説明

傷つきにくい調理器具およびその製造方法

【課題】基部の外面に、ガラスセラミック製天板上での使用に適合するゾル‐ゲルコーティングが設けられた調理器具を提供する。
【解決手段】本出願は、食物を受けるのに適した内面(21)と熱源に近接して配置されることを意図される外面(22)とを有する基部(2)を備え、前記外面(22)はゾル‐ゲルアウターコーティング(3)によって覆われており、前記ゾル‐ゲルアウターコーティング(3)は、球状フィラーを含むと共に、少なくとも1つの金属ポリアルコキシレートのマトリックスを含む材料の連続膜の形態である、調理器具(1)に関する。本発明によれば、前記球状フィラー(71、711、72、721)は金属フィラーであり、その一部は、前記ゾル‐ゲルコーティング(3)上に突出すると共に、前記コーティング(3)の表面上に均一に分散されている。
本発明は、このような調理器具の製造方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して調理器具に関する。調理器具の基部(base)には外面が備えられている。外面には、ガラスセラミック製天板(hob )上での使用に適したゾル‐ゲルコーティングが備えられている。本発明はそのような調理器具の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
本発明によれば、ゾル‐ゲルコーティングという用語は、液相の前駆体に基づく溶液からゾル‐ゲル法によって作られるコーティングを示す。液相の前駆体に基づく溶液は、低い温度における一連の化学反応(加水分解および縮合)によって固体に変換される。このようにして得られたコーティングは、有機‐無機物と、完全な無機物とのいずれであってもよい。
【0003】
本発明によれば、有機‐無機コーティングという用語は、特に使用される前駆体およびコーティング硬化温度に起因して、網状組織が本質的に無機物であるコーティングを示す。
【0004】
本発明によれば、完全な無機コーティングという用語は、いかなる有機基も持っていない完全な無機物質からなるコーティングを示す。このようなコーティングは、少なくとも400℃の硬化温度にてゾル‐ゲル法によって得られるか、または400℃未満の硬化温度にてテトラエトキシシラン(TEOS)タイプの前駆体から得られる。
【0005】
ゾル‐ゲルコーティングの分野において、シリコンベースの金属アルコキシド(シラン)から得られたものか、またはアルミニウム(アルミン酸塩)に基づくものが特に知られている。これらのコーティングは、現在、調理器具の分野において、かなり開発されている。これらのコーティングは、特に調理面の固着(こびり付き)防止コーティング(non-stick coatings)のために開発されている。
【0006】
固着防止コーティングのためのこれらのコーティングの使用の他、ゾル‐ゲルコーティングも、調理器具の外面を覆うために使用されうる。実際に、ゾル‐ゲルコーティング、特にアルカリ法によって開発されたそれらは、高い硬度を提示し、ゾル‐ゲルコーティングを特に調理器具のアウターコーティングとしての使用に特に適したものとしている。
【0007】
しかしながら、この硬度はガラスセラミック製天板が使用される際に主な欠点となる。なぜなら、天板上のゾル‐ゲルコーティングの摩擦はガラス‐オン‐ガラス摩擦(glass-on-glass friction)からなり、傷(scratching)の発生を引き起こす。この傷の発生は、美的観点のみならず、とりわけ天板作動に関して非常に有害である。
【0008】
ガラスセラミック製天板上で使用する場合におけるこれらの傷付きの問題を改善するために、特許文献1に記載されているように、調理器具の基部を覆っているガラスタイプ(この場合、エナメル)のアウターコーティングの中に、特に金属製のビーズを埋め込むことが当業者に知られている。
【0009】
特に、特許文献1において、出願人は、ビーズを含むエナメルコーティングの組成物が、基材(substrate)(この場合、調理器具の基部の外面)へのスクリーン印刷付加(塗布、塗装、適用;application)に適した揺変流動性ペースト(thixotropic rheofluidifying paste)の形態である方法を開発した。
