説明

充水機能を備えたバタフライ弁

【課題】弁箱シールリングをディスクテール部との圧接時に止水性の保持し、操作トルクの低減しつつ、弁箱シールリングの寿命の向上を図る。
【解決手段】弁箱内に内周面に弁箱シールリング3が設けられ、弁箱内の流路を開閉する弁体が設けられ、上記弁体の外周に弁開方向における上記弁体の背面側に形成された一対のディスクテール部11a,11bが設けられ、上記一対のディスクテール部11a,11bは、上記弁体の微小開度において上記弁箱シールリング3に圧接する球面状に湾曲した外周面を有し、少なくとも一方のディスクテール部11に、一端が外周面に開口するとともに他端が弁体の上記背面側に開口する通水孔12が形成された充水機能を備えたバタフライ弁において、上記ディスクテール部11a,11bの少なくとも一方の外周面に凹部13が設けられたことを特徴とする充水機能を備えたバタフライ弁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管への充水時に定流量で流体を供給する充水機能を有するバタフライ弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、バタフライ弁の弁本体に外周面が球面状をなすディスクテール部を設け、ディスクテール部の厚み方向を貫通した通水孔を形成したものがある。このバタフライ弁は通水孔から一定流量を下流の配管に流すことによって、配管の敷設直後の初期充水時および再充水時において、急激な充水によるウォーターハンマーが配管を破損することを防止している。さらに、一定の流量を正確に供給して下流の配管が水で満たされる状態になるまでに必要な時間を予め算出することができる。(特許文献1)
【0003】
一方、弁体が微小開度のとき、ディスクテール部の外周面は弁箱内周面に設けた弁箱シールリングに圧接するため、弁体を回動する際に操作トルクが発生する。この操作トルクが大きいと、微小開度を調整する際に目標とする開度を行き過ぎ、過大な流量の水を流すことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−329148
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、操作トルク低減のため、ゴムなどの弾性体からなる弁箱シールリングの内周面に凹凸を設けて、凸部を変形させることで押圧力を低減し、それに伴う操作トルクの低減を行うことができる。しかしながら、弁箱シールリングに凹凸を設けると、凸部に局部的な変形が発生し、これが繰り返されると弁箱シールリングの材料であるゴムなどの弾性体に損傷、劣化が発生しやすくなるため、弁箱シールリングの寿命の低下をもたらす虞があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、ディスクテール部と弁箱シールリングの圧接時に、回動時の操作トルクを低減することによって操作性を向上させつつ、弁箱シールリングの寿命の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明は、弁箱内の内周面に弁箱シールリングが設けられ、弁箱内の流路を開閉する弁体が設けられ、上記弁体の外周に弁開方向における上記弁体の背面側に形成された一対のディスクテール部が設けられ、上記一対のディスクテール部は、上記弁体の微小開度において上記弁箱シールリングに圧接するように湾曲した外周面を有し、少なくとも一方のディスクテール部に、一端が外周面に開口するとともに他端が弁体の上記背面側に開口する通水孔が形成された充水機能を備えたバタフライ弁において、上記ディスクテール部の少なくとも一方の外周面に凹部が設けられたところにある。
【0008】
これによると、ディスクテール部の外周面に凹部を設けたので弁箱シールリングの変形量が減少し、押圧力の低下に伴い弁体の操作トルクが低減されるため、弁の操作性が向上する。
【0009】
