光カプラ用光ファイバ
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、光通信分野や光センシング分野において、光信号の分岐、合流、分波、合波するための光カプラを作製をするのに好適な光ファイバに関するものである。
【0002】
【従来の技術】光ファイバカプラは、光ファイバ通信において、光を分岐、合流、分波、合波するための素子として非常に重要である。この光ファイバカプラ1は、図1010に示すように2本の光ファイバ2,2を添接し、その部分を酸水素バーナによる加熱や放電などで加熱し、さらにファイバ軸方向に延伸して融着・延伸部分3の2本のファイバのコアを細め、かつ接近させ、これらファイバ間に光結合を生じさせるものである。この方法の利点としては、ファイバ間の結合状態のモニターを製造中、すなわち融着、延伸中に行うことができ、これにより、精度良くカプラの特性の制御ができる点にある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この欠点として以下のことが上げられる。
【0004】■通常、光ファイバにはプライマリーコーティングと呼ばれる被覆が施されているが、融着延伸型ファイバカプラを作製するには、このコーティングを除去する必要があり、また細いファイバを精度良く添接したりする必要があり、最終的なカプラの特性は満足できるものの作製に手間がかかり作業に熟練を要する。
【0005】■また、カプラの形状も延伸部では外径が数10μm程度に細くなるので、機械的な強度の面では取り扱い、補強などに細心の注意が必要である。
【0006】これらの欠点を補う方法として、1つのクラッド内に、予め複数のコアを形成し、この複コアファイバを延伸して双方のコア間に光結合を生じさせ、光カプラを作製する方法も考えられている。
【0007】しかし、この方法の問題点は、カプラが作製できても、その両端の接続が必要となることである。特に光ファイバが単一モードファイバの場合には、1つの目安としてコアの軸ずれが1〜2μm程度以下の精度で接続を行わないと、それだけで大きな挿入損失を生じることになる。すなわち、図11に示すように、2つのコア4,4を並列した状態でクラッド5で囲んだツインコアファイバ6の中央に、延伸部7を形成してなる光カプラ8の両端に、光ファイバを接続するには、融着接続するか、機械的に接続することになるが、前者の融着接続では光カプラの端面と接続すべき光ファイバの端面の寸法が一致しないのでほとんど不可能である。一方、後者の機械的に接続する方法では、光カプラの端面に、コアの位置の基準がないために、ファイバの位置決め(軸合わせ)が困難となる。
【0008】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、簡単な化学処理により端面に他の光部品との接続が容易となるガイド穴を形成可能な光カプラ用光ファイバの提供を目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】かかる課題は、共通のクラッド内に複数のコアを備えた複コアファイバに、コアから所定間隔離間した位置に該コアと平行に他部よりも化学反応を生じ易い材料からなる溶出性領域を設けたことにより解消される。
【0010】またコアと溶出性領域をそれぞれ2つづつ有し、それぞれの位置関係を調整することにより、溶出性領域を応力付与領域とし、コアに偏波保持特性を持たせることも可能である。
【0011】
【作用】この光カプラ用光ファイバは、一部を加熱して延伸し、ファイバ径を細めかつコア間を接近させることによって各コア間に光結合を生じさせて光カプラを形成することができる。またこのファイバは、コアから所定間隔離間した位置に該コアと平行に他部よりも化学反応を生じ易い材料からなる溶出性領域を設けたことにより、このファイバの端面を酸水溶液中に浸し、溶出性領域を侵食することによって、この溶出性領域に沿ったガイド穴が形成されるので、このガイド穴に嵌合されるガイドピンを有する他の光部品の端面と接続が容易となる。さらにこのファイバは、コアと溶出性領域をそれぞれ2つづつ有し、それぞれの位置関係を調整することにより、溶出性領域を応力付与領域とし、コアに偏波保持特性を持たせることができるので、2本の単コアの偏波保持ファイバを融着延伸して偏波保持光カプラを製造するのに比べ、カプラ製造の際に偏波軸合わせの工程を省略でき、良好な偏波特性が得られるなど優れた特性の偏波保持型の光カプラを製造できる。
【0012】
