充填剤および線維芽細胞成長培地を組合せる注射用組成物
所定の充填剤と線維芽細胞培地とを備える皮下注射用または皮内注射用の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、しわを処置するための注射用液剤の開発に含まれる。
【0002】
本発明は、ヒアルロン酸などの従来の充填剤を、真皮に活力を与える明確な組成物を有する線維芽細胞成長培地と組合せることを提案する。
【背景技術】
【0003】
皮膚は絶えず更新され、多種多様の細胞および特殊構造を含む組織である。皮膚は環境と常時接触して、体の保護バリアを形成する。加えて、皮膚は、体が固定された一定温度を維持できるようにする多くの生理学的プロセスに関与している。さらに皮膚は、体を疾患から保護する免疫系において重要な役割を果たす。
【0004】
皮膚は構造的に、以下の3つの層からなる。
・表皮である外層。
・皮下組織である内層。
・一般に真皮と呼ばれる中間層。
【0005】
天然ヒト表皮は、主に3種類の細胞、すなわち、メラノサイトと、ランゲルハンス細胞と、大半を占めるケラチノサイトからなる。表皮は外層として、外部因子に対するバリアとして作用する。
【0006】
表皮自体は5つの別個の層を有し、これらは最も深部から最表面まで以下の順である。
・基底層すなわち基底層(stratum germinativum)。
・マルピーギ層すなわち有棘層(stratum spinosum)。
・顆粒層すなわち顆粒層(stratum granulosum)。
・透明層すなわち透明層(stratum lucidum)。
・角質層すなわち角質層(stratum corneum)。
【0007】
真皮は、表皮に固形支持体を提供して、表皮に栄養素を供給する。真皮は本質的に、線維芽細胞ならびに主にコラーゲン、エラスチンおよび「主物質」として公知の物質から構成される細胞外マトリックス(ECM)から構成される。これらの構成要素はすべて、線維芽細胞によって合成される。白血球、赤血球および組織マクロファージでさえも真皮に見出される。加えて、真皮には血管および神経線維が交差している。
【0008】
皮下組織(subcutaneous tissue)または皮下組織(hypodermis)は、神経および大血管を被覆する脂肪および結合組織の層である。
【0009】
加齢プロセスの間に、各種の特徴的な徴候が皮膚上に出現して、皮膚の構造および機能の変更を指摘している。皮膚加齢の主要な徴候は、年齢と共に増加する細線および/またはしわの出現である。これらのしわは深い、中程度に深いまたは表在性であり得て、特に鼻唇ひだ、眼窩周囲範囲、唇の輪郭、額および眉間の範囲(ライオンじわ)に影響を及ぼす。これらのしわおよび細線は、皮膚表面上の陥凹またはひだとして見られる。
【0010】
深いしわは皮膚皮下の変更のためと考えられるのに対して、表在性のしわは真皮およびおそらく表皮の変更によって説明することができる。
【0011】
しわは皮膚弾力の消失、特に組織の軟化のため、ならびに異なる太さの細線の産生のためであることが多い。真皮がこれの弾性を失うとき、真皮は弱くなり、より深いしわの形成を開始する。しわが産生されると、皮膚の弾力および構造に関与するコラーゲン線維はこれの特徴を失って、メタロプロテイナーゼ酵素の過剰産生を伴う。この異常量の酵素はコラーゲンマトリックスを分解して、このようにして深いしわの産生につながる。したがって真皮は長年にわたって、特にこれのコラーゲン層が薄くなる傾向がある。
【0012】
他の因子、例えばフリーラジカル、日光への曝露、汚染、喫煙、アルコール消費またはオゾンは、メタロプロテイナーゼの活性化およびコラーゲン分解の同じ現象を通じて皮膚を損傷し得る。
【0013】
近年の間に、魅力のない皮膚変化、特に加齢に関連するものの処置は急速に発展して、並外れた進化を遂げている。
【0014】
皮膚改変を修復するために各種の処置、特に天然または合成物質の注射が提案されている。
【0015】
特に本発明者らは、局所注射としての不活性化ボツリヌストキシン(Botox(登録商標))の使用およびレーザ技法の使用、または両方の技法の同時使用を挙げるべきである。
【0016】
これらの技術的解決策の代替方法は、真皮中への充填製品、いわゆる皮膚充填剤の注射である。この充填は、非吸収性製品、例えばポリアクリルアミドゲルまたはポリメチルメタクリレレート(PMMA)粒子を使用して行われ得る。しかしこれらの化合物は、炎症または過敏性不耐性反応を引き起こす可能性がある。
【0017】
これらの理由で、吸収性製品、例えばタンパク質または脂質の使用が考慮されてきた。現在、好ましい技術的解決策は、人体に天然状態で存在する物質、例えばコラーゲンまたはヒアルロン酸を使用することであり、コラーゲンまたはヒアルロン酸は市場で現在入手可能な製品の大半のベースとなっている。
【0018】
これらの吸収性製品はこれにもかかわらず、生物内でかなり迅速に分解されるという欠点を有し、この欠点はこれの有効性を低下させて、定期的な反復注射を必要とする。
【0019】
天然吸収性製品の例は、好ましい化合物であるヒアルロン酸である。
【0020】
ヒアルロン酸(HA)は真皮の天然構成物質であり、真皮で皮膚の水和および弾性を維持するのに重要な役割を果たすことが言及されるべきである。しかしヒアルロン酸は年齢と共に量および品質が低下して、皮膚の乾燥および薄化を生じさせ、このことが次にしわを生じさせる。ヒアルロン酸は高水溶性でもあり、水中で高粘度の溶液を形成するので、最も広範に使用されている医薬品の1つである。
【0021】
現在、しわの処置を目的とした医薬品または医療用デバイスで使用されているヒアルロン酸は、ヒアルロン酸ナトリウムまたはカリウムゲルの形で入手できる。これにもかかわらず、このようなヒアルロン酸ナトリウムまたはカリウムゲルはかなり急速な生体吸収性であり(通常は4から6カ月で変動)、このことは注射を定期的な短間隔で反復しなければならないことを意味する。
【0022】
ヒアルロン酸の作用期間の延長を試みるために、ヒアルロン酸の安定化形が開発されてきた。特にこれらは化学架橋HAゲルである。分子内または分子間橋架けによるこの架橋は、製品が真皮中で持続する時間を延長すると考えられている。あるいは、ヒアルロン酸をカプセル化することが考慮されてきた(国際公開第2008/147817号パンフレット)。
【0023】
さらに、充填製品に関する最新の開発は、本用途のために各種の活性成分を組合せることに集中している。
【0024】
メカニカルな充填剤としてのヒアルロン酸を本状況において活性である他の物質の皮膚投与と組合せることが想定されてきた。例えば、国際公開第2008/139122号パンフレットでは、注射されたHA分子のある量が確実に保存されるようにするために、HAをインビボでのヒアルロン酸分解作用の阻害剤と組合せている。
