説明

傘収容具

【課題】 濡れた折畳み傘を折り畳んで収容し、それをかばん等に収容して携行しても水の漏出や滲出が防がれ、繰り返し使用し得る傘収容具の提供。
【解決手段】 略円柱形状をなす多数のパイルPを裏側方形片Bbの内部側の全面及び表側方形片Baの内部側の全面に配設する。各パイルPの基部は裏側方形片Bbを構成する基布S及び表側方形片Baを構成する基布Sに結合されている。各パイルPは、略円柱形状をなし、0.3デニールの非吸水性のフィラメントFが、パイルPの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、パイルPの略円柱形状外周面は、各フィラメントFの先端部により形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濡れた傘を収容した状態、特に濡れた折畳み傘を折り畳んで収容した状態で水の漏出や滲出が防がれる傘収容具に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平11−318530号公報(特許文献1)には防水加工を施した布又はビニールの傘袋(1)の下部に、先端部保護を兼ねた水滴受け(2)を設け、上部内側にリング(3)を装着したことを特徴とする、濡れ傘携行用傘袋の発明が記載されている。
【0003】
この防水加工を施した布又はビニールの傘袋の下部に、先端部保護を兼ねた水滴受けを設け、上部内側にリングを装着し、濡れた傘の収納を容易にすると共に、リング装着部より口元にかけて傘袋の一側を切り開いた開口部の縁に、紐通しを設け、閉じ具を有する閉じ紐を装着したものであり、これを使用することにより濡れた傘による不快な思いをすることなく、携行する事が出来るものとされている。
【0004】
しかしながら、濡れた折畳み傘を折り畳んで収容し、それをかばん等に収容して携行しても水の漏出や滲出が防がれる傘収容具については見当たらない。
【特許文献1】特開平11−318530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術に存した上記のような課題に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、濡れた折畳み傘を折り畳んで収容し、それをかばん等に収容して携行しても水の漏出や滲出が防がれ、繰り返し使用し得る傘収容具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の傘収容具は、
細長い袋状をなし内部から外部への水の浸透が防がれる傘収容袋部を備える傘収容具であって、
前記傘収容袋部は、その内部のうち少なくとも傘布部を収容する部分に、収容される傘の軸方向に対応する長手方向に満遍なく又は間隔おきに、多数の吸水用のパイルを有し、
前記パイルを形成するパイル形成体は、略円柱形状をなし、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイル形成体の軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、その略円柱形状外周面は、前記各フィラメントの先端部により形成されており、
前記傘収容袋部は、内部を乾燥のために外部に向かって開放するための開閉部を備えることを特徴とする。
【0007】
この傘収容具は、細長い袋状をなす傘収容袋部内に、傘収容袋部内の長手方向に傘の軸方向が沿うように傘を収容して使用する。
【0008】
傘収容袋部の内部のパイルを形成するパイル形成体は、略円柱形状をなし、0.05乃至0.8デニールの極めて細い非吸水性のフィラメントが、パイル形成体の軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、その略円柱形状外周面は、前記フィラメントの先端部により形成されている。パイル形成体におけるフィラメントの密度はパイル形成体の表面部から内方部に向かうほど高くなり、毛管現象により、パイル形成体の内方部に向かって強い吸液力が作用するので、パイルは、フィラメントの先端部が位置する表面部からパイル形成体の内方部に向かって迅速に比較的多量の水(他の成分を含有する水又はその他の液体でもよい)を吸収し得る。また、各パイルを構成するフィラメントが非吸水性であるという材質と、そのフィラメントがパイル形成体の軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設され、パイルの略円柱形状外周面は各フィラメントの先端部により形成されているという構造との両者よりして、遠心脱水性等の慣性力による脱水性又はその他の脱水性及び脱水後の乾燥性に優れる。
【0009】
濡れた傘を傘収容袋部内に収容した場合、傘収容袋部内のパイルは、傘に付着していた水分を吸収して保持する。パイルが吸水性に優れ、傘収容袋部は内部から外部への水の浸透が防がれるものであるため、傘収容袋部からの水の漏出や滲出が効果的に防がれ、傘を収容した状態でそのまま携帯したり、かばん等に収容する上で好適である。
