光アシスト型磁気ヘッド装置、光アシスト型磁気記録装置及び光アシスト磁気記録方法
【課題】薄膜磁気ヘッドの主磁極の表面プラズマ波を用いて局所的なスポットを形成するにあたり、光アシスト磁気記録に十分な光強度を保持し、且つスポット径の微小化を図ることを目的とする。
【解決手段】集光光学系4と、薄膜磁気ヘッド5とを有し、集光光学系4は、半球型又は超半球型のソリッドイマージョンレンズ2を備える。そして薄膜磁気ヘッド5の主磁極の光入射側に、表面プラズマ共鳴を生じる金属層29を設ける。磁気記録に適した磁性材ではなく表面プラズマ共鳴に適した材料の金属層29を設けることによって、十分な表面プラズマ共鳴を発生することができる。
【解決手段】集光光学系4と、薄膜磁気ヘッド5とを有し、集光光学系4は、半球型又は超半球型のソリッドイマージョンレンズ2を備える。そして薄膜磁気ヘッド5の主磁極の光入射側に、表面プラズマ共鳴を生じる金属層29を設ける。磁気記録に適した磁性材ではなく表面プラズマ共鳴に適した材料の金属層29を設けることによって、十分な表面プラズマ共鳴を発生することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録領域に局部的な光照射を行って磁気記録を行う光アシスト型磁気ヘッド装置、光アシスト型磁気記録装置及び光アシスト磁気記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報記録媒体に対する高密度記録化の要求が高まっている。磁気記録媒体、例えば磁気テープ、磁気ディスク等に対する情報記録においても、超高密度記録化が要求されている。この場合、記録ピットの微小化のために垂直記録が採られ、また高い解像度を実現することや、磁性層の保磁力を高める開発が進められている。
現在、高い保持力を有する磁性体は開発されつつあるが、このように高い保磁力を有する材料より成る磁気記録媒体に対して記録を行うにあたり、十分に信号記録磁界を高めることは難しい。この問題を解決するため、光アシスト型磁気ヘッド装置が提案されている。この光アシスト型磁気ヘッド装置は、磁気記録媒体の記録部位を局部的に光照射によって昇温させ、記録領域の保磁力を一時的に低下させて磁気記録を行うものである。これにより、高保磁力の磁性層を有する磁気記録媒体に対して微小磁界スポットによって情報記録を行うことが可能となる。
【0003】
このような光アシスト型の磁気記録においては、高記録密度化、すなわち微小記録ビットを形成する上で、その光スポットの微小化が必要となる。通常の集光レンズにおいては、そのスポット径は使用光の波長とレンズの開口数(NA)によって決まるが、開口数に制約があり、スポット径の微細化に限界を来している。
これに対して、半球型もしくは超半球型のソリッドイマージョンレンズ(Solid Immersion Lens、固浸レンズ。以下SILと記す。)を対物レンズと記録媒体との間に介在させ、これにより対物レンズの開口数を高める手法が開発されている。半球型もしくは超半球型のSILを用いて近接場光によるスポットを形成する場合、スポット径の微細化が図られる。使用する光の波長に対するSILの屈折率をnとすると、半球型SILの場合はn倍、超半球型SIL(超SILとも呼ばれる)の場合でn2倍に有効開口数を高めることができ、すなわちスポットサイズはそれぞれ1/n、1/n2に微小化される。
【0004】
このようなスポットの微小化に着目し、半球型又は超半球型のSILを用いた光アシスト型磁気ヘッドも提案されている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1に記載の光アシスト型磁気ヘッドは、対物レンズと半球型又は超半球型のSILとからなる2群集光レンズ系を有するもので、特にSILを球状のレンズ本体と光透過性基板とを接合一体化して形成される構成とする。そしてこの光透過性基板に薄膜磁気ヘッドが形成されて光アシスト型磁気ヘッドが構成される。
【特許文献1】特開2006−286119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した光アシスト型磁気ヘッド装置においては、光スポットの微小化と同時に、記録磁界を発生する磁極と、磁気記録媒体の表面を加熱する光スポットを10nmオーダー程度、すなわち100nm未満に近接させる必要がある。
従来の光アシスト型の磁気ヘッドとしては、光導波路を用いて光スポットを形成する方式が主に検討されてきたが、導波路において十分な光伝達効率を得るには、クラッド層の厚みを波長の数分の一程度、すなわち100nm程度以上確保する必要があり、磁極に対して光スポットをこれ以上近接して配置することは容易ではない。
【0006】
一方、上述の特許文献1に開示の発明などの半球型又は超半球型のSILを用いた光アシスト型磁気ヘッドにおいては、磁極と光スポットを近接配置することが可能である。また、レンズを用いる場合は3次元的に光を照射するので、光利用効率が高いという利点を有する。
しかしながらこのように光スポットを磁極に近接した場合、磁極による光の遮蔽が生じるという問題が生じる。このため、磁気記録媒体の表面において十分な記録磁界を発生し、且つ、十分な強度の光照射を実現する方法が検討されている。
【0007】
これに対し、出願人は、先の出願(特願2007−227170号)において、この課題を解決するため、照射光の偏光方向(光電場振動方向)を制御し、磁性材より成る主磁極自身の表面プラズマ波を用いて、主磁極端に局所的なスポットを形成する光アシスト型磁気ヘッド装置を提案した。このように、主磁極の表面プラズマ波を用いて局所的なスポットを形成する場合、主磁極の材料によっては、十分な光アシスト効果を発揮できない恐れがあることが分かってきた。
【0008】
上記の問題に鑑みて、本発明は、薄膜磁気ヘッドの主磁極の表面プラズマ波を用いて局所的なスポットを形成するにあたり、光アシスト磁気記録に十分な光強度を保持し、且つスポット径の微小化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明による光アシスト型磁気ヘッド装置は、集光光学系と、薄膜磁気ヘッドとを有し、集光光学系は、半球型又は超半球型のソリッドイマージョンレンズを備える。そして薄膜磁気ヘッドの主磁極の光入射側に、表面プラズマ共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を生じる金属層が設けられることを特徴とする。
【0010】
本発明の光アシスト型磁気ヘッド装置は、集光光学系に入射される入射光が直線偏光とされ、且つその電場振動方向が、磁気記録媒体との相対的走行方向に沿う配置とされることが望ましい。
【0011】
また、本発明による光アシスト型磁気記録装置は、光源部と、磁気記録媒体配置部と、薄膜磁気ヘッドと、記録信号制御部と、光源部からの光を前記薄膜磁気ヘッドに導く集光光学系と、を具備する。そして、集光光学系は、半球型又は超半球型のソリッドイマージョンレンズを備え、薄膜磁気ヘッドの主磁極の光入射側に、表面プラズマ共鳴を生じる金属層が設けられることを特徴とする。
【0012】
本発明による光アシスト磁気記録方法は、集光光学系の集光スポット位置に薄膜磁気ヘッドを配置し、薄膜磁気ヘッドの主磁極に、表面プラズマ共鳴を生じる金属層を設けて、主磁極の金属層を設ける先端位置から近接場光を発生して、磁気記録媒体に記録を行うことを特徴とする。
【0013】
上述したように、本発明の光アシスト型磁気ヘッド装置、光アシスト型磁気記録装置、光アシスト磁気記録方法においては、薄膜磁気ヘッドの主磁極に、表面プラズマ波を発生する材料より成る金属層を設けるものである。
【0014】
上述したように、光アシスト磁気記録を目的として近接場光による微小スポットを磁気記録媒体に照射する場合、主磁極と集光光学系による入射光との位置関係、入射光の偏光方向等を選定することによって、表面プラズマ波を生じさせることができ、これによりスポット径の縮小及び光強度の向上を図ることができる。しかしながら、本発明者の鋭意考察研究の結果、主磁極の材料によっては十分な光強度が得られない場合があることが分かってきた。
【0015】
その理由として以下の2つが考えられる。
[1]主磁極の材料である磁性材の主成分としては代表的にはCo、Niがあるが、その誘電関数ε(ω)が光アシスト磁気ヘッド装置で通常用いられる可視光の領域で負にならず、表面プラズモン共鳴を示さないか、又は示しにくい。
[2]主磁極の一端に形成されるスポットの直径は、主磁極の厚さと同程度という制約がある。
つまり、上記[1]により、表面プラズモン共鳴による大幅な電場増強を期待することができず、また上記[2]により、形成されるスポット径が主磁極の厚さで決まってしまうこととなる。したがって、記録特性上最適な磁界強度を得るためにCo、Ni等の材料より主磁極を構成し、またその厚さを記録特性に対応して形成してしまうと、スポット径の微小化に制約を受けてしまうこととなる。
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明では、薄膜磁気ヘッド主磁極の集光光学系による照射光の光入射側の端面に、可視光において表面プラズマ共鳴を生じる金属層を設けることにより、記録磁界中心近傍に、所望の光強度をもってスポットを形成することができ、且つ、その膜厚を適切に選定することによってこのスポット径の微小化を図ることができる。すなわち本発明によれば、スポット径の微小化と、磁極と光スポットとの近接配置とを、同時に実現できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、薄膜磁気ヘッドの主磁極の表面プラズマ波を用いて局所的なスポットを形成するにあたり、光アシスト磁気記録に十分な光強度を保持し、且つスポット径の微小化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態による光アシスト型磁気ヘッド装置の概略断面構成図である。本実施の形態における光アシスト型磁気ヘッド装置は、図1に示すように、集光光学系4と、薄膜磁気ヘッド5から構成される。集光光学系4は、対物レンズ3と、半球型又は超半球型のSIL2より構成される。薄膜磁気ヘッド5の主磁極21は、集光光学系4による入射光Liの入射側に、表面プラズマ共鳴を発生する金属層29を有する構成とする。そしてこの金属層29の表面29S、すなわち磁気記録媒体(図示せず)との相対的走行における流入端側となる照明光入射側の側面が、集光光学系4の光軸Cに沿うように配置される。図1においては、磁気記録媒体の走行方向を矢印Mとして示す。すなわち、主磁極21の光入射側の側面である金属層29の表面29Sは、図1において矢印Mの後端側(図1の紙面において左側)の面となる。
【0020】
図2に主磁極2の概略斜視構成図を示すように、この主磁極21の入射側に金属層29が設けられると共に、その表面29Sの中央部に光軸Cが配置される構成とする。図2において、図1と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0021】
図1及び図2において、磁気記録媒体の走行方向と平行な方向をX軸、光軸に沿う方向をZ軸、これらと直交する方向をY軸として示す。すなわちX方向が磁気記録媒体との相対的走行方向、つまり記録トラック長さ方向であり、Y方向は磁気記録媒体の記録トラック幅方向、Z方向はSILにおけるギャップ方向となる。光軸Cは、主磁極21の光入射側の側面に設ける金属層29の表面29SのY方向の幅の中央に配置することが望ましい。
