説明

光アナログ−ディジタル変換装置および方法

【課題】プローブ光型光アナログ−ディジタル変換装置、方法を改良する。特にパルス光の圧縮システムを簡単にする。
【解決手段】
パルス光源(種光源)100の出力光をパルス光圧縮器110で圧縮して、アナログ入力信号10を標本化するためのパルス光20を生成する。この標本化パルス光を光分配器130で分配し、一方は光標本化器120に入力して標本化パルスとして使用する。他方は第2のパルス光圧縮器140に通してさらにパルス幅を狭くして第2の圧縮パルス光40を生成する。第2の圧縮パルス光は光符号化器150においてプローブ光として光符号化のために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光アナログ信号を光ディジタル信号に変換する光アナログ−ディジタル変換装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変換プロセスを光領域で行う光アナログ−ディジタル変換技術や光ディジタル−アナログ変換技術は、連続的に変化するアナログ信号と、信号処理、伝達、記録などに適したディジタル信号とを結ぶ技術として研究および開発が行われている。特に、近年の信号処理速度の向上に伴い、電子デバイスの動作制限を受けない超高速光AD変換(optically operated ultra-high speed analog to digital conversion)、超高速光DA変換(optically operated ultra-high speed digital to analog conversion)が求められている。
【0003】
一般に、アナログ−ディジタル変換には、標本化、量子化、符号化の3つの処理が必要である。電子デバイスの発展には目を見張るものがあり、「電気的な」(変換プロセスを電気的領域で行う)アナログ−ディジタル変換では並列処理を導入して高速化の努力が図られている。しかしながら、電子回路の熱雑音、標本化のアパチャのジッタ、比較器の曖昧性、さらにはハイゼンベルグの不確定性原理などの物理的な限界から、標本化周波数は高々数十GHzとされている。すなわち、電気的なアナログ−ディジタル変換には速度的な限界が見えてきた。
【0004】
そこで、より高速な変換を実現するものとして、変換プロセスのすべてを光領域で行う(すなわち、光標本化、光符号化、光量子化を行う)光アナログ−ディジタル変換(all-optical analog to digital conversion:AOADC)の研究・開発が進められており、特に高速大容量化のニーズが高い通信分野においてその重要性が高まっている。
【0005】
光標本化器を実現する技術として、2次の非線形光学結晶中での和周波発生を用いる方式(非特許文献1)、非線形ループミラー中での相互位相変調(XPM:cross phase modulation)を用いる方式(非特許文献2)、及び光ファイバ中での四光波混合(FWM:four-wave mixing)を用いる方式(非特許文献3)等が既に提案され、実用化段階まできている。
【0006】
一方、光量子化器および光符号化器は、現在までいくつか提案はされているが、動作が複雑であることから光信号に対して実現すること(すなわち光領域で行うこと)は一般には容易ではない。標本化のみを光領域で行い、光時間分割多重を行うことで、電気処理による量子化、符号化を並列化し100GHzのAD変換を行った報告もあるが(非特許文献4)、並列化は装置の大型化、高コスト化を避けることができない。それ故、超高速AD変換の実現のためには光量子化、光符号化が必要不可欠である。現在までに提案されている光量子化/光符号化手法は、大きく分けて2種類に大別される。1つは、Sagnac干渉計に基づく非線形ループミラー(NOLM:Non-linear Optical Loop Mirror)スイッチを用いる手法(特許文献1)に示されているように、標本化された光アナログ信号とそれに同期した圧縮パルス光(プローブ光として使用される)を用いる手法であり、もう1つは、ソリトンの自己周波数シフト(self-frequency shift)を利用する手法(非特許文献5)、またはスーパーコンティニュウム(supercontinuum)を利用する手法(非特許文献6)のように、プローブ光を必要としない技法である。
【0007】
【特許文献1】特開2005−173530号(特願2004−167230)「光信号処理方法及び装置、非線形ループミラーとその設計方法並びに光信号変換」
【非特許文献1】H. Takara. et al., Electron Lett., vol.30, p.1152, 1994
【非特許文献2】T. Yamamoto et al., Electron. Lett., vol.34, p.1013, 1998
【非特許文献3】T. Morioka et al., Electron. Lett., vol.32, p.833, 1996