【0010】
本発明の範囲内において、コーティングはゾル‐ゲルコーティングからなるので、コーティングを得るための性質および方法は異なる。
【0011】
生産段階において、ゾル‐ゲルコーティングは、基本的な(非重合の、例えばシランタイプの)分子、およびかなりの割合の溶媒を単に含む。
【0012】
ゾル‐ゲルコーティング組成物は、流体であり、スクリーン印刷付加に適さないこと、または配合において高密度フィラー(例えば、金属製のもの)を懸濁させるのに適さないことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第2008552号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/0004373号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/228033号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この問題を改善するために、本出願人は、高密度の金属ビーズを含むゾル‐ゲルコーティングを備える調理器具の製造方法を開発した。これにおいて、ゾル‐ゲルコーティング組成物の粘度は、セルロースを加えることによる合成の間に改良される。そして、その配合は、金属アルコキシド前駆体の加水分解‐縮合相の間に発生したアルコールを、グリコールのようなより重い溶媒に置き換えることによって、スクリーン印刷の付加に適する。
【0015】
粘度の増加は、高密度のビーズ(例えば金属製のビーズ)の組み込みを可能にする。なぜならば、粘度の増加は、ゾル‐ゲル組成物の懸濁液中にビーズを保持させ、ゾル‐ゲルコーティング中でのビーズの沈殿を減速し、または停止させることさえも可能にするからである。
【0016】
さらに、溶媒を交換することは、基材へのスクリーン印刷付加後における組成物の過度に速い乾燥を防ぐことを可能にする。この過度に速い乾燥は、合成(加水分解‐縮合)中に、スクリーン印刷の付加のために使用されるファブリックスクリーンの隙間に入るライトアルコール(light alcohol)の発生と関連する。
【0017】
ゾル‐ゲルコーティングの中へビーズを導入することは当業者に知られている。
【0018】
この方法において、特許文献2は、疎水性のおよび/または油分をはじくゾル‐ゲルコーティング組成物を説明する。この組成物は、優れた表面清浄性を可能とすることを意図されたものである。
【0019】
これらのシリカ‐ベース組成物は、様々な樹脂によって連結されたガラスビーズを含み、可能な組み合わせはポリエチレン‐ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)混合物からなる。
【0020】
コーティング中にこれらのビーズを含むことは、前記コーティングを、疎水性を有する状態または油分をはじく状態にする。
【0021】
しかしながら、これらのコーティングは、ガラスセラミック製天板上で使用される際に、傷付きを生じさせるという主な欠点を伴い、これは、美的観点および天板作動の点においても有害である。ビーズの天板上でのガラス‐オン‐ガラス摩擦によるからである。
【0022】
ゾル‐ゲルコーティング組成物の中へ金属粒子を導入することは当業者に知られている。この方法において、特許文献3は、加熱器具、特に調理器具(コーヒーメーカー、炊飯器、ホットプレート、グリル、ワッフルメーカー、フライヤー等)のためのゾル‐ゲルコーティングを説明する。コーティングは、絶縁層として機能する第1層を備える。この第1層は有機‐シラン前駆体からゾル‐ゲル法によって得られ、スクリーン印刷によって付加される。第1層には様々な大きさおよびタイプの粒子が組み込まれている。絶縁ゾル‐ゲル層のほか、特許文献3に説明されているゾル‐ゲルコーティングは導電層をさらに含みうる。この導電層もゾル‐ゲル法によっても得られる。絶縁ゾル‐ゲル層において、粒子はフレーク状の酸化物である。この粒子は、特に連続する冷却および加熱の後の亀裂の発生を防止することを意図されている。導電層において、粒子は導電性粒子である。この粒子は特にグラファイトの金属(特に、銀若しくはそのあらゆる合金、または単に金属により被覆されたもの)製である。導電層の内容物は望ましい抵抗を得るように調整される。
