説明

傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造方法、傾斜型ファイバーブラッググレーティングおよび傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造装置

【課題】傾斜型ファイバーブラッググレーティングの計測精度を向上させること。
【解決手段】予め設定された間隔で凹凸が形成された位相マスク(14)の光が照射される面(14a)に対して、接近離間する方向に長手方向が傾斜した状態の光ファイバー(15)のコア(15a)に、位相マスク(14)を通過させた250nm帯のコヒーレントなレーザー光(2a)を照射することにより、光ファイバー(15)のコア(15a)の屈折率が、光ファイバー(15)の長手方向に対して周期的に異なり、且つ、屈折率が異なる部分が長手方向に対して傾斜する傾斜型ファイバーブラッググレーティング(15d)を作製することを特徴とする傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバーのコアの部分に長手方向に沿って周期的に屈折率が異なる部分が配置され且つ屈折率が異なる部分が長手方向に傾斜する傾斜型ファイバーブラッググレーティング、傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造方法および傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバーのコア部に周期的な屈折率変化を持たせたファイバーブラッググレーティング(FBG: Fiber Bragg Grating)を使用して、光ファイバーの内部を通過する光の波長の変動を測定することで、歪みなどの機械的な変形量を検知する技術が、特許文献1(特開2001−221615号公報)等で従来公知である。
前記FBGでは、物質の化学的性質の検知などには使用できないが、屈折率変化をコア部の軸方向(光ファイバーの長手方向)に対して傾斜させた傾斜型FBG(TFBG:Tilted Fiber Bragg Grating)を使用して、液体の屈折率変化など、光ファイバーに接触している外部環境の非力学的物理量の変化を捉えられることができることが知られている。前記TFBGに関する技術として、以下の非特許文献1,2が知られている。
【0003】
非特許文献1には、Lloyd Mirror(反射鏡)を使用し且つ干渉性(コヒーレンス)の良いアルゴンイオンレーザー(Arレーザー)を使用して、非特許文献1中のFig.5に示すように、干渉縞が発生する空間に、光ファイバーをθ[度]傾けておいて、TFBGを作製する方法が記載されている。
非特許文献2には、位相マスクを使用し且つ位相マスクを面内で回転させて、位相マスクの下に光ファイバーをおいて、光ファイバーを傾けることなく、コヒーレンスのそれほど高くないKrFエキシマレーザーを照射して、TFBGを作製する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−221615号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】G.Laffont、他1名、「Tilted short-period fibre-Bragg-grating-induced coupling to cladding modes for accurate refractometry 」、Measurement Science and Technology、Institute of Physics Publishing、2001年、12号、p.765-770
【非特許文献2】Yinping Miao、他3名、「Temperature-insensitive refractive index sensor based on tilted fiber bragg grating」、microwave and optical technology letters、Wiley Periodicals, Inc、2009年2月、Vol.51、No.2、p.479-483
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(従来技術の問題点)
前記非特許文献1記載の技術では、非特許文献1中にも記載されているが調整に気をつける必要があり、微調整(微妙な光学調整)を要するため、高精度のTFBGを作製することが難しい問題がある。したがって、TFBGの計測精度が低く、精度の良い計測ができない問題があり、非特許文献1のFig.10に記載されているように、計測可能な屈折率が1.32〜1.42程度であった。また、非特許文献1記載のArレーザーを使用する場合、例えば、300[mW]の出力を得ようとすると、60〜100[kW]以上の電力を必要とし、高価、短寿命、ランニングコストが高いという問題もある。
【0007】
非特許文献2記載の技術では、位相マスクを使用しているため、微調整(微妙な光学調整)が不要になるが、低コストであるがコヒーレンスのそれほど高くないKrFエキシマレーザーを照射しているため、TFBGを作製可能な干渉縞が位相マスクの直下の0.1mmオーダーの範囲しか発生させられず、位相マスクと光ファイバーとを近接しておかなければならない。したがって、位相マスクと光ファイバーとが1mm離れるとTFBGを作製できない制約が生じ、高精度のTFBGを作製することが難しい問題がある。したがって、非特許文献2記載の技術でも、TFBGの計測精度が悪く、非特許文献2のFig.6、Fig.7に記載されているように、やはり、計測可能な屈折率が1.32〜1.44程度しか計測できない問題があった。
