説明

充電システムおよび充電器

【課題】充電器による充電状態の誤判定を防止してバッテリを適切に充電する。
【解決手段】充電器と電動車両とは充電ケーブルを介して接続される。充電器は、充電器側の供給電流Isと充電ケーブルの電気抵抗とに基づいて、充電ケーブルの電圧降下量ΔVaを算出する。また、充電器は、判定電圧Xbと充電器側の供給電圧Vsとを比較し、供給電圧Vsが判定電圧Xbに達したときに、バッテリが満充電状態まで充電されたと判定する。この満充電判定に用いられる判定電圧Xbは、予め設定される基礎判定電圧Xaに電圧降下量ΔVaを加算して更新される。これにより、充電ケーブルの電圧降下量ΔVaが考慮されるため、充電器側の供給電圧Vsを用いる場合であっても、電動車両に搭載されるバッテリの充電状態を精度良く判定することができ、バッテリを適切に充電することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電システムおよび充電器に関し、特に、充電器による蓄電デバイスの充電状態の誤判定を防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、動力源として電動モータを備える電動車両の開発が進められている。電動車両に搭載されるバッテリ等の蓄電デバイスを充電する際には、充電器から伸びる充電ケーブルが電動車両の充電口に接続される(例えば、特許文献1参照)。また、動力源としてエンジンおよび電動モータを備えるハイブリッド型の電動車両においても、充電器によって蓄電デバイスを充電可能とした所謂プラグイン方式のハイブリッド型電動車両が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−83670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、充電ケーブルは電気抵抗やインピーダンスを有することから、充電時には充電ケーブルにおいて電圧降下が発生することになる。すなわち、充電器側の供給電圧と電動車両側の受給電圧とが乖離することから、充電器側の供給電圧に基づき蓄電デバイスの充電判定を高精度に行うことは困難であった。これにより、蓄電デバイスの充電状態が充電器によって正確に認識されず、充電器による適切な充電制御が困難となっていた。
【0005】
本発明の目的は、充電器による蓄電デバイスの充電状態の誤判定を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の充電システムは、充電器と電動車両とを充電ケーブルを介して接続し、前記電動車両に搭載される蓄電デバイスを充電する充電システムであって、前記充電器側の供給電圧に所定のフィルタ処理を施して算出される供給電圧データに対し、前記供給電圧データの変化率に基づいて基準点を設定する第1基準設定手段と、前記電動車両側の受給電圧に所定のフィルタ処理を施して算出される受給電圧データに対し、前記受給電圧データの変化率に基づいて基準点を設定する第2基準設定手段と、前記供給電圧データと前記受給電圧データとの基準点に基づいて、前記供給電圧データと前記受給電圧データとを同期させるデータ同期手段と、同期させた前記供給電圧データと前記受給電圧データとを比較し、前記供給電圧と前記受給電圧との電圧差を算出する電圧差算出手段と、前記供給電圧と前記受給電圧との電圧差に基づいて、前記充電ケーブルの通電抵抗を算出する抵抗算出手段と、前記充電ケーブルの通電抵抗と前記充電器側の供給電流または前記電動車両側の受給電流とに基づいて、前記充電ケーブルの電圧降下量を算出する降下量算出手段と、前記電圧降下量に基づき更新される判定電圧と前記充電器側の供給電圧とを比較し、前記蓄電デバイスの充電状態を判定する充電判定手段とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の充電システムは、前記判定電圧は、所定の基礎判定電圧に前記電圧降下量を加算して更新されることを特徴とする。
【0008】
本発明の充電システムは、前記充電器は、前記供給電流を所定電流まで上昇させてから前記所定電流に保持する定電流充電を実施し、前記第1基準設定手段は、前記供給電流の上昇過程と保持過程とにおける前記供給電圧データの変化率の差を検出し、上昇過程から保持過程に切り替わる箇所の前記供給電圧データに基準点を設定し、前記第2基準設定手段は、前記供給電流の上昇過程と保持過程とにおける前記受給電圧データの変化率の差を検出し、上昇過程から保持過程に切り替わる箇所の前記受給電圧データに基準点を設定することを特徴とする。