【実施例】図1は、本発明による光カプラ用光ファイバ(以下、ファイバと略記する)の一実施例を示すものである。このファイバ10は、本図において横方向に並べられた2つのコア11,11と、縦方向に並べられた2つの溶出性領域12,12と、これらを囲むクラッド13とからなっている。コア11は、石英ガラスに屈折率を高めるGeO2を添加した材料からなっている。またクラッド13は純粋石英ガラスからなっている。
【0013】溶出性領域12は、コア11およびクラッド13よりも化学反応を生じ易い材料、即ち、酸やアルカリ、侵食性の塩類、塩素ガスやフッ素ガス、好ましくは塩酸や硫酸などの強酸水溶液によって侵食される材料からなっている。このような材料としては、特にB2O3添加石英ガラスが望ましい。
【0014】このファイバ10の製造方法の1例を説明すると、まず純粋石英ガラスからなる透明母材に、機械的加工によって4本の穴を長さ方向に沿って形成し、これらの穴内にコア母材と溶出性領域母材を挿入して一体化し、得られた母材を加熱溶融し、適宜な太さに紡糸して製造される。
【0015】図2は、ファイバ10両端に、酸処理などの適当な化学処理を行って、溶出性領域を侵食してガイド穴14を形成した状態を示している。さらに図3はこのファイバ10の中央に延伸部15を形成し、コア11,11間に光結合を生じさせた光カプラ16を示すものである。酸処理を行ってガイド穴14を形成する場合には、コア11が若干侵食される恐れがあるので、コア端面に合成樹脂の接着剤などの非侵食材料で被覆しておくことが望ましい。
【0016】また図4は、上記光カプラ16と、光ファイバ17,17との接続用として好適に用いられるコネクタ18を示すものである。このコネクタ18は、円柱状のコネクタ本体19と、この本体内に固定された2本の光ファイバ17,17と、先端を接続端面から突出させた状態で本体内に固定された2本のガイドピン20,20とを備えて構成されている。このコネクタ18の端面におけるガイドピン20および光ファイバ17の相対位置は、光カプラ16の接続端面のガイド穴14およびコア11の位置に対応するように設定されている。このコネクタ18を光カプラ16に接続する場合には、コネクタ18の2本のガイドピン20,20を光カプラ16の2つのガイド穴14,14内に嵌合する。これにより光カプラ16の接続端面のコア14とコネクタ18の光ファイバ17のコア21それぞれの端面が密接され、光カプラ16と光ファイバ17,17が接続される。
【0017】このファイバ10は、適当な長さに切断し、その中央部を酸水素バーナや放電によって加熱し、長手方向に引っ張り力を作用させて延伸し、ファイバ径を細めかつコア間を接近させることによって、各コア11,11間に光結合を生じさせて光カプラを形成することができる。またこのファイバ10は、コア11から所定間隔離間しコア11と平行に、他部よりも化学反応を生じ易い材料からなる溶出性領域12を設けたことにより、このファイバの端面を酸水溶液中に浸し、溶出性領域12を侵食することによって、この溶出性領域12に沿ったガイド穴14が形成されるので、このガイド穴14に嵌合されるガイドピン20を有する他の光部品の端面と接続が容易となる。
【0018】図6は、本発明によるファイバの他の実施例を示すものであって、この例によるファイバ22は、本図において縦方向に並んだ2つのコア11,11とその外方に位置する2つの応力付与領域23,23と、これらを囲むクラッド13とからなっている。
【0019】この応力付与領域23は、B2O3を添加した石英ガラスを材料としている。B2O3を添加した石英ガラスは、純粋の石英ガラスに比べて非常に大きな熱膨張係数を有するので、このファイバ22のように2つのコア11,11と、その両外側の応力付与領域23,23とを一直線上に並べることにより、いわゆるPANDA型ファイバと同様の異方性歪を発生させる。この目的のため、応力付与領域23はB2O3の添加量を、先の実施例による溶出性領域12の場合よりも大きく、17mol%程度とするのが望ましい。
【0020】またこの応力付与領域23は、先の例による溶出性領域12と同様に、コア11およびクラッド13の材料よりも化学反応を生じ易く、塩酸や硫酸などの強酸水溶液中に浸漬することによって応力付与領域23のみが侵食され、ガイド穴が形成される。
【0021】このファイバ22は、適当な長さに切断し、その中央部を加熱、延伸してそれぞれのコア11,11間に光結合を生じさせることにより、偏波保持特性を有する偏波保持光カプラを製造することができる。またその接続端面に先の実施例と同様にしてガイド穴を形成することにより、このガイド穴に嵌合するガイドピンを有する他の光部品との接続を容易かつ正確に行うことができる。さらにこのファイバ22は、上記構成にしたことにより、2本の単コアの偏波保持ファイバを融着延伸して偏波保持光カプラを製造するのに比べ、カプラ製造の際に偏波軸合わせの工程を省略でき、良好な偏波特性が得られるなど優れた偏波保持型の光カプラを製造できる。