【0025】
これにもかかわらず、市場では各種の代替方法が入手可能であるが、長期間にわたって持続して、皮膚にとって可能な限り痛みのない有効な皮膚修復を確実にする技術的解決策を開発する必要性が残されている。
【発明の概要】
【0026】
このような状況に鑑み、出願人は全く新しい手法を採用した。
【0027】
従来技術は充填剤、例えばヒアルロン酸とヒアルロン酸を保護する薬剤を組合せることを主張しているが、本発明は、良好な皮膚外観を回復するために2つの別個のレベルで作用することを、したがって特に加齢に対抗して作用することを目的としている。
【0028】
本発明は、このように公知の「メカニカルな」充填剤に線維芽細胞成長培地を組合せた皮膚用、化粧用または治療用の注射製剤に関する。
【0029】
実際に、このことはしわを形成する凹凸またはひだを充填するために物理的に作用することおよび真皮中の線維芽細胞の成長を刺激することの両方を意味する。線維芽細胞は、ひだの中でも成長して、真皮再生に寄与するエラスチンおよびコラーゲンなどの物質をさらに合成することができる。加えて、成長培地は存在する充填剤を安定化および保護すると考えられる。
【0030】
したがって本発明に係る組合せの第1の構成要素は、メカニカルな充填剤であり、これの主要な機能はしわの中で容積を生じることである。
【0031】
この文脈では、硫酸デキストラン、エラスチン、コラーゲンおよびヒアルロン酸を特に挙げることができる。合成充填剤、例えばシリコーンまたはポリウレタンゲルも本発明では適している。
【0032】
皮膚と可能な限り適合性である技術的解決策を探す際には、皮膚に存在する天然ポリマーを使用することが好ましい。このことによって真皮の組成は可能な限り乱されず、アレルギーまたは炎症反応のリスクが低下する。より有利には、天然ポリマーはヒアルロン酸である。
【0033】
ヒアルロン酸は各種の形、すなわち、塩として、誘導体、例えばエステルまたはアミドとして、直鎖または化学架橋形として、存在できることが知られている。これらの形はすべて、本発明で採用することができる。架橋は生物中でのヒアルロン酸の寿命を延長させるが、このことはヒアルロン酸の物理的/化学的な特徴、生物学的な特性、および潜在的な免疫原性に影響を及ぼす。
【0034】
皮膚に対して可能な限り中性である技術的解決策、すなわち生体模倣性の解決策を追求する際に、非架橋ヒアルロン酸およびこれの生理学的に許容される塩が好ましいのは、この分子が真皮の天然構成要素であるためである。ヒアルロン酸の生理学的に許容される塩とは、ナトリウム塩およびカリウム塩、ならびにこれらのブレンドを意味する。
【0035】
充填剤、好ましくはヒアルロン酸は、組成物の総質量の0.07%から3%、さらに好ましくは0.8%から2.5%を形成する。
【0036】
選択されたヒアルロン酸の架橋度および分子量は標的とする用途、特に処置されるしわの深さに依存し得ることに留意すべきである。
【0037】
本発明に係る組成物の第2の必要な構成要素は、線維芽細胞成長培地である。
【0038】
本発明では、線維芽細胞成長培地は線維芽細胞を生存させておくだけでなく、これの増殖も刺激する完全培地として定義される。成長の機能アッセイの使用により、所与の培地が本発明に係る線維芽細胞成長培地であるか否かを判定することができる。特に当業者に公知の好適な機能アッセイは、WST−1試薬を使用する生細胞の密度の比色観察および450nmでの結果の読取りである(Berridge,M.V.et al.(1996):The Biochemical and Cellular Basis of Cell Proliferation Assays That Use Tetrazolium Salts.Biochemica 4,15−19)。
【0039】
市販の線維芽細胞成長培地の例は、10重量%の細胞成長因子FCS(ウシ胎仔血清)を添加したDMEM標準培養培地(Sigma)である。
【0040】
一般的に言えば、このような培地は、線維芽細胞の成長を実際に刺激する動物または細胞起源の抽出物を含有するが、この抽出物は、定義された組成を有さないという欠点、または例えば、FCS、ウシ下垂体抽出物、細胞成長因子EGF(上皮増殖因子)またはFGF(線維芽成長因子)インスリンもしくはコレラ毒素、ヒドロコルチゾン、ピペラジンなどの追跡不能な外因性要素を含むという欠点を有するものである。
【0041】
有利には、本発明で使用される線維芽細胞成長培地は、特に細胞成長因子または動物または細胞起源の生体抽出物が追跡されていない若しくは追跡不能な場合及び/又は定義された組成でない場合に、これらの因子または抽出物を含有しない。
【0042】
「追跡されていない」または「追跡不能である」という表現は、問題の生体材料源および/または生体材料が受ける処置が確立されていない又は調査できないことを意味する。
【0043】
実際に、前記培地は好ましくは、動物または細胞起源の生体抽出物、細胞化合物もしくは成長因子、またはホルモンを含有しない。
【0044】
好ましい実施形態において、皮膚の天然組成と可能な限り適合性である線維芽細胞成長培地は、注射により真皮中に導入される。線維芽細胞成長培地は、生体皮膚性(biodermal)(皮膚中に天然に含有されている)、生体模倣性および/または生体適合性(生物学的に模倣性または皮膚に対して中性)である構成要素を含有する培地でる。
【0045】
このような培地は線維芽細胞にビタミン、微量元素、アミノ酸、無機塩、単糖(グルコース、リボース、デオキシリボースなど)および/または複合体(HAなど)の形の最適化された栄養素、ならびに核酸の構成物質(ヌクレオチドを形成するために必要なヌクレオチド塩基およびペントース、ならびにヌクレオシド)の形の天然成長因子を特異的に提供する。有利には、培地は6.5から7.9の間の、7.4から7.6の間の生理学的pHおよびに280から450mOsmの間の、好ましくは300から350mOsmの間の容量オスモル濃度も有する。
【0046】
HAは成長培地の構成要素および充填剤の両方であり得ることに留意すべきである。相違は、HAの形(培地中では必ずヒアルロン酸塩)およびHAの量(培地中でははるかに少ない量)である。
【0047】