【0022】
そして本実施の形態の光アシスト型磁気ヘッドにおいては、図1及び図2に示すように、集光光学系4により主磁極21の光入射側に設ける金属層29表面に集光される光Liを、直線偏光とする。更にその電場振動方向を、矢印Pで示すように、磁気記録媒体との相対的走行方向(矢印M)に沿う配置とする。すなわちこの場合、入射光Liの電場振動方向は、磁気記録媒体の記録トラック長さ方向と平行となるように集光光学系4及び薄膜磁気ヘッド5を配置構成する。
【0023】
図2において、二点鎖線で示す面Hは主磁極21上に設ける金属層29の表面29Sと同一の平面を仮想的に示すもので、矢印Fiで示す領域(面Hから主磁極21とは反対側)が光入射側、いわば磁気記録媒体との相対的走行における流入端側であり、矢印Foで示す領域(面Hから主磁極21側)が流出端側となる。また、図2においては集光光学系4により集光される光LiによるスポットSを模式的に示す。
【0024】
図1及び図2に示す光アシスト型磁気ヘッドにおける集光光学系4のより具体的な構成例を図3の概略斜視構成図に示す。図3において、図1と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。上述したようにこの例においては、集光光学系4を、対物レンズ3と、近接場光記録で用いられる半球型又は超半球型のSIL2とより構成する。対物レンズ3とSIL2とによって、実効的な開口率が1.0を超える開口数を実現し、近接場光を発生させる光学系を構成することができる。
【0025】
単体の対物レンズでは、光の回折限界により集光スポット径はλ/NAobj程度にしか絞ることができない。ここでλは使用光の波長、NAobjは対物レンズの開口数である。
これに対し、上述したように、半球型又は超半球型のSIL2を用いる集光光学系4においては、SIL2の底面(焦点面)において、スポット径を半球型のSILで1/n、超半球型のSILで1/n2に微小化することができる。ここでnは使用光の波長λにおけるSIL2の屈折率である。一般的に、SIL2の底面と磁気記録媒体との隙間(ギャップ)をλ/10以下に狭めることで、近接場光の結像作用により磁気記録媒体面上に、λ/NAobjのスポット径を更に、半球型SILで1/n、超半球型SILで1/n2に微小化することが可能になる。
【0026】
図3に示すように、この例においては、平板状の第1及び第2の光学ブロック6a及び6bと、球状部2Sとが接合されてSIL2が構成される。これら第1及び第2の光学ブロック6a及び6bと球状部2Sは共に、使用光の波長に対し光透過性を有し、且つ高屈折率を有する光学部材より構成し、望ましくは同一材料より構成する。
図3においては、第1の光学ブロック6aに形成した薄膜磁気ヘッド5を示すために、第2の光学ブロック6bの一部を切り欠いて示している。なお、第1及び第2の光学ブロック6a及び6bの大きさや形状は図3に示す例に限定されるものではなく、その他種々の形状とすることができる。
【0027】
このSIL2の製造方法の一例を説明する。例えば第1の光学ブロック6aの一端面をヘッド形成面6ahとし、このヘッド形成面6ah上に、上述したように主磁極上に表面プラズマ共鳴を発生する金属層を配置した薄膜磁気ヘッド5を形成する。この後、第1の光学ブロック6aと第2の光学ブロック6bを光学接着剤による粘着、又は溶着により接合する。この光学接着剤としては、屈折率が例えば1.5以上の高屈折率材料であることが望ましく、第1及び第2の光学ブロック6a及び6bと同程度の屈折率であることがより望ましい。
【0028】
接合された第1及び第2の光学ブロック6a及び6bに対し、薄膜磁気ヘッド5の主磁極形成側の表面を平面研磨していわゆる主磁極21のデプス長を調整するデプス研磨を行い、更に、裏面も平面研磨して、所定の板厚に形成する。一方、別体のボールレンズを用意して、その一部を平面研磨して、光軸と略直交する平面を有する球状部2Sを形成する。この球状部2Sは上述したように、第1及び第2の光学ブロック6a及び6bと同一の材料より成ることが望ましい。そしてこの球状部2Sの平面を、第1及び第2の光学ブロック6a及び6bの接合面上に上述の光学接着剤により接着、溶着等により接合する。このとき第1の光学ブロック6aに形成した薄膜磁気ヘッド5の主磁極上の金属層と、球状部2Sの光軸とが上述の図2において説明した配置となるように位置決めを行って接合する。
【0029】
以上説明した製造方法により図3に示すSIL2を得ることができる。このような構成とする場合、球状部2Sと、図3において破線で示すように、第1及び第2の光学ブロック6a及び6b内にその一部として含まれる球状部2Pとによって、半球状又は超半球状のSIL2が構成される。全体として半球状又は超半球状となるように、第1及び第2の光学ブロック6a及び6bの板厚と、球状部2Sの厚さとを選定する。球状部2Sの半径をrとすると、半球状のSILとする場合は全体の厚さをr、超半球状のSILとする場合は全体の厚さをr×(1+1/n)となるように構成する。すなわち、第1及び第2の光学ブロック6a及び6bの平面研磨後の板厚をTとすると、球状部2Sの厚さは最終的な厚さから厚さTだけ差し引いた厚さに形成する。
【0030】
このような構成によるSIL2の全体の厚さは、半球型SILの場合はr、超半球型SILの場合はr×(1+1/n)となり、光学的には、従来の半球型SIL又は超半球型SILと全く等価である。したがって、上部の対物レンズ3で集光された光は、合成されたSIL2の底面、すなわち第1及び第2のブロック6a及び6bの記録媒体側の面で焦点を結び、通常のSILとしての機能を有する。組立時に光学的調整を行うことにより、集光光学系4の光軸中心を主磁極及び金属層が形成されている光学ブロック6aのヘッド形成面6ah上に位置決めすることが可能であり、この結果光スポットの中心は、主磁極上の金属層表面の例えば中央に配置される。
【0031】
図4Aは、薄膜磁気ヘッド5の一例の拡大断面構成図である。図4Bは、図4Aにおける主磁極21の破線Tで囲む先端部の拡大断面図である。図4Aに示すように、この場合、垂直記録用単磁極ヘッド構造とする例を示し、薄膜磁気ヘッド5は磁界を発生するコイル導体23と、発生した磁界を記録部へ導出、印加するための主磁極21から構成される。図4Aには示していないが、副磁極が主磁極に接続され、磁気回路を構成している構造でもよい。なお、実際の記録に際しては、記録層、軟磁性層を有する磁気記録媒体と対向させ、軟磁性層は主磁極21、コイル導体23とともに、薄膜磁気ヘッド5における磁気回路を構成する。
【0032】
本例では、図4Aに示すように、第1の光学ブロック6aのヘッド形成面6ah上に、主磁極21が所定の長さをもって形成され、絶縁層22を介して下部コイル層23A、絶縁層24、主磁極21と接続されるヨーク25、絶縁層26、上部コイル層23Bが形成されて、光学接着剤27を介して第2の光学ブロック6bが接合された構成としている。
そして図4Bに示すように、主磁極21の入射光Liを照射する入射側には、表面プラズマ共鳴を発生する金属層29が形成される。
【0033】
薄膜磁気ヘッド5の一例の概略断面構成図及び平面構成図を図5A及びBに示す。図5A及びBにおいて、図4Aと対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。図5Bに示すように、薄膜磁気ヘッド5のコイル導体23は、互いに逆向きの斜め方向に配列される下部コイル層23Aと上部コイル層23B及びこれらを接続する接続部23Cとより構成することができる。図5Bにおいては両端の下部コイル層23Aから端子導出部12が延在されるが、コイルの巻回数や各部の構成、また、各コイル層の形状等はこの限りではなく、種々の変形が可能であることはいうまでもない。図5においては、主磁極21のデプス長をld、磁気記録媒体との相対的走行方向と直交する方向の主磁極21及びヨーク25の幅をそれぞれwm、wyとして示す。
【0034】
図6は、本発明の実施の形態に係る光アシスト型磁気記録装置の概略構成図である。
本実施の形態の磁気記録装置100は、光源部、例えば波長400nmの半導体レーザ素子を有する光源部62と、本発明に係る光アシスト型磁気ヘッド装置10と、磁気記録媒体11、例えば磁気ディスクが配置されて回転駆動される磁気記録媒体11の配置部64と、光アシスト型磁気ヘッド装置10の薄膜磁気ヘッド素子5の磁気ヘッドコイルに記録信号を供給する記録信号電源部、すなわち記録信号回路65と、光源部62からのレーザ光を光アシスト型磁気ヘッド装置10に導入すると共に、磁気記録媒体11からの戻り光を検出する例えばフォトダイオードを有する光検出部66へと導入する光学系67とを有する。磁気記録媒体11は、例えばガラス等の基板15上に軟磁性層16、記録層17が順次積層されて構成される。
【0035】
光学系67は、後述する図8において詳細に説明するように、例えばコリメータレンズ(図示せず)とビームスプリッタ68等を有して成る。また、光検出部66によって検出された検出出力を演算し、光アシスト型磁気ヘッド装置10に対する所望のサーボ信号、例えばギャップ制御、トラッキング等の各サーボ信号を得て、これら制御を行う位置決め用の制御装置69を有する。また、光アシスト型磁気ヘッド装置10が、薄膜磁気記録ヘッド以外に、再生用薄膜磁気ヘッドを搭載する場合は、図示しないがヘッド素子は再生信号回路に接続され、磁気信号再生動作を行う。
【0036】
磁気記録媒体11の配置部64では、例えば磁気ディスクである磁気記録媒体11が載置された状態で、スピンドルモータ等の駆動部80によって矢印rで示すように回転駆動され、磁気記録媒体11が矢印Mで示すように回転される。制御装置69によって駆動される制御機構70は、例えば後述の図7において説明する浮上スライダや、または2軸アクチュエータによって構成することができる。制御機構70には集光光学系4を有する本発明に係る光アシスト型磁気ヘッド装置10が搭載され、トラッキングサーボ信号及びギャップサーボ信号に基づき駆動して、集光光学系4をトラッキング方向に移動調整し、また光軸方向すなわちギャップ方向に移動調整する。
【0037】
本実施の形態の磁気記録装置100では、この場合ディスク状の磁気記録媒体11が回転され、光源部62から所要の波長、例えば400nmのレーザ光が光学系67によって光アシスト型磁気ヘッド装置10の光軸に沿って導入され、この光アシスト型磁気ヘッド装置10による近接場光が磁気記録媒体11上に照射される。光アシスト型磁気ヘッド装置10は、対物レンズ3と半球型又は超半球型のSIL2による2群レンズ構成の集光光学系4により、後述するように、特に主磁極及びこの上の金属層と光軸との配置構成、また集光光学系4により入射させる光の電場振動方向を適切に選定することによって、スポット径を微小化し、且つスポット中心と主磁極とを100nm未満に近接配置できる。
【0038】
そして、このスポットが回転する磁気記録媒体11上に照射されると同時に、薄膜磁気ヘッド5の磁気ヘッドコイルに情報記録信号を供給することによって、薄膜磁気ヘッド5の主磁極の先端から記録信号磁界が磁気記録媒体11に印加されて信号の記録がなされる。
【0039】