【0023】
したがって、特許文献3は、金属粒子が調理器具および/または天板での傷の発生の削減をもたらすことを教示していない。なぜならば、特許文献3は、フィラーを含む導電層の表面上にそれらフィラーが突き出していることを教示していないからである。そして、望ましい導電性粒子がフレーク状であるならば、これは前記文献の一般的教示からは想到できない。
【0024】
このように、上述のゾル‐ゲルコーティングの先行技術のいずれも、調理器具および/または天板の傷の発生を防止または減少できない。
【0025】
したがって、本発明の目的は、基部の外面に、ガラスセラミック製天板上での使用に適合するゾル‐ゲルコーティングが設けられた家庭用調理器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
より具体的にいえば、本発明は調理器具に関する。調理器具は食物を受けるのに適した内面と熱源に近接して配置されることを意図される外面とを有する基部を備え、前記外面はゾル‐ゲルアウターコーティングによって覆われており、前記ゾル‐ゲルアウターコーティングは、球状フィラーを含むと共に、少なくとも1つの金属ポリアルコキシレートのマトリックスを含む材料の連続膜の形態である。
【0027】
本発明によれば、球状フィラーは金属フィラーであり、その一部は、前記ゾル‐ゲルコーティング上に突出すると共に、前記コーティングの表面上に均一に分散されている。
【0028】
球状フィラーという用語は、本発明によれば、角のないフィラーを示し、特に卵形または球形の形状を有する。
【0029】
有利に、ゾル‐ゲルアウターコーティングは、球状フィラーを含む少なくとも1つのスクリーン印刷アウター層を備える。当該層は、ガラスセラミック製天板との接触面を画成するとともに、「玉軸受け」効果をつくりだす。
【0030】
スクリーン印刷層という用語は、本発明によれば、流動性ペースト(rheofluidifying paste)状のゾル‐ゲルコーティング組成物の層をスクリーン印刷することによって得られるゾル‐ゲルコーティングの層を示す。流動性ペーストは、好ましくは、0.5〜5Pa.s.(5〜50ポアズ)の粘度を有する。
【0031】
有利に、ゾル‐ゲルアウターコーティングは、
‐本質的に球状フィラーを含まないゾル‐ゲルコーティングの第1層であって、基部の外面を覆う第1層と、
‐前記球状フィラーを含むゾル‐ゲルコーティングの第2層であって、前記第1層を完全に覆う第2層とを、基部から連続的に含んでもよい。
【0032】
好ましくは、ゾル‐ゲルコーティングの第2層はゾル‐ゲルコーティングの第3層によって部分的に覆われている。ゾル‐ゲルコーティングの第3層は非連続的なスクリーン印刷層であり、装飾的なデザインを提供すると共に、球状フィラーも有する。本発明による金属球状フィラーは、コーティングの中に固着するには通常は好ましくない滑らかな表面を有するにも関わらず、ゾル‐ゲルコーティングの中にしっかりと固着される。
【0033】
スクリーン印刷がスクレーパーを使用してスクリーンのメッシュを通して流動性ペーストを付加することからなる技術である場合、そのような技術は、スクリーン印刷スクリーンワイヤ径によって保証される均一な厚さの層の堆積、およびゾル‐ゲルコーティングの様々なスクリーン印刷層におけるビーズの好ましい分布をもたらす。
【0034】
さらに、ゾル‐ゲルコーティングの2つのスクリーン印刷層を有する好ましい実施形態についてより具体的に述べると、ゾル‐ゲルコーティングの第3層(すなわち、第2スクリーン印刷層)のビーズの貫入深さは制御される。それは、まず、最初にゾル‐ゲルコーティングの下層の第2層(すなわち、第1スクリーン印刷層)のビーズの存在によって制御される。ゾル‐ゲルコーティングの第2層(すなわち、第1スクリーン印刷層)のビーズは、ゾル‐ゲルコーティングの第3層(すなわち、第2スクリーン印刷層)のビーズの少なくともいくつかをおそらく支える。そのうえ、ゾル‐ゲルコーティングの第2層(すなわち、第1スクリーン印刷層)に含まれるビーズは、耐摩耗性(wear resistance)を増やし、そして装飾的なデザインをもたらす第2スクリーン印刷層によって覆われていない前記層の部分のより簡単なクリーニングを可能にする。
