説明

元押し工法による覆工エレメントの地山への貫入工法及び元押し架台

【課題】元押し工法により覆工エレメントを地山に貫入させるにあたり、推進反力を受けるための反力壁等の仮設が不要であり、工期の短縮、工費の低減を図ることができる、元押し工法による覆工エレメントの地山への貫入工法及び元押し架台を提供する。
【解決手段】発進側10及び到達側11のそれぞれに山留壁13,14を設置し、トンネルの掘削に先立ち多数の覆工エレメント16を発進側10から到達側11に向けて推進させることによって、該エレメント16を地山12に貫入させる工法において、覆工エレメント16を推進させるための推進反力を、山留壁13,14を地山12に定着させるための引張材15aから得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、元押し工法による覆工エレメントの地山への貫入工法及び元押し架台に関し、さらに詳細には、線路や道路の下方に地下構造物を構築するに際し、元押し工法により覆工エレメントを地山に貫入させる工法及びそれに用いる架台の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路や道路の下方に立体交差する地下構造物(トンネル)を構築する工法の1つとして、長尺の多数の鋼製エレメントを地山に貫入させて覆工を行うJES(Jointed Element Structure )工法が知られている。
【0003】
この工法は、図1に示すように、例えば線路1下の地山に構造物の断面を区画するように、長尺の多数の覆工エレメント、具体的には断面四角形の基準覆工エレメント2と断面コ字形の一般部覆工エレメント3とを並列させて地山に順次貫入させ、エレメント内部にコンクリートを打設して覆工壁4を構築した後、覆工壁4内方の地山を掘削して、覆工壁4を箱形ラーメン形式又は円形等の構造物とする工法である。なお、この工法では、隣接するエレメントどうしは、引張荷重の伝達に優れた特殊形状を有する継手(JES継手)により連結される。その連結は、後行エレメントの地山への貫入に伴って、先行エレメントの継手に後行エレメントの継手を嵌合させることによってなされる(例えば特許文献1,2参照)。
【0004】
覆工エレメントを地山に貫入させる工法としては、到達側に設置した牽引ジャッキにより、予め地山に埋設したPC鋼線を介してエレメントを地山に引き込む牽引工法と、発進側に設けた元押しジャッキによりエレメントを地山に押し込む元押し工法とがある。牽引工法の場合、地山をボーリングして牽引のためのPC鋼線を設置するという作業が必要であるが、発進側及び到達側とも施工設備はそれほど大掛かりなものとはならない。
【0005】
他方、元押し工法の場合は、牽引のためのPC鋼線の設置は不要であるが、エレメントを地山に押し込むための推進反力を受ける仮設が必要となる。この反力受けのための仮設は、従来、コンクリートによる反力壁の築造、反力杭の設置、背面地山の地盤強化などによって対応しており、このため、施工期間が長くなるだけでなく、施工費用も高価になるという問題があった。
【特許文献1】特開2000−120372号公報
【特許文献2】特開2000−179282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、元押し工法により覆工エレメントを地山に貫入させるにあたり、推進反力を受けるための反力壁等の仮設が不要であり、工期の短縮、工費の低減を図ることができる、元押し工法による覆工エレメントの地山への貫入工法及び元押し架台を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、発進側及び到達側のそれぞれに山留壁を設置し、トンネルの掘削に先立ち多数の覆工エレメントを発進側から到達側に向けて推進させることによって、該エレメントを地山に貫入させる工法において、
前記覆工エレメントを推進させるための推進反力を、前記山留壁を地山に定着させるための引張材から得ることを特徴とする元押し工法による覆工エレメントの地山への貫入工法にある。
【0008】
上記工法において、前記引張材は、前記発進側及び到達側の各山留壁を連結するように地山を貫通して設置された山留タイロッドである。
【0009】
また、この発明は、発進側及び到達側のそれぞれに山留壁を設置し、トンネルの掘削に先立ち多数の覆工エレメントを発進側から到達側に向けて推進させることによって、該エレメントを地山に貫入させるために、前記発進側に設置される元押し架台であって、