さらに、凹部に対して相対的に径外方向に突き出ている部分がディスクテール部に存在することになり、弁箱シールリングにはこのような部分がないため、弁箱シールリングに局所的な変形が発生せず、弁箱シールリングの寿命が向上する。
【0010】
本第2発明は、上記凹部は上記ディスクテール部の外周面のほぼ全領域に亘って設けられているものである。
【0011】
本第2発明によると、ディスクテール部の外周面のほぼ全領域に凹部が設けられているので、弁箱シールリングの変形量がさらに減少し、押圧力の低下に伴う弁体の操作トルクの低減によって、弁の操作性が向上する。
【0012】
本第3発明は、上記ディスクテール部が上記弁箱シールリングに圧接する際に、凹部にも圧接するものである。
【0013】
本第3発明によると、弁箱シールリングがディスクテール部の凹部にも圧接するので、止水性が向上する。
【0014】
本第4発明は、上記凹部は条溝であるものである。
【0015】
本第4発明によると、条溝を切削工具によって形成できるので、機械加工性が向上する。
【0016】
本第5発明は、上記条溝の長手方向は弁体のほぼ円周方向であることである。
【0017】
本第5発明によると、ほぼ弁体シール部に沿って機械加工することによって条溝を形成できるので、機械加工性が向上する。
【0018】
本第6発明は、上記弁箱シールリングの内周面の変形可能な曲率より上記条溝の各点での曲率の方が小さいものである。
【0019】
本第6発明によると、弁箱シールリングが条溝の底部に確実に圧接するので、止水性が向上する。
【0020】
本第7発明は、上記条溝は複数あり、隣り合う上記条溝の間のピッチより上記弁箱シールリングの上記ディスクテール部との圧接幅が大きいものである。
【0021】
本第7発明によると、弁箱シールリングが少なくともひとつの条溝と圧接するので、止水性が向上する。
【0022】
本第8発明は、上記条溝の幅方向の端部が連結してなるものである。
【0023】
本第8発明は、条溝に対して突き出ている部分の面積やその高さを小さくすることができるため、弁箱シールリングの変形量が減少し、押圧力の低下に伴う弁体の操作トルクの低減によって、弁の操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本件発明の第1の実施の形態におけるバタフライ弁の全閉状態の断面図である。
【図2】同バタフライ弁の弁体の断面図である。
【図3】同バタフライ弁の弁体の側面図である。
【図4】同バタフライ弁の微小開度での断面図である。
【図5】同バタフライ弁の弁体の上面図である。
【図6】同バタフライ弁のディスクテール部を通水孔が見える方向から見た図である。
【図7】同バタフライ弁のディスクテール部と弁箱シールリングの圧接状況の断面の拡大図である。
【図8】同バタフライ弁のディスクテール部の外周面の条溝の幅方向の断面形状の拡大図である。
【図9】同バタフライ弁の変形例であるディスクテール部の外周面の条溝の幅方向の断面形状の拡大図である。
【図10】(a)は同バタフライ弁の変形例であるディスクテール部の外周面に設けた条溝(傾き20°)の図である。(b)は同バタフライ弁の変形例であるディスクテール部の外周面に設けた条溝(交差した例)の図である。
【図11】本件発明の第2の実施の形態におけるバタフライ弁の全閉状態の断面図である。
【図12】同バタフライ弁の弁体の平面図である。
【図13】同バタフライ弁の弁体の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施の形態)
以下、本発明における第1の実施の形態を図1〜図10に基づいて説明する。1はバタフライ弁であり、その弁箱2は両側のポート(図示省略)に上流側配管(図示省略)と下流側配管(図示省略)とが接続されている。
【0026】