特定の実施形態により、培地の構成要素すべてが皮膚中に天然に存在する(皮膚構成要素)。これにもかかわらず、線維芽細胞の成長を刺激するために、このような培地は、皮膚にとって外因性であるが、天然で追跡可能な起源であり、明確な組成である物質を使用して強化することができる。本定義を満足する物質は例えば、牛乳からの逐次沈殿と、酵素加水分解を受けたあるタンパク質の分離によって得られた、牛乳から抽出されたペプチドの混合物、すなわちMPC(ミルクペプチド複合体)である。脱水粉末の形の本物質は培地に0.5〜5mg/ml、さらに好ましくは4〜5mg/mlで有利に添加される。
【0048】
別の好ましい実施形態により、本発明に係る組成で使用される線維芽細胞成長胞培地は、メタロプロテイナーゼ阻害剤としてのEDTAもしくはこれの塩またはリポ酸を含有しない。
【0049】
例としてこのような定義を満足する複合媒体が、出願人によって開発され、約60の構成要素を以下のように正確な定義された量で組合せている。
【0050】
【表1A】
【表1B】
【0051】
本発明に係る組成物は加えて、本用途に通常使用される他の成分または賦形剤、特にHAの誘導体または精製画分を含有することができる。これにもかかわらず、特定の実施形態により、注射用組成物は上記の2つの構成要素のみからなる。
【0052】
すでに示したように、本組成物は注射用であり、したがって注射用インプラントに類似している。
【0053】
したがって本発明に係るインプラントは表層、中層または深層真皮中に皮下または皮内に、好ましくは顔に注射されることを目的としている。
【0054】
有利な実施形態により、組成物がゲルの形であるのは、本発明の目的としての注射形のための用途のためである。特に、この制限は、上述した線維芽細胞成長培地と完璧に適合するものであって、この線維芽細胞成長培地は、HAを包含することにより、外因性賦形剤を添加することなくゲルとして製剤することができる。
【0055】
さらに有利には、組成物は単相ハイドロゲル、すなわち単一の均一相のハイドロゲルの形である。得られた組成物の粘度は、特に組成および充填剤の量を適応させることによって容易に調製することができる。ヒアルロン酸の場合、組成物の重量の0.07%および3%の間で通常変化する濃度に、およびヒアルロン酸の架橋度またはヒアルロン酸の分子量に調整を行うこともできる。
【0056】
本発明に係る注射用組成物は、前記化合物を含有可能な注射器を加えて含むキットの一部も形成することができる。例えばこれらは0.5〜1.5mlの単回用量注射器であり得る。このようなキットでは、組成物の2つの必須構成要素は、単一の注射器でブレンドとして、または即時混合のために2つの別個の注射器で提供され得る。
【0057】
所望の処置を考慮すると、このような組成物は好ましくは滅菌され、構成要素の変性を回避するために好ましくは冷滅菌が使用される。本段階は、線維芽細胞成長培地のための0.22μm膜濾過法を使用して、当業者に公知のプロセスを使用するHAの個別滅菌によって行われ得る。
【0058】
本発明の組成物の2つの構成要素は、これらの相補的な作用機序を考慮すると、同時に、別個にまたは時間差で投与され得る。
【0059】
既に示したように、本発明に係る組成物は皮膚の不規則性すべてを補正すること、ならびに特に皮膚加齢を処置、改善および/または予防することを目的としている。特に表情じわが刻まれた顔および額の範囲のしわ、細線、皮膚陥凹および瘢痕はこのように標的化される。
【0060】
組成物は化粧目的または治療目的のどちらかで使用することができる。皮膚科学および再建外科の両方に本発明に係る化合物が関係している。
【0061】
言い換えれば本発明は、本出願で定義された組成物を注射することからなる、化粧または治療処置方法に関する。本組成物の2つの必須構成要素が即時ブレンドされ得ることに留意すべきである。同じように、2つの必須構成要素は同時に注射される必要はない。
【0062】
本発明に係る特定の組成物のために、2つの相補的生理学的作用、すなわち、第1に、不規則性のメカニカルな充填、および第2に、細胞再生およびこれを通じて新たに形成された構成成分、特にコラーゲンおよびエラスチンの線維芽細胞による合成に寄与する作用が標的化および取得される。これにより細胞外マトリックスの再モデル化および真皮の回復が生じる。
【0063】
このようにして、注射後の即時メカニカルな充填および最終的な細胞再生がある。したがって充填剤の濃度を低下させることは、処置の間に想定することができる。実際に線維芽細胞の成長がいったん優勢になると、メカニカルな充填剤はあまり必要なくなり、実際には充填剤の量を減少させることができる。
【0064】
さらに、好ましい実施形態において、このような組成物は、これが真皮に天然に存在する構成要素から本質的に構成される限り、皮膚と完全に生体適合性である。このために皮膚の微小環境は乱されず、このようにして炎症またはアレルギー反応のリスクが低下する。さらにこのような生体模倣性および生体適合性培地によって、血清の存在下で刺激された線維芽細胞の成長が可能になることが示されている。このようにしてこれらが真皮注射のための特に好適な候補であるのは、真皮では血管新生が豊富であるためである。
【0065】
以下、添付図面を参照して、本発明を説明するが、以下の実施の形態は限定を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る線維芽細胞成長培地および成長因子を含まないDMEM標準培地(Sigma)におけるヒト線維芽細胞の比較成長を示す。
【図2】健常皮膚の、UV照射によって改変されたおよび本発明に係る線維芽細胞成長培地による処置後の皮膚の表層および中層真皮におけるコラーゲン濃度を表す。
【図3】健常皮膚、照射によって改変されたおよび本発明に係る線維芽細胞成長培地による処置後の皮膚におけるコラーゲン線維の染色を示す組織学的断面からなる。
【図4】健常皮膚、次にUV照射によって改変されたおよび次に本発明に係る線維芽細胞成長培地による処置後の皮膚におけるエラスチンの量を示す。
【図5】健常皮膚、照射によって改変されたおよび次に本発明に係る線維芽細胞成長培地による処置後の皮膚におけるエラスチン線維の染色を示す組織学的断面からなる。
【図6】健常皮膚の、UV照射によって改変されたおよび本発明に係る線維芽細胞成長培地による処置後の皮膚の表層および中層真皮におけるGAGの濃度を示す。
【図7】健常皮膚、UV照射によって改変されたおよび本発明に係る線維芽細胞成長培地による処置後の皮膚におけるGAGの染色を示す組織学的断面からなる。
【実施例】
【0067】
1.注射用組成物での線維芽細胞成長培地の使用:
a)培地の組成
【0068】
【表2A】
【表2B】
【0069】
b)ヒト線維芽細胞培養
<プロトコル>
FCS(ウシ胎仔血清)細胞成長因子を添加したDMEM標準培養培地中の96ウェルプレートに、ヒト線維芽細胞を低密度で播種した。
