説明

充電式亜鉛電池用のペースト状亜鉛電極

【解決手段】充電式亜鉛アルカリ電気化学電池の負極活性物質は、スズおよび/または鉛で被覆された金属亜鉛粒子から形成される。亜鉛粒子と増粘剤と水とを含有するスラリーに鉛塩とスズ塩とを添加することによって、亜鉛粒子を被覆するようにしてもよい。その後、残りの亜鉛電極構成成分、たとえば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ビスマス(Bi2O3)、分散剤およびテフロン等の結合剤を加える。得られたスラリー/ペーストは、安定した粘度を有し、亜鉛電極の製造時に、容易に加工可能である。さらに、電解質内にコバルトが存在する場合には、亜鉛電極からのガス発生が起こりにくくなる。本発明に従って生成される電極から製造される電池は、従来の電池に比べて、60〜80%も水素ガスの発生が起こりにくくなる。亜鉛導電性マトリックスが元の状態のまま損なわれず、保存時の放電を抑制できるため、電池のサイクル寿命および保存可能期間が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[クロスリファレンス]
本出願は、2009年5月18日に「PASTED ZINC ELECTRODE FOR RECHARGEABLE NICKEL-ZINC BATTERIES(充電式ニッケル亜鉛電池用のペースト状亜鉛電極)」の名称で出願された米国特許出願No.12/467,993に基づく優先権を主張するものであり、前記出願の内容は、参照することにより、その全体があらゆる目的で本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、充電式電池、特に、充電式ニッケル亜鉛電池に関する。さらに詳しくは、本発明は、充電式ニッケル亜鉛電極で用いられる亜鉛負極の組成および製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電動工具等のコードレス携帯機器の普及により、高出力の電力供給が可能な高エネルギー密度充電式電池への需要や要求が高まっている。出力やエネルギー密度への要求が高まるにつれて、サイクル寿命の長い再充電可能な電極への需要も高まっている。アルカリ亜鉛電極は、高電圧、低当量および低コストであることが知られている。充電および放電工程に関する電気化学反応速度が高速であるため、亜鉛電極は高出力および高エネルギー密度が可能となっている。
【0004】
亜鉛の酸化還元電位が低いために、亜鉛電極は、水素発生に関して不安定な状態となる。亜鉛を用いた一次アルカリ電池では、所定の元素を用いて亜鉛合金を形成すると共にガス発生阻害剤を用いることによりこの問題に対処している。この際、亜鉛に接触する物質の純度と共に、水素発生触媒への亜鉛の露出を抑制することが重要になる。一次電池および充電式電池で用いられる出発物質の差が、腐食抑制の手法および効果に影響を与える。亜鉛一次電池が充電状態で製造されるのに対し、亜鉛二次電池は、主として放電状態で製造される。亜鉛一次電池では、活性物質は、ゲル化した粉末状の金属亜鉛であり、粒径は100ミクロンから300ミクロンである。亜鉛二次電池では、活性物質は、少量の金属亜鉛を加えた酸化亜鉛(ZnO)であり、粒径は0.2ミクロンから0.3ミクロンのオーダーである。充電式電池の負極に用いられる酸化亜鉛の粒径が小さいことから、一次電池に用いられる亜鉛電極の粒子と比べて、表面積が2乗のオーダーで大きくなる。最初の充電後に亜鉛が形成されれば、亜鉛の腐食率は、二次電池で著しく高い。腐食を最小限に抑え製造性を高めるような再充電可能な亜鉛電極の組成および製造方法の改善が求められ続けている。
【発明の概要】
【0005】
充電式亜鉛アルカリ電気化学電池の負極活性物質は、スズおよび/または鉛で被覆された金属亜鉛粒子から形成される。亜鉛粒子と増粘剤と水とを含有する混合物に鉛塩とスズ塩とを添加することによって、亜鉛粒子を被覆するようにしてもよい。その後、残りの亜鉛電極構成成分、たとえば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ビスマス(Bi2O3)、分散剤およびテフロン(登録商標)等の結合剤を加える。酸化亜鉛および電極の他の構成要素の存在下で金属亜鉛に被覆を施すようにしてもよい。得られたスラリー/ペーストは、安定した粘度を有し、亜鉛電極の製造時に、容易に加工可能である。さらに、電解質内にコバルトが存在する場合には、亜鉛電極からのガス発生が起こりにくくなる。本発明に従って生成される電極から製造される電池は、従来の電池に比べて、60〜80%も水素ガスの発生が起こりにくくなる。亜鉛導電性マトリックスが元の状態のまま損なわれず、保存時の放電を抑制できるため、電池のサイクル寿命および保存可能期間が向上する。
【0006】
一つの態様において、本発明は、亜鉛負極を備えるニッケル亜鉛電池に関する。電極は、鉛、スズまたはその両方で被覆される亜鉛粉末粒子であって、粒径が約100ミクロン未満、約40ミクロン未満、約25ミクロン、または約5〜15ミクロンの亜鉛粉末粒子を含有する。電極に金属亜鉛粒子を加えて、サイクルの間、導電性マトリックスを形成および維持する。亜鉛よりも不活性な鉛およびスズは、亜鉛電位では放電しないため、被覆した亜鉛粒子を保護する役割を果たす。放電時に、この電極は高い接続性を維持する。ごく少量の鉛およびスズが用いられるに過ぎない。さまざまな実施形態において、鉛は亜鉛電極活性物質の約0.05%未満でもよく、また、スズは亜鉛電極活性物質の約1%未満でもよい。ニッケル亜鉛電池は、さらに、ニッケル正極を備える。正極は、コバルトおよび/またはコバルト化合物を含有するものでもよく、コバルトおよび/またはコバルト化合物は、水酸化ニッケル粒子に被覆されるものでも、あるいは、金属コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト、オキシ水酸化コバルトおよび/または他のコバルト化合物の形で正極に別個に添加されるものでもよい。正極が、被覆されていない水酸化ニッケル粒子を含有するするものでもよい。
【0007】
本発明の別の態様は、ニッケル亜鉛電池用の亜鉛負極を製造する方法に関する。この方法は、亜鉛粒子を用いて、望ましくはスラリー状の金属亜鉛粒子状に鉛および/またはスズを被覆して、活性物質スラリー/ペーストを形成し、亜鉛電極内に活性物質を含有させる。さまざまな実施形態において、少なくとも1種類の可溶性スズ塩および少なくとも1種類の可溶性鉛塩を、液体媒体中、望ましくは、水中で、金属亜鉛粒子に添加して、亜鉛粒子を被覆する。液体媒体に、さらに、増粘剤(チキソトロピック剤)および/または結合剤を含有するものでもよい。スズおよび鉛は亜鉛粒子を被覆可能である。スズ塩は、硫酸スズ、酢酸スズ、フルオロホウ酸スズおよび硝酸スズのうちの一つまたは複数でもよい。鉛塩は、酢酸鉛、塩化鉛、フルオロホウ酸鉛および硝酸鉛のうちの一つまたは複数でもよい。このように被覆することによって、活性物質の形成に用いられるスラリーが得られる。一部の実施形態において、スラリーを活性物質内に含有させる前に処理するようにしてもよい。たとえば、スラリーを濃縮、過熱、または洗浄するようにしてもよい。亜鉛粒子のスラリーが、溶液中に残留スズ塩および鉛塩を含有するものでもよい。(電池の形成後に)電気化学的に生成された亜鉛に残留スズ塩および鉛塩を被覆して、さらに亜鉛の腐食を抑制するようにしてもよい。
【0008】
亜鉛粒子のスラリーを用いて、活性物質のスラリー/ペーストを形成する。スラリーに、他の亜鉛電極構成成分を加える。他の構成成分としては、たとえば、酸化亜鉛、酸化ビスマス、分散剤、結合剤および液体が挙げられる。不溶性腐食抑制剤等、他の添加物を含有させるようにしてもよい。これらの構成成分を予め混合した粉末形状でスラリーに加えて、混合後に機能するスラリーまたはペーストを形成するようにしてもよい。負極を製造する際には、製造期間全体にわたるスラリーおよびペーストの安定性が重要になる。ペースト/スラリーは、スラリーの調製から基材へのペースト塗布までの4〜6時間以上かかる可能性のある期間全体にわたって安定でなければならない。少量の鉛およびスズを加えることにより、ペースト/スラリーが安定化することが見出されている。ある実施形態において、可溶性鉛および可溶性スズを別個に加えるようにしてもよい。たとえば、他の亜鉛電極構成成分を加えた後に、活性物質のペーストに、予め溶解させたスズ塩溶液を加えるようにしてもよい。ペーストに含まれる鉛の濃度は、最大で約0.05重量%でもよく、また、スズの濃度は、最大で約1重量%でもよい。