【0035】
有利に、ゾル‐ゲルアウターコーティング上に突き出ている球状フィラーの表面密度は1平方ミリメートルあたり50〜300個のフィラーであり、好ましくは1平方ミリメートルあたり100〜250個のフィラーである。1平方ミリメートルあたり300個を超えるフィラーの表面密度では、光沢を失うとともに、耐熱衝撃性の減少が観測される。1平方ミリメートルあたり50個を下回るフィラーの表面密度では、ゾル‐ゲルコーティングの重量配分は十分に均一でないし、ガラスセラミック製または誘導天板の傷付きに対する影響が観測される。
【0036】
有利に、球状フィラーの直径は5〜40μmであり、その平均直径は15〜20μmである。これに対して、アウター層または各アウター層の厚さは15〜30μmである。この方法において、いくつかのビーズはスクリーン印刷層の表面と同一平面上にある。全てのビーズは、その半径に少なくとも等しい深さだけ、ゾル‐ゲル層の中に挿入される。そしてスクリーン印刷層の中への完全な固着を可能にする。
【0037】
好ましくは、アウタースクリーン印刷層は5〜30重量パーセントの金属フィラーをそれぞれ含む。5パーセント未満のビーズでは、ゾル‐ゲルコーティングの特性への効果は無視できるようになる。それに対して、30パーセントを超えるビーズでは、ビーズとゾル‐ゲルコーティングとの間の結合は損なわれる。
【0038】
本発明による調理器具を生産する使用に適した基材として、基部および基部から立ち上がる側壁を有する窪んだボウル(hollow bowl)が有利に使用されるだろう。
【0039】
本発明の範囲内において使用するのに適した基材は、金属、ガラス、プラスチック、およびセラミックから選ばれた材料により、有利に作製されることが可能である。
【0040】
本発明による方法に使用するために適している金属基材は、任意に陽極酸化処理されたアルミニウム若しくはアルミニウム合金、又は研磨、ブラッシングにより若しくはマイクロビーズを伴って処理されたアルミニウム、又は研磨、ブラッシングにより若しくはマイクロビーズを伴って処理されたステンレス鋼、又は鋳鋼若しくはアルミニウム、又は鍛造若しくは研磨された銅、により作成された基材を好都合に含んでいる。多層複合基材を挙げることもできる、例えば、2層のアルミニウム(又はアルミニウム合金)/ステンレス鋼基材、および3層のステンレス鋼基材/アルミニウム(又はアルミニウム合金)/ステンレス鋼基材。
【0041】
本発明は以下のステップを含む調理器具の製造方法にも関する:
a)食物を受けるのに適した内面と熱源に近接して配置されることを意図される外面とを有する基部を備える調理器具の最終形状を有する基材を設けるステップ;
b)少なくとも1つの金属アルコキシドのゾル‐ゲル前駆体を含む水性組成物を作成するステップ;
c)水と、酸性または塩基性触媒とを導入することによって前記ゾル‐ゲル前駆体を加水分解して、その後の縮合反応がアルコール形成を誘導してゾル‐ゲル組成物を得るステップ;
d)前記加水分解‐縮合ステップc)にて生成されたアルコールを部分的にまたは完全に除去し、除去されたアルコールをグリコールまたはテルベン誘導体によって置き換えて改良されたゾル‐ゲル組成物を得るステップ;
e)ゾル‐ゲル組成物にセルロースを加えて粘度を増加し、0.5Pa.s.から5Pa.s.までの間(すなわち、5ポアズから50ポアズまでの間)の粘度を有する流動性ペースト状の濃いゾル‐ゲル組成物を得るステップ;
f)ゾル‐ゲル組成物(または流動性ペースト)に球状金属フィラーを加え、濃く且つ混入されたゾル‐ゲル組成物を得るステップ;
g)濡れた状態で少なくとも20μmの厚さを有する少なくとも1層の濃く且つ混入されたゾル‐ゲル組成物を、基材の外面全体にスクリーン印刷によって付加するステップ;および、
h)180℃から350℃までの間の温度にて前記層を硬化させるステップ。
【0042】
好ましくは、使用される前駆体は以下から構成された基から選択された金属アルコキシドである:
‐一般式M1(OR1n に従う前駆体、
一般式M2(OR2(n-1)2´に従う前駆体、および
一般式M3(OR3(n-2)3´2に従う前駆体、ここで:
