説明

元素分析装置

【課題】元素分析装置1における電極3、4の清掃や交換などメンテナンスにおける作業性を向上させる。
【解決手段】上部電極3が、装置本体11に固定される本体部31と、前記本体部31にシール部材33を介して回動可能に取り付けられ、前記るつぼ2に接触する分離部32と、前記本体部31及び前記分離部32の間に介在して設けられ、回転方向の力を軸方向の力に変換して前記本体部31から分離部32の取り外しを補助する取り外し補助機構5と、を備え、前記取り外し補助機構5が、前記本体部31又は前記分離部32の一方に設けられ、軸方向に対して傾斜する案内面501と、前記本体部31又は前記分離部32の他方に設けられ、前記本体部31に対して前記分離部32を回転させたときに前記案内面501上をスライド移動する被案内部502と、から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、元素分析装置に関し、特に元素分析装置に用いられる電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の元素分析装置において、例えば特許文献1に示すように、上部電極及び下部電極に狭持されたるつぼに測定試料を収容して、電圧を印加することにより、るつぼ内の測定試料を加熱溶解して、それによって生じたガスを分析して前記測定試料の元素を分析するものがある。
【0003】
そして、上部電極は、装置本体に固定される本体部と、当該本体部に着脱可能に取り付けられ、るつぼと接触する電極面を有する分離部とからなる。そして、本体部の嵌合部(嵌合孔)に、分離部の被嵌合部を、Oリング等のシール部材を介して冷却水に対して液密(気密)に嵌め込むことにより取り付けられている。
【0004】
ここで、るつぼには黒鉛製のものを用いるので測定後に電極面を含む分離部全体が汚れてしまったり、また、測定を繰り返すと電極面が損耗してしまったりすることから、上部電極を定期的に清掃や交換などのメンテナンスを行う必要がある。
【0005】
しかしながら、本体部に対して分離部がOリングを介して液密(気密)に嵌合されており、Oリング等のシール部材の軸方向(抜脱方向)の摩擦抵抗等から、本体部から分離部を抜き外しにくく、抜脱作業が手間であるという問題がある。
【特許文献1】特公平07−40027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、元素分析装置における電極の清掃や交換などメンテナンスにおける作業性を向上させることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る元素分析装置は、測定試料を収容するるつぼを一対の電極により狭持し、当該電極に電圧を印加することにより、前記るつぼを加熱して前記測定試料を溶解し、それによって生じるガスから前記測定試料の元素を分析する元素分析装置であって、前記少なくとも一方の電極が、装置本体に固定される本体部と、前記本体部にシール部材を介して回動可能に取り付けられ、前記るつぼに接触する分離部と、前記本体部及び前記分離部の間に介在して設けられ、回転方向の力を軸方向の力に変換して前記本体部から分離部の取り外しを補助する取り外し補助機構と、を備え、前記取り外し補助機構が、前記本体部又は前記分離部の一方に設けられ、軸方向に対して傾斜する案内面と、前記本体部又は前記分離部の他方に設けられ、前記本体部に対して前記分離部を回転させたときに前記案内面上をスライド移動する被案内部と、から構成されることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、分離部を本体部に対して回転させるという簡単な操作のみで、シール部材の摩擦抵抗に関わらず、本体部から分離部を取り外すことができ、電極の清掃及び交換などのメンテナンスの作業性を向上させることができる。
【0009】
また、本体部及び分離部への複雑な加工を不要とするためには、前記案内面を有する案内部材が、前記本体部又は前記分離部の一方の外側周面に設けられ、前記被案内部を有する被案内部材が、前記本体部又は前記分離部の他方の外側周面に設けられていることが望ましい。
【0010】
案内部材の具体的な実施の態様としては、前記案内部材が、略部分円環状をなし、その周方向における所定位置から軸方向に折れ曲がっている第1屈曲部を備え、当該第1屈曲部に前記案内面が形成されていることが挙げられる。
【0011】
被案合部材の具体的な実施の態様としては、前記被案内部材が、略部分円環状をなし、その周方向における所定位置において、前記案内部材の第1屈曲部に対向するように、軸方向に折れ曲がっている第2屈曲部を備え、当該第2屈曲部に前記被案内部である被案内面が形成されていることが挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