【0022】(実験例) 直径40mmの純粋石英ガラス円柱に、機械加工によって4つの穴を長手方向に沿って形成し、この穴内にGeO2を5mol%添加した石英ガラスからなるコア母材円柱およびB2O3を10mol%添加した石英ガラスからなる溶出性領域母材円柱を入れて加熱、一体化してファイバ母材とし、さらにこのファイバ母材を線引炉にて外径1200μmに紡糸して、図1のものと同様のファイバを作製した。得られたファイバは、2つのコア径が約8.5μm、コアの間隔125μm、2つの溶出性領域の直径が100μm、溶出性領域の間隔が800μm、クラッド外径(ファイバ直径)が1200μmであった。
【0023】得られたファイバから50mm切り取り、その両端のバリを取るために軽く研磨した。この研磨はファイバ切断状態が良好であれば必須の工程ではない。次に、切断ファイバの両端のコア端面の周辺に紫外線硬化型樹脂を塗布し硬化させた後、このファイバを10%塩酸溶液(温度45℃)に100時間浸漬した、この結果、溶出性領域が侵食されて深さ250μm程度のガイド穴が形成された。次に端面の樹脂を除去し、両端に図4に示すコネクタ18を取り付けた。コネクタ接続は、エポキシ系接着剤で端面付近を接合することで行ったが、着脱可能とするために板バネで挾みつけるなど機械的に圧接しても良い。このときは端面のフレネル反射を防ぐためにガラスの屈折率に近いマッチングオイルまたはマッチングジェリをはさみこむと良い。次に図7に示すように両端にコネクタ付けしたファイバを酸水素バーナ24で加熱し、長手方向に引っ張って延伸した。延伸長は約12mmであった。結果として得られた光カプラの特性を図8に示す。得られた光カプラはいわゆるWDM型カプラであって、波長1.3μmと1.55μmの光を分波、合波が可能な特性を有していた。
【0024】次に、図6に示す偏波保持特性を有するファイバを作製した。先のファイバと同様の純粋石英母材に、4つの穴を1直線上に並べて形成し、コア母材と応力付与領域母材を挿入し一体化して母材とし、紡糸して外径1200μmのファイバを作製した。応力付与領域の材料はB2O3を17mol%添加した石英ガラスを用いた。また応力付与領域は直径250μmであり、コア−応力付与領域の間隔は80μmとかなり接近させた。またコア−コア間も80μmとした。得られたファイバを約50mm切り取り、両端に先の方法と同じくコネクタ付きファイバの接続を行った。但し、コネクタのファイバとして、いわゆるPANDA型偏波保持ファイバを用いた。PANDA型ファイバは、円形クラッドの中心にコアを有し、コアの両側に応力付与部を持つファイバであり、応力付与部のガラスとクラッドガラスの熱膨張係数の大きな差を利用してファイバ内に異方性の屈折率を発生させている。この結果、単一モードファイバを伝搬する2つの基本モードの縮退が解け、かつそのモード間の伝搬定数差を大きくすることができるので、ファイバの入射端に入射した光の偏波方向が、少々ファイバに曲げなどを与えても変化しないような特性を有している。
【0025】PANDAファイバをコネクタ付したファイバを前述の方法と同様に加熱延伸してカプラを作製した。得られたカプラの特性を図9に示した。ここでは測定した偏波の向きは、応力付与部の中心を結ぶ方向で(通常、慣例的にX方向と呼んでいる)ある。いずれにしてもカプラの作製は非常に簡便であり、従来の偏波型光ファイバカプラ作製のように、2本のPANDA型ファイバの偏波軸を揃えてから加熱、融着、延伸する手順を踏むことがなく、歩留りが大幅に向上した。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、光カプラを形成するファイバの位置関係が予め固定されているので、加熱延伸によるカプラの作製が容易となり、また溶出性領域を化学処理してファイバ端面にガイド穴を形成することにより、光カプラの両端でのリードファイバへの低損失接続が可能となる。また、溶出性領域のガラス組成および配置位置を適宜設定することによって偏波保持特性を得ることができることから、偏波保持型ファイバカプラを容易に作製できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光カプラ用光ファイバの一実施例を示すファイバの断面図である。
【図2】図1のファイバの端面にガイド穴を形成した状態を示す側面図である。
【図3】図1に示すファイバを用いて形成した光カプラを示す斜視図である。