前記覆工エレメントを地山側に案内するための案内路を有するベースフレームと、
このベースフレームの前部に前記山留壁と間隔を置くように設けられ、前記覆工エレメントが通過可能なゲートを有する前部フレームと、
前記ベースフレームの後部に設けられ、前記覆工エレメントを地山側に押し込むための推進ジャッキを支持するためのジャッキ支持部とを備え、
前記前部フレームは、前記山留壁を地山に定着させるための引張材に連結されていることを特徴とする覆工エレメントの元押し架台にある。
【0010】
より具体的には、前記前部フレームは、前記ベースフレームに互いに間隔を置いて固定される1対の縦向き部材と、これらの縦向き部材に互いに間隔を置いて固定される1対の横向き部材とからなり、
前記ゲートは前記縦向き部材及び横向き部材によって囲まれる空間によって形成されている。
【0011】
前記引張材は前記横向き部材に固定されている。より具体的には、前記1対の横向き部材は、それぞれ隙間が存するように互いに平行に配置された2本の部材からなり、前記引張材は前記隙間を通して前記横向き部材の背面側に突出して、支圧板を介して該横向き部材に定着されている。また、前記前部フレームと前記山留壁との間に互いに間隔を置いて複数のスペーサが設置されている。前記引張材は、前記発進側及び到達側の各山留壁を連結するように地山を貫通して設置されたタイロッドである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、元押し工法により覆工エレメントを地山に貫入させるにあたり、推進反力を山留壁を地山に定着させる引張材から得るようにしたので、発進側には従来のような推進反力を受けるための反力壁等の仮設が不要となり、工期の短縮、工費の低減を図ることができる。また、発進側においては、山留壁の背面側の施工スペースを有効に利用でき、さらには長手方向に分割して施工されるエレメントの分割体を長尺のものにすることができるという効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図2は、この発明の概要を示す概略的な鉛直方向断面図である。
【0014】
鉄道線路や道路の下方に地下構造物(トンネル)を構築する場合、発進側10及び到達側11に地山12を挟むように鋼矢板工法や親杭横矢板工法などによる山留壁13,14がそれぞれ設置される。地山12にはボーリングにより予め複数のタイロッド15が埋設され、これらのタイロッド15により発進側10の山留壁13と到達側11の山留壁14とが連結され、地山12に定着されている。地下構造物を構築するための覆工エレメント16は、発進側10から到達側11に向けて地山12に貫入される。この発明は、元押し工法すなわち覆工エレメント16を押込みによって地山12に貫入させるにあたり、その押込み反力を一部のタイロッド15から得るようにしたものである。
【0015】
図3〜図5は、覆工エレメント16を地山に貫入させるために、発進側10に設置される元押し架台の詳細な実施形態を示し、図3は平面図、図4は鉛直方向断面図、図5は図3のA−A線矢視断面図である。元押し架台20は発進側10に設置された作業構台21(図4参照)の上にH型鋼材22を介して搭載されている。元押し架台20は、ベースフレーム23と、このベースフレーム23の前部に設けられた前部フレーム24と、ベースフレーム23の後部に設けられたジャッキ支持部25とを備えている。
【0016】
ベースフレーム23は山留壁13に対してほぼ直角に配置される1対の主部材26,26と、これら主部材26,26間を連結する複数の連結部材27とからなる。主部材26及び連結部材27は、いずれもH型鋼材が用いられている。1対の主部材26,26間の中央には、主部材26と平行になるように1対のレール28,28が設置されている。このレール28は覆工エレメント16を地山側に案内するためのものである。なお、図3〜図5に示されている覆工エレメント16は図1を参照して説明したエレメントのうち断面四角形の基準エレメントである。また、エレメント16は長手方向に複数に分割して、各分割エレメントを溶接しながら地山に貫入される。図3〜図5に示されている分割エレメント16aは、内部に掘削機が収容される先頭部の刃口エレメントである(図2も併せて参照)。
【0017】