【0009】
60℃でテストを行ったところ、電池に亜鉛電極を組み込むことにより、満充電の電池における亜鉛腐食によるガス発生を60〜80%削減できた。ガス発生が少なくなると、自己放電および電池の内圧が下がり、電解質の漏出および視覚的な膨れが抑制される。
【0010】
製造の際に亜鉛粒子を電極に添加することにより、サイクルの間、電極内で導電性マトリックスが形成および維持される。用いられる金属亜鉛粒子は、酸化亜鉛粒子よりも大きく、粒径が約100ミクロン未満あるいは約40ミクロン未満である。このような粒径の金属亜鉛粒子を用いることにより、完全放電を防ぐことができ、その金属的特性にも関わらず表面酸化物の絶縁性により接続性を失う可能性のある内部核をそのまま残すことができる。不活性かつ導電性の層、すなわち、スズおよび鉛、を亜鉛粒子表面上に保持することにより、亜鉛粒子の一体性を維持することができる。
【0011】
また別の態様において、本発明は、製造された亜鉛電極に関する。電極は、導電性基材層と、酸化亜鉛、鉛および/またはスズで被覆された亜鉛粒子、酸化ビスマスおよび結合剤を含む活性物質層と、を備える。本明細書で説明する工程で亜鉛粒子を被覆するようにしてもよいし、あるいは、所定量の鉛および/またはスズで予め被覆された亜鉛粒子を用いるようにしてもよい。活性物質に含まれる鉛の濃度は、最大で約0.05重量%でもよく、また、スズの濃度は、最大で約1重量%でもよい。
【0012】
以下、添付の図面を参照して、上述したおよびその他の特徴や効果を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】本発明の各実施形態を組み込むのに適した円筒形電池の分解図。
【図1B】本発明の各実施形態を組み込むのに適した円筒形電池の断面図。
【図2】セパレータの各層を示す断面図。
【図3】亜鉛粒子上にスズおよび鉛の被覆を施した負極活性物質ペーストと被覆を施さない負極活性物質ペーストとを比較した粘度のグラフ。
【図4A】アルカリ溶液中における亜鉛の腐食率に対する鉛の影響を示す棒グラフ。
【図4B】コバルトを含有するアルカリ溶液中における亜鉛の腐食率に対する鉛の影響を示す棒グラフ。
【図5】負極ペースト内にさまざまな量のスズおよび鉛を含有させた場合の腐食率の減少率を示すグラフ。
【図6A】鉛被覆亜鉛粒子を含有する電池と非被覆亜鉛粒子を含有する対照電池の放電容量を示すグラフ。
【図6B】スズ被覆亜鉛粒子を含有する電池と非被覆亜鉛粒子を含有する対照電池の放電容量を示すグラフ。
【図7】鉛およびスズ被覆亜鉛粒子を含有する電池と非被覆亜鉛粒子を含有する対照電池の放電容量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
亜鉛−酸化亜鉛負極の製造およびニッケル亜鉛電池の亜鉛−酸化亜鉛負極活性物質に関して、本発明の実施形態を説明する。当業者には自明のことであるが、以下の本発明の詳細な説明は例示を目的としたものに過ぎず、あらゆる意味で発明を限定するものではない。当業者であれば、本明細書の開示に基づき、本発明の他の実施形態を容易に提示することが可能であろう。たとえば、本発明を、銀亜鉛電池や亜鉛空気電池等他の充電式電池に用いることも可能である。本明細書において、用語「battery」および「cell」は互いに置き換え可能に用いられている(何れも日本語では「電池」とする)。
【0015】
序論
本発明は、充電式亜鉛電池で用いられる負極を形成する改良された方法を提供する。本発明は、製造法を管理しやすいものにする。本発明で得られる充電式電池は、保存可能期間が長い、サイクル寿命が長い、漏出が少ない、膨れがほとんどまたは全くない、という特性のうち1つまたは複数を備える。
【0016】
従来のニッケル正極は、活性物質中にコバルト粒子を含有する。コバルト粒子は、金属コバルトおよび/または酸化コバルト(場合によっては、水酸化コバルトまたはオキシ水酸化コバルト)の形で提供可能である。発明者らは、電池の形成過程が完了する前に正極から溶解されたコバルトが移動する可能性があることに着目した。電解質を電池に充填してから最初に充電するまでの期間に、または、電気化学電池の形成過程の一部である最初の充電の間に、このような移動が生じる可能性がある。コバルトの移動は、ペースト状の正極に比べて、焼結正極では大きな問題とならない。コバルト源によっても、電解質に溶解して、正極に移動するか否かが左右される。一般に、他の粒子(たとえば、標準的な正極を形成する水酸化ニッケル粒子)上に被覆されるまたは他の粒子内に包含されるコバルトと比較して、束縛されることなく添加されるコバルト/コバルト化合物は移動しやすい。発明者らは、負極に存在するコバルトが負極における水素発生の触媒と成り得ることを見出した。本発明は、コバルトの触媒作用を抑制する点に大きな特徴がある。
【0017】
電動工具やハイブリッド電気自動車等の高出力用途に、密閉型充電式Ni−Zn電池が開発された。このような電池は、充電および放電能力が非常に高く、最大出力密度は2000W/kgを越える。可溶性コバルト種は、電池の作動時および保存時の両方で水素発生を加速するため、この種の電池で特に悪影響を与える可能性がある。水素発生が加速されることにより、マルチセル型バッテリーにおけるセル間不均衡が生じたり、初期故障の原因と成り得るデンドライトによる短絡(デンドライト・ショート)を生じる可能性が高くなる。
【0018】
アルカリ電解質は、デンドライトの成長を抑える目的で開発されたが、コバルトが混入するとその効果が抑制される。充電式Ni−Zn電池用の新型アルカリ電解質の例が、参照することにより本明細書に組み込まれる、Jeffrey Phillipsによる「Electrolyte Composition for Nickel-Zinc Batteries(ニッケル亜鉛電池用の電解質組成)」という名称の米国特許公報US20060127761に開示されている。
【0019】
ニッケル亜鉛電池の電気化学反応
アルカリ電気化学電池における水酸化ニッケル正極の充電工程は、以下の反応に左右される。
【数1】

【0020】
アルカリ電解質は、Zn電極におけるイオンキャリアとして作用する。充電可能なZn電極では、出発活性物質は、ZnO粉末または亜鉛と酸化亜鉛との粉末混合物である。ZnO粉末は、KOH溶液に溶解し、亜鉛酸イオン(Zn(OH)42-)を形成する。亜鉛酸イオンは、充電工程で、金属亜鉛に還元される。Zn電極における反応を以下に示す。
【数2】

【数3】

したがって、負極における正味の電極反応は以下のようになる。
【数4】

この結果、Ni/Zn電池全体の反応は以下の通りである。
【数5】

【0021】
亜鉛電極の放電工程では、金属亜鉛が電子を供与して、亜鉛酸イオンを形成する。同時に、KOH溶液中における亜鉛酸イオンの濃度が上昇する。亜鉛酸イオンの濃度上昇に伴い、反応103で示すように、亜鉛酸イオンが沈殿して、ZnOが形成される。亜鉛電極におけるこのような変換と凝集が、多くの充電−放電サイクルにわたる電極の活性喪失の主要因となる。セパレータにおける亜鉛酸イオンの沈殿を除去するNi−Zn電池改良技術は、たとえば、先に参照した米国特許公報US20060127761、および、参照することにより本明細書に組み込まれる、Jeffrey Phillipsによる「Method of Manufacturing Nickel Zinc Batteries (ニッケル亜鉛電池の製造方法)」という名称の米国特許公報US20060207084に開示されている。
【0022】
ニッケル電池および電池構成要素