図1〜4に示すように、弁箱2内にはゴムなどの弾性体からなる円環状の弁箱シールリング3が内周面に沿って設けられている。ここで、後述するように、ディスクテール部11a、11bの外周面には、複数の条溝16(凹部13)が設けられているが、図1〜4では省略している。弁体6は弁箱2内を通る流路軸心4に直交する回転軸心5回りに回転する。弁体6には、回転軸心5と同心の一対の弁棒7が回転軸心5方向の両側に振り分けられて挿入されている。一方の弁棒7の一側の端部は弁体6に固定され、他側の端部は弁箱2を貫通し、手動ハンドルや減速機付きモータ等の駆動装置(図示省略)に連結され、弁棒7を回転して弁体6を開閉する。
【0027】
弁体6は、内部が中空の円盤で外周が板状である弁体片8と、その外端縁に設けられた弁体シール部9とで構成されている。弁体6が流路を完全に閉めた位置(全閉位置)Sにおいて、弁体シール部9が弁箱シールリング3に圧力がかかって接する(圧接する)ことにより、弁箱シールリング3が弾性変形する結果、流路方向に幅(圧接幅)をもって弁体6の上流側の水を下流側に流さない、すなわち止水することができる。
【0028】
弁棒7は、図3に示すように、弁体片8に設けられた一対の円筒状のボス部10に挿通され、固定されて一体的に連結される。また、弁棒7は、弁箱2との間の水の漏れを防止する軸封部材(図示省略)、および軸受部材(図示省略)を介して弁箱2に回転自在に保持されている。図2に示すように、弁体シール部9を含む平面内に回転軸心5があり、一対のボス部10は回転軸心5の線上に配置されている。弁体6はボス部10を中心として、弁体6を開く(弁開)方向に回転させる(弁開操作)時に上流側にある一方の片側半分の弁体半片8aと、下流側にある他方の片側半分の弁体半片8bから構成されている。
【0029】
図1、4に示すように、弁体半片8aの弁体シール部9には、弁体6の弁開操作時の回転方向(弁開方向)において弁体6の背面側、すなわち弁体6の下流側に扇状に形成されたディスクテール部11aが設けられている。弁体半片8bの弁体シール部9には、弁体6の弁開方向おいて弁体6の背面側、すなわち弁体6の上流側に扇状に形成されたディスクテール部11bが設けられている。このディスクテール部11は弁体シール部9と一体的に鋳造されるか、弁体シール部9に溶接によって固定されている。なお、ディスクテール部11の弁体6側の端面に台座を設け(図示省略)、弁体6と別体で製造し、ボルトなどの締結手段でこの台座と弁体を締結することで、ディスクテール部11を弁体6に固定してもよい。
【0030】
これらディスクテール部11の外周面は弁箱シールリング3に圧接するように弁棒7の回転軸心5と流路軸心4の交点を中心として球面状に湾曲している。弁体6と圧接していない状態のときの弁箱シールリング3の内径の半径をRとすると、ディスクテール部11の外周面は弁箱シールリング3の内周面と圧接するため、半径がRよりやや大きい(ほぼ半径がRの)球面である。なお、全閉時の止水性を向上させるために、弁体シール部9の外径をディスクテール部11の外径よりやや大きくすることがある。
【0031】
図6は、図5に示すディスクテール部11と弁体シール部9の部分を抜き出したものである。図6において、ディスクテール部11の外表面に弁体シール部9に平行な線は、条溝17(凹部13)に対して相対的に径外方向に突き出た部分である凸条17を表し、その間に条溝16が存在する。この条溝16は、弁体シール部9を含む平面を水平にし、弁体シール部9の中心を通る法線からなる軸の回りに、ア)弁体6を回転させて切削工具で機械加工するか、または、イ)切削工具を回転させて機械加工することによって設けることができる。このとき、条溝16の長手方向は弁体シール部9を含む平面すなわち弁体6と平行になる。条溝16と幅方向に隣り合う条溝16との端部は連結して凸条17を形成する。また、条溝16は、ディスクテール部11の外周面のほぼ全領域に設けられる。
【0032】
両ディスクテール部11の両方またはいずれか一方に、一端が外周面に開口するとともに他端が内周面すなわち弁開操作時の弁体6の背面側に開口する通水孔12が貫通している。通水孔12は、弁体6の周方向に沿って細長い長円状であり、弁体シール部9に隣接している。
【0033】
