説明

傾斜屋根

【課題】 下から見上げたときには黒色、濃緑、濃紺や灰色などの暗色系の色の屋根として認識でき、違和感を生じさせない一方、太陽光の入射方向からは屋根は白色や銀色などの明色系の色を呈し、太陽光をの反射率が高くて屋根が高温に加熱されにくい傾斜屋根を提供する。
【解決手段】 長尺のアルミ合金製屋根材7を、階段状に屈曲させて段差部7’を長手方向に沿って一定間隔で形成し、野地板3上に敷設した状態で段差部7’がほぼ垂直に起立した状態になる先端部正面7aを、黒色に焼き付け塗装して着色した構造からなる。一方、屋根材7の先端部正面7a以外は、アルミ合金の地色である銀白色を呈するように着色はしていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅用、工場用、倉庫用など各種用途の建造物の屋根に関するもので、詳しくは屋根の頂部(棟)より軒先にかけて下向きに傾斜した傾斜屋根に関する。なお、本発明が対象とする屋根は、切り妻屋根、寄せ棟屋根、片流れ屋根などの屋根が棟から軒先にかけて下向きに傾斜した傾斜屋根を備えた屋根である。
【背景技術】
【0002】
一般的に屋根は太陽光を直接に浴びることから、太陽光を反射しやすい白色や銀色などの、いわゆる明色(もしくは淡色)を施すことが加熱による温度上昇を防ぐ上から望ましい。
【0003】
しかし、一方で、屋根は従来から一般的に黒色、あるいは灰色、深緑色などの暗色系の色からなり、視覚的に重厚なイメージが抱かれているので、反射率の低い白色などの明色系の色からなる屋根に対しては違和感がもたれる。
【0004】
なお、出願人が調査した範囲では、複数の色彩を施した屋根はあるが、太陽光が鋭角に入射して照射される範囲を反射率の高い明色系の色とし、軒下などから見上げたときには黒色や濃紺色などの暗色系の色に見えるようにした屋根は、公知ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、屋根の色を全体的に視覚的に重厚な暗色系の色にすると、太陽光の照射を受けて屋根が高温に加熱され、加熱された屋根からの輻射熱で屋根裏が加熱されるなどの、不都合がある。
【0006】
そこで、本発明は、下から見上げたときには黒色、濃緑、濃紺や灰色などの暗色系の色の屋根として認識でき、違和感を生じさせない一方、太陽光の入射方向からは屋根は白色や銀色などの明色系の色を呈し、太陽光の反射率が高くて屋根が高温に加熱されにくい傾斜屋根を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を解決するために本発明に係る傾斜屋根は、軒先に向けて下向きに傾斜する屋根を軒下から見上げたときには暗色系の色に見え(暗色系の色を呈し)、傾斜する前記屋根を真上あるいは前記屋根に太陽光が鋭角な範囲(ここでは、30°以下)内で入射する方向から見たときは明色系の色に見える(明色系の色を呈する)ように構成したことを特徴とする。
【0008】
上記の構成を有する本発明に係る傾斜屋根によれば、軒下あるいはその下方から屋根を見上げたときには、暗色系の色、例えば黒色として認識でき、視覚的に重厚な屋根である一方、傾斜屋根に対して太陽光は明色系の色の部分に照射されるから、反射率が高く、加熱されにくいので、屋根の温度上昇が抑制され、省エネルギー化が図れる。
【0009】
請求項2に記載のように、前記傾斜屋根の上面を階段状あるいは凹凸状に形成して多数の段差部を全体的に設け、前記各段差部の、ほぼ鉛直方向に立ち上がった部分または前記屋根を構成する屋根材の載置面に対しほぼ垂直に立ち上がった部分に暗色系の色を施すとともに、前記段差部に続く、ほぼ水平な部位または前記屋根材の載置面にほぼ平行な部位に明色系の色を施すことができる。
【0010】
このようにすれば、傾斜屋根の各段差部におけるほぼ鉛直方向に立ち上がった部位または前記屋根材の載置面に対しほぼ垂直に立ち上がった部分が軒下から見上げた際に正面に見え、そこが暗色系の色からなるので、視覚的に重厚な屋根として認識でき、違和感を抱くことがない。一方、傾斜屋根の段差部に続く、ほぼ水平な部位または前記屋根材の載置面に対しほぼ平行な部位には、太陽光が垂直(鉛直方向に対し0°)あるいは鉛方向に対し30°より小さな角度で入射するが、入射部位の屋根の色は明色系の色からなり、反射率が高いので、屋根が加熱されにくい。
