説明

光ケーブル

【課題】光ケーブルの分岐作業等で発生する切断屑が屋外の大気中に飛散したとしても、自然環境下で容易に分解されて環境に悪影響が及ぶのを軽減した光ケーブルを提供する。
【解決手段】複数の光ファイバ心線4,14からなるケーブルコアと、ケーブルコアの外側を覆う保護部材と、保護部材の外側を覆う外被6,16とを備えた光ケーブルで、前記の保護部材が生分解性素材からなることを特徴とする。生分解性素材としては、非木材系の植物性天然繊維で、ケナフ、バガスを用いることが好ましい。
なお、スロット型光ケーブル1においては、保護部材が、スロットの外周に巻かれた上巻きテープ6であり、非スロット型光ケーブル11においては、保護部材が、パイプ状の外被と光ファイバユニットの間に充填された緩衝層16のヤーンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の光ファイバ心線を束ねて外被で覆った架空布設される幹線用の光ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
電柱等に懸架されて布設される幹線用の光ケーブルとして、例えば、図1に示すようになスロット型の光ケーブル1がある。この光ケーブル1は、中心にテンションメンバ3を埋設一体化し、軸方向に複数の溝2aを設けたプラスチック材からなるスロット2により構成される。スロット2の溝2aは螺旋状又はSZ状に形成され、溝2a内には複数本の光ファイバ心線又はテープ状の光ファイバ心線4を収納してケーブルコアとされる。光ケーブル1の製造過程において、光ファイバ心線4を溝2a内に収納した直後のケーブルコアの状態で、溝2aから光ファイバ心線4が脱落する(特に、SZ状スロットの場合)のを防止するために、粗巻き紐5がスロット2の外周に螺旋状に巻き付けられる。
【0003】
粗巻き紐5が施されたスロット2の外周には、ケーブル内への止水又は外被成形時の熱絶縁のための上巻きテープ6(押え巻きテープともいう)を、開き巻きあるいは重ね巻きで螺旋状に巻き付けるか、または縦添えして、その外側をケーブル外被7で被覆して光ケーブル1とされる。なお、螺旋溝を有するスロットの場合は、粗巻き紐5を用いずに上巻きテープ6で光ファイバ心線の脱落を防止することも可能である。(例えば、特許文献1参照)
【0004】
また、幹線用の光ケーブルとして、図2に示すような複数本の単心またはテープ状心線をパイプ状の外被に収納した非スロット型の光ケーブル11もある。この光ケーブル11は、複数本の光ファイバ心線14をバンドル紐15等で束ねたケ-ブルコアを、パイプ状の外被17(シースともいう)で覆って構成される。この光ケーブル11では、ケーブルコアと外被17との間の間隙を埋めるように緩衝層16が配されている。なお、緩衝層16は、例えば、紐状繊維からなり、ケーブルコアの周囲に一方向またはSZ方向に撚って配される。また、外被17内には抗張力体13が埋設されている。
【0005】
また、図2のケーブルコアの形態としては、例えば、複数の光ファイバテープ心線を束ねる形態(図示省略)、多数本の光ファイバ心線14を1つに束ねる形態、あるいは、数本の光ファイバ心線14をバンドル糸で束ねて少心数のユニットとし、さらにこのユニットを複数集合させて多心数のケーブルコアとするような形態(図示省略)もある。なお、緩衝層16には、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステルなどの繊維が用いられ、適度な緩衝効果をもつプラスチックヤーンとされている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−107757号公報
【特許文献2】特開2003−302560号公報
【特許文献3】特開2007−11018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光ファイバによる家庭向けのデータ通信サービス(FTTH:Fiber To The Home)が普及し、上述した架空の幹線光ケーブル1,11からドロップ光ケーブルを用いて加入者宅等に引き落されている。加入者宅への光ファイバの引き落しに際しては、幹線光ケーブル1,11の途中部分の外被7,17を部分的に除去して、光ファイバ心線4,14を保護している上巻きテープ6や緩衝層16を剥ぎ取り、ケーブルに収納されている複数本の光ファイバ心線の内から、1本〜数本の光ファイバ心線を引出す分岐作業(中間後分岐とも言われている)が行われる。