1、R2、R3又はR3´はアルキル基を示す。
【0043】
2´はアルキル基またはフェニル基を示す。
【0044】
nは金属M1、M2又はM3の最大原子価に対応する整数である。
【0045】
1、M2又はM3は、ケイ素(Si)、亜鉛(Zr)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、マグネシウム(Mg)、又はインジウム(In)から選択された金属を示す。
【0046】
有利に、SG溶液(SG solution)の金属アルコキシドはアルコキシシランである。
【0047】
本発明による方法のSG溶液に使用するのに適しているアルコキシシランは、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、ジメチルジメトキシシラン、及びこれらの混合物を特に含む。
【0048】
好ましくは、アルコキシシランMTESおよびTEOSが使用される。これらは、メトキシ基を含まないという利点を提供するからである。実際に、メトキシ基の加水分解はゾル‐ゲルの形成においてメタノール形成を生じさせる。その毒性分類があるならば、付加の間にさらなる注意を要する。他方、エトキシ基の加水分解はエタノールを発生させるだけである。このエタノールはより望ましい分類をもち、ゾル‐ゲルコーティングに使用するためのより少ない制限の仕様をもつ。
【0049】
本発明による方法の1つの有利な実施形態によれば、セルロースを加え濃いゾル‐ゲル組成物(又は流動性ペースト)を形成するステップe)は、セルロース以外の適量の有機結合剤の添加もさらに含み、0.5〜5Pa.s.(すなわち5〜50ポアズ)の濃さを有する濃いゾル‐ゲル組成物を得てもよい。
【0050】
本発明による流動性ペーストで使用するのに適した有機結合剤は、ゴム、例えば、「DOW ETHOCEL STD 20(登録商標)」のブランド名でDOW社によって市場に出されているエチルセルロース、例えば「ROHAGIT(登録商標)」のブランド名でEVONIK社によって市場に出されているようなアクリル樹脂、を特に含んでいる。
【0051】
最後に、本発明によるその方法は、ステップc)にて得られるようなゾル‐ゲル組成物を基材の外面全体に散布し、散布されたゾル‐ゲル層を形成する追加の付加ステップであって、当該散布されたゾル‐ゲル層の上に、ステップf)にて得られるような濃く且つ混入されたゾル‐ゲル組成物がスクリーン印刷によって付加されるステップをさらに含んでいてもよい。
【0052】
流動性ペースト状の濃く且つ混入されたゾル‐ゲル組成物のスクリーン印刷の付加は単一の又は多重の層において実行されてもよい。
【0053】
さらに、本発明の利点および特殊性が、非制限的な例としての以下の説明から、添付図を参照して明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第1の択一的実施形態による、本発明の1つの調理器具の概略断面図である。
【図2】第2の択一的実施形態による、本発明の調理器具の基材の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
添付図1は鋳造金属製の調理器具1を示す。調理器具1は窪んだボウルを含み、ボウルは基部2を画成する。外面(外側面)22が、ゾル‐ゲルコーティングの第1層(又は接着層(adherence layer))3によって覆われている。この接着層3は、ゾル‐ゲルコーティングの連続的なスクリーン印刷層61により覆われている。スクリーン印刷層61は、球状金属フィラー(混入物、fillers)71、711を含む。いくつかのフィラー711は、前記層61の表面上に突出している。
【0056】
添付図2に図示されている別の実施形態においては、ゾル‐ゲルコーティングの非連続的なスクリーン印刷層62が、装飾的なデザインを提供すると共に、スクリーン印刷層61を部分的に覆っている。このゾル‐ゲルコーティングの層62も球状金属フィラー72、721を含む。一部のフィラー721が前記層の表面上に突出している。下層のスクリーン印刷層61の一部のフィラー711は、装飾層62によって覆われていない前記層61の部分の表面上に突き出ている。
