説明

元素分析装置

【課題】装置構成を簡単にしつつ、遊離酸素による酸素濃度測定の測定誤差を低減し、炭化水素による窒素濃度測定の測定誤差を低減する。
【解決手段】るつぼRに入れた試料を加熱炉1内で加熱し、当該試料内部に含まれている元素をガス成分として抽出して分析する元素分析装置100であって、試料ガスに含まれる少なくともCO、O及びCHを還元又は分解可能なガス処理部4と、ガス処理部4を通過した試料ガスに含まれるCOを検出するCO検出部5と、CO検出部5の下流側に設けられ、試料ガスに含まれるCOをCOに酸化し、HをHOに酸化する酸化部6と、酸化部6を通過した試料ガスからCOを吸着除去するCO除去部91、及び酸化部6を通過した試料ガスからHOを吸着除去するHO除去部92を有する除去機構9と、除去機構9によりCO及びHOが除去された試料ガスに含まれるNを検出するN検出部10と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄鋼や非鉄金属、セラミックスなどの測定試料中に含まれる窒素(N)、水素(H)、酸素(O)等の元素を分析する元素分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の元素分析装置は、試料を収容した黒鉛るつぼを加熱炉内において一対の電極により挟持し、当該るつぼに直接電圧を印加することにより、るつぼ及びるつぼ内の試料を加熱して、それによって生じたガスを分析して前記試料に含まれる元素を分析するものがある。
【0003】
そして、この元素分析装置として、特許文献1に示すように、加熱炉からの試料ガスをガス流路に流し、当該ガス流路にCO検出部(NDIR(非分散型赤外線ガス分析計))、CO検出部(NDIR)、酸化試薬(酸化銅(CuO))、HO検出部(NDIR)、CO検出部(NDIR)、HO吸着部及びN検出部(TCD(熱伝導度型分析計))を、この順に直列に設けているものがある。
【0004】
特許文献1に記載の元素分析装置は、試料に含まれる酸素濃度が高濃度(約200ppm以上)の場合には、酸化試薬の上流側に設けられたCO検出部及びCO検出部の出力の合計値を試料に含まれる酸素濃度とし、試料に含まれる酸素濃度が低濃度(約200ppm未満)の場合には、酸化試薬の下流側に設けられたCO検出部の出力により試料に含まれる酸素濃度としている。
【0005】
しかしながら、試料ガスには黒鉛るつぼ中の炭素と未反応の酸素(遊離酸素)が含まれることがあり、この遊離酸素は、各検出器では原理的に検出することが困難であることから、酸素濃度測定の測定誤差を招いてしまうという問題がある。
【0006】
また、タンタル合金などの高濃度の水素を含む試料を分析する場合には、加熱により生じた水素が、黒鉛るつぼの炭素と反応して炭化水素が発生してしまう。この炭化水素は、窒素の熱伝導率と近い熱伝導率を有し(350Kでの熱伝導率:窒素 293.9、メタン 412)、酸化試薬によって酸化されず、またHO吸着剤によっても吸着されないため、そのままN検出部に入り検出されてしまう。その結果、炭化水素が、窒素濃度測定の測定誤差を招いてしまう問題がある。
【0007】
さらに装置構成の観点においては、高濃度の酸素を検出するためにCO検出部及びCO検出部を酸化試薬の上流側に設ける必要があり、構成の複雑化及び肥大化を避けることはできず、さらに製造コストが大きくなってしまうという問題もある。
【特許文献1】特許第3821477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、装置構成を簡単にしつつ、遊離酸素による酸素濃度測定の測定誤差を低減し、炭化水素による窒素濃度測定の測定誤差を低減することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に元素分析装置は、るつぼに入れた試料を加熱炉内で加熱し、当該試料内部に含まれている元素をガス成分として抽出して分析する元素分析装置であって、下記(1)〜(5)を備えることを特徴とする。
(1)試料ガスに含まれる少なくとも二酸化炭素、遊離酸素及び炭化水素を還元又は分解可能なガス処理部。
(2)前記ガス処理部を通過した試料ガスに含まれる一酸化炭素を検出するCO検出部。
(3)前記CO検出部の下流側に設けられ、試料ガスに含まれる一酸化炭素を二酸化炭素に酸化し、水素を水に酸化する酸化部。