【図4】図3に示す光カプラとの接続用に好適なコネクタを示す斜視図である。
【図5】図3に示す光カプラと図5に示すコネクタとの接続構造を示す側面断面図である。
【図6】本発明の光カプラ用光ファイバの他の実施例を示すファイバの断面図である。
【図7】本発明のファイバを用いて光カプラを作製する方法を説明するための概略側面図である。
【図8】本発明のファイバを用いて作製された光カプラの特性の第1の例を示すグラフである。
【図9】本発明のファイバを用いて作製された光カプラの特性の第2の例を示すグラフである。
【図10】従来の光カプラの1例を示す斜視図である。
【図11】従来の光カプラの他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
10、22 ファイバ(光カプラ用光ファイバ)
11 コア
12 溶出性領域
13 クラッド
14 ガイド穴
15 延伸部
16 光カプラ
17 光ファイバ
18 コネクタ(他の光部品)
23 応力付与領域
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、光通信分野や光センシング分野において、光信号の分岐、合流、分波、合波するための光カプラを作製をするのに好適な光ファイバに関するものである。
【0002】
【従来の技術】光ファイバカプラは、光ファイバ通信において、光を分岐、合流、分波、合波するための素子として非常に重要である。この光ファイバカプラ1は、図1010に示すように2本の光ファイバ2,2を添接し、その部分を酸水素バーナによる加熱や放電などで加熱し、さらにファイバ軸方向に延伸して融着・延伸部分3の2本のファイバのコアを細め、かつ接近させ、これらファイバ間に光結合を生じさせるものである。この方法の利点としては、ファイバ間の結合状態のモニターを製造中、すなわち融着、延伸中に行うことができ、これにより、精度良くカプラの特性の制御ができる点にある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この欠点として以下のことが上げられる。
【0004】
【0005】
【0006】これらの欠点を補う方法として、1つのクラッド内に、予め複数のコアを形成し、この複コアファイバを延伸して双方のコア間に光結合を生じさせ、光カプラを作製する方法も考えられている。
【0007】しかし、この方法の問題点は、カプラが作製できても、その両端の接続が必要となることである。特に光ファイバが単一モードファイバの場合には、1つの目安としてコアの軸ずれが1〜2μm程度以下の精度で接続を行わないと、それだけで大きな挿入損失を生じることになる。すなわち、図11に示すように、2つのコア4,4を並列した状態でクラッド5で囲んだツインコアファイバ6の中央に、延伸部7を形成してなる光カプラ8の両端に、光ファイバを接続するには、融着接続するか、機械的に接続することになるが、前者の融着接続では光カプラの端面と接続すべき光ファイバの端面の寸法が一致しないのでほとんど不可能である。一方、後者の機械的に接続する方法では、光カプラの端面に、コアの位置の基準がないために、ファイバの位置決め(軸合わせ)が困難となる。
【0008】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、簡単な化学処理により端面に他の光部品との接続が容易となるガイド穴を形成可能な光カプラ用光ファイバの提供を目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】かかる課題は、共通のクラッド内に複数のコアを備えた複コアファイバに、コアから所定間隔離間した位置に該コアと平行に他部よりも化学反応を生じ易い材料からなる溶出性領域を設けたことにより解消される。
【0010】またコアと溶出性領域をそれぞれ2つづつ有し、それぞれの位置関係を調整することにより、溶出性領域を応力付与領域とし、コアに偏波保持特性を持たせることも可能である。
【0011】
【作用】この光カプラ用光ファイバは、一部を加熱して延伸し、ファイバ径を細めかつコア間を接近させることによって各コア間に光結合を生じさせて光カプラを形成することができる。またこのファイバは、コアから所定間隔離間した位置に該コアと平行に他部よりも化学反応を生じ易い材料からなる溶出性領域を設けたことにより、このファイバの端面を酸水溶液中に浸し、溶出性領域を侵食することによって、この溶出性領域に沿ったガイド穴が形成されるので、このガイド穴に嵌合されるガイドピンを有する他の光部品の端面と接続が容易となる。さらにこのファイバは、コアと溶出性領域をそれぞれ2つづつ有し、それぞれの位置関係を調整することにより、溶出性領域を応力付与領域とし、コアに偏波保持特性を持たせることができるので、2本の単コアの偏波保持ファイバを融着延伸して偏波保持光カプラを製造するのに比べ、カプラ製造の際に偏波軸合わせの工程を省略でき、良好な偏波特性が得られるなど優れた特性の偏波保持型の光カプラを製造できる。