【0009】
本発明の充電システムは、前記データ同期手段は、基準点に基づいて前記供給電圧データと前記受給電圧データとの間の時間遅れを算出し、時間遅れに基づいて前記供給電圧データと前記受給電圧データとを同期させることを特徴とする。
【0010】
本発明の充電器は、蓄電デバイスが搭載される電動車両に充電ケーブルを介して接続され、前記蓄電デバイスを充電する充電器であって、前記充電器側の供給電圧に所定のフィルタ処理を施して算出される供給電圧データに対し、前記供給電圧データの変化率に基づいて基準点を設定する第1基準設定手段と、前記電動車両側の受給電圧に所定のフィルタ処理を施して算出される受給電圧データに対し、前記受給電圧データの変化率に基づいて基準点を設定する第2基準設定手段と、前記供給電圧データと前記受給電圧データとの基準点に基づいて、前記供給電圧データと前記受給電圧データとを同期させるデータ同期手段と、同期させた前記供給電圧データと前記受給電圧データとを比較し、前記供給電圧と前記受給電圧との電圧差を算出する電圧差算出手段と、前記供給電圧と前記受給電圧との電圧差に基づいて、前記充電ケーブルの通電抵抗を算出する抵抗算出手段と、前記充電ケーブルの通電抵抗と前記充電器側の供給電流または前記電動車両側の受給電流とに基づいて、前記充電ケーブルの電圧降下量を算出する降下量算出手段と、前記電圧降下量に基づき更新される判定電圧と前記充電器側の供給電圧とを比較し、前記蓄電デバイスの充電状態を判定する充電判定手段とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の充電器は、前記判定電圧は、所定の基礎判定電圧に前記電圧降下量を加算して更新されることを特徴とする。
【0012】
本発明の充電器は、前記蓄電デバイスを充電する際に、前記供給電流を所定電流まで上昇させてから前記所定電流に保持する定電流充電手段を有し、前記第1基準設定手段は、前記供給電流の上昇過程と保持過程とにおける前記供給電圧データの変化率の差を検出し、上昇過程から保持過程に切り替わる箇所の前記供給電圧データに基準点を設定し、前記第2基準設定手段は、前記供給電流の上昇過程と保持過程とにおける前記受給電圧データの変化率の差を検出し、上昇過程から保持過程に切り替わる箇所の前記受給電圧データに基準点を設定することを特徴とする。
【0013】
本発明の充電器は、前記データ同期手段は、基準点に基づいて前記供給電圧データと前記受給電圧データとの間の時間遅れを算出し、時間遅れに基づいて前記供給電圧データと前記受給電圧データとを同期させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蓄電デバイスの充電状態を判定する際に充電器側の供給電圧と比較される判定電圧を、充電ケーブルの電圧降下量に基づき更新するようにしたので、充電ケーブルの影響を受けることなく、充電器の供給電圧に基づいて蓄電デバイスの充電状態を正確に判定することが可能となる。
【0015】
しかも、供給電圧データの変化率に基づいて供給電圧データに基準点を設定し、受給電圧データの変化率に基づいて受給電圧データに基準点を設定したので、基準点に基づいて供給電圧データと受給電圧データとを同期させることが可能となる。これにより、供給電圧データと受給電圧データとの電圧差を精度良く算出することができ、充電ケーブルの電圧降下量を精度良く算出するとともに、判定電圧を精度良く更新することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態である充電システムによる充電状況を示す概略図である。
【図2】充電システムを構成する電動車両の内部構造を示す概略図である。
【図3】充電システムを構成する充電器の内部構造を示す概略図である。
【図4】電動車両の充電口に対して充電器の充電ケーブルを接続した状態を示す概略図である。
【図5】バッテリの充放電特性の一例を示す線図である。
【図6】フィルタ処理が受給電圧や供給電圧に与える影響を示す説明図である。
【図7】充電時における供給電流、供給電圧データおよび受給電圧データの変動状態を示す線図である。
【図8】充電時における供給電圧データおよび受給電圧データの変動状態を示す説明図である。
【図9】充電開始から充電終了までの判定電圧の変動状況の一例を示す線図である。
