説明

先行切梁工法及び先行切梁接合構造

【課題】拡幅時の支保工となる切梁を、掘削工程に影響なくトンネル内から少ない工費で効率良く施工でき、また、切梁をトンネルの覆工部材に安定して接合できることにより、トンネルの変位を招くことがない先行切梁工法を提供する。
【解決手段】並行する2本のシールドトンネル1・2間を拡幅する前に、一方のシールドトンネルから他方のシールドトンネルへ向けて先行切梁6を貫通させた後、先行切梁の両端部を、両シールドトンネル内でセグメントとの間に腹起し部材12を介在させて、両シールドトンネルのセグメントと接合する。先行切梁の端部を腹起し部材に接合し、腹起し部材を締結部材によりセグメントに締結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並行する2本のトンネル間を拡幅する(切り拡げる)に当たり、2本のトンネル間の支保工を先行して施工できる先行切梁工法、及び、先行切梁をトンネルの覆工部材に接合する先行切梁接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
並行する2本のシールドトンネル間に地下駐車帯や地下駅を構築するため、両シールドトンネル間を拡幅するトンネル間拡幅工法として種々の工法が提案されており、例えば特許文献1(特許第2566162号公報)や特許文献2(特許第3096652号公報)等に記載のものがある。
【0003】
特に特許文献1には、並行トンネル間を切り拡げるに当たり、左右一対の水平支持鋼材を伸縮可能に連結一体化して長さ調節自在とした上部切梁を、並行トンネル間の上部を掘削して設置した後、天井スラブを構築し、また、並行トンネルの床部間に下部切梁を設置した後、床部間に現場打ちコンクリートを打設して、並行トンネル間にわたる床を構築する工法が開示されている。
【0004】
この工法では、上部切梁及び下部切梁のいずれについても、並行トンネルに対して先行設置していなく、しかも、上部切梁は、並行トンネル間の上部を掘削して設置し、下部切梁は、並行トンネル間を掘削して、その掘削空間の両側のセグメントを撤去した後に設置するようになっている。また、切梁を並行トンネルのセグメントに接合するようになっていない。
【0005】
そのため、切梁の設置にも並行トンネル間の掘削が必要で、並行トンネルの変位が生じる問題がある。
【特許文献1】特許第2566162号公報
【特許文献2】特許第3096652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、並行する2本のトンネル間を拡幅する前に、拡幅時の支保工となる切梁を先行して施工できる工法であって、掘削工程に影響なくトンネル内から少ない工費で効率良く施工でき、また、切梁をトンネルの覆工部材に安定して接合できることにより、トンネルの変位を招くことがなく、大断面トンネルに対しても、経済性や作業性や安全性良く適用できる先行切梁工法及び先行切梁接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<請求項1に係る発明>
本発明の先行切梁工法は、並行する2本のトンネル間を拡幅する前に、一方のトンネルから他方のトンネルへ向けて先行切梁を貫通させた後、先行切梁の両端部を、両トンネル内で覆工部材との間に腹起し部材を介在させて、両トンネルの覆工部材と接合する。
【0008】
その好ましい形態は次のとおりである。
<請求項2に係る発明>
先行切梁の端部を腹起し部材に接合し、腹起し部材を締結部材により覆工部材に締結する。
<請求項3に係る発明>
先行切梁を鋼管等の鋼材として、推進工法により施工する。
【0009】
<請求項4に係る発明>
本発明の先行切梁接合構造は、トンネル内に設置された腹起し部材に先行切梁の端部を接合し、この腹起し部材を締結部材により覆工部材に締結する。
【0010】
その好ましい形態は次のとおりである。
<請求項5に係る発明>
腹起し部材がトンネルに沿って延び、1本の腹起し部材に対して複数本の先行切梁が接合されている。
【0011】
<請求項6に係る発明>
締結部材による腹起し部材の覆工部材への締結が、各先行切梁について、その周りの複数箇所で行われている。
【0012】
<請求項7に係る発明>
腹起し部材と覆工部材との間の隙間に詰め込み材が詰め込まれている。
<請求項8に係る発明>
締結部材がネジ付き鉄筋で、その先端部を、覆工部材に固定された接合片にピン結合されている。
【0013】
<請求項9に係る発明>
先行切梁が鋼管、腹起し部材が型鋼で、先行切梁である鋼管の端部に固着された接合板を、腹起し部材である型鋼のフランジに接合することにより、先行切梁が腹起し部材に接合されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明による効果を請求項ごとに挙げると次のとおりである。
<請求項1に係る発明>
並行する2本のトンネル間を拡幅する前に、先行切梁を両トンネル間に設置するので、拡幅時に支保工となる切梁を少ない工費及び工期で施工できる。先行切梁の両端部を、両トンネル内で覆工部材との間に腹起し部材を介在させて、両トンネルの覆工部材と接合するので、覆工部材に安定して接合でき、先行切梁から見て圧縮する方向及び引っ張る方向の両方向について、トンネルの変位を招くことがないのに加え、撤去も容易である。