すなわち、TFBGの技術分野では、高価なArレーザーを使用する場合は、コヒーレンスが高いので、位相マスクを使用する必要が無く、逆に、低コストなKrFエキシマレーザーを使用する場合には、コヒーレンスが低いため、位相マスクを使用することが技術常識となっていた。
【0008】
本発明は、傾斜型ファイバーブラッググレーティングの計測精度を向上させることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造方法は、
予め設定された間隔で凹凸が形成された位相マスクの光が照射される面に対して、接近離間する方向に長手方向が傾斜した状態の光ファイバーのコアに、位相マスクを通過させた波長250nm帯のコヒーレントなレーザー光を照射することにより、前記光ファイバーのコアの屈折率が、前記光ファイバーの長手方向に対して周期的に異なり、且つ、屈折率が異なる部分が前記長手方向に対して傾斜する傾斜型ファイバーブラッググレーティングを作製することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造方法において、
固体レーザーの高調波により構成された前記レーザー光を使用することを特徴とする。
【0011】
前記技術的課題を解決するために、請求項3に記載の発明の傾斜型ファイバーブラッググレーティングは、
予め設定された間隔で凹凸が形成された位相マスクの光が照射される面に対して、接近離間する方向に長手方向が傾斜した状態の光ファイバーのコアに、位相マスクを通過させた波長250nm帯のコヒーレントなレーザー光を照射することにより作製され、前記光ファイバーのコアの屈折率が、前記光ファイバーの長手方向に対して周期的に異なり、且つ、屈折率が異なる部分が前記長手方向に対して傾斜することを特徴とする。
【0012】
前記技術的課題を解決するために、請求項4に記載の発明の傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造装置は、
波長250nm帯のコヒーレントなレーザー光を出力するレーザー光源と、
前記レーザー光の光路上に配置され、予め設定された間隔で凹凸が形成された位相マスクと、
光ファイバーを支持し、且つ、前記位相マスクの光が照射される面と、前記光ファイバーの長手方向との傾斜角を調整可能なステージと、
を備え、
前記位相マスクの光が照射される面に対して接近離間する方向に、光ファイバーの長手方向が傾斜された状態で、前記光ファイバーのコアに前記位相マスクを通過した前記レーザー光を照射することにより、前記光ファイバーのコアの屈折率を、前記光ファイバーの延びる方向に対して傾斜し且つ周期的に異ならせた傾斜型ファイバーブラッググレーティングを作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1、4に記載の発明によれば、本発明の構成を有しない場合に比べて、傾斜型ファイバーブラッググレーティングの計測精度を向上させることができる。
請求項2に記載の発明によれば、低コストでコヒーレントなレーザー光を容易に得ることができる。
請求項3に記載の発明によれば、本発明の構成を有しない場合に比べて、計測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の実施例1の傾斜型ファイバーブラッググレーティンの製造装置の説明図である。
【図2】図2は実施例と従来の構成との対比説明図であり、図2Aは従来構成の位相マスクを使用したTFBGの作製方法の説明図、図2Bは従来法におけるレーザー光の進行の様子の説明図、図2Cは実施例1のTFBGの作製方法の説明図である。
【図3】図3は実験例の説明図であり、図1に示す製造装置に透過スペクトル測定用のASE光源およびOSAを接続した実験装置の説明図である。
【図4】図4は透過スペクトルの計測結果の説明図であり、横軸に波長(wavelength)を取り、縦軸に透過率(transmittance)を取ったグラフである。
【図5】図5は液体の屈折率を計測するための実験の説明図である。
【図6】図6は液体の屈折率の計測実験で使用された試料の一覧の説明図である。
【図7】図7は液体を垂らした場合の透過強度の計測実験の結果の説明図であり、横軸に波長(wavelength)を取り、縦軸に透過率(transmittance)を取ったグラフである。
【図8】図8は実験例の光ファイバーを使用した屈折率変化の実験結果の説明図であり、横軸に屈折率(Refractive Index)をとり、縦軸に相対波長変化(Relative Wavelength Shift)を取ったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(以下、実施例と記載する)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の実施例1の傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造装置の説明図である。