図4に示すように、弁開操作時に上流側に回転して動く(回動する)ディスクテール部11aに設けられた通水孔12は、ディスクテール部11aの外周面側の開口が流入口12aとなり、内周面側の開口が流出口12bとなる。また、弁開操作時に下流側に回動する他方のディスクテール部11bの通水孔12は、ディスクテール部11bの内周面側の開口が流入口12cとなり、外周面側の開口が流出口12dとなる。弁開操作時に上流側に回動するディスクテール部11aのみに通水孔12を設け、上流側に回動するディスクテール部11bには通水孔12を設けない場合は、流出口12bがディスクテール部11aの内周面側になり、弁箱2の内周面に水流が当たらない。そのため、水流の圧力差により泡の発生と消滅が起こるいわゆるキャビテーションが弁箱2の内周面に発生せず、キャビテーションによる弁箱2の内周面の腐食を防止できる。
【0034】
上記構成における作用を説明する。配管の敷設直後は、上流側は配管内に水が満ちている(満管)状態、下流側は水がない状態である。弁体6は図1に示すように全閉位置Sにあり、弁体シール部9が弁箱シールリング3に圧接して、弁体6の上流側と下流側とが止水されている。
【0035】
満管状態である上流側から水のない下流側の配管に水を流す(充水する)場合において、図4に示すように、弁体6が流路を完全に閉じた全閉状態から、弁体6を弁棒7回りに微小な角度(微小開度)だけ弁開する。このとき、両ディスクテール部11の外周面が弁箱シールリング3に圧接する。通水孔12が開いた(開口した)状態となり、弁体6を介した弁箱2内の上流側領域と下流側領域は通水孔12によってのみ通じる。上流側の配管から弁箱2内に流入する水が通水孔12のみを通って下流側の配管へ充水される。なお、ディスクテール部11の外周面が弁箱シールリング3に圧接できる弁体6の所定回転角度の範囲において、通水孔12の開口した状態が維持される。
【0036】
通水孔12の水流の方向に垂直な断面の面積(開口面積)は、弁体6が完全に開いた状態(全開状態)での配管の流路面積の20〜30分の1と小さい。このため、急激な充水によって水流の有する慣性から生じる衝撃的な水圧上昇(ウォーターハンマー)が発生することがなく、配管の継手部材、曲がり部材などが破損することが防止できる。
【0037】
上流側の配管の水圧は定まっているので、通水孔12を流れる流量は通水孔12の開口面積に応じて決まる。そのため、定流量で下流側の配管へ充水することができ、充水開始から満管状態になるまでの必要時間(所要時間)を予め正確に算出することができる。このことで、配管工事全体の工期の予想の精度が向上する。
【0038】
充水する機能を備えない、つまり通水孔12を有するディスクテール部11を備えない一般のバタフライ弁では、弁体6を開閉操作するとき、弁棒7と軸封部材(図示省略)および軸受部材(図示省略)の間の摩擦力に起因して、弁棒7の回転軸心5の回りに操作トルクが発生する。
【0039】
本発明における充水機能を有するバタフライ弁には、この操作トルクに加えて、ディスクテール部11が弁箱シールリング3に圧接するときに、ディスクテール部11が弁箱シールリング3から押圧力を受け、押圧力に起因する摩擦力に起因する操作トルクが発生する。この摩擦力に起因する操作トルクは押圧力が小さいほど、つまり弁箱シールリング3の圧接時の変形量、すなわち、押圧の有無による弁箱シールリング3の径方向の高さの差が少ないほど小さくなる。
【0040】
図7はディスクテール部11a、11bと弁箱シールリング3の圧接状況の断面を示したものである。図8は、図7におけるディスクテール部11a、11bの外周面の断面のみを図示したものである。なお、図8中の弁箱シールリング3は条溝16との大きさの比較のためだけに示したもので、弁箱シールリング3とディスクテール部11a、11bの外周面とが圧接した図にはなっておらず、実施の形態とは異なる。ディスクテール部11の外周面に幅方向が丸みを帯びた曲線(曲面)である複数の条溝16(凹部13)が設けられ、隣り合う条溝16同士の端部は連結して、凸条17とその先端の頂部18を形成している。