【0010】
また、傘収容袋部の内部に設けられたパイルは、吸水性に優れると共に、開閉部により傘収容袋部の内部を外部に向かって開放することにより乾燥させることも容易であり、繰り返し使用に適する。
【0011】
本発明の傘収容具は、傘収容袋部の一端部に開口部又は開口可能部を有し、傘収容袋部の内部に、長手方向全体にわたりパイルが存在しない部分を有するものとすることができる。
【0012】
この場合、傘収容袋部内のパイルが水分を吸収した状態において、傘収容袋部傘を抜いた状態で傘収容袋部の外部から力を加えて内部のパイルが吸収した水を絞ったときに、傘収容袋部の内部の長手方向全体にわたりパイルが存在しない部分は、開口部又は開口可能部を介して水を排出するための排出経路を構成し得る。
【0013】
また本発明の傘収容具は、外側部に多数の吸水用の外部パイルを有し、前記外部パイルを形成するパイル形成体は、略円柱形状をなし、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイル形成体の軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、その略円柱形状外周面は、前記各フィラメントの先端部により形成されているものとすることができる。
【0014】
この場合、外側部に多数有する外部パイルも吸水性に優れるので、雨等に濡れた衣服等の水分を拭き取る上で好適である。
【0015】
上記パイル形成体は、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントを飾り糸とする2本又は3本以上のモール糸が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより略円柱形状を形成したもの(パイル形成糸)とすることができる。
【0016】
また上記非吸水性のフィラメントは、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリプロピレン系又はポリエチレン系のフィラメントであるものとすることができる。
【0017】
また上記非吸水性のフィラメントは、その吸水率が20℃相対湿度65%において5%以下であるものとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の傘収容具は、濡れた傘を傘収容袋部内に収容した場合、傘収容袋部内のパイルは、傘に付着していた水分を吸収して保持する。パイルが吸水性に優れ、傘収容袋部は内部から外部への水の浸透が防がれるものであるため、傘収容袋部からの水の漏出や滲出が効果的に防がれ、傘を収容した状態でそのまま携帯したり、かばん等に収容する上で好適である。また、傘収容袋部の内部に設けられたパイルは開閉部により傘収容袋部の内部を外部に向かって開放することにより乾燥させることも容易であり、繰り返し使用に適する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図面は何れも本発明の実施の形態の一例としての傘収容具についてのものであって、図1は模式的正面図、図2は内部を乾燥のために外部に向かって開放した状態の模式的正面図、図3は、図2における長手方向模式断面図、図4はパイルの模式的拡大横断面図、図5は、モール糸によりパイルを形成する工程の一部を示す模式図である。
【0021】
傘収容具Aは、傘収容袋部Bを備える。この例の傘収容具Aは傘収容袋部B以外にストラップLが付属しているが、傘収容袋部B以外の構成を含まないものでもよく、例えば、ストラップL以外の物が付属していてもよく、傘収容袋部Bがバッグやリュックサック又はその他の物品の一部を構成するものであってもよい。
【0022】
傘収容袋部Bは、表側方形片Baと裏側方形片Bbが1つの長辺同士において連結し、その長辺を除く3辺がファスナーN(スライドファスナーによる開閉部)により開閉し得る細長い方形袋状をなす。このようにして、傘収容袋部Bは、内部を乾燥のために外部に向かって開放するための開閉部を備える。なお、このような開閉部を備えるものとしては、例えば短辺同士において連結したものや、1つの短辺と一つの長辺にわたり連結していて他の3辺をファスナーで開閉し得るものであってもよい。この例の傘収容袋部Bは、折畳み傘全体を収容するためのものであるが、例えば1つの短辺等に、常時開口する開口部を有するものとしてその開口部から傘の把手部を突出させるようにすることもできる。また、傘収容袋部Bは方形袋状に限らず他の形状でもよく、円筒袋状等の筒形の袋状であってもよい。
【0023】
この傘収容袋部Bの袋状構造は、シート状の防水素材を用いて、内部から外部への水の浸透が防がれるように構成されている(尤も、完全に浸透が防がれることを要するものではない。)。なお、必要箇所に封止等を施すこと等も勿論可能である。