24時間後、細胞を本発明に係る純粋培地または成長因子を含まないDMEM標準培地で培養した。
培地は実験中に更新されない。
生細胞の密度はT0にて、次に2、4、7および9日後に比色法(WST−1試薬)を使用して決定した。
【0070】
<結果>
本発明に係る培養培地のみが9日間の期間にわたって線維芽細胞の成長を維持した。第7日から細胞成長の低速化が観察され、このことは培地が更新されなかったという事実によって説明することができる(図1)。
FCSを含まないDMEMにおいて、細胞生存能の低下は2日後に見られ、試験を通じて細胞成長はなかった(図1)。
【0071】
結論として、本発明によって使用された線維芽成長培地が、外因性成長因子の非存在下での正常ヒト線維芽細胞の生存を可能にして、これの成長を刺激することがわかる。
【0072】
c)真皮構成要素の修復の補助
<プロトコル>
皮膚断片を8名のドナーから採取して、インサートに入れ、培養培地中に配置した。
低線量のUVA照射をD0およびD2に与えた(線維芽細胞代謝の低下、結合組織の巨大分子に対する改変)。
本発明に係る培地をD3からD14まで皮膚表面に添加した(含浸紙)。
照射なし(健常対照)または本発明に係る培地の適用なし(UVのみ)で負の対照を作製した。
組織学的検査(染色):
・コラーゲン(シリウスレッド)および弾性線維(カテキン)>表層および中層にて占有される面積のパーセンテージを評価した(コンピュータ支援画像解析)。
・グリコサミノグリカン(GAG)(ヘール染色)>半定量スコア(染色強度)。
生化学測定(分光比色):
・総コラーゲン:酵素消化および均質化後の皮膚の断片上。
・可溶性エラスチン:培養物上清中。
・GAG:均質化された皮膚の断片上。
【0073】
<結果>
UV照射後の表層および深層真皮のコラーゲンおよびエラスチンの量に有意な減少があった(図2から図5)。
本発明に係る培地を用いた処置後のコラーゲンおよびエラスチンの染色に統計的に有意な増加があった(図2から図5)。
線維芽細胞代謝は本発明に係る培地によって刺激され、エラスチン濃度の有意な上昇およびコラーゲンの増加する傾向があった(図2から図5)。
本発明に係る培地の適用後に真皮におけるGAG総量の有意で大幅な増加があった(図6および図7)。
本モデルによって、組織学的断面での線維芽細胞の結合組織に対する修復特性を定量することが可能となった。
【0074】
結論として、組織が改変されているときに本培地が真皮の必須構成要素(コラーゲン線維、エラスチン、GAG)の修復および回復を刺激することが明らかである。
【0075】
2.しわ処置のための注射用ゲルの調製:
線維芽細胞培地。
HAは、総組成の3重量%まで添加される。好ましくは、表層しわの処置には0.8%、中層しわの処置には1.6%および深層しわの処置には2%。
ゲルの処方:HAを線維芽細胞培養培地に溶解させる。HA濃度は最終調製物の濃度を決定する。例として、使用されるHAは分子量1.3から1.8MDaを有するヒアルロン酸ナトリウムである。本発明に係る注射用ゲルはいずれの添加剤も含まず、処方のすべての構成要素は賦形剤および活性成分の両方として作用する。
滅菌:線維芽細胞成長培地では0.2μm膜濾過により、および当業者に公知のプロセスを使用するHAの個別滅菌による。
注射プロトコル:処置される範囲およびしわの深さに応じて、1回以上のセッションが想定されている。結果を維持するために、6カ月間隔で手順を反復することが必要であり得て、しわの充填がより長続きすれば、皮膚はより若くなる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、しわを処置するための注射用液剤の開発に含まれる。
【0002】
本発明は、ヒアルロン酸などの従来の充填剤を、真皮に活力を与える明確な組成物を有する線維芽細胞成長培地と組合せることを提案する。
【背景技術】
【0003】
皮膚は絶えず更新され、多種多様の細胞および特殊構造を含む組織である。皮膚は環境と常時接触して、体の保護バリアを形成する。加えて、皮膚は、体が固定された一定温度を維持できるようにする多くの生理学的プロセスに関与している。さらに皮膚は、体を疾患から保護する免疫系において重要な役割を果たす。
【0004】
皮膚は構造的に、以下の3つの層からなる。
・表皮である外層。
・皮下組織である内層。
・一般に真皮と呼ばれる中間層。
【0005】
天然ヒト表皮は、主に3種類の細胞、すなわち、メラノサイトと、ランゲルハンス細胞と、大半を占めるケラチノサイトからなる。表皮は外層として、外部因子に対するバリアとして作用する。
【0006】
表皮自体は5つの別個の層を有し、これらは最も深部から最表面まで以下の順である。
・基底層すなわち基底層(stratum germinativum)。
・マルピーギ層すなわち有棘層(stratum spinosum)。
・顆粒層すなわち顆粒層(stratum granulosum)。
・透明層すなわち透明層(stratum lucidum)。
・角質層すなわち角質層(stratum corneum)。
【0007】
真皮は、表皮に固形支持体を提供して、表皮に栄養素を供給する。真皮は本質的に、線維芽細胞ならびに主にコラーゲン、エラスチンおよび「主物質」として公知の物質から構成される細胞外マトリックス(ECM)から構成される。これらの構成要素はすべて、線維芽細胞によって合成される。白血球、赤血球および組織マクロファージでさえも真皮に見出される。加えて、真皮には血管および神経線維が交差している。
【0008】
皮下組織(subcutaneous tissue)または皮下組織(hypodermis)は、神経および大血管を被覆する脂肪および結合組織の層である。
【0009】
加齢プロセスの間に、各種の特徴的な徴候が皮膚上に出現して、皮膚の構造および機能の変更を指摘している。皮膚加齢の主要な徴候は、年齢と共に増加する細線および/またはしわの出現である。これらのしわは深い、中程度に深いまたは表在性であり得て、特に鼻唇ひだ、眼窩周囲範囲、唇の輪郭、額および眉間の範囲(ライオンじわ)に影響を及ぼす。これらのしわおよび細線は、皮膚表面上の陥凹またはひだとして見られる。
【0010】
深いしわは皮膚皮下の変更のためと考えられるのに対して、表在性のしわは真皮およびおそらく表皮の変更によって説明することができる。
【0011】
しわは皮膚弾力の消失、特に組織の軟化のため、ならびに異なる太さの細線の産生のためであることが多い。真皮がこれの弾性を失うとき、真皮は弱くなり、より深いしわの形成を開始する。しわが産生されると、皮膚の弾力および構造に関与するコラーゲン線維はこれの特徴を失って、メタロプロテイナーゼ酵素の過剰産生を伴う。この異常量の酵素はコラーゲンマトリックスを分解して、このようにして深いしわの産生につながる。したがって真皮は長年にわたって、特にこれのコラーゲン層が薄くなる傾向がある。