【0008】
この光ファイバの分岐作業は、通常、電柱上やバケット車上というような屋外での作業となる。この分岐作業では、例えば、光ケーブルの分岐部分の外被7,17を一定の長さ(例えば、50cm程度)除去する。この外被7,17が除去された部分で、露出された上巻きテープ6や粗巻き紐5、あるいは、緩衝層16やバンドル紐15の一部を剥ぎ取るなどして、ケーブル内の所定の光ファイバ心線を取り出し、この後、ドロップ光ケーブルと接続している。
【0009】
この分岐作業において、図1のスロット型の光ケーブル1では、粗巻き紐5や上巻きテープ6の切断片、図2の非スロット型の光ケーブル11では、バンドル紐15や緩衝層16等の切断片が屑として発生する。これらの切断屑は軽くて、風などによって飛散しやすい。電柱上やパケット車などで作業している場合、一旦飛散した切断屑は、回収することが困難となることが多い。そして、これらの切断屑は、合成繊維製であるため、屋外の自然環境下では容易に分解されず、環境に悪影響を与える恐れがある。
【0010】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、光ケーブルの分岐作業等で発生する切断屑が屋外の大気中に飛散したとしても、自然環境下で容易に分解されて環境に悪影響が及ぶのを軽減した光ケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による光ケーブルは、複数の光ファイバ心線からなるケーブルコアと、ケーブルコアの外側を覆う保護部材と、保護部材の外側を覆う外被とを備えた光ケーブルで、前記の保護部材が生分解性素材からなることを特徴とする。生分解性素材としては、非木材系の植物性天然繊維で、ケナフ、バガスを用いることが好ましい。
なお、スロット型光ケーブルにおいては、上記の保護部材が、スロットの外周に巻かれた上巻きテープであり、非スロット型光ケーブルにおいては、上記の保護部材が、パイプ状の外被と光ファイバユニットの間に充填された緩衝層のヤーンである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生分解性素材で形成された上巻きテープやヤーン等の切断屑が、光ケーブルの屋外作業で大気中に飛散するようなことがあっても、飛散した切断屑は自然環境下において分解されるので、環境への負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】光ケーブルの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図により本発明の実施の形態を説明する。本発明における光ケーブルは、上述した図1に示したスロット型の光ケーブル、および、図2に示した非スロット型の光ケーブル以外に、ケーブル外被とケーブルコア間に繊維状の保護部材を用いる各種構造の光ケーブルを対象とすることができる。具体的には、図1および図2に示した構造の光ケーブル例で、概略を説明する。
【0015】
本発明の光ケーブルは、形状的には図1に示したのと同様なスロット型の光ケーブル1で構成することができる。この光ケーブル1は、中心にテンションメンバ3を埋設一体化し、複数の溝2aを設けたプラスチック材からなるスロット2を用いて構成される。スロット2の溝2aは、螺旋状又はSZ状に形成され、溝2a内には複数本の光ファイバ心線又はテープ状の光ファイバ心線4を収納する。なお、本発明においては、この光ファイバ心線4をスロット2に収納し保持された状態を、ケーブルコアという。
【0016】
光ケーブル1の製造過程で、光ファイバ心線4を溝2a内に収納した直後、溝2aから光ファイバ心線4が脱落するのを防止するために、粗巻き紐5をスロット2の外周に螺旋状に巻き付ける。粗巻き紐5が巻き付けられたスロット2の外周には、ケーブル内への止水又は外被成形時の熱絶縁のための上巻きテープ6を、保護部材として開き巻きあるいは重ね巻きで螺旋状に巻き付けるか、または縦添えする。上巻きテープ6の外側には、ケーブル外被7を押出し成形して光ケーブル1とする。なお、螺旋溝を有するスロットの場合は、粗巻き紐5を用いずに上巻きテープ6のみで光ファイバ心線の脱落を防止することも可能である。
