説明

元素分析装置

【課題】 試料の燃焼速度を制御することにより、精度よく試料分析を行うことができる元素分析装置を提供すること。
【解決手段】 高周波燃焼炉1内の上方に設けられた酸素供給管7からるつぼ3に対してその上方から酸素aを供給し、るつぼ内の試料を、酸素供給下において高周波誘導加熱によって燃焼させて燃焼ガスcを発生させ、この燃焼ガスをガス分析部において分析するように構成された元素分析装置において、前記酸素供給管7の内部に、前記試料の燃焼に伴って発せられる放射光を高周波燃焼炉外の放射温度計23に伝送する光ファイバ20を設けて前記試料の燃焼時における温度を測定し、この測定結果に基づいて前記試料の燃焼状態が分析対象の元素に最適な状態になるように制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、例えば金属やセラミックスなどの試料中に含まれるC(炭素)やS(硫黄)などの元素を定量分析する元素分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】前記元素分析装置として、高周波燃焼炉内に、試料を収容したるつぼを設け、このるつぼ内の試料を酸素の供給下において、高周波誘導加熱によって燃焼させて燃焼ガスを発生させ、この燃焼ガスをガス分析部において分析するものがある。この元素分析装置においては、るつぼ内の試料が着火温度に達すると、燃焼が始まり、燃焼の酸化熱で試料の温度がますます高まり、試料の燃焼が一気に完了する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の高周波誘導加熱方式の元素分析装置においては、例えばC含有量の多い試料を分析する場合、その急激な発熱および酸化によって、未燃焼のままるつぼ外に飛散したり、燃焼ガス中のCOやCO2 の濃度の急激な変動のため、測定結果に誤差を生ずるなどの課題があった。
【0004】上記試料の分析を行うのに穏やかな燃焼を行うことができる電気抵抗炉方式の元素分析装置を用いることが考えられるが、この方式の元素分析装置によれば分析時間が長くなるといった不都合があるとともに、別途分析装置を用意する必要がある。
【0005】この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、試料の燃焼速度を制御することにより、精度よく試料分析を行うことができる元素分析装置を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、この発明では、高周波燃焼炉内の上方に設けられた酸素供給管からるつぼに対してその上方から酸素を供給し、るつぼ内の試料を、酸素供給下において高周波誘導加熱によって燃焼させて燃焼ガスを発生させ、この燃焼ガスをガス分析部において分析するように構成された元素分析装置において、前記酸素供給管の内部に、前記試料の燃焼に伴って発せられる放射光を高周波燃焼炉外の放射温度計に伝送する光ファイバを設けて前記試料の燃焼時における温度を測定し、この測定結果に基づいて前記試料の燃焼状態が分析対象の元素に最適な状態になるように制御するようにしている(請求項1)。
【0007】上記構成の元素分析装置によれば、試料の燃焼速度を制御することができ、未燃焼や急激な燃焼に起因する分析ロスがなくなり、所望の元素分析を精度よく行うことができ、正確な分析結果を得ることができる。
【0008】そして、試料の燃焼状態が分析対象の元素に最適な状態になるように制御する手法としては、酸素供給管から供給される酸素圧力を制御したり(請求項2)、高周波燃焼炉の高周波コイルに供給する電流を制御したり(請求項3)、酸素供給管を上下方向に移動自在とし、この酸素供給管の下端開口とるつぼとの距離を加減して、酸素供給速度を制御する(請求項4)などがある。
【0009】
【発明の実施の形態】この発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、この発明の元素分析装置の構成の一例を概略的に示すもので、この図において、1は高周波燃焼炉で、その炉体2は例えば石英からなる。そして、この炉体2の内部には、試料と燃焼促進用の助燃剤(これは必ずしも必要ではない)を収容するるつぼ3の設置部4が設けられている。このるつぼ設置部4は、図示していない上下動機構によって上下方向に移動し、るつぼ3を炉体2外に取り出せるように構成されている。また、炉体2のるつぼ設置部4の外周部には、高周波誘導加熱用の高周波コイル5が配設されている。この高周波コイル5には、高周波電源装置6から高周波電流が供給される。
【0010】7は燃焼用の酸素aをるつぼ3内にその上方から供給するための酸素供給管で、この実施の形態においては、炉体2内の上部において上下方向に移動できるように、炉体2内に垂下した状態で設けられている。すなわち、酸素供給管7は、炉体2の上端に設けられたシールブロック8を挿通して、その上端部7aをシールブロック8よりも上方に突出させ、この上端部7aを可動ブロック9に保持されている。この可動ブロック9は、そのナット部9aが正逆いずれの方向にも回転可能なステッピングモータ10によって回転駆動される上下方向のねじ軸11と螺合しており、ねじ軸11の回転により上または下方向に直線的に移動し、これにより、酸素供給管7が上または下に直線的に移動する。また、可動ブロック9には、ガス圧力調整機構12を備えた酸素供給路13が接続されている。なお、14はステッピングモータ10およびねじ軸11を保持する駆動部保持部材である。