【0012】
【実施例】図1は、本発明による光カプラ用光ファイバ(以下、ファイバと略記する)の一実施例を示すものである。このファイバ10は、本図において横方向に並べられた2つのコア11,11と、縦方向に並べられた2つの溶出性領域12,12と、これらを囲むクラッド13とからなっている。コア11は、石英ガラスに屈折率を高めるGeO2を添加した材料からなっている。またクラッド13は純粋石英ガラスからなっている。
【0013】溶出性領域12は、コア11およびクラッド13よりも化学反応を生じ易い材料、即ち、酸やアルカリ、侵食性の塩類、塩素ガスやフッ素ガス、好ましくは塩酸や硫酸などの強酸水溶液によって侵食される材料からなっている。このような材料としては、特にB2O3添加石英ガラスが望ましい。
【0014】このファイバ10の製造方法の1例を説明すると、まず純粋石英ガラスからなる透明母材に、機械的加工によって4本の穴を長さ方向に沿って形成し、これらの穴内にコア母材と溶出性領域母材を挿入して一体化し、得られた母材を加熱溶融し、適宜な太さに紡糸して製造される。
【0015】図2は、ファイバ10両端に、酸処理などの適当な化学処理を行って、溶出性領域を侵食してガイド穴14を形成した状態を示している。さらに図3はこのファイバ10の中央に延伸部15を形成し、コア11,11間に光結合を生じさせた光カプラ16を示すものである。酸処理を行ってガイド穴14を形成する場合には、コア11が若干侵食される恐れがあるので、コア端面に合成樹脂の接着剤などの非侵食材料で被覆しておくことが望ましい。
【0016】また図4は、上記光カプラ16と、光ファイバ17,17との接続用として好適に用いられるコネクタ18を示すものである。このコネクタ18は、円柱状のコネクタ本体19と、この本体内に固定された2本の光ファイバ17,17と、先端を接続端面から突出させた状態で本体内に固定された2本のガイドピン20,20とを備えて構成されている。このコネクタ18の端面におけるガイドピン20および光ファイバ17の相対位置は、光カプラ16の接続端面のガイド穴14およびコア11の位置に対応するように設定されている。このコネクタ18を光カプラ16に接続する場合には、コネクタ18の2本のガイドピン20,20を光カプラ16の2つのガイド穴14,14内に嵌合する。これにより光カプラ16の接続端面のコア14とコネクタ18の光ファイバ17のコア21それぞれの端面が密接され、光カプラ16と光ファイバ17,17が接続される。
【0017】このファイバ10は、適当な長さに切断し、その中央部を酸水素バーナや放電によって加熱し、長手方向に引っ張り力を作用させて延伸し、ファイバ径を細めかつコア間を接近させることによって、各コア11,11間に光結合を生じさせて光カプラを形成することができる。またこのファイバ10は、コア11から所定間隔離間しコア11と平行に、他部よりも化学反応を生じ易い材料からなる溶出性領域12を設けたことにより、このファイバの端面を酸水溶液中に浸し、溶出性領域12を侵食することによって、この溶出性領域12に沿ったガイド穴14が形成されるので、このガイド穴14に嵌合されるガイドピン20を有する他の光部品の端面と接続が容易となる。
【0018】図6は、本発明によるファイバの他の実施例を示すものであって、この例によるファイバ22は、本図において縦方向に並んだ2つのコア11,11とその外方に位置する2つの応力付与領域23,23と、これらを囲むクラッド13とからなっている。
【0019】この応力付与領域23は、B2O3を添加した石英ガラスを材料としている。B2O3を添加した石英ガラスは、純粋の石英ガラスに比べて非常に大きな熱膨張係数を有するので、このファイバ22のように2つのコア11,11と、その両外側の応力付与領域23,23とを一直線上に並べることにより、いわゆるPANDA型ファイバと同様の異方性歪を発生させる。この目的のため、応力付与領域23はB2O3の添加量を、先の実施例による溶出性領域12の場合よりも大きく、17mol%程度とするのが望ましい。
【0020】またこの応力付与領域23は、先の例による溶出性領域12と同様に、コア11およびクラッド13の材料よりも化学反応を生じ易く、塩酸や硫酸などの強酸水溶液中に浸漬することによって応力付与領域23のみが侵食され、ガイド穴が形成される。
