説明

傷創感染を検出する方法

本発明は、以下の工程を含む傷創感染を検出する方法に関する:
−創傷から得られたサンプルを、リゾチーム、エラスターゼ、カテプシン Gおよびミエロペルオキシダーゼからなる群から選択される少なくとも2つの酵素に対する少なくとも2つの基質と接触させる工程、および、
−少なくとも2つの基質の該少なくとも2つの酵素による変換が測定される場合に、傷創感染が検出される工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傷創感染を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
創傷治癒は、真皮および表皮組織を再生させる体の天然のプロセスである。損傷組織を修復するためには、密接に組織化されたカスケードにおいて一連の複雑な細胞および生化学的事象が起こるが、炎症性、増殖性、および再形成相は一時に重複する。細胞外マトリックス環境内での常在および遊走細胞集団の両方の協調作用が、解剖学的連続性(continuity)および機能の修復のために必須である。急性創傷における治癒は、食作用、走化性、有糸分裂誘発、コラーゲン合成およびその他のマトリックス成分の合成を含む様々な細胞活性の協調的な完了を必要とし、3ヶ月以内に完了しなければならない。
【0003】
創傷治癒プロセスは非常に妨害されやすいため、様々な原因、例えば、感染、高齢、糖尿病および静脈または動脈疾患が、慢性、非-治癒性創傷の形成を導く。急性創傷とは対照的に、これらの慢性創傷は、適時に順序正しく治癒することができない。慢性潰瘍はあらゆる解剖学的領域を冒しうるが、もっとも一般的な部位は下肢である。活動性の下腿潰瘍のヨーロッパにおける見積もられた有病率は、少なくとも0.1-0.3パーセントである。静脈性高血圧および静脈不全に二次的な潰瘍は、すべての下腿潰瘍の70%近くを占め、糖尿病および動脈疾患が残りのかなりの割合に寄与している。
【0004】
創傷治癒は一般的に多様な生体分子によって制御されており、例えば、サイトカイン、増殖因子および酵素が挙げられる。慢性創傷において、治癒の正常なプロセスは一以上の点で妨害され、ほとんどは炎症性または増殖性相において妨害される。それらの治癒プロセスにおける重要性のために、増殖因子または酵素のレベルの変化が、慢性創傷において観察される損なわれた治癒を説明しうる。正常創傷治癒の相において、プロテアーゼの生産および活性が厳重に制御される。しかしながら、慢性創傷液(wound fluid)において、様々なプロテアーゼ、例えば、カテプシン G、およびECMの再形成に関与する必須のタンパク質であるフィブロネクチンを分解することができる好中球エラスターゼのレベルが、慢性創傷において有意により高いことも観察されている。さらに、特定の増殖因子はプロテアーゼによって分解されるようであり、かかるプロテアーゼは、マクロファージおよび多形核白血球によって主に分泌される。
【0005】
増殖因子と酵素との不均衡のほかに、細菌感染は慢性創傷の非常に一般的な原因である。細菌は、マクロファージおよび線維芽細胞と、栄養素および酸素について競合するため、細菌感染は、正常な創傷治癒を遅らせる可能性があり、さらに停止させる可能性すらある。細菌が宿主抵抗の全身および局所因子を超えて優勢に達した場合、結果として感染が起こる。これは全身性敗血症反応を誘発し、さらに創傷治癒に関与する多くのプロセスを阻害する。微生物の相対的な数およびそれらの病原性のほかに、宿主応答および因子、例えば、免疫不全、真性糖尿病および薬剤が、慢性創傷が感染症になるか治癒の遅延の兆候を示すかを決定づける。細菌負荷の上昇に加えて、バイオフィルム形成および多剤耐性生物の存在が慢性創傷において検出される。
【0006】
感染は長期の炎症性相をもたらすだけでなく、創傷のさらなる壊死ももたらし得、そして、敗血症の結果として死を導きうるので、臨床医は感染に迅速に応答できなければならない。細菌感染を同定する現在の方法は主に、臭気および創傷の外観の判断に依存している。専門家 (例えば、医師)のみにより、赤み、疼痛または悪臭といった兆候によって創傷における感染を同定することが可能である。
【0007】
ほとんどの症例において、綿棒でとった標本(swab)が採取され、微生物が培養により同定される。この分析の結果は、1-3日後にのみ入手可能である。さらに、創傷の汚染および定着はごく普通に起こるので、創傷に存在する種の種類に関する情報は傷創感染のための確かな指標ではない。重要な因子としては、高レベルの細菌含有量、それらの表現型および遺伝子型特性を変えることができる細菌、多剤耐性生物の存在およびバイオフィルム形成が挙げられる。さらに病原体の毒性は重要であり、即ち、宿主にとって非常に危険であり得る内毒素および外毒素の生産が重要である。綿棒でとる標本の使用は、細菌の種類および細菌負荷のおおよその数に関する情報を与えうるのみであるので、微生物学的方法またはPCRによる細菌種の同定は感染についての真の診断ではない。さらに、この方法は高価であり、少なくとも3日はかかる。
【0008】
もし感染が疑われると、血液検査は非常にしばしばその後の医学的処置の指標を提供する。白血球(leulkocytes)の量の測定の他に、C反応性タンパク質 (CRP)の濃度が感染の場合には上昇する。CRPは、急性期タンパク質のファミリーに属し、非常に短い反応時間(12時間)を有する。 CRP-測定は赤血球沈降速度の判定に大きくとってかわってきている。というのはそれは感度がより低く、1週間を超えるタイムラグを有するからである。しかし、上昇したCRPレベルは通常血中で測定され、それには血液採取および臨床検査室での分析が必要である。
【0009】
要約すると、これらの利用可能な方法は時間がかかり、ホームケアでは使用できず、創傷包帯交換の際の迅速な評価のためには使用できない。一方、感染を示しうる臭気および創傷の外観の検査には経験のある医師が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それゆえ、感染の明白な臨床症状の前に創傷の感染を診断するための迅速な予知補助手段に対して強い要求が存在する。かかる診断ツールがあれば好適な治療による初期の介入が可能であろうし、臨床的介入および抗生物質の使用を低減することとなるであろう。また、かかる方法は簡便であり、かつ、例えば看護士によってホームケアにて適用可能でなければならない。これらの必要条件は、10から30分間程度での迅速な診断を要求する。本発明の目的は、上記同定されている必要性を満たす方法および手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の工程を含む、傷創感染を検出する方法に関する:
創傷から得られたサンプルと、リゾチーム、エラスターゼ、カテプシン Gおよびミエロペルオキシダーゼからなる群から選択される少なくとも2つの酵素に対する少なくとも2つの基質とを、接触させる工程、および、
少なくとも2つの基質の該少なくとも2つの酵素による変換が測定され、該変換が、非感染創傷における該基質の変換と比較して(例えば、少なくとも 50%、好ましくは 少なくとも 100%、より好ましくは 少なくとも 200%)上昇している場合、傷創感染が検出される工程。
【0012】