【0011】15は炉体2内にキャリアガス(例えば酸素)bを導入するためのキャリアガス導入路で、炉体2の下部側に接続されている。
【0012】16はるつぼ3内での試料の燃焼に伴って発生した燃焼ガスcを炉外に導出する燃焼ガス導出口で、この燃焼ガス導出口16には燃焼ガス流路17が接続されている。そして、この燃焼ガス流路17の下流側には、燃焼ガスc中に含まれるCO2 、CO、SO2 をそれぞれ測定するための例えば非分散型赤外線ガス分析方式(NDIR)のガス分析部18が設けられている。また、19は燃焼ガス流路17のガス分析部18の上流側に設けられる脱水装置で、内部には例えば過塩素酸マグネシウムなどの脱水剤が設けられており、燃焼ガスc中に含まれる水分を除去するものである。
【0013】20は可動ブロック9を挿通して酸素供給管7の内部に酸素供給管7と同心円状に設けられた光ファイバで、その一端側(下端側)が酸素供給管7の酸素吹き出し口7bの近傍内部に位置し、るつぼ3内での試料の燃焼により発せられる放射光をキャッチする。そして、この光ファイバ19の他端側(上端側)には、放射光を検出して放射光の強さに対応した電気信号を出力する光検出器21および増幅器22を介して放射温度計23が接続されている。
【0014】24は装置全体を制御する演算制御部としてのマイクロコンピュータで、ガス分析部18からの分析結果や放射温度計23からの測定データが入力され、これらに基づいて演算を行い、その結果に基づいて、高周波電源装置6、ステッピングモータ10、圧力調整機構12などに制御指令を出力する。また、25は各種の制御パターンを収納したRAMで、マイクロコンピュータ24と信号を授受するように構成されている。前記燃焼パターンは、標準試料を高周波燃焼炉1を用いて燃焼し、そのときに得られる試料の昇温パターンと、C,Sなど測定対象元素の定量分析の基礎となるCO2 、CO、SO2 の濃度変化パターンとを組み合わせたものである。
【0015】次に、上記構成の元素分析装置の動作について、図2〜図5をも参照しながら説明する。試料の分析に際して、試料と燃焼促進用の助燃剤をるつぼ3に収容し、このるつぼ3を炉体2内のるつぼ設置部4に設置する。そして、酸素供給管7から酸素をるつぼ3内に吹き付け供給しながら、高周波コイル5に高周波電流を流すとともに、炉体2の下部からキャリアガスcを導入する。これにより、るつぼ3内の試料が酸素供給下において高周波誘導加熱によって燃焼し、燃焼ガスcが発生する。この燃焼ガスcは、キャリアガスbによって燃焼ガス導出口16を経て燃焼ガス流路17に導出され、脱水装置19を経てガス分析部18に導かれる。このガス分析部18において、前記燃焼ガスc中に含まれるCO2 、CO、SO2 がそれぞれ測定され、試料中のCおよびSの濃度(量)が測定される。
【0016】上記元素分析装置においては、分析時、酸素供給管7の下部開口7bからるつぼ3に向けて酸素aが吹き付けられているので、下部開口7からるつぼ3までの間には、ダストや煙の少ない清浄な空間Pが形成され、るつぼ3内において試料が燃焼する際、この燃焼に伴って発せられる放射光は、光ファイバ20に直接キャッチされ、この放射光が放射温度計23に伝送されることにより、試料の燃焼温度が極めて精度の高い状態で測定される。また、光ファイバ20は、酸素aが流通する酸素供給管7の内部を挿通するように設けられているので、この光ファイバ20の温度上昇が効果的に防止される。
【0017】上述したように、例えば試料中のCの濃度(量)は、前記元素分析装置を用いて試料を燃焼させたときに発生する燃焼ガスcに含まれるCO2 およびCOの濃度に基づいて得ることができるが、試料の燃焼速度によっては、図2に示すような出力曲線が常に得られるとは限らない。試料によっては、その燃焼が時間があまり経過しないうちに急激に起こり、その燃焼温度が図3において仮想線Aで示すように急峻となり、CO2 およびCOの濃度曲線も同図において実線Bで示すようになり、正確な濃度が得られないことがある。
【0018】そこで、前記燃焼温度の絶対値または昇温速度を予め設定されたパターンとなるように燃焼速度を制御することにより、試料の急激な燃焼を避け、穏やかな燃焼を行わせることができる。この場合、上述した構成によれば、試料の燃焼温度を精度よく測定することができるので、この測定データに基づいて、試料の燃焼速度、つまり、試料の燃焼状態が分析対象の元素に最適な状態になるように制御するのである。
【0019】前記試料の燃焼状態が分析対象の元素に最適な状態になるように制御する手法としては、(1)酸素供給管7から供給される酸素aの圧力を制御する、(2)高周波コイル5に供給する電流を制御する、(3)酸素供給管7の下端開口7bとるつぼ3との距離を加減して、酸素供給速度を制御する、といった手段がある。