【0012】
他の因子、例えばフリーラジカル、日光への曝露、汚染、喫煙、アルコール消費またはオゾンは、メタロプロテイナーゼの活性化およびコラーゲン分解の同じ現象を通じて皮膚を損傷し得る。
【0013】
近年の間に、魅力のない皮膚変化、特に加齢に関連するものの処置は急速に発展して、並外れた進化を遂げている。
【0014】
皮膚改変を修復するために各種の処置、特に天然または合成物質の注射が提案されている。
【0015】
特に本発明者らは、局所注射としての不活性化ボツリヌストキシン(Botox(登録商標))の使用およびレーザ技法の使用、または両方の技法の同時使用を挙げるべきである。
【0016】
これらの技術的解決策の代替方法は、真皮中への充填製品、いわゆる皮膚充填剤の注射である。この充填は、非吸収性製品、例えばポリアクリルアミドゲルまたはポリメチルメタクリレレート(PMMA)粒子を使用して行われ得る。しかしこれらの化合物は、炎症または過敏性不耐性反応を引き起こす可能性がある。
【0017】
これらの理由で、吸収性製品、例えばタンパク質または脂質の使用が考慮されてきた。現在、好ましい技術的解決策は、人体に天然状態で存在する物質、例えばコラーゲンまたはヒアルロン酸を使用することであり、コラーゲンまたはヒアルロン酸は市場で現在入手可能な製品の大半のベースとなっている。
【0018】
これらの吸収性製品はこれにもかかわらず、生物内でかなり迅速に分解されるという欠点を有し、この欠点はこれの有効性を低下させて、定期的な反復注射を必要とする。
【0019】
天然吸収性製品の例は、好ましい化合物であるヒアルロン酸である。
【0020】
ヒアルロン酸(HA)は真皮の天然構成物質であり、真皮で皮膚の水和および弾性を維持するのに重要な役割を果たすことが言及されるべきである。しかしヒアルロン酸は年齢と共に量および品質が低下して、皮膚の乾燥および薄化を生じさせ、このことが次にしわを生じさせる。ヒアルロン酸は高水溶性でもあり、水中で高粘度の溶液を形成するので、最も広範に使用されている医薬品の1つである。
【0021】
現在、しわの処置を目的とした医薬品または医療用デバイスで使用されているヒアルロン酸は、ヒアルロン酸ナトリウムまたはカリウムゲルの形で入手できる。これにもかかわらず、このようなヒアルロン酸ナトリウムまたはカリウムゲルはかなり急速な生体吸収性であり(通常は4から6カ月で変動)、このことは注射を定期的な短間隔で反復しなければならないことを意味する。
【0022】
ヒアルロン酸の作用期間の延長を試みるために、ヒアルロン酸の安定化形が開発されてきた。特にこれらは化学架橋HAゲルである。分子内または分子間橋架けによるこの架橋は、製品が真皮中で持続する時間を延長すると考えられている。あるいは、ヒアルロン酸をカプセル化することが考慮されてきた(国際公開第2008/147817号パンフレット)。
【0023】
さらに、充填製品に関する最新の開発は、本用途のために各種の活性成分を組合せることに集中している。
【0024】
メカニカルな充填剤としてのヒアルロン酸を本状況において活性である他の物質の皮膚投与と組合せることが想定されてきた。例えば、国際公開第2008/139122号パンフレットでは、注射されたHA分子のある量が確実に保存されるようにするために、HAをインビボでのヒアルロン酸分解作用の阻害剤と組合せている。
【0025】
これにもかかわらず、市場では各種の代替方法が入手可能であるが、長期間にわたって持続して、皮膚にとって可能な限り痛みのない有効な皮膚修復を確実にする技術的解決策を開発する必要性が残されている。
【発明の概要】
【0026】
このような状況に鑑み、出願人は全く新しい手法を採用した。
【0027】
従来技術は充填剤、例えばヒアルロン酸とヒアルロン酸を保護する薬剤を組合せることを主張しているが、本発明は、良好な皮膚外観を回復するために2つの別個のレベルで作用することを、したがって特に加齢に対抗して作用することを目的としている。
【0028】
本発明は、このように公知の「メカニカルな」充填剤に線維芽細胞成長培地を組合せた皮膚用、化粧用または治療用の注射製剤に関する。
【0029】
実際に、このことはしわを形成する凹凸またはひだを充填するために物理的に作用することおよび真皮中の線維芽細胞の成長を刺激することの両方を意味する。線維芽細胞は、ひだの中でも成長して、真皮再生に寄与するエラスチンおよびコラーゲンなどの物質をさらに合成することができる。加えて、成長培地は存在する充填剤を安定化および保護すると考えられる。
【0030】
したがって本発明に係る組合せの第1の構成要素は、メカニカルな充填剤であり、これの主要な機能はしわの中で容積を生じることである。
【0031】
この文脈では、硫酸デキストラン、エラスチン、コラーゲンおよびヒアルロン酸を特に挙げることができる。合成充填剤、例えばシリコーンまたはポリウレタンゲルも本発明では適している。
【0032】
皮膚と可能な限り適合性である技術的解決策を探す際には、皮膚に存在する天然ポリマーを使用することが好ましい。このことによって真皮の組成は可能な限り乱されず、アレルギーまたは炎症反応のリスクが低下する。より有利には、天然ポリマーはヒアルロン酸である。
【0033】
ヒアルロン酸は各種の形、すなわち、塩として、誘導体、例えばエステルまたはアミドとして、直鎖または化学架橋形として、存在できることが知られている。これらの形はすべて、本発明で採用することができる。架橋は生物中でのヒアルロン酸の寿命を延長させるが、このことはヒアルロン酸の物理的/化学的な特徴、生物学的な特性、および潜在的な免疫原性に影響を及ぼす。
【0034】
皮膚に対して可能な限り中性である技術的解決策、すなわち生体模倣性の解決策を追求する際に、非架橋ヒアルロン酸およびこれの生理学的に許容される塩が好ましいのは、この分子が真皮の天然構成要素であるためである。ヒアルロン酸の生理学的に許容される塩とは、ナトリウム塩およびカリウム塩、ならびにこれらのブレンドを意味する。
【0035】
充填剤、好ましくはヒアルロン酸は、組成物の総質量の0.07%から3%、さらに好ましくは0.8%から2.5%を形成する。
【0036】
選択されたヒアルロン酸の架橋度および分子量は標的とする用途、特に処置されるしわの深さに依存し得ることに留意すべきである。
【0037】
本発明に係る組成物の第2の必要な構成要素は、線維芽細胞成長培地である。
【0038】