(4)前記酸化部を通過した試料ガスから二酸化炭素を吸着して除去するCO除去部、及び前記酸化部を通過した試料ガスから水を吸着して除去するHO除去部を有する除去機構。
(5)前記除去機構により二酸化炭素及び水が除去された試料ガスに含まれる窒素を検出するN検出部。
【0010】
このようなものであれば、酸化部上流側に検出部としてCO検出部のみを設け、そのCO検出部における酸素濃度測定の測定誤差の要因となる二酸化炭素及び遊離酸素を、ガス処理部により一酸化炭素に還元しているので、CO検出器のみを用いて試料内部に含まれる酸素濃度を高精度に測定することができる。また、N検出部における窒素濃度測定の測定誤差の要因となる炭化水素を、ガス処理部により炭素及び水素に分解するとともに、酸化部によりN検出部の上流側に設けられた除去機構により吸着除去される形態に変化させているので、炭化水素がN検出部で検出されることを防止し、試料内部に含まれる窒素濃度を高精度に測定することができる。したがって、装置構成を簡単にしながらも、酸素濃度測定及び窒素濃度測定の測定誤差を低減して、それらの測定精度を向上させることができる。
【0011】
1つのフローの中で、酸素、窒素、水素の3成分を同時測定可能にするためには、前記酸化部及び前記除去機構の間に設けられ、試料ガスに含まれる水を検出するHO検出部をさらに備えることが望ましい。
【0012】
これならば、従来の元素分析装置では水素が炭化水素の生成に使われて減少してしまい、その減少分が水素濃度測定の測定誤差となる可能性もあるところ、炭化水素の分解により生じた水素が、酸化部により水に酸化されてHO検出部に導かれて検出されるので、水素濃度の測定精度を向上させることができる。
【0013】
さらに、前記ガス処理部が試料ガスに含まれるアンモニアを分解可能であることが望ましい。アンモニアは、N検出部及びHO検出部によって検出されないどころか、少なくともN検出部においては干渉ガスとなり、N検出部による窒素濃度測定の測定誤差を招くという問題がある。試料ガスがアンモニアを含むものであれば、アンモニアが、ガス処理部によりNとHとに分解され、N検出部による窒素濃度測定の測定誤差を低減できるだけでなく、アンモニアに含まれる窒素を検出することができるので、窒素濃度測定の測定精度を一層向上させることができる。一方、アンモニアが分解されて生じる水素は、酸化部により水に酸化されて、HO検出部に導かれて検出されるので、水素濃度の測定精度を向上させることができる。
【0014】
試料に含まれる酸素を濃度に関わらず高精度に検出可能にするためには、前記酸化部及び前記HO検出部の間に設けられ、試料ガスに含まれる二酸化炭素を検出するCO検出部と、前記酸化部、前記CO検出部及び前記HO検出部を接続するガス流路を100度以上に加熱する加熱機構と、をさらに備えることが望ましい。これならば、CO検出部により得られた酸素濃度又はCO検出部により得られた酸素濃度のいずれかにより、試料内部に含まれる酸素を測定することができ、酸素濃度に応じて、測定精度の良い検出部により得られた酸素濃度を採用することで、高精度に酸素濃度を測定することができる。また、一酸化炭素又は二酸化炭素に択一的に還元又は酸化して1つの検出部によって検出するようにしているので、一酸化炭素又は二酸化炭素の濃度に拘わらず、高精度に試料に含まれる酸素を測定することができる。さらに、加熱機構を備えているので、酸化部により酸化された気体の水(水蒸気)が、当該酸化部からCO検出部を通ってHO検出部に至るまでの間にガス流路内で結露してHO検出部による水素濃度測定の測定誤差を低減することができる。また、結露した水によってガス流路を形成する流通管が錆びてしまうことを防止することができる。
【0015】
CO検出部により得られた酸素濃度及びCO検出部により得られた酸素濃度のいずれにより試料に含まれる酸素濃度にするかを自動的に決定するためには、前記各検出部からの測定信号を取得して、試料内部に含まれる元素濃度を演算する演算部を備え、当該演算部が、試料内部の酸素濃度が所定の閾値以上の場合には、前記CO検出部により得られた酸素濃度を出力値とし、試料内部の酸素濃度が前記閾値未満の場合には、前記CO検出部により得られた酸素濃度を出力値とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