【0021】このファイバ22は、適当な長さに切断し、その中央部を加熱、延伸してそれぞれのコア11,11間に光結合を生じさせることにより、偏波保持特性を有する偏波保持光カプラを製造することができる。またその接続端面に先の実施例と同様にしてガイド穴を形成することにより、このガイド穴に嵌合するガイドピンを有する他の光部品との接続を容易かつ正確に行うことができる。さらにこのファイバ22は、上記構成にしたことにより、2本の単コアの偏波保持ファイバを融着延伸して偏波保持光カプラを製造するのに比べ、カプラ製造の際に偏波軸合わせの工程を省略でき、良好な偏波特性が得られるなど優れた偏波保持型の光カプラを製造できる。
【0022】(実験例) 直径40mmの純粋石英ガラス円柱に、機械加工によって4つの穴を長手方向に沿って形成し、この穴内にGeO2を5mol%添加した石英ガラスからなるコア母材円柱およびB2O3を10mol%添加した石英ガラスからなる溶出性領域母材円柱を入れて加熱、一体化してファイバ母材とし、さらにこのファイバ母材を線引炉にて外径1200μmに紡糸して、図1のものと同様のファイバを作製した。得られたファイバは、2つのコア径が約8.5μm、コアの間隔125μm、2つの溶出性領域の直径が100μm、溶出性領域の間隔が800μm、クラッド外径(ファイバ直径)が1200μmであった。
【0023】得られたファイバから50mm切り取り、その両端のバリを取るために軽く研磨した。この研磨はファイバ切断状態が良好であれば必須の工程ではない。次に、切断ファイバの両端のコア端面の周辺に紫外線硬化型樹脂を塗布し硬化させた後、このファイバを10%塩酸溶液(温度45℃)に100時間浸漬した、この結果、溶出性領域が侵食されて深さ250μm程度のガイド穴が形成された。次に端面の樹脂を除去し、両端に図4に示すコネクタ18を取り付けた。コネクタ接続は、エポキシ系接着剤で端面付近を接合することで行ったが、着脱可能とするために板バネで挾みつけるなど機械的に圧接しても良い。このときは端面のフレネル反射を防ぐためにガラスの屈折率に近いマッチングオイルまたはマッチングジェリをはさみこむと良い。次に図7に示すように両端にコネクタ付けしたファイバを酸水素バーナ24で加熱し、長手方向に引っ張って延伸した。延伸長は約12mmであった。結果として得られた光カプラの特性を図8に示す。得られた光カプラはいわゆるWDM型カプラであって、波長1.3μmと1.55μmの光を分波、合波が可能な特性を有していた。
【0024】次に、図6に示す偏波保持特性を有するファイバを作製した。先のファイバと同様の純粋石英母材に、4つの穴を1直線上に並べて形成し、コア母材と応力付与領域母材を挿入し一体化して母材とし、紡糸して外径1200μmのファイバを作製した。応力付与領域の材料はB2O3を17mol%添加した石英ガラスを用いた。また応力付与領域は直径250μmであり、コア−応力付与領域の間隔は80μmとかなり接近させた。またコア−コア間も80μmとした。得られたファイバを約50mm切り取り、両端に先の方法と同じくコネクタ付きファイバの接続を行った。但し、コネクタのファイバとして、いわゆるPANDA型偏波保持ファイバを用いた。PANDA型ファイバは、円形クラッドの中心にコアを有し、コアの両側に応力付与部を持つファイバであり、応力付与部のガラスとクラッドガラスの熱膨張係数の大きな差を利用してファイバ内に異方性の屈折率を発生させている。この結果、単一モードファイバを伝搬する2つの基本モードの縮退が解け、かつそのモード間の伝搬定数差を大きくすることができるので、ファイバの入射端に入射した光の偏波方向が、少々ファイバに曲げなどを与えても変化しないような特性を有している。
【0025】PANDAファイバをコネクタ付したファイバを前述の方法と同様に加熱延伸してカプラを作製した。得られたカプラの特性を図9に示した。ここでは測定した偏波の向きは、応力付与部の中心を結ぶ方向で(通常、慣例的にX方向と呼んでいる)ある。いずれにしてもカプラの作製は非常に簡便であり、従来の偏波型光ファイバカプラ作製のように、2本のPANDA型ファイバの偏波軸を揃えてから加熱、融着、延伸する手順を踏むことがなく、歩留りが大幅に向上した。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、光カプラを形成するファイバの位置関係が予め固定されているので、加熱延伸によるカプラの作製が容易となり、また溶出性領域を化学処理してファイバ端面にガイド穴を形成することにより、光カプラの両端でのリードファイバへの低損失接続が可能となる。また、溶出性領域のガラス組成および配置位置を適宜設定することによって偏波保持特性を得ることができることから、偏波保持型ファイバカプラを容易に作製できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光カプラ用光ファイバの一実施例を示すファイバの断面図である。