細菌または真菌などの微生物によって感染されている創傷は、特定の酵素を、非感染創傷と比較して上昇した量にて含む。特に、酵素である、リゾチーム、エラスターゼ、カテプシン Gおよびミエロペルオキシダーゼの量は、感染した創傷において上昇している。創傷における該酵素のうち1つ、好ましくは2つ、またはすべての上昇した活性は、感染を示す。
【0013】
本発明は、傷創感染の迅速かつ初期の診断のための方法を提供する。このいわゆる「迅速診断ツール」は、人体の炎症性応答に関与する創傷液に存在する酵素に基づく。感染の場合に上昇する酵素に対する適当な基質の適用は、例えば、数分以内に呈色反応を導き得、創傷状態の非常に迅速な評価を可能とする。本発明は、可能性のある傷創感染のための指標としての、エラスターゼ、リゾチーム、カテプシン Gおよびミエロペルオキシダーゼの上昇したレベルに基づく、可能性のある装置も含む。
【発明を実施するための形態】
【0014】
リゾチーム (ムラミダーゼとしても知られる)は、129 アミノ酸残基を含み、分子量がおよそ 14.7 kDaである酵素である。リゾチームは、多形核好中球 (PMN)の細胞質顆粒の成分であり、そして、哺乳類分泌物および組織においてみられる、マクロファージの主な分泌産物であり;そして間違いなく、我々の自然免疫系の第一の重要な酵素の一つである。この酵素は、ペプチドグリカンにおけるN-アセチルムラミン酸とN-アセチル-D-グルコサミン残基との間の1,4-ベータ-結合の加水分解によって細菌細胞壁を破壊するという事実によって、「体の独自の抗生物質」と一般に称されている。グラム陽性細菌に対するその溶解活性に加えて、リゾチームは、細菌表面に結合し、負電荷を減少させ、 そして後天性免疫系からのオプソニンが到達する前に細菌の食作用を促進することにより、非特異的先天的オプソニンとして作用することができる。血清におけるリゾチームの上昇したレベルは、いくつかの疾患の場合において記載されている; さらに上昇したリゾチームレベルは、感染の場合の創傷液サンプルにおいて検出されうる。
【0015】
ヒトにおいて、エラスターゼに対する遺伝子は2つ存在する: 膵臓エラスターゼ (ELA-1)および好中球エラスターゼ (ELA-2)である。好中球エラスターゼ (または白血球エラスターゼ LE: EC 3.4.21.37)は、多形核 (PMN) 白血球によって発現される、セリンプロテアーゼのキモトリプシンファミリーに属する30-kDの糖タンパク質である。高度にカチオン性の糖タンパク質である成熟 NEは、一次顆粒へとターゲティングされ、そこでそれはカテプシン G (別の好中球セリンプロテアーゼ)とともにパッケージングされる。
【0016】
細胞内好中球エラスターゼは自然免疫系の鍵となるエフェクター分子であり、グラム陰性細菌、スピロヘータ、および真菌に対する強力な抗微生物活性を有する。内在化(internalization)の後の膜分解による病原体の制御におけるその関与に加えて、触媒的に活性の好中球エラスターゼは、細胞内貯蔵から遊離した後に成熟好中球の原形質膜へと局在化される。しかしながら、炎症性部位において、好中球エラスターゼは調節から逃れることができ、いったん上方制御されると、それは炎症誘発サイトカイン、例えば、インターロイキン-6およびインターロイキン-8の遊離を誘導することができ、多数の疾患を特徴づける組織破壊および炎症を導く。コラーゲンとともに結合組織の機械的性質を決定するエラスチンは、弾性収縮力の特有の性質を有し、肺、動脈、皮膚および靱帯における主な構造的機能を果たす。それゆえ、過剰のLE 活性がECM 組織化の欠損をもたらす多数の病状に関与しており、例えば、関節リウマチ、遺伝性気腫、慢性閉塞性肺疾患、成人呼吸窮迫症候群、虚血再灌流障害気腫、嚢胞性線維症および腫瘍進行が挙げられる。上昇したエラスターゼレベルは、感染の非常に初期に観察することができ、それゆえ創傷液におけるエラスターゼの存在は、感染の明白な臨床兆候が存在する前に、傷創感染の初期段階前兆を与える。
【0017】
カテプシン Gは、触媒 3 残基(catalytic triad)において求核システインチオールを有するリソソームシステインプロテアーゼの群に属するプロテアーゼである。ヒト白血球エラスターゼおよびプロテイナーゼ 3とともに、カテプシン Gは好中球におけるアズール顆粒の主な含有物であり、炎症の部位にて遊離される。
【0018】
ミエロペルオキシダーゼ (MPO)は、2つの15 kDaの軽鎖と2つの人工(prosthetic)ヘム基に結合した重量可変の(variable-weight) グリコシル化重鎖からなる二量体として存在する150 kDaのペルオキシダーゼ酵素 (EC 1.11.1.7) タンパク質である。このリソソームタンパク質は、好中球のアズール顆粒に貯蔵される。MPOは好中球の呼吸バーストの際に過酸化水素 (H2O2)と塩素アニオン (Cl-)から次亜塩素酸 (HOCl)を生成する。次亜塩素酸およびチロシルラジカルは細胞毒性であり、細菌およびその他の病原体を殺傷することができる。MPO 欠損の際に、殺傷は最初に妨げられるがしかし一定時間の後に正常レベルに達することから、見た目上よりゆっくりとした、殺傷の代替機構がMPO-欠損好中球において取って代わることができることが示唆され、感染の場合のMPOの上昇した活性が血液および組織において測定された。これは感染部位への好中球浸潤の上昇に起因するようである。
【0019】
本発明は、感染の場合における創傷での上昇したレベルの4種類の酵素の存在による、色変化をもたらす生化学的反応に基づく。4種類の酵素の評価は、創傷液における個々の酵素活性の変動を補償することができ、診断ツールの精度を向上させる。
【0020】
本発明の方法の精度を高めるために、サンプルは 好ましくは、少なくとも3つ、好ましくは 少なくとも4つの該基質と接触され、少なくとも3つ、好ましくは4つすべての、本発明の酵素の存在の判定を可能とする。
【0021】
本発明の方法において用いられる基質は、リゾチーム、エラスターゼ、カテプシン G および/または ミエロペルオキシダーゼに特異的である。非感染創傷と比較してのそれらの存在の上昇を測定するために、該酵素-特異的基質の少なくとも2つを使用することが特に 好ましい。基質の好ましい組合せとしては、以下に対する基質が挙げられる:リゾチームおよび エラスターゼ; カテプシン Gおよびミエロペルオキシダーゼ; リゾチームおよびカテプシン G; リゾチームおよび ミエロペルオキシダーゼ; エラスターゼおよびカテプシン G; エラスターゼおよびミエロペルオキシダーゼ; リゾチーム、エラスターゼおよびカテプシン G; リゾチーム、エラスターゼおよび ミエロペルオキシダーゼ; リゾチーム、カテプシン Gおよびミエロペルオキシダーゼ; エラスターゼ、カテプシン Gおよびミエロペルオキシダーゼ。
【0022】
創傷から得られるサンプルは、創傷液、創傷液を含む創傷包帯または創傷液を含む綿棒(swab)であり得る。
【0023】
創傷における本発明の酵素の存在および量は、創傷液を用いて直接的に測定するとよい。あるいは、創傷液と接触された創傷包帯または綿棒を用いてもよい。
【0024】
リゾチーム、エラスターゼ、カテプシン G および/または ミエロペルオキシダーゼの存在を創傷包帯または綿棒上で直接的に測定するために、少なくとも2つの基質が、好ましくは、医学上許容されるポリマー、好ましくは 、アルギン酸(alginate)、ペプチドグリカン および/または ポリガラクツロン酸に基づくヒドロゲル、好ましくは、例えば、フィルムまたはビーズの形態において提供されるもののマトリックスのなかに分散される、および/または、繊維、特に創傷包帯または綿棒の繊維に結合される。