【非特許文献4】Thomas R. Clark, Jr. et al., PTL, vol.13, p.236, 2001
【非特許文献5】T. Konishi et al., J. Opt. Soc. Am. B, vol.19, p.2817, 2002
【非特許文献6】S. Oda et al., IEEE Photonics Technol. Lett., vol.16, p.587, 2004
【0008】

図6に、標本化された光アナログ信号とそれに同期した圧縮パルス光を使用して光アナログ−ディジタル変換を行う従来の光アナログ−ディジタル変換装置の代表的構成を示す。この種の変換装置を圧縮パルス型光アナログ−ディジタル変換装置またはプローブ光型光アナログ−ディジタル変換装置と呼ぶことにする。図示の光アナログ−ディジタル変換装置の目的は、光アナログ入力信号10を対応するデジタルの光信号50に変換することである。光アナログ入力信号10の波長はλanalogで示してある。
【0009】
光アナログ入力信号10を光標本化するために光標本化器220が使用される。光標本化器220は上述したいずれか(和周波発生型光標本化器、相互位相変調型光標本化器、四光波混合型光標本化器)で実現される。いずれにしても、光標本化器220はアナログ入力信号10と標本化パルス光20を受け、アナログ入力信号10を標本化パルス光20のタイミングで光標本化して、標本化された光アナログ信号30を生成する。
【0010】
コンポーネント200と210は標本化パルス光20を生成するための光源システムを構成する。ここに、コンポーネント200は光アナログ入力信号10の標本周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光を繰り返し発生するパルス光源である。典型的にパルス光源200は半導体レーザ(LD:laser diode)を備えている。パルス光圧縮器210はこのパルス光源200からのパルス光を圧縮する、すなわちパルス幅を光標本化器220の動作(特に標本化周波数)に適した幅に狭くして、標本化パルス光20を生成する。アナログ入力信号10とパルス光圧縮器210からの標本化パルス光20は光結合器225を介して光標本化器220に入力される。なお、パルス光圧縮器(optical pulse compressor)は図面に記すように単にパルス圧縮器と呼ぶことがある。
【0011】
図6の光アナログ−ディジタル変換装置は光アナログ入力信号10を光符号化するために光符号化器250を備える。光符号化器250は光標本化器220からの標本化された光アナログ信号30と圧縮パルス光40を受け、圧縮パルス光40をプローブ光として使用して光アナログ信号30を光符号化する。
【0012】
コンポーネント300と310は光符号化器250で使用するプローブ光(圧縮パルス光)40を生成するための光源システムを構成する。すなわち、コンポーネント300は標本周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光を繰り返し発生するパルス光源であり、典型的に半導体レーザ(LD)を備える。なお、このパルス光源300が出力するパルス光は標本化された光アナログ信号30と同期している。パルス光圧縮器310はこのパルス光源300からのパルス光を圧縮して圧縮パルス光(プローブ光)40を生成する。したがって、プローブ光として使用される圧縮パルス光40は標本化された光アナログ信号30と同期している。
【0013】
図6の光アナログ−ディジタル変換装置において、光符号化器250からの符号化信号は光量子化器(光閾値処理器)260により光量子化され、光アナログ入力信号10に対応するデジタルの光信号50が得られる。
このようにして、図6に示した光アナログ−ディジタル変換装置は標本化、符号化、量子化のすべての処理を光領域で行うことにより、原理上、高速な光アナログ−ディジタル変換を行うことができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、図6に示したような従来の光アナログ−ディジタル変換装置にも改良すべき点がある。
【0015】
したがって、本発明の主たる目的はこの種の光アナログ−ディジタル変換装置、方法を改良することである。
【0016】
本件発明者の見い出したところによれば、図6の光アナログ−ディジタル変換装置には光源システムに関して冗長性があると考えられる。光符号化器250、光量子化器260において適切な光符号化、光量子化が行われるためには、パルス光圧縮器310において十分なパルス圧縮を行って、パルス幅が非常に狭いパルス光(したがって、光パルスのピークパワー密度が非常に大きいパルス光)を生成しなければならない。このため、パルス光圧縮器340が複雑化し高価になる。特に高速変換のニーズに対応して高い標本化周波数が求められる。その場合、光符号化器250、光量子化器260の動作に求められる十分な非線形効果を発生するためには、標本化周波数に応じてさらに狭いパルス幅の(したがって、さらにピークパワー密度の高い)光が必要となる、すなわち、極めて高いパルス圧縮率を実現しなければならなくなり、パルス光圧縮器310が大がかりになる問題がある。