【図2】図1のファイバの端面にガイド穴を形成した状態を示す側面図である。
【図3】図1に示すファイバを用いて形成した光カプラを示す斜視図である。
【図4】図3に示す光カプラとの接続用に好適なコネクタを示す斜視図である。
【図5】図3に示す光カプラと図5に示すコネクタとの接続構造を示す側面断面図である。
【図6】本発明の光カプラ用光ファイバの他の実施例を示すファイバの断面図である。
【図7】本発明のファイバを用いて光カプラを作製する方法を説明するための概略側面図である。
【図8】本発明のファイバを用いて作製された光カプラの特性の第1の例を示すグラフである。
【図9】本発明のファイバを用いて作製された光カプラの特性の第2の例を示すグラフである。
【図10】従来の光カプラの1例を示す斜視図である。
【図11】従来の光カプラの他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
10、22 ファイバ(光カプラ用光ファイバ)
11 コア
12 溶出性領域
13 クラッド
14 ガイド穴
15 延伸部
16 光カプラ
17 光ファイバ
18 コネクタ(他の光部品)
23 応力付与領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】 共通のクラッド内に複数のコアを備えた複コアファイバの一部に延伸部分を形成することによりコア間に光結合を生じさせて光カプラを作製するのに用いられる光ファイバであって、上記コアから所定間隔離間した位置に該コアと平行に、他部よりも化学反応を生じ易い材料からなる溶出性領域を設けたこと特徴とする光カプラ用光ファイバ。
【請求項2】 コアと溶出性領域をそれぞれ2つづつ有し、それぞれの位置関係を調整することにより溶出性領域を応力付与領域とし、コアに偏波保持特性を持たせたことを特徴とする請求項1記載の光カプラ用光ファイバ。
【請求項1】 共通のクラッド内に複数のコアを備えた複コアファイバの一部に延伸部分を形成することによりコア間に光結合を生じさせて光カプラを作製するのに用いられる光ファイバであって、上記コアから所定間隔離間した位置に該コアと平行に、他部よりも化学反応を生じ易い材料からなる溶出性領域を設けたこと特徴とする光カプラ用光ファイバ。
【請求項2】 コアと溶出性領域をそれぞれ2つづつ有し、それぞれの位置関係を調整することにより溶出性領域を応力付与領域とし、コアに偏波保持特性を持たせたことを特徴とする請求項1記載の光カプラ用光ファイバ。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図10】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図2】
【図4】
【図5】
【図10】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【特許番号】第2902800号
【登録日】平成11年(1999)3月19日
【発行日】平成11年(1999)6月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−50710
【出願日】平成3年(1991)2月22日
【公開番号】特開平4−268513
【公開日】平成4年(1992)9月24日
【審査請求日】平成9年(1997)12月25日
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【参考文献】
【文献】特開 平4−268507(JP,A)
【文献】特開 昭62−40401(JP,A)
【登録日】平成11年(1999)3月19日
【発行日】平成11年(1999)6月7日
【国際特許分類】
【出願日】平成3年(1991)2月22日
【公開番号】特開平4−268513
【公開日】平成4年(1992)9月24日
【審査請求日】平成9年(1997)12月25日
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【参考文献】
【文献】特開 平4−268507(JP,A)
【文献】特開 昭62−40401(JP,A)
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