は暗灰色に見える。ここで反射観察とは、一般に上方に配置した光源から表示体の表面に光を照射し、表示体表面からの反射光によって表示体表面の様子を観察する場合のことを言う。
【0047】
なお、ここでの「黒色」は表示体10のうち凹凸構造領域20に対応した部分に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm〜700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味し、「暗灰色」は表示体10のうち凹凸構造領域20に対応した部分に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が可視光の波長である400nm〜700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が約25%以下であることを意味する。
【0048】
上述のように、凹凸構造部20は、正面から、即ち、透過性基材100側から反射観察した場合に、黒色または暗灰色を表示する。したがって、表示体10のうち凹凸構造領域20に対応した部分は、正面から反射観察した場合に、例えば黒色又は暗灰色印刷層103のように見える。
【0049】
印刷部21と凹凸構造部20の表示色が略同一であることが好ましい。ここで言う表示色が略同一とは、凹凸構造部20と印刷部21の色差ΔEabが13以内の値であることを示す。上記の値はC級許容差と呼ばれており、JIS標準色票の色票間の色差に相当する程度(JIS S6016)を示し、同じ色と判断されている。色差ΔEabは、凹凸構造部20と印刷部21の表示色を分光測色計などで物体の色を表現するパラメータであるL、a、bを測定し、凹凸構造部20と印刷部21の差分ΔL、Δa、Δbを計算して、式1より色差ΔEabを求める。
【0050】
【数1】

(式1)
凸構造200の中心間距離DD1は100nm〜500nmである。一般的には、凸構造200の中心間距離DD1が小さくなるに伴って明度及び彩度が低下し、より黒い表示が可能となり、中心間距離DD1が大きくなるに伴って輝度が上昇し、暗灰色に知覚されるような構造となる。また、凸構造200の高さが大きいほうがより黒い表示が可能となり、高さが小さくなるに伴って輝度が上昇し、暗灰色に知覚されるようになる。典型的には凸構造200の高さは中心間距離D、D1の1/2以上とすることが望ましい。
【0051】
具体的には、中心間距離D、D1が500nmであった場合、凸構造200の高さを250nm以上とすることで暗灰色の表示が可能となり、さらに、中心間距離DD1よりも大きい500nm以上の高さとすることでより黒い表示が可能となる。しかし、中心間距離D、D1が短くなる又は凸部の高さが高くなると凸構造200を成形することが困難になるため、中心間距離D、D1を100nm以上、高さを500nm以下としている。ま
た中心間距離D1が長くなる又は凸構造200の高さが低くなると黒色又は暗灰色の表示が困難となるため、中心間距離D、D1が500nm以下、凸構造200の高さが100nm以上としている。
【0052】
図6のように凸構造200を周期的に配列すると回折格子としても機能する。代表的な回折光は1次回折光であり、1次回折光の射出角βは、式2から算出することができる。
【0053】
【数2】

(式2)
この式2において、dは凹部または凸部間の距離を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは入射角を表している。式2から明らかなように、1次回折光の射出角βは、波長λに応じて変化する。すなわち、凸部(または凹部)からなる凹凸構造領域は、分光器としての機能を有している。したがって、照明光が白色光である場合に凸構造200からなる凹凸構造領域を観察する際の観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。
【0054】
しかし、式2から中心間距離D1を200nm未満に設定した場合には、1次回折光を射出する機能は得られなくなる。よって回折光機能を付加したい場合には凸構造200を周期的に配列し、尚且つ中心間距離D1を200nm以上にする必要がある。
【0055】
次に透過観察について説明する。ここで透過観察とは、一般に表示体の背面に配置した光源から表示体の裏面に光を照射し、表示体表面からの透過光によって表示体表面の様子を観察する場合のことを言う。上述したように金属薄膜層102は、平坦面における層厚が50nm〜100nm以下の範囲であることが好ましい。金属薄膜層102の一例を図8に示す。図8に示される金属薄膜層102は、気相堆積法によって層厚T1で形成された平坦部22を有し、凸構造200の側面部分は層厚T1より相対的に薄い層厚T2で形成されている。凸構造200の高さが高ければより層厚T2は薄くなる。具体例として示せば、T1が60μmの場合、T2は30μmである。そのため、凸構造200が設けられる凹凸構造領域20は、平坦部22と比較して光を透過しやすくなる。層厚が50nm以下の場合には平坦面の反射率が80%以下になる。
