説明

充填断熱工法用の断熱材

【課題】本発明は、構造の簡素化を可能にした充填断熱工法用の断熱材を提供する。
【解決手段】フェノールフォームを基材とする断熱部Fは、展延性や弾性に乏しく比較的脆性が低いので、搬送中や施工中に欠けが発生し易い。このような断熱部Fを充填断熱工法に適用させるために、断熱部Fの上下左右の各端面3a,3b,3c,3dを、断熱部Fの両面のうちの一方の平面Faから他方の平面Fbにかけて厚さR方向で斜めにカットされた傾斜面として形成している。これによって、カット分だけ、断熱部Fの一方の平面Faが広く、他方の平面Fbが狭くなっている。さらに、幅の広い側の平面Faには、断熱部Fの傾斜面3a,3b,3c,3dの近傍で、断熱部Fの辺f1,f2,f3,f4に沿って延在する2本のスリット11,12がそれぞれ形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノールフォームからなる断熱部を充填断熱工法に適用させるようにした断熱材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軸組の柱と柱との間に断熱材を嵌め込む工法、いわゆる充填断熱工法にあっては、断熱材を、柱の間の寸法と同じ寸法に加工する必要がある。そして、板状の硬質断熱材を利用する場合、この寸法が僅かでも異なると、断熱材と柱との間に隙間が発生したり、場合によっては、柱間に断熱材を嵌め込むことができなかったり、無理に嵌め込んで断熱材が割れてしまうことがあった。そこで、特開2010−144363号公報に記載されているように、硬質断熱材の片面には繊維集積体が貼り付けられ、この繊維集積体の縁を硬質断熱材の端から1mm以上はみ出すようにする。この繊維集積体は、弾性変形し易く、このような繊維集積体をもった断熱材は、繊維集積体が柱に密着することで、柱との隙間を埋めることができ、柱間の寸法のバラツキを吸収することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−144363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来の充填断熱工法用の断熱材は、繊維集積体を必要とするので、構造が複雑化し、それに伴って、硬質断熱材と繊維集積体との接着作業も必要となり、接着部分に劣化が起ると、この部分に隙間が発生する虞もある。
【0005】
本発明は、構造の簡素化を可能にした充填断熱工法用の断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軸組材の間の空洞S内に配置される充填断熱工法用の断熱材において、フェノールフォームからなる断熱部の端面は、断熱部の両平面のうちの一方の平面から他方の平面にかけて厚さ方向で斜めにカットされた傾斜面として形成され、一方の平面には、断熱部の傾斜面の近傍で、断熱部の辺に沿って延在するスリットが形成されていることを特徴とする。
【0007】
フェノールフォームを基材とする断熱材は、展延性や弾性に乏しく比較的脆性が低いので、搬送中や施工中に欠けが発生し易く、充填断熱工法に適用し難いものであった。そこで、本発明に係る断熱材では、フェノールフォームからなる断熱部の端面を、断熱部の両平面のうちの一方の平面から他方の平面にかけて厚さ方向で斜めにカットされた傾斜面として形成している。これによって、カット分だけ、断熱部の一方の平面が広く、他方の平面が狭くなっている。従って、軸組材の間の空洞に寸法誤差があっても、軸組材の間の空洞内に断熱材を確実に嵌め込むことができる。この場合、断熱材の広い側の平面を、手などで押すようにして作業すると、傾斜面が、軸組材(柱や梁など)で押し潰されながら密着し、軸組材と断熱材との隙間を無くすことができ、これによって、気密性を確保することができる。その結果、隙間を湿った空気が流動することによって引き起こされる結露の発生を防止し、隙間の無い確実な断熱効果を期待することができる。しかも、本発明は、断熱部の端面を傾斜面にしたことに留まらず、幅の広い側の平面には、断熱部の傾斜面の近傍で、断熱部の辺に沿って延在するスリットが形成されている。これによって、展延性や弾性に乏しく比較的脆性が低い断熱部であっても、その傾斜面側を弾性変形させることが可能になり、軸組材の間の空洞に断熱材をスムーズに押し込むことができ、しかも、傾斜面と軸組材との間の密着性を容易に確保することができる。スリットの採用は、傾斜面の傾斜角度を大きくした場合でも、作業者に無理な押込み力を強いることがなくなるので、充填断熱工法の作業性を向上させることができる。また、本発明は、従来のように、繊維集積体などを利用することがないので、断熱材の構造の簡素化をも可能にしている。