このように本発明によれば、装置構成を簡単にしつつ、遊離酸素による酸素濃度測定の測定誤差を低減し、炭化水素による窒素濃度測定の測定誤差を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図1は本実施形態の元素分析装置100の概略構成図である。
【0018】
<装置構成>
本実施形態に係る元素分析装置100は、るつぼR内に収容された金属試料又はセラミック試料(以下、単に試料とも言う)を加熱溶解し、その際に発生するガス成分を分析することによって、当該試料内部に含まれている元素を測定するものである。
【0019】
具体的にこのものは、図1に示すように、加熱炉1内に発生した試料ガスをキャリアガス(例えばHeガス等)とともに流通させる単一ガス流路2を形成する流通管を有し、当該流通管上に、ガス処理部4、CO検出部5、酸化部6、CO検出部7、HO検出部8、除去機構9、及びN検出部10が、この順に直列に設けられている。なお、加熱炉1及びガス処理部4の間には、試料ガスを除塵するためにダストフィルタ3が設けられている。
【0020】
以下各部4〜10について詳細に説明する。
【0021】
ガス処理部4は、ダストフィルタ3により除塵された試料ガスに含まれる少なくとも二酸化炭素、遊離酸素及び炭化水素を還元又は分解可能なものである。
【0022】
本実施形態のガス処理部4は、白金をコーティングした炭素粒子(白金炭素(Pt−C)触媒)を用いて構成されており、具体的には、石英管内に白金炭素触媒を充填することにより構成され、その白金炭素触媒は、約600〜約1100℃程度(好ましくは1000℃以上)に加熱されている。この触媒の加熱方法は、発熱抵抗体により加熱する方法等が考えられる。
【0023】
具体的に白金炭素触媒は、試料ガスに含まれる遊離酸素(O)、二酸化炭素(CO)、炭化水素(主としてメタン(CH))及びアンモニア(NH)を還元又は分解する。この白金炭素触媒により、遊離酸素は一酸化炭素(CO)に還元され、二酸化炭素は一酸化炭素に還元される。また、炭化水素は炭素(C)及び水素(H)に分解され、アンモニアは、窒素(N)及び水素(H)に分解される。
【0024】
CO検出部5は、ガス処理部4を通過した試料ガスに含まれる一酸化炭素を検出してその濃度を測定(検出)するものであり、非分散型赤外線ガス分析計(NDIR)により構成されている。このCO検出部5は、その測定精度から試料内部に含まれる酸素が高濃度(例えば150ppm以上、なお高濃度と判断する濃度として150〜300ppmが好ましい。)の場合に有効であり、加熱炉1内で発生してCO検出部5に流入する一酸化炭素だけでなく、ガス処理部4の還元機能により遊離酸素から還元された一酸化炭素、及び二酸化炭素から還元された一酸化炭素も併せて測定する。
【0025】
酸化部6は、CO検出部5の下流側に設けられ、試料ガスに含まれる一酸化炭素を二酸化炭素に酸化するとともに、水素を水(HO)に酸化して水蒸気を生成するものである。
【0026】
本実施形態の酸化部6は、例えば酸化銅(CuO)を用いて構成されており、具体的には、石英管内に酸化銅を充填することにより構成され、その酸化銅は、約650度程度に加熱されている。この酸化銅(CuO)の加熱方法は、発熱抵抗体により加熱する方法等が考えられる。
【0027】
以上の構成から本実施形態の元素分析装置100において、酸化部6の上流側に設けられる検出部は、CO検出部5のみである。
【0028】
CO検出部7は、酸化部6及び後述する除去機構9の間、具体的に酸化部6及びHO検出部8の間に設けられ、試料ガスに含まれる二酸化炭素を検出してその濃度を測定するものであり、非分散型赤外線ガス分析計(NDIR)により構成されている。このCO検出部7は、その測定精度から試料内部に含まれる酸素が低濃度(例えば150ppm未満)の場合に有効である。
【0029】
O検出部8は、酸化部6及び後述する除去機構9の間、具体的にはCO検出部7及び除去機構9の間に設けられ、試料ガスに含まれる水(水蒸気)を検出してその濃度を測定するものであり、非分散型赤外線ガス分析計(NDIR)により構成されている。このHO検出部8は、加熱炉1内で発生した水素が酸化部6により酸化されて生成された水(水蒸気)だけでなく、ガス処理部4の分解機能により炭化水素(主としてメタン(CH))から分解された水素が酸化部6により酸化されて生成された水(水蒸気)、及びガス処理部4の分解機能によりアンモニア(NH)から分解された水素が酸化部6により酸化されて生成された水(水蒸気)を測定する。