図1において、実施例1の傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造装置1は、コヒーレントな紫外レーザー光2aを出力するレーザー光源2を有する。実施例1のレーザー光源2は、波長1064nmのレーザー光3aを出力するNd:YAGレーザー3と、非線形光学結晶等により構成されてレーザー光3aから紫外領域のレーザー光2aとしての波長266nmの4次高調波を発生させる波長変換器4とを有する。
前記レーザー光源2から出力された紫外レーザー光2aは、複数の反射鏡5,6,7,8,9や複数のシリンドリカルレンズ11,12,13を有する光学系5〜13を経て、一方向に集光して、位相マスク14を通じて、光ファイバー15に照射される。
【0017】
実施例1の位相マスク14は、予め設定された間隔(格子間隔)で凹凸が形成された従来公知の位相マスク(フェーズマスク)である。
前記光ファイバー15は、長手方向に延びるコア15aと、コア15aの外周を被覆し且つコア15aよりも屈折率の低いクラッド15bと、内部を保護するためにクラッド15bの外周を被覆する被覆15cと、を有する。実施例1の光ファイバー15のコア15aには紫外光を感受するゲルマニウムが添加されており、被覆15cが剥かれた状態の光ファイバー15のコア15aに対して、紫外光が照射されると構造欠陥が誘起され、屈折率が変化する。
前記光ファイバー15は、位相マスク14の光が照射される面14aに対して傾斜角θを調整可能な回転ステージ16上に支持されている。したがって、位相マスク14の格子間隔をΛpmとし、光ファイバー15と位相マスク14との成す角をθextとした場合、光ファイバー15には、以下の式(1)で示される間隔Λtfbgの回折格子15dが作り出される。
Λtfbg=Λpm/(2cosθext) …式(1)
【0018】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた製造装置1では、位相マスク14に対して角度θext傾斜した光ファイバー15のコア15aに対して、位相マスク14を通過した紫外光が照射されると、コア15aに、光ファイバー15の長手方向に対して格子間隔Λtfbgをあけて、長手方向に角度θext傾斜した周期的な屈折率の変化が発生する。すなわち、TFBGが作製される。
ここで、実施例1では、レーザー光源2にNd:YAGレーザー3が使用されており、Arレーザーを使用する場合に比べて、低コスト且つ長寿命で安定したレーザー光を発生させることができ、Nd:YAGレーザーの4次高調波を利用して、250nm帯に近い266nmの紫外領域のレーザー光を発生させることができる。
【0019】
図2は実施例と従来の構成との対比説明図であり、図2Aは従来構成の位相マスクを使用したTFBGの作製方法の説明図、図2Bは従来法におけるレーザー光の進行の様子の説明図、図2Cは実施例1のTFBGの作製方法の説明図である。
また、実施例1では、Nd:YAGレーザー3と、位相マスク14とを使用しており、非特許文献1記載の技術に比べて、微妙な光学調整が不要となる。そして、非特許文献2記載の技術のように、コヒーレンスの悪いKrFエキシマレーザーを使用した場合には、図2Aに示すように、位相マスク01を光ファイバー02に近接させる必要があり、近接状態を保持するために、位相マスク01を紫外光03が照射される面内で傾斜させる構成を採用せざるを得ない。
【0020】
このとき、光ファイバー02は円柱状であり、位相マスク01を面内回転させた場合、それにより生じる2つの回折光の進行方向が光ファイバー02の各部分に複雑な分布で入射することになる。そのことにより光ファイバー02内部に生じる干渉縞の分布に一部乱れが生じ、作製されるTFBGの精度が低下しやすいという問題がある。
これに対して実施例1では図2Cに示すようにコヒーレンスのよいレーザー光源を使用しているため、位相マスク14の下方広範囲の領域で精度良い干渉縞が安定して発生する。このため光ファイバー15を接近離間する方向へ傾けることが可能である。この場合、位相マスク14で生じる回折の方向、光ファイバー15の傾き方向および光ファイバー15の表面が円筒形になっているがゆえのレーザー光の進行方向の変化はすべて同一平面内(yz面)となり干渉縞の乱れが極小化される。したがって、実施例1のTFBGの製造装置1で作製されたTFBGを使用して計測精度を向上させることができる。
【0021】
(実験例)
図3は実験例の説明図であり、図1に示す製造装置に透過スペクトル測定用のASE光源およびOSAを接続した実験装置の説明図である。
以下、実施例の効果を確認するための実験を行った。
実験では、実施例1の製造装置1を使用し、光ファイバー15に照射されるレーザー光2aの照射エネルギーは、50[mJ/pulse]に調節した。また、実験例では、光ファイバー15は、位相マスク14との最小距離を約1mmに調節し、紫外レーザー光2aを照射中の張力は、5.9×10−4[N]に設定した。
実験例では、光ファイバー15として、水素導入した紫外光感受性光ファイバーSBG−15(ニューポート社製)を使用した。この光ファイバーは、シングルモードであり、コア部分にゲルマニウム(Ge)とボロン(B)が共添加されている。また、光ファイバー15にTFBGが作製される長手方向の長さを10mmに設定した。