【0008】
また、平行に延在する複本のスリットの深さは、断熱部の辺に近づくに連れて順に浅くなっていると好適である。
スリットが深くなって、スリットの底が傾斜面に近づけば近づく程、スリットを起点として、断熱材に割れや欠けが発生し易い。そこで、本発明では、平行に延在する複本のスリットの深さは、断熱部の辺に近い側から順に浅くなっているので、断熱部の端面のスリットによる弾性変形特性を確実に発揮させつつ、断熱材の割れや欠けの発生を適切に防止することができる。
【0009】
また、スリットの総計の幅は、傾斜面の最大カット幅と略一致させていると好適である。
このような構成を採用すると、寸法誤差に起因した寸法精度の許容範囲を容易に管理することができる。
【0010】
また、スリットの深さは、断熱部の厚さの2/3以下になっていると好適である。
このような値は、フェノールフォームが比較的脆性の低い特性を有していることを考慮して、スリットの底が他の平面に近づき過ぎて、スリットを起点として断熱材に割れや欠けが発生することを防止するのに最適な値である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構造の簡素化を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る充填断熱工法用の断熱材の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示された断熱材の断面図である。
【図3】軸組材の間に断熱材を充填する際に軸組材に断熱材が当接している状態を示す断面図である。
【図4】断熱材の傾斜面が弾性変形した状態を示す断面図である。
【図5】本発明に係る充填断熱工法用の断熱材の他の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る充填断熱工法用の断熱材の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1及び図2に示すように、断熱材1は、充填断熱工法に利用され、断熱部Fはフェノールフォームで形成され、このフェノールフォームとしては、本件出願人が開発して既に国際特許出願(特願2000−558158)済みのネオマ(登録商標)フォームがあり、断熱材として、また気密材として好ましく使用されている。
【0015】
このフェノールフォームは、比較的軟質な材料であり、この両平面Fa,Fbのうちの少なくとも片側の平面には、不織布やアルミ箔からなる変形可能な面材2が接着されている。このような面材2は、接着剤がフェノールフォームに吸収されることを回避させ、ボードなどの壁に対する接着性能を向上させ、特に、アルミ箔や特殊な処理が施された不織布は、不燃材としての機能も有する。
【0016】
フェノールフォームを基材とする断熱部Fは、展延性や弾性に乏しく比較的脆性が低いので、搬送中や施工中に欠けが発生し易い。このような断熱部Fを充填断熱工法に適用させるために、平面視で矩形をなす断熱部Fの上下左右の各端面3a,3b,3c,3dを、断熱部Fの両面のうちの一方の平面Faから他方の平面Fbにかけて厚さR方向で斜めにカットされた傾斜面として形成している。これによって、カット分だけ、断熱部Fの一方の平面Faが広く、他方の平面Fbが狭くなっている。例えば、断熱部Fの厚さRが40mm〜60mmの場合には、最大カット幅Cは、5mmが最適である。
【0017】
従って、図3に示すように、柱や梁などの軸組材10に固定された耐力面板(例えば合板)13に突き当てるように、建物の内側から断熱材1を軸組材10の間の空洞Sに嵌め込むにあたって、軸組材10の間の空洞Sに寸法誤差があっても、軸組材10の間の空洞S内に断熱材1を確実に嵌め込むことができる。この場合、断熱材1の広い側の平面Faを、手などで押すようにして作業すると、傾斜面3a,3bが、軸組材10で押し潰されながら密着し、軸組材10と断熱材1との隙間を無くすことができ、これによって、気密性を確保することができる。その結果、隙間を湿った空気が流動することによって引き起こされる結露の発生を防止し、隙間の無い確実な断熱効果を期待することができる。なお、図示しないが、傾斜面3c,3dも同様である。
【0018】
しかも、図1及び図2に示すように、断熱部Fの端面3a,3b,3c,3dが傾斜面になっていることに留まらず、幅の広い側の平面Faには、断熱部Fの傾斜面3a,3b,3c,3dの近傍で、断熱部Fの辺f1,f2,f3,f4に沿って延在する2本のスリット11,12がそれぞれ形成されている。そして、平行に延在する2本のスリット11,12の深さは、断熱部Fの辺f1,f2,f3,f4に近づくに連れて順に浅くなっている。すなわち、スリット12に対してスリット11が浅くなっている。