図7は、本発明による光アシスト型磁気ヘッド装置10の、トラッキング及びギャップを調整する制御機構70を浮上スライダ構成とした場合の一部を断面とする側面図である。図7において、図1と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。この浮上型構成においては、サスペンション18の遊端に支持されたスライダ19に、光アシスト型磁気ヘッド装置10が搭載され、薄膜磁気ヘッド5と対向する磁気記録媒体11の移動もしくは回転によって浮上するスライダ19の浮上量によって光アシスト型磁気ヘッド装置10と磁気記録媒体11とのギャップが調整される。
【0040】
本発明による磁気記録装置100においては、このような磁気記録媒体11の移動もしくは回転によって浮上させる受動制御型の構成とする他、図7に示す制御装置69により2軸アクチュエータ等を制御して光アシスト型磁気ヘッド装置10のギャップ制御及びトラッキングを行ういわゆる能動制御型の構成とすることももちろん可能である。
【0041】
図8に、この場合の磁気記録装置100の一例の概略構成図を示す。この例においては、記録時の光アシスト用の光とギャップ検出用の光として、異なる波長の光を用いる場合の一例を示す。図8に示すようにこの場合、光源30と、その出射光路上にコリメートレンズ31、偏光ビームスプリッタ33、ビームエキスパンダー35及びダイクロイックプリズム45が配置される。ダイクロイックプリズム45は光源30からの光を反射するように構成されて、その反射光路上に集光光学系4が配置される。偏光ビームスプリッタ33の戻り光の反射光路上にレンズ38を介してフォトダイオード等の光検出部39が配置される。他方の光源40の出射光路上にはコリメートレンズ41、ビームスプリッタ42、偏光ビームスプリッタ43、1/4波長板44、ダイクロイックプリズム45が配置され、ダイクロイックプリズム45の透過光路上に集光光学系4が配置される。ビームスプリッタ42の戻り光の反射光路上にはレンズ50を介してフォトダイオード等の光検出部51が配置される。
【0042】
このような構成において、光源30から出射されるアシスト用の光は、コリメートレンズ31により平行光とされて偏光ビームスプリッタ33を通過してビームエキスパンダー35によってビーム幅を調整される。そして更にダイクロイックプリズム45により反射されて2軸アクチュエータ等の制御機構70に搭載された集光光学系4、すなわち対物レンズ3及びSIL2に入射される。
【0043】
磁気記録媒体11は、スピンドルモータ等の駆動部80により矢印rで示すように回転される。集光光学系4のSIL2との相対的走行方向を矢印Mで示す。本発明の磁気ヘッド装置10においては、磁気記録媒体11に照射される光アシスト用の光が直線偏光とされ、その電場振動方向が矢印Pで示すように、磁気記録媒体11の走行方向Mと平行となるように配置することが望ましい。
【0044】
この光アシスト用の光の戻り光を利用してトラッキングを行うこともできる。この場合、磁気記録媒体11の記録面から反射された戻り光は、SIL2、光学レンズ3を介してダイクロイックプリズム45により反射され、ビームエキスパンダー35を介して偏光ビームスプリッタ33により反射されてレンズ38により光検出部39に集光される。光検出部39によりトラッキング信号等が得られる。この信号に基づいて、制御装置69によりトラッキング制御信号が生成され、集光光学系4が保持される2軸アクチュエータ等の制御機構70を駆動する。
【0045】
一方、光源40からの光をコリメートレンズ41、ビームスプリッタ42、偏光ビームスプリッタ43、1/4波長板44を介してダイクロイックプリズム45に照射し、ダイクロイックプリズム45において光源30からの光と合波して、対物レンズ3、SIL2を介して磁気記録媒体11にギャップ検出用ビームスポットとして照射する。磁気記録媒体11からのギャップ検出用ビームスポットの戻り光は、ダイクロイックプリズム45、1/4波長板44を通過して、偏光ビームスプリッタ43から漏れた光をビームスプリッタ42で反射してレンズ50を介して光検出部51で検出する。
【0046】
磁気記録媒体11とSIL2とのギャップが広く、SIL端面で光が略全反射する場合には、SIL表面で偏光が変化するので、戻り光路で偏光ビームスプリッタ43から一部の光が漏れてくる。一方、磁気記録媒体11とSIL2とが近く、近接場光が漏れて通常の反射に近い場合には偏光の変化は小さいので、偏光ビームスプリッタ43を漏れてくる光量は小さくなる。この差すなわち、全反射戻り光量の変化を利用してギャップ検出を行うことができる。
なお、SIL2と磁気記録媒体11との間のギャップを検出する方法としては、その他例えば静電容量の変化を検出する方法など、種々の方法を採ることができる。
【0047】
次に、上述した磁気記録装置を用いてアシスト用の光を磁気記録媒体に照射した場合の光照射態様を、図9及び図10を用いてより詳細に説明する。
図9においては、主磁極に表面プラズマ共鳴を発生する金属層を設けない比較例による光アシスト型磁気ヘッド装置の場合であり、図10においては本発明の実施の形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置による場合を示す。
【0048】
図9に示す例においては、主磁極121に金属層を設けない場合で、主磁極121の入射光Liの入射側の側面121Sを光軸Cに沿う配置とする。入射光Liの進行方向をZ方向とし、その電場振動方向PをX方向、すなわち磁気記録媒体との相対的走行方向とし、すなわち磁気記録媒体の記録トラック長さ方向に選定する。
【0049】
図9及び図10においてX方向は薄膜磁気ヘッドの積層方向であり、薄膜磁気ヘッド形成上、記録ヘッド、再生ヘッドはこの方向にシリーズに配置される。従って、アジマスロスを最小化するためには、磁気記録媒体をX方向に移動しながら記録再生することが望ましく、通常X方向を記録トラック長さ方向にとる。Y方向は記録トラックの幅方向となる。
【0050】
図9に示すように、入射光Liの光軸Cが主磁極121の側面121Sに沿うように光学調整を行うと、スポット中心は、主磁極121の側面121Sに沿う磁気記録媒体側の端面に配置される。入射光Liによる光電場強度ELi´はSILの底面にある焦点で増加し、近接する主磁極121に誘電分極を引き起こす。主磁極121はCo、Ni合金等の磁性金属より成るが、その自由電子の入射光電場ELi´による励起振動が生じるためである。
金属と誘電体との界面では、入射光電場により自由電子振動が励起される。金属、誘電体の誘電率をε(ω)、εmとしたとき、
ε(ω)<0
|ε(ω)|>εm
を満たすときには、自由電子振動は界面に沿って平面波として伝播、表面から遠ざかるにつれ指数関数的に減衰するエバネッセント波として振舞う。この表面に局在励起されている自由電子振動をさして、表面プラズマ共鳴(SPR)という。
【0051】
入射光Liの偏光面、すなわち入射光の電場振動方向をX方向にとると、主磁極121の端部のうち入射光Liの光軸側の端部でのみ、上記の誘電分極効果が生じ、入射光Liの光軸C側の端部において光電場強度の増幅が生じる。この局所的な電荷集中の結果、主磁極121の入射光Liの光軸C側の端部の近傍に光スポットS´を形成することができる。この光スポットS´の強度分布をIs´として模式的に示す。
【0052】
この場合、入射光電場ELi´のZ成分が主磁極121の表面に表面プラズマ波SPR´を励振する。この主磁極21の側面121Sエッジ部での電荷集中は、ほぼ主磁極121の厚さの1/2程の範囲となる。つまりこの場合、スポットS´の直径は主磁極121の厚さの半分程度となり、主磁極121の厚さにスポット径が制限されることとなる。
【0053】
一方、図10に示す本発明の実施の形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置における場合について考える。図10においては、図4Bと対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
一般に金属中では自由電子が多数存在し、クーロン相互作用で自由電子の密度に振動が生じる。このような自由電子の集団的な振動はプラズモンと呼ばれ、バルク中では平面波として伝播する。一方誘電体と金属が接する2次元界面での電磁場を考えると、その波数kspは下記の式(1)で与えられる。
【0054】
ksp=(ω/c)×√{[εm×ε(ω)]/[εm+ε(ω)]}・・・(1)
【0055】
但し、上記式(1)において、ε(ω)は金属の誘電率、εmは誘電体の誘電率である。
ここで、前述したε(ω)<0、|ε(ω)|>εmという条件を満たすと、kspは実数となり、上述した表面プラズマ共鳴状態(SPR状態)が生まれる。kspは表面プラズマ共鳴周波数である。
【0056】
ここで、波長650nmの光に対して、Au、Ag、及びCoの誘電率はそれぞれ、
Au:−11.36+0.96i
Ag:−18.12+0.68i
Co:−13.84+20.68i
で与えられる。
Au、及びAgでは、誘電率の虚数部は無視できるほど小さく、ε(ω)<0という条件を満たすので、kspは実数となり、上で述べた表面プラズマ共鳴が発生することがわかる。一方Coでは誘電率の虚数部が大きいため、kspが虚数になってしまい、表面プラズマ共鳴が殆ど生じないことがわかる。
【0057】
よって、本発明において主磁極の照明光入射側に設ける金属層の材料としては、Au、Ag又はこれらの合金であればよいことが分かる。なお、Au合金、Ag合金とする場合の成分比や添加物材料の種類等は、表面プラズマ共鳴が発生し、目的とするスポット径やピークパワーを達成できる範囲であればよい。
【0058】
図9に示す例と同様に、図10に示す本発明の実施の形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置においても、入射光Liが直線偏光で、かつ電場振動方向Pが入射面内にある場合、入射光電場ELiのZ成分ELizは、金属層29と誘電体である光学ブロック6aとの界面での表面プラズマ波SPRの励起に寄与する。つまり、AuやAgのような表面プラズマ共鳴に寄与する金属層29が設けてあると、表面プラズマ波SPRがより強く発生し、面内で自由電子の振動がより強く励起される。さらに焦点面付近では入射光電場強度ELiも最大になり、かつエッジ効果により金属層29の端部で増強された誘電分極が発生する。表面プラズマ共鳴に寄与する自由電子は、金属層29内、特にAu、Agのスキンデプス長(10〜20nm)の範囲に局在しているため、局所的な電場振動の結果生じる近接光場スポットSの大きさも、この金属層29の膜厚と同程度になる。この光スポットSの強度分布をIsで示す。図9における光スポットS´の強度分布Is´に比して半値幅が狭くなっていることが分かる。
【0059】
以上の結果から、本発明においては、集光光学系に入射される入射光が直線偏光とされ、且つその電場振動方向を、磁気記録媒体との相対的走行方向に沿う配置とすることが、表面プラズマ共鳴を効率よく発生する上で望ましい。また、金属層の照明光入射側の側面に沿うように光軸を配置することが同様に望ましいことが分かる。
なお、金属層のY方向の中央部に光軸を配置せず、中央部からずらして配置する場合は、スポットのピークが2つとなってしまう恐れがある。このため、ピークが1つとなる範囲で、光軸を金属層の照明光入射側側面の中央部に配置することが望ましいといえる。