従って、大断面トンネルに対しても、経済性や作業性や安全性良く適用できる。
【0015】
<請求項2に係る発明>
腹起し部材を締結部材により覆工部材に締結するので、先行切梁と覆工部材との接合が一層安定する。
【0016】
<請求項3に係る発明>
先行切梁を鋼管等の鋼材として、推進工法により施工するので、先行切梁をトンネル内より作業性良く経済的に施工できる。
【0017】
<請求項4に係る発明>
本発明の先行切梁接合構造によれば、先行切梁を覆工部材に力学的に安定して接合でき、先行切梁から見て圧縮する方向及び引っ張る方向の両方向について、トンネルの変位を招くことがないのに加え、撤去も容易である。
【0018】
<請求項5に係る発明>
腹起し部材がトンネルに沿って延び、1本の腹起し部材に対して複数本の先行切梁が接合されているので、先行切梁の接合を作業性良く経済的に行える。
【0019】
<請求項6に係る発明>
締結部材による腹起し部材の覆工部材への締結が、各先行切梁について、その周りの複数箇所で行われているので、先行切梁の端部及び覆工部材に偏荷重を与えることなく接合できる。
【0020】
<請求項7に係る発明>
腹起し部材と覆工部材との間の隙間に詰め込み材が詰め込まれているので、腹起し部材が覆工部材に向かって接近して行く方向(先行切梁から見て圧縮する方向)の動きを詰め込み材で拘束でき、これら腹起し部材と覆工部材との締結を安定して行える。
【0021】
<請求項8に係る発明>
締結部材をネジ付き鉄筋として、その先端部を、覆工部材に固定された接合片にピン結合するので、先行切梁から覆工部材に応力が掛かったとき、ピン結合部分で応力を逃がして覆工部材の損傷を回避できる。
【0022】
<請求項9に係る発明>
ありふれた資材と、ボルト・ナットや溶接による単純な接合手段によって、本発明による先行切梁接合構造を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、シールドトンネルに適用した本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0024】
図1に本発明を実施する拡幅区域の断面を示す。この例では、地下高速道路となる並行する2本のシールドトンネル1・2間を拡幅して分合流部とする場合を示し、パイプルーフによる上部支保工3が施工されているとともに、その両端に上部地盤改良4が施され、更にその両側に遮水壁5が施工されている。そして、上部支保工3の下側に、並行する2本のシールドトンネル1・2が施工されている。本発明の実施例である先行切梁工法は、この状態で、両シールドトンネル1・2間に先行切梁6を次のように貫通設置する。
【0025】
先行切梁6を施工する前に、図2に示すように、両シールドトンネル1・2の先行切梁貫通部分の周囲を防護するため、薬液注入等により事前に地盤改良して両シールドトンネル1・2に沿った先行防護域7・8を形成しておく。
【0026】
両シールドトンネル1・2の一方、例えば図3に示すようにシールドトンネル2内から、先行切梁6となる鋼管を、小口径泥水推進機9により公知の小口径泥水推進工法によって推進させて、他方のシールドトンネル1へ至る先行切梁6を貫通設置する。この後、各シールドトンネル1・2内において、先行切梁6の端部を覆工部材であるセグメントに次のように接合する。
【0027】
図4〜図9にシールドトンネル1側の先行切梁接合構造を示しているが、シールドトンネル2側は向きがこれと逆になるだけであるので、シールドトンネル1側についてだけ説明する。
【0028】
先行切梁6は鋼管であることから、その端部に、図8に示すように矩形の接合板10を溶接するとともに、更にその補強のために先行切梁6(鋼管)の外周面両側に補強リブ11も溶接する。
【0029】
H型鋼である腹起し部材12をシールドトンネル1の軸線と平行に設置し、そのフランジ12aに、先行切梁6の接合板10をボルト・ナットで緊締して、先行切梁6の端部を腹起し部材12と接合する。腹起し部材12は、シールドトンネル1に沿って長いため、図6に示すように、1本の腹起し部材12に対して複数本の先行切梁6を同様に接合する。
【0030】
シールドトンネル1の鋼製セグメント13の両端及び中間には主桁14が設けられ、セグメント13同士で接合する両端の主桁4の片面、及び中間の主桁14の両側面に、アングル材である孔付き接合片15が固着(溶接)されている。本例では、主桁14の左右上下で、腹起し部材12とセグメント13との締結を行うため、主桁14の側面のそれぞれにつき、孔付き接合片15が前後の位置も変えて上下2箇所に設けられている。
【0031】
腹起し部材12とセグメント13とは、孔付き接合片15のそれぞれにおいて締結部材であるネジ付き鉄筋16を用いて締結する。すなわち、孔付き接合片15のそれぞれに対しては、ネジ付き鉄筋16の先端部を、ピン結合とするために、孔付き接合片15の孔にルーズに挿通させて座金17を介してナット18で締め、腹起し部材12側では、反対側のフランジ12bに型材(鋼材)である孔付き当て材19を当て、その孔にネジ付き鉄筋16の後端部を挿通させて、座金20を介してナット21で締める。
【0032】
これにより腹起し部材12とセグメント13とはネジ付き鉄筋16にて締結され、各ネジ付き鉄筋16の先端は孔付き接合片15に揺動可能にピン結合されているため、セグメント13に無理な荷重がかからない。このような締結を先行切梁6の端部の周りの左右上下で行うとともに、先行切梁6と先行切梁6との間でも行う。