【0017】
本発明においては、上記の構成の光ケーブル1の場合、スロット2と多数の光ファイバ心線4からなるケーブルコアの外側を覆い、製造段階を含めて光ファイバ心線4を保護している上巻きテープ6等の保護部材に、後述するように生分解性の素材を用いることを特徴としている。また、光ファイバ心線の脱落を防止する粗巻き紐5ついても生分解性の素材を用いることができる。
【0018】
また、本発明の光ケーブルとして、形状的には図2に示したのと同様な非スロット型の光ケーブルで構成することができる。この光ケーブル11は、複数本の光ファイバ心線14を集合してバンドル紐15等で束ね、パイプ状の外被17で覆って構成される。なお、本発明においては、複数本の光ファイバ心線14を集合させて束ねた状態を、ケーブルコアという。
【0019】
この光ケーブル11では、複数本の光ファイバ心線14を集合した状態のケーブルコアと外被17との間に、緩衝層16を保護部材として配する。この緩衝層16は、スパンヤーンあるいはフィラメントヤーン等からなり、ケーブルコアの周囲に一方向またはSZ方向に撚るようにして配することができる。また、外被17内には、抗張力体13が一体に埋設される。
なお、ケーブルコアの形態としては、例えば、複数の光ファイバテープ心線を束ねる形態、多数本の光ファイバ心線を1つに束ねる形態、あるいは、数本の光ファイバ心線をバンドル糸で束ねて少心数のユニットとし、さらにこのユニットを複数集合させて多心数のケーブルコアとするような形態であってもよい。
【0020】
本発明においては、上記の構成の光ケーブル11の場合、複数本の光ファイバ心線14からなるケーブルコアと外被16との間隙を埋めて、光ファイバ心線14を保護する緩衝層16のヤーンに、後述するように生分解性の素材を用いることを特徴としている。また、光ファイバ心線14を束ねるバンドル紐や糸のついても生分解性の素材を用いることができる。
【0021】
本発明による光ケーブルは、上記のようにケーブルコアの外側を覆う保護部材を生分解性の素材で形成することを特徴としている。
生分解性とは、自然界に存在する微生物等によって分解されやすさの指標を言い、環境を汚しにくく、体内に取り入れられて分解されやすいという特徴がある。生分解性を持つ素材には、生物由来の天然繊維系と、脂肪族ポリエステル系のものがある。また、天然繊維系には、紙の原料である木材やパルプ等の植物性天然繊維と、羊毛等の動物性繊維がある。脂肪族ポリエステルとしては、トウモロコシなどのでんぷんを出発原料として化学合成により得られるポリ乳酸や、微生物を体内で生産するバイオポリエステルなどがある。
【0022】
光ケーブルに対して、端末の形成や中間分岐する場合、ケーブル内の光ファイバ心線の取り出し作業を行なうが、この場合、ケーブルコアと外被との間に保護部材として配される前記した上巻きテープ、粗巻き紐、緩衝層、バンドル紐等の切断片が生じる。光ファイバ心線の取り出し作業が屋外で行なわれる場合、その作業形態(電柱上はバケット車上)によっては、これらの切断片が大気中に飛散し回収が難しくなることがある。しかし、これらの保護部材を上記の生分解性の素材で形成することで、環境に対する負荷を低減することができる。
【0023】
また、生分解性の素材の中でも、脂肪族ポリエステル系のものは価格が高く現実的でない。したがって、生分解性の素材としては、天然繊維系のものを用いるのが好ましく、このうちで植物性繊維を用いるのがより好ましい。植物性繊維(パルプ)を用いた不織布は、大量生産の方法が確立しており、天然繊維性不織布としては、比較的コストも安い。さらに、植物性繊維の中でも、非木材製の繊維を用いることが望ましい。木材の大量使用は、森林伐採により自然環境破壊が問題とされ、森林保護によるCO固定が求められていることから、非木材の植物性繊維の使用が好ましい。
【0024】
非木材の植物性繊維としては、最近、「ケナフ(kenaf)」という植物が注目されている。この植物は、アオイ科フヨウ属(ハイビスカス属)の一年草で、成長速度が著しく速く、また単位面積当たりの繊維の生産量が多いため、空気中から吸収する二酸化炭素の量が多く、地球温暖化防止に寄与する植物として環境面からも注目を集めている。