【0060】
図11は、X方向を電場振動方向としたときのスポットの光強度分布を模式的に示す図である。横軸はX方向すなわち記録トラック長さ方向の位置であり、縦軸は光強度(任意単位)である。主磁極21のY方向中心線からX方向の分布をプロットしたもので、磁気記録媒体表面における強度を示す。図11中、実線I1は図10に示す本発明の実施の形態に係る場合、実線I2は図9に示す比較例による場合、実線I3はSIL単体すなわち主磁極を設けない場合のスポットの場合をそれぞれ示す。なお、I1に示す例では金属層はAg膜とし、I2に示す例では主磁極の材料をCoとする。
【0061】
光学系の諸条件は以下の通りである。対物レンズの開口数は0.75、SILの屈折率は入射光波長に対して1.92、SILの材料は光学ガラスS−LAH58((株)オハラ社製、商品名)、入射光波長は400nmである。なお、対物レンズ3とSIL2とより成る集光光学系4の有効開口数は、1.44である。
また、この例においては、上述の図5において説明した構造において、主磁極21のデプス長ld、磁気記録媒体との相対的走行方向と直交する方向の主磁極21及びヨーク25の幅wm、wyは、それぞれld=3μm、wm=0.15μm、wy=4μmとした場合を示す。また、主磁極21の材料はCoでX方向の厚さは140nm、金属層29の材料はAgでX方向の厚さは10nmとした。
解析はFDTD法(Finite Difference Time Domain、有限差分時間領域法)により行った。SILの端面と磁気記録媒体の表面との距離は20nmとした。
【0062】
実線I2で示す比較例による場合においては、スポット径が50〜60nmと主磁極の厚さの半分程度となり、スポットのピークパワーは、実線I3で示す磁気ヘッドを設けない通常のSILの例と比べて70%程度になる。
一方、本発明の実施の形態に係る例では、実線I1で示すように、金属層を設けることによって、スポット径が10〜20nmと金属層の膜厚と同程度まで低減すなわち縮小化される。しかも、表面プラズマ共鳴の電場増強効果により、スポットのピークパワーも通常のSILのものより大きく増強されることが分かる。なお、金属層の材料をAuとする場合においても、ピークパワーが同様に高く、スポット径が金属層の膜厚と同程度まで低減される強度分布が得られた。
【0063】
以上の結果から、本発明においては、金属層の厚さが得られるスポット径にほぼ相当することが分かる。スポット径は目的とする最小の記録マークが記録できればよく、金属層の膜厚は目的とする最小の記録マーク長以下であればよいといえる。
一方、金属層の膜厚の下限としては、表面プラズマ共鳴が発生する厚さであればよく、一般的には3〜10nm程度とされる。1nm未満の膜厚では、表面プラズモンに対するエネルギーロスが大きいと考えられるので、金属層の厚さは1nm以上必要であり、3nm以上とすることが望ましいといえる。
【0064】
上述したように、本発明によれば、光アシスト用の光スポットと記録用の磁気ヘッドの主磁極の近接配置が可能となり、すなわち光スポットを主磁極端部に配置することができる。
また本発明によれば、光スポット径の微小化、特に50nm以下のスポット径を実現し、この微小スポットを主磁極端部に形成することができる。
【0065】
このような光スポットと主磁極との近接配置と、スポット径低減の2つの作用により、光アシスト効果による高い記録磁界勾配を発生することができる。この結果、記録マーク長を低減することができ、記録密度の向上を図ることができる。
【0066】
上述した高い記録磁界勾配の達成によって、より高い磁気異方性エネルギー(Ku)をもつ記録媒体への記録が可能となる。この結果、記録密度を高めると同時に、熱磁気緩和を抑制し、記録データの寿命を延ばすことも可能となる。
【0067】
すなわち本発明によれば、従来の磁気記録再生装置では実現困難であった、1テラビット/1インチ2を超える高記録密度を実現する光アシスト型磁気記録装置を提供することが可能となる。金属層の材料や膜厚の選定により、10nmオーダーのスポット径の光スポットを記録ヘッド磁極に対して10nmのオーダーをもって近接配置することが可能となり、十分な記録磁界と光スポット強度を同時に達成できる。したがって、従来記録できなかった高保磁力記録膜をもつ磁気記録媒体を用いることにより、記録ドメインを10nm以下に低減することが可能であり、記録密度の向上を実現する。
【0068】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。例えば、本発明の光アシスト型磁気ヘッド装置、光アシスト型磁気記録装置において、光学的調整により生じるばらつきの範囲内で、光軸と、薄膜磁気ヘッドの主磁極上の金属層との配置にマージンをもたせることが可能である。例えば光軸が金属層の照明光入射側の側面の中央から光学調整のマージンの範囲内でずれていても、中央に配置する場合と同様に光スポットのピーク位置を主磁極の端部に10nmオーダーで近接させることができる。
【0069】
これに対し、金属層のY方向端部に光軸を配置する場合は、良好な光電場エネルギー分布が得られず、本発明と同様の効果を得ることができない。入射光電場分布は焦点面付近においてガウシアン分布をとるとみなせるが、主磁極端部で単峰性のピークを生じさせるためには、入射光電場がほぼ一定とみなせる、ガウシアン分布の頂上付近を金属層の端に一致させる必要がある。これはSILによるスポット径の1/3〜1/4程度の範囲と考えられる。
すなわち、本発明において、金属層と光軸との配置のずれとしては、光電場エネルギー分布においてピークが単一となる範囲であればよいといえる。
【0070】
また、その他本発明の光アシスト磁気記録方法において、集光光学系にSILを用いることなく、その他SIM(Solid Immersion Mirror)等の近接場光照射手段を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置の断面構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置の要部の斜視構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置の一部を切り欠いた斜視構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置の要部の断面構成図である。
【図5】A及びBは本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置の要部の断面構成図及び平面構成図である。
【図6】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気記録装置の概略構成図である。
【図7】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気記録装置の概略構成図である。
【図8】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気記録装置の概略構成図である。
【図9】比較例による光アシスト型磁気ヘッド装置の主磁極近傍における入射光電場及び光スポットを示す図である。
【図10】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置の主磁極近傍における入射光電場及び光スポットを示す説明図である。
【図11】本発明、比較例及び従来例による光アシスト型磁気ヘッド装置の主磁極近傍のスポット強度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1.磁気記録媒体、2.SIL、2S.球状部、2P.光学材料部、3.対物レンズ、4.集光光学系、5.薄膜磁気ヘッド、6a.第1の光学ブロック、6b.第2の光学ブロック、9.スペーサ、10.光アシスト型磁気ヘッド装置、12.端子導出部、13.電極、18.サスペンション、19.スライダ、21.主磁極、23.コイル、25.ヨーク、29.金属層、30.光源部、100.光アシスト型磁気記録装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録領域に局部的な光照射を行って磁気記録を行う光アシスト型磁気ヘッド装置、光アシスト型磁気記録装置及び光アシスト磁気記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報記録媒体に対する高密度記録化の要求が高まっている。磁気記録媒体、例えば磁気テープ、磁気ディスク等に対する情報記録においても、超高密度記録化が要求されている。この場合、記録ピットの微小化のために垂直記録が採られ、また高い解像度を実現することや、磁性層の保磁力を高める開発が進められている。
現在、高い保持力を有する磁性体は開発されつつあるが、このように高い保磁力を有する材料より成る磁気記録媒体に対して記録を行うにあたり、十分に信号記録磁界を高めることは難しい。この問題を解決するため、光アシスト型磁気ヘッド装置が提案されている。この光アシスト型磁気ヘッド装置は、磁気記録媒体の記録部位を局部的に光照射によって昇温させ、記録領域の保磁力を一時的に低下させて磁気記録を行うものである。これにより、高保磁力の磁性層を有する磁気記録媒体に対して微小磁界スポットによって情報記録を行うことが可能となる。
【0003】
このような光アシスト型の磁気記録においては、高記録密度化、すなわち微小記録ビットを形成する上で、その光スポットの微小化が必要となる。通常の集光レンズにおいては、そのスポット径は使用光の波長とレンズの開口数(NA)によって決まるが、開口数に制約があり、スポット径の微細化に限界を来している。
これに対して、半球型もしくは超半球型のソリッドイマージョンレンズ(Solid Immersion Lens、固浸レンズ。以下SILと記す。)を対物レンズと記録媒体との間に介在させ、これにより対物レンズの開口数を高める手法が開発されている。半球型もしくは超半球型のSILを用いて近接場光によるスポットを形成する場合、スポット径の微細化が図られる。使用する光の波長に対するSILの屈折率をnとすると、半球型SILの場合はn倍、超半球型SIL(超SILとも呼ばれる)の場合でn2倍に有効開口数を高めることができ、すなわちスポットサイズはそれぞれ1/n、1/n2に微小化される。
【0004】
このようなスポットの微小化に着目し、半球型又は超半球型のSILを用いた光アシスト型磁気ヘッドも提案されている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1に記載の光アシスト型磁気ヘッドは、対物レンズと半球型又は超半球型のSILとからなる2群集光レンズ系を有するもので、特にSILを球状のレンズ本体と光透過性基板とを接合一体化して形成される構成とする。そしてこの光透過性基板に薄膜磁気ヘッドが形成されて光アシスト型磁気ヘッドが構成される。
【特許文献1】特開2006−286119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した光アシスト型磁気ヘッド装置においては、光スポットの微小化と同時に、記録磁界を発生する磁極と、磁気記録媒体の表面を加熱する光スポットを10nmオーダー程度、すなわち100nm未満に近接させる必要がある。