また、実験例では、θext=5°、10°、11°、12°、15°の条件で試料を作成した。なお、紫外レーザー光は、空気と光ファイバーとの界面で屈折するため、光ファイバー中に形成されるTFBGの傾斜角度は、それぞれ、3.3°、6.7°、7.3°、8.0°、9.9°になった。以下の説明では、形成されたTFBGの傾斜角度を使用して説明する。
【0022】
さらに、実験例では、光ファイバー15の透過スペクトルを計測するために、光ファイバー15の一端側に、ASE(Amplified Spontaneous Emission:自然放出光)光源17を接続して、波長1520nm〜1610nmの範囲の光を光ファイバー15のコア15aに入射した。また、光ファイバー15の他端側に、OSA(Optical Spectrum Analyzer:光スペクトラムアナライザ)18を接続して、光ファイバー15を透過した光の透過スペクトルを計測した。なお、OSA18およびASE光源17に光ファイバー15を接続するために、図示しないメカニカルスプライサ(接続具)を使用した。
紫外レーザー光2aの照射時間は、透過スペクトルを計測するために十分な強度を得るために、20分間で統一し、TFBGを作製する間、スペクトルの変化を計測した。
【0023】
(透過スペクトルの計測結果)
図4は透過スペクトルの計測結果の説明図であり、横軸に波長(wavelength)を取り、縦軸に透過率(transmittance)を取ったグラフである。
透過スペクトルの計測では、コアモードとクラッドモード(コアに入射された光がクラッドに漏れた高次モード)の透過スペクトルを観測し、スペクトル変化と屈折率変化との関係を調べた。図4に、照射時間20分における8°のTFBGの透過スペクトルを示す。
図4において、LP11コアモードだけでなく、波長約1520nm〜1570nmの範囲で多くのクラッドモードのピークを観測した。コアモードのピークは、波長1580nm付近にまで長波長側にシフトし、ピークの波高値は1.5[dB]であった。一方、最大11.5[dB]のクラッドモードが1548nm付近に観測できた。また、クラッドモードにおいて、2種類の結合モード(LP1nとLP2n)の重ね合わせも観測された。
【0024】
(液体の屈折率の計測実験)
図5は液体の屈折率を計測するための実験の説明図である。
図6は液体の屈折率の計測実験で使用された試料の一覧の説明図である。
図5において、図3で作製され、図4の透過スペクトル特性を有する光ファイバーを使用して、液体の屈折率を計測する実験を行った。図5に示すように、光ファイバー15の両端をメカニカルスプライサ21を介して、ASE光源17およびOSA18に接続し、光ファイバー15をガラス22で支持した状態で、長さ10mmのTFBG15dの全体を覆うように液体試料23を垂らした。
計測する試料23として、水、エタノール、グリセリン水溶液を使用した。グリセリン水溶液を選んだ理由は、水とグリセリンの混合率を変えることで、容易に溶液の屈折率を広範囲に変化させることが可能であるためである。実験で使用したグリセリン水溶液の濃度は12%、24%、35%、46%、66%、84%である。試料23の濃度および屈折率の詳細なデータを図6に示す。
【0025】
図7は液体を垂らした場合の透過強度の計測実験の結果の説明図であり、横軸に波長(wavelength)を取り、縦軸に透過率(transmittance)を取ったグラフである。
液体試料23の屈折率の計測実験では、透過スペクトルの計測実験において、最大のクラッドモードのピークを示した8.0°のTFBGを使用して、液体の屈折率とピーク波長との関係を調べた。結果を図7に示す。
図7では、図4に示すクラッドモードの中から、包絡線の中心近傍で最も計測しやすい波長1543.76nmのピークのモードを選択し、ピークの波長変化を示した。図7において、屈折率が1から1.41に変化したときに、それに対応して、選択したモードのピークが、波長1543.76nmから1544.40nmに波長シフトした。その波長変化に加えて、ピーク強度の滑らかな変化も確認された。
【0026】
図8は実験例の光ファイバーを使用した屈折率変化の実験結果の説明図であり、横軸に屈折率(Refractive Index)をとり、縦軸に相対波長変化(Relative Wavelength Shift)を取ったグラフである。
図8において、図7で得られた波長シフトを使用して、各傾斜角度のTFBGにおける試料(空気及び各種液体)の屈折率に対する相対波長変化の結果を示す。図8において、TFBGの中でも、最も大きな相関は8.0°のTFBGで得られた。角度が3.3°〜8.0°までは屈折率の変化に対して波長は大きく変化するようになっていったが、9.9°の場合には、その変化は8.0°の場合よりも少し小さくなった。
したがって、結果として、8.0°のTFBGが今回の実験では最良の感度であり、1.0〜1.41の間で屈折率の計測が可能であることが確認された。また、実施例の製造装置1で作製された7.3°や9.9°のTFBGでも、8.0°のTFBGに比べて、感度は低いが、1.32以上の屈折率しか計測できなかった従来技術に比べて、広い範囲の屈折率の計測が可能であることが確認された。