【0025】
特に好ましい創傷包帯、綿棒または診断スティック(diagnostic stick)は、担体、生分解性マトリックス、例えば、単層-または多層フィルムまたはビーズおよび障壁を含みうる。担体は、ポリアミドまたはポリプロピレンなどのポリマーであってよい。該担体上において、生分解性マトリックスが局在されうる。このマトリックスは、例えば、フィルム (1-5 mmの厚さ)としてまたは単層- または多層 (2-8 mmの直径)としてのビーズとして、作られうる。
【0026】
酵素、特に、リゾチームおよびエラスターゼの基質は、ポリマーまたはバイオポリマーであってもよいし、該酵素によって分解されうる該ポリマー中に分散されていてもよい。例えば、ペプチドグリカンポリマーは、リゾチームに対する基質として作用し得、エラスチンはエラスターゼに対する基質として作用しうる。分解性ポリマーは基質分解の過程において遊離する少なくとも1つのマーカー分子、例えば少なくとも1つの色素に結合した少なくとも1つの基質を含んでいてもよい。多層フィルム(例えば、少なくとも 2、3、4、5、6、7、8、9または10 層)またはビーズは、非-標識酵素基質によって被覆された標識酵素基質を含むマトリックスを含みうる。生分解性ポリマーマトリックス上に、障壁層が位置する。該障壁層は非-分解性膜であり、生分解性マトリックスの物質および基質および変換された基質が外部に遊離するのを防ぐ。しかしながら、該障壁層は創傷液にとっては透過性である。
【0027】
本発明の好ましい態様によると、リゾチームに対する基質は、染色されたペプチドグリカン、好ましくはミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeictikus)のペプチドグリカン、および染色されたキトサンからなる群から選択され、これらは両方、好ましくはビニルスルホン染料(例えば、Remazol)で染色されたものである。
【0028】
エラスターゼに対する基質は、好ましくは N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドおよびシステアミド(Cysteamid)-Succ-Ala-Ala-Pro-Val-pNAからなる群から選択され、これは好ましくは、直接的に担体またはマトリックスに結合している。
【0029】
本発明のさらなる好ましい態様によると、 カテプシン Gに対する基質は、N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe p-ニトロアニリドおよびシステアミド-Succ-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAからなる群から選択され、これは好ましくは、直接的に担体またはマトリックスに結合している。
【0030】
本発明の好ましい態様によると、ミエロペルオキシダーゼに対する基質は、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸)、クリスタルバイオレット、ロイコクリスタルバイオレット、シナプト酸(sinaptic acid)、アルコキシシランウレア(alkoxysilanurea)およびisocyanatにより改変されたFast Blue RRなどのその他の化合物からなる群から選択される。基質は系において共有結合により固定化されていてもよい。過酸化水素が補基質として存在していてもよい。セロビオース脱水素酵素 (例えば、Myriococcum thermophilum由来セロビオース脱水素酵素)、デフェロキサミンメシレートおよび5〜500 mM、好ましくは 10 〜200 mM、特に 30 mMの基質としてのセロビオースの統合は、過酸化水素の生成をもたらし、それはミエロペルオキシダーゼにより補基質として使われる。もちろん、その他の基質をともなうその他の酵素系も、過酸化水素の生成に用いることができる。
【0031】
使用される基質の量は、基質によって変動しうる。本発明の方法は傷創感染の迅速な検出のために最適化されているので、使用される基質の量は、酵素の変換速度および変換が起こる環境 (例えば、液、創傷包帯、綿棒等)に依存する。
【0032】
使用される基質および創傷液の量はさらに、検出方法によって変動する: 流体、ゲル (生分解性マトリックス)中、綿棒、創傷包帯等である。
【0033】
液体試験系において、0.5〜30 μl、好ましくは1〜15 μlの体積を有する創傷液体サンプルに添加されるエラスターゼ基質の量は、0.05〜 5 mM、好ましくは 0.05〜 2.5 mM、特に 0.8〜1.2 mMの基質を含む溶液の、10〜 500 μl、好ましくは20〜 400 μl、より好ましくは50〜 300 μl、さらにより好ましくは80〜 150 μlにて変動する。本発明の特に好ましい態様において、4〜6 μl、好ましくは 5 μlの創傷液体(wound liquid)が、90 〜110 μl、好ましくは 100 μlの、 0.8〜1.2 mM、好ましくは 1 mMのエラスターゼ基質、好ましくは N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドを含む基質溶液とともにインキュベートされる。
【0034】
液体試験系において、0.5〜30 μl、好ましくは1〜15 μlの体積を有する創傷液体サンプルに添加されるカテプシン G 基質の量は、0.1〜10 mM、好ましくは 0.5〜5 mM、特に 3 mMの基質を含む溶液の、10〜500 μl、好ましくは 20〜400 μl、より好ましくは50〜 300 μl、さらにより好ましくは80〜150 μlにて変動する。本発明の特に好ましい態様において、4〜 6 μl、好ましくは 5 μlの創傷液体が、2〜4 mM、好ましくは 3 mMのカテプシン G 基質、好ましくは N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe p-ニトロアニリドを含む90〜110 μl、好ましくは 100 μlの基質溶液とともにインキュベートされる。
【0035】
液体試験系において、0.5〜 30 μl、好ましくは1〜15 μlの体積を有する創傷液体サンプルに添加されるミエロペルオキシダーゼ基質の量は、0.01〜1 mM、好ましくは 0.02〜0.45 mMの基質を含む溶液の10 〜500 μl、好ましくは20〜400 μl、より好ましくは50〜300 μl、さらにより好ましくは80〜150 μlにて変動する。本発明の特に好ましい態様において、4〜 6 μl、好ましくは 5 μlの1:10〜1:30、好ましくは 1:20に希釈された創傷液体が、2〜4 mM、好ましくは 3 mMのミエロペルオキシダーゼ 基質、好ましくは 3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン および/または 2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸)、クリスタルバイオレット、0.1 mmのロイコクリスタルバイオレットまたは天然フェノール成分、例えば、シナプト酸、アルコキシシランウレア(alkoxysilanurea) およびイソシアネート(isocyanate)で修飾されたfast blue RRを含む90〜110 μl、好ましくは 100 μlの基質溶液とインキュベートされる。