【0056】
また、層厚が100nm以上の場合にはT2が厚くなるため、光が透過しにくくなる。以上のことから金属薄膜層は平坦面における層厚が50nm〜100nm以下である。つまり、金属薄膜層102が50〜100nmの凹凸構造部20において透過観察を行うと透過光を観察できる。また、平坦部22は金属薄膜層102によって反射されるため透過光は観察できない。さらに上述した印刷層103は光を透過しないインキであるため印刷領域21においても透過光を観察することはできない。
【0057】
次に表示体表面を構成する画素について説明する。表示体表面は、複数の画素に分割されており、画素は凹凸構造部20、印刷部21、平坦部22又は3つの組み合わせで構成されている。一例として図9に図1の表示体10の点線領域Aの拡大図を示す。図9の点線領域Bが1画素を示している。図9の説明では画素の形状が矩形状であるが円形状や多角形でも良い。また、図9では画素が整然配列しているが、ハニカム構造状などに配列していても良い。図9の縦線部分が凹凸構造部20であり黒塗り部分が印刷部21を示している。
【0058】
また、凹凸構造部20や印刷部21が矩形状で示してあるが円形状や多角形などでもよい。また、画素の大きさは145μm以内であることが好ましい。観察者が自分の眼から500mm離してある位置の画像表示体の状態を観察すると、一般的に、視力が1.0の人間の眼の分解能は1分であるため、眼の分解能の限界により、145μm以下の構造は
分解できない。よって、画素の長辺の長さを145μm以下とすると画素同士を分解することはできない。ゆえに、画素の長辺の長さを145μm以下とすることによって、より高品位な画像を表示する画像表示体を提供することが可能となる。
【0059】
図10に凹凸構造部20のみで構成した画素(a)を反射観察(a1)及び透過観察(a2)、印刷部21のみで構成した画素(b)を反射観察(b1)及び透過観察(b2)、平坦部22のみで構成した画素(c)を反射観察(c1)及び透過観察(c2)を示す。また、凹凸構造部20と印刷部21と平面部22で構成した画素(d)〜(g)を反射観察(d1)〜(g1)及び透過観察(d2)〜(g2)した場合を示す。(a)〜(g)の縦線部分が凹凸構造部20であり黒塗り部分が印刷部21を示している。また斜線部300は暗部(黒色、暗灰色)を示しており、ドット塗り部301は、明部を示している。図10に示したように画素に占める凹凸構造部20、印刷部21、平坦部22の面積比率によって、反射観察と透過観察で表示される画像が異なる。
【0060】
次に表示画像の設計方法について簡単に説明する。2枚の画像を画像A、Bとした場合に、画像Aの反転画像が画像Bに含まれるように画像A、Bを作成する。画像Aの明部を凹凸構造領域(凹凸構造領域とは凹凸構造部と平坦部又は凹凸構造部を示す)で構成する。このとき明部は諧調を保持していても良い。諧調を保持している場合には、その諧調に応じて画像Aの明部を構成する画素の凹凸構造部の面積をコントロールする。また、画像B上の画像Aの反転画像以外の暗部を印刷領域(印刷領域とは、印刷部と平坦部又は印刷部を示す)で構成する。このように凹凸構造領域と印刷領域を設定することによって反射観察と透過観察のときに異なる画像を表示できる。
【0061】
上記に述べたような、画素を反射観察で観察できる画像と透過観察で観察される画像を考えながら配列することによって表示体を作製した一例を図11に示す。図11は、表示体10を反射観察した場合に表示される画像を示している。文字「P」部分は凹凸構造部20で作製している。よって上述したように反射率が低いため反射観察では黒色又は暗灰色に表示される。また、平坦部22では、反射率が高いため光源色が表示される。文字Tの背景を表示する領域24は凹凸構造部20又は印刷部21又は平坦部22又は前記3つ又は2つの領域の組み合わせからなり、反射率が高い部分と低い部分が混在するためモザイク画像が表示される。
【0062】
次に表示体10を透過観察した場合に表示される画像の一例を図12に示す。文字「P」部分は上述したように凹凸構造領域20であるために、金属薄膜層102の膜厚が平坦部22と比較して厚みが薄くなるため、透過光306を観察することができる。平坦部22は光源302からの光は金属薄膜層によって反射されてしまうために透過光306を観察することはできない。文字Tを表示する領域23は、光源からの入射光304に対して金属薄膜層で反射される光と透過する光306が文字「T」を表示させるように画素が配列されているため、文字「T」を観察することができる。文字Tの背景を表示する領域24は光を遮断する。
【0063】