【図10】充電時における供給電圧と受給電圧との推移の一例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態である充電システム10による充電状況を示す概略図である。また、図2は充電システム10を構成する電動車両11の内部構造を示す概略図である。さらに、図3は充電システム10を構成する充電器12の内部構造を示す概略図である。図1に示すように、電動車両11には蓄電デバイスとしてバッテリ13が搭載されており、このバッテリ13を充電する際には充電器12の充電ケーブル14が電動車両11の充電口15に接続される。そして、充電器12は、電動車両11に供給する充電電流や充電電圧を制御しながら、所定電圧に達するまでバッテリ13を充電する。なお、充電器12による充電方式としては、一定の電流でバッテリ13を充電する定電流充電、一定の電圧でバッテリ13を充電する定電圧充電、一定の電力でバッテリ13を充電する定電力充電、定電流充電と定電圧充電とをタイマー等で切り換える定電流定電圧充電等がある。
【0018】
図2に示すように、電動車両11は動力源であるモータジェネレータ20を有しており、モータジェネレータ20は駆動軸21を介して駆動輪22に連結されている。また、モータジェネレータ20とバッテリ13とは、直流電力と交流電力とを双方向に変換するインバータ23を介して接続されている。なお、バッテリ13とインバータ23とを接続する通電ライン24,25にはメインリレー26が設けられている。また、車体側部の充電口15には受電コネクタ27が設置されており、受電コネクタ27には一対の受電端子27a,27bが設けられている。一方の受電端子27aは受電ライン28を介して正極側の通電ライン24に接続され、他方の受電端子27bは受電ライン29を介して負極側の通電ライン25に接続されている。また、電動車両11には、受電ライン28,29の電圧つまり受給電圧Vrを検出する電圧センサ30が設けられるとともに、受電ライン28の電流つまり受給電流Irを検出する電流センサ31が設けられている。さらに、受電コネクタ27には信号端子27cが設けられており、この信号端子27cには通信ライン32が接続されている。また、電動車両11には、車両全体を統合制御する車両制御ユニット33、バッテリ13を制御するバッテリ制御ユニット34、インバータ23を制御するモータ制御ユニット35が設けられている。これらの制御ユニット33〜35は、通信ネットワーク36を介して相互に接続されている。なお、各制御ユニット33〜35はCPUやメモリ等によって構成される。
【0019】
図3に示すように、充電器12には、外部電源40からの交流電力を充電用の直流電力に変換する電力変換部41が設けられている。この電力変換部41は、整流回路、変圧器、スイッチング回路等によって構成されている。また、充電器12に設けられる充電ケーブル14の先端には、受電コネクタ27に対して着脱自在となる給電コネクタ42が設けられている。この給電コネクタ42には、受電コネクタ27の受電端子27a,27bに対応する一対の給電端子42a,42bが設けられている。一方の給電端子42aは給電ライン43を介して電力変換部41の正極端子41aに接続され、他方の給電端子42bは給電ライン44を介して電力変換部41の負極端子41bに接続されている。また、充電器12には、給電ライン43,44の電圧つまり供給電圧Vsを検出する電圧センサ45が設けられるとともに、給電ライン43の電流つまり供給電流Isを検出する電流センサ46が設けられている。さらに、給電コネクタ42には信号端子42cが設けられており、この信号端子42cには通信ライン47が接続されている。また、充電器12にはCPUやメモリ等によって構成される充電制御ユニット48が設けられており、充電制御ユニット48から電力変換部41に対して制御信号が出力される。
【0020】
ここで、図4は電動車両11の充電口15に対して充電器12の充電ケーブル14を接続した状態を示す概略図である。図4に示すように、充電口15の受電コネクタ27に充電ケーブル14の給電コネクタ42を接続することにより、給電ライン43,44および受電ライン28,29を介して電力変換部41とバッテリ13とは接続された状態となる。また、充電口15の受電コネクタ27に充電ケーブル14の給電コネクタ42を接続することにより、通信ライン32,47を介して車両制御ユニット33と充電制御ユニット48とは接続された状態となる。このように、充電器12と電動車両11とが接続されると、充電器12の充電制御ユニット48は、後述するように、供給電圧Vsが所定の判定電圧Xbに達するまでバッテリ13の充電を継続する。すなわち、充電制御ユニット48は、充電器側で検出される供給電圧Vsに基づいて、バッテリ13が満充電状態(例えばSOC=80%)に達したか否かを判定している。