図1Aおよび図1Bに、本発明の一実施形態における円筒型電池の主な構成要素を示す図であり、図1Aに電池の分解図を示す。電極層と電解質層(セパレータ)とを交互に配置して、円筒型アセンブリ101(「ジェリーロール」とも称する)を形成する。缶体113またはその他の格納容器内部に円筒形アセンブリまたはジェリーロール101を配置する。円筒形アセンブリ101の両端に負極集電ディスク103と正極集電ディスク105とを取り付ける。負極集電ディスクと正極集電ディスクは、内部端子として機能し、負極集電ディスクは負極に電気的に接続され、正極集電ディスクは正極に電気的に接続される。キャップ109および缶体113が外部端子として機能する。図示した実施形態において、負極集電ディスク103は、負極集電ディスク103をキャップ109に接続するためのタブ107を備える。正極集電ディスク105は、缶体113に溶接または電気的に接続される。他の実施形態において、負極集電ディスクを缶体に接続し、正極集電ディスクをキャップに接続するようにしてもよい。
【0023】
図示した負極集電ディスク103および正極集電ディスク105は、ジェリーロールへの接着および/または電池の一部分から他の部分への電解質の通過が容易になるように、孔が形成されている。他の実施形態において、ディスクに、(径方向または円周方向の)スロット、溝、あるいは、接着および/または電解質の分散を容易にする他の構造を備えるようにしてもよい。
【0024】
可撓性ガスケット111が、キャップ109近傍の缶体113の上部外周に沿って形成された周縁ビーズ115上に載置される。ガスケット111は、缶体113からキャップ109を電気的に絶縁する役割を果たす。実施形態において、ガスケット111が載置されるビーズ115は、高分子で被覆される。ガスケットは、缶体からキャップを電気的に絶縁する任意の材料から形成可能であるが、高温で視認可能なほど変形しないような材料が望ましく、たとえば、ナイロンを用いることができる。他の実施形態において、継ぎ目または他の放出可能位置で電池からアルカリ電解質が徐々に滲んで最終的に漏れ出る可能性のある駆動力を減少させる相対的に疎水性の材料を用いることも望ましい。湿潤性の低い材料の例としては、ポリプロピレンが挙げられる。
【0025】
電解質を缶体または他の格納容器に充填後、図1Bに示すように、容器を密閉して、電極および電解質を周囲環境から隔離する。ガスケットは、通常、クリンピング(圧着)により密閉される。実施形態において、密閉剤を用いて漏出を防ぐ。適当な密閉剤の例として、れき青密閉剤、タールおよびオハイオ州シンシナティのCognis社から市販されているVERSAMID(登録商標)が挙げられる。
【0026】
実施形態において、電池は、電解質「不足(starved」」状態で作動するように構成される。さらに、実施形態において、本発明のニッケル亜鉛電池は、電解質不足の形態を採用する。このような電池では、電極活性物質の量に対して電解質の量が少なく、電池の内部領域に遊離の液体電解質を備える液式(flooded)電池と容易に識別可能である。参照することにより本明細書に組み込まれる「Nickel Zinc Battery Design(ニッケル亜鉛電池設計」」という名称で2005年4月26日出願の米国特許出願US2006-0240371Aで説明されているように、さまざまな理由で電池を「不足(starved)」状態で作動させることが望ましい。「不足状態(starved)」電池とは、一般に、電池の電極スタック内の総空隙容量が完全に電解質で占有されていない電池を意味する。代表的な例において、電解質充填後の「不足状態(starved)」電池の空隙容量は、充填前の総空隙容量の少なくとも約10%である。
【0027】
本発明の電池は、様々な形状および大きさのうち、いずれの形状および大きさを有するものでもよい。たとえば、本発明の円筒形電池は、従来のAAA電池、AA電池、A電池、C電池等の直径および長さを備えるものでもよい。用途によっては、特注の電池設計が適している。特定の実施形態において、電池の大きさが直径22mmで長さ43mmのsub-C型電池である。ここで留意するべきことは、本発明は、比較的小型の角柱電池のみならず、さまざまな非携帯用途で用いられるより大型の電池にも適用可能であることである。電動工具や芝刈り具等のバッテリーパックの外形により、電池の大きさや形状が影響される場合も多い。本発明は、また、1つまたは複数の本発明のニッケル亜鉛電池を備えるバッテリーパック、および、電気装置における充電および放電を可能にする適当なケーシング、接点および導電線に関する。
【0028】
図1Aおよび図1Bに示す実施形態は、従来のニッケルカドミウム電池とは極性が逆で、キャップが負極性で缶体が正極性であることに留意されたい。従来の電池では、電池の極性は、キャップが正極性で缶体または容器が負極性である。すなわち、電池アセンブリの正極がキャップに電気的に接続され、電池アセンブリの負極が電池アセンブリを収容する缶体に電気的に接続される。図1Aおよび図1Bに示すような本発明の実施形態では、電池の極性は、従来の電池の極性と逆である。したがって、負極がキャップに電気的に接続され、正極が缶体に電気的に接続される。ただし、本発明の一部の実施形態において、キャップが正極性になる従来型の設計と同様の極性でもよい。
【0029】
缶体は、最終的な電池の外側筺体またはケーシングとして機能する容器である。缶体が負極端子となる従来の電池では、缶体は、通常、ニッケルメッキされた鋼鉄製である。前述したように、本発明では、缶体は負極端子でも正極端子でもよい。缶体が負極性となる実施形態では、缶体材料は、亜鉛電極の電位に対応可能な他の物質で被覆されるものであれば、従来のニッケルカドミウム電池で用いられるものと同様の組成、たとえば、鋼鉄でもよい。たとえば、負極性の缶体を銅のような物質で被覆して、腐食を防ぐようにしてもよい。缶体が正極性でキャップが負極性となる実施形態では、缶体材料は、従来のニッケルカドミウム電池で用いられるものと同様の組成、たとえば、ニッケルメッキされた鋼鉄でもよい。
【0030】
一部の実施形態において、缶体の内部を、水素の再結合を可能にする物質で被覆するようにしてもよい。水素の再結合を触媒する任意の物質を用いることができる。このような物質の例としては、酸化銀が挙げられる。
【0031】
通気キャップ
電池は一般的に周囲環境から密閉されるが、充電および放電の際に発生するガスが電池から放出できるように電池を構成してもよい。通常のニッケルカドミウム電池では、1平方インチ当たり約200ポンド(PSI)(=約1379キロパスカル(KPa))の圧力でガスが放出される。一部の実施形態において、通気する必要がなく、この圧力あるいはもっと高い圧力(たとえば、最大約300PSI(=約2068KPa))で作動するようにニッケル亜鉛電池が設計される。この場合、電池内部で発生した酸素および水素の再結合が促進されるものでもよい。ある実施形態において、最大約450PSI(=約3103KPa)あるいは最大約600PSI(=約4137KPa)までの内部圧力を維持するように電池が構成される。他の実施形態において、ニッケル亜鉛電池は、比較的低い圧力でガスを放出するように設計される。この構成は、電池内部で水素と酸素とが再結合されることなく、水素および/または酸素ガスの放出制御を促進するような設計に適している。
【0032】
通気キャップおよびディスクの構造ならびにキャリア基材の詳細に関しては、あらゆる目的で参照することにより本明細書に組み込まれる2006年4月25日出願のPCT/US2006/015807および2004年8月17日出願のPCT/US2004/026859(公報WO2005/020353 A3)に記載されている。
【0033】
電極およびセパレータの構造
図2に、ジェリーロール型または角型電池構造に利用可能な負極−セパレータ−正極サンドイッチ構造の各層を示す。セパレータ205は、正極(構成要素207および209)から負極(構成要素201および203)を機械的および電気的に分離すると共に、両電極間にイオン電流を流す。負極は、電気化学的に活性な層201と電極基材203とを備える。亜鉛負極の電気化学的に活性な層201は、通常、電気化学的活性物質として、酸化亜鉛および/または金属亜鉛を含有する。層201が、さらに、亜鉛酸カルシウム、酸化ビスマス、酸化アルミニウム、酸化インジウム、ヒドロキシエチルセルロールおよび分散剤等、他の添加材または電気化学的活性化合物を含有するようにしてもよい。実施形態における亜鉛負極の組成を以下に詳述する。