【0057】
図1および2は、基部2の内面(内側面)21が固着(こびり付き)防止(non-stick)層5により覆われていることも示している。
【0058】
好都合に、接着層3はボウル(図中には示されていない)の外面全体を覆い、他方、ゾル‐ゲルコーティングのスクリーン印刷層61、62は、調理器具1の基部2の領域に付加(塗布、塗装、適用;application)されるのみである。
【0059】
接着層3は散布、浸し塗り又は回転塗布によって付加される。他方、金属ビーズ71、711、72、721を含む、ゾル‐ゲルコーティングの2つのスクリーン印刷層61、62は、揺変流動性ペースト(thixotropic rheofluidifying pastes)を付加し、その後乾燥させることによって得られる。任意に、前記ペーストは、150〜350℃の範囲の温度にて焼結される。
【0060】
ゾル‐ゲルコーティングのスクリーン印刷層61、62を形成する流動性ペーストのスクリーン印刷付加の間、前記ペーストは、それぞれのゾル‐ゲル層61、62の中にビーズ71、711、72、721を堆積させるスクレーパーを使用して、スクリーンのメッシュを押し通される。
【0061】
このように、第2ゾル‐ゲル層61(又は第1スクリーン印刷層)のビーズ71、711は、接着層3である下層のゾル‐ゲル層の表面上に支持されている。他方、第3ゾル‐ゲル層62(又は第2スクリーン印刷層)のビーズ72、721は、第2ゾル‐ゲル層61(又は第1スクリーン印刷層)のビーズ71、711上に支持されている。
【0062】
さまざまなゾル‐ゲル層3、61、そしてもし適用できるなら層62は、150〜350℃の範囲の温度にて同時に硬化される。
【0063】
各スクリーン印刷層61、62は、5〜30重量パーセントの球状フィラー71、711、72、721を含む。
【0064】
本発明の第2の択一的実施形態についてより具体的にいうと、第3ゾル‐ゲル層62の付加の間、そのビーズ72、721は、第2ゾル‐ゲル層61を突き抜けることができない。なぜなら層61に含まれているビーズ71、711が、ビーズ72、721の貫入深さを制限するからである。
【0065】
第2スクリーン印刷層62のビーズ72、721は、当該層が摩耗に耐えることを可能にし、その一方で、当該層62によって形成されたエンボス状の装飾的デザインの美観を保持する。
【0066】
上記で述べた特性に加えて、ビーズ71、711は、非連続層62によって覆われていないゾル‐ゲル層61の部分を摩耗から保護し、その一方で、当該部分のより簡単なクリーニングを可能としている。
【0067】
本発明による調理器具の実施形態は下記に示されており、以下のステップを含む:
‐器具のボウルの外面に(濃くない)ゾル‐ゲル組成物を散布し、接着層3を形成するステップ;
‐接着層が乾燥した後、金属ビーズ71、711を含む揺変流動性ペーストの層61が、スクリーン印刷によってその上に付加されるステップ;および、
‐ペーストの層61が乾燥した後、第2揺変流動性ゾル‐ゲルペーストの非連続的な層62が、その上にスクリーン印刷によって付加されるステップ。これにおいて第2揺変流動性ゾル‐ゲルペーストは、第1スクリーン印刷ペーストと同じであり、金属ビーズ72、721を含み、装飾的なデザインを与えることを意図される。
【0068】
ゾル‐ゲル層3、61、62のそれぞれの組成は以下に示される:
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
スクリーン印刷ペーストのために改良されたゾル‐ゲル組成物は以下のようにして得られる:
‐接着ゾル‐ゲル組成物に関しては、上記で定義したような金属アルコキシド前駆体に基づく初期ゾル‐ゲルが、出発原料(starting material)として使用される;
‐この金属アルコキシドは、その後、水、および酸または塩基(base)の存在のもと反応槽(reaction vessel)で加水分解される(好ましくは、縮合反応によって、アルカリ性およびアルカリ土類のナトリウム、カリウム、水酸化物およびアルコールが形成される);
‐加水分解‐縮合反応の間、粒子が形成されるならば(例えば、金属アルキシド前駆体の加水分解‐縮合反応の間にそこで形成された集合体の生成。特に、金属アルキシド前駆体がアルカリ法によってつくられる場合)、得られたゾル‐ゲル組成物のろ過が必要かもしれない;