本発明では、線維芽細胞成長培地は線維芽細胞を生存させておくだけでなく、これの増殖も刺激する完全培地として定義される。成長の機能アッセイの使用により、所与の培地が本発明に係る線維芽細胞成長培地であるか否かを判定することができる。特に当業者に公知の好適な機能アッセイは、WST−1試薬を使用する生細胞の密度の比色観察および450nmでの結果の読取りである(Berridge,M.V.et al.(1996):The Biochemical and Cellular Basis of Cell Proliferation Assays That Use Tetrazolium Salts.Biochemica 4,15−19)。
【0039】
市販の線維芽細胞成長培地の例は、10重量%の細胞成長因子FCS(ウシ胎仔血清)を添加したDMEM標準培養培地(Sigma)である。
【0040】
一般的に言えば、このような培地は、線維芽細胞の成長を実際に刺激する動物または細胞起源の抽出物を含有するが、この抽出物は、定義された組成を有さないという欠点、または例えば、FCS、ウシ下垂体抽出物、細胞成長因子EGF(上皮増殖因子)またはFGF(線維芽成長因子)インスリンもしくはコレラ毒素、ヒドロコルチゾン、ピペラジンなどの追跡不能な外因性要素を含むという欠点を有するものである。
【0041】
有利には、本発明で使用される線維芽細胞成長培地は、特に細胞成長因子または動物または細胞起源の生体抽出物が追跡されていない若しくは追跡不能な場合及び/又は定義された組成でない場合に、これらの因子または抽出物を含有しない。
【0042】
「追跡されていない」または「追跡不能である」という表現は、問題の生体材料源および/または生体材料が受ける処置が確立されていない又は調査できないことを意味する。
【0043】
実際に、前記培地は好ましくは、動物または細胞起源の生体抽出物、細胞化合物もしくは成長因子、またはホルモンを含有しない。
【0044】
好ましい実施形態において、皮膚の天然組成と可能な限り適合性である線維芽細胞成長培地は、注射により真皮中に導入される。線維芽細胞成長培地は、生体皮膚性(biodermal)(皮膚中に天然に含有されている)、生体模倣性および/または生体適合性(生物学的に模倣性または皮膚に対して中性)である構成要素を含有する培地でる。
【0045】
このような培地は線維芽細胞にビタミン、微量元素、アミノ酸、無機塩、単糖(グルコース、リボース、デオキシリボースなど)および/または複合体(HAなど)の形の最適化された栄養素、ならびに核酸の構成物質(ヌクレオチドを形成するために必要なヌクレオチド塩基およびペントース、ならびにヌクレオシド)の形の天然成長因子を特異的に提供する。有利には、培地は6.5から7.9の間の、7.4から7.6の間の生理学的pHおよびに280から450mOsmの間の、好ましくは300から350mOsmの間の容量オスモル濃度も有する。
【0046】
HAは成長培地の構成要素および充填剤の両方であり得ることに留意すべきである。相違は、HAの形(培地中では必ずヒアルロン酸塩)およびHAの量(培地中でははるかに少ない量)である。
【0047】
特定の実施形態により、培地の構成要素すべてが皮膚中に天然に存在する(皮膚構成要素)。これにもかかわらず、線維芽細胞の成長を刺激するために、このような培地は、皮膚にとって外因性であるが、天然で追跡可能な起源であり、明確な組成である物質を使用して強化することができる。本定義を満足する物質は例えば、牛乳からの逐次沈殿と、酵素加水分解を受けたあるタンパク質の分離によって得られた、牛乳から抽出されたペプチドの混合物、すなわちMPC(ミルクペプチド複合体)である。脱水粉末の形の本物質は培地に0.5〜5mg/ml、さらに好ましくは4〜5mg/mlで有利に添加される。
【0048】
別の好ましい実施形態により、本発明に係る組成で使用される線維芽細胞成長胞培地は、メタロプロテイナーゼ阻害剤としてのEDTAもしくはこれの塩またはリポ酸を含有しない。
【0049】
例としてこのような定義を満足する複合媒体が、出願人によって開発され、約60の構成要素を以下のように正確な定義された量で組合せている。
【0050】
【表1A】
【表1B】
【0051】
本発明に係る組成物は加えて、本用途に通常使用される他の成分または賦形剤、特にHAの誘導体または精製画分を含有することができる。これにもかかわらず、特定の実施形態により、注射用組成物は上記の2つの構成要素のみからなる。
【0052】
すでに示したように、本組成物は注射用であり、したがって注射用インプラントに類似している。
【0053】
したがって本発明に係るインプラントは表層、中層または深層真皮中に皮下または皮内に、好ましくは顔に注射されることを目的としている。
【0054】
有利な実施形態により、組成物がゲルの形であるのは、本発明の目的としての注射形のための用途のためである。特に、この制限は、上述した線維芽細胞成長培地と完璧に適合するものであって、この線維芽細胞成長培地は、HAを包含することにより、外因性賦形剤を添加することなくゲルとして製剤することができる。
【0055】
さらに有利には、組成物は単相ハイドロゲル、すなわち単一の均一相のハイドロゲルの形である。得られた組成物の粘度は、特に組成および充填剤の量を適応させることによって容易に調製することができる。ヒアルロン酸の場合、組成物の重量の0.07%および3%の間で通常変化する濃度に、およびヒアルロン酸の架橋度またはヒアルロン酸の分子量に調整を行うこともできる。
【0056】
本発明に係る注射用組成物は、前記化合物を含有可能な注射器を加えて含むキットの一部も形成することができる。例えばこれらは0.5〜1.5mlの単回用量注射器であり得る。このようなキットでは、組成物の2つの必須構成要素は、単一の注射器でブレンドとして、または即時混合のために2つの別個の注射器で提供され得る。
【0057】
所望の処置を考慮すると、このような組成物は好ましくは滅菌され、構成要素の変性を回避するために好ましくは冷滅菌が使用される。本段階は、線維芽細胞成長培地のための0.22μm膜濾過法を使用して、当業者に公知のプロセスを使用するHAの個別滅菌によって行われ得る。
【0058】
本発明の組成物の2つの構成要素は、これらの相補的な作用機序を考慮すると、同時に、別個にまたは時間差で投与され得る。
【0059】
既に示したように、本発明に係る組成物は皮膚の不規則性すべてを補正すること、ならびに特に皮膚加齢を処置、改善および/または予防することを目的としている。特に表情じわが刻まれた顔および額の範囲のしわ、細線、皮膚陥凹および瘢痕はこのように標的化される。
【0060】
組成物は化粧目的または治療目的のどちらかで使用することができる。皮膚科学および再建外科の両方に本発明に係る化合物が関係している。