【0017】
したがって、本発明の具体的な目的は、光アナログ−ディジタル変換装置、方法において、パルス光圧縮器を含む圧縮パルス光源システムを簡単な構成にした変換装置、方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一形態によれば、標本周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光を繰り返し発生するパルス光源と、パルス光源からのパルス光を光学的に圧縮して圧縮パルス光を発生する第1のパルス光圧縮器と、第1のパルス光圧縮器からの圧縮光を第1と第2の出力ポートに分配出力する光分配器と、光アナログ入力信号とともに光分配器の第1の出力ポートから出力される圧縮パルス光を使用して光アナログ入力信号を標本化する光標本化器と、光分配器の第2の出力ポートから出力される圧縮パルス光を光学的にさらに圧縮して第2の圧縮パルス光を発生する第2のパルス光圧縮器と、光標本化器からの標本化された光アナログ信号と第2のパルス光圧縮器からの第2の圧縮パルス光を出力する出力端を備える光アナログ−ディジタル変換装置が提供される。
【0019】
この構成によれば、光標本化器に供給されるパルス光が光分配器を介して第2の圧縮パルス光信号のソースとしても使用されるため、第2のパルス光圧縮器の構成が比較的簡単になる。換言すると、光標本化器に供給されるパルス光(圧縮パルス光)はパルス光源と第1のパルス光圧縮器により、ある程度まで(光標本化器の動作に適した程度まで)パルス光のパルス幅が圧縮されているため、第2のパルス光圧縮器はソースとして与えられる、この圧縮パルス光をさらにある程度圧縮することにより、所望の圧縮率を実現した第2の圧縮パルス光を得ることができる。さらに、換言すると、図6の従来構成において、パルス光圧縮器310で達成しなければならないパルス圧縮率は、本発明の一形態の場合、第1のパルス光圧縮器と第2のパルス光圧縮器の協調による合成パルス圧縮で実現されるため、第2のパルス光圧縮器の構成が簡単になる。また、図6の従来構成と比べ、パルス光源が共通化、単一化される利点もある。
【0020】
好ましい形態において、光アナログ−ディジタル変換装置は、出力端に結合された光符号化器を備え、光符号化器は標本化された光アナログ信号と第2の圧縮パルス光を受け、第2の圧縮パルス光をプローブ光として使用する。
また、好ましい形態の光アナログ−ディジタル変換装置は、光符号器に結合された光量子化器を備え、光量子化器は電気領域ではなく光領域において光アナログ信号を量子化して光ディジタル信号を発生する。
【0021】
好ましい形態において、パルス光源から発生するパルス光は第1の波長を有し、第1のパルス光圧縮器から発生する圧縮パルス光は第1の波長を有し、第2のパルス光圧縮器から発生する第2の圧縮パルス光は第1の波長を有し、光標本化器から発生する標本化された光アナログ信号は第1の波長とは異なる第2の波長を有し、第2の圧縮パルス光と標本化された光アナログ信号は同期している。
【0022】
光アナログ入力信号は第2の波長と同一または異なる波長を有する。すなわち、標本化された光アナログ信号の波長は光標本化器の標本化方式に依存して、光アナログ入力信号の波長と同一または異なり得る。
【0023】
好ましい形態において、光標本化器は、標本化された光アナログ信号を出力する光フィルタを備える。
【0024】
パルス光圧縮器として実現可能な形態は幾つかある。
例えば、第1および第2のパルス光圧縮器はそれぞれ、断熱ソリトン圧縮を用いた圧縮器で構成される。
代替として、第1および第2のパルス光圧縮器はそれぞれ、高次ソリトン圧縮を用いた圧縮器で構成される。
あるいは、第1および第2のパルス光圧縮器はそれぞれ、正常分散の光ファイバと分散補償素子を組み合わせた圧縮器で構成できる。
【0025】
標本周波数を定めるパルス光を発生するパルス光源(種光源)のパルス幅が十分に小さい場合、光標本化器はこの種光源(seed laser)の出力パルスをそのまま(パルス圧縮せずに)用いて光標本化を行うことができる。
【0026】
したがって、この側面に則した本発明の形態として、標本周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光を繰り返し発生するパルス光源(種光源)と、パルス光源からのパルス光を第1と第2の出力ポートに分配出力する光分配器と、光アナログ入力信号とともに光分配器の第1の出力ポートから出力されるパルス光を使用して光アナログ入力信号を標本化する光標本化器と、光分配器の第2の出力ポートから出力されるパルス光を光学的に圧縮して圧縮パルス光を発生するパルス光圧縮器と、光標本化器からの標本化された光アナログ信号とパルス光圧縮器からの圧縮パルス光を出力する出力端を備える光アナログ−ディジタル変換装置が提供される。
【0027】
