説明

光コネクタ

【課題】光ファイバを突き合わせ接続するために ベースと蓋体の間に 楔を挿入した際に、屈折率整合剤中に気泡を巻き込むことが無く、且つ光ファイバを確実に挟持することができる光コネクタを提供する。
【解決手段】光コネクタは、一体化時に概略断面円形または角形となるロッド状の二つ割り構造とされ、ベース2と蓋体とからなる一対のクランプ部材4と、当該クランプ部材4の全体をほぼ収納可能な断面コ字状の細長いクランプバネとを備え、蓋体に対向するベース2の対向面7 の長手方向中央部には、光ファイバを突き合わせ接続可能に位置決め調心するV形の 調心溝9 が形成されている。光ファイバの接続点近傍では、調心溝9から側方に延出する連通溝10がベース2の 対向面7に形成されるとともに、一方の連通溝10の端部に調心溝9と平行して延在する溜り溝13が形成され、各溝には 屈折率整合剤が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ同士を突き合わせ接続するための光コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光コネクタは、光ファイバを挟み込む一対のクランプ部材からなる素子と、当該素子を収納するクランプバネとから構成され、ベース側のクランプ部材の対向面には、光ファイバを突き合わせ接続可能に位置決め調心するV溝が長手方向に形成されている(例えば、特許文献1または2参照)。そして、接続部付近のV溝には、光ファイバの突き合わせ面での接続損失を小さくして高反射減衰量を得るため、屈折率整合剤が充填されている。
光ファイバ同士を接続する場合は、クランプ部材間に側端部から楔を挿入してベースと蓋体との間に間隙を生じさせ、素子の両端 から光ファイバを挿入してV溝上で突き合わせた後、楔を引き抜いて 光ファイバ同士を接続している。しかし、 ベースと蓋体との間に 楔を挿入した際に、屈折率整合剤がV溝に付着する部分と蓋体に付着する部分に分かれた状態となり、クランプ部材から楔を引き抜いた際に屈折率整合剤の中に空気が混入することがある。屈折率整合剤中に気泡が存在すると、気泡によって光が乱反射するため、接続損失が大きくなったり、反射減衰量が小さくなるといった現象が発生し、光ファイバ回線の信頼性が大きく損なわれることになる。
【0003】
そこで、特許文献3では、 V溝基板(ベース) と上板(蓋体) のいずれか一方また は両方にV溝に連通する空洞を設け、V溝および 空洞に屈折率整合剤を充填した光ファイバ接続部材の発明が開示されている。そして、特許文献3に記載された発明によれば、 空洞に屈折率整合剤が 充填されているため、 V溝近辺において屈折率整合剤が十分な充填状態となり 、V溝付近で屈折率整合剤中に空気が巻き込まれることが ないとされている。
【特許文献1】特許第3540096号公報
【特許文献2】特許第3675991号公報
【特許文献3】特許第3400663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献3に記載された発明の場合、 V溝基板または 上板の表面に空洞が存在するため、 上板の下面で光ファイバを十分に押圧できず、光ファイバを確実に挟持できないおそれがある。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、 光ファイバを突き合わせ接続するために ベースと蓋体の間に 楔を挿入した際に、屈折率整合剤中に気泡を巻き込むことが無く、且つ光ファイバを確実に挟持することができる光コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、ベースと蓋体とからなり、対向する面の間に光ファイバを挟み込む一対のクランプ部材と、当該一対のクランプ部材を収納するクランプバネとを備え、前記蓋体に対向する前記ベースの対向面に、光ファイバを突き合わせ接続可能に位置決め調心する調心溝が形成されている光コネクタにおいて、前記調心溝から側方に延出する連通溝が、前記蓋体に対向する前記ベースの 対向面に形成され、当該連通溝に屈折率整合剤が充填されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明では、前記連通溝が前記 ベースの側端部まで延出していてもよい。
【0008】
また、本発明では、前記連通溝の一方の端部に、屈折率整合剤を溜めておく溜り部が形成されていてもよい。
【0009】
また、本発明では、前記溜り部が前記調心溝と平行して延在する溜り溝とされていてもよい。
【0010】
また、本発明では、前記ベースに対向する前記蓋体の対向面に、屈折率整合剤を溜めておく溜り部が形成されていてもよい。
【0011】
