説明

元素分析方法または元素分析装置

【課題】 ガス分析計の出力がオーバースケールした場合においても、自動的に信頼性のある分析値を確保し、測定精度の高い元素分析方法および元素分析装置を提供すること。
【解決手段】 ガス分析計の出力と時間の相関から、出力が飽和状態になったか否かを判定し、飽和状態となった時間Taおよび飽和状態が解消された時間Tbを認定するとともに、飽和状態になった場合、出力の立ち上り時間Tuから飽和状態となるまでの時間Taの出力、および飽和状態が解消された時間Tbから立ち下り時間Tdの出力を用いてカーブフィッティングを行い、時間Ta〜Tbまでの出力を補間するとともに、補間された出力を基に補間された時間帯の特定成分濃度を算出し、立ち上り時間Tuから立ち下り時間Tdまでの特定成分濃度を基に、特定元素の定量分析を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、元素分析方法または元素分析装置に関し、特に、金属材料やセラミックスなどの試料中の特定の元素を測定対象とする元素分析方法または元素分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼やアルミニウムなどの金属材料やセラミックスなどの素材中には、水素、酸素あるいは炭素等の元素が含まれることによって、その特性が大きく異なることから、こうした元素を簡便かつ正確に測定できる元素分析方法および元素分析装置の要請が強い。また樹脂素材中にも硫黄や燐等の元素が含まれ、その含有量の精度の高い分析の要請がある。かかる複数の元素を測定対象とする元素分析装置においては、通常、融解式分析法が用いられる。具体的には、金属試料中の微量の炭素および硫黄を定量分析する方法として、酸素気流中で金属試料を燃焼させ、試料中の炭素または硫黄を二酸化炭素または二酸化硫黄に変え、酸素ガスとともに赤外線吸収セルに送り、赤外線吸収強度から含有率を求める燃焼−赤外線吸収法があり、いくつかの分析方法や分析装置が提案されている。
【0003】
例えば、図9に示すような構成の分析装置において、気密な酸化物ガス発生室101内に金属試料102を挿入し、酸化物ガス発生室101内に酸素を供給しながら、金属試料102に不活性ガスプラズマを照射し、発生した酸化物ガスを酸素または不活性ガスにより定量装置103,104に搬送して定量する。不活性ガスプラズマの照射により試料102の一部が溶融される。試料102中の炭素および硫黄は高温加熱され励起され、酸素と反応して酸化物ガスとなる。プラズマの照射条件および時間は一定であるので、常に一定重量の試料102が溶融される。検出器103で検出された強度は経時的に連続して記録され、積算される。積算量は一定重量の試料102中の炭素または硫黄量に対応するので、炭素または硫黄含有量を求めることができる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、図10に示すように、高周波加熱炉208内に、耐熱性に優れた高融点素材の酸化物およびこの酸化物に埋設された高周波誘導加熱により発熱する電導性発熱体203よりなる試料用容器202をるつぼとして設け、高周波加熱炉208内に酸素ガスを供給しながら前記電導性発熱体203の発熱により非電導性試料201を燃焼させ、この非電導性試料201中に含まれる炭素および/または硫黄を、例えば赤外線検出器207によって分析するように構成されている試料中の元素分析装置を挙げることができる(例えば特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平05−18962号公報
【特許文献2】特開2000−321265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記分析方法および分析装置では、以下のような課題が生じることがあった。
(i)例えば、炭素および硫黄の分析においては、炭素は二酸化炭素と一酸化炭素に変換し、硫黄は二酸化硫黄に変換し、それぞれの赤外線吸収スペクトル強度を赤外線ガス分析計によって計測し、それぞれ濃度を算出している。このとき、赤外線ガス分析計は、ガス抽出ピークの検出可能濃度が決まっているため、その上限強度を超えるとスケールオーバーとなり、オーバー分は積算されずに分析値が低い値となり、正しい分析ができない場合があった。