【0030】
そして、酸化部6、CO検出部7及びHO検出部8を接続するガス流路2を形成する流通管は、100℃以上に加熱されている。具体的には、流通管の外周面には、発熱抵抗体等からなる加熱機構11が設けられている。これにより、酸化部6により生成された水蒸気が、HO検出部8に到達するまでに結露して減少して生じるHO検出部8の測定誤差を防止することができる。さらに、結露した水によって流通管が錆びてしまうことを防止することもできる。
【0031】
除去機構9は、酸化部6を通過した試料ガスから二酸化炭素を吸着して除去するCO除去部91と、酸化部6を通過した試料ガスから水(水蒸気)を吸着して除去するHO除去部92とからなる。なお、本実施形態ではCO除去部91及びHO除去部92がこの順に設けられている。
【0032】
CO除去部91は、試料ガスに含まれる窒素に対して反応及び吸着等しないものであり、例えば、アスカライト又はゼオライト系モレキュラーシーブ等を用いることができる。HO除去部92は、試料ガスに含まれる窒素に対して反応及び吸着等しないものであり、例えば、過塩素酸マグネシウム又は塩化カルシウム等を用いることができる。
【0033】
検出部10は、除去機構9により二酸化炭素及び水が吸着除去された試料ガスに含まれる窒素を検出してその濃度を測定するものであり、熱伝導度型分析計(TCD)により構成されている。このN検出部10は、加熱炉1内で発生してN検出部10に流入する窒素(N)だけでなく、ガス処理部4の分解機能によりアンモニア(NH)から分離された窒素も併せて測定する。また、窒素に熱伝導率の近いメタンは、N検出部における干渉ガスと成りうるが、ガス処理部4によって分解されており、N検出部10の測定結果に影響を及ぼすことはない。
【0034】
<元素分析装置100の動作>
次にこのように構成した元素分析装置100の分析フローを説明する。
【0035】
加熱炉1内に試料を収容したるつぼRを一対の電極により挟持して設置して、電極を通電してるつぼRを通電加熱する。これにより、熱分解還元により生じる試料ガスをキャリアガスによりガス流路2に導出する。
【0036】
ガス流路2を流れる試料ガスは、ダストフィルタ3を通ってガス処理部4に導かれる。そして、試料ガスに含まれる遊離酸素、二酸化炭素が還元されて一酸化炭素が生成される。また、試料ガスに含まれる炭化水素(主としてメタン)が炭素及び水素に分解されるとともに、アンモニアが窒素及び水素に分解される。このとき試料ガスに含まれる成分は、一酸化炭素、炭素、水素及び窒素である。
【0037】
ガス処理部4を通過した試料ガスは、CO検出部5に導かれる。このCO検出部5によって試料ガスに含まれる一酸化酸素の濃度が測定される。
【0038】
次に、CO検出部5を通過した試料ガスは、酸化部6に導かれる。ここで、試料ガスに含まれる一酸化炭素は二酸化炭素に酸化され、水素は水(水蒸気)に酸化される。このとき試料ガスに含まれる成分は、二酸化炭素、水及び窒素である。
【0039】
酸化部6を通過した試料ガスは、CO検出部7に導かれる。このCO検出部7によって試料ガスに含まれる二酸化炭素の濃度が測定される。
【0040】
CO検出部7により二酸化炭素の濃度が測定された試料ガスは、HO検出部8に導かれる。このHO検出部8によって試料ガスに含まれる水(水蒸気)の濃度が測定される。
【0041】
O検出部8により水(水蒸気)の濃度が測定された試料ガスは、CO除去部91及びHO除去部92により二酸化炭素及び水(水蒸気)が吸着等されることにより除去される。ここで、試料ガスに含まれる成分は、窒素のみとなる。
【0042】
そして、最後に試料ガスは、N検出部10に導かれ、窒素の濃度が測定される。
【0043】
各検出部により得られた測定信号(各ガス成分の濃度を示す測定値)は、演算部12に出力される。測定信号を取得した演算部12は、各測定信号に基づいて、試料内部に含まれる酸素(O)、水素(H)及び窒素(N)の濃度を演算する。そして、演算部は、演算結果である酸素(O)、水素(H)及び窒素(N)の濃度を図示しない出力部(モニタ)に出力する。なお、演算部12の具体的な構成は、例えばCPU、内部メモリ、入出力インタフェース、AD変換器等からなる汎用又は専用のコンピュータであり、前記内部メモリの所定領域に格納してあるプログラムに基づいてCPUやその周辺機器等が作動することにより、酸素(O)、水素(H)及び窒素(N)の濃度を演算する。なお、演算部12は、コンピュータによることなくバッファや増幅器、比較器等を用いたディスクリートアナログ回路を用いて構成しても構わない。