【0034】
負極基材203は、負極材料201と電気化学的に適合するものでなければならない。上述したように、電極基材は、穴開き金属シート、エキスパンドメタル、金属発泡体、またはパターン化された連続金属シート構造を備えるものでもよい。一部の実施形態において、基材は、金属箔等の単なる金属層でもよい。
【0035】
セパレータ205の反対側には、負極とは逆の正極が形成されている。正極は、電気化学的に活性な層207と電極基材209とを備える。正極の層207は、すべて本明細書に記載される電気化学的活性物質および種々の添加物として、水酸化ニッケル、酸化ニッケルおよび/またはオキシ水酸化ニッケルを含有するものでもよい。電極基材209は、たとえば、金属ニッケル発泡体マトリックスや金属ニッケルシートでもよい。ニッケル発泡体マトリックスを用いる場合には、層907は、1つの連続した電極を形成する。
【0036】
セパレータ
通常、セパレータは、細孔を備える。実施形態において、セパレータは複数の層を備える。細孔および/または積層構造により、亜鉛デンドライトの蛇行経路が形成されるため、デンドライトの侵入やデンドライトによる短絡を防ぐことができる。多孔性セパレータの屈曲度(tortuosity)は、望ましくは約1.5〜10であり、より望ましくは約2〜5である。平均孔径は、最大で約0.2ミクロンが望ましく、約0.02〜0.1ミクロンの間がさらに望ましい。また、セパレータ内における細孔の大きさがかなり均一であることが望ましい。特定の実施形態において、セパレータの空隙率は約35〜55%であり、ある望ましい材料では、空隙率が45%で孔径が0.1ミクロンであった。
【0037】
ある実施形態において、セパレータは、少なくとも2つの層(望ましくは、ちょうど2つの層)、亜鉛の侵入を防ぐバリア層と、イオン電流が流れるように電池の電解質を湿潤状態に保つ湿潤層と、から構成される。ニッケルカドミウム電池では、隣接する電極層間で単一のセパレータ物質しか用いられないため、このような2層構造ではない。
【0038】
正極を湿潤状態に、また、負極を比較的乾燥状態に保持することが、電池性能に役立つ。したがって、一部の実施形態において、バリア層を負極に隣接させて配置し、湿潤層を正極に隣接させて配置する。この構成により、電解質と正極との密接な接触が維持され、電池の性能が向上する。
【0039】
他の実施形態において、湿潤層を負極に隣接させて配置し、バリア層を正極に隣接させて配置するものでもよい。この構成により、電解質を介した負極への酸素運搬が容易になり、負極での酸素の再結合が促進される。
【0040】
バリア層は、通常、微細孔膜である。イオン導電性の任意の微細孔膜を用いることができる。たとえば、約30〜80パーセントの空隙率で約0.005〜0.3ミクロンの平均孔径のポリオレフィンが好適に用いられる。好適な実施形態において、バリア層は、微細孔ポリプロピレンである。バリア層は、通常約0.5〜4ミル(=約0.0127〜0.1016ミリメートル)の厚さで、望ましくは、約1〜3ミル(=約0.0254〜0.0762ミリメートル)の厚さである。
【0041】
湿潤層は、任意の適当な湿潤性セパレータ材料から形成可能である。湿潤層は、通常、比較的高い空隙率、たとえば、約50〜85%の空隙率、を有する。例としては、ナイロン系等のポリアミド材料や湿潤性ポリエチレンおよびポリプロピレン材料等が挙げられる。ある実施形態において、湿潤層は約1〜10ミル(=約0.0254〜0.254ミリメートル)の厚さであり、望ましくは、約3〜6ミル(=約0.0762〜0.1524ミリメートル)の厚さである。湿潤材料として利用可能なセパレータ材料の例としては、NKK VL100(日本、東京都のエヌケイケイ株式会社(NKK Corporation)、Freudenberg FS2213E、Scimat 650/45(英国、スウィンドン、SciMAT社)およびVilene FV4365が挙げられる。
【0042】
当技術分野で周知の他のセパレータ材料を用いるようにしてもよい。前述したように、非常に多くの場合、ナイロン系材料および微細孔ポリオレフィン(たとえば、ポリエチレンやポリプロピレン)が好適に用いられる。
【0043】
電極/セパレータ設計において他に考慮するべきことは、電極および集電シートとほぼ同じ幅のシートをセパレータとして用いるか、あるいは、セパレータ層に1つまたは両方の電極を入れ込むか、である。後者の場合には、セパレータは、電極シートの一方を入れる「バッグ」として機能し、電極層を封入する。一部の実施形態において、セパレータ層に負極を封入することにより、デンドライト形成を抑制する効果が高まる。ただし、他の実施形態において、電極を封入することなく、バリア層シートを用いることによって、デンドライトの侵入を十分に防ぐことができる。
【0044】
電解質
ニッケル亜鉛電池に関する実施形態において、電解質組成は、亜鉛電極内でのデンドライトの形成および他の形態の物質再分配を抑制するものである。好適な電解質の例が、参照することにより本明細書に組み込まれる1993年6月1日にM. Eisenbergに交付された米国特許No. 5,215,836に記載されている。たとえば、電解質には(1)アルカリまたはアルカリ土類水酸化物、(2)可溶性アルカリまたはアルカリ土類フッ化物、および(3)ホウ酸塩、ヒ酸塩および/またはリン酸塩(たとえば、ホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウムおよび/またはリン酸ナトリウムまたはカリウム)が含まれる。ある特定の実施形態において、電解質は、約4.5〜10当量/リットルの水酸化カリウムと、約2〜6当量/リットルのホウ酸またはメタホウ酸ナトリウムと、約0.01〜1当量のフッ化カリウムと、を含有する。高率用途に適した電解質は、約8.5当量/リットルの水酸化物と、約4.5当量のホウ酸と、約0.2当量のフッ化カリウムとを含有する。
【0045】
本発明は、Eisenberg特許に提示された電解質組成に限定されるものではない。一般に、対象用途に沿った基準を満たす電解質組成であればよい。高出力用途の場合には、電解質には非常に高い導電性が求められる。長いサイクル寿命が必要とされる場合には、デンドライト形成に対する抵抗性が高い電解質が求められる。本発明において、適当なセパレータ層と共にホウ酸塩および/またはフッ化物を含有するKOH電解質を用いることによりデンドライトの形成を抑制し、より強く寿命の長い電池を得ることができる。
【0046】
特定の実施形態において、電解質組成は、約3〜5当量/リットルの過剰な水酸化物(たとえば、KOH、NaOHおよび/またはLiOH)を含有する。この場合、負極は酸化亜鉛系の電極になる。亜鉛酸カルシウム負極の場合には、別の電解質組成が適していると考えられる。たとえば、亜鉛酸カルシウムに適した電解質の組成は、約15〜25重量%のKOHと約0.5〜5.0重量%のLiOHとを含有する。
【0047】
さまざまな実施形態において、電解質は、液体およびゲルを含むものでもよい。ゲル電解質は、オハイオ州クリーブランドのNoveon社から市販されているCARBOPOL(登録商標)等の増粘剤を含有するものでもよい。好適な実施形態において、活性電解質材料の一部がゲル形状である。特定の実施形態において、約5〜25重量%の電解質がゲル状であり、このゲル組成は約1〜2重量%のCARBOPOL(登録商標)を含有する。
【0048】
先に参照した米国特許公報US20060127761で説明されているように、たとえば、電解質が比較的高濃度のリン酸イオンを含有するものでもよい。
【0049】
負極