さらに、本発明の他の側面によれば、標本化周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光を繰り返し発生し、パルス光を光学的に圧縮して圧縮パルス光を発生し、圧縮パルス光を第1と第2の出力ポートに分配し、光アナログ入力信号を供給し、光アナログ入力信号とともに第1の出力ポートからの圧縮パルス光を使用して光アナログ入力信号を標本化し、第2の出力ポートからの圧縮パルス光を光学的にさらに圧縮して第2の圧縮パルス光を発生するステップを有する光アナログ−ディジタル変換方法が提供される。
【0028】
さらに、本発明の他の側面によれば、標本化周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光を繰り返し発生し、パルス光を第1と第2の出力ポートに分配し、光アナログ入力信号を供給し、光アナログ入力信号とともに第1の出力ポートからのパルス光を使用して光アナログ入力信号を標本化し、第2の出力ポートからのパルス光を光学的に圧縮して圧縮パルス光を発生するステップを有する光アナログ−ディジタル変換方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1に、本発明の一形態に基づいて、光アナログ−ディジタル変換を行う光アナログ−ディジタル変換装置の構成を示す。図示の光アナログ−ディジタル変換装置は、光アナログ入力(optical analog input)信号10を対応するデジタルの光(optical digital)信号50に変換することを目的とし、光標本化(optical sampling)、光符号化(optical coding)、光量子化(optical quantization)により変換の全プロセスを光領域で行うものである。
【0030】
光アナログ入力信号10を光標本化するために光標本化器(optical sampler)120が使用される。光標本化器120は光アナログ入力信号10と標本化パルス光(optical sampling pulses)20を受け、アナログ入力信号10を標本化パルス光20のタイミングで光標本化して、標本化された光アナログ(sampled optical analog)信号30を生成する。
【0031】
コンポーネント100と110は標本化パルス光20を生成するための光源システムを提供するとともに、後述するように、プローブ光40のソースを提供する。ここに、コンポーネント100は光アナログ入力信号10の標本周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光を繰り返し発生するパルス光源(種光源)である。典型的にパルス光源100は半導体レーザ(LD:laser diode)を備えている。パルス光圧縮器110はこのパルス光源100からのパルス光を圧縮する。すなわちパルス幅を光標本化器120の動作(特に標本化周波数)に適した幅に狭くして、標本化パルス光(第1の圧縮パルス光)20を生成する。アナログ入力信号10とパルス光圧縮器110からの標本化パルス光20は光結合器125を介して光標本化器120に入力(入射)される。
【0032】
図1の光アナログ−ディジタル変換装置は光アナログ入力信号10を光符号化するために装置の内部または外部に光符号化器150を備える。外部の光符号化器150の場合、光アナログ−ディジタル変換装置には、光標本化器120からの標本化された光アナログ信号30を出力するアナログ標本出力端と後述する第2のパルス光圧縮器140からの第2の圧縮パルス光を出力するプローブ光出力端が設けられ、これらの出力端に外部の光符号化器150が結合される。いずれにしても、光符号化器150は光標本化器120からの標本化された光アナログ信号30と後述する第2のパルス光圧縮器140からの圧縮パルス光40を受け、圧縮パルス光40をプローブ光として使用して光アナログ信号30を光符号化する。
【0033】
本発明の一形態に従い、標本化パルス光源(要素100と110の組合せ)の出力光20は光分配器(optical divider)130を介して、光標本化器120に結合するとともに、第2のパルス光圧縮器140に結合する。
【0034】
詳しく述べると、光分配器130は入力ポート132でパルス光圧縮器110からの圧縮パルス光20を受け、それを第1の出力ポート134と第2の出力ポート136に分配結合する。光分配器130の第1出力ポート134からの圧縮パルス光20は光結合器125に入力される。光結合器125は標本化パルス20である圧縮パルス光とともにアナログ入力信号10を受け、これらを光標本化器120に結合する。一方、光分配器130の第2出力ポート136から出力された圧縮パルス光20は第2のパルス光圧縮器140に入力される。
【0035】
第2のパルス光圧縮器140は標本化パルス20である圧縮パルス光を光学的にさらに圧縮して第2の圧縮パルス光を生成する。上記のようにこの第2の圧縮パルス光は光符号化器150においてプローブ光40として使用され、標本化された光アナログ信号30が光符号化される。