【0044】
演算部12は、試料に含まれる酸素濃度を演算するに際して、試料内部の酸素濃度が所定の閾値(150ppm)以上の場合には、CO検出部5により得られた酸素濃度を出力値とし、試料ガス中の酸素濃度が閾値(150ppm)未満の場合には、CO検出部7により得られた酸素濃度を出力値とする。より詳細には、低濃度領域において高精度の性能を示すCO検出部7により得られた酸素濃度が150ppm以上の場合には、CO検出部5により得られた測定値より算出された酸素濃度を出力部に出力し、CO検出部7により得られた酸素濃度が150ppm未満の場合には、CO検出部7により得られた測定値により算出された酸素濃度を出力部に出力する。なお、前記所定の閾値は、CO検出部5により得られた酸素濃度又はCO検出部7により得られた酸素濃度のいずれを出力値とするかを切り換えるための酸素濃度であり、高濃度と判断するための酸素濃度(前述したように、例えば150ppm以上、なお高濃度と判断する濃度として150〜300ppmが好ましい。)と同一である。
【0045】
最後に、白金炭素触媒のメタンの分解作用についての実験結果を図2及び図3に示す。
【0046】
図2は、ヘリウムをベースガスとして、メタン濃度約150ppm、窒素濃度約2000ppmを含むサンプルガスを、(a)ガス処理部無しのガス流路を通してN検出部(TCD)で検出した場合、(b)約1000度に加熱したガス処理部(白金炭素触媒)を設けたガス通路通してN検出部(TCD)で検出した場合、(c)約1000度に加熱したガス処理部(活性炭触媒)を設けたガス通路を通してN検出部(TCD)で検出した場合、において、それぞれN検出部(TCD)での窒素の測定結果を示す。この図2から分かるように、サンプルガスを白金炭素触媒又は活性炭触媒を通過させることにより、いずれも測定される窒素濃度が低下している。このことから、メタンが白金炭素触媒又は活性炭触媒により分解されて、メタンによるN検出部における測定誤差が低減されていることが分かる。
【0047】
図3は、前記サンプルガスを(a)ガス処理部無しのガス流路を通してフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)で検出した場合、(b)約1000度に加熱したガス処理部(白金炭素触媒)を設けたガス通路通してFTIRで検出した場合、の測定結果を示す。この図3から分かるように、メタンが白金炭素触媒により分解されていることが分かる。
【0048】
<本実施形態の効果>
【0049】
このように構成した本実施形態に係る元素分析装置100によれば、1つのフローの中で、酸素、窒素、水素の3成分を同時測定可能であり、酸化部6上流側に検出部としてCO検出部5のみを設け、そのCO検出部5における酸素濃度測定の測定誤差の要因となる二酸化炭素及び遊離酸素を、ガス処理部4により一酸化炭素に還元しているので、CO検出器5のみを用いて試料内部に含まれる酸素濃度を高精度に測定することができる。
【0050】
また、N検出部10における窒素濃度測定の測定誤差の要因となる炭化水素を、ガス処理部4により炭素及び水素に分解するとともに、酸化部6によりN検出部10の上流側に設けられた除去機構9により吸着除去される形態に変化させているので、炭化水素がN検出部10で検出されることを防止し、試料内部に含まれる窒素濃度を高精度に測定することができる。この場合においては、試料ガスに含まれる炭化水素が分解されて生成された水素が酸化部6により水(水蒸気)に酸化されてHO検出部8に導かれて検出されるので、水素濃度の測定精度を向上させることができる。
【0051】
さらに、N検出部10による窒素濃度測定の測定誤差の要因となるアンモニアを、ガス処理部4により窒素及び水素に分解して、N検出部10による窒素濃度測定の測定誤差を低減できるだけでなく、アンモニアに含まれる窒素を測定することができるので、窒素濃度測定の測定精度を一層向上させることができる。また、アンモニアが分解されて生じる水素は、酸化部6により水に酸化されて、HO検出部8に導かれて検出されるので、水素濃度の測定精度を向上させることができる。
【0052】
したがって、装置構成を簡単にしながらも、試料に含まれる酸素、水素及び窒素濃度の測定精度を向上させることができる。