従来の光アシスト型の磁気ヘッドとしては、光導波路を用いて光スポットを形成する方式が主に検討されてきたが、導波路において十分な光伝達効率を得るには、クラッド層の厚みを波長の数分の一程度、すなわち100nm程度以上確保する必要があり、磁極に対して光スポットをこれ以上近接して配置することは容易ではない。
【0006】
一方、上述の特許文献1に開示の発明などの半球型又は超半球型のSILを用いた光アシスト型磁気ヘッドにおいては、磁極と光スポットを近接配置することが可能である。また、レンズを用いる場合は3次元的に光を照射するので、光利用効率が高いという利点を有する。
しかしながらこのように光スポットを磁極に近接した場合、磁極による光の遮蔽が生じるという問題が生じる。このため、磁気記録媒体の表面において十分な記録磁界を発生し、且つ、十分な強度の光照射を実現する方法が検討されている。
【0007】
これに対し、出願人は、先の出願(特願2007−227170号)において、この課題を解決するため、照射光の偏光方向(光電場振動方向)を制御し、磁性材より成る主磁極自身の表面プラズマ波を用いて、主磁極端に局所的なスポットを形成する光アシスト型磁気ヘッド装置を提案した。このように、主磁極の表面プラズマ波を用いて局所的なスポットを形成する場合、主磁極の材料によっては、十分な光アシスト効果を発揮できない恐れがあることが分かってきた。
【0008】
上記の問題に鑑みて、本発明は、薄膜磁気ヘッドの主磁極の表面プラズマ波を用いて局所的なスポットを形成するにあたり、光アシスト磁気記録に十分な光強度を保持し、且つスポット径の微小化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明による光アシスト型磁気ヘッド装置は、集光光学系と、薄膜磁気ヘッドとを有し、集光光学系は、半球型又は超半球型のソリッドイマージョンレンズを備える。そして薄膜磁気ヘッドの主磁極の光入射側に、表面プラズマ共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)を生じる金属層が設けられることを特徴とする。
【0010】
本発明の光アシスト型磁気ヘッド装置は、集光光学系に入射される入射光が直線偏光とされ、且つその電場振動方向が、磁気記録媒体との相対的走行方向に沿う配置とされることが望ましい。
【0011】
また、本発明による光アシスト型磁気記録装置は、光源部と、磁気記録媒体配置部と、薄膜磁気ヘッドと、記録信号制御部と、光源部からの光を前記薄膜磁気ヘッドに導く集光光学系と、を具備する。そして、集光光学系は、半球型又は超半球型のソリッドイマージョンレンズを備え、薄膜磁気ヘッドの主磁極の光入射側に、表面プラズマ共鳴を生じる金属層が設けられることを特徴とする。
【0012】
本発明による光アシスト磁気記録方法は、集光光学系の集光スポット位置に薄膜磁気ヘッドを配置し、薄膜磁気ヘッドの主磁極に、表面プラズマ共鳴を生じる金属層を設けて、主磁極の金属層を設ける先端位置から近接場光を発生して、磁気記録媒体に記録を行うことを特徴とする。
【0013】
上述したように、本発明の光アシスト型磁気ヘッド装置、光アシスト型磁気記録装置、光アシスト磁気記録方法においては、薄膜磁気ヘッドの主磁極に、表面プラズマ波を発生する材料より成る金属層を設けるものである。
【0014】
上述したように、光アシスト磁気記録を目的として近接場光による微小スポットを磁気記録媒体に照射する場合、主磁極と集光光学系による入射光との位置関係、入射光の偏光方向等を選定することによって、表面プラズマ波を生じさせることができ、これによりスポット径の縮小及び光強度の向上を図ることができる。しかしながら、本発明者の鋭意考察研究の結果、主磁極の材料によっては十分な光強度が得られない場合があることが分かってきた。
【0015】
その理由として以下の2つが考えられる。
[1]主磁極の材料である磁性材の主成分としては代表的にはCo、Niがあるが、その誘電関数ε(ω)が光アシスト磁気ヘッド装置で通常用いられる可視光の領域で負にならず、表面プラズモン共鳴を示さないか、又は示しにくい。
[2]主磁極の一端に形成されるスポットの直径は、主磁極の厚さと同程度という制約がある。
つまり、上記[1]により、表面プラズモン共鳴による大幅な電場増強を期待することができず、また上記[2]により、形成されるスポット径が主磁極の厚さで決まってしまうこととなる。したがって、記録特性上最適な磁界強度を得るためにCo、Ni等の材料より主磁極を構成し、またその厚さを記録特性に対応して形成してしまうと、スポット径の微小化に制約を受けてしまうこととなる。
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明では、薄膜磁気ヘッド主磁極の集光光学系による照射光の光入射側の端面に、可視光において表面プラズマ共鳴を生じる金属層を設けることにより、記録磁界中心近傍に、所望の光強度をもってスポットを形成することができ、且つ、その膜厚を適切に選定することによってこのスポット径の微小化を図ることができる。すなわち本発明によれば、スポット径の微小化と、磁極と光スポットとの近接配置とを、同時に実現できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、薄膜磁気ヘッドの主磁極の表面プラズマ波を用いて局所的なスポットを形成するにあたり、光アシスト磁気記録に十分な光強度を保持し、且つスポット径の微小化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態による光アシスト型磁気ヘッド装置の概略断面構成図である。本実施の形態における光アシスト型磁気ヘッド装置は、図1に示すように、集光光学系4と、薄膜磁気ヘッド5から構成される。集光光学系4は、対物レンズ3と、半球型又は超半球型のSIL2より構成される。薄膜磁気ヘッド5の主磁極21は、集光光学系4による入射光Liの入射側に、表面プラズマ共鳴を発生する金属層29を有する構成とする。そしてこの金属層29の表面29S、すなわち磁気記録媒体(図示せず)との相対的走行における流入端側となる照明光入射側の側面が、集光光学系4の光軸Cに沿うように配置される。図1においては、磁気記録媒体の走行方向を矢印Mとして示す。すなわち、主磁極21の光入射側の側面である金属層29の表面29Sは、図1において矢印Mの後端側(図1の紙面において左側)の面となる。
【0020】
図2に主磁極2の概略斜視構成図を示すように、この主磁極21の入射側に金属層29が設けられると共に、その表面29Sの中央部に光軸Cが配置される構成とする。図2において、図1と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0021】
図1及び図2において、磁気記録媒体の走行方向と平行な方向をX軸、光軸に沿う方向をZ軸、これらと直交する方向をY軸として示す。すなわちX方向が磁気記録媒体との相対的走行方向、つまり記録トラック長さ方向であり、Y方向は磁気記録媒体の記録トラック幅方向、Z方向はSILにおけるギャップ方向となる。光軸Cは、主磁極21の光入射側の側面に設ける金属層29の表面29SのY方向の幅の中央に配置することが望ましい。
【0022】
そして本実施の形態の光アシスト型磁気ヘッドにおいては、図1及び図2に示すように、集光光学系4により主磁極21の光入射側に設ける金属層29表面に集光される光Liを、直線偏光とする。更にその電場振動方向を、矢印Pで示すように、磁気記録媒体との相対的走行方向(矢印M)に沿う配置とする。すなわちこの場合、入射光Liの電場振動方向は、磁気記録媒体の記録トラック長さ方向と平行となるように集光光学系4及び薄膜磁気ヘッド5を配置構成する。
【0023】
図2において、二点鎖線で示す面Hは主磁極21上に設ける金属層29の表面29Sと同一の平面を仮想的に示すもので、矢印Fiで示す領域(面Hから主磁極21とは反対側)が光入射側、いわば磁気記録媒体との相対的走行における流入端側であり、矢印Foで示す領域(面Hから主磁極21側)が流出端側となる。また、図2においては集光光学系4により集光される光LiによるスポットSを模式的に示す。
【0024】
図1及び図2に示す光アシスト型磁気ヘッドにおける集光光学系4のより具体的な構成例を図3の概略斜視構成図に示す。図3において、図1と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。上述したようにこの例においては、集光光学系4を、対物レンズ3と、近接場光記録で用いられる半球型又は超半球型のSIL2とより構成する。対物レンズ3とSIL2とによって、実効的な開口率が1.0を超える開口数を実現し、近接場光を発生させる光学系を構成することができる。
【0025】
単体の対物レンズでは、光の回折限界により集光スポット径はλ/NAobj程度にしか絞ることができない。ここでλは使用光の波長、NAobjは対物レンズの開口数である。
これに対し、上述したように、半球型又は超半球型のSIL2を用いる集光光学系4においては、SIL2の底面(焦点面)において、スポット径を半球型のSILで1/n、超半球型のSILで1/n2に微小化することができる。ここでnは使用光の波長λにおけるSIL2の屈折率である。一般的に、SIL2の底面と磁気記録媒体との隙間(ギャップ)をλ/10以下に狭めることで、近接場光の結像作用により磁気記録媒体面上に、λ/NAobjのスポット径を更に、半球型SILで1/n、超半球型SILで1/n2に微小化することが可能になる。
【0026】
図3に示すように、この例においては、平板状の第1及び第2の光学ブロック6a及び6bと、球状部2Sとが接合されてSIL2が構成される。これら第1及び第2の光学ブロック6a及び6bと球状部2Sは共に、使用光の波長に対し光透過性を有し、且つ高屈折率を有する光学部材より構成し、望ましくは同一材料より構成する。
図3においては、第1の光学ブロック6aに形成した薄膜磁気ヘッド5を示すために、第2の光学ブロック6bの一部を切り欠いて示している。なお、第1及び第2の光学ブロック6a及び6bの大きさや形状は図3に示す例に限定されるものではなく、その他種々の形状とすることができる。
【0027】
このSIL2の製造方法の一例を説明する。例えば第1の光学ブロック6aの一端面をヘッド形成面6ahとし、このヘッド形成面6ah上に、上述したように主磁極上に表面プラズマ共鳴を発生する金属層を配置した薄膜磁気ヘッド5を形成する。この後、第1の光学ブロック6aと第2の光学ブロック6bを光学接着剤による粘着、又は溶着により接合する。この光学接着剤としては、屈折率が例えば1.5以上の高屈折率材料であることが望ましく、第1及び第2の光学ブロック6a及び6bと同程度の屈折率であることがより望ましい。
【0028】
接合された第1及び第2の光学ブロック6a及び6bに対し、薄膜磁気ヘッド5の主磁極形成側の表面を平面研磨していわゆる主磁極21のデプス長を調整するデプス研磨を行い、更に、裏面も平面研磨して、所定の板厚に形成する。一方、別体のボールレンズを用意して、その一部を平面研磨して、光軸と略直交する平面を有する球状部2Sを形成する。この球状部2Sは上述したように、第1及び第2の光学ブロック6a及び6bと同一の材料より成ることが望ましい。そしてこの球状部2Sの平面を、第1及び第2の光学ブロック6a及び6bの接合面上に上述の光学接着剤により接着、溶着等により接合する。このとき第1の光学ブロック6aに形成した薄膜磁気ヘッド5の主磁極上の金属層と、球状部2Sの光軸とが上述の図2において説明した配置となるように位置決めを行って接合する。