【0021】
ところで、電動車両11に接続される充電ケーブル14は電気抵抗(通電抵抗)Rを有することから、充電時には充電ケーブル14において電圧降下が発生する。すなわち、供給電圧Vsと受給電圧Vrとは、充電ケーブル14での電圧降下量ΔVaだけ乖離することになる。このように、充電ケーブル14における電圧降下の発生により、充電器側の供給電圧Vsと電動車両側の受給電圧Vrとは一致しないことから、単に充電器側の供給電圧Vsが所定の目標電圧に達するまで充電を継続しても、バッテリ13の満充電状態を保証することは困難であった。ここで、図5はバッテリ13の充放電特性の一例を示す線図である。図5に示すように、バッテリ13の充電状態SOCが50%のときにはバッテリ電圧が398Vを示し、バッテリ13の充電状態SOCが80%のときにはバッテリ電圧が400Vを示している。このように、僅かなバッテリ電圧の差が大きな充電状態SOCの差を示す充放電特性である場合には、充電器側の供給電圧Vsに基づいてバッテリ13の満充電状態を判定することが困難となっていた。例えば、充電ケーブル14の電圧降下量ΔVaが2Vであった場合に、バッテリ13を満充電状態(例えばSOC=80%)にしようと、充電器側の供給電圧Vsが400Vに達するまで充電したとしても、電動車両側の受給電圧Vr、つまりバッテリ電圧は398Vまでしか達していないことになる。このように、バッテリ13が図5の充放電特性を備えていた場合には、バッテリ13が充電不足状態(SOC=50%)であるにも拘わらず、充電器12は、バッテリ13が満充電状態であると誤判定し、バッテリ13の充電を打ち切ることになっていた。
【0022】
そこで、充電制御ユニット48は、充電ケーブル14の電圧降下量ΔVaを算出するとともに、充電時に供給電圧Vsと比較される判定電圧Xbを電圧降下量ΔVaに基づいて更新している。まず、電圧差算出手段および抵抗算出手段として機能する充電制御ユニット48は、供給電圧Vsと受給電圧Vrとの電圧差(給電ライン43と受電ライン28との電位差)ΔVを算出し、この電圧差ΔVと供給電流Isとに基づいて電気抵抗Rを算出する(R=ΔV/Is)。なお、充電ケーブル14の電気抵抗Rを算出する際に、供給電流Isに代えて受給電流Irを用いても良い。また、充電ケーブル14の通電抵抗として電気抵抗Rを挙げているが、これに限られることはなく、充電ケーブル14の通電抵抗がインピーダンスZで規定される場合には、電気抵抗Rに代えてインピーダンスZを用いても良い。このように、充電ケーブル14の電気抵抗Rを算出する際に、受給電圧Vrや供給電圧Vsを用いているが、電圧センサ30,45によって検出された受給電圧Vrや供給電圧Vsを用いる際には、移動平均処理や加重平均処理等のフィルタ処理を施してノイズの影響を排除することが必要である。
【0023】
ここで、図6はフィルタ処理が受給電圧Vrや供給電圧Vsに与える影響を示す説明図である。図6に示すように、電圧センサ30,45によって検出された実測データにフィルタ処理を施し、実測データからフィルタ処理後の処理データを加工した場合には、実測データと処理データとの間に時間的な遅れが発生する。このフィルタ処理に伴う時間的な遅れの長さは、フィルタ処理の内容に応じて変化するものである。すなわち、電動車両側の受給電圧Vrに施されるフィルタ処理と、充電器側の供給電圧Vsに施されるフィルタ処理とが相違している場合には、受給電圧Vrに基づく受給電圧データDrと、供給電圧Vsに基づく供給電圧データDsとの間に時間のずれが生じていた。したがって、供給電圧データDsと受給電圧データDrとを比較して正確に電圧差ΔVを算出するためには、時間遅れを把握して供給電圧データDsと受給電圧データDrとを同期させた上で比較することが必要となる。
【0024】