【0036】
該基質を含む溶液はさらに、0.1 〜0.5 M、好ましくは 0.3 Mのスクロースおよび1〜30 μl、好ましくは 15 μlのH2O2を含んでいてもよい。過酸化水素のかわりに、系は、炭水化物から過酸化水素を生成する酵素、例えば、グルコースオキシダーゼまたは別の炭水化物オキシダーゼ、例えば、セロビオヒドロラーゼ (CBH)を含んでいてもよい。
【0037】
液体試験系において、0.5〜30 μl、好ましくは1〜15 μlの体積を有する創傷液体サンプルに添加されるリゾチーム基質の量は、1〜30 ml、好ましくは 15 mlのバッファーを含む溶液中にて、1〜25 mg、好ましくは5〜20 mg、より好ましくは 8〜10 mgにて変動する。本発明の特に好ましい態様において、4〜6 μl、好ましくは 5 μlの創傷液体が、ともに好ましくは ビニルスルホン染料(例えば、 Remazol)で染色された、リゾチーム基質、好ましくは、ペプチドグリカン、より好ましくはミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeictikus)のペプチドグリカンおよび染色されたキトサンを含む90〜110 μl、好ましくは 100 μlの基質溶液とともにインキュベートされる。
【0038】
エラスターゼおよびカテプシン G 活性を検出するためのゲルに基づく試験系において、20〜250 μl、好ましくは 50〜150 μl、より好ましくは 100 μlの、0.05〜25 mM、好ましくは 0.1〜20 mMの基質溶液が、40〜50℃、より好ましくは 45℃の、50〜150 μl、好ましくは100 μlの体積を有するゲル溶液 (例えば、1〜 2%、好ましくは 1.5%のアガロースを含む)に添加される。該ゲルに、0.5〜30 μl、好ましくは1〜15 μlの体積を有する創傷液体サンプルが添加される。
【0039】
ミエロペルオキシダーゼ活性を検出するためのゲルに基づく試験系において、50〜150 μl、好ましくは100 μlの体積の液体試験に用いるための溶液が、同体積の加熱された上記のゲルに添加される。該ゲルに、0.5 〜 30 μl、好ましくは1〜 15 μlの体積を有する創傷液体サンプルが添加される。
【0040】
リゾチーム活性を検出するためのゲルに基づく試験系において、5〜100 mg、好ましくは 10〜75 mg、より好ましくは 15〜50 mgの、ペプチドグリカン、好ましくはミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeictikus)のペプチドグリカンが、加熱されたゲル、好ましくは アガロースゲル (例えば、10 gのアガロースをおよそ1% w/vの濃度にて含む)に懸濁される。あるいは、ペプチドグリカンはペプチドグリカンと染料をともに約 60 〜70℃に加熱することにより、本明細書において記載する染料によって染める。沈殿をリゾチーム活性の試験において用いることができる。あるいは、ゲルに基づく試験系は、染められたおよび染められていないペプチドグリカンの2層を含む。リゾチーム活性に起因してペプチドグリカンが分解した場合、色は黄色から青色に変化する。
【0041】
綿棒(swab)に基づく試験系は、液体に基づく試験系について上記した溶液を用いて行われる。使用される綿棒は、0.5〜20 μl、好ましくは 1〜15 μlの創傷液を吸収することができる。
【0042】
試験系が創傷包帯の上の指標として用いられる場合、上記溶液が包帯上に集められ、乾燥されるか、または酵素の基質が共有結合により包帯に結合される。
【0043】
本発明の別の側面は、リゾチーム、エラスターゼ、カテプシン Gおよびミエロペルオキシダーゼからなる群から選択される少なくとも2つの酵素に対する少なくとも2つの基質を含む創傷包帯または綿棒(swab)に関する。
【0044】
該少なくとも1つの基質を含む創傷包帯および綿棒は特に有利である。というのはそれは該包帯および綿棒上で創傷が感染されているか否かを直接的に判定することを可能にするからである。使用される基質は、該包帯または綿棒が接触されているサンプル中に存在する酵素によって変換された場合に好ましくは色を発生させる。あるいは、変換された基質と反応することができるその他の物質を包帯または綿棒上に提供することも可能である。
【0045】
該基質および所望により感染した創傷に存在する酵素による基質の変換を検出するための手段を含む創傷包帯は特に有利である。というのはそれは、該包帯によって被覆された創傷が感染されているか否かをモニターすることを可能とするからである。したがって、何人も創傷包帯をいつ変えなければならないかを決定することができる。
【0046】
創傷液と接触される創傷の近くに配置してもよい創傷包帯または診断系は、担体層、作動(operating)マトリックスおよび障壁層を含みうる。酵素的に機能化されたポリアミドまたはポリプロピレンが担体層として利用することができる。作動マトリックスのために、異なるゲルのブレンド、例えば、アルギン酸/アガロースおよびゼラチンに、酵素基質、例えば、リゾチームのための基質としてペプチドグリカンまたはキトサンを組み込んだものを利用することができる。例えば、リゾチームの量を測定する場合、アガロースと、10 g アガロース/ゼラチン当たり15〜50 mgの様々な量のペプチドグリカンの組合せを適用することができる。障壁層は、変換された基質、例えば、呈色した材料を創傷液、例えば、赤血球から排除するために膜 (厚さが例えば 0.2μm)に基づきうる。この系のリゾチームおよび創傷液に対する明白な応答が例えば450 nmでの上昇した透明度を測定することにより得ることができる。さらに、高いリゾチーム活性の場合、ペプチドグリカンに共有結合された染料Remazol Brilliant Blueの遊離が、上清の青色への色変化、系の上に配置された綿棒の青色への色変化によって検出されうるか、または600 nmにて測定されうる。
【0047】
本発明の好ましい態様によると、包帯または綿棒は、該基質の少なくとも2つ、好ましくは 少なくとも3つ、特に4つを含む。
【0048】
本発明のさらなる好ましい態様によると、少なくとも1つの基質が、医学上許容されるポリマーのマトリックス中に分散されるかまたは繊維の上に結合される。
【0049】
少なくとも1つの基質は、好ましくは、ペプチドグリカン、好ましくはビニルスルホン染料で染色された、ミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeictikus)のペプチドグリカン、N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリド、N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe p-ニトロアニリド、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸)、クリスタルバイオレット、ロイコクリスタルバイオレットまたはその他の天然フェノール成分、例えば、シナプト酸、アルコキシシランウレア(alkoxysilanurea)およびイソシアネート(isocyanate)により改変されたFast Blue RRからなる群から選択される。