また、本発明では、前記連通溝および前記溜り部が、前記調心溝を挟んで、前記 一対のクランプ部材の開放側にのみ形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、調心溝から側方に延出する連通溝が、蓋体に対向するベースの 対向面に形成され、当該連通溝に屈折率整合剤が充填されているので、ベースと蓋体の間に楔を挿入した際に、屈折率整合剤が連通溝から供給され、屈折率整合剤が調心溝に付着する部分と蓋体に付着する部分に分かれることがない。このため、屈折率整合剤中に気泡を巻き込むことが無い。また、屈折率整合剤を調心溝に連通する溝に溜めているので、蓋体 の下面で光ファイバを十分に押圧して光ファイバを確実に挟持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る光コネクタの実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における光コネクタの長手方向断面を示したものである。
本光コネクタ1は、図1に示すように、一体化時に概略断面円形または角形となるロッド状の二つ割り構造とされ、ベース2と蓋体3とからなる一対のクランプ部材4、4と、当該クランプ部材4、4の全体をほぼ収納可能な断面コ字状の細長いクランプバネ5とを備えている。
【0014】
クランプ部材4、4 は、共に断面半円形または角形 のロッド状の部材であって、互いの対向面7 、8 を境にして分離されるようになっており、 プラスチック等の適度な硬度を有する材料によって形成されている。
【0015】
蓋体3に対向するベース2の対向面7 の長手方向中央部には、光ファイバ6 (光ファイバ単心線)を突き合わせ接続可能に位置決め調心するV形の 調心溝9 が形成され、対向面7 の長手方向両端部にはクランプ部材4、4 の外側から挿入される光ファイバ6 を調心溝9 の近傍に導く光ファイバガイド溝15 が形成されている。そして、 これら調心溝9 と光ファイバガイド溝15 とは、ベース2 の長手方向に沿った同一直線上に配置されている。
一方、ベース2に対向する蓋体3の対向面8にも、ベース2の対向面7と同様の 光ファイバガイド溝15が形成されている。
【0016】
調心溝9 には、 光ファイバ6 の先端の被覆を除去して露出させた裸ファイバ6 aが収納され、光ファイバガイド溝15 には光ファイバ6 の被覆6 bが収納される。
【0017】
クランプバネ5 は、クランプ部材4、4 よりやや短い細長の部材であって、ベリリウム銅等の材料で形成されている。ベリリウム銅の場合、目的形状に成形後、 時効硬化処理を行ったものや、熱処理後フッ素樹脂等でコーティングしたもの等がより好ましい。
【0018】
図2は、光ファイバ6の接続点P近傍におけるベース2の対向面7を示したものである。
本実施形態における光コネクタ1は、図2に示すように、光ファイバ6の接続点P近傍において、調心溝9から側方に延出する連通溝10がベース2の 対向面7に形成され、さらに一方の連通溝10の端部には、屈折率整合剤11を溜めておく溜り部12として、調心溝9と平行して延在する溜り溝13が形成された構成とされている。連通溝10および溜り溝13の断面は角形とされ、連通溝10および溜り溝13の深さは調心溝9とほぼ同じ深さとされている。
なお、光ファイバ6の接続点P近傍とは、 光ファイバ6、6同士を 突き合わせた部分を含む連通溝10の幅程度の領域をいう。
【0019】
光ファイバ6の接続点P近傍の調心溝9および連通溝10、溜り溝13には 屈折率整合剤11が充填されている。 屈折率整合剤11には、ガラスの屈折率に近い屈折率を有するシリコーン系のグリスなどを使用する。 光ファイバ(詳細には裸ファイバ6a)としては、例えば、石英系光ファイバを用いる 。
【0020】
次に、本発明に係る光コネクタ1の作用・効果について説明する。
図3は、一対のクランプ部材4、4間に側端部から楔(図示省略)を 挿入して一対のクランプ部材4、4を開放する動作を示したものである。矢印Aの方向に楔を挿入すると、楔と反対側の側端部を支点として蓋体3が上方に回転する。これに伴い、連通溝10および溜り溝13に充填されている 屈折率整合剤11が調心溝9に流れ込み、ベース2と蓋体3の間には、光ファイバ6を包含する 屈折率整合剤11の柱が形成される。これにより、光ファイバ6の接続点P近傍は常に屈折率整合剤11で満たされた状態となり、クランプ部材4、4から楔を引き抜いた際に屈折率整合剤11の中に空気が混入することがない。
【0021】
従来の光コネクタ は、連通溝10や溜り部12 が存在しない構造であるため 、屈折率整合剤11 を塗布す る範囲がかなり広くなっている 。しかも 、光コネクタを 開閉操作する 度に、屈折率整合剤11 は広範囲に拡がっていく 。このように屈折率整合剤11 の範囲が広いと、屈折率整合剤11の 中に気泡を巻き込む可能性が高くなり、 屈折率整合剤11の 中に入り込んだ気泡が屈折率整合剤11の 中を移動して光ファイバ6 に接触することにより 、光ファイバ6の 光学特性に悪影響を及ぼすことになる 。そのため 、屈折率整合剤11の塗布 範囲は、ある程度限定したほうがよい 。本発明に係る光コネクタ1では、調心溝9の側方に形成した連通溝10や溜り部12に 屈折率整合剤11を充填することにより、光ファイバ6の接続点P近傍のみに 屈折率整合剤11の塗布 範囲を限定している。その結果、 屈折率整合剤11の 中に気泡を巻き込む可能性が低下するとともに、蓋体3 の下面で光ファイバ6を十分に押圧して光ファイバ6を確実に挟持することができる。