【0053】
<その他の変形実施形態>
【0054】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。以下の説明において前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付すこととする。
【0055】
例えば、前記実施形態の元素分析装置は、CO検出部5、CO検出部7、HO検出部8及びN検出部10を備えるものであったが、その他、図4に示すように、CO検出部5及びN検出部10のみ、或いは図5に示すように、CO検出部5、HO検出部8及びN検出部10のみを備えるものであっても良い。なお、いずれの場合においても前記実施形態の加熱機構を不要とすることができる。
【0056】
また、CO検出部がNDIRであれば、COの測定値にHOも含まれてしまい測定誤差に成ってしまう。そこで演算部が、HO検出部により得られた水の濃度に基づいて、CO検出部の検出値を補正するようにしても良い。
【0057】
さらに、加熱炉は、電極炉の他に高周波炉であっても良い。
【0058】
その上、ガス処理部には、白金炭素触媒の他に、活性炭などの炭素系触媒を用いることもできる。
【0059】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態に係る元素分析装置の概略構成図。
【図2】白金炭素触媒によるメタン(CH)の分解作用を示す比較図。
【図3】白金炭素触媒によるメタン(CH)の分解作用を示す比較図。
【図4】変形実施形態に係る元素分析装置の概略構成図。
【図5】変形実施形態に係る元素分析装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0061】
100・・・元素分析装置
R ・・・るつぼ
1 ・・・加熱炉
2 ・・・ガス流路
3 ・・・ダストフィルタ
4 ・・・ガス処理部
5 ・・・CO検出部
6 ・・・酸化部
7 ・・・CO検出部
8 ・・・HO検出部
9 ・・・除去機構
91 ・・・CO除去部
92 ・・・HO除去部
10 ・・・N検出部
11 ・・・加熱機構
12 ・・・演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
るつぼに入れた試料を加熱炉内で加熱し、当該試料内部に含まれている元素をガス成分として抽出して分析する元素分析装置であって、
試料ガスに含まれる少なくとも二酸化炭素、遊離酸素及び炭化水素を還元又は分解可能なガス処理部と、
前記ガス処理部を通過した試料ガスに含まれる一酸化炭素を検出するCO検出部と、
前記CO検出部の下流側に設けられ、試料ガスに含まれる一酸化炭素を二酸化炭素に酸化し、水素を水に酸化する酸化部と、
前記酸化部を通過した試料ガスから二酸化炭素を吸着して除去するCO除去部、及び前記酸化部を通過した試料ガスから水を吸着して除去するHO除去部を有する除去機構と、
前記除去機構により二酸化炭素及び水が除去された試料ガスに含まれる窒素を検出するN検出部と、を備える元素分析装置。
【請求項2】
前記酸化部及び前記除去機構の間に設けられ、試料ガスに含まれる水を検出するHO検出部をさらに備える請求項1記載の元素分析装置。
【請求項3】
前記酸化部及び前記HO検出部の間に設けられ、試料ガスに含まれる二酸化炭素を検出するCO検出部と、
前記酸化部、前記CO検出部及び前記HO検出部を接続するガス流路を100度以上に加熱する加熱機構と、をさらに備える請求項2記載の元素分析装置。
【請求項4】
前記各検出部からの測定信号を取得して、試料に含まれる元素濃度を演算する演算部を備え、当該演算部が、試料内部の酸素濃度が所定の閾値以上の場合には、前記CO検出部により得られた酸素濃度を出力値とし、試料内部の酸素濃度が前記閾値未満の場合には、前記CO検出部により得られた酸素濃度を出力値とする請求項3記載の元素分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−32264(P2010−32264A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192655(P2008−192655)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】