ニッケル亜鉛電池に適用される負極は、1つまたは複数の電気活性亜鉛または亜鉛酸イオン源を備え、さらに、必要に応じて、以下に記載する導電率向上物質、腐食阻害剤、湿潤剤等の、1つまたは複数の追加の材料を含有する。電極の製造時に、クーロン容量、活性亜鉛の化学組成、空隙率、屈曲度等の物理的、化学的および形態学的特性により電極を特徴づけることができる。
【0050】
ある実施形態において、電気化学的に活性な亜鉛源は、酸化亜鉛、亜鉛酸カルシウム、金属亜鉛およびさまざまな亜鉛合金からなる成分のうち1つまたは複数成分を含有するものでもよい。このような材料のうち任意のものが、製造時に提供される、および/または、正常な電池サイクルの間に形成されるものでもよい。たとえば、亜鉛酸カルシウムは、たとえば、酸化カルシウムと酸化亜鉛とを含有するペーストまたはスラリーから生成されるものでもよい。金属亜鉛粒子が、電池サイクルの間、導電性マトリックスを形成し、これを維持するものでもよい。
【0051】
亜鉛合金を用いる場合には、ある実施形態において、亜鉛合金がビスマスおよび/またはインジウムを含有するものでもよい。ある実施形態で、亜鉛合金が最大で約20ppmの鉛を含有し、別の実施形態で、最大で約10ppmの鉛を含有するものでもよい。この組成要件を満たす市販の亜鉛合金源としては、カナダのNoranda株式会社により提供されているPG101が挙げられる。
【0052】
亜鉛活性材料は、たとえば、粉末形状でも顆粒状の組成でもよい。亜鉛電極ペースト配合組成に用いられる各成分が比較的小さな粒径であることが望ましい。これにより、負極と正極との間のセパレータに粒子が侵入し損傷を与える可能性を低減できる。
【0053】
電気化学的に活性な亜鉛化合物に加えて、負極が、電極内における所定の工程、たとえば、イオン輸送、電子輸送(たとえば、導電性を増大させる物質)、湿潤性、空隙率、構造の一体化(たとえば、結合性)、ガス発生、活性材料の溶解度、バリア特性(たとえば、電極から放出される亜鉛の量を削減)、腐食阻害等、を促進するまたは影響を与えるような1つまたは複数の追加の材料を含有するものでもよい。
【0054】
たとえば、一部の実施形態において、負極が、酸化ビスマス、酸化インジウムおよび/または酸化アルミニウム等の酸化物を含有する。酸化ビスマスおよび酸化インジウムは、亜鉛と相互に作用して、電極におけるガス発生を抑制する。酸化ビスマスは、約1〜10重量%の濃度で、乾燥状態の負極配合組成に含有されるものでもよい。酸化ビスマスにより、水素と酸素の再結合が促進される。また、約0.05〜1重量%の濃度で、酸化インジウムが乾燥状態の負極配合組成に含有されるものでもよい。さらに、約1〜5重量%の濃度で、酸化アルミニウムが乾燥状態の負極配合組成に含有されるものでもよい。
【0055】
ある実施形態において、1つまたは複数の添加物を含有させて、亜鉛電気活性材料の腐食抵抗性を向上させることにより、保存可能期間を長くするようにしてもよい。保存可能期間は、電池の商業的な成功または失敗に不可欠な要因である。電池は本来化学的に不安定な装置であるという認識のもとに、化学的に有用な形態で、負極を含む電池の構成要素を保存するための対策が講じられている。数週間または数カ月にわたって使用されない場合にかなりの程度まで電極物質が腐食または劣化する場合には、保存可能期間が短いため、電池の価値は限られたものとなる。発明者らは、少量の鉛およびスズを加えることが、亜鉛の腐食抵抗性の向上に非常に有効であることを見出した。
【0056】
Chireauらは、米国特許4,118,551で、鉛塩およびカドミウム塩を使用することにより亜鉛の腐食が抑制されると記載している。鉛および/またはスズを添加する本発明の方法は、亜鉛の腐食を抑制するだけではなく、サイクル寿命および負極を形成するための製造混合物(たとえば、スラリーまたはペースト)の安定性を向上させることができる。Chireauに開示される量よりもかなり少量の鉛を加えることにより、このような効果が得られる。Chireauの方法では約1重量%の鉛が必要であるのに対して、本発明の方法で添加される鉛の量は0.02重量%に過ぎない。
【0057】
さまざまな実施形態において、亜鉛負極は、最初に亜鉛粒子を処理して、残りのペースト成分と混合し、亜鉛電極内にペーストを含有させることにより形成される。第1の工程で、亜鉛粒子を鉛および/またはスズで被覆するようにしてもよい。液体媒体中で、望ましくは、水中で、可溶性鉛源および/または可溶性スズ源を亜鉛粒子に添加する。結合剤および分散剤をさらに加えて、被覆亜鉛粒子スラリーを形成するようにしてもよい。可溶性鉛は、酢酸鉛、塩化鉛、フルオロホウ酸鉛および硝酸鉛のうち1つまたは複数でもよい。可溶性スズは、硫酸スズ、酢酸スズ、塩化スズ、フルオロホウ酸スズおよび硝酸スズのうち1つまたは複数でもよい。可溶性鉛および可溶性スズは、予め混合して一緒に添加してもよいし、別々に添加するものでもよく、粉末形状でも予め溶解させた状態で添加するものでもよい。ある実施形態において、被覆亜鉛粒子を予め形成して、最初の処理工程で分散させる。
【0058】
ある実施形態において、負極に用いられる非被覆金属亜鉛(または亜鉛合金)粉末粒子は、粒径が約40ミクロン未満、あるいは、粒径が約25ミクロン未満、あるいは、粒径が約5〜15ミクロンである。場合によっては、ふるいを通して、粒径により粉末粒子を選択するようにしてもよい。粒子はさまざまな形状およびアスペクト比を有するため、亜鉛粒子の「粒径」を、粒子の最小限の大きさと見なすようにしてもよい。適切な亜鉛合金粒子には、鉛、ビスマスおよびインジウムの亜鉛合金が含まれる。
【0059】
被覆工程の後、金属亜鉛粒子は完全に被覆されていても、部分的に被覆されていてもよい。鉛被膜は、被覆された亜鉛粒子の約0.25重量%未満でもよい。スズ被膜は、被覆された粒子の約5重量%未満でもよい。金属亜鉛粒子は、乾燥状態のペーストの5〜30重量%または約20重量%でもよい。したがって、乾燥状態のペースト内の鉛の濃度は約0.08重量%未満または約0.05重量%未満であり、乾燥状態のペースト内のスズ被膜は約1.5重量%未満または約1重量%未満でもよい。
【0060】
可溶種(スズおよび/または鉛)が完全に溶解して、被覆反応に適した時間が経過し、所望の濃度が得られた後、スラリーまたはペーストに残りの亜鉛電極構成成分を混ぜるようにしてもよい。ここで留意するべきことは、溶解した鉛塩およびスズ塩の一部がスラリー内に残っている可能性があることである。残りの亜鉛電極構成成分には、酸化亜鉛が含まれ、さらに、必要に応じて、酸化ビスマス、アルミナ、インジウム、フッ化カリウムやカルシウムが含まれる。この段階でさらに亜鉛粒子を加えるようにしてもよい。これら残りの亜鉛電極構成成分は、粉末の形態で予め混合しておくようにしてもよい。このようにして負極ペーストまたはスラリーが形成され、負極基材を被覆する。このペースト中に、鉛は望ましくは0重量%〜0.05重量%、また、スズは望ましくは0重量%〜1重量%含有される。
【0061】
ある実施形態において、結果に影響を及ぼすことなく、上述したさまざまな工程を変更することも可能である。たとえば、ペーストの凝集を抑制するように処理を変化させるようにしてもよい。ある実施形態において、凝集抑制処理は、まず、結合剤、分散剤および酢酸鉛を、たとえば約5分間、ミキサーで混合する。結合剤として、たとえば、ヒドロキシエチルセルロースを用いることができる。分散剤として、たとえば、日本、京都のサンノプコ株式会社(San Nopco Ltd.)から市販されているNopcosperse等の市販の酸化物分散剤を用いることができる。この最初の混合後に、残りの亜鉛電極構成成分を、予め混合した粉末形態でミキサーに加える。残りの成分は、酸化亜鉛、亜鉛粉末、アルミナ、酸化ビスマス、インジウム、フッ化カリウムやカルシウムを含むものでもよい。これらの成分を高回転数で(たとえば、2000rpm以上)約5分間混合する。最後に、予め溶解させたスズ塩、たとえば、硫酸スズをゆっくりと混合物に加える。バッチ全体をさらに最大25分間混合するようにしてもよい。この凝集抑制処理で加えた溶解スズ塩は、もっと早い段階でスズ塩を加えた場合ほどには、亜鉛粒子を被覆しないと考えられ、したがって、鉛被覆が酸化還元電位の主要因となっていると考えられる。
【0062】