【0036】
ここで、波長関係、タイミング関係について説明する。光アナログ入力信号10の波長をλanalog、パルス光源100の出力であるパルス光の波長をλ1、標本化された光アナログ信号30の波長をλとすると、第1のパルス光圧縮器の出力である標本化パルス光20の波長、および第2のパルス光圧縮器140の出力である第2の圧縮パルス光40の波長はパルス光の波長λ1に等しい。一方、光標本化器120から出力される標本化された光アナログ信号の波長λはパルス光の波長(=標本化パルス光波長=プローブ光波長)λ1と異なる。標本化された光アナログ信号30の波長λは標本化方式に依存して、元のアナログ入力信号10の波長λanalogと異なる場合と同じ場合がある。また、標本化された光アナログ信号30とプローブ光(第2の圧縮パルス光)40は同期している。なお、これらの波長関係、同期関係は特別な手段により、または特別な条件下で実現されるものでなく、現在利用できる技術を用いる限り、無条件で成り立つ。
【0037】
図1の光アナログ−ディジタル変換装置において、光符号化器(optical coder)150からの符号化信号は光量子化器(optical quantizer、光閾値処理器)160により光量子化され、光アナログ入力信号10に対応するデジタルの光信号50が得られる。
【0038】
したがって、図1の構成によれば、標本化周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光を繰り返し発生するステップと、パルス光を光学的に圧縮して圧縮パルス光20を発生するステップと、圧縮パルス光20を第1と第2の出力ポート134、136に分配するステップと、光アナログ入力信号10を供給するステップと、光アナログ入力信号10とともに第1の出力ポートからの圧縮パルス光20を使用して光アナログ入力信号10を標本化するステップと、第2の出力ポート136からの圧縮パルス光20を光学的にさらに圧縮して第2の圧縮パルス光40を発生するステップを有する光アナログーディジタル変換方法が提供される。
【0039】
さらに、光符号化器150と光量子化器160を用いることにより、標本化された光アナログ入力信号30と圧縮パルス光40に基づいて、光アナログ入力信号10に対応する光ディジタル信号50が光学的に生成される。
【0040】
ここで、本発明の一形態を示す図1と従来技術を示す図6を比較すると、次にような利点があることが分かる。図1の構成によれば、光標本化器120に供給されるパルス光20が光分配器130を介して第2の圧縮パルス信号40のソースとしても使用されるため、第2のパルス光圧縮器140の構成が比較的簡単になる。換言すると、光標本化器120に供給されるパルス光(圧縮パルス光20)はパルス光源100と第1のパルス光圧縮器110により、ある程度まで(光標本化器の動作に適した程度まで)パルス光のパルス幅が圧縮されているため、第2のパルス光圧縮器140はソースとして与えられる、この圧縮パルス光20をさらにある程度圧縮することにより、所望の圧縮率を実現した第2の圧縮パルス光40を得ることができる。さらに、換言すると、図6の従来構成において、パルス光圧縮器310で達成しなければならないパルス圧縮率は、本発明の一形態の場合、第1のパルス光圧縮器110と第2のパルス光圧縮器140の協調による合成パルス圧縮で実現されるため、第2のパルス光圧縮器140の構成が簡単になる。また、100で示すようにパルス光源が共通化、単一化される利点もある。
【0041】
図1において、標本周波数を定めるパルス光を発生するパルス光源100(種光源)のパルス幅が十分に小さい場合、光標本化器120はこのパルス光源100の出力パルスをそのまま(パルス圧縮せずに)用いて光標本化を行うことができる。
【0042】
この場合、標本化パルス光源システムからパルス光圧縮器110を除外することができる。この結果、図2に示すような構成となる。すなわち、図2は本発明の別形態による光アナログ−ディジタル変換装置を示すものである。図1との違いは、標本化パルス光源システムにパルス光源100は含まれるが、パルス光圧縮器(110に相当するもの)は含まれない点であり、その他は同一である。したがって、図2についてこれ以上の説明は省略する。
以下、図1、図2に示す光アナログ−ディジタル変換装置の主要な構成部品についてその実現形態を説明する。
【0043】
<光標本化器の形態>
光標本化器120は、先に述べたように、(1)例えば、2次の非線形光学結晶(nonlinear optical crystal)中での和周波(sum frequency)発生を用いる形態、(2)非線形ループミラー中での相互位相変調(XPM:cross phase modulation)を用いる方法、及び(3)光ファイバや半導体中での四光波混合(FWM:four wave mixing)を用いる形態で実現可能であり、生成された標本化アナログ信号30は光フィルタを介して取り出される。
【0044】
<パルス光圧縮器の形態>