(ii)特に、未知の試料を分析する場合には、予めその含有量を推測することが難しく、そのため、試料の特性を熟知した専門のオペレータがピーク強度を推測し、検出可能濃度となるように設定する必要があった。
(iii)また、スケールオーバーとなった場合に、その分析データが全く使用できないとなれば、さらに試料の質量を減らして再度分析を行い、分析値を求める必要があるが、試料の量が少なく1回しか分析できない場合や分析回数を減らしたい場合などにおいては、正しい分析ができないことがあった。
【0007】
そこで、本発明はこうした問題点を解決し、試料中の元素分析において、ガス分析計の出力がオーバースケールした場合においても、自動的に信頼性のある分析値を確保し、測定精度の高い元素分析方法および元素分析装置を提供することを目的とする。つまり、試料の量に拘らず、ガス分析計の出力を基に自動的に補間することができる機能を有し、測定精度の高い元素分析方法および元素分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す元素分析方法および元素分析装置によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明は、試料物質の酸化・還元・燃焼処理を行い、該処理後のガス中の特定成分濃度をガス分析計によって測定し、該ガス分析計の出力と時間の相関から、その濃度ピーク値あるいは時間積分値を用いて前記試料物質中の特定元素の定量分析を行う元素分析方法であって、
(1)前記ガス分析計の出力と時間の相関から、前記ガス分析計の出力が飽和状態になったか否かを判定し、飽和状態となった時間Taおよび飽和状態が解消された時間Tbを認定するとともに、
(2)飽和状態になった場合、前記ガス分析計の出力の立ち上り時間Tuから飽和状態となるまでの時間Taの出力、および飽和状態が解消された時間Tbから立ち下り時間Tdの出力を用いてカーブフィッティングを行い、
(3)時間Ta〜Tbまでの出力を補間するとともに、補間された出力を基に補間された時間帯の特定成分濃度を算出し、
(4)前記立ち上り時間Tuから立ち下り時間Tdまでの特定成分濃度を基に、特定元素の定量分析を行う
ことを特徴とする。
【0010】
未知の物質などの元素分析においては、当該物質の酸化等処理後のガス分析計の出力が飽和状態となることがあり、既述のような問題があった。このとき、元素分析装置にこうした状態の検知機能がなければ、正しい分析値を得ることができない。また、飽和状態となったガス分析計の出力の補間操作を専門オペレータに依存した場合、分析操作の効率性が課題となる。本発明は、ガス分析計の出力特性から飽和状態の判定を行い、選別された有効なガス分析計の出力を基にカーブフィッティングを行い、補間された出力を基に特定元素の定量分析を行うことによって、自動的に信頼性のある分析値を確保し、測定精度の高い元素分析方法を提供することを可能にした。
【0011】
本発明は、上記元素分析方法であって、前記カーブフィッティングを、スプライン関数を用いて行うことを特徴とする。
【0012】
飽和状態となったガス分析計の出力の補間方法の検証過程において、従前のような2次あるいは3次の一般的な多項式による近似曲線の設定では、正確な補間ができない場合があることが判った。つまり、元素分析における試料処理後のガス分析計の出力は、飽和状態の前後において、その立ち上り特性が、立ち下り特性と異なるという特異性を有することから、それぞれの特性に合致した補間が必要となる場合があった。このとき、具体的な補間方法の1つとして、スプライン関数を用いてカーブフィッティングを行うことが有効であるとの知見を得た。つまり、自動的に選択された有効なガス分析計の出力を用い、数次の多項式が任意の区間ごとに設定され、上記ガス分析計特有の出力特性に合致した補間関数を設定することによって、正確な補間を行うことが可能となった。
【0013】
本発明は、上記元素分析方法であって、前記カーブフィッティングにおいて、前記時間幅Tu−Taおよび時間幅Tb−Tdの前記ガス分析計の出力を基に、各々異なる正規分布関数で時間幅Ta−Tbの出力の補間を行うことを特徴とする。
【0014】
上記のように、飽和状態の前後において、その立ち上り特性が、立ち下り特性と異なるという特異性を有する一方、各々の特性は、固有の関数で近似される場合がある。本発明は、飽和状態となったガス分析計の出力の補間方法の1つとして、時間幅Tu−Taおよび時間幅Tb−Tdのガス分析計の出力を基に、各々異なる正規分布関数で補間するもので、元素分析における試料処理後のガス分析計の出力特性に合致した正確な補間を行うことが可能となった。