他の実施形態において、最初の混合物には、亜鉛粒子が含まれず、可溶性酢酸スズが含有されるものでもよい。この場合、亜鉛粒子は、主要混合工程で加えられる。亜鉛粒子が他の構成成分と共に加えられるとしても、亜鉛粒子は鉛および/またはスズで適切に被覆される、と考えられる。
【0063】
可溶性スズ塩および/または鉛塩を添加することにより、混合物に用いられる亜鉛粉末が被覆されて、腐食または他の混合成分との望ましくない反応を阻害する、と考えられる。この理論に縛られるつもりはないが、腐食抑制の一つの態様は、鉛およびスズをコバルトと合金化することである。得られた合金は、亜鉛腐食反応に対する触媒活性が低い。腐食抑制の別の態様は、亜鉛粒子を物理的に被覆して、亜鉛粒子の表面で腐食反応が生じないようにすることである。ここで留意するべきことは、亜鉛粒子の被覆処理により亜鉛と鉛またはスズとの合金が形成されるとは考えられていないことである。この反応は、亜鉛粒子表面上での置換反応であると思われる。
【0064】
電解質中の亜鉛溶解度を減少させるために含有されるアニオン(陰イオン)の例としては、リン酸イオン、フッ化物イオン、ホウ酸イオン、亜鉛酸イオン、ケイ酸イオン、ステアリン酸イオン等が挙げられる。一般に、これらのアニオンは、乾燥状態の負極組成の最大約5重量%の濃度で、負極中に含有されるものでもよい。これらのアニオンの少なくとも一部は、電池のサイクル時に溶液内に溶けだし、亜鉛の溶解度を減少させると考えられる。これらの材料を含有する電極組成の例が、各々、あらゆる目的で参照することにより本明細書に組み込まれる、以下の特許および特許出願に記載されている。2004年9月28日に交付されたJeffrey Phillipsによる「Negative Electrode Formulation for a Low Toxicity Zinc Electrode Having Additives with Redox Potentials Negative to Zinc Potential(亜鉛電位に対して負の酸化還元電位を持つ添加物が含有された低毒性の亜鉛電極用の負極組成)」という名称の米国特許No. 6,797,433、2004年12月28日に交付されたJeffrey Phillipsによる「Negative Electrode Formulation for a Low Toxicity Zinc Electrode Having Additives with Redox Potentials Positive to Zinc Potential(亜鉛電位に対して正の酸化還元電位を持つ添加物が含有された低毒性の亜鉛電極用の負極組成)」という名称の米国特許No. 6,835,499、2004年11月16日に交付されたJeffrey Phillipsによる「Alkaline Cells Having Low Toxicity Rechageable Zinc Electrode(低毒性で再充電可能な亜鉛電極を備えるアルカリ電池)」という名称の米国特許No. 6,818,350、および、Hallらにより2002年3月15日に出願されたPCT/NZ02/00036(公報WO02/075830)。
【0065】
負極に加えて湿潤性を向上可能な物質の例として、酸化チタン、アルミナ、シリカやアルミナとシリカとの混合物が挙げられる。一般に、このような物質は、乾燥状態の負極組成の最大約10重量%の濃度まで含有できる。このような物質の詳細に関しては、あらゆる目的で参照することにより本明細書に組み込まれる、2004年11月2日に交付されたJeffrey Phillipsによる「Formulation of Zinc Negative Electrode for Rechargeable Cells Having an Alkaline Electrolyte(アルカリ電解質を含有する充電式電池用の亜鉛負極の組成)」という名称の米国特許No. 6,811,926に記載されている。
【0066】
負極に加えて電子伝導度を向上可能な物質として、固有の高い電子伝導度を有するさまざまな電極適合物質を用いることができる。具体的な例としては、酸化チタン等が挙げられる。一般に、このような物質は、乾燥状態の負極組成の最大約10重量%の濃度まで含有できる。正確な濃度は、当然のことながら、選択した添加物の特性によって決まる。
【0067】
結合、分散および/またはセパレータの代用を目的として、さまざまな有機物質を負極に加えることができる。このような物質の例として、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、遊離酸型カルボキシメチルセルロース(HCMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルアルコール(PVA)や(日本、京都のサンノプコ株式会社から市販されている)ノプコスパース(nopcosperse)分散剤が挙げられる。ここで留意するべきことは、電極製造時に加えた有機物質の一部は、電池の最終的な組立より前に除去される可能性があることである。一部の実施形態において、製造途中の電極を加熱して有機物質を燃焼させることにより、有機物質の少なくとも一部が除去される。
【0068】
ある実施形態において、セパレータに損傷を与える可能性のある電極内部の尖った粒子や大型の粒子を埋め込む目的で、PSSやPVA等の高分子物質を、(被覆とは対照的に)ペースト組成に混合するようにしてもよい。
【0069】
本明細書で電極組成を規定する場合、一般に理解されるように、製造時に生成される組成(たとえば、ペースト状、スラリー状または乾燥状態の製造配合組成)のみならず、形成サイクル中または形成サイクル後や、携帯用工具に電源を供給する時等、電池使用時における1回または複数回の充電−放電サイクル中または充電−放電サイクル後に得られる組成も含まれる。
【0070】
本発明の要旨の範囲内のさまざまな負極組成に関しては、参照することにより、各々、本明細書に組み込まれる、PCT公報WO02/039534(J. Phillips)や先に引用した公報に記載されている。上述の引例に記載されている負極添加物には、たとえば、シリカや様々なアルカリ土類金属、遷移金属、重金属および貴金属のフッ化物が含まれる。
【0071】
正極
高出力高エネルギーニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池およびニッケル亜鉛電池において、正極として水酸化ニッケル電極が用いられてきた。ペースト状の水酸化ニッケル電極は、通常、水酸化ニッケル、コバルト/コバルト化合物粉末、ニッケル粉末および結合物質を含有する。コバルト化合物は、ニッケル電極の伝導性を増大させるために加えられている。ただし、上述したように、このコバルト化合物は、亜鉛負極に移動すると、悪影響を与える。
【0072】
さまざまな実施形態において、正極組成は、酸化ニッケル粒子とコバルトとを含有するものでもよい。電気活性な酸化ニッケル(たとえば、Ni(OH)2)電極材料を支持するために、ニッケル発泡体マトリックスが好適に用いられる。発泡体基材の厚さは、たとえば、15〜60ミル(=0.381〜1.524ミリメートル)である。電気化学的に活性な電極物質および他の電極物質で充填されたニッケル発泡体を備える正極の厚さは、約16〜24ミル(=約0.406〜0.610ミリメートル)の範囲であり、望ましくは約20ミル(=約0.508ミリメートル)の厚さである。一実施形態において、密度が約350g/m2で厚さが16〜18ミル(=約0.406〜0.457ミリメートル)の範囲のニッケル発泡体が用いられる。
【0073】
正極は、一般的に、電気化学活性な酸化ニッケルまたは水酸化ニッケルと、製造や電子輸送を容易にし、湿潤性や力学特性等を向上させる1つまたは複数の添加物と、を含有する。たとえば、正極組成が、水酸化ニッケル粒子と、酸化亜鉛と、酸化コバルト(CoO)と、金属コバルトと、金属ニッケルと、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のチキソトロピック剤と、を含有するものでもよい。ここで留意するべきことは、金属ニッケルおよび金属コバルトは、純金属でも合金でもよい。正極は、これらの物質とテフロン懸濁液等の結合剤とを含有するペーストから形成されるものでもよい。