そこで、充電制御ユニット48は、充電時に受給電圧データDrと供給電圧データDsとの間の時間遅れを検出し、この時間遅れに基づいて受給電圧データDrと供給電圧データDsとを同期させる。そして、充電制御ユニット48は、同期させた受給電圧データDrと供給電圧データDsとを比較し、供給電圧Vsと受給電圧Vrとの電圧差ΔVを高精度に算出する。以下、電圧差ΔVを高精度に算出する際の手順について説明する。なお、本実施の形態においては、車両制御ユニット33によって受給電圧データDrが算出されており、充電制御ユニット48によって供給電圧データDsが算出されている。また、車両制御ユニット33によって算出された受給電圧データDrは、通信ライン32,47を介して充電制御ユニット48に送信されている。
【0025】
ここで、図7は充電時における供給電流Is、供給電圧データDsおよび受給電圧データDrの変動状態を示す線図である。充電制御ユニット48は定電流充電手段として機能しており、図7に示すように、充電器12は定電流充電によってバッテリ13を充電している。充電器12は、充電開始から所定の上昇速度で所定電流I1まで供給電流Isを上昇させた後に(上昇過程)、供給電圧Vsを引き上げながら供給電流Isが所定電流I1を保持するように調整する(保持過程)。この保持過程は、バッテリ側の受給電圧Vrが所定の目標電圧に達するまで継続される。その後の下降過程において、充電器12は、供給電流Isを徐々に低下させながら、受給電圧Vrが最終的な目標電圧に達するまで充電を継続する。この定電流充電においては、供給電圧Vsおよび受給電圧Vr、つまり供給電圧データDsおよび受給電圧データDrが、上昇過程では第1上昇速度で急速に上昇し、保持過程では第1上昇速度よりも遅い第2上昇速度で緩やかに上昇する。
【0026】
また、図8は充電時における供給電圧データDsおよび受給電圧データDrの変動状態を示す説明図である。なお、図8の説明図は、図7に示した供給電圧データDsおよび受給電圧データDrの線図に説明を付した図である。図8に示すように、第1基準設定手段として機能する充電制御ユニット48は、上昇過程と保持過程とにおける供給電圧データDsの上昇速度(変化率)の差に基づいて、上昇過程から保持過程に切り替わる箇所の供給電圧データDsに基準点α1を設定する。すなわち、供給電圧データDsの上昇速度が所定値を超えて変化した点を基準点α1として設定する。同様に、第2基準設定手段として機能する充電制御ユニット48は、上昇過程と保持過程とにおける受給電圧データDrの上昇速度(変化率)の差に基づいて、上昇過程から保持過程に切り替わる箇所の受給電圧データDrに基準点α2を設定する。すなわち、受給電圧データDrの上昇速度が所定値を超えて変化した点を基準点α2として設定する。なお、供給電圧Vsが計測される給電ライン43,44と、受給電圧Vrが計測される受電ライン28,29とは接続されるため、図8の拡大部分に示すように、供給電圧Vsおよび受給電圧Vrの上昇速度は同じタイミングで変化している。すなわち、供給電圧Vsが基礎となる供給電圧データDsの上昇速度と、受給電圧Vrが基礎となる受給電圧データDrの上昇速度とは、同じタイミングで変化することから、基準点α1,α2は時間的に同じタイミングとなる。
【0027】
このように、供給電圧データDsの基準点α1と受給電圧データDrの基準点α2とは同じタイミングであることから、データ同期手段として機能する充電制御ユニット48は、基準点α1と基準点α2との時間間隔を計測し、フィルタ処理に起因する供給電圧データDsと受給電圧データDrとの時間遅れT(例えば0.5秒)を算出する。そして、電圧差算出手段として機能する充電制御ユニット48は、時間遅れTを考慮して供給電圧データDs(符号β1)と受給電圧データDr(符号β2)とを比較し、供給電圧データDs(供給電圧Vs)と受給電圧データDr(受給電圧Vr)との電圧差ΔV1を算出する。そして、充電制御ユニット48は、電圧差ΔV1と、電圧差ΔV1を算出した時点の供給電流Isとに基づいて、充電ケーブル14の電気抵抗Rを算出する。
【0028】
このように、同じタイミングで供給電圧データDsと受給電圧データDrとを比較することができ、電圧差ΔV1および電気抵抗Rを精度良く算出することが可能となる。しかも、供給電圧データDsおよび受給電圧データDrに基準点α1,α2が設定されたということは、定電流充電時の電圧変化に電圧センサ30,45の検出値が追従したことを意味するため、電圧センサ30,45の正常動作を併せて判定することも可能となる。なお、前述の説明では、供給電圧データDsおよび受給電圧データDrに基準点α1,α2を設定した後に、供給電圧データDsと受給電圧データDrとを比較して電圧差ΔV1を算出しているが、これに限られることはなく、図8に示すように、基準点α1,α2を設定した時点で電圧差ΔV2を算出しても良い。