【0015】
本発明は、上記元素分析方法であって、前記カーブフィッティングにおいて、前記飽和状態の時間幅Ta−Tbまたは前記立ち上り時間Tuから立ち下り時間Tdまでの時間を変化させて、前記(2)〜(4)の操作を行うことを特徴とする。
【0016】
カーブフィッティングを行うとき、その補間の精度は、ガス分析計の出力の飽和状態の時間の長さあるいは全出力に占めるその割合によって異なると考えられ、後述するように、本発明者は、実測のガス分析計の出力を基に、その飽和状態を変化させてその補間の精度を検証した。本発明は、こうした検証結果を基に、飽和状態の時間幅Ta−Tbまたは立ち上り時間Tuから立ち下り時間Tdまでの時間を変化させて、その補間されたガス分析計の出力を比較することによって、さらに補間精度の高いカーブフィッティングが可能となることを見出したものである。
【0017】
本発明は、上記元素分析方法であって、前記カーブフィッティングにおいて、前記飽和状態の時間幅Ta−Tbと前記立ち上り時間Tuから立ち下り時間Tdまでの時間の比率、あるいは飽和状態の前記ガス分析計の出力のピークと補間された出力のピークの比率から、補間された出力の有効性を判断することを特徴とする。
【0018】
上記のように、カーブフィッティングを行うとき、その補間の精度は、ガス分析計の出力の飽和状態の時間幅Ta−Tbと前記立ち上り時間Tuから立ち下り時間Tdまでの時間の比率によって異なるとともに、飽和状態の前記ガス分析計の出力のピークと補間された出力のピークとの比率によっても相違する。本発明者は、実測のガス分析計の出力を基に、その飽和状態を変化させてその補間の精度と合わせて、その有効性についても検証した。本発明は、こうした検証結果を基に、これら2つの比率のいずれかによって、カーブフィッティングの有効性を判断することが可能であることを見出したものである。また、この結果を受けて、さらに有効な補間方法の選択を可能とすることができる。
【0019】
本発明に係る元素分析装置は、試料物質の酸化、還元あるいは燃焼処理を行う試料処理部と、該処理後のガス中の特定成分濃度測定するガス分析計を備え、上記の元素分析方法を用いてカーブフィッティングを行うとともに、前記ガス分析計の出力と時間の相関からその濃度ピーク値あるいは時間積分値を用いて前記試料物質中の特定成分の定量分析を行うことを特徴とする。
【0020】
上記のような元素分析方法を用いることによって、未知の物質等の元素分析におけるガス分析計の出力が飽和状態になったことを判定し、飽和した出力の補間を行うことができる。本発明は、こうした機能を有する元素分析装置を構成することによって、自動的に信頼性のある分析値を確保し、測定精度の高い元素分析装置を提供することを可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本発明に係る元素分析装置(以下「本装置」という)は、試料物質の酸化、還元あるいは燃焼処理を行う試料処理部と、該処理後のガス中の特定成分濃度測定するガス分析計を備え、ガス分析計の出力(以下「分析計出力」という)と時間の相関から、分析計出力が飽和状態になった場合にカーブフィッティングを行うとともに、その濃度ピーク値あるいは時間積分値を用いて前記試料物質中の特定成分の定量分析を行うことを特徴とする。
【0022】
<本装置の基本的な構成例>
図1は、本装置の基本的な構成として、微量の炭素や硫黄を含有する試料Sを、一次処理系10において、融解炉1によって酸素雰囲気で融解処理(酸化・燃焼処理に相当)する場合を例示する。第1構成例においては、さらに、得られたサンプルガスを、二次処理系20において、フィルタ3、精製処理部4を介して赤外線吸光式分析計(NDIR)2(ガス分析計に相当)に導入し、サンプルガス中の二酸化炭素および二酸化硫黄を測定する。また、これらの操作を制御して、試料中の炭素成分および硫黄成分の濃度を算出する操作制御部30からなり、以下の手順に沿って、測定操作される。
【0023】
〔本装置における測定操作について〕
(a)一次処理系10
(a−1)磁製ルツボ1a内に金属材料等の試料Sを投入し、この磁製ルツボ1aを融解炉1内部にセットする。
(a−2)酸素供給路1bから酸素を融解炉1に導入し、磁製ルツボ1a内の試料Sを酸素雰囲気とする。融解炉1は、試料Sに対し短時間で高温化することができることが好ましく、電極炉あるいは高周波炉などが好適である。