パルス光圧縮器(110、140など)は、例えば、(1)断熱ソリトン圧縮(adiabatic soliton compression)を用いる形態、(2)高次ソリトン(higher- order soliton)を用いる形態、(3)正常分散の光ファイバと分散補償素子を組み合わせた形態で実現可能である。
【0045】
(1)断熱ソリトンを用いる形態
断熱ソリトン型パルス光圧縮器の幾つかの形態を図3と図4に示す。図3、図4において、左側に示す波形60はパルス光圧縮器に入力される入力光のパルス波形(ここではソリトン)であり、同図の右側に示す波形70はパルス光圧縮器から出力される出力光のパルス波形を模式的に示したものである。これらの波形図において横軸は時間、縦軸はパワーを表す。図3、図4の中央に示すのは各形態のパルス光圧縮器の特性を模式的に示したものである。これらの特性図において横軸は距離(distance)、縦軸は分散値(dispersion)を表す。
【0046】
断熱ソリトン型パルス光圧縮器の第1の形態は、光ファイバの長手方向の分散値プロファイルを変化(典型的には減少)させる分散減少型光ファイバ(dispersion decreasing fiber)形態111である。第2の形態は、分散値の異なる複数の光ファイバを用いてファイバ長手方向の分散値プロファイルを変化(典型的には階段状に変化)させるステップ型分散プロファイル光ファイバ(step-like dispersion profiled fiber)形態112である。第3の形態は分散値の異なる2種類のファイバを用いて分散値の長手方向のプロファイルを変化(典型的には櫛状に変化)させる櫛型分散プロファイル光ファイバ(comb-like dispersion profiled fiber)形態113である。第4の形態は高非線形ファイバとシングルモードファイバを多段接続することにより構成される櫛型プロファイル光ファイバ(comb-like profiled fiber)形態114である。第5の形態は光ファイバの長手方向に緩やかに利得を与えるラマン増幅を用いるラマン増幅(adiabatic Raman amplification)型光ファイバ形態115である。
【0047】
(2)高次ソリトンを用いる形態
パルス光圧縮器の別の形態として、高次ソリトン型(higher- order soliton)パルス光圧縮器圧縮がある。ソリトン次数が1よりも大きい光ソリトン(高次ソリトン)は、光ファイバ中を伝搬中にその波形が周期的に変化することが知られており、ある距離を伝搬した時にパルス幅が最も狭くなる。
【0048】
(3)正常分散の光ファイバと分散補償素子を組み合わせた形態
パルス光圧縮器のさらに別の形態として、正常分散の光ファイバと分散補償素子を組み合わせた形態がある。この形態に属する2種類のパルス光圧縮器を図5に符号142と146で示す。図5において、中央左の波形60はパルス光圧縮器に入力されるパルス光波形を示し、中央右の波形70はパルス光圧縮器から出力されるパルス光波形を示す。波形65は中間で生成される波形である。正常分散の光ファイバ143に強い光強度を持つパルス光60を伝搬させると、ほぼ線形にチャープしたパルス光65を得ることができる。このチャープを、分散補償素子としての異常分散素子144、145により補償して、圧縮パルス70を得る。異常分散素子としては、通常、回折格子対144やプリズム145が用いられる。図5において、142は正常分散光ファイバ143に回転格子対144を組み合わせた形態のパルス光圧縮器であり、146は正常分散光ファイバ143にプリズム145を組み合わせた形態のパルス光圧縮器である。
【0049】
以上で本発明の実施形態の説明を終えるが、当業者には明らかなように、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。例えば、パルス光源(種光源)として用いるレーザとして半導体レーザ(LD)が好ましいがこれには限定されない。その他、各種コンポーネントについて本発明の範囲から逸脱することなく各種代替、変更が可能である。

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一形態に基づいた光アナログ−ディジタル変換装置および方法を説明するブロック図である。
【図2】本発明の別形態に基づいた光アナログーディジタル変換装置および方法を説明するブロック図である。
【図3】パルス光圧縮器の実現形態を説明する図である。
【図4】パルス光圧縮器の実現形態を説明する図である。
【図5】パルス光圧縮器の実現形態を説明する図である。
【図6】従来の代表的な光アナログ−ディジタル変換装置および方法を説明するブロック図である。
【符号の説明】
【0051】
10:アナログ入力信号、
20:標本化パルス光、
30:標本化された光アナログ信号、
40:プローブ光、
50:光ディジタル信号
100:パルス光源、
110:パルス光圧縮器(第1のパルス光圧縮器)、
120:光標本化器、
130:光分配器、