【0041】
条溝16では弁箱シールリング3の変形量が減少する。押圧力は、ディスクテール部11の外表面において周囲より突き出た凸条17(凸部14)での変形および条溝16での変形のトータルの変形量による。このため、条溝16が存在することでディスクテール部11の全体としての押圧力が低減され、操作トルクが減少する。また、隣り合う条溝16同士の端部が連結して凸条17を形成するので、凸条17の条溝16に対する高さが小さくなり、弁箱シールリングの変形量が減少し、押圧力の低下に伴う弁体の操作トルクが低減される。条溝16はディスクテール部11の外周面のほぼ全領域に設けられているので、さらにこの効果が高い。また、弁体の開度によらず弁箱シールリングとディスクテール部との操作トルクが一定になる。
【0042】
図7に示すように、弁箱シールリング3の圧接時の変形量A、すなわち、押圧の有無による弁箱シールリング3の径方向の高さの差より、条溝16の深さDの方を浅くしている。さらに、弁箱シールリング3に変形しやすい材料を選択しているので、条溝16の底部15が弁箱シールリング3に接している。
【0043】
図6に示すように、ディスクテール部11と弁箱シールリング3の圧接部分は、弁棒7の回転軸心5を含む平面とディスクテール部11の外周面との交線(接触大円19)である。条溝16の底部15と弁箱シールリング3とが圧接するので、その圧接部分が条溝16、凸条17の長手方向が接触大円19上になくても、つまり、その圧接部分が条溝16、凸条17の長手方向と交差していても、止水性は維持される。条溝16の長手方向が弁体シール部9を含む平面と平行であり、接触大円19と交差していても、止水性は保持できる。
【0044】
条溝16の長手方向と弁箱シールリング3の接触大円19とが一致するとき、ひとつの条溝16がすべて弁箱シールリング3に圧接するので止水性が高まる。このとき、弁箱シールリング3の変形量、すなわち、押圧の有無による弁箱シールリング3の流路の径方向の高さの差は、条溝16の長手方向と弁箱シールリング3の周方向とが一致しないときより小さくなるため、押圧力が減少し、操作トルクが低減されて、操作性が向上する。
【0045】
以上から、条溝16の長手方向が、弁体シール部9を含む平面と平行な方向、すなわち弁体6の円周方向およびそれに近い方向と、接触大円19の方向およびそれに近い方向、つまり、弁体6のほぼ円周方向である場合、止水性が保持される。
【0046】
図7に示す条溝16の寸法形状および弁箱シールリング3との取り合いは、たとえば、長手方向に直角の断面での半径r=25mm、深さD=0.24mm、ピッチP=4.56mm、弁箱シールリング3との圧接幅W=9.61mm、弁箱シールリング3の変形量A=1.04mmである。条溝16の深さD(0.24mm)より、弁箱シールリング3の変形量A(1.04mm)の方が大きいので、弁箱シールリング3が条溝16の底部15に圧接可能である。
【0047】
図9はディスクテール部11a、11bの条溝16の変形例で、ディスクテール部11a、11bの外周面の断面のみを図示したものである。なお、図中の弁箱シールリング3は条溝16との大きさの比較のためだけに示したもので、弁箱シールリング3とディスクテール部11a、11bの外周面とが圧接した図にはなっておらず、実施の形態とは異なる。図9(a)の条溝16の形状は、条溝16の底面が幅方向に平らで、相対的に径外方向に突き出た部分である凸条17の頂部18がとがっているものである。ディスクテール部11と弁箱シールリング3が圧接した場合、弁箱シールリング3が変形し、条溝16の平らな底面および凸条の頂部18に接触する。図9(b)の条溝16の形状は丸く、凸条の頂部18の先端もとがらずに丸いものである。ディスクテール部11と弁箱シールリング3が圧接した場合、丸い条溝16と丸い凸条17の頂部18の先端に接触する。凸条17の頂部18が丸いため、この部分で圧接する弁箱シールリング3の局所的な変形量が小さくなる。図9(c)の条溝16の幅Bより条溝16間のピッチPのほうが大きく、条溝16の形状は丸く、凸条17の頂部18は平らなものである。ディスクテール部11と弁箱シールリング3が圧接した場合、丸い条溝16と凸条17の平らな頂部18に接触する。