(a−3)酸素雰囲気において融解炉1を作動させ、試料Sを融解処理する。融解処理開始から所定時間(サンプルガス導入時間)Toの間、融解炉1内に酸素を流通させ、得られたサンプルガスを、二次処理系20に導入する。このとき、サンプルガス中には、酸素をベースとして、水分と二酸化炭素と二酸化硫黄および微量の一酸化炭素と窒素が含まれる。このとき、酸素は、測定成分を含むサンプルガスを二次処理系20から排出するための時間Tb分をさらに流通させる。このとき、所定流量Loに設定することによって、サンプルガスの総量V(V=Lo×To)を設定することができる。
【0024】
(b)二次処理系20によるサンプルガスの精製
融解炉1からのサンプルガスは、フィルタ3によって除塵し、精製処理部4によって水分除去等清浄化した後、NDIR2に導入することによって、サンプルガス中の二酸化炭素および二酸化硫黄を精度よく測定することができる。つまり、フィルタ3によって除塵されたサンプルガスは、精製処理部4に導入され、サンプルガス中の水分が除去される。このように清浄化されたサンプルガスが精製処理部4から供出される。精製処理部4は、二酸化炭素や二酸化硫黄の測定に際して誤差となる水分を除去するもので、二酸化炭素や二酸化硫黄に対して反応や吸着等によるロスの発生がなければ、特に試剤の制限はなく、例えば、過塩素酸マグネシウムや塩化カルシウムなどを基本組成とする試剤などを用いることができる。また、サンプルガス中の一酸化炭素が多い場合には、精製処理部4において、予め所定の温度に加熱した酸化剤(例えば、白金触媒など)によって酸化され、二酸化炭素に変換することも可能である。ただし、試料の性状によっては、これらの処理のいくつかあるいは全てを省略することが可能である。
【0025】
(c)サンプルガスのNDIRによる測定
上記(b)の精製工程を経たサンプルガスが、二酸化炭素ガスおよび二酸化硫黄分析計として機能するNDIR2に導入されて、サンプル中の二酸化炭素ガスや二酸化硫黄を測定する。測定は、所定流量Loに設定することによって、サンプルガスの総量V(V=Lo×To)について、瞬時値を積算することによって、試料の処理によって発生した炭素成分の総量を測定することができる。具体的には、サンプルガス導入時間Toの間の測定値の濃度ピーク値あるいは測定値を積算することによって、試料中の炭素成分および硫黄成分を測定することができる。このとき、本装置においては、NDIR2の出力の、少なくとも二酸化炭素と二酸化硫黄のいずれか一方または両方が飽和状態となったことを検出し、さらに、こうした測定値の誤差を自動的に補間することができる。こうした補間方法の詳細は、後述する。
【0026】
以上の操作において、融解炉1を含む各処理部は、操作制御部30によって、事前の準備およびその動作を調整・制御されることが好ましい。試料の組成や性状、あるいは特異な分析条件などの入力操作を可能にし、こうした入力を基に、融解炉1における電極炉あるいは高周波炉の作動や酸素の導入量などの元素分析装置の全体を制御するとともに、NDIR2からの出力信号に基づく濃度演算などを行うことが好ましい。
【0027】
<本装置における元素分析方法>
元素分析においては、既知の試料、あるいは未知の試料であっても既知の試料からその組成が推定できる試料については、分析計の検出可能濃度範囲を超える分析操作を行うことはないが、上記のように、新たに発見された試料あるいは特定成分が局部的に高密度分布を形成する試料等の分析操作においては、分析計出力の飽和状態が生じることがある。本装置においては、次の操作を基に、NDIR2の出力の少なくとも二酸化炭素と二酸化硫黄のいずれか一方または両方が飽和状態となったことを検出し、さらに、こうした飽和状態を自動的に補間する機能を有することを特徴とする。
(1)分析計出力と時間の相関から、分析計出力が飽和状態になったか否かを判定し、飽和状態となった時間Ta(以下「時間Ta」という)および飽和状態が解消された時間Tb(以下「時間Tb」という)を認定するとともに、
(2)飽和状態になった場合、分析計出力の立ち上り時間Tu(以下「時間Tu」という)から時間Taの出力、および時間Tbから分析計出力の立ち下り時間Td(以下「時間Td」という)の出力を用いてカーブフィッティングを行い、
(3)時間Taから時間Tbまでの出力を補間するとともに、補間された出力を基に補間された時間帯の特定成分濃度を算出し、
(4)時間Tuから時間Tdまでの特定成分濃度を基に、特定元素の定量分析を行う。