【0029】
以上説明した製造方法により図3に示すSIL2を得ることができる。このような構成とする場合、球状部2Sと、図3において破線で示すように、第1及び第2の光学ブロック6a及び6b内にその一部として含まれる球状部2Pとによって、半球状又は超半球状のSIL2が構成される。全体として半球状又は超半球状となるように、第1及び第2の光学ブロック6a及び6bの板厚と、球状部2Sの厚さとを選定する。球状部2Sの半径をrとすると、半球状のSILとする場合は全体の厚さをr、超半球状のSILとする場合は全体の厚さをr×(1+1/n)となるように構成する。すなわち、第1及び第2の光学ブロック6a及び6bの平面研磨後の板厚をTとすると、球状部2Sの厚さは最終的な厚さから厚さTだけ差し引いた厚さに形成する。
【0030】
このような構成によるSIL2の全体の厚さは、半球型SILの場合はr、超半球型SILの場合はr×(1+1/n)となり、光学的には、従来の半球型SIL又は超半球型SILと全く等価である。したがって、上部の対物レンズ3で集光された光は、合成されたSIL2の底面、すなわち第1及び第2のブロック6a及び6bの記録媒体側の面で焦点を結び、通常のSILとしての機能を有する。組立時に光学的調整を行うことにより、集光光学系4の光軸中心を主磁極及び金属層が形成されている光学ブロック6aのヘッド形成面6ah上に位置決めすることが可能であり、この結果光スポットの中心は、主磁極上の金属層表面の例えば中央に配置される。
【0031】
図4Aは、薄膜磁気ヘッド5の一例の拡大断面構成図である。図4Bは、図4Aにおける主磁極21の破線Tで囲む先端部の拡大断面図である。図4Aに示すように、この場合、垂直記録用単磁極ヘッド構造とする例を示し、薄膜磁気ヘッド5は磁界を発生するコイル導体23と、発生した磁界を記録部へ導出、印加するための主磁極21から構成される。図4Aには示していないが、副磁極が主磁極に接続され、磁気回路を構成している構造でもよい。なお、実際の記録に際しては、記録層、軟磁性層を有する磁気記録媒体と対向させ、軟磁性層は主磁極21、コイル導体23とともに、薄膜磁気ヘッド5における磁気回路を構成する。
【0032】
本例では、図4Aに示すように、第1の光学ブロック6aのヘッド形成面6ah上に、主磁極21が所定の長さをもって形成され、絶縁層22を介して下部コイル層23A、絶縁層24、主磁極21と接続されるヨーク25、絶縁層26、上部コイル層23Bが形成されて、光学接着剤27を介して第2の光学ブロック6bが接合された構成としている。
そして図4Bに示すように、主磁極21の入射光Liを照射する入射側には、表面プラズマ共鳴を発生する金属層29が形成される。
【0033】
薄膜磁気ヘッド5の一例の概略断面構成図及び平面構成図を図5A及びBに示す。図5A及びBにおいて、図4Aと対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。図5Bに示すように、薄膜磁気ヘッド5のコイル導体23は、互いに逆向きの斜め方向に配列される下部コイル層23Aと上部コイル層23B及びこれらを接続する接続部23Cとより構成することができる。図5Bにおいては両端の下部コイル層23Aから端子導出部12が延在されるが、コイルの巻回数や各部の構成、また、各コイル層の形状等はこの限りではなく、種々の変形が可能であることはいうまでもない。図5においては、主磁極21のデプス長をld、磁気記録媒体との相対的走行方向と直交する方向の主磁極21及びヨーク25の幅をそれぞれwm、wyとして示す。
【0034】
図6は、本発明の実施の形態に係る光アシスト型磁気記録装置の概略構成図である。
本実施の形態の磁気記録装置100は、光源部、例えば波長400nmの半導体レーザ素子を有する光源部62と、本発明に係る光アシスト型磁気ヘッド装置10と、磁気記録媒体11、例えば磁気ディスクが配置されて回転駆動される磁気記録媒体11の配置部64と、光アシスト型磁気ヘッド装置10の薄膜磁気ヘッド素子5の磁気ヘッドコイルに記録信号を供給する記録信号電源部、すなわち記録信号回路65と、光源部62からのレーザ光を光アシスト型磁気ヘッド装置10に導入すると共に、磁気記録媒体11からの戻り光を検出する例えばフォトダイオードを有する光検出部66へと導入する光学系67とを有する。磁気記録媒体11は、例えばガラス等の基板15上に軟磁性層16、記録層17が順次積層されて構成される。
【0035】
光学系67は、後述する図8において詳細に説明するように、例えばコリメータレンズ(図示せず)とビームスプリッタ68等を有して成る。また、光検出部66によって検出された検出出力を演算し、光アシスト型磁気ヘッド装置10に対する所望のサーボ信号、例えばギャップ制御、トラッキング等の各サーボ信号を得て、これら制御を行う位置決め用の制御装置69を有する。また、光アシスト型磁気ヘッド装置10が、薄膜磁気記録ヘッド以外に、再生用薄膜磁気ヘッドを搭載する場合は、図示しないがヘッド素子は再生信号回路に接続され、磁気信号再生動作を行う。
【0036】
磁気記録媒体11の配置部64では、例えば磁気ディスクである磁気記録媒体11が載置された状態で、スピンドルモータ等の駆動部80によって矢印rで示すように回転駆動され、磁気記録媒体11が矢印Mで示すように回転される。制御装置69によって駆動される制御機構70は、例えば後述の図7において説明する浮上スライダや、または2軸アクチュエータによって構成することができる。制御機構70には集光光学系4を有する本発明に係る光アシスト型磁気ヘッド装置10が搭載され、トラッキングサーボ信号及びギャップサーボ信号に基づき駆動して、集光光学系4をトラッキング方向に移動調整し、また光軸方向すなわちギャップ方向に移動調整する。
【0037】
本実施の形態の磁気記録装置100では、この場合ディスク状の磁気記録媒体11が回転され、光源部62から所要の波長、例えば400nmのレーザ光が光学系67によって光アシスト型磁気ヘッド装置10の光軸に沿って導入され、この光アシスト型磁気ヘッド装置10による近接場光が磁気記録媒体11上に照射される。光アシスト型磁気ヘッド装置10は、対物レンズ3と半球型又は超半球型のSIL2による2群レンズ構成の集光光学系4により、後述するように、特に主磁極及びこの上の金属層と光軸との配置構成、また集光光学系4により入射させる光の電場振動方向を適切に選定することによって、スポット径を微小化し、且つスポット中心と主磁極とを100nm未満に近接配置できる。
【0038】
そして、このスポットが回転する磁気記録媒体11上に照射されると同時に、薄膜磁気ヘッド5の磁気ヘッドコイルに情報記録信号を供給することによって、薄膜磁気ヘッド5の主磁極の先端から記録信号磁界が磁気記録媒体11に印加されて信号の記録がなされる。
【0039】
図7は、本発明による光アシスト型磁気ヘッド装置10の、トラッキング及びギャップを調整する制御機構70を浮上スライダ構成とした場合の一部を断面とする側面図である。図7において、図1と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。この浮上型構成においては、サスペンション18の遊端に支持されたスライダ19に、光アシスト型磁気ヘッド装置10が搭載され、薄膜磁気ヘッド5と対向する磁気記録媒体11の移動もしくは回転によって浮上するスライダ19の浮上量によって光アシスト型磁気ヘッド装置10と磁気記録媒体11とのギャップが調整される。
【0040】
本発明による磁気記録装置100においては、このような磁気記録媒体11の移動もしくは回転によって浮上させる受動制御型の構成とする他、図7に示す制御装置69により2軸アクチュエータ等を制御して光アシスト型磁気ヘッド装置10のギャップ制御及びトラッキングを行ういわゆる能動制御型の構成とすることももちろん可能である。
【0041】
図8に、この場合の磁気記録装置100の一例の概略構成図を示す。この例においては、記録時の光アシスト用の光とギャップ検出用の光として、異なる波長の光を用いる場合の一例を示す。図8に示すようにこの場合、光源30と、その出射光路上にコリメートレンズ31、偏光ビームスプリッタ33、ビームエキスパンダー35及びダイクロイックプリズム45が配置される。ダイクロイックプリズム45は光源30からの光を反射するように構成されて、その反射光路上に集光光学系4が配置される。偏光ビームスプリッタ33の戻り光の反射光路上にレンズ38を介してフォトダイオード等の光検出部39が配置される。他方の光源40の出射光路上にはコリメートレンズ41、ビームスプリッタ42、偏光ビームスプリッタ43、1/4波長板44、ダイクロイックプリズム45が配置され、ダイクロイックプリズム45の透過光路上に集光光学系4が配置される。ビームスプリッタ42の戻り光の反射光路上にはレンズ50を介してフォトダイオード等の光検出部51が配置される。
【0042】
このような構成において、光源30から出射されるアシスト用の光は、コリメートレンズ31により平行光とされて偏光ビームスプリッタ33を通過してビームエキスパンダー35によってビーム幅を調整される。そして更にダイクロイックプリズム45により反射されて2軸アクチュエータ等の制御機構70に搭載された集光光学系4、すなわち対物レンズ3及びSIL2に入射される。
【0043】
磁気記録媒体11は、スピンドルモータ等の駆動部80により矢印rで示すように回転される。集光光学系4のSIL2との相対的走行方向を矢印Mで示す。本発明の磁気ヘッド装置10においては、磁気記録媒体11に照射される光アシスト用の光が直線偏光とされ、その電場振動方向が矢印Pで示すように、磁気記録媒体11の走行方向Mと平行となるように配置することが望ましい。
【0044】
この光アシスト用の光の戻り光を利用してトラッキングを行うこともできる。この場合、磁気記録媒体11の記録面から反射された戻り光は、SIL2、光学レンズ3を介してダイクロイックプリズム45により反射され、ビームエキスパンダー35を介して偏光ビームスプリッタ33により反射されてレンズ38により光検出部39に集光される。光検出部39によりトラッキング信号等が得られる。この信号に基づいて、制御装置69によりトラッキング制御信号が生成され、集光光学系4が保持される2軸アクチュエータ等の制御機構70を駆動する。
【0045】
一方、光源40からの光をコリメートレンズ41、ビームスプリッタ42、偏光ビームスプリッタ43、1/4波長板44を介してダイクロイックプリズム45に照射し、ダイクロイックプリズム45において光源30からの光と合波して、対物レンズ3、SIL2を介して磁気記録媒体11にギャップ検出用ビームスポットとして照射する。磁気記録媒体11からのギャップ検出用ビームスポットの戻り光は、ダイクロイックプリズム45、1/4波長板44を通過して、偏光ビームスプリッタ43から漏れた光をビームスプリッタ42で反射してレンズ50を介して光検出部51で検出する。
【0046】