このように構成した本発明によれば、元素分析装置における電極の清掃や交換などメンテナンスにおける作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図1は元素分析装置のるつぼ2をセットした状態を示す電極部分を主として示す断面図であり、図2は上部電極3の分離斜視図であり、図3は上部電極3の側面図であり、図4は、上部電極3の平面図である。
【0014】
<装置構成>
本実施形態に係る元素分析装置1は、金属中に含まれる元素を分析する金属中元素分析装置であって、図1に示すように、金属などの測定試料及び/又はフラックス(以下、特に区別しない場合は「試料」という。)を収容する黒鉛るつぼ2を上部電極3と下部電極4とで狭持して、上部電極3の上側に設けられた試料導入部111によって、前記るつぼ2に試料を投入し、電圧を印加する(るつぼ2に通電する)ことにより、るつぼ2内の試料を加熱溶解して、その時に発生する分析用ガスを図示しない分析部に送って分析し、測定試料に含まれる元素を分析するものである。
【0015】
本実施形態の分析部としては、例えば一酸化炭素(CO)を測定する非分散赤外線検出器等の酸素成分検出部と、例えば窒素(N)を測定する熱伝導度検出器等の窒素成分検出部とが考えられる。その他、水素成分分析部や硫黄成分検出部などでも良い。
【0016】
また、下部電極4は、電極面41上に黒鉛るつぼ2が載置され、図示しない昇降機構により上部電極3に対して昇降移動するものである。また、下部電極4の内部には、冷却水を流通させる流通路S1が形成されている。図1中、4Aは、流通路S1内に冷却水を導入するための冷却水導入口であり、4Bは、流通路S1から外部に冷却水を導出するための冷却水導出口である。なお、電極面41上には、保護のためタングステンからなる円板が固定されている。
【0017】
しかして、本実施形態の元素分析装置1の上部電極3は、図1〜図4に示すように、装置本体11に固定される本体部31と、その本体部31にシール部材33を介して回動可能に取り付けられ、るつぼ2に接触する電極面323を有する分離部32と、本体部31及び分離部32の間に介在して設けられ、回転方向の力を軸方向の力に変換して前記本体部31から分離部32の取り外しを補助する取り外し補助機構5と、を備えている。
【0018】
以下、本体部31、分離部32及び取り外し補助機構5について説明する。
【0019】
本体部31は、特に図1及び図2に示すように、概略回転体形状をなす筒状部材であり、装置本体11の試料投入部111の下端部にねじ等により固定されている。
【0020】
また、本体部31の側壁には、冷却水を内部に導入するための冷却水導入口31A及び外部に導出するための冷却水導出口31Bが設けられている。
【0021】
分離部32は、図1及び図2に示すように、概略回転体形状をなす筒状部材であり、本体部31の下面とシール部材(Oリング)33を介して気密に接触する大径部321と、当該大径部321の上面に同軸上に設けられ、本体部31内に挿入されて、本体部31の上端開口311とシール部材(Oリング)33を介して気密に嵌合する小径部322とからなる。
【0022】
また、分離部32は、その下側に開口したるつぼ収容空間S2が形成され、その空間S2の上面には、るつぼ2の上端面と接触して電圧を印加するための電極面323が形成されている。電極面323には、保護のためタングステンからなる環状板が固定されている。この環状板には、内側周面から外側周面に向かって径方向に延びる凹溝が、円周方向に複数設けられており、これにより上部電極3及び下部電極4でるつぼ2を狭持しても、るつぼ内部の空間とるつぼ収容空間S1、さらには、るつぼ内部の空間と導入管6とが繋がり、分析用ガスを導入管6に導くことができる。
【0023】
るつぼ収容空間S2を形成する大径部321の内周面には、測定時に下部電極4がシール部材(Oリング)を介して気密に嵌合される。また、大径部321の側壁(下部電極4が嵌合される部分より上)には、分析用ガスを図示しない分析部に導くための導入管6が接続されるガス取り出し孔321aが設けられている。
【0024】
そして、上記の本体部31に分離部32を装着することによって、本体部31の内周面と分離部32の外周面とにより、冷却水を流通させる流通路S3が形成される。また、本体部31に分離部32を装着した際には、本体部31の下面と分離部32の大径部321の上面とが、シール部材(Oリング)33を介して、軸方向に対して垂直に接触する。なお、装着時には、ねじ7によって本体部31に分離部32を固定する。
【0025】