以下、分析計出力の飽和状態の検出およびその補間方法の詳細について説明する。
【0028】
(1)分析計出力の飽和状態の検出
図2は、本装置の試料分析後のNDIR2の出力において、分析計出力が飽和した状態を例示したものである。破線部が本来測定されるべき分析計出力であるが、サンプルガス中の特定成分(本装置の例では、二酸化炭素または/二酸化硫黄)の濃度が高く、その検出可能濃度範囲を超えた状態を実線部にて示す。ここで、飽和状態の検出は、時間Tuから時間Taまでの分析計出力の変化と時間Taから時間Tbまでの分析計出力の変化の相違、および時間Taから時間Tbまでの分析計出力の変化と時間Tbから時間Tdまでの分析計出力の変化の相違によって行うことができる。
【0029】
具体的には、例えば、(i)分析計出力が予め設定された濃度(フルスケール濃度)を超えた場合、(ii)分析計出力の変化率が、予め設定された範囲を超えない時間帯であって、その前後の分析計出力において変曲点(図2のDaおよびDb)を有する場合、あるいは(iii)分析計出力の変化が、その立ち上りと立ち下りの中間において予め設定された範囲内を超えない場合、などをその飽和状態にあると認定し、かかる状態が開始する時間Taから終了する時間Tbを飽和状態時間帯とする。
【0030】
(2)飽和状態になった分析計出力のカーブフィッティング
図3(A)は、正しい測定が行われたときの実測の分析計出力を例示する。分析計出力が飽和状態になった場合には、補間を行った場合の理想的な分析計出力となる。図3(B)に示すように、分析計出力が飽和状態になった場合、図3(C)に示すように、時間Tuから時間Taまでの出力、および時間Tbから時間Tdまでの出力を用いてカーブフィッティングを行う。図3(B)は、ガス分析計の検出限界が0.06mgであり飽和状態になったと想定した場合の分析計出力を例示する。ピークが検出限界値0.06mgのところで頭打ちとなる。図3(C)は、このときの時間Tuから時間Ta間の分析計出力と時間Tbから時間Td間の分析計出力を用い、後述するスプライン関数を用いたカーブフィッティングによって、補間されたときの分析計出力を例示する。補間により飽和状態になった部分のピークを推測することができる。
【0031】
ここで、カーブフィッティングにおいて、任意の曲線をある区間内の複数の変数によって補間する場合、一般には、数次の多項式を用いた近似曲線による補間方法が採られる。しかしながら、元素分析における試料処理後の分析計出力では、図3(B)に示すように、飽和状態の前後において、分析計出力の立ち上り特性が、立ち下り特性と異なるという特異性があることが判り、こうした分析計出力の特性に対しては、従前のような2次あるいは3次の一般的な多項式による近似曲線の設定では、正確な補間ができない場合があることが判った。つまり、立ち上りは、比較的迅速な応答により時間Tuから時間Taまでの時間も短く勾配も大きい一方、立ち下りは、緩やかな応答により時間Tbから時間Tdまでの時間も長く勾配も小さいことから、それぞれの特性に合致した補間が必要であることが判った。具体的な補間方法として、後述する3つの方法を検証した。
【0032】
また、カーブフィッティングにおいて、飽和状態の大きさが補間機能の有効性に与える影響についても検証する必要があることが判った。つまり、図2において、分析計出力の飽和状態がDa−Dbの場合とDa’−Db’の場合では補間精度が異なる。従って、例えば、飽和状態での分析計出力高さP1(P2)と本来の分析計出力のピークPoの比率が所定値以上でないと、本装置の実測時における補間が有効に機能しないこととなる。あるいは時間Taから時間Tbまでの時間幅(以下「時間幅Tab」という)と時間Tuから時間Tdまでの時間幅(以下「時間幅Tud」という)の比率(以下「比率Tab/Tud」)が所定値以上でないと、本装置の実測時における補間が有効に機能しないこととなる。本発明者は、こうした飽和状態を有する分析計出力に対する補間機能の有効性について検証した。その結果は後述する。
【0033】
(3)分析計出力の補間と特定成分濃度の算出
カーブフィッティングによって、飽和状態となった時間Taから時間Tbまでの分析計出力が補間された得られた全測定時間における分析計出力を得ることができる。従って、得られた分析計出力によって、特定成分濃度の算出をすることができる。つまり、特定成分について既知濃度の試料を用いた校正によって、予め特定成分濃度と分析計出力との関係を求めておき、その関係に基づいて、実測時の分析計出力を基に、各時間特定成分濃度の算出をすることができる。