磁気記録媒体11とSIL2とのギャップが広く、SIL端面で光が略全反射する場合には、SIL表面で偏光が変化するので、戻り光路で偏光ビームスプリッタ43から一部の光が漏れてくる。一方、磁気記録媒体11とSIL2とが近く、近接場光が漏れて通常の反射に近い場合には偏光の変化は小さいので、偏光ビームスプリッタ43を漏れてくる光量は小さくなる。この差すなわち、全反射戻り光量の変化を利用してギャップ検出を行うことができる。
なお、SIL2と磁気記録媒体11との間のギャップを検出する方法としては、その他例えば静電容量の変化を検出する方法など、種々の方法を採ることができる。
【0047】
次に、上述した磁気記録装置を用いてアシスト用の光を磁気記録媒体に照射した場合の光照射態様を、図9及び図10を用いてより詳細に説明する。
図9においては、主磁極に表面プラズマ共鳴を発生する金属層を設けない比較例による光アシスト型磁気ヘッド装置の場合であり、図10においては本発明の実施の形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置による場合を示す。
【0048】
図9に示す例においては、主磁極121に金属層を設けない場合で、主磁極121の入射光Liの入射側の側面121Sを光軸Cに沿う配置とする。入射光Liの進行方向をZ方向とし、その電場振動方向PをX方向、すなわち磁気記録媒体との相対的走行方向とし、すなわち磁気記録媒体の記録トラック長さ方向に選定する。
【0049】
図9及び図10においてX方向は薄膜磁気ヘッドの積層方向であり、薄膜磁気ヘッド形成上、記録ヘッド、再生ヘッドはこの方向にシリーズに配置される。従って、アジマスロスを最小化するためには、磁気記録媒体をX方向に移動しながら記録再生することが望ましく、通常X方向を記録トラック長さ方向にとる。Y方向は記録トラックの幅方向となる。
【0050】
図9に示すように、入射光Liの光軸Cが主磁極121の側面121Sに沿うように光学調整を行うと、スポット中心は、主磁極121の側面121Sに沿う磁気記録媒体側の端面に配置される。入射光Liによる光電場強度ELi´はSILの底面にある焦点で増加し、近接する主磁極121に誘電分極を引き起こす。主磁極121はCo、Ni合金等の磁性金属より成るが、その自由電子の入射光電場ELi´による励起振動が生じるためである。
金属と誘電体との界面では、入射光電場により自由電子振動が励起される。金属、誘電体の誘電率をε(ω)、εmとしたとき、
ε(ω)<0
|ε(ω)|>εm
を満たすときには、自由電子振動は界面に沿って平面波として伝播、表面から遠ざかるにつれ指数関数的に減衰するエバネッセント波として振舞う。この表面に局在励起されている自由電子振動をさして、表面プラズマ共鳴(SPR)という。
【0051】
入射光Liの偏光面、すなわち入射光の電場振動方向をX方向にとると、主磁極121の端部のうち入射光Liの光軸側の端部でのみ、上記の誘電分極効果が生じ、入射光Liの光軸C側の端部において光電場強度の増幅が生じる。この局所的な電荷集中の結果、主磁極121の入射光Liの光軸C側の端部の近傍に光スポットS´を形成することができる。この光スポットS´の強度分布をIs´として模式的に示す。
【0052】
この場合、入射光電場ELi´のZ成分が主磁極121の表面に表面プラズマ波SPR´を励振する。この主磁極21の側面121Sエッジ部での電荷集中は、ほぼ主磁極121の厚さの1/2程の範囲となる。つまりこの場合、スポットS´の直径は主磁極121の厚さの半分程度となり、主磁極121の厚さにスポット径が制限されることとなる。
【0053】
一方、図10に示す本発明の実施の形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置における場合について考える。図10においては、図4Bと対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
一般に金属中では自由電子が多数存在し、クーロン相互作用で自由電子の密度に振動が生じる。このような自由電子の集団的な振動はプラズモンと呼ばれ、バルク中では平面波として伝播する。一方誘電体と金属が接する2次元界面での電磁場を考えると、その波数kspは下記の式(1)で与えられる。
【0054】
ksp=(ω/c)×√{[εm×ε(ω)]/[εm+ε(ω)]}・・・(1)
【0055】
但し、上記式(1)において、ε(ω)は金属の誘電率、εmは誘電体の誘電率である。
ここで、前述したε(ω)<0、|ε(ω)|>εmという条件を満たすと、kspは実数となり、上述した表面プラズマ共鳴状態(SPR状態)が生まれる。kspは表面プラズマ共鳴周波数である。
【0056】
ここで、波長650nmの光に対して、Au、Ag、及びCoの誘電率はそれぞれ、
Au:−11.36+0.96i
Ag:−18.12+0.68i
Co:−13.84+20.68i
で与えられる。
Au、及びAgでは、誘電率の虚数部は無視できるほど小さく、ε(ω)<0という条件を満たすので、kspは実数となり、上で述べた表面プラズマ共鳴が発生することがわかる。一方Coでは誘電率の虚数部が大きいため、kspが虚数になってしまい、表面プラズマ共鳴が殆ど生じないことがわかる。
【0057】
よって、本発明において主磁極の照明光入射側に設ける金属層の材料としては、Au、Ag又はこれらの合金であればよいことが分かる。なお、Au合金、Ag合金とする場合の成分比や添加物材料の種類等は、表面プラズマ共鳴が発生し、目的とするスポット径やピークパワーを達成できる範囲であればよい。
【0058】
図9に示す例と同様に、図10に示す本発明の実施の形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置においても、入射光Liが直線偏光で、かつ電場振動方向Pが入射面内にある場合、入射光電場ELiのZ成分ELizは、金属層29と誘電体である光学ブロック6aとの界面での表面プラズマ波SPRの励起に寄与する。つまり、AuやAgのような表面プラズマ共鳴に寄与する金属層29が設けてあると、表面プラズマ波SPRがより強く発生し、面内で自由電子の振動がより強く励起される。さらに焦点面付近では入射光電場強度ELiも最大になり、かつエッジ効果により金属層29の端部で増強された誘電分極が発生する。表面プラズマ共鳴に寄与する自由電子は、金属層29内、特にAu、Agのスキンデプス長(10〜20nm)の範囲に局在しているため、局所的な電場振動の結果生じる近接光場スポットSの大きさも、この金属層29の膜厚と同程度になる。この光スポットSの強度分布をIsで示す。図9における光スポットS´の強度分布Is´に比して半値幅が狭くなっていることが分かる。
【0059】
以上の結果から、本発明においては、集光光学系に入射される入射光が直線偏光とされ、且つその電場振動方向を、磁気記録媒体との相対的走行方向に沿う配置とすることが、表面プラズマ共鳴を効率よく発生する上で望ましい。また、金属層の照明光入射側の側面に沿うように光軸を配置することが同様に望ましいことが分かる。
なお、金属層のY方向の中央部に光軸を配置せず、中央部からずらして配置する場合は、スポットのピークが2つとなってしまう恐れがある。このため、ピークが1つとなる範囲で、光軸を金属層の照明光入射側側面の中央部に配置することが望ましいといえる。
【0060】
図11は、X方向を電場振動方向としたときのスポットの光強度分布を模式的に示す図である。横軸はX方向すなわち記録トラック長さ方向の位置であり、縦軸は光強度(任意単位)である。主磁極21のY方向中心線からX方向の分布をプロットしたもので、磁気記録媒体表面における強度を示す。図11中、実線I1は図10に示す本発明の実施の形態に係る場合、実線I2は図9に示す比較例による場合、実線I3はSIL単体すなわち主磁極を設けない場合のスポットの場合をそれぞれ示す。なお、I1に示す例では金属層はAg膜とし、I2に示す例では主磁極の材料をCoとする。
【0061】
光学系の諸条件は以下の通りである。対物レンズの開口数は0.75、SILの屈折率は入射光波長に対して1.92、SILの材料は光学ガラスS−LAH58((株)オハラ社製、商品名)、入射光波長は400nmである。なお、対物レンズ3とSIL2とより成る集光光学系4の有効開口数は、1.44である。
また、この例においては、上述の図5において説明した構造において、主磁極21のデプス長ld、磁気記録媒体との相対的走行方向と直交する方向の主磁極21及びヨーク25の幅wm、wyは、それぞれld=3μm、wm=0.15μm、wy=4μmとした場合を示す。また、主磁極21の材料はCoでX方向の厚さは140nm、金属層29の材料はAgでX方向の厚さは10nmとした。
解析はFDTD法(Finite Difference Time Domain、有限差分時間領域法)により行った。SILの端面と磁気記録媒体の表面との距離は20nmとした。
【0062】
実線I2で示す比較例による場合においては、スポット径が50〜60nmと主磁極の厚さの半分程度となり、スポットのピークパワーは、実線I3で示す磁気ヘッドを設けない通常のSILの例と比べて70%程度になる。
一方、本発明の実施の形態に係る例では、実線I1で示すように、金属層を設けることによって、スポット径が10〜20nmと金属層の膜厚と同程度まで低減すなわち縮小化される。しかも、表面プラズマ共鳴の電場増強効果により、スポットのピークパワーも通常のSILのものより大きく増強されることが分かる。なお、金属層の材料をAuとする場合においても、ピークパワーが同様に高く、スポット径が金属層の膜厚と同程度まで低減される強度分布が得られた。
【0063】
以上の結果から、本発明においては、金属層の厚さが得られるスポット径にほぼ相当することが分かる。スポット径は目的とする最小の記録マークが記録できればよく、金属層の膜厚は目的とする最小の記録マーク長以下であればよいといえる。
一方、金属層の膜厚の下限としては、表面プラズマ共鳴が発生する厚さであればよく、一般的には3〜10nm程度とされる。1nm未満の膜厚では、表面プラズモンに対するエネルギーロスが大きいと考えられるので、金属層の厚さは1nm以上必要であり、3nm以上とすることが望ましいといえる。
【0064】
上述したように、本発明によれば、光アシスト用の光スポットと記録用の磁気ヘッドの主磁極の近接配置が可能となり、すなわち光スポットを主磁極端部に配置することができる。
また本発明によれば、光スポット径の微小化、特に50nm以下のスポット径を実現し、この微小スポットを主磁極端部に形成することができる。
【0065】
このような光スポットと主磁極との近接配置と、スポット径低減の2つの作用により、光アシスト効果による高い記録磁界勾配を発生することができる。この結果、記録マーク長を低減することができ、記録密度の向上を図ることができる。
【0066】
上述した高い記録磁界勾配の達成によって、より高い磁気異方性エネルギー(Ku)をもつ記録媒体への記録が可能となる。この結果、記録密度を高めると同時に、熱磁気緩和を抑制し、記録データの寿命を延ばすことも可能となる。
【0067】