【0048】
ディスクテール部11と弁箱シールリング3の圧接時に圧接される部分(圧接部分)の流路方向の幅(圧接幅W)を増大させるために、弁箱シールリング3の材料として、変形する能力(変形能)が大きいゴムなどの弾性体が挙げられる。弁箱シールリング3の内周面の変形前の曲率と弾性体の変形能によって、弁箱シールリング3の曲率がディスクテール部11の条溝16を形成する幅方向の各点(任意の位置)での曲率より大きくすることができる。そうすると、ディスクテール部11の条溝16の形状に倣って弁箱シールリング3が変形し、条溝16に圧接させることができる。その結果、上流側から下流側の圧接幅Wを増大させることが可能になり、止水性が向上する。条溝16と隣り合う条溝16の間のピッチPが、ディスクテール部11と弁箱シールリング3の圧接幅Wより狭くなっている場合は、弁箱シールリング3が少なくともひとつの条溝16と圧接することができるため、止水性が向上する。
【0049】
実際の設計では、弁箱シールリング3の曲率がディスクテール部11の条溝16を形成する各点での曲率より大きくなるように、弁箱シールリング3の内周面の変形前の曲率の決定と必要な変形能を有する弁箱シールリング3の弾性体の選定を行う。弁箱シールリング3の外周面が変形できる曲率より、条溝16を形成する各点での曲率の方が小さければどのような形状であってもよい。なお、条溝16が流路方向の全てで弁箱シールリング3に圧接する必要はなく、流路方向に条溝16の一部が弁箱シールリング3に圧接していればよい。
【0050】
ディスクテール部11の外周面の機械加工の後、弁箱2に弁体6を組み込む前に、粉体塗装を行う。条溝16は必ずしも塗装前に存在していなければならないものではなく、塗装した後に存在していればよい。塗装前の条溝16の深さが塗装によって浅くなっても、塗装後に条溝16が存在すればよい。また、弁箱シールリング3と条溝16とが圧接できないほどに図8、図9(a)〜(c)に示す凸条の頂部18が突き出た形状の場合でも、塗装によって弁箱シールリング3と条溝16とが圧接するように、凸条の頂部18と条溝16との高さの差を小さくすることができる。
【0051】
図10(a)はディスクテール部11a、11bの外周面に接触大円19の一つである弁体シール部9を含む平面に平行でない(図では20°傾いている)条溝16および凸条17が設けられている。このように、たとえ条溝16の長手方向と接触大円19との交差する角度が20°であっても、さらには90°であっても、条溝16の底部と弁箱シールリング3とが圧接するので、条溝16が止水性は低下しない。図10(b)はディスクテール部11a、11bの外周面に接触大円19の一つである弁体シール部9を含む平面に平行でない条溝16および凸条17が網目状に設けられている。条溝16が網目状に互いに交差すると弁箱シールリング3の変形量はさらに小さくなるが、同様に止水性は低下しない。
【0052】
弁箱シールリング3に条溝16を設ける構造の従来の例では、弁箱シールリング3に凸条17を設けていたため、凸条17の変形量が大きく、弁箱シールリング3とディスクテール部11との圧接を繰り返すと、弁箱シールリング3の凸条17を構成する弾性材料が損傷、劣化がして寿命を低下させる虞があった。しかし、上述のように本発明では弁箱シールリング3がディスクテール部11の外表面の形状に追従するので、大きな変形が局所的に発生しない。そのため、弁箱シールリング3には損傷、劣化が発生しにくく、寿命の低下をもたらすことは少ない。
【0053】
(第2の実施の形態)