‐加水分解‐縮合反応の間に生成されたアルコールは、(排気によって強化された)蒸発/蒸留の方法によってゾル‐ゲル組成物から除去され、その後、グリコールまたはテルペン誘導体(テルピネオール)によって置き換えられ、改良されたゾル‐ゲル組成物を形成する;
‐改良されたゾル‐ゲル組成物は、その粘度を増し且つそのスクリーン印刷の付加をより簡単にするよう、セルロース(「Dow Ethocel STD 20(登録商標)」)と混合される。0.5〜5Pa.s.(すなわち5〜50ポアズ)の目標粘度が求められている。カルボキシメチルセルロース(CMC)又はキサンタンガムのような他の有機結合剤の付加は、スクリーン印刷ペーストの所望の流動性を調整するために役立つだろう;
‐最後のステップで、金属フィラー(例えば、Hoganas 316 HIC 15μ)が散布によって付加され、混入されたスクリーン印刷ペーストが得られる。
【0072】
このゾル‐ゲルスクリーン印刷層は装飾的であってもよく、従って、通常のおよび/または干渉性の無機顔料(例えば、「Merck Iriodin Lavared 4504(登録商標)」)が混入されてもよい。
【0073】
スクリーン印刷ペーストは、単一の又は多重の層で付加されてもよいし、金属上に直接付加されてもよいし、散布および任意の乾燥により予め付加されたコーティング上に付加されてもよい。
【0074】
様々なゾル‐ゲルコーティングの層の共同硬化相(co-curing phase)は、一般的な不活性のまたは酸化雰囲気(oxidant atmosphere)で、一般的なオーブンの中で実行されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物を受けるのに適した内面(21)と熱源に近接して配置されることを意図される外面(22)とを有する基部(2)を備え、前記外面(22)はゾル‐ゲルアウターコーティング(3)によって覆われており、前記ゾル‐ゲルアウターコーティング(3)は、球状フィラーを含むと共に、少なくとも1つの金属ポリアルコキシレートのマトリックスを含む材料の連続膜の形態である、調理器具(1)であって、
前記球状フィラー(71、711、72、721)は金属フィラーであり、その一部は、前記ゾル‐ゲルコーティング(3)上に突出すると共に、前記コーティング(3)の表面上に均一に分散されていることを特徴とする前記調理器具(1)。
【請求項2】
前記ゾル‐ゲルアウターコーティング(3)は、
‐本質的に球状フィラーを含まないゾル‐ゲルコーティングの第1層(31)であって、基部(2)の外面(22)を覆う第1層(31)と、
‐前記球状フィラー(71、711)を含むゾル‐ゲルコーティングの第2層(32)であって、前記第1層(31)を完全に覆う第2層(32)とを、基部から連続的に含むことを特徴とする請求項1に記載の調理器具(1)。
【請求項3】
ゾル‐ゲルコーティングの第2層(32)はゾル‐ゲルコーティングの第3層(33)によって部分的に覆われており、ゾル‐ゲルコーティングの第3層(33)は、装飾的なデザインを提供し且つ球状フィラー(72、721)を含む非連続的なスクリーン印刷層であることを特徴とする請求項2に記載の調理器具(1)。
【請求項4】
前記ゾル‐ゲルアウターコーティング(3)上に突出している球状フィラー(711、721)の表面密度は1平方ミリメートルあたり50個から300個までの間のフィラーであることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の調理器具(1)。
【請求項5】
前記ゾル‐ゲルアウターコーティング(3)上に突出している球状フィラー(711、721)の表面密度は1平方ミリメートルあたり100個から250個までの間のフィラーであることを特徴とする請求項4に記載の調理器具(1)。
【請求項6】
前記球状フィラー(71、711、72、721)の直径は5μmから40μmまでの間、その平均直径は15μmから20μmまでの間、およびアウター層または各アウター層(32、33)の厚さは15μmから30μmの間であることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の調理器具(1)。