【0050】
本発明をさらに以下の実施例において説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
実施例:
実施例 1: エラスターゼに基づく試験 - 液体系
診断系の調製
0.1 M HEPES バッファー (pH 7.4、0.5 M NaCl含有)中のDMSO中に濃度20 mMとなるように溶解されたN-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドの100 μL の溶液を透明なエッペンドルフチューブにピペットにより入れる。N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドの終濃度は0.05〜 2.50 mMであり得、好ましくは0.80〜1.20 mMである。
【0052】
診断
体積1〜 15 μL の創傷液を試験系、好ましくは4-6 μLに添加し、手動での撹拌により 10秒間混合する。この混合物を室温で 5 分間インキュベートする。その後、傷創感染は 明桃色から黄色への色変化によって示される。感染していない創傷サンプルを含む混合物は色変化を生じない。
【0053】
試験プロトコールおよび結果:
5 μLの感染した(A、B、C)および感染していない創傷サンプル(D、E、F)を、基質濃度1.0 mMのN-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドを含む1Aに記載の診断系とともにインキュベートした。10 分間のインキュベーションの後のサンプルの目視検査は、感染した創傷サンプルである A、B、およびCについてのみ黄色への色変化を示した。
【0054】
【表1】

* N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドに基づく標準アッセイにより測定。
【0055】
実施例 2: エラスターゼ に基づく試験 - ゲルに基づく系
診断系の調製
N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドをジメトキシスルホキシド中20 mMの濃度に溶解し、0.1 M HEPES バッファー (pH 7.4、0.5 M NaCl含有)中に希釈する。N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドの終濃度は0.2〜15 mMであり得、好ましくは0.50〜 5.00 mMである。100 μL のこの溶液を正しく等体積の加熱したアガロース (45℃) 溶液 (1.5% w/v)と混合し、96 ウェルプレートのウェルに移す。
【0056】
診断
1〜 15 μLの体積の創傷液を試験系、好ましくは4-6 μLに添加する。この混合物を室温で5 分間インキュベートする。その後、傷創感染は黄色への色変化によって示される。感染していない創傷サンプルを含む混合物は色変化を起こさない。
【0057】
試験プロトコールおよび結果:
5 μL の感染した (A、B、C) および感染していない創傷サンプル (D、E、F)を基質濃度5.0 mMのN-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドを含む1Bに記載の診断系とともにインキュベートした。10 分間のインキュベーションの後のサンプルの目視検査は、感染した創傷サンプルであるA、B、およびCについてのみ黄色への色変化を示した。
【0058】
【表2】

【0059】
実施例 3: エラスターゼに基づく試験 - 綿棒(swab)に基づく系
診断系の調製
N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドを濃度が20 mMとなるようにジメトキシスルホキシド中に溶解し、 0.1 M HEPES バッファー (pH 7.4、0.5 M NaCl含有)中に希釈する。N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドの終濃度は0.2〜10 mMであり得、好ましくは0.50〜5.00 mMである。40 μLのこの溶液をピペットでマイクロタイタープレートに入れた。
【0060】
診断
ポリエステル PES Microfibre (Microjet S1000)の小さい綿棒(swab) (0.5x0.5 cm) を創傷液に浸し、それにより1〜 12 μL の創傷液、好ましくは5〜8 μLを吸着させる。試験系を次いで基質溶液を含むマイクロタイタープレートに入れ、室温で5 分間インキュベートする。その後、傷創感染は綿棒 (即ち、 ポリエステル素材)の黄色への色変化によって示される。感染していない創傷サンプルを含む混合物は色変化を生じない。
【0061】
試験プロトコールおよび結果:
ポリエステル PES Microfibre (Microjet S1000)の小さい綿棒(0.5x0.5 cm) を用いて、サンプルを感染した(A、B、C)および感染していない創傷サンプル(D、E、F)から採取し、基質濃度1.0 mM のN-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドを含む1Cに記載の診断系に入れた。10 分間のインキュベーションの後のサンプルの目視検査は、感染した創傷サンプルであるA、B、およびCについてのみ黄色への色変化を示した。
【0062】
【表3】

【0063】
実施例 4: カテプシンに基づく試験 - 液体系
診断系の調製
N-スクシニル-ala-ala-pro-phe-p-ニトロアニリドを20 mM の濃度となるようにジメトキシスルホキシド中に溶解し、0.1 M HEPES バッファー (pH 7.4、0.5 M NaCl含有)中に希釈する。N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe p-ニトロアニリドの終濃度は0.5 〜5 mMであり得、好ましくは3 mMである。
【0064】
診断
1〜15 μLの体積の創傷液を試験系、好ましくは4-6 μLに添加し、手動での撹拌により混合する。この混合物を37℃で10 分間インキュベートする。その後、傷創感染は黄色への色変化により示される。感染していない創傷サンプルを含む混合物は色変化を生じない。
【0065】
試験プロトコールおよび結果:
5 μLの感染した(A、B、C) および感染していない創傷サンプル(D、E、F)を基質濃度3.0 mMのN-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe-p-ニトロアニリドを含む1Aに記載の診断系とともにインキュベートした。10から15 分間のインキュベーションの後のサンプルの目視検査は、感染した創傷サンプルA、B、およびCについてのみ黄色への色変化を示した。
【0066】
【表4】

*標準アッセイに基づきN-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe-p-ニトロアニリドを用いて測定。
【0067】
実施例 5: カテプシンに基づく試験 - ゲルに基づく系