本願発明では、回折光を用いていないために、虹色に見えることが無く、従来のレインボウホログラムを用いる場合に問題となった、観察条件の僅かな変化で、再生像の色変化が大きくなっていたが、そのようなことが無く。再生像が変化しにくい偽造防止表示体及び情報印刷物を提供することができた。
【符号の説明】
【0064】
10・・・表示体
11・・・光透過層
20・・・凹凸構造部
21・・・印刷部
22・・・平坦部
23・・・文字Tを表示する領域
24・・・文字Tの背景を表示する領域
100・・光透過性基材
101・・凹凸構造形成層
102・・金属薄膜層
103・・印刷層
200・・凸構造
300・・明度が低い部分
301・・明度が高い部分
302・・光源
303・・観察位置
304・・入射光
305・・反射光
306・・透過光
D1・・・凸構造中心間距離
T1・・・層厚
T2・・・相対的に薄い層厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の基材と、前記基材の一方の面の上に設けられた凹凸構造形成層と、前記凹凸構造形成層を被覆する金属薄膜層とを備えると共に、前記凹凸構造形成層が設けられた基材面とは反対側の基材面の上、前記基材と凹凸構造形成層との間、あるいは前記凹凸構造形成層と金属薄膜層との間に印刷層を備えて構成され、凹凸構造形成層の有無及び印刷層の有無によって画像を表示する偽造防止表示体であって、
前記画像は、透過画像と反射画像とで構成されており、かつ、これら透過画像と反射画像とは、それぞれ、複数の画素によって構成されており、
凹凸構造形成層を有する部位を凹凸構造部、印刷層を有する部位を印刷部、これら凹凸構造形成層と印刷層のいずれも存在しない部位を平坦部とするとき、前記印刷部はその色彩に応じて光を反射する色光反射部を構成しており、凹凸構造部は凹凸構造形成層に設けられた凸部又は凹部であって、可視波長未満の中心間距離で配列された凸部又は凹部を有していて、この凸部又は凹部に基づいて、光を反射することなく透過する透過部を構成しており、平坦部は、金属薄膜層に基づいて光源光を反射する光源光反射部を構成しており、
複数の前記画素のうち、少なくとも一部の画素が、凹凸構造部と印刷部又は平坦部の少なくとも2種類の部位を有している、
ことを特徴とする偽造防止表示体。
【請求項2】
前記反射画像の反転画像が、透過画像に含まれ、反射画像の明部が凹凸構造領域で構成され、透過画像上の反転画像以外の暗部が印刷領域で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止表示体。
【請求項3】
前記画素に占める前記凹凸構造領域と前記印刷領域の面積が略同一であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の偽造防止表示体。
【請求項4】
前記画像の濃淡が2値であり、濃淡に応じて前記画素の前記凹凸構造領域及び印刷領域の有無が決定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の偽造防止表示体。
【請求項5】
前記凹凸構造領域と印刷領域の色度が略同一であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の偽造防止表示体。
【請求項6】
前記複数の凸部又は凹部の中心間距離が100nm以上500nm未満であり、前記複数の凸部又は凹部の高さ又は深さが100nm以上500nm未満であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の偽造防止表示体。
【請求項7】
前記金属薄膜層の平坦面における膜厚が50nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の偽造防止表示体。
【請求項8】
前記複数の画素が二次元的に配列されており、凸部又は凹部の形状が矩形状であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の偽造防止表示体。
【請求項9】
前記画素の一辺の長さが145μm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の偽造防止表示体。
【請求項10】
光透過性を有する印刷物基材からなる情報印刷物であって、情報印刷物表面の一部の領域に、請求項1〜9のいずれか1項に記載の偽造防止表示体を備えたことを特徴とする情報印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−80099(P2013−80099A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219862(P2011−219862)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】