【0034】
(4)特定元素の定量分析
時間Tuから時間Tdまでの特定成分濃度を基に、特定元素の定量分析を行う。具体的には、飽和状態となった時間Taから時間Tbまでの分析計出力が補間され、得られた特定成分濃度を、全測定時間に亘り積分することによって、試料中の特定成分含有量の算出をすることができる。
【0035】
また、特定成分濃度のピーク値を基に、試料中の特定成分含有量の算出をすることができる。これは、例えば、硫黄の酸化等の処理において、反応速度が比較的遅い場合や試料内部からの反応生成物の同伴が遅い場合などは、分析計出力の立ち下り速度が遅くなり、時間Tdの認定が難しくなり、また時間Tdが非常に大きくなるため、特定成分濃度の積分演算時間が長くなる、あるいは積分値の測定精度が悪くなることがある。こうした場合には、既知濃度の試料を用いた校正によって、予め試料中の特定成分含有量と特定成分濃度のピーク値との関係を求めておき、その関係に基づいて、実測時のピーク値を基に試料中の特定成分含有量の算出をすることができる。
【0036】
〔カーブフィッティングにおける補間機能の有効性の検証〕
次に、本発明において重要な役割を果たすカーブフィッティングにおける補間機能の有効性について検証する。具体的には、実測された分析計出力を補間後の理想状態であるとし、種々の条件の飽和状態になった場合を想定し、そのときの分析計出力に対する補間機能の有効性について、以下の2つの方法によって検証した。
【0037】
(i)理想的な補間状態のピークとの比較による有効性の検証
分析計出力が飽和状態となるまでに、本来(実測の分析計出力)のピークの何%以上の高さで検出できた場合に補間が有効に機能するかを検証した。具体的には、図4(A)〜(F)に示すように、図4(A)は飽和状態での分析計出力高さP1と本来のピークPoの比率(以下「比率P1/Po」という)が20%、図4(B)は30%、図4(C)は50%、図4(D)は60%、図4(E)は65%、図4(F)は70%に想定した時の、3次のスプライン関数を用いたカーブフィッティングを行い補間された分析計出力を示す(破線は本来の分析計出力を示す)。比率P1/Poが低いほど、補間後のピークPaは低くなるとともに、飽和状態での分析計出力高さP1となるまでに、比率P1/Poが65〜70%以上の測定できれば、補間された分析計出力のピークPaと本来のピークPoがほぼ一致するとの結果が得られた。つまり、飽和状態での分析計出力高さP1と補間された分析計出力のピークPaの比率が65〜70%以上であれば、補間された分析計出力のピークPaと本来のピークPoがほぼ一致することになり、補間精度の確認ができることとなる。こうした判断機能を、本装置の操作制御部30に備えることによって、自動的に補間の有効性を判断することができる。なお、補間が不十分な場合の更なる補間方法については、後述する。
【0038】
(ii)立ち上り−立ち下り時間との比較による有効性の検証
次に、ピークの高さの比較ではなく、分析計出力が飽和状態になった時間幅Tabが、時間幅Tudの何%以上で検出できた場合に有効であるかを検証した。具体的には、図5(A)〜(F)に示すように、図5(A)〜(F)に示すように、図5(A)は比率Tab/Tudが50%、図5(B)は43%、図5(C)は35%、図5(D)は32%、図5(E)は30%、図5(F)は23%に想定した時の、3次のスプライン関数を用いたカーブフィッティングを行い補間された分析計出力を示す(破線は本来の分析計出力を示す)。比率Tab/Tudが高いほど、補間後のピークPaは低くなるとともに、比率Tab/Tudが30%以下となるように測定できれば、補間された分析計出力のピークPaと本来のピークPoがほぼ一致するとの結果が得られた。つまり、比率Tab/Tudが30%以下であれば、補間された分析計出力のピークPaと本来のピークPoがほぼ一致することになり、高い精度の補間ができることとなる。こうした判断機能を、本装置の操作制御部30に備えることによって、自動的に高い精度の補間を確保することができる。なお、補間が不十分な場合の更なる補間方法については、後述する。
【0039】
〔カーブフィッティングにおける補間方法の検証〕
以上のカーブフィッティングにおける補間機能の有効性を考慮し、飽和状態になった分析計出力の補間方法として、以下の3つの方法について検証した。
【0040】