134:光分配器の第1出力ポート、
136:光分配器の第2出力ポート、
140:パルス光圧縮器(第2のパルス光圧縮器)、
150:光符号化器、
160:光量子化器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光を繰り返し発生するパルス光源と、
パルス光源からのパルス光を光学的に圧縮して圧縮パルス光を発生する第1のパルス光圧縮器と、
第1のパルス光圧縮器からの圧縮光を第1と第2の出力ポートに分配出力する光分配器と、
光アナログ入力信号とともに光分配器の第1の出力ポートから出力される圧縮パルス光を使用して光アナログ入力信号を光学的に標本化する光標本化器と、
光分配器の第2の出力ポートから出力される圧縮パルス光を光学的にさらに圧縮して第2の圧縮パルス光を発生する第2のパルス光圧縮器と、
光標本化器からの標本化された光アナログ信号と第2のパルス光圧縮器からの第2の圧縮パルス光を出力する出力端を
備えることを特徴とする光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項2】
さらに、出力端に結合された光符号化器を備え、光符号化器は標本化された光アナログ信号と第2の圧縮パルス光を受け、第2の圧縮パルス光をプローブ光として用いて光アナログ信号を符号化することを特徴とする請求項1記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項3】
さらに光符号器に結合された光量子化器を備え、光量子化器は電気領域ではなく光領域において光アナログ信号を量子化して光ディジタル信号を発生することを特徴とする請求項2記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項4】
パルス光源から発生するパルス光は第1の波長を有し、
第1のパルス光圧縮器から発生する圧縮パルス光は第1の波長を有し、
第2のパルス光圧縮器から発生する第2の圧縮パルス光は第1の波長を有し、
光標本化器から発生する標本化された光アナログ信号は第1の波長とは異なる第2の波長を有し、
第2の圧縮パルス光と標本化された光アナログ信号は同期している
ことを特徴とする請求項1記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項5】
光アナログ入力信号は第2の波長と同一の波長を有することを特徴とする請求項4記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項6】
光アナログ入力信号は第2の波長と異なる波長を有することを特徴とする請求項4記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項7】
光標本化器は、標本化された光アナログ信号を出力する光フィルタを備えることを特徴とする請求項1記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項8】
第1および第2のパルス光圧縮器はそれぞれ、断熱ソリトン圧縮を用いた圧縮器を備えることを特徴とする請求項1記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項9】
第1および第2のパルス光圧縮器はそれぞれ、高次ソリトン圧縮を用いた圧縮器を備えることを特徴とする請求項1記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項10】
第1および第2のパルス光圧縮器はそれぞれ、正常分散の光ファイバと分散補償素子を組み合わせた圧縮器を備えることを特徴とする請求項1記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項11】
標本周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光を繰り返し発生するパルス光源と、
パルス光源からのパルス光を第1と第2の出力ポートに分配出力する光分配器と、
光アナログ入力信号とともに光分配器の第1の出力ポートから出力されるパルス光を使用して光アナログ入力信号を光学的に標本化する光標本化器と、
光分配器の第2の出力ポートから出力されるパルス光を光学的に圧縮して圧縮パルス光を発生するパルス光圧縮器と、
光標本化器からの標本化された光アナログ信号とパルス光圧縮器からの圧縮パルス光を出力する出力端を
備えることを特徴とする光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項12】
さらに、出力端に結合された光符号化器を備え、光符号化器は標本化された光アナログ信号と圧縮パルス光を受け、圧縮パルス光をプローブ光として用いて光アナログ信号を符号化することを特徴とする請求項11記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項13】