上記の説明は弁体シール部9を含む平面上に回転軸心5がある、いわゆる同心タイプの充水機能を備えたバタフライ弁について述べてきたが、弁体シール部9を含む平面上に回転軸心5がない偏心タイプのバタフライ弁についても同様に本発明が適用できる。同心タイプのバタフライ弁は、弁箱シールリング3がその円周方向に弁棒2によって2分割されるが、偏心タイプのバタフライ弁は弁箱シールリング3が分割されることがなく、止水性に優れる。以下に偏心タイプの充水機能を備えたバタフライ弁について述べる。
【0054】
弁体6は、円板状の弁体片8で構成されている。図11に示すように、全閉位置Sにおいて、弁体片8の外端縁に設けられた弁体シール部9が弁箱シールリング3に圧接することにより、弁箱シールリング3が弾性変形する結果、圧接幅をもって弁体6の上流側と下流側とが止水される。ここで、後述するように、ディスクテール部11a、11bの外周面には、条溝16、凸条17が設けられているが、図11では省略し、図12、図13に示す。
【0055】
弁棒7は、弁体片8に設けられた一対の円筒状のボス部10に挿通されて一体的に連結される。弁棒7の回転軸心5は弁体シール部9の外周を含む平面に含まれず、平行な位置にある。つまり、弁棒7の回転軸心5が弁体シール部9の外周を含む平面に対して偏心している。弁棒7は弁箱2に軸封部材(図示省略)および軸受部材(図示省略)を介して回転自在に保持されている。弁体6は弁棒7を中心として、弁体6の弁開操作時に上流側にある一方の片側半分の弁体半片8aと、下流側にある他方の片側半分の弁体半片8bから構成されている。
【0056】
図12、図13に示すように、弁体半片8aの弁体シール部9には、弁体6の弁開操作時の回転方向(弁開方向)において弁体6の背面側に扇状に形成されたディスクテール部11aが設けられている。また,弁体半片8bの弁体シール部9には、弁体6の弁開方向おいて弁体6の背面側に扇状に形成されたディスクテール部11bが設けられている。このディスクテール部11は弁体シール部9と一体的に鋳造されるか、溶接によって固定されている。なお、ディスクテール部11の弁体6側の端面に台座を設け(図示省略)、弁体6と別体で製造し、ボルトなどの締結手段でこの台座と弁体を締結することで、ディスクテール部11を弁体6に固定してもよい。
【0057】
これらディスクテール部11の外周面は弁箱シールリング3に圧接するように弁棒7の回転軸心5と流路軸心4の交点を中心とする球面状に湾曲している。弁体6と圧接していない状態のときの弁箱シールリング3の内径の半径をR、弁棒7の回転軸心5が弁体シール部9の外周を含む平面から偏心している量をeとすると、ディスクテール部11の外周面は弁箱シールリング3の内周面と圧接するため、ディスクテール部11の外周面は半径が√(R+e)よりやや大きい(ほぼ√(R+e)の)球面であり、同心のバタフライ弁のときのほぼRの球面より半径が大きい。なお、全閉時の止水性を向上させるために、弁体シール部9の外径をディスクテール部11の外径よりやや大きくすることがある。
【0058】
ディスクテール部11に設けられた通水孔12、条溝16(凹部13)、凸条17(凸条の頂部18)の構成、およびそれらの作用については、上述した同心タイプの充水機能を備えたバタフライ弁と同じである。
【0059】
(他の実施の形態)
以下に他の実施の形態を説明する。
(1)条溝16は両方のディスクテール部11a,11bであっても、ディスクテール部11a,11bのうちのいずれか一方であっても、同様に上述の効果が得られる。
(2)隣り合う条溝16間のピッチや溝の深さが全て同じ値でなくてもよい。
(3)条溝16の深さが長手方向に変化してもよい。凸条17の高さが長手方向に変化してもよい。
(4)凹部13の底部と相対的に径外方向に突き出た部分である凸部14の頂部との差(凹部13の深さ)がすべて同じ値でなくてもよい。
(5)図11に示す偏心タイプのバタフライ弁を、さらに弁棒3の回転軸心5を弁体シール部9の外周を含む平面に平行でかつ流路軸心4と交差しない位置に移動させた、いわゆる二重偏心バタフライ弁があるが、このバタフライ弁に設けたディスクテール部の外周面に本発明を適用してもよい。