【0022】
図4は、連通溝10および溜り部12の様々な実施例を示したものである。なお、各ケースとも、図の下方から楔を挿入するものとする。
(a)は図2のケースを示し、調心溝9を挟んで楔を挿入する側に、連通溝10に加えて、調心溝9と平行して延在する溜り溝13を設け、調心溝9を挟んで反対側には連通溝10のみ設けたものである。また、(c)は、調心溝9を挟んで楔を挿入する側にのみ連通溝10と溜り溝13を設け、(e)は、調心溝9を挟んで両側にそれぞれ連通溝10と溜り溝13を設けたものである。これらのケースでは、溜り溝13を設けることにより、調心溝9への屈折率整合剤11の供給量を増大させることを意図している。
(b)は、調心溝9を挟んで楔を挿入する側に長い連通溝10を設け、調心溝9を挟んで反対側には短い連通溝10のみ設けたものである。また、(d)は、調心溝9を挟んで楔を挿入する側に、ベース2の側端部2aまで延出する長い連通溝10を設けたものであり、連通溝10中の屈折率整合剤11を空気で光ファイバ6の接続点Pへ押しこみ易くしたものである。
(f)は、調心溝9を挟んで両側にそれぞれ調心溝9と連通しない凹部状の溜り部12を設けたものである。
(g)は、調心溝9を挟んで楔を挿入する側に、連通溝10に加えて連通溝10と連通する凹部状の溜り部12を設け、調心溝9を挟んで反対側には連通溝10のみ設けたものである。
(h)は、蓋体3の対向面8を示し、調心溝9に対応する蓋体3の部位を挟んで両側にそれぞれ凹部状の溜り部14を設けたものである。ベース2に加えて蓋体3にも溜り部14を設けたほうが 屈折率整合剤11の柱が形成されやすくなる。
【0023】
以上、本発明に係る光コネクタの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施形態では、 調心溝9 はV溝としている が、V溝以外のU溝など他の形状からなる 調心溝の適用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る光コネクタの一実施形態を示す長手方向断面図である。
【図2】光ファイバの接続点近傍におけるベースの対向面の部分斜視図である。
【図3】本発明に係る光コネクタの作用・効果を説明するための説明図である。
【図4】連通溝および溜り部の実施例を示したクランプ部材の対向面の平面図である。
【符号の説明】
【0025】
1…光コネクタ、2…ベース、3…蓋体、4…クランプ部材、5…クランプバネ、6…光ファイバ、7…対向面、8…対向面、9…調心溝、10…連通溝、11…屈折率整合剤、12…溜り部、13…溜り溝、14…溜り部、15… 光ファイバガイド溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース(2)と蓋体(3)とからなり、対向する面の間に光ファイバ(6)を挟み込む一対のクランプ部材(4、4)と、当該一対のクランプ部材を収納するクランプバネ(5)とを備え、前記蓋体に対向する前記ベースの対向面(7)に、光ファイバを突き合わせ接続可能に位置決め調心する調心溝(9)が形成されている光コネクタにおいて、
前記調心溝から側方に延出する連通溝(10)が、前記蓋体に対向する前記ベースの対向面に形成され、当該連通溝に屈折率整合剤(11)が充填されていることを特徴とする光コネクタ(1)。
【請求項2】
前記連通溝が前記ベースの側端部(2a)まで延出していることを特徴とする請求項1に記載の光コネクタ。
【請求項3】
前記連通溝の一方の端部に、屈折率整合剤を溜めておく溜り部(12)が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光コネクタ。
【請求項4】
前記溜り部が前記調心溝と平行して延在する溜り溝(13)とされていることを特徴とする請求項3に記載の光コネクタ。
【請求項5】
前記ベースに対向する前記蓋体の対向面(8)に、屈折率整合剤を溜めておく溜り部(14)が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光コネクタ。
【請求項6】
前記連通溝および前記溜り部が、前記調心溝を挟んで、前記一対のクランプ部材の開放側にのみ形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の光コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−187783(P2007−187783A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4579(P2006−4579)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】