【0029】
前述したように、充電ケーブル14の電気抵抗Rが算出されると、降下量算出手段として機能する充電制御ユニット48は、電気抵抗Rと供給電流Isとに基づいて充電ケーブル14の電圧降下量ΔVaを算出する(ΔVa=Is×R)。そして、充電制御ユニット48は、予め設定される基礎判定電圧Xaに電圧降下量ΔVaを加算し、供給電圧Vsと比較される判定電圧Xbを算出する(Xb=Xa+ΔVa)。この判定電圧Xbの算出は所定時間毎に繰り返されており、供給電流Isの変化に追従しながら判定電圧Xbは更新されることになる。ここで、図9は充電開始から充電終了までの判定電圧Xbの変動状況の一例を示す線図である。充電ケーブル14の電気抵抗Rは一定であることから、図9に示すように、充電ケーブル14の電圧降下量ΔVaは、定電流充電における供給電流Isに連動して変化する。このため、電圧降下量ΔVaを加算して得られる判定電圧Xbについても、供給電流Isに連動して変化することになる。また、充電の進行に伴ってバッテリ13の内部抵抗が増大することから、供給電流Isを一定に保持するために供給電圧Vsは緩やかに上昇する。そして、符号αで示すように、上昇する供給電圧Vs(供給電圧データDs)が判定電圧Xbに到達すると、充電制御ユニット48は、バッテリ13が満充電状態に達したと判断して充電を終了させることになる。
【0030】
ここで、図10は充電時における供給電圧Vsと受給電圧Vrとの推移の一例を示す線図である。図10に示すように、供給電圧Vsと比較される判定電圧Xbが、充電ケーブル14の電圧降下量ΔVaに相当する分だけ引き上げられることから、供給電圧Vsと判定電圧Xbとに基づいてバッテリ13の満充電状態を判定することが可能となる。すなわち、バッテリ13の満充電状態に対応するバッテリ電圧(例えば400V)に基礎判定電圧Xaを設定することにより、供給電圧Vsが判定電圧Xb(例えば410V)に到達したときには、バッテリ側の受給電圧Vrが基礎判定電圧Xa(例えば400V)に到達する。このように、判定電圧Xbを電圧降下量ΔVaの分だけ引き上げることにより、充電制御ユニット48による満充電状態の誤判定を回避することができ、バッテリ13の充電不足を回避することが可能となる。また、充電制御ユニット48は、充電ケーブル14の電気抵抗Rを演算することから、電圧降下量ΔVaを精度良く求めることができ、判定電圧Xbを精度良く更新することが可能となる。すなわち、充電ケーブル14の長さは充電設備等の都合に応じて調整されることから、予め設定された電気抵抗Rを用いるのではなく、個々の充電ケーブル14毎に電気抵抗Rを演算させている。これにより、電圧降下量ΔVaを精度良く求めることができ、判定電圧Xbが精度良く更新されるのである。
【0031】
前述の説明では、供給電圧データDsと受給電圧データDrとの電圧差ΔV1を精度良く算出するため、充電過程における供給電圧データDsの上昇速度に基づいて基準点α1を設定し、充電過程における受給電圧データDrの上昇速度に基づいて基準点α2を設定している。このように、通常の充電過程で現れる上昇速度の変化を利用して基準点α1,α2を設定することから、基準点α1,α2を設定するために供給電圧Vsや供給電流Is等を意図的に変動させる必要がない。すなわち、供給電圧Vsや供給電流Isの制御に関し、既存の充電器12の仕様を変更する必要がなく、コストを抑制しながら本発明を適用することが可能となる。
【0032】
また、前述の説明では、供給電圧データDsや受給電圧データDrの基準点として、上昇過程と保持過程との境界に位置する基準点α1,α2を設定しているが、これに限られることはなく、供給電圧データDsや受給電圧データDrに変化率(変化速度)の変化が現れるタイミングであれば良い。例えば、図7に示すように、充電開始のタイミングを示す基準点A1,A2であっても良く、保持過程と下降過程との境界に位置する基準点B1,B2であっても良い。また、充電終了(電流遮断)のタイミングを示す基準点C1,C2であっても良く、充電終了後に受給電圧Vrおよび供給電圧Vsがバッテリ電圧に収束するタイミングを示す基準点D1,D2であっても良い。さらに、前述の説明では、バッテリ13を定電流充電で充電しているが、これに限られることはなく、バッテリ13を定電圧充電、定電力充電または定電流定電圧充電で充電する際に本発明を適用しても良い。