【0011】
請求項3に記載のように、前記屋根材を、粘度系、スレート系、セメント系あるいは金属系のいずれかから選択できる。
【0012】
このように、各種屋根材を使用することができるが、請求項2に記載の階段状や凹凸状に屋根の上面を形成する際には、成形が容易なセメント系の、プレスセメント瓦やコンクリート系屋根材をはじめとし、段差部の加工が容易な金属系の、カラートタンなどの鋼板やアルミ合金製で裏側に断熱材を入れたものや銅板などの非鉄金属製屋根材を使用するのが好ましい。また、平滑な面上にパテや樹脂モルタル等でそのような形状の凹凸を形成させることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
上記したように、本発明に係る傾斜屋根には、つぎのような優れた効果がある。
【0014】
すなわち、本発明の傾斜屋根は、その上面を階段状や凹凸状にして多数の段差部を全面的に形成し、太陽光が垂直方向あるいは垂直方向に対し鋭角な方向から入射する箇所は高い反射率を有する白色などの明色系の色とし、家屋より低い位置や軒下などから屋根を見上げたときには、黒色や濃紺色などの暗色系の色に見えるようにすることにより、視覚的に重厚な屋根として認識できるようにしたので、反射率は高いが、白色や銀色などの明色系の色に見える屋根のような違和感は一切なく、建物全体の外観が損なわれることがなく、意匠性が高められる。しかも、例えば屋根の上面に段差部を設けて特定方向(屋根より低い位置から見上げて正面になる方向)から暗色系の塗料あるいは釉薬を段差部の一部に吹き付けるだけの簡単な加工で済むので、構造が簡単で製造が容易であり、大量生産が可能で低コスト化が図れる。また、太陽光が屋根に垂直あるいは鉛直方向に対し鋭角に入射する箇所は高反射率の色からなるので、屋根全体が高温に加熱されにくく、特に夏場に建物内の温度が低く抑えられ、省エネルギー化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る傾斜屋根の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明の傾斜屋根の実施例を示す斜視図で、(a)は屋根より高い位置から見た斜視図、(b)は屋根より低い位置から見た斜視図、図2は屋根材に陶器瓦を用いた傾斜屋根の実施例を示す分解斜視図である。
【0017】
図1に示すように、本実施例の傾斜屋根2は、切り妻屋根1の棟(屋根の頂部)2aを境にして両側の軒先にかけて下向きに傾斜した屋根である。両側の各傾斜屋根2は、図1(b)のように傾斜屋根2の軒先より低い位置から見上げたときには暗色系の色、本例では黒色に見えるが、傾斜屋根2の上方から見下ろしたときには、図1(a)のように明色系の色、本例では白色に見えるように構成している。具体的には、図2に示すように、野地板3上にシート状の屋根下地材4を敷設し、傾斜屋根2の棟2aから軒先にかけて一定間隔をあけて桟5を平行に取り付け、上側の陶器瓦(屋根材)6の先端部上に下側の陶器瓦6の後端部を被せて重ね合わせるとともに、各陶器瓦6の後端部下面の凹状溝6aを桟5に嵌め込んで係止させ、滑り落ちないように固定できるようにしている。なお、軒先の陶器瓦6は、本例では陶器瓦6の先端部下面に幅広の凹状溝6eを設け、幅広の桟5’の凹状溝6eを嵌め込んで固定するようにもしている。また、屋根材としての各陶器瓦6は、その上面6bには白色の釉薬を施して反射率を高める一方、先端の垂直面(起立面)6cおよび側面6dには黒色の釉薬を施している。図2中の符号9は垂木で、野地板3は平行に配設された複数本の垂木9上に固設されている。
【0018】