【0033】
腹起し部材12とセグメント13との締結を行う箇所(各主桁14)では、腹起し部材12のフランジ12aとセグメント13との間の隙間に、モルタル等の詰め込み材22を詰め込む。また、腹起し部材12のフランジ12aと先行切梁6の接合板10との接合部分については、両側のフランジ12a・12b間に補強材23を設置する。
【0034】
先行切梁6は、その両端部をこのように両シールドトンネル1・2のセグメント13に接合することにより、両シールドトンネル1・2を安定して連結する下部支保工となる。
【0035】
この先行切梁6による下部支保工は、図1において、パイプルーフによる上部支保工3の下側を掘削して、中間杭24を施工し、両シールドトンネル1・2間を掘削して拡幅し、躯体を構築した後に撤去するが、先行切梁6は上記のような接合構造であるため、容易に撤去できる。
【0036】
なお、上記の実施例では、先行切梁として鋼管、腹起し部材としてH型鋼、締結部材としてネジ付き鉄筋を用いたが、これに限られるものではなく、ネジ付き鉄筋に代えてPC鋼棒を用いても良い。
また、本発明はシールドトンネル以外のトンネルに対しても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を実施する拡幅区域の断面図である。
【図2】先行切梁の施工前に、両シールドトンネルの先行切梁貫通部分の周囲を防護するため地盤改良を行うことを示す断面図である。
【図3】先行切梁を小口径泥水推進工法によってシールドトンネル内から施工する状態を示す断面図である。
【図4】本発明による先行切梁接合構造の一例を示す鉛直方向の断面図である。
【図5】その拡大図である。
【図6】水平方向の断面図である。
【図7】その一部分の拡大図である。
【図8】腹起し部材のフランジと先行切梁の端部との接合部分の正面図である。
【図9】腹起し部材とセグメントとの間の隙間に詰め込み材を詰め込んだ状態の断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1・2 シールドトンネル
3 上部支保工
4 上部地盤改良
5 遮水壁
6 先行切梁
7・8 先行防護域
9 小口径泥水推進機
10 接合板
11 補強リブ
12 腹起し部材
12a・12b フランジ
13 セグメント
14 主桁
15 孔付き接合片
16 ネジ付き鉄筋
17 座金
18 ナット
19 孔付き当て材
20 座金
21 ナット
22 詰め込み材
23 補強材
24 中間杭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並行する2本のトンネル間を拡幅する前に、一方のトンネルから他方のトンネルへ向けて先行切梁を貫通させた後、先行切梁の両端部を、両トンネル内で覆工部材との間に腹起し部材を介在させて、両トンネルの覆工部材と接合することを特徴とする先行切梁工法。
【請求項2】
先行切梁の端部を腹起し部材に接合し、腹起し部材を締結部材により覆工部材に締結することを特徴とする請求項1に記載の先行切梁工法。
【請求項3】
先行切梁が鋼管等の鋼材で、推進工法により施工することを特徴とする請求項1又は2に記載の先行切梁工法。
【請求項4】
並行する2本のトンネル間を拡幅する前に、これら両トンネル間に貫通するように設置された先行切梁の両端部を、両トンネル内でその覆工部材に接合する先行切梁接合構造であって、トンネル内に設置された腹起し部材に先行切梁の端部を接合し、この腹起し部材を締結部材により覆工部材に締結したことを特徴とする先行切梁接合構造。
【請求項5】
腹起し部材がトンネルに沿って延び、1本の腹起し部材に対して複数本の先行切梁が接合されていることを特徴とする請求項4に記載の先行切梁接合構造。
【請求項6】
締結部材による腹起し部材の覆工部材への締結が、各先行切梁について、その周りの複数箇所で行われていることを特徴とする請求項5に記載の先行切梁接合構造。
【請求項7】
腹起し部材と覆工部材との間の隙間に詰め込み材が詰め込まれていることを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の先行切梁接合構造。
【請求項8】
締結部材がネジ付き鉄筋で、その先端部が、覆工部材に固定された接合片にピン結合されていることを特徴とする請求項4ないし7のいずれかに記載の先行切梁接合構造。
【請求項9】
先行切梁が鋼管、腹起し部材が型鋼で、先行切梁である鋼管の端部に固着された接合板を、腹起し部材である型鋼のフランジに接合することにより、先行切梁が腹起し部材に接合されていることを特徴とする請求項4ないし8のいずれかに記載の先行切梁接合構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−255606(P2008−255606A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97247(P2007−97247)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(505389695)首都高速道路株式会社 (47)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【Fターム(参考)】