【0074】
ある実施形態において、電池は、非ニッケル正極を備える。当然のことであるが、正極の組成は、選択された電池システムによって決まる。たとえば、銀亜鉛電池や亜鉛空気電池のシステムで用いられる正極物質は、Ni−Zn電池で用いられるものとは全く異なっている。銀亜鉛電池システムでは、正極として酸化銀が用いられるのに対して、亜鉛空気電池では、酸素還元−生成用の触媒を含有するガス拡散電極が用いられる。これらの正極のいずれかを本明細書で記載する種類の亜鉛負極と共に用いることもできる。
【0075】
実験
以下に示す組成で、スズおよび鉛の組み合わせを含有するものと含有しないものの2種類のスラリーを調製した。
【0076】
組成1(図1の103)は、粘着性酢酸鉛−硫酸スズ(PbAc-SnSO4)群と称し、300重量部のZnOと、97重量部のBi2O3と、20重量部のヒドロキシエチルセルロースと、2100重量部の水と、60%のテフロン結合剤を含有する240重量部のスラリーと、600重量部の金属亜鉛粉末と、55%の鉛を含有する1.4重量部の鉛塩と、55%のスズを含有する40重量部のスズ塩とを含む。
【0077】
組成2(図1の101)は、粘着性対照群と称する。スズと鉛が添加されていないことを除けば、組成1と同じである。
【0078】
図3に、スラリーを20rpmで穏やかに攪拌して、これら2種類の組成の粘度安定性の時間変化を比較した図を示す。図示するように、組成2(プロット303)では、対照群と比べて、粘度がより均一に維持されていた。2つの組成は、最初はほとんど同じ粘度であるが、対照群ペースト301では、最初の1時間で粘度が大きく増大した後、ほぼ一定に保持された。たった1時間で粘度が増大することにより、1時間後にペーストの作業性が減少して、製造性が低下する。
【0079】
図4Aに示すように、亜鉛粒子を鉛で被覆することに伴う腐食抑制の実験を行なった。0.015gの酢酸鉛水和物を含有する溶液を用いて、約25ミクロン未満の粒径の亜鉛粉末5グラムを鉛で被覆した。鉛で被覆された亜鉛を、次に、760gのH2O、1220gの45%水酸化カリウム溶液、84.7gのリン酸ナトリウム(Na3PO4・12H2O)、59gの水酸化ナトリウム、16.8gの水酸化リチウムおよび3.2gの酸化亜鉛(ZnO)の組成の溶液中に浸した。混合物の温度を60℃まで上げて、亜鉛の腐食により発生したガスを集めて測定した。同じ溶液中に非被覆の亜鉛を浸したものを対照群として、同様のテストを行なった。図4Aに、対照混合物と、鉛被覆亜鉛を含有する混合物と、に同様のガステストを行なった結果を示す。この結果から、鉛被覆は腐食に影響を与えないことがわかる。
【0080】
次に、0.05%のCo(OH)2を加えた同様の電解質を用いて、再び比較を行なった。結果を図4Bに示す。非被覆の亜鉛粒子を含有する対照サンプルでは、3.3cc/時の水素ガスが発生した。これに対して、鉛被覆亜鉛粒子を含有するサンプルでは、0.25cc/時の水素ガスが発生した。ここで留意するべきことは、亜鉛腐食に対するコバルトの触媒作用により、図4Aのガステストの結果と比べてガス発生が多いことである。鉛被覆亜鉛含有混合物のガス発生速度は、非被覆亜鉛を含有する対照混合物のガス発生速度と比較すると10分の1未満であった。この結果から、鉛被覆亜鉛粒子を用いることにより、腐食に対する混入物質の触媒作用がかなり抑制されたことがわかる。
【0081】
スズと鉛の濃度を変化させる一方、他のすべての成分を同じにした負極ペーストを用いて、標準的なsubC電池を作成した。電池に用いた電解質の組成は、760gのH2O、1220gの45%水酸化カリウム溶液、84.7gのリン酸ナトリウム(Na3PO4・12H2O)、59gの水酸化ナトリウム、16.8gの水酸化リチウムおよび3.2gの酸化亜鉛(ZnO)であった。UBE製の50ミクロンの微細孔セパレータと、セルロース−ポリビニルアルコールウィッキング・セパレータとを2つの電極間に用いた。
【0082】
次に、電池サイクルとガス発生の抑制に関して、電池のテストを行なった。粒子間伝導性を与えるコバルト(III)被覆層を含む水酸化ニッケルを含有する正極を調製した。金属コバルト粉末(2%)およびニッケル粉末(9%)を正極ペースト状混合物に加えることにより、高放電率になるように伝導度を増大させた。電池充填と最初の形成サイクル充電との間の1〜2時間の浸漬時間の間に、添加したコバルトが溶解し、負極に移動する。
【0083】
上述した電池を、すべて同じ方法で形成した。電池の形成は、初充電を意味する。各電池を91mAで20.5時間充電し、1Aで1.0Vまで放電させた。次に、電池を0.1Aで18時間、0.075Aで6.5時間充電した。
【0084】
以下の表に、スズおよび鉛を別々にまたは一緒に用いることにより、電池に含まれる亜鉛電極のガス発生が抑制された例を示す。腐食の効果を促進するためにテストを60℃で行なった。電池を開き、鉱油を入れたメスシリンダーを逆さまにして、その下に開いた電池を置いた。メスシリンダーで捕集したガスを記録した。このガスをガスクロマトグラフで分析したところ、水素が大部分を占めていた。このことから、ガスは、以下に示す反応により電解質内のアルカリと亜鉛が反応した結果発生したと考えられる。
【0085】
【表1】

【0086】
表1に2セットの比較テストの結果を示す。いずれのセットにおいても、対照電池と負極ペースト中に0.05%の鉛を含有する電池とを比較した。亜鉛粒子を酢酸鉛で被覆することにより、負極に鉛を添加した。一方のセットでは、ガス発生は58%減少した。もう一方のセットでは、ガス発生は71%減少した。
【0087】
【表2】

【0088】
表2に示すように、6セットの比較を行なった。これらのセットでは、参照電池と負極にスズを含有する電池とを比較した。亜鉛粒子を硫酸スズで被覆することにより、負極にスズを添加した。5つのセットで、負極ペーストに0.5%のスズを含有させ、1つのセットで、負極ペーストに0.25%のスズを含有させた。スズ濃度が高い電池ではガス発生の減少率が約50〜80%であるのに対して、スズ濃度が低い電池ではガス発生の減少率が24%であった。表2の結果から、スズの被覆量が多ければ、亜鉛腐食抑制効果が増大することがわかる。
【0089】
【表3】

【0090】
表3に、鉛とスズの濃度を変えた5セットのデータを示す。2つの濃度レベルで鉛を、また、ほぼ2つの濃度レベルでスズを含有させた群を、鉛やスズを含有しない群と比較した。各セットで、有意なガス発生抑制効果が見られた。硫酸スズの濃度が0.5%で、鉛の濃度が0.05%または0.018%の場合に最も高いガス発生の抑制効果が見られた。ここで留意するべきことは、これらの電池で用いられた低濃度の鉛の濃度レベルは、RoHSの環境基準による禁止レベル未満であることである(特定有害物質使用制限指令により、均質物質中で1000ppmを越える鉛の使用が禁止されている)。このような少量(約400ppm以下)の鉛被覆は、亜鉛腐食の抑制に有用である。表1〜3の結果を図5にまとめて示す。
【0091】
亜鉛粒子を被覆する代わりに、酸化スズを負極混合物に直接添加した実験を行なった。ペースト混合物に酸化スズを直接加えた場合には、ガス発生速度を抑制する効果はなかった。表4に、0.5%の酸化スズを加えた参照群のガス発生速度と、加えていない参照群のガス発生速度と比較した結果を示す。この結果から、参照群のガス発生速度と、直接酸化スズを加えた電池のガス発生速度とがほぼ同じであることがわかる。
【0092】
【表4】

【0093】
上述したように製造したさまざまな電池に対して、室温で、高放電率サイクルテストを行なった。各電池を2Aで1.9Vの一定電圧まで充電した。この電圧を90mAの充電終了電流まで維持した後、10Aで1.0Vの放電終了電圧まで放電させた。サイクル数8、56、106、156等では、1.0Vの放電終了電圧まで20Aで放電させた。10Aおよび20Aの放電は、丸のこ等の高出力工具を使用する際の高放電率に一致するものである。