診断系の調製
N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe-p-ニトロアニリドを濃度20 mMとなるようにジメトキシスルホキシドに溶解し、0.1 M HEPES バッファー (pH 7.4、0.5 M NaCl含有)中に希釈する。N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe-p-ニトロアニリドの終濃度は0.5〜10 mMであり得、好ましくは 5.00 mMである。100 μLのこの溶液を正しく等体積の加熱したアガロース (45℃) 溶液 (1.5% w/v)と混合し、96 ウェルプレートのウェルに移す。
【0068】
診断
1〜15 μLの体積の創傷液を好ましくは4-6 μLの試験系に添加する。この混合物を37℃で10 分間インキュベートする。その後、傷創感染は黄色への色変化によって示される。感染していない創傷サンプルを含む混合物は色が変化しない。
【0069】
試験プロトコールおよび結果:
5 μLの感染した (A、B、C) および感染していない創傷サンプル (D、E、F)を、基質濃度5.0 mMのN-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe-p-ニトロアニリドを含む1Bに記載の診断系とともにインキュベートした。 10 分間のインキュベーションの後のサンプルの目視検査は、感染している創傷サンプルA、B、およびCについてのみ黄色への色変化を示した。
【0070】
【表5】

【0071】
実施例 6: カテプシンに基づく試験 - 綿棒に基づく系
診断系の調製
N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe-p-ニトロアニリドをジメトキシスルホキシド中に濃度20 mMとなるように溶解し、0.1 M HEPES バッファー (pH 7.4、0.5 M NaCl含有)に希釈する。N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe-p-ニトロアニリドの終濃度は0.5 〜10 mMであり得、好ましくは 5.00 mMである。40 μLのこの溶液をピペットでマイクロタイタープレートに入れた。
【0072】
診断
ポリエステル PES Microfibre (Microjet S1000)の小さい綿棒 (0.5x0.5 cm)を創傷液に浸し、それにより1〜12 μL、好ましくは5〜8 μLの創傷液を吸着させる。試験系を次いで基質溶液を含むマイクロタイタープレートに入れ、37℃で15 分間インキュベートする。その後、傷創感染は綿棒 (即ち、ポリエステル素材)の黄色への色変化によって示される。感染していない創傷サンプルを含む混合物は色が変化しない。
【0073】
試験プロトコールおよび結果
ポリエステル PES Microfibre (Microjet S1000)の小さい綿棒 (0.5x0.5 cm)を用いて、サンプルを感染した (A、B、C) および感染していない創傷サンプル(D、E、F)から採取し、基質濃度5.0 mMのN-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe-p-ニトロアニリドを含む1Cに記載の診断系に入れた。15 分間のインキュベーションの後のサンプルの目視検査は、感染している創傷サンプルA、B、およびCについてのみ黄色への色変化を示した。
【0074】
【表6】

【0075】
実施例 7: ミエロペルオキシダーゼに基づく試験 - 液体系
診断系の調製
この診断ツールのために、2種類の基質、即ち、TMBまたはABTSを用いることができる。3350 μlの、0.3 M スクロースを含むコハク酸バッファー (pH 5.4)を用い、15 μlの1% H2O2 および7 μl の基質(5-40 mMのABTS、20-150 mMのTMB、0.0128 mMのクリスタルバイオレットおよび0.025 mMの改変された(modified)Fast Blue RR)を添加した。TMB (3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)は最初にN,N-メチルホルムアミドに溶解し、クリスタルバイオレット、ロイコクリスタルバイオレットおよび改変されたFast Blue RRはエタノールに溶解し、一方、ABTSは水に溶解させることができる。 100 μlの溶液を透明なエッペンドルフチューブにピペットでいれる。
【0076】
診断
体積1〜15 μL の創傷液を、好ましくは4-6 μL の試験系に添加し、10 秒間手動により撹拌しながら混合する。この混合物を室温で10 分間インキュベートする。その後、傷創感染は、無色からそれぞれ青色 (TMB)または緑色(ABTS)への色変化によって示される。感染していない創傷サンプルを含む混合物は色が変化しない。
【0077】
試験プロトコールおよび結果:
感染および非感染サンプルの創傷液を1:20に希釈する。感染した(A、B、C) および感染していない創傷サンプル (D、E、F)のこれらの希釈液の5 μL を2種類の基質を含む1A に記載の診断系とともにインキュベートする。 5 分間のインキュベーションの後のサンプルの目視検査は、感染している創傷サンプルA、B、および CについてのみTMBの場合は青色への色変化を示した。
【0078】
【表7】

*標準アッセイに基づきグアヤコールを用いて測定。
【0079】
実施例 8: ミエロペルオキシダーゼに基づく試験 - ゲル系
診断系の調製
この診断ツールのために、2種類の基質、即ち TMBまたはABTSを用いることができる。3350 μlの、0.3 M スクロースを含むコハク酸バッファー (pH 5.4)を用い、15 μlの1% H2O2 および7 μl の基質 (5-40 mM のABTS、20-150 mM のTMB、0.0128 mM のクリスタルバイオレット、0,1 mMのロイコクリスタルバイオレットまたは0.025 mMの改変されたFast Blue RR)を添加した。TMB (3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)は最初にN,N-メチルホルムアミドに溶解し、一方、ABTSは水に溶解させることができる。100 μlのこの溶液を正しく等体積の加熱したアガロース (45℃) 溶液 (1.5% w/v) と混合し、96 ウェルプレートのウェルに移す。
【0080】
診断
体積1 〜15 μL の創傷液を、好ましくは4-6 μLの試験系に添加する。この混合物を室温で 5 分間インキュベートする。その後、傷創感染は、それぞれ青色および緑色への色変化によって示される。感染していない創傷サンプルを含む混合物は色が変化しない。
【0081】
試験プロトコールおよび結果:
5 μL の感染した (A、B、C)および感染していない創傷サンプル (D、E、F)をMPOに対する2つの基質を含む1B に記載の診断系とともにインキュベートした。5 分間のインキュベーションの後のサンプルの目視検査は、感染している創傷サンプルA、B、およびCについてのみ青色または緑色への色変化を示した。
【0082】
実施例 9: ミエロペルオキシダーゼに基づく試験 - 綿棒(swab)に基づく系
診断系の調製