【0033】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、充電制御ユニット48を、第1基準設定手段、第2基準設定手段、データ同期手段、電圧差算出手段、抵抗算出手段、降下量算出手段、充電判定手段および定電流充電手段として機能させているが、これに限られることはない。例えば、第1基準設定手段、第2基準設定手段、データ同期手段、電圧差算出手段、抵抗算出手段、降下量算出手段、充電判定手段および定電流充電手段の各手段を、充電制御ユニット48と車両制御ユニット33との一方に集約しても良く、充電制御ユニット48と車両制御ユニット33との双方に分散させても良い。なお、前述の説明では、車両制御ユニット33が受給電圧データDrを算出しているが、充電制御ユニット48に受給電圧データDrを算出させる場合には、通信ライン32,47を介して充電制御ユニット48に受給電圧Vrが送信される。同様に、充電制御ユニット48が供給電圧データDsを算出しているが、車両制御ユニット33に供給電圧データDsを算出させる場合には、通信ライン32,47を介して車両制御ユニット33に供給電圧Vsが送信される。
【0034】
前述の説明では、充電状態SOCが80%のときに満充電状態であると示しているが、満充電状態とは設計上のバッテリ使用範囲(SOCの上限値)に左右されるものであり、充電状態SOCが80%のときに限られるものではない。また、受給電圧データDrを算出する際のフィルタ処理や、供給電圧データDsを算出する際のフィルタ処理としては、移動平均処理や加重平均処理が挙げられるが、これらの処理方法に限られるものではない。また、電気回路を用いてハードウェア的にフィルタ処理を施しても良く、プログラムを用いてソフトウェア的にフィルタ処理を施しても良い。また、電流センサ31,46によって検出される供給電流Isや受給電流Irを用いる際にも、移動平均処理等のフィルタ処理を施しても良いことはいうまでもない。
【0035】
また、図示する電動車両11は、駆動源としてモータジェネレータ20のみを備えた電動車両であるが、駆動源としてモータジェネレータ20およびエンジンを備えたハイブリッド型の電動車両であっても良い。また、蓄電デバイスとして、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等のバッテリ13を採用しているが、これに限られることはなく、蓄電デバイスとして、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタを用いても良い。なお、前述の説明では、充電ケーブル14に接触式の給電コネクタ42を備えたコンダクティブ方式の充電器12を用いているが、これに限られることはなく、充電ケーブル14に非接触式の給電コネクタを備えたインダクティブ方式の充電器を用いても良い。
【符号の説明】
【0036】
10 充電システム
11 電動車両
12 充電器
13 バッテリ(蓄電デバイス)
14 充電ケーブル
48 充電制御ユニット(第1基準設定手段,第2基準設定手段,データ同期手段,電圧差算出手段,抵抗算出手段,降下量算出手段,充電判定手段,定電流充電手段)
Vs 供給電圧
Vr 受給電圧
Is 供給電流
Ir 受給電流
I1 所定電流
R 電気抵抗(通電抵抗)
Xa 基礎判定電圧
Xb 判定電圧
ΔV,ΔV1,ΔV2 電圧差
ΔVa 電圧降下量
Ds 供給電圧データ
Dr 受給電圧データ
α1,α2 基準点
T 時間遅れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電器と電動車両とを充電ケーブルを介して接続し、前記電動車両に搭載される蓄電デバイスを充電する充電システムであって、
前記充電器側の供給電圧に所定のフィルタ処理を施して算出される供給電圧データに対し、前記供給電圧データの変化率に基づいて基準点を設定する第1基準設定手段と、
前記電動車両側の受給電圧に所定のフィルタ処理を施して算出される受給電圧データに対し、前記受給電圧データの変化率に基づいて基準点を設定する第2基準設定手段と、
前記供給電圧データと前記受給電圧データとの基準点に基づいて、前記供給電圧データと前記受給電圧データとを同期させるデータ同期手段と、
同期させた前記供給電圧データと前記受給電圧データとを比較し、前記供給電圧と前記受給電圧との電圧差を算出する電圧差算出手段と、
前記供給電圧と前記受給電圧との電圧差に基づいて、前記充電ケーブルの通電抵抗を算出する抵抗算出手段と、