【0024】
傘収容袋部Bの内部のうち裏側方形片Bbの内部側の全面にわたり、収容した折畳み傘に付着した水分を吸水するための多数のパイルPが密に設けられている。表側方形片Baの内部側については、この例ではパイルPは設けられていないが、吸水用のパイルPを裏側方形片Bbと同様に密に又は別の態様で設けることもできる。なお、吸水用のパイルPは、傘収容袋部Bの内部のうち少なくとも収容される傘の傘布部を収容する部分に、収容される傘の軸方向に対応する長手方向に満遍なく又は間隔おきに、多数の吸水用のパイルPを有するものとすることができ、短手方向においても、満遍なく又は部分に有するものとすることができる。
【0025】
また、傘収容袋部Bの外部のうち表側方形片Baの外部側の全面にわたり、多数の吸水用のパイルP(外部パイル)が密に設けられている。使用者の衣服や持ち物に付着した水分等を拭き取るためのものである。
【0026】
吸水用の各パイルPは、略円柱形状をなし、パイルPの基部は、裏側方形片Bbを構成する基布S及び表側方形片Baを構成する基布Sにそれぞれ結合されている。
【0027】
各パイルPは、0.3デニールの非吸水性のポリエステルフィラメントFを飾り糸とするモール糸Mにより形成されている。すなわち、図5に示すように、基布Sに対し、モール糸Mによるループ部Rを形成した後、ループ部Rを構成するモール糸Mのうち、ループ部Rの一方の基部から端部を構成する部分と他方の基部から端部を構成する部分が、両部分の芯糸Cを中心として撚り合わさることにより、略円柱形状をなすパイル形成体(パイル形成糸)によるパイルPを形成したものである。例えば、強撚モール糸Mを用い、基布Sに対しモール糸Mによるループ部Rを形成した後、熱処理(染色工程における熱処理が好ましい)を行うことにより各ループ部Rがそのモール糸Mの芯糸Cを中心として撚り合わさるものとすることができる。
【0028】
このようにして形成された各パイルPは、略円柱形状をなし、0.3デニールの非吸水性のフィラメントFが、パイルPの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、パイルPの略円柱形状外周面は、各フィラメントFの先端部により形成される。パイルPの先端部Paは、パイルPを構成する放射状に配されたフィラメントFの先端部により形成された略凸曲面状をなす。
【0029】
この傘収容具Aは、傘収容袋部B内に、傘収容袋部B内の長手方向に傘の軸方向が沿うように傘を収容して使用する。
【0030】
傘収容袋部Bの内部のパイルPを形成するパイル形成体におけるフィラメントの密度はパイル形成体の表面部から内方部に向かうほど高くなり、毛管現象により、パイル形成体の内方部に向かって強い吸液力が作用するので、パイルPは、フィラメントの先端部が位置する表面部からパイル形成体の内方部に向かって迅速に比較的多量の水(他の成分を含有する水又はその他の液体でもよい)を吸収し得る。また、各パイルPを構成するフィラメントが非吸水性であるという材質と、そのフィラメントがパイル形成体の軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設され、パイルPの略円柱形状外周面は各フィラメントの先端部により形成されているという構造との両者よりして、遠心脱水性等の慣性力による脱水性又はその他の脱水性及び脱水後の乾燥性に優れる。なお、外部のパイルPも同様である。
【0031】
濡れた傘を傘収容袋部B内に収容した場合、傘収容袋部B内のパイルPは、傘に付着していた水分を吸収して保持する。パイルPが吸水性に優れ、傘収容袋部Bは内部から外部への水の浸透が防がれるものであるため、傘収容袋部Bからの水の漏出や滲出が防がれ、傘を収容した状態でそのまま携帯したり、かばん等に収容する上で好適である。
【0032】
また、傘収容袋部Bの内部に設けられたパイルPは、吸水性に優れると共に、開閉部により傘収容袋部Bの内部を外部に向かって開放することにより乾燥させることも容易であり、繰り返し使用に適する。
【0033】
パイルPの形状は、例えば軸線方向長さが直径の1.5倍乃至10倍の略円柱形状とすることができる。好ましくは、軸線方向長さが直径の2倍乃至8倍、より好ましくは、軸線方向長さが直径の3倍乃至6倍程度である。パイルPの軸線方向長さは、例えば5乃至40mmとすることができる。好ましくは10乃至30mmである。なお、パイルPの直径は軸線方向にほぼ一定であることが好ましいが、必ずしもこれに限るものではない。
【0034】
吸水用のパイルPは、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントを飾り糸とする2本又は3本以上のモール糸が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより略円柱形状を形成したパイル形成糸(パイル形成体)等により形成したループパイルPとすることもできるが、傘収容袋部Bの内部のパイルPについては、収容する傘の一部が引っ掛ること等を防ぐ上で、図に示すような(或いは別の態様の)非ループのパイルPであることが好ましい。