【0027】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲で、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、前記実施例で例示した具体的な数値や材料名、光ファイバーの構成材料、選択する波長等は、実施例に例示した構成に限定されず、設計や仕様、測定対象物等に応じて、適宜変更可能である。
また、実施例では、レーザー光源として、Nd:YAGレーザーの4次高調波を例示したが、これに限定されず、波長250nm帯のコヒーレンスの高いレーザー光を発生可能な任意の光源を採用可能である。例えば、費用をかけることが可能であれば、Arレーザーの2次高調波や、不安定共振器を付加してコヒーレンスを高めたKrFレーザー光を使用することも可能である。この他にも、ArレーザーやKrFレーザーのような気体レーザーに比べて、低コストでコヒーレンスが高いレーザー光が得られやすいYLF(Yttrium Lithium Fluoride)レーザーの4次高調波やYVO(Yttrium Vanadate)レーザーの4次高調波、チタンサファイアレーザーの3次高調波等の固体レーザーを採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
前記本発明のTFBGでは、光ファイバー15を通じて、屈折率を遠隔から測定できるため、化学プロセス工場などの薬液の濃度管理などへの応用はもとより、光ファイバーという髪の毛より細い特性を利用して、人体や生体、動物などの、血液や体液等の状況把握などの医療分野への応用も期待できる。なお、実験例では、TFBGの長手方向の長さを10mmで実験を行ったが、本発明者らの実験の結果、液体との接触部位の長さは、2.5mm程度でも10mmの場合と同等の透過光スペクトルが得られることが確認された。したがって、TFBGを使用するセンサの小型化が可能であり、体内に挿入可能な非常に小型のセンサの作製も期待できる。
【符号の説明】
【0029】
1…傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造装置、
2…レーザー光源、
2a…レーザー光、
3…Nd:YAGレーザー、
14…位相マスク、
14a…面、
15…光ファイバー、
15a…コア、
15d…傾斜型ファイバーブラッググレーティング、
16…ステージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された間隔で凹凸が形成された位相マスクの光が照射される面に対して、接近離間する方向に長手方向が傾斜した状態の光ファイバーのコアに、位相マスクを通過させた波長250nm帯のコヒーレントなレーザー光を照射することにより、前記光ファイバーのコアの屈折率が、前記光ファイバーの長手方向に対して周期的に異なり、且つ、屈折率が異なる部分が前記長手方向に対して傾斜する傾斜型ファイバーブラッググレーティングを作製することを特徴とする傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造方法。
【請求項2】
固体レーザーの高調波により構成された前記レーザー光を使用することを特徴とする請求項1に記載の傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造方法。
【請求項3】
予め設定された間隔で凹凸が形成された位相マスクの光が照射される面に対して、接近離間する方向に長手方向が傾斜した状態の光ファイバーのコアに、位相マスクを通過させた波長250nm帯のコヒーレントなレーザー光を照射することにより作製され、前記光ファイバーのコアの屈折率が、前記光ファイバーの長手方向に対して周期的に異なり、且つ、屈折率が異なる部分が前記長手方向に対して傾斜することを特徴とする傾斜型ファイバーブラッググレーティング。
【請求項4】
波長250nm帯のコヒーレントなレーザー光を出力するレーザー光源と、
前記レーザー光の光路上に配置され、予め設定された間隔で凹凸が形成された位相マスクと、
光ファイバーを支持し、且つ、前記位相マスクの光が照射される面と、前記光ファイバーの長手方向との傾斜角を調整可能なステージと、
を備え、
前記位相マスクの光が照射される面に対して接近離間する方向に、光ファイバーの長手方向が傾斜された状態で、前記光ファイバーのコアに前記位相マスクを通過した前記レーザー光を照射することにより、前記光ファイバーのコアの屈折率を、前記光ファイバーの延びる方向に対して傾斜し且つ周期的に異ならせた傾斜型ファイバーブラッググレーティングを作製することを特徴とする傾斜型ファイバーブラッググレーティングの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−54273(P2013−54273A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193741(P2011−193741)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月9日 社団法人応用物理学会発行の「2011年春季 第58回応用物理学関係連合講演会「講演予稿集」(DVD−ROM)」に発表
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】