取り外し補助機構5は、特に図3等に示すように、本体部31に設けられ、軸方向に対して傾斜する案内面501と、分離部32に設けられ、本体部31に対して分離部32を回転させたときに案内面501上をスライド移動する被案内部502と、から構成される。本実施形態の案内面501は案内部材51に設けられ、被案内部502は被案内部材52に設けられている。
【0026】
案内部材51は、本体部31とは別体をなすものであり、本体部31の外側周面から外側に突出してするように、本体部31にねじ固定される(図2参照)。
【0027】
具体的に案内部材51は、図3及び図4に示すように、概略部分円環状(具体的には、概略1/4円環状)をなし、その周方向における所定位置から軸方向下側に折れ曲がっている第1屈曲部511を備え、当該第1屈曲部511の下面に前記案内面501が形成されている。
【0028】
つまり案内面501は、本体部31の外側周面から外側に延出し、平面視において本体部31の外周面に沿って設けられ(図4参照)、側面視において、分離部32の回転方向に対向するように、本体部31の下面よりも下方に傾斜した面である(図3参照)。
【0029】
また、案内部材51において、第1屈曲部511以外の平面部512の内側面には、本体部31の下面に設けられた固定凹部(図示しない)に嵌ってねじ留めされる突出固定部(図示しない)が2つ設けられている。
【0030】
さらに案内部材51は、本体部31の下面に本体部31の回転軸に対して軸対称となるように2つ設けられている(図4参照)。
【0031】
被案内部材52は、分離部32とは別体をなすものであり、分離部32の外側周面から外側に突出するように、分離部32にねじ固定される。
【0032】
具体的に被案内部材52は、図3及び図4に示すように、前記案内部材51とほぼ同一形状であり、略部分円環状(具体的には、概略1/4円環状)をなし、その周方向における所定位置において、前記案内部材51の第1屈曲部511に対向するように、軸方向下側に折れ曲がっている第2屈曲部521を備え、当該第2屈曲部521に前記被案内部である被案内面502が形成されている。
【0033】
つまり被案内面502は、分離部32の外側周面から外側に延出し、平面視において分離部32の外周面に沿って設けられ(図2参照)、側面視において、分離部32の回転方向を向くように、分離部32の大径部321の上面よりも下方に傾斜した面である(図3参照)。
【0034】
また、被案内部材52において、第2屈曲部521以外の平面部522の内側面には、前記案内部材51と同様、図2に示すように、分離部32の大径部321上面に設けられた固定凹部3211に嵌ってねじ留めされる突出固定部5211が2つ設けられている。
【0035】
さらに被案内部材52は、分離部32の大径部321上面に、分離部32の回転軸に対して軸対称となるように2つ設けられている。
【0036】
このような分離部32を本体部31に取り付ける際には、被案内面502が前記案内面501に対向するように、本体部31に装着し、ねじ7により固定する。一方、本体部31から分離部32を取り外す際には、ねじ7を取り外し、分離部32を本体部31に対して回転させることにより、被案内面502が案内面501に接触した後、案内面501上をスライド移動する。このとき、案内面501と被案内面502との接触面は、軸方向に対して傾斜する面である。これにより、分離部32の回転方向の力が軸方向(抜脱方向)の力に変換されて、分離部32を取り外すことができる。
【0037】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る元素分析装置1によれば、シール部材(Oリング)33の軸方向(抜脱方向)の摩擦抵抗に関わらず、分離部32を本体部31に対して回転させるという簡単な操作のみで、本体部31から分離部32を取り外すことができ、電極3の清掃及び交換などのメンテナンスの作業性を向上させることができる。
【0038】
また、案内部材51及び被案内部材52はそれぞれ、本体部31及び分離部32と別体であることから、従来の本体部31及び分離部32への加工を可及的に少なくすることができる。つまり、本体部31と分離部32の大径部321との接触面を従来同様、軸方向に対して垂直にすることができ、本体部31及び分離部32の内部構造を変更する必要がない。
【0039】
さらに、被案内部を被案内面502とし、案内面501と面接触するようにしているので、スライド移動に際して面圧の低減及び高剛性化が可能となり、分離部32の取り外しが確実になる。
【0040】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。以下の説明において前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付すこととする。