【0061】
言い換えれば本発明は、本出願で定義された組成物を注射することからなる、化粧または治療処置方法に関する。本組成物の2つの必須構成要素が即時ブレンドされ得ることに留意すべきである。同じように、2つの必須構成要素は同時に注射される必要はない。
【0062】
本発明に係る特定の組成物のために、2つの相補的生理学的作用、すなわち、第1に、不規則性のメカニカルな充填、および第2に、細胞再生およびこれを通じて新たに形成された構成成分、特にコラーゲンおよびエラスチンの線維芽細胞による合成に寄与する作用が標的化および取得される。これにより細胞外マトリックスの再モデル化および真皮の回復が生じる。
【0063】
このようにして、注射後の即時メカニカルな充填および最終的な細胞再生がある。したがって充填剤の濃度を低下させることは、処置の間に想定することができる。実際に線維芽細胞の成長がいったん優勢になると、メカニカルな充填剤はあまり必要なくなり、実際には充填剤の量を減少させることができる。
【0064】
さらに、好ましい実施形態において、このような組成物は、これが真皮に天然に存在する構成要素から本質的に構成される限り、皮膚と完全に生体適合性である。このために皮膚の微小環境は乱されず、このようにして炎症またはアレルギー反応のリスクが低下する。さらにこのような生体模倣性および生体適合性培地によって、血清の存在下で刺激された線維芽細胞の成長が可能になることが示されている。このようにしてこれらが真皮注射のための特に好適な候補であるのは、真皮では血管新生が豊富であるためである。
【0065】
以下、添付図面を参照して、本発明を説明するが、以下の実施の形態は限定を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る線維芽細胞成長培地および成長因子を含まないDMEM標準培地(Sigma)におけるヒト線維芽細胞の比較成長を示す。
【図2】健常皮膚の、UV照射によって改変されたおよび本発明に係る線維芽細胞成長培地による処置後の皮膚の表層および中層真皮におけるコラーゲン濃度を表す。
【図3】健常皮膚、照射によって改変されたおよび本発明に係る線維芽細胞成長培地による処置後の皮膚におけるコラーゲン線維の染色を示す組織学的断面からなる。
【図4】健常皮膚、次にUV照射によって改変されたおよび次に本発明に係る線維芽細胞成長培地による処置後の皮膚におけるエラスチンの量を示す。
【図5】健常皮膚、照射によって改変されたおよび次に本発明に係る線維芽細胞成長培地による処置後の皮膚におけるエラスチン線維の染色を示す組織学的断面からなる。
【図6】健常皮膚の、UV照射によって改変されたおよび本発明に係る線維芽細胞成長培地による処置後の皮膚の表層および中層真皮におけるGAGの濃度を示す。
【図7】健常皮膚、UV照射によって改変されたおよび本発明に係る線維芽細胞成長培地による処置後の皮膚におけるGAGの染色を示す組織学的断面からなる。
【実施例】
【0067】
1.注射用組成物での線維芽細胞成長培地の使用:
a)培地の組成
【0068】
【表2A】
【表2B】
【0069】
b)ヒト線維芽細胞培養
<プロトコル>
FCS(ウシ胎仔血清)細胞成長因子を添加したDMEM標準培養培地中の96ウェルプレートに、ヒト線維芽細胞を低密度で播種した。
24時間後、細胞を本発明に係る純粋培地または成長因子を含まないDMEM標準培地で培養した。
培地は実験中に更新されない。
生細胞の密度はT0にて、次に2、4、7および9日後に比色法(WST−1試薬)を使用して決定した。
【0070】
<結果>
本発明に係る培養培地のみが9日間の期間にわたって線維芽細胞の成長を維持した。第7日から細胞成長の低速化が観察され、このことは培地が更新されなかったという事実によって説明することができる(図1)。
FCSを含まないDMEMにおいて、細胞生存能の低下は2日後に見られ、試験を通じて細胞成長はなかった(図1)。
【0071】
結論として、本発明によって使用された線維芽成長培地が、外因性成長因子の非存在下での正常ヒト線維芽細胞の生存を可能にして、これの成長を刺激することがわかる。
【0072】
c)真皮構成要素の修復の補助
<プロトコル>
皮膚断片を8名のドナーから採取して、インサートに入れ、培養培地中に配置した。
低線量のUVA照射をD0およびD2に与えた(線維芽細胞代謝の低下、結合組織の巨大分子に対する改変)。
本発明に係る培地をD3からD14まで皮膚表面に添加した(含浸紙)。
照射なし(健常対照)または本発明に係る培地の適用なし(UVのみ)で負の対照を作製した。
組織学的検査(染色):
・コラーゲン(シリウスレッド)および弾性線維(カテキン)>表層および中層にて占有される面積のパーセンテージを評価した(コンピュータ支援画像解析)。
・グリコサミノグリカン(GAG)(ヘール染色)>半定量スコア(染色強度)。
生化学測定(分光比色):
・総コラーゲン:酵素消化および均質化後の皮膚の断片上。
・可溶性エラスチン:培養物上清中。
・GAG:均質化された皮膚の断片上。
【0073】
<結果>
UV照射後の表層および深層真皮のコラーゲンおよびエラスチンの量に有意な減少があった(図2から図5)。
本発明に係る培地を用いた処置後のコラーゲンおよびエラスチンの染色に統計的に有意な増加があった(図2から図5)。
線維芽細胞代謝は本発明に係る培地によって刺激され、エラスチン濃度の有意な上昇およびコラーゲンの増加する傾向があった(図2から図5)。
本発明に係る培地の適用後に真皮におけるGAG総量の有意で大幅な増加があった(図6および図7)。
本モデルによって、組織学的断面での線維芽細胞の結合組織に対する修復特性を定量することが可能となった。
【0074】
結論として、組織が改変されているときに本培地が真皮の必須構成要素(コラーゲン線維、エラスチン、GAG)の修復および回復を刺激することが明らかである。
【0075】
2.しわ処置のための注射用ゲルの調製:
線維芽細胞培地。
HAは、総組成の3重量%まで添加される。好ましくは、表層しわの処置には0.8%、中層しわの処置には1.6%および深層しわの処置には2%。
ゲルの処方:HAを線維芽細胞培養培地に溶解させる。HA濃度は最終調製物の濃度を決定する。例として、使用されるHAは分子量1.3から1.8MDaを有するヒアルロン酸ナトリウムである。本発明に係る注射用ゲルはいずれの添加剤も含まず、処方のすべての構成要素は賦形剤および活性成分の両方として作用する。
滅菌:線維芽細胞成長培地では0.2μm膜濾過により、および当業者に公知のプロセスを使用するHAの個別滅菌による。