【0094】
図6A、図6Bおよび図7に、鉛およびスズを個別に添加した場合、および、両方を組み合わせて添加した場合の電池サイクルの向上例を示す。次に、これらの電池を、スズおよび鉛を添加していない電池である対照電池と比較したところ、いずれの場合にも、サイクル寿命の向上が見られた。図6Aに、対照電池(プロット403)と鉛を0.05%の濃度で含有した鉛被覆亜鉛粒子を用いて作成した電池(プロット401)との比較を示す。どちらの電池も、サイクル数150近辺までは、ほぼ同様の挙動を示したが、鉛被覆亜鉛を用いた電池の方が、安定した放電容量を長く持続させることができた。対照電池の方が早く機能を失い、より速い速度で劣化した。図6Bに、対照電池(407)とスズ被覆亜鉛粒子(405)を用いた電池(405)との比較を示す。スズは、硫酸スズの形で添加され、スズ濃度は0.507%であった。スズ被覆亜鉛を用いた電池(405)の方が、放電容量を長く持続させることができた。スズ被覆亜鉛を用いた電池(405)の方が、初期放電容量がわずかに低いように見えるが、放電容量の減少速度が遅かった。
【0095】
図7に、対照電池と負極ペーストに0.018%の鉛と0.254%のスズとを含有した電池とを比較した結果を示す。この比較から、スズおよび鉛で被覆した亜鉛粒子を含有する電池は、高い放電容量を備えることがわかる。また、これらの図から、亜鉛粒子を鉛または鉛とスズとで被覆することによりサイクル性能が向上することがわかる。
【0096】
上述したように、添加物を加える効果は、負極に混入させたコバルトの触媒作用を抑制することにあると思われる。金属コバルトまたは酸化コバルト(II)のいずれかをペーストに加えたペースト状正極で最も効果があると考えられるが、水酸化ニッケル粒子の表面上で主にコバルト(III)の形でコバルトが存在するニッケル亜鉛電池でも効果が期待できる。この物質は、アルカリ電解質では比較的溶けにくいが、数時間浸漬後に、コバルトの一部が負極に移動すると考えられる。このような場合、表面のコバルトが完全には酸化されない、または、正極内に含まれる他の物質により、時間と共に、可溶性酸化コバルト(II)に還元された、と考えられる。
【0097】
結論
充電式ニッケル亜鉛電気化学電池用のスラリー被覆亜鉛電極を形成する際に少量の鉛塩およびスズ塩をペースト混合物に添加することは、ペーストの製造性を向上させると共に、最終的な電池構成において亜鉛腐食を抑制する等、多くの効果がある。もっと具体的に言えば、スラリー混合物の「ポットライフ」(可使時間)を4時間以上延ばすことができた。この理論に縛られるつもりはないが、添加することにより、混合物で用いられている亜鉛粉末を被覆して、亜鉛の腐食または他の混合物成分との望ましくない反応を阻害すると考えられる。この結果、電池の組み立ておよび形成後に電池内で発生する水素の量を有意に減少させる。亜鉛の腐食により発生する水素を最大で80%減少させることができた。鉛および/またはスズは、水素発生反応に対するコバルトの触媒作用を抑制すると考えられる。また、添加により、電池のサイクル時に見られる放電容量の連続的な減少を抑制する効果もある。所定容量値に対するサイクル寿命を33%向上させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電式ニッケル亜鉛電池であって、
亜鉛粉末粒子を含有する亜鉛負極を備え、
前記亜鉛粉末粒子は粒径が約100ミクロン未満であり、かつスズおよび/または鉛で被覆される、ニッケル亜鉛電池。
【請求項2】
請求項1に記載のニッケル亜鉛電池であって、
前記鉛は、前記亜鉛負極の活性物質の約0.05重量%未満含有される、ニッケル亜鉛電池。
【請求項3】
請求項1に記載のニッケル亜鉛電池であって、
前記スズは、前記亜鉛負極の活性物質の約1重量%未満含有される、ニッケル亜鉛電池。
【請求項4】
請求項1に記載のニッケル亜鉛電池であって、
さらに、金属コバルトおよび/またはコバルト化合物を含有するニッケル正極を備える、ニッケル亜鉛電池。
【請求項5】
請求項4に記載のニッケル亜鉛電池であって、
前記コバルトは、水酸化ニッケル粒子上に被覆される酸化コバルト、水酸化コバルト、および/または、オキシ水酸化コバルトである、ニッケル亜鉛電池。
【請求項6】
請求項4に記載のニッケル亜鉛電池であって、
前記コバルトは、金属コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト、および/または、オキシ水酸化コバルトの粒子を含み、
前記正極が、さらに、水酸化ニッケル粒子を含有する、ニッケル亜鉛電池。
【請求項7】
請求項1に記載のニッケル亜鉛電池であって、
前記亜鉛粉末粒子は、粒径が約40ミクロン未満である、ニッケル亜鉛電池。
【請求項8】
亜鉛負極を作成する方法であって、
(a)金属亜鉛粒子上に鉛および/またはスズを被覆し、
(b)前記被覆された亜鉛粒子と、酸化亜鉛と、酸化ビスマスと、分散剤と、結合剤と、液体と、からペーストを形成し、
(c)前記ペーストを亜鉛電極内に加える、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
前記被覆は、少なくとも1種類の可溶性スズ塩および/または少なくとも1種類の可溶性鉛塩を含有する溶液に、前記金属亜鉛粒子を接触させることを含む、方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法であって、
さらに、予め溶解させたスズ塩溶液を、前記ペーストに加えることを含む、方法。
【請求項11】
請求項8に記載の方法であって、
前記金属亜鉛粒子上へのスズの被覆は、硫酸スズ、酢酸スズ、塩化スズ、フルオロホウ酸スズおよび硝酸スズからなる群から選択される少なくとも1種類の可溶性スズ塩を含有する溶液に、前記金属亜鉛粒子を接触させることを含む、方法。
【請求項12】
請求項8に記載の方法であって、
前記金属亜鉛粒子上への鉛の被覆は、酢酸鉛、塩化鉛、フルオロホウ酸鉛および硝酸鉛からなる群から選択される少なくとも1種類の可溶性鉛塩を含有する溶液に、前記金属亜鉛粒子を接触させることを含む、方法。
【請求項13】
請求項8に記載の方法であって、
前記ペーストに含まれる前記鉛の濃度は、最大で約0.05重量%である、方法。
【請求項14】
請求項8に記載の方法であって、
前記ペーストに含まれる前記スズの濃度は、最大で約1重量%である、方法。
【請求項15】
請求項8に記載の方法であって、
前記ペーストは、さらに、溶解させたスズ塩を含有する、方法。
【請求項16】
請求項8に記載の方法であって、
前記金属亜鉛粒子は、粒径が約40ミクロン未満である、方法。
【請求項17】
製造された亜鉛電極であって、
酸化亜鉛と、鉛および/またはスズで被覆された亜鉛粒子と、酸化ビスマスと、結合剤とを含有する活性物質層と、
導電性基材層と、を備える亜鉛電極。
【請求項18】
請求項17に記載の電極であって、
前記活性物質に含まれる前記鉛の濃度は、約0.05重量%未満である、電極。
【請求項19】
請求項17に記載の電極であって、
前記活性物質に含まれる前記スズの濃度は、約1重量%未満である、電極。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−527733(P2012−527733A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511964(P2012−511964)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/035266
【国際公開番号】WO2010/135331
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511262359)パワージェニックス・システムズ・インコーポレーテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】POWERGENIX SYSTEMS, INCORPORATED
【Fターム(参考)】