(6)複数の凹部13が穴状で隣の凹部13とは連結せず孤立しているものであってもよい。これら凹部13はディスクテール部11の外表面をボール盤、フライス盤などで穴状に加工したものである。
(7)通水孔12の数は複数でもよく、また、ディスクテール部11の周方向に並ぶ構成であってもよい。さらに、形状は長円状に限らず円、矩形など通水が可能であればよい。
(8)通水孔12の開口面積は、ディスクテール部11の厚み方向外側に拡大、縮小など変化してもよい。
(9)条溝16は、ディスクテール部11の外周面のほぼ全領域に設けられていなくても良く、通水孔12の周囲など、ディスクテール部11の外周面の一部に設けられていても良い。
(10)実施の形態では、バタフライ弁1を流れる流体の一例として水を挙げたが、水以外の液体、または気体を流してもよい。
【0060】
なお、上述のように、図面との対象を便利にするために符号を付したが、この記入により本発明は添付した図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々な態様で実施しうることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
1 バタフライ弁
2 弁箱
3 弁箱シールリング
6 弁体
11 ディスクテール部
11a ディスクテール部(上流側)
11b ディスクテール部(下流側)
12 通水孔
13 凹部
16 条溝
W ディスクテール部と弁箱シールリングの圧接幅
P 条溝間のピッチ
D 条溝の深さ
A 弁箱シールリングの変形量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁箱内に内周面に弁箱シールリングが設けられ、
弁箱内の流路を開閉する弁体が設けられ、
上記弁体の外周に弁開方向における上記弁体の背面側に形成された一対のディスクテール部が設けられ、
上記一対のディスクテール部は、上記弁体の微小開度において上記弁箱シールリングに圧接するように湾曲した外周面を有し、
少なくとも一方のディスクテール部に、一端が外周面に開口するとともに他端が弁体の上記背面側に開口する通水孔が形成された
充水機能を備えたバタフライ弁において、
上記ディスクテール部の少なくとも一方の外周面に凹部が設けられた
ことを特徴とする充水機能を備えたバタフライ弁。
【請求項2】
上記凹部は上記ディスクテール部の外周面のほぼ全領域に亘って設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の充水機能を備えたバタフライ弁。
【請求項3】
上記ディスクテール部が上記弁箱シールリングに圧接する際に、凹部にも圧接する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の充水機能を備えたバタフライ弁。
【請求項4】
上記凹部は条溝である
請求項1〜3に記載の充水機能を備えたバタフライ弁。
【請求項5】
上記条溝の長手方向は弁体のほぼ円周方向である
請求項4に記載の充水機能を備えたバタフライ弁。
【請求項6】
上記弁箱シールリングの内周面の変形可能な曲率より上記条溝の各点での曲率の方が小さい
請求項4又は5に記載の充水機能を備えたバタフライ弁。
【請求項7】
上記条溝は複数あり、隣り合う上記条溝の間のピッチより上記弁箱シールリングの上記ディスクテール部との圧接幅が大きい
請求項4〜6に記載の充水機能を備えたバタフライ弁。
【請求項8】
上記条溝の幅方向の端部が連結してなる
請求項7に記載の充水機能を備えたバタフライ弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−145123(P2012−145123A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1588(P2011−1588)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】