【0035】
パイルPを構成するフィラメントFは、0.05乃至0.8デニールであり、好ましくは0.1乃至0.5デニール、好ましくは0.2乃至0.4デニールである。フィラメントFの材質は、ポリエステル系の他、例えば、ポリアミド系、ポリプロピレン系又はポリエチレン系のフィラメントFを用いることができる。非吸水性のフィラメントの吸水率は、20℃相対湿度65%において5%以下であるものとすることができる。
【0036】
芯糸Cは、吸水性糸および/または非吸水性糸とすることができる。芯糸Cの一部若しくは全部として熱融着糸を用いて飾り糸としてのフィラメントFを融着したモール糸Mの場合、フィラメントFの脱落を確実性高く防ぐことができる。
【0037】
各パイルPは同一形状及び同一サイズであるものとすることができるが、形状及びサイズが異なる複数種のパイルPを備えたものとすることもできる。
【0038】
なお、以上の実施の形態についての記述における構成部品の寸法、個数、材質、形状、その相対配置などは、特にそれらに限定される旨の記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】模式的正面図である。
【図2】内部を乾燥のために外部に向かって開放した状態の模式的正面図である。
【図3】図2における長手方向模式断面図である。
【図4】パイルの模式的拡大横断面図である。
【図5】モール糸によりパイルを形成する工程の一部を示す模式図である。
【符号の説明】
【0040】
A 傘収容具
B 傘収容袋部
Ba 表側方形片
Bb 裏側方形片
C 芯糸
F フィラメント
L ストラップ
M モール糸
N ファスナー
P パイル
Pa 先端部
R ループ部
S 基布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い袋状をなし内部から外部への水の浸透が防がれる傘収容袋部を備える傘収容具であって、
前記傘収容袋部は、その内部のうち少なくとも傘布部を収容する部分に、収容される傘の軸方向に対応する長手方向に満遍なく又は間隔おきに、多数の吸水用のパイルを有し、
前記パイルを形成するパイル形成体は、略円柱形状をなし、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイル形成体の軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、その略円柱形状外周面は、前記各フィラメントの先端部により形成されており、
前記傘収容袋部は、内部を乾燥のために外部に向かって開放するための開閉部を備えることを特徴とする傘収容具。
【請求項2】
傘収容袋部の一端部に開口部又は開口可能部を有し、傘収容袋部の内部に、長手方向全体にわたりパイルが存在しない部分を有する請求項1記載の傘収容具。
【請求項3】
外側部に多数の吸水用の外部パイルを有し、前記外部パイルを形成するパイル形成体は、略円柱形状をなし、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイル形成体の軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、その略円柱形状外周面は、前記各フィラメントの先端部により形成されている請求項1又は2記載の傘収容具。
【請求項4】
上記パイル形成体が、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントを飾り糸とする2本又は3本以上のモール糸が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより略円柱形状を形成したものである請求項1乃至3の何れか1項に記載の傘収容具。
【請求項5】
上記非吸水性のフィラメントが、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリプロピレン系又はポリエチレン系のフィラメントである請求項1乃至4の何れか1項に記載の傘収容具。
【請求項6】
上記非吸水性のフィラメントの吸水率が、20℃相対湿度65%において5%以下である請求項1乃至4の何れか1項に記載の傘収容具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−17210(P2010−17210A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177639(P2008−177639)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000178583)山崎産業株式会社 (77)
【Fターム(参考)】