また、図3に示す別の実施例では、長尺のアルミ合金製屋根材7を、図3(a)のように階段状に屈曲させて段差部7’を長手方向に沿って一定間隔で形成し、野地板3上に敷設した状態で段差部7’が野地板3に対しほぼ垂直に起立した状態になる先端部正面7aを、黒色に焼き付け塗装して着色した構造からなる。一方、屋根材7の先端部正面7a以外は、アルミ合金の地色である銀白色を呈するように着色はしていない。なお、図3(a)は図1(a)のA−A線断面図に対応する断面方向の斜視図である。ところで、図3(b)に示すように、先端部正面(起立面)7aの下端が、野地板3の上面に対して当接する角度αはほぼ垂直(90°)が望ましいが、垂直でなくても、例えば垂直方向から30°以内の角度であればよい。また、図3(b)に示すように屋根材7の階段状部分におけるほぼ水平な上面(いいかえれば、野地板3の上面とほぼ平行な面)7bは、太陽光の入射角βが垂直方向(β=0)および垂直方向から円周方向にそれぞれ30°以内の角度(β≦30°)になるのが望ましい。また、図3(c)は図1の傾斜屋根2を真上から見た状態を示す一部平面図で、傾斜屋根2は銀白色に見え、反射率が高い。
【0019】
つぎに、図4は本発明の他の実施例に係る傾斜屋根を備えた切り妻屋根を示す斜視図で、図1に対応しており、図4(a)は屋根より高い位置から見た斜視図、図4(b)は屋根より低い位置から見た斜視図である。本例の傾斜屋根2は、屋根材8に、セメントに繊維を混入して強化した板状の彩色スレートを使用している。この屋根材8は、図5(c)に示すようにその全面を凹凸状に形成して多数の段差部8’を全体的にほぼ均一に設けるとともに、図5(b)に示すように段差部8’の、野地板3の上面に対しほぼ垂直に当接する起立した先端部正面8aを、黒色に着色した構造からなる。屋根材8は本例の場合、厚さ10mm前後(例えば7mm〜12mm)で。野地板3上に断熱材層(図示せず)を介して敷設される。図5(a)は図4(a)の傾斜屋根2をA方向から見た矢視図、図5(b)は図4(a)の傾斜屋根2をB方向から見た矢視図、図5(c)は図4(a)の傾斜屋根2をC方向から見た矢視図である。
【0020】
以上に本発明に係る傾斜屋根について複数の実施例を示したが、いずれの実施例においても、図3(b)に示すように、太陽光が傾斜屋根に対し鋭角に(傾斜屋根2の上面7bに垂直な方向または垂直な方向を中心に30°以内の角度から)照射される箇所は、高い反射率を有する白色や銀白色などの明白色の色になっている。しかも、それらの傾斜屋根は低い位置から見上げたときには、反射率が低い暗色系の色の屋根として認識され、視覚的に重厚さを備え、屋根の色で建物全体の外観が損なわれることを低減し、意匠性を高めるところが共通している。
【0021】
図6は本発明の傾斜屋根(a)とその比較例(b)を示す平面図で、比較例の傾斜屋根22はいずれの方向から見ても暗色系の色を呈する。そこで、本発明の実施例に係る傾斜屋根21(図6(a))と比較例に係る傾斜屋根22(図6(b))とに同時に太陽光を同一時間照射した場合の温度上昇に関する実験結果を下記に示す。
【0022】
条件: 縦:450mm、横:45000mm、厚さ:5mmのスレート板を2枚用意した。各スレート板20の表面には、縦(水平方向)17,3mm(横45000mm)の水平面21b・22bをもち、高さ(厚さ)10mmの段差21c・22cを有する階段状部分21a・22aを、パテにて縦方向に沿って連続的に設けた。そして、各スレート板20上の全面(階段状パテの水平面21b・22bおよび垂直面21c・22c)に、黒色(日本塗料工業会発行「塗料標準色におけるCN−10相当色」のアクリルウレタン塗料を塗布した。これらの一方を比較例の屋根材22とした。他方は、さらに階段状部分21aの水平面(黒色面)21b上に、白色(日本塗料工業会発行「塗料標準色におけるCN−10相当色」のアクリルウレタン塗料をさらに塗布し、これを本発明の実施例に係る屋根材21とした。
【0023】
・上記各屋根材21・22を水平方向(階段状部分の垂直面に対し正面方向)からの目視観察したところ、両者は黒色の屋根材として認識された。
【0024】
・本年の7月1日に、午前10時から午後3時までの5時間、直射日光の照射下に静置し、その温度変化を経時的に測定した。図7は下側のグラフが本発明の実施例21の温度変化で、上側のグラフが比較例22の温度変化である。設置条件は、南面仰角30°(前記階段状部分の表面(上面)21b・22bにほぼ垂直に日光が入射する状態)で遮蔽物はなく、ほぼ終日快晴であった。
【0025】