【0020】より具体的には、前記酸素供給管7から供給される酸素aの圧力を制御するには、マイクロコンピュータ24からガス圧力調整機構12に対して指令を送り、これに基づいて、ガス圧力調整機構12を動作させて、酸素供給管7からるつぼ3に供給される酸素aの圧力を調整すればよい。そして、前記高周波コイル5に供給される電流を制御するには、マイクロコンピュータ24から高周波電源装置6に指令を送り、これに基づいて、高周波電源装置6の出力を調整すればよい。また、酸素供給管7の下端開口7bとるつぼ3との距離を加減して、酸素供給速度を制御するには、マイクロコンピュータ24からステッピングモータ10に指令を送り、これに基づいて、ステッピングモータ10を動作させて酸素供給管7を上または下方向に移動させればよい。
【0021】そして、試料の燃焼状態が分析対象の元素に最適な状態になるように制御するため、上記(1)〜(3)の手段を全て採用してもよいが、これらを個々に採用してもよく、また、三つのうちの二つを適宜組み合わせて採用してもよい。そして、制御効果の大きさは、(1),(3),(2)の順である。
【0022】図4は、上述の手段を適宜採用したときの燃焼温度Cの変化と、CO2 およびCOの濃度Dの変化の一例を示すものである。
【0023】ところで、CやSなどの元素は、試料の表面に比較的自由な状態で存在したり、試料中に他の元素と結合して存在するなど、種々の形態で存在している。そして、この存在形態の異なる元素をその形態別に分別して分析するには、試料を予め設定された所定の温度で燃焼させることが必要である。図5は、試料において上述のように種々の形態で存在するCを形態別に分別して分析する場合の燃焼温度Eの変化と、CO2 およびCOの濃度Fの変化の一例を示すものである。このような形態別分析を行う場合にも、上述した試料の燃焼状態が分析対象の元素に最適な状態になるように制御する手法を好適に適用することができる。
【0024】なお、上述の実施の形態においては、試料中のCの分析についてのみ説明しているが、この発明はこれに限られるものではなく、Sの分析や、CおよびSの同時分析にも適用することができるのはいうまでもない。
【0025】
【発明の効果】以上説明したように、この発明の元素分析装置によれば、試料の燃焼速度を制御することができ、未燃焼や急激な燃焼に起因する分析ロスがなくなり、所望の元素分析を精度よく行うことができ、正確な分析結果を得ることができる。
【0026】そして、この発明によれば、試料の穏やかな燃焼を行わせるために電気抵抗炉を用いる必要がなく、その結果、分析時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の元素分析装置の構成の一例を概略的に示す図である。
【図2】前記元素分析装置の作用を説明するための図である。
【図3】前記元素分析装置の作用を説明するための図である。
【図4】前記元素分析装置の作用を説明するための図である。
【図5】前記元素分析装置の作用を説明するための図である。
【符号の説明】
1…高周波燃焼炉、3…るつぼ、5…高周波コイル、7…酸素供給管、7a…下端開口、18…ガス分析部、20…光ファイバ、23…放射温度計、a…酸素、c…燃焼ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 高周波燃焼炉内の上方に設けられた酸素供給管からるつぼに対してその上方から酸素を供給し、るつぼ内の試料を、酸素供給下において高周波誘導加熱によって燃焼させて燃焼ガスを発生させ、この燃焼ガスをガス分析部において分析するように構成された元素分析装置において、前記酸素供給管の内部に、前記試料の燃焼に伴って発せられる放射光を高周波燃焼炉外の放射温度計に伝送する光ファイバを設けて前記試料の燃焼時における温度を測定し、この測定結果に基づいて前記試料の燃焼状態が分析対象の元素に最適な状態になるように制御することを特徴とする元素分析装置。
【請求項2】 酸素供給管から供給される酸素圧力を制御することにより、試料の燃焼状態が分析対象の元素に最適な状態になるように制御するようにした請求項1に記載の元素分析装置。
【請求項3】 高周波燃焼炉の高周波コイルに供給する電流を制御することにより、試料の燃焼状態が分析対象の元素に最適な状態になるように制御するようにした請求項1に記載の元素分析装置。
【請求項4】 酸素供給管を上下方向に移動自在とし、この酸素供給管の下端開口とるつぼとの距離を加減して、酸素供給速度を制御することにより、試料の燃焼状態が分析対象の元素に最適な状態になるように制御するようにした請求項1に記載の元素分析装置。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2001−305122(P2001−305122A)
【公開日】平成13年10月31日(2001.10.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−120445(P2000−120445)
【出願日】平成12年4月21日(2000.4.21)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】