前記充電ケーブルの通電抵抗と前記充電器側の供給電流または前記電動車両側の受給電流とに基づいて、前記充電ケーブルの電圧降下量を算出する降下量算出手段と、
前記電圧降下量に基づき更新される判定電圧と前記充電器側の供給電圧とを比較し、前記蓄電デバイスの充電状態を判定する充電判定手段とを有することを特徴とする充電システム。
【請求項2】
請求項1記載の充電システムにおいて、
前記判定電圧は、所定の基礎判定電圧に前記電圧降下量を加算して更新されることを特徴とする充電システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の充電システムにおいて、
前記充電器は、前記供給電流を所定電流まで上昇させてから前記所定電流に保持する定電流充電を実施し、
前記第1基準設定手段は、前記供給電流の上昇過程と保持過程とにおける前記供給電圧データの変化率の差を検出し、上昇過程から保持過程に切り替わる箇所の前記供給電圧データに基準点を設定し、
前記第2基準設定手段は、前記供給電流の上昇過程と保持過程とにおける前記受給電圧データの変化率の差を検出し、上昇過程から保持過程に切り替わる箇所の前記受給電圧データに基準点を設定することを特徴とする充電システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の充電システムにおいて、
前記データ同期手段は、基準点に基づいて前記供給電圧データと前記受給電圧データとの間の時間遅れを算出し、時間遅れに基づいて前記供給電圧データと前記受給電圧データとを同期させることを特徴とする充電システム。
【請求項5】
蓄電デバイスが搭載される電動車両に充電ケーブルを介して接続され、前記蓄電デバイスを充電する充電器であって、
前記充電器側の供給電圧に所定のフィルタ処理を施して算出される供給電圧データに対し、前記供給電圧データの変化率に基づいて基準点を設定する第1基準設定手段と、
前記電動車両側の受給電圧に所定のフィルタ処理を施して算出される受給電圧データに対し、前記受給電圧データの変化率に基づいて基準点を設定する第2基準設定手段と、
前記供給電圧データと前記受給電圧データとの基準点に基づいて、前記供給電圧データと前記受給電圧データとを同期させるデータ同期手段と、
同期させた前記供給電圧データと前記受給電圧データとを比較し、前記供給電圧と前記受給電圧との電圧差を算出する電圧差算出手段と、
前記供給電圧と前記受給電圧との電圧差に基づいて、前記充電ケーブルの通電抵抗を算出する抵抗算出手段と、
前記充電ケーブルの通電抵抗と前記充電器側の供給電流または前記電動車両側の受給電流とに基づいて、前記充電ケーブルの電圧降下量を算出する降下量算出手段と、
前記電圧降下量に基づき更新される判定電圧と前記充電器側の供給電圧とを比較し、前記蓄電デバイスの充電状態を判定する充電判定手段とを有することを特徴とする充電器。
【請求項6】
請求項5記載の充電器において、
前記判定電圧は、所定の基礎判定電圧に前記電圧降下量を加算して更新されることを特徴とする充電器。
【請求項7】
請求項5または6記載の充電器において、
前記蓄電デバイスを充電する際に、前記供給電流を所定電流まで上昇させてから前記所定電流に保持する定電流充電手段を有し、
前記第1基準設定手段は、前記供給電流の上昇過程と保持過程とにおける前記供給電圧データの変化率の差を検出し、上昇過程から保持過程に切り替わる箇所の前記供給電圧データに基準点を設定し、
前記第2基準設定手段は、前記供給電流の上昇過程と保持過程とにおける前記受給電圧データの変化率の差を検出し、上昇過程から保持過程に切り替わる箇所の前記受給電圧データに基準点を設定することを特徴とする充電器。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の充電器において、
前記データ同期手段は、基準点に基づいて前記供給電圧データと前記受給電圧データとの間の時間遅れを算出し、時間遅れに基づいて前記供給電圧データと前記受給電圧データとを同期させることを特徴とする充電器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−110818(P2013−110818A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252775(P2011−252775)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】