実験結果:上記のように水平方向からの目視観察では、いずれも黒色の屋根材として認識された。しかし、図7に示すように、日光の照射開始から2時間半〜3時間経過後には、25℃程度の温度差が生じ、長時間その温度差が継続した。このように大きな温度差は、従来の断熱塗料の塗布による手法では、決して得られない効果上の差異である。
【0026】
【表1】

【0027】
以上に本発明の傾斜屋根について複数の実施例を示したが、本発明は下記のように実施することができる。
・屋根の形は、切り妻屋根に限るものではなく、寄せ棟屋根、片流れ屋根、方形屋根など、屋根の頂部から軒先にかけて下向きに傾斜した屋根を備えた屋根であれば適用できる。
・屋根材についても、上記の粘度系、金属系、スレート系のほか、セメント系のプレスセメント瓦およびコンクリート系、樹脂系など、種類や材質を問わずに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の傾斜屋根の実施例を示す斜視図で、(a)は屋根より高い位置から見た斜視図、(b)は屋根より低い位置から見た斜視図である。
【図2】屋根材に陶器瓦を用いた本発明に係る傾斜屋根の実施例を示す、部分拡大の分解斜視図である。
【図3】本発明の別の実施例を示す図面で、図3(a)は図1(a)のA−A線断面図に対応する断面方向の斜視図、図3(b)は図3(a)の一部を拡大した説明図、図3(c)は図1の傾斜屋根2を真上から見た状態を示す一部平面図である。
【図4】本発明の他の実施例に係る傾斜屋根を備えた切り妻屋根を示す斜視図で、図1に対応しており、図4(a)は屋根より高い位置から見た斜視図、図4(b)は屋根より低い位置から見た斜視図である。
【図5】図5(a)は図4(a)の傾斜屋根2をA方向から見た矢視図、図5(b)は図4(a)の傾斜屋根2をB方向から見た矢視図、図5(c)は図4(a)の傾斜屋根2をC方向から見た矢視図である。
【図6】本発明の傾斜屋根の屋根材とその比較例の屋根材とを示す図面で、図6(a)は図3(a)に対応する実施例の一部を断面で表した斜視図、図6(b)は図3(a)に対応する比較例の一部を断面で表した斜視図である。
【図7】直射日光の照射下に本発明の実施例品と比較例品とを静置し、その温度変化を経時的に測定した実験結果を示すもので、下側のグラフが本発明の実施例を、上側のグラフが比較例をそれぞれ表している。
【符号の説明】
【0029】
1 切り妻屋根
2 傾斜屋根
3 野地板
4 屋根下地材
5・5’桟
6 陶器瓦(屋根材)
6a・6e凹状溝
6b容器瓦6の上面
6c先端部垂直面(起立面)
6d側面
7 アルミ合金製屋根材
7’段差部
7a先端部正面
7b屋根材7の上面
8 屋根材
8’段差部
8a先端部正面
9 垂木
21 本発明の実施例品
22 比較例品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軒先に向けて下向きに傾斜する屋根を軒下から見上げたときには暗色系の色に見え、傾斜する前記屋根を真上あるいは前記屋根の太陽光が鋭角な範囲内で入射する方向から見たときは明色系の色に見えるように構成したことを特徴とする傾斜屋根。
【請求項2】
前記傾斜屋根の上面を階段状あるいは凹凸状に形成して多数の段差部を全体的に設け、前記各段差部の、ほぼ鉛直方向に立ち上がった部分または前記屋根を構成する屋根材の載置面に対しほぼ垂直に立ち上がった部分に暗色系の色を施すとともに、前記段差部に続く、ほぼ水平な部位または前記屋根材の載置面にほぼ平行な部位に明色系の色を施したことを特徴とする請求項1記載の傾斜屋根。
【請求項3】
前記屋根材を、粘度系、スレート系、セメント系あるいは金属系のいずれかから選択したことを特徴とする請求項1または2記載の傾斜屋根。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−24705(P2010−24705A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187047(P2008−187047)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(591164794)株式会社ピアレックス・テクノロジーズ (25)
【Fターム(参考)】