前部フレーム24は、ベースフレーム23の主部材26,26の先端部に斜材29を介して固定された1対の縦向き部材30,30と、これらの縦向き部材30,30の背面に互いに間隔を置いて固定された1対の横向き部材31,31とからなる。縦向き部材30及び横向き部材31は、いずれもH型鋼材が用いられている。これらの縦向き部材30及び横向き部材31によって囲まれる空間Sは、覆工エレメント16が通過するゲートを形成している(図5参照)。1対の横向き部材31,31は、いずれも隙間dが存するように互いに平行に配置された2本の部材31a,31aからなっている。
【0018】
前部フレーム24は山留壁13と間隔を置いて設けられている。山留壁13の表面には、タイロッドを用いた通常の山留工法の場合と同様に、複数のタイロッド15が突出し定着されている。この発明では、これらのタイロッド15のうち所定本数(実施形態では6本)が反力を取るために利用される。反力を取るためのタイロッドは、符号15aで示されている。タイロッド15aは、カプラー32を介して連結される延長ロッド33により延長されている(図3参照)。そして、延長されたタイロッド15aは横向き部材31の隙間dを通してその背面側に突出し、支圧板34を介して横向き部材31に定着されている。
【0019】
前部フレーム24と山留壁13との間には、前部フレーム24に互いに間隔を置いて固定された複数のスペーサ35が設置されている。これらのスペーサ35は回転部36を回転操作することにより、長さ調整可能である。
【0020】
ジャッキ支持部25は、ベースフレーム23の主部材26,26間に斜材40を介して固定されている。ジャッキ支持部25はH型鋼材からなり、そのウェブ間には補強のための多数のプレート41が設けられている。このジャッキ支持部25の前面に推進ジャッキ42が設置される。推進ジャッキ42は、この実施形態では2基設置され、それらの作動ロッド部にプレスリング43が設けられている。覆工エレメント16は、このプレスリング43を介して推進ジャッキ42から推進力を受ける。
【0021】
上記のような元押し架台20によれば、推進ジャッキ42により覆工エレメント16を地山に押し込むための推進反力は、ジャッキ支持部25、ベースフレーム23及び前部フレーム24を介してタイロッド15aに伝達される。このタイロッド15aは到達側11の山留壁14に定着されていることから、結果的に地山から推進反力を得ることになり、覆工エレメント16を地山に貫入させるための十分な推進反力を得ることができる。
【0022】
また、仮に反力を取るための各タイロッド15aに偏荷重が作用しても、前部フレーム24と山留壁13との間にはスペーサ35が設置されているので、元押し架台20が偏向することはない。したがって、覆工エレメント16の直進性を維持することができる。
【0023】
以上のように、この発明によれば、発進側には従来のような推進反力を受けるための反力壁等の仮設が不要となり、工期の短縮、工費の低減を図ることができる。また、発進側10においては、山留壁13の背面側の施工スペースを有効に利用でき、さらには長手方向に分割して施工されるエレメントの分割体を長尺のものにすることができるという効果もある。
【0024】
なお、先行する覆工エレメントの地山への貫入施工が完了した後、後行する覆工エレメントの地山への貫入施工のために元押し架台20を横方向又は縦方向に移動させる。その際、反力を取るために利用した複数のタイロッド15aのうち所要のものは通常の山留用タイロッドに戻す一方、通常の山留用タイロッドのうち所要のものを反力を取るためのタイロッドとして新たに利用すべく元押し架台20に連結することとなる。
【0025】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は種々の態様を採ることができる。例えば、上記実施形態では、推進反力を取るための引張材として山留タイロッドを利用したが、これに限らず、アースアンカーによる山留工法の場合などは、推進反力を取るための引張材として、そのアンカー材を利用することも可能である。また、元押し架台の形態も一例を示したにすぎず、基本的にベースフレーム、前部フレーム、ジャッキ支持部を持ち、前部フレームが山留壁の引張材に連結される構造であれば、種々の形態とすることができる。
【0026】
さらに、この発明はJES工法で用いられる覆工エレメントの貫入施工に限らず、トンネルの掘削に先立って地山に貫入される覆工エレメントであれば、各種エレメントの貫入施工に適用できる。また、上記実施形態は発進側及び到達側に縦坑を設置しない施工例として示されているが、縦坑を設置する場合であっても、この発明を適用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明が適用されるJES工法を説明するための正面図である。