(i)スプライン関数を用いる方法
図3(B)に示すような検出限界値0.06mgのところで頭打ちとなり飽和状態になった分析計出力に対し、例えば、f(x)=ax+bx+cx+dというような3次のスプライン関数を用いて滑らかに補間することができる。このとき、fi(x)=a(x−xo)+b(x−xo)+c(x−xo)+dとし、基準時間xoを差し引いた値を関数に用いる時間xとすることによって、図3(C)に示すように、滑らかに補間することが可能となる。さらに、詳細には、図6に示すように、補間によるピーク(実線)と図3(A)に示す実測の分析計出力(破線)を補間部分を拡大して比較すると、補間によるピークと実際の測定ピークがほぼ一致していることが判る。
【0041】
(ii)正規分布関数を用いる方法
既述ように、立ち上り特性(時間Tuから時間Taの分析計出力)と立ち下り特性(時間Tbから時間Tdの分析計出力)が対称な関係にないことが、元素分析における分析計出力の特徴である。しかしながら、各々の特性は、固有の関数で近似される場合がある。そこで、図7に例示するように、各々異なる正規分布関数で時間幅Tabの出力の補間を行うのが、本方法である。
【0042】
具体的には、時間幅uから時間Taの分析計出力を基に1の正規分布関数を用いてカーブフィッティングを行い(図7における破線部分)、時間Tbから時間Tdの分析計出力を基に他の正規分布関数を用いてカーブフィッティングを行い(図7における1点鎖線部分)、両者を重ね合わせることによって、図3(C)と同等の、滑らかな補間を行うことが可能となる。本方法は、上記(i)の補間では不十分な場合の更なる補間方法として利用することができる。
【0043】
(iii)飽和状態の時間幅Tabまたは時間幅Tudを変化させて補間する方法
既述ように、カーブフィッティングによる補間の精度は、分析計出力の飽和状態の時間幅Tab、あるいは比率Tab/Tudとの比率によって異なる。また、比率P1/Poによっても異なる。従って、十分な補間精度を確保するには、これらの比率を所定の範囲(上記検証によれば、前者について30%以下、後者について65〜70%以上)にする必要がある。そこで、上記(i)または(ii)いずれかの方法では十分な補間ができない場合に適用され、時間幅Tabあるいは時間幅Tudを作為的に変化させた分析計出力を設定し、それに対して(i)または(ii)いずれかの方法で補間を行うのが、本方法である。
【0044】
ここでは、時間幅Tabを変化させる場合について、図8を基に詳述する。実測の時間幅Tabを有する分析計出力(実線部)を基に、時間幅Tabを一定時間ΔT1減少させた分析計出力(1点鎖線部)を得るとともに、この出力を基に補間された分析計出力(1点鎖線部)は、比率Tab/Tudが小さくなることから、本来の分析計出力(破線部)に近い出力特性となる。つまり、分析計出力の絶対値は異なるが、補間された分析計出力(1点鎖線部)は、本来の分析計出力(破線部)の相似形に近い出力特性となる。従って再度、時間幅(Tab−ΔT1)を時間幅Tabとなるように演算処理をすれば、本来の分析計出力(破線部)に近い補間された分析計出力(2点鎖線部)を得ることができる。
【0045】
具体的には、図8に示すように、
(a)比率Tab/Tudが30%以下となるように、時間ΔT1を設定して、時間幅(Tab−ΔT1)の飽和出力を有する分析計出力を設定する(1点鎖線部)。
(b)次に、この出力を基に(i)または(ii)いずれかの方法でカーブフィッティングし、1次補間された分析計出力を得る(1点鎖線部)。
(c)1次補間された分析計出力(1点鎖線部)を、比率「時間幅(Tab−ΔT1)/時間幅Tab」に拡大して、あるいは補間に用いられた関数に時間幅を「Tab」とする変数を適用して、2次補間された分析計出力を得る(2点鎖線部)。
ことによって、飽和状態の時間幅Tabを変化させて補間することができる。
【0046】
なお、飽和状態の時間幅Tabに代えて時間幅Tudを変化させて補間することも可能であり、補間方法は上記(a)〜(c)と同様である。分析計出力が、高いピークを有する場合や時間Tuあるいは時間Tdの決定が困難な場合には、時間幅Tabを変更することが好ましく、ピークが低い場合など時間幅Taあるいは時間Tbの決定が困難な場合には、時間幅Tudを変更することが好ましい。
【0047】