【0019】
スリット11が深くなって、スリット11の底が傾斜面3a,3b,3c,3dに近づけば近づく程、スリット11を起点として、断熱材1に割れや欠けが発生し易い。そこで、平行に延在する2本のスリット11,12の深さは、断熱部Fの辺f1,f2,f3,f4に近い側から順に浅くなっているので、断熱部Fの傾斜面3a,3b,3c,3dのスリット11,12による弾性変形特性(図4参照)を確実に発揮させつつ、断熱材1の割れや欠けの発生を適切に防止することができる。
【0020】
スリット11の幅H1とスリット12の幅H2との総計の幅(H1+H2)は、傾斜面3aの最大カット幅Cと略一致させている。なお、傾斜面3b,3c,3dについても同様である。このような構成を採用すると、寸法誤差に起因した寸法精度の許容範囲を容易に管理することができる。
【0021】
スリット11,12の深さは、断熱部Fの厚さRの2/3以下になっている。そして、スリット11は、スリット12の略半分の深さになっている。このような値は、フェノールフォームが比較的脆性の低い特性を有していることを考慮して、スリット11,12の底が他の平面Fbに近づき過ぎて、スリット11,12を起点として断熱材1に割れや欠けが発生することを防止するのに最適な値である。
【0022】
このようなスリット11,12の採用により、展延性や弾性に乏しく比較的脆性が低い断熱部Fであっても、図4に示すように、力Pによって、その傾斜面3a,3b,3c,3d側を弾性変形させることが可能になり、軸組材10の間の空洞Sに断熱材1をスムーズに押し込むことができ、しかも、傾斜面3a,3b,3c,3dと軸組材10との間の密着性を容易に確保することができる。
【0023】
このようなスリット11,12の採用は、傾斜面3a,3b,3c,3dの傾斜角度を大きくした場合でも、作業者に無理な押込み力を強いることがなくなるので、充填断熱工法の作業性を向上させることができる。また、この断熱材1は、繊維集積体などを利用することがないので、構造の簡素化をも可能にしている。
【0024】
本発明は、前述した実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0025】
例えば、なお、スリット11,12は、2本に限定されず、1本以上であればよい。スリット11,12は、断熱部Fの辺f1,f2,f3,f4のうちの少なくとも1辺に形成されていればよい。
【0026】
図5に示すように、断熱材1Aは、断面V字形状のスリット11A,12Aを有している。スリット11A,12Aをこのような形状にすることで、力P(図4参照)によって、スリット11A,12Aが完全に潰れるような弾性変形が可能になり、軸組材10の間の空洞Sに断熱材1を更にスムーズに押し込むことができる。
【符号の説明】
【0027】
1,1A…断熱材、3a,3b,3c,3d…傾斜面(端面)、11,11A,12,12A…スリット、10…軸組材、F…断熱部、Fa,Fb…平面、C…最大カット幅、f1,f2,f3,f4…辺、H1,H2…スリットの幅、S…空洞。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸組材の間の空洞内に配置される充填断熱工法用の断熱材において、
フェノールフォームからなる断熱部の端面は、前記断熱部の両平面のうちの一方の平面から他方の平面にかけて厚さ方向で斜めにカットされた傾斜面として形成され、前記一方の平面には、前記断熱部の前記傾斜面の近傍で、前記断熱部の辺に沿って延在するスリットが形成されていることを特徴とする充填断熱工法用の断熱材。
【請求項2】
平行に延在する複本の前記スリットの深さは、前記断熱部の前記辺に近づくに連れて順に浅くなっていることを特徴とする請求項1記載の充填断熱工法用の断熱材。
【請求項3】
前記スリットの総計の幅は、前記傾斜面の最大カット幅と略一致させていることを特徴とする請求項1又は2記載の充填断熱工法用の断熱材。
【請求項4】
前記スリットの深さは、前記断熱部の厚さの2/3以下になっていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の充填断熱工法用の断熱材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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