【0041】
例えば、前記実施形態では、案内面501を本体部31に、被案内部502を分離部32に設けたが、案内面501を分離部32に設け、被案内部502を本体部31に設けるようにしても良い。
【0042】
また、前記実施形態では、被案内部502は第2屈曲部521により形成された面であったが、図5に示すように、被案内部502が、分離部32の外側周面に設けられたピン等のスライド部材であっても良い。
【0043】
さらに、取り外し補助機構5を、本体部31と分離部32との接触面のうち全部又は一部を軸方向に対して傾斜させて構成しても良い。この場合、取り外し補助機構5は、本体部31の下面の全部又は一部に形成された軸方向に傾斜した第1傾斜面と、分離部32(大径部321)の上面の全部又は一部に形成され、本体部31に分離部32を取り付けたときに前記第1傾斜面と接触する第2傾斜面と、から構成される。
【0044】
その上、前記実施形態では、案内部材51の第1屈曲部511は軸方向下方に折れ曲がり、その第1屈曲部511の下面に案合面501が形成されているが、図6に示すように、第1屈曲部511を軸方向上方に折れ曲げ、その第1屈曲部511の下面に案内面501を形成しても良い。このとき、被案内部材52の第2屈曲部521は軸方向上方に折れ曲がり、その第2屈曲部521の上面に被案内面502が形成される。
【0045】
加えて、前記実施形態では、取り外し補助機構を上部電極3に設けたものであったが、下部電極4に設けても良い。
【0046】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態に係る元素分析装置のるつぼをセットした状態を示す電極部分を主として示す断面図。
【図2】同実施形態における上部電極の分離斜視図。
【図3】同実施形態における上部電極の側面図。
【図4】同実施形態における上部電極の平面図。
【図5】その他の実施形態における上部電極の側面図。
【図6】その他の実施形態における上部電極の側面図。
【符号の説明】
【0048】
1 ・・・元素分析装置
2 ・・・るつぼ
3 ・・・上部電極
31 ・・・本体部
32 ・・・分離部
323・・・電極面
33 ・・・シール部材
4 ・・・下部電極
5 ・・・取り外し補助機構
501・・・案内面
502・・・被案内面(被案内部)
51 ・・・案内部材
511・・・第1屈曲部
52 ・・・被案内部材
521・・・第2屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料を収容するるつぼを一対の電極により狭持し、当該電極に電圧を印加することにより、前記るつぼを加熱して、それによって生じるガスから前記測定試料の元素を分析する元素分析装置であって、
前記少なくとも一方の電極が、
装置本体に固定される本体部と、
前記本体部にシール部材を介して回動可能に取り付けられ、前記るつぼに接触する分離部と、
前記本体部及び前記分離部の間に介在して設けられ、回転方向の力を軸方向の力に変換して前記本体部から分離部の取り外しを補助する取り外し補助機構と、を備え、
前記取り外し補助機構が、
前記本体部又は前記分離部の一方に設けられ、軸方向に対して傾斜する案内面と、
前記本体部又は前記分離部の他方に設けられ、前記本体部に対して前記分離部を回転させたときに前記案内面上をスライド移動する被案内部と、から構成される元素分析装置。
【請求項2】
前記案内面を有する案内部材が、前記本体部又は前記分離部の一方の外側周面に設けられ、
前記被案内部を有する被案内部材が、前記本体部又は前記分離部の他方の外側周面に設けられている請求項1記載の元素分析装置。
【請求項3】
前記案内部材が、略部分円環状をなし、その周方向における所定位置から軸方向に折れ曲がっている第1屈曲部を備え、当該第1屈曲部に前記案内面が形成されている請求項1又は2記載の元素分析装置。
【請求項4】
前記被案内部材が、略部分円環状をなし、その周方向における所定位置において、前記案内部材の第1屈曲部に対向するように、軸方向に折れ曲がっている第2屈曲部を備え、当該第2屈曲部に前記被案内部である被案内面が形成されている請求項3記載の元素分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−53119(P2009−53119A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221875(P2007−221875)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】