すなわち本発明によれば、従来の磁気記録再生装置では実現困難であった、1テラビット/1インチ2を超える高記録密度を実現する光アシスト型磁気記録装置を提供することが可能となる。金属層の材料や膜厚の選定により、10nmオーダーのスポット径の光スポットを記録ヘッド磁極に対して10nmのオーダーをもって近接配置することが可能となり、十分な記録磁界と光スポット強度を同時に達成できる。したがって、従来記録できなかった高保磁力記録膜をもつ磁気記録媒体を用いることにより、記録ドメインを10nm以下に低減することが可能であり、記録密度の向上を実現する。
【0068】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。例えば、本発明の光アシスト型磁気ヘッド装置、光アシスト型磁気記録装置において、光学的調整により生じるばらつきの範囲内で、光軸と、薄膜磁気ヘッドの主磁極上の金属層との配置にマージンをもたせることが可能である。例えば光軸が金属層の照明光入射側の側面の中央から光学調整のマージンの範囲内でずれていても、中央に配置する場合と同様に光スポットのピーク位置を主磁極の端部に10nmオーダーで近接させることができる。
【0069】
これに対し、金属層のY方向端部に光軸を配置する場合は、良好な光電場エネルギー分布が得られず、本発明と同様の効果を得ることができない。入射光電場分布は焦点面付近においてガウシアン分布をとるとみなせるが、主磁極端部で単峰性のピークを生じさせるためには、入射光電場がほぼ一定とみなせる、ガウシアン分布の頂上付近を金属層の端に一致させる必要がある。これはSILによるスポット径の1/3〜1/4程度の範囲と考えられる。
すなわち、本発明において、金属層と光軸との配置のずれとしては、光電場エネルギー分布においてピークが単一となる範囲であればよいといえる。
【0070】
また、その他本発明の光アシスト磁気記録方法において、集光光学系にSILを用いることなく、その他SIM(Solid Immersion Mirror)等の近接場光照射手段を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置の断面構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置の要部の斜視構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置の一部を切り欠いた斜視構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置の要部の断面構成図である。
【図5】A及びBは本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置の要部の断面構成図及び平面構成図である。
【図6】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気記録装置の概略構成図である。
【図7】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気記録装置の概略構成図である。
【図8】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気記録装置の概略構成図である。
【図9】比較例による光アシスト型磁気ヘッド装置の主磁極近傍における入射光電場及び光スポットを示す図である。
【図10】本発明の実施形態に係る光アシスト型磁気ヘッド装置の主磁極近傍における入射光電場及び光スポットを示す説明図である。
【図11】本発明、比較例及び従来例による光アシスト型磁気ヘッド装置の主磁極近傍のスポット強度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1.磁気記録媒体、2.SIL、2S.球状部、2P.光学材料部、3.対物レンズ、4.集光光学系、5.薄膜磁気ヘッド、6a.第1の光学ブロック、6b.第2の光学ブロック、9.スペーサ、10.光アシスト型磁気ヘッド装置、12.端子導出部、13.電極、18.サスペンション、19.スライダ、21.主磁極、23.コイル、25.ヨーク、29.金属層、30.光源部、100.光アシスト型磁気記録装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集光光学系と、薄膜磁気ヘッドとを有し、
前記集光光学系は、半球型又は超半球型のソリッドイマージョンレンズを備え、
前記薄膜磁気ヘッドの主磁極の光入射側に、表面プラズマ共鳴を生じる金属層が設けられる
ことを特徴とする光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項2】
前記集光光学系に入射される入射光が直線偏光とされ、且つその電場振動方向が、磁気記録媒体との相対的走行方向に沿う配置とされたことを特徴とする請求項1記載の光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項3】
前記薄膜磁気ヘッドの主磁極は、垂直磁気記録用単磁極型磁気ヘッドであり、
前記主磁極の磁気記録媒体との相対的走行における流入端側の側面に前記金属層が設けられ、
前記金属層が前記集光光学系の光軸に沿って配置されることを特徴とする請求項1記載の光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項4】
前記金属層の中央部に前記光軸が配置されることを特徴とする請求項3記載の光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項5】
前記主磁極に設ける前記金属層の材質がAu、Ag、Au合金又はAg合金のいずれかより成ることを特徴とする請求項1記載の光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項6】
前記主磁極に設ける前記金属層の膜厚が、1nm以上であり、前記磁気記録媒体に記録する最小記録マーク長以下とされて成ることを特徴とする請求項1記載の光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項7】
前記ソリッドイマージョンレンズは、球面側レンズを構成する球状部と、前記磁気記録媒体との対向面側に配置される光学材料部とより構成され、
前記薄膜磁気ヘッドが前記光学材料部に形成されることを特徴とする請求項1記載の光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項8】
光源部と、
磁気記録媒体配置部と、
薄膜磁気ヘッドと、
記録信号制御部と、
前記光源部からの光を前記薄膜磁気ヘッドに導く集光光学系と、を具備し、
前記集光光学系は、半球型又は超半球型のソリッドイマージョンレンズを備え、
前記薄膜磁気ヘッドの主磁極の光入射側に、表面プラズマ共鳴を生じる金属層が設けられる
ことを特徴とする光アシスト型磁気記録装置。
【請求項9】
前記薄膜磁気ヘッドが、浮上スライダに搭載されたことを特徴とする請求項8記載の光アシスト型磁気記録装置。
【請求項10】
前記薄膜磁気記録ヘッドが、前記磁気記録媒体の表面に対し法線方向の位置決めを行うアクチュエータに搭載され、
前記磁気記録媒体からの近接場による戻り光を用いて、前記薄膜磁気ヘッドと前記磁気記録媒体との間の距離が制御されることを特徴とする請求項8記載の光アシスト型磁気記録装置。
【請求項11】
集光光学系の集光スポット位置に薄膜磁気ヘッドを配置し、
前記薄膜磁気ヘッドの主磁極に、表面プラズマ共鳴を生じる金属層を設けて、
前記主磁極の前記金属層を設ける先端位置から近接場光を発生して、前記磁気記録媒体に記録を行う
ことを特徴とする光アシスト磁気記録方法。
【請求項1】
集光光学系と、薄膜磁気ヘッドとを有し、
前記集光光学系は、半球型又は超半球型のソリッドイマージョンレンズを備え、
前記薄膜磁気ヘッドの主磁極の光入射側に、表面プラズマ共鳴を生じる金属層が設けられる
ことを特徴とする光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項2】
前記集光光学系に入射される入射光が直線偏光とされ、且つその電場振動方向が、磁気記録媒体との相対的走行方向に沿う配置とされたことを特徴とする請求項1記載の光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項3】
前記薄膜磁気ヘッドの主磁極は、垂直磁気記録用単磁極型磁気ヘッドであり、
前記主磁極の磁気記録媒体との相対的走行における流入端側の側面に前記金属層が設けられ、
前記金属層が前記集光光学系の光軸に沿って配置されることを特徴とする請求項1記載の光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項4】
前記金属層の中央部に前記光軸が配置されることを特徴とする請求項3記載の光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項5】
前記主磁極に設ける前記金属層の材質がAu、Ag、Au合金又はAg合金のいずれかより成ることを特徴とする請求項1記載の光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項6】
前記主磁極に設ける前記金属層の膜厚が、1nm以上であり、前記磁気記録媒体に記録する最小記録マーク長以下とされて成ることを特徴とする請求項1記載の光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項7】
前記ソリッドイマージョンレンズは、球面側レンズを構成する球状部と、前記磁気記録媒体との対向面側に配置される光学材料部とより構成され、
前記薄膜磁気ヘッドが前記光学材料部に形成されることを特徴とする請求項1記載の光アシスト型磁気ヘッド装置。
【請求項8】
光源部と、
磁気記録媒体配置部と、
薄膜磁気ヘッドと、
記録信号制御部と、
前記光源部からの光を前記薄膜磁気ヘッドに導く集光光学系と、を具備し、
前記集光光学系は、半球型又は超半球型のソリッドイマージョンレンズを備え、
前記薄膜磁気ヘッドの主磁極の光入射側に、表面プラズマ共鳴を生じる金属層が設けられる
ことを特徴とする光アシスト型磁気記録装置。
【請求項9】
前記薄膜磁気ヘッドが、浮上スライダに搭載されたことを特徴とする請求項8記載の光アシスト型磁気記録装置。
【請求項10】
前記薄膜磁気記録ヘッドが、前記磁気記録媒体の表面に対し法線方向の位置決めを行うアクチュエータに搭載され、
前記磁気記録媒体からの近接場による戻り光を用いて、前記薄膜磁気ヘッドと前記磁気記録媒体との間の距離が制御されることを特徴とする請求項8記載の光アシスト型磁気記録装置。
【請求項11】
集光光学系の集光スポット位置に薄膜磁気ヘッドを配置し、
前記薄膜磁気ヘッドの主磁極に、表面プラズマ共鳴を生じる金属層を設けて、
前記主磁極の前記金属層を設ける先端位置から近接場光を発生して、前記磁気記録媒体に記録を行う
ことを特徴とする光アシスト磁気記録方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−76166(P2009−76166A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246245(P2007−246245)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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