3350 μlの、0.3 M スクロースを含むコハク酸バッファー (pH 5.4) を用い、15 μlの1% H2O2 および 7 μl の基質(20 mMのABTS、100 mMのTMB、0.0128 mMのクリスタルバイオレット、0.1 mMのロイコクリスタルバイオレットおよび0.025 mMの改変されたFast Blue RR)を添加した。40 μL のこの溶液をマイクロタイタープレートにピペットで入れた。
【0083】
診断
ポリエステル PES Microfibre (Microjet S1000)の小さい綿棒(swab)(0.5x0.5 cm)を1:20に希釈した創傷液に浸し、それにより1〜12 μL の、好ましくは 5〜8 μLの創傷液を吸着させる。試験系を次いで基質溶液を含むマイクロタイタープレートに入れ、室温で 10 分間インキュベートする。その後、傷創感染は、綿棒 (即ち、ポリエステル素材)のそれぞれ青色または緑色への色変化によって示される。感染していない創傷サンプルを含む混合物は色が変化しない。
【0084】
試験プロトコールおよび結果:
ポリエステル PES Microfibre (Microjet S1000)の小さい綿棒 (0.5x0.5 cm)を用いて、1:20に希釈した感染した (A、B、C)および感染していない創傷サンプル (D、E、F)からサンプルを採取し、基質TMBを含む1Bに記載の診断系に入れた。5 分間のインキュベーションの後のサンプルの目視検査は感染している創傷サンプルA、B、および Cについてのみ青色への色変化を示した。
【0085】
【表8】

【0086】
実施例 10: リゾチームに基づく試験 - 液体系
診断系の調製
1〜15 mgの量のミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeikticus)ペプチドグリカンを15 mlの0.1 M KH2PO4 バッファー (pH 7.0)に懸濁する。好ましくは、8〜10 mgの量を懸濁する。290 μL のこの溶液を透明なエッペンドルフチューブにピペットで入れる。
【0087】
診断
体積が10 μLの創傷液を試験系に添加し、手動での撹拌により10 秒間混合する。この混合物を37℃で 15 分間インキュベートする。その後、傷創感染は、濁度の低下によって示される。感染していない創傷サンプルを含む混合物は変化しない。
【0088】
試験プロトコールおよび結果:
10 μLの感染した (A、B、C)および感染していない創傷サンプル(D、E、F)を、ミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeikticus)をリゾチームに対する基質として含む2Aに記載の診断系とともにインキュベートした。15 分間の37℃でのインキュベーションの後のサンプルの目視検査は、感染している創傷サンプルA、B、およびCについてのみ濁度の変化を示した。
【0089】
【表9】

* ミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeikticus)ペプチドグリカンを基質として用いて測定。
【0090】
実施例 11: リゾチームに基づく試験 - ゲルに基づく系
診断系の調製
15〜50 mgのミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeictikus) のペプチドグリカンを、0.1 M リン酸バッファー pH 7.0に溶解し、マイクロ波で加熱した10 g のアガロース (1% w/v)に懸濁する。溶液を正しく混合し、96 ウェルプレートのウェルに移す。第2のアッセイにおいて、ペプチドグリカン (ミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeictikus))をRemazol Brilliant Blue (RBB)で染色する。それゆえ、50 mgのペプチドグリカンが0.5 mLのRemazol Brilliant Blue 溶液 (0.5% w/v)に懸濁され、等体積の染色溶液 (2.5% w/v NaSO4)により希釈される。以下の熱勾配を用いる: 25℃で10 分間、65℃で5 分間。4 分間の13000 rpmでの遠心分離の後、数回の洗浄工程を上清が無色になるまで行う。第3のアッセイにおいて、2層の染められたおよび染められていないペプチドグリカンを用い、一方、染められたペプチドグリカンを上記のように適用する(二重層系)。さらに、80% の1% アガロースおよび20%の2% ゼラチン、エラスチン、フィブロネクチンおよびコラーゲンをそれぞれ含むマトリックスを用いた。
【0091】
診断
体積が100 μL の創傷液を試験系に添加する。この混合物を37℃で15〜60 分間インキュベートする。リゾチーム活性に起因するペプチドグリカンの消化は、450 nm で測定可能であり、感染した創傷の場合に明らかにみられ得る、透明度の上昇を導く。染められたペプチドグリカンの場合、染料が上清中に遊離し、それが感染した創傷の場合は青色に変わる。二重層系の場合、系の色が黄色から青色に変化し、それは少なくとも 30 分間のインキュベーションの後に容易にみられうる。
【0092】
試験プロトコールおよび結果:
100 μLの感染した (A、B、C) および感染していない創傷サンプル(D、E、F)を、ペプチドグリカンをリゾチームに対する基質として含む2B に記載の診断系とともにインキュベートした。15〜 60 分間のインキュベーションの後のサンプルの目視検査は、感染している創傷サンプルA、B、およびCについてのみ、透明度の変化を示した。
【0093】
【表10】

【0094】
実施例 12: リゾチームに基づく試験 - 綿棒(swab)に基づく系
診断系の調製
15 〜 50 mgの、Remazol Brilliant Blue (RBB)で染められたミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeictikus)のペプチドグリカンを、0.1 M リン酸バッファー pH 7.0に溶解され、マイクロ波で加熱された10 gのアガロース (1% w/v)に懸濁する。溶液を正しく混合し、96 ウェルプレートのウェルに移す。
【0095】
診断
ポリエステル PES Microfibre (Microjet S1000)の小さい綿棒 (0.5x0.5 cm)を創傷液(wound fluid)に浸し、それにより1〜12 μLの、好ましくは5〜8 μLの創傷液体(wound liquid)を吸着させる。綿棒を次いでバッファー溶液ですすぎ、この溶液を次いで染められたペプチドグリカンを有するゲルに基づく系を含むマイクロタイタープレートに入れる。系を次いで37℃で30 分間インキュベートする。その後、傷創感染は青色の上清により示される/ 感染した創傷の場合素材は青色に変わる。
【0096】
試験プロトコールおよび結果:
ポリエステル PES Microfibre (Microjet S1000)の小さい綿棒(0.5x0.5 cm)を用いて、サンプルを感染した(A、B、C) および感染していない創傷サンプル (D、E、F) から採取し、remazolで染められたペプチドグリカンを有するゲルに基づく系を含む上記の診断系に入れた。30 分間のインキュベーションの後の上清/素材の目視検査は、感染している創傷サンプルA、B、および Cについてのみ青色の発色を示した。