注射プロトコル:処置される範囲およびしわの深さに応じて、1回以上のセッションが想定されている。結果を維持するために、6カ月間隔で手順を反復することが必要であり得て、しわの充填がより長続きすれば、皮膚はより若くなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸デキストラン、エラスチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、シリコーンまたはポリウレタンゲルの充填剤と、
線維芽細胞成長培地と
を備える皮下注射用または皮内注射用組成物であって、
前記線維芽細胞成長培地は、追跡されていない及び/又は組成が決定されていないいずれの細胞成長因子およびいずれの動物または細胞起源の生体抽出物も含有するものではない組成物。
【請求項2】
前記充填剤と前記線維芽細胞成長培地とで構成されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物がゲルの形であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記充填剤がヒアルロン酸またはその塩の1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記充填剤、有利にはヒアルロン酸が、前記組成物の0.07から3重量%を構成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記線維芽細胞培養培地が皮膚構成要素からなり、および有利にはミルクペプチド(MPC)の混合物によって強化されること特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記線維芽細胞培養培地が、
核酸の構成要素、
アミノ酸、
単糖および複合糖、
ビタミン、および
微量元素および無機塩を含有する無機画分
を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物を含有する注射器キット。
【請求項9】
しわ、細線、皮膚陥凹および/または瘢痕に使用するための請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物または請求項8に記載のキット。
【請求項10】
皮膚加齢を予防または処置することを目的とした医薬品を調製するための請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項11】
少なくとも請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物の注射を含むしわ及び/又は細線を充填するための化粧プロセス。
【請求項12】
しわ、細線、皮膚陥凹および/または瘢痕の予防または処置のための同時もしくは個別使用または時間差使用のための組合せ生成物としての請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項1】
硫酸デキストラン、エラスチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、シリコーンまたはポリウレタンゲルの充填剤と、
線維芽細胞成長培地と
を備える皮下注射用または皮内注射用組成物であって、
前記線維芽細胞成長培地は、追跡されていない及び/又は組成が決定されていないいずれの細胞成長因子およびいずれの動物または細胞起源の生体抽出物も含有するものではない組成物。
【請求項2】
前記充填剤と前記線維芽細胞成長培地とで構成されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物がゲルの形であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記充填剤がヒアルロン酸またはその塩の1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記充填剤、有利にはヒアルロン酸が、前記組成物の0.07から3重量%を構成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記線維芽細胞培養培地が皮膚構成要素からなり、および有利にはミルクペプチド(MPC)の混合物によって強化されること特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記線維芽細胞培養培地が、
核酸の構成要素、
アミノ酸、
単糖および複合糖、
ビタミン、および
微量元素および無機塩を含有する無機画分
を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物を含有する注射器キット。
【請求項9】
しわ、細線、皮膚陥凹および/または瘢痕に使用するための請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物または請求項8に記載のキット。
【請求項10】
皮膚加齢を予防または処置することを目的とした医薬品を調製するための請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項11】
少なくとも請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物の注射を含むしわ及び/又は細線を充填するための化粧プロセス。
【請求項12】
しわ、細線、皮膚陥凹および/または瘢痕の予防または処置のための同時もしくは個別使用または時間差使用のための組合せ生成物としての請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公表番号】特表2013−500315(P2013−500315A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522208(P2012−522208)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051421
【国際公開番号】WO2011/015744
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(505247627)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051421
【国際公開番号】WO2011/015744
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(505247627)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]