【請求項7】
前記アウター層(31、32)は、5重量パーセントから30重量パーセントまでの間の金属フィラー(71、711、72、721)をそれぞれ含むことを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の調理器具(1)。
【請求項8】
基部(2)は、任意に陽極酸化処理されたアルミニウム若しくはアルミニウム合金、又は研磨、ブラッシングにより若しくはマイクロビーズを伴って処理されたアルミニウム、又は研磨、ブラッシングにより若しくはマイクロビーズを伴って処理されたステンレス鋼、又は鋳鉄若しくは鋳造アルミニウム、又は鍛造若しくは研磨された銅、により作成された金属基材であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の調理器具(1)。
【請求項9】
以下のステップを含むことを特徴とする調理器具(1)の製造方法:
a)少なくとも2つの互いに反対側の面(31、32)を有する基材(2)を設けるステップ;
b)少なくとも1つの金属アルコキシドのゾル‐ゲル前駆体を含む水性組成物を作成するステップ;
c)水と、酸性または塩基性触媒とを導入することによって前記ゾル‐ゲル前駆体を加水分解し、その後の縮合反応がアルコール形成を誘導してゾル‐ゲル組成物を得るステップ;
d)前記加水分解‐縮合ステップc)にて生成されたアルコールを部分的にまたは完全に除去し、除去されたアルコールをグリコールまたはテルベン誘導体によって置き換えて改良されたゾル‐ゲル組成物を得るステップ;
e)ゾル‐ゲル組成物にセルロースを加えて粘度を増加し、0.5Pa.s.から5Pa.s.までの間の粘度を有する流動性ペースト状の濃いゾル‐ゲル組成物を得るステップ;
f)ゾル‐ゲル組成物に球状金属フィラー(71、711、72、721)を加え、濃く且つ混入されたゾル‐ゲル組成物を得るステップ;
g)濡れた状態で少なくとも20μmの厚さを有する少なくとも1層の濃く且つ混入されたゾル‐ゲル組成物を、基材(2)の外面(22)全体にスクリーン印刷によって付加するステップ;および、
h)180℃から350℃までの間の温度にて前記層を硬化させるステップ。
【請求項10】
セルロースを加えて濃いゾル‐ゲル組成物を形成するステップe)は、セルロース以外の適量の有機結合剤を添加し、0.5Pa.s.から5Pa.s.までの間の濃さを有する濃いゾル‐ゲル組成物を得ることも含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップc)にて得られるようなゾル‐ゲル組成物を基材(2)の外面(22)全体に散布し、散布されたゾル‐ゲル層を形成する追加の付加ステップであって、当該散布されたゾル‐ゲル層の上に、ステップf)にて得られるような濃く且つ混入されたゾル‐ゲル組成物がスクリーン印刷によって付加されるステップをさらに含むことを特徴とする請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
流動性ペースト状の濃く且つ混入されたゾル‐ゲル組成物のスクリーン印刷付加が、単一の又は多重の層において実行されることを特徴とする請求項9から11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
前記基材(2)は調理器具の最終形状を有し、前記基材(2)は、食物を受けるのに適した内面(21)と熱源に近接して配置されることを意図される外面(22)とを有する基部(2)を含むことを特徴とする請求項10から12の何れかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−13710(P2013−13710A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−83855(P2012−83855)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【出願人】(594034072)セブ ソシエテ アノニム (63)
【Fターム(参考)】