さらに光符号器に結合された光量子化器を備え、光量子化器は電気領域ではなく光領域において光アナログ信号を量子化して光ディジタル信号を発生することを特徴とする請求項12記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項14】
パルス光源から発生するパルス光は第1の波長を有し、
パルス光圧縮器から発生する圧縮パルス光は第1の波長を有し、
光標本化器から発生する標本化された光アナログ信号は第1の波長とは異なる第2の波長を有し、
圧縮パルス光と標本化された光アナログ信号は同期している
ことを特徴とする請求項11記載のアナログ−ディジタル変換装置。
【請求項15】
光アナログ入力信号は第2の波長と同一の波長を有することを特徴とする請求項14記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項16】
光アナログ入力信号は第2の波長と異なる波長を有することを特徴とする請求項14記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項17】
光標本化器は、標本化された光アナログ信号を出力する光フィルタを備えることを特徴とする請求項11記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項18】
パルス光圧縮器は断熱ソリトン圧縮を用いた圧縮器を備えることを特徴とする請求項11記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項19】
パルス光圧縮器は高次ソリトン圧縮を用いた圧縮器を備えることを特徴とする請求項11記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項20】
パルス光圧縮器は正常分散の光ファイバと分散補償素子を組み合わせた圧縮器を備えることを特徴とする請求項11記載の光アナログ−ディジタル変換装置。
【請求項21】
標本化周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光を繰り返し発生し、
パルス光を光学的に圧縮して圧縮パルス光を発生し、
圧縮パルス光を第1と第2の出力ポートに分配し、
光アナログ入力信号を供給し、
光アナログ入力信号とともに第1の出力ポートからの圧縮パルス光を使用して光アナログ入力信号を標本化し、
第2の出力ポートからの圧縮パルス光を光学的にさらに圧縮して第2の圧縮パルス光を発生する
ステップを有することを特徴とする、光アナログ入力信号を光ディジタル信号に変換する方法。
【請求項22】
さらに、
標本化された光アナログ入力信号と第2の圧縮パルス光に基づいて、光アナログ入力信号に対応する光ディジタル信号を光学的に生成するステップを有することを特徴とする請求項21記載の方法。
【請求項23】
光ディジタル信号を光学的に生成するステップは、
標本化された光アナログ信号と第2の圧縮パルス光に基づき、第2の圧縮パルス光をプローブ光として使用して標本化された光アナログ信号を光学的に符号化して符号化信号を生成する光符号化ステップと、
符号化信号を光学的に量子化して光アナログ入力信号に対応する光ディジタル信号を生成する光量子化ステップを有することを特徴とする請求項22記載の方法。
【請求項24】
標本化周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光を繰り返し発生し、
パルス光を第1と第2の出力ポートに分配し、
光アナログ入力信号を供給し、
光アナログ入力信号とともに第1の出力ポートからのパルス光を使用して光アナログ入力信号を標本化し、
第2の出力ポートからのパルス光を光学的に圧縮して圧縮パルス光を発生する
ステップを有することを特徴とする、光アナログ入力信号を光ディジタル信号に変換する方法。
【請求項25】
さらに、
標本化された光アナログ入力信号と圧縮パルス光に基づいて、光アナログ入力信号に対応する光ディジタル信号を光学的に生成するステップを有することを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項26】
光ディジタル信号を光学的に生成するステップは、
標本化された光アナログ信号と圧縮パルス光に基づき、圧縮パルス光をプローブ光として使用して標本化された光アナログ信号を光学的に符号化して符号化信号を生成する光符号化ステップと、
符号化信号を光学的に量子化して光アナログ入力信号に対応する光ディジタル信号を生成する光量子化ステップを有することを特徴とする請求項25記載の方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−96493(P2008−96493A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274947(P2006−274947)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】