【図2】この発明の概要を示す概略的な鉛直方向断面図である。
【図3】元押し架台の実施形態を示す平面図である。
【図4】同実施形態の鉛直方向断面図である。
【図5】図3のA−A線矢視断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 線路
2 基準覆工エレメント
3 一般部覆工エレメント
4 覆工壁
10 発進側
11 到達側
12 地山
13 山留壁(発進側)
14 山留壁(到達側)
15 タイロッド
15a 推進反力を取るタイロッド
16 覆工エレメント
20 元押し架台
21 作業構台
23 ベースフレーム
24 前部フレーム
25 ジャッキ支持部
26 主部材
27 連結部材
28 レール
30 縦向き部材
31 横向き部材
32 カプラー
33 延長ロッド
34 支圧板
35 スペーサ
42 推進ジャッキ
43 プレスリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発進側及び到達側のそれぞれに山留壁を設置し、トンネルの掘削に先立ち多数の覆工エレメントを発進側から到達側に向けて推進させることによって、該エレメントを地山に貫入させる工法において、
前記覆工エレメントを推進させるための推進反力を、前記山留壁を地山に定着させるための引張材から得ることを特徴とする元押し工法による覆工エレメントの地山への貫入工法。
【請求項2】
前記引張材は、前記発進側及び到達側の各山留壁を連結するように地山を貫通して設置された山留タイロッドであることを特徴とする請求項1記載の元押し工法による覆工エレメントの地山への貫入工法。
【請求項3】
発進側及び到達側のそれぞれに山留壁を設置し、トンネルの掘削に先立ち多数の覆工エレメントを発進側から到達側に向けて推進させることによって、該エレメントを地山に貫入させるために、前記発進側に設置される元押し架台であって、
前記覆工エレメントを地山側に案内するための案内路を有するベースフレームと、
このベースフレームの前部に前記山留壁と間隔を置くように設けられ、前記覆工エレメントが通過可能なゲートを有する前部フレームと、
前記ベースフレームの後部に設けられ、前記覆工エレメントを地山側に押し込むための推進ジャッキを支持するためのジャッキ支持部とを備え、
前記前部フレームは、前記山留壁を地山に定着させるための引張材に連結されていることを特徴とする覆工エレメントの元押し架台。
【請求項4】
前記前部フレームは、前記ベースフレームに互いに間隔を置いて固定される1対の縦向き部材と、これらの縦向き部材に互いに間隔を置いて固定される1対の横向き部材とからなり、
前記ゲートは前記縦向き部材及び横向き部材によって囲まれる空間によって形成されていることを特徴とする請求項3記載の覆工エレメントの元押し架台。
【請求項5】
前記引張材は前記横向き部材に固定されていることを特徴とする請求項4記載の覆工エレメントの元押し架台。
【請求項6】
前記1対の横向き部材は、それぞれ隙間が存するように互いに平行に配置された2本の部材からなり、前記引張材は前記隙間を通して前記横向き部材の背面側に突出して、支圧板を介して該横向き部材に定着されていることを特徴とする請求項5記載の覆工エレメントの元押し架台。
【請求項7】
前記前部フレームと前記山留壁との間に互いに間隔を置いて複数のスペーサが設置されていることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1記載の覆工エレメントの元押し架台。
【請求項8】
前記引張材は、前記発進側及び到達側の各山留壁を連結するように地山を貫通して設置されたタイロッドであることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1記載の覆工エレメントの元押し架台。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−154463(P2007−154463A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348688(P2005−348688)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【Fターム(参考)】