【0097】
実施例 13:酵素の組合せ- 液体系
診断系の調製
酵素、エラスターゼ、ミエロペルオキシダーゼおよびカテプシン Gについて記載した100 μlの液体基質(実施例1〜10参照)を調製し、マイクロタイタープレートに移した。
【0098】
診断
感染した創傷 (A-F)および感染していない創傷(G-L)からの5 μlの創傷液を添加する。創傷液はキャピラリーまたはシリンジにより採取することができ、後でアリコートにする。あるいは、綿棒を感染した創傷 (A-F)および感染していない創傷(G-L) から1-2mlのバッファー溶液へとサンプルを移すために用いた。250ulのアリコート(500 μl)を4種類の酵素基質を有するマイクロタイタープレートに添加した。
【0099】
プレートを37℃でインキュベートする。10 分後、エラスターゼについてのアッセイを 調べたところ、感染した創傷の場合は黄色に変化していた。30 分後、カテプシン G およびリゾチームアッセイを調べたところ、感染はそれぞれ黄色、青色および透明への変化によって示された。5 分後、MPOについての2つのアッセイ(TMBおよびABTS)を調べたところ、それぞれ青色および緑色に変わることにより感染が示された。60 分後、クリスタルバイオレット、ロイコクリスタルバイオレットおよび改変されたFast Blue RRを用いたMPOについてのアッセイを調べたところ、色の変化により感染が示された。
【0100】
サンプル A はエラスターゼアッセイにおいてあまり顕著でない発色を示すが、その他のアッセイにおいては明らかに陽性であった。一方、サンプル DおよびEはMPO ABTS アッセイにおいてあまり顕著でない発色を示すが、それらはその他のアッセイにおいては陽性であった。これは少なくとも 2種類、好ましくは 3種類、もっとも好ましくは 4種類の異なるアッセイの組合せの診断ツールのための重要性を確認している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、傷創感染を検出する方法:
−創傷から得られたサンプルと、リゾチーム、エラスターゼ、カテプシン Gおよびミエロペルオキシダーゼからなる群から選択される少なくとも2つの酵素に対する少なくとも2つの基質とを接触させる工程、および、
−該少なくとも2つの酵素による少なくとも2つの基質の変換が測定される場合、傷創感染が検出される工程。
【請求項2】
サンプルが、該基質の少なくとも3つ、好ましくは少なくとも4つと接触されることを特徴とする、請求項 1の方法。
【請求項3】
サンプルが、創傷液、創傷液を含む創傷包帯、創傷液を含む綿棒であることを特徴とする請求項 1または2の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの基質が、医学上許容されるポリマー、好ましくはヒドロゲルのマトリックス中に分散されていることを特徴とする請求項 1から3 のいずれかの方法。
【請求項5】
少なくとも2つの基質が、繊維、特に、創傷包帯または綿棒の繊維に結合されていることを特徴とする請求項 1から3のいずれかの方法。
【請求項6】
リゾチームに対する基質が、ペプチドグリカン、好ましくはビニルスルホン染料で染色されたミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeictikus)のペプチドグリカンからなる群から選択されることを特徴とする請求項 1 から 5 のいずれかの方法。
【請求項7】
エラスターゼに対する基質が、N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリドおよびシステアミド-Succ-Ala-Ala-Pro-Val-pNA からなる群から選択されることを特徴とする請求項 1から 6のいずれかの方法。
【請求項8】
カテプシン Gに対する基質が、N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe p-ニトロアニリドおよびシステアミド-Succ-Ala-Ala-Pro-Phe-pNAからなる群から選択されることを特徴とする請求項 1から7 のいずれかの方法。
【請求項9】
ミエロペルオキシダーゼに対する基質が、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸)、クリスタルバイオレット、ロイコクリスタルバイオレット、シナプト酸、 Isocyanatにより改変されたFast Blue RRからなる群から選択されることを特徴とする請求項 1から8のいずれかの方法。
【請求項10】
リゾチーム、エラスターゼ、カテプシン Gおよびミエロペルオキシダーゼからなる群から選択される少なくとも2つの酵素に対する少なくとも2つの基質を含む創傷包帯または綿棒であって、該基質が着色された物質を遊離することができるか、または透明化を引き起こすことができる、創傷包帯または綿棒。
【請求項11】
包帯または綿棒が、該基質の少なくとも3つ、好ましくは少なくとも4つを含むことを特徴とする請求項 10の創傷包帯または綿棒。
【請求項12】
少なくとも1つの基質が、医学上許容されるポリマーのマトリックス中に分散されているかまたは共有結合されているかあるいは繊維上に結合されていることを特徴とする請求項 10 または11の創傷包帯または綿棒。
【請求項13】
少なくとも2つの基質が、ペプチドグリカン、好ましくはビニルスルホン染料で染色されたミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeictikus)のペプチドグリカン、N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-val-p-ニトロアニリド、N-メトキシスクシニル-ala-ala-pro-phe p-ニトロアニリド、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸)、クリスタルバイオレット、ロイコクリスタルバイオレット、シナプト酸およびIsocynatにより改変されたFast Blue RRからなる群から選択されることを特徴とする請求項 10または11の創傷包帯。

【公表番号】特表2012−527225(P2012−527225A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511260(P2012−511260)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056811
【国際公開番号】WO2010/133589
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(507282901)テッヒニシェ・ウニフェルジテート・グラーツ (4)
【氏名又は名称原語表記】Technische Universitaet Graz
【出願人】(508028162)フォルシュングスホールディング テーウー グラーツ ゲーエムベーハー (3)
【出願人】(511280032)メディツィーニシェ・ウニフェルジテート・グラーツ (1)
【氏名又は名称原語表記】MEDIZINISCHE UNIVERSITAET GRAZ
【Fターム(参考)】