「ケナフ」の茎の皮は、長くて丈夫な繊維なので、これだけでも紐や糸ができ、織物にもなるが、茎の中の木質部(コア部)と一緒に利用すると、パルプや紙としても利用でき、木材繊維の代替えとして、「ケナフ」を紙やボード、その他の繊維製品などに利用できるとして期待されている。
【0025】
また、非木材の植物性繊維としては、さとうきび「バガス(Bagasse)」の利用も注目されている。「バガス」とは、さとうきびから砂糖生産に必要な糖汁を絞った後に、茎や葉などに残る残渣(絞りかす)のことを称している。この「バガス」の年間の排出量は、世界で1億トン(乾燥重量)もあり、工場のエネルギー源や家畜の飼料などにも利用されているが、それでも使いきれずに廃棄されていた。現在は、「バガス」は木材チップに比べて軟らかく、パルプを作る際に使う薬品や製造エネルギーも少なくてすむことから、非木材系の紙の原料として再利用されている。「バガス」の使用により、上記の「ケナフ」と同様に、木材の使用量を減らし、この結果森林を保護し、CO固定にも寄与することができる。
【0026】
その他、非木材の植物性繊維としては、「麦わら、麻、綿、葦・・・」等の繊維も使用することができる。
上記の「ケナフ」、「バガス」を含めて、非木材系の植物繊維を、光ケーブルのケーブルコアと外被との間に保護部材として配される上巻きテープ、粗巻き紐、緩衝層、バンドル紐等の材料として用いることにより、これらの除去作業時に飛散する切断片による環境への悪影響を低減する以外に、木材の使用を抑制して森林資源を保護し、COの削減効果にも寄与することができる。
【0027】
また、図1の光ケーブル1においては、少なくとも、保護部材として使用量の多いスロット2の外周に巻き付けられる上巻きテープ6を、上記の生分解性素材、好ましくは植物性天然繊維の不織布の形態で用いることが好ましい。この上巻きテープ6に吸水性のテープを用いる場合も、そのテープ基材に生分解性基材(植物性天然繊維)に合成樹脂製の吸水パウダーを組み合わせることにより、分岐作業等で上巻きテープ6の切断片が飛散するようなことがあっても、環境への負荷を低減することができる。
【0028】
また、図2の光ケーブル11においては、少なくとも、保護部材として使用量の多いヤーンで形成される緩衝層16に、上記の生分解性素材、好ましくは植物性天然繊維を用いることが好ましい。この緩衝層16を形成するヤーンは、特に紐や糸状、あるいは繊維のままで、ケーブルコアと外被17との隙間に充填しているだけであるので、外被17の剥ぎ取りで飛散しやすく回収もしにくい。なお、ヤーンは、接着剤で繊維同士を接着する必要がなく、天然繊維を絡み合わせて形成することができるので、コスト的にも安価に実現することができる。
【符号の説明】
【0029】
1,11…光ケーブル、2…スロット、2a…溝、3,13…抗張力体、4,14…光ファイバ心線、5…粗巻き紐、6上…巻きテープ、7,17…外被、15…バンドル紐。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光ファイバ心線からなるケーブルコアと、該ケーブルコアの外側を覆う保護部材と、該保護部材の外側を覆う外被とを備えた光ケーブルであって、
前記保護部材が生分解性素材からなることを特徴とする光ケーブル。
【請求項2】
前記生分解性素材は、非木材系の植物性天然繊維であることを特徴とする請求項1に記載の光ケーブル。
【請求項3】
前記非木材系の植物性天然繊維は、ケナフであることを特徴とする請求項2に記載の光ケーブル。
【請求項4】
前記非木材系の植物性天然繊維は、バガスであることを特徴とする請求項2に記載の光ケーブル。
【請求項5】
前記ケーブルコアが、複数の溝内に複数の光ファイバ心線を収納したスロットであり、前記保護部材が、前記スロットの外周に巻かれた上巻きテープであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光ケーブル。
【請求項6】
前記ケーブルコアが、複数の光ファイバ心線を集合した状態の光ファイバユニットであり、前記保護部材が、パイプ状の外被と前記光ファイバユニットの間に充填された緩衝層のヤーンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光ケーブル。

【図1】
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