以上(i)〜(iii)いずれかの補間方法によって、高い精度の補間を確保することができる。従って、こうした機能を備えた元素分析装置においては、分析計出力の飽和の有無の判断から、飽和状態の場合の高精度の補間機能までを自動的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る元素分析装置の基本的な構成例を示す説明図
【図2】本装置の試料分析後のガス分析計の出力を例示する説明図
【図3】飽和状態になったガス分析計の出力のカーブフィッティング方法を示す説明図
【図4】飽和状態になったガス分析計の出力に対する補間機能の有効性を示す説明図
【図5】飽和状態になったガス分析計の出力に対する補間機能の有効性を示す説明図
【図6】スプライン関数を用いたカーブフィッティングによる補間結果を示す説明図
【図7】正規分布関数を用いたカーブフィッティングによる補間結果を示す説明図
【図8】本発明に係る元素分析装置の第2構成例を示す説明図
【図9】従来技術に係る元素分析装置の1の構成を例示する説明図
【図10】従来技術に係る元素分析装置の他の構成を例示する説明図
【符号の説明】
【0049】
1 融解炉
1a 磁製ルツボ
1b 酸素供給路
2 赤外線吸光式分析計(NDIR)
3 フィルタ
4 精製処理部
10 一次処理系
20 二次処理系
30 操作制御部
S 試料
Da,Db 分析計出力において変曲点
P1,P2 飽和状態での分析計出力高さ
Po 本来の分析計出力のピーク
Pa 補間された分析計出力のピークPa
Ta 飽和状態となった時間
Tb 飽和状態が解消された時間
Td 分析計出力の立ち下り時間
Tu 分析計出力の立ち上り時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料物質の酸化・還元・燃焼処理を行い、該処理後のガス中の特定成分濃度をガス分析計によって測定し、該ガス分析計の出力と時間の相関から、その濃度ピーク値あるいは時間積分値を用いて前記試料物質中の特定元素の定量分析を行う元素分析方法であって、
(1)前記ガス分析計の出力と時間の相関から、前記ガス分析計の出力が飽和状態になったか否かを判定し、飽和状態となった時間Taおよび飽和状態が解消された時間Tbを認定するとともに、
(2)飽和状態になった場合、前記ガス分析計の出力の立ち上り時間Tuから飽和状態となるまでの時間Taの出力、および飽和状態が解消された時間Tbから立ち下り時間Tdの出力を用いてカーブフィッティングを行い、
(3)時間Ta〜Tbまでの出力を補間するとともに、補間された出力を基に補間された時間帯の特定成分濃度を算出し、
(4)前記立ち上り時間Tuから立ち下り時間Tdまでの特定成分濃度を基に、特定元素の定量分析を行う
ことを特徴とする元素分析方法。
【請求項2】
前記カーブフィッティングを、スプライン関数を用いて行うことを特徴とする請求項1記載の元素分析方法。
【請求項3】
前記カーブフィッティングにおいて、前記時間幅Tu−Taおよび時間幅Tb−Tdの前記ガス分析計の出力を基に、各々異なる正規分布関数で時間幅Ta−Tbの出力の補間を行うことを特徴とする請求項1記載の元素分析方法。
【請求項4】
前記カーブフィッティングにおいて、前記飽和状態の時間幅Ta−Tbまたは前記立ち上り時間Tuから立ち下り時間Tdまでの時間を変化させて、前記(2)〜(4)の操作を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の元素分析方法。
【請求項5】
前記カーブフィッティングにおいて、前記飽和状態の時間幅Ta−Tbと前記立ち上り時間Tuから立ち下り時間Tdまでの時間の比率、あるいは飽和状態の前記ガス分析計の出力のピークと補間された出力のピークの比率から、補間された出力の有効性を判断することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の元素分析方法。
【請求項6】
試料物質の酸化、還元あるいは燃焼処理を行う試料処理部と、該処理後のガス中の特定成分濃度測定するガス分析計を備え、請求項1〜5のいずれかに記載の元素分析方法を用いてカーブフィッティングを行うとともに、前記ガス分析計の出力と時間の相関からその濃度ピーク値あるいは時間積分値を用いて前記試料物質中の特定成分の定量分析を行うことを特徴とする元素分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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