説明

光スイッチ素子の製造方法、光スイッチ素子、光スイッチ装置、およびMEMS素子の製造方法

【課題】製造が容易であり、かつ製造歩留まりが高い光スイッチ素子の製造方法、光スイッチ素子、光スイッチ装置、およびMEMS素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】固定電極と、前記固定電極と所定の間隙を有して配置された可動電極と、前記可動電極に接続したミラーとを備えた光スイッチ素子の製造方法であって、表面導電層と絶縁層と裏面層とを有する多層基板の該表面導電層から該絶縁層に到る貫通パターン孔を形成し、前記貫通パターン孔を通して表面側から前記裏面導電層にパターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定電極と、固定電極と所定の間隙を有して配置された可動電極と、可動電極に接続したミラーとを備えた光スイッチ素子の製造方法、光スイッチ素子、光スイッチ装置、および固定電極と、固定電極と所定の間隙を有して配置された可動電極とを備えたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微少電気機械システム)素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光伝送システムにおいて、波長多重光信号の経路を切り替えるために、光スイッチ装置が使用されている(たとえば特許文献1参照)。このような光スイッチ装置には、光信号の経路を切り替えるために、光の反射方向を変えることができるミラーを備えた光スイッチ素子が用いられる。そして、このような光スイッチ素子では、光の反射方向を変えるために、MEMS素子を用いた静電アクチュエータによってミラーを可動としている。
【0003】
MEMS素子を用いた静電アクチュエータには、平行電極構造のもの(特許文献2参照)や、櫛歯電極構造のもの(非特許文献1参照)などがある。櫛歯電極構造とは、櫛歯の配列方向とは垂直の方向に厚さを有する固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とが、所定のギャップを隔てて噛み合うように配置された噛み合わせ構造を有するものである。櫛歯電極構造の静電アクチュエータは、その内部に作用する静電力が強く、またプルインが起こりにくいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−276487号公報
【特許文献2】米国特許第7302131号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jin-Ho Lee ,et al.,”Bonding of silicon scanning mirror having vertical comb fingers” J. Micromech. Microeng. Vol.12(2002)pp.644-649
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の櫛歯電極構造の静電アクチュエータは、櫛歯電極状に加工した2つの基板を噛み合わせて製造していた。このような櫛歯電極は、たとえば1本の櫛歯の幅と櫛歯の間隔がいずれも数〜十数μm程度と非常に小さく、またその櫛歯の数も数10本と非常に多い。したがって、2つの櫛歯電極の相互の位置合わせが非常に困難であるという問題があった。また、2つの基板の噛み合わせの際に櫛歯電極部にごみ等の異物が混入した場合、噛み合わせが困難または不可能になる場合があるという問題があった。また、櫛歯の加工精度が低い場合、すべての櫛歯をうまく噛み合わせることが困難または不可能であるという問題があった。一方、従来の平行電極構造の静電アクチュエータについても、複数の基板をそれぞれ加工して、その後にこれらを組み合わせて製造していたため、同様の問題があった。以上のような理由により、従来の静電アクチュエータを備えた光スイッチ素子は、製造が困難であり、かつ製造歩留まりが低いという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、製造が容易であり、かつ製造歩留まりが高い光スイッチ素子の製造方法、光スイッチ素子、光スイッチ装置、およびMEMS素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光スイッチ素子の製造方法は、固定電極と、前記固定電極と所定の間隙を有して配置された可動電極と、前記可動電極に接続したミラーとを備えた光スイッチ素子の製造方法であって、表面導電層と絶縁層と裏面層とを有する多層基板の該表面導電層から該絶縁層に到る貫通パターン孔を形成し、前記貫通パターン孔を通して表面側から前記裏面導電層にパターンを形成することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る光スイッチ素子の製造方法は、上記の発明において、前記間隙の形状を含むように前記貫通パターン孔を形成することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る光スイッチ素子の製造方法は、上記の発明において、前記2つの電極のうち一方の電極を前記表面導電層および裏面導電層のうちの一方の導電層に形成し、他方の電極を他方の導電層に形成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る光スイッチ素子の製造方法は、上記の発明において、前記多層基板として、SOI基板を用いることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る光スイッチ素子は、可動電極と固定電極とを有する静電アクチュエータを備え、前記可動電極と固定電極との静電力を働かせるべき面同士が傾斜対向配置していることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る光スイッチ素子は、上記の発明において、前記面同士の傾斜角は略90度であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る光スイッチ装置は、上記の発明のいずれか1つに記載の製造方法により製造した光スイッチ素子、または上記の発明のいずれかに記載の光スイッチ素子を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るMEMS素子の製造方法は、固定電極と、前記固定電極と所定の間隙を有して配置された可動電極とを備えたMEMS素子の製造方法であって、表面導電層と絶縁層と裏面導電層とを有する多層基板の該表面導電層から該絶縁層に到る貫通パターン孔を形成し、前記貫通パターン孔を通して表面側から前記裏面導電層にパターンを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、表面導電層から絶縁層まで貫通する貫通パターン孔を形成し、該貫通パターン孔を通して表面側から裏面導電層にパターンを形成するので、製造が容易であり、かつ製造歩留まりが高い光スイッチ素子の製造方法、光スイッチ素子、光スイッチ装置、およびMEMS素子の製造方法を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施の形態1に係る光スイッチ素子の模式的な斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す光スイッチ素子の模式的な平面図である。
【図3】図3は、図2に示す光スイッチ素子のA−A線断面図である。
【図4】図4は、図2に示す光スイッチ素子のB矢視図である。
【図5】図5は、図2に示す光スイッチ素子のC−C線断面図である。
【図6】図6は、実施の形態2に係る光スイッチ素子の製造方法を説明する説明図である。
【図7】図7は、実施の形態2に係る光スイッチ素子の製造方法を説明する説明図である。
【図8】図8は、実施の形態2に係る光スイッチ素子の製造方法を説明する説明図である。
【図9】図9は、実施の形態2に係る光スイッチ素子の製造方法を説明する説明図である。
【図10】図10は、実施の形態3に係る光スイッチ装置の構成を示すブロック図である。
【図11】図11は、図10に示す光スイッチ装置の動作を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して本発明に係る光スイッチ素子の製造方法、光スイッチ素子、光スイッチ装置、およびMEMS素子の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各層の厚みと幅との関係、各層の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る光スイッチ素子の模式的な斜視図である。また、図2は、図1に示す光スイッチ素子の模式的な平面図である。この光スイッチ素子100は、SOI(Silicon On Insulator)基板を材料にして形成された3層からなる基板を利用する。その3層基板は、Siからなる裏面導電層としての支持層L1、SiOからなる絶縁層としてのBox(Buried oxide)層L2、Siからなる表面導電層としての活性層L3で構成される。図1に示すように、この光スイッチ素子100は、第一固定基部10と、第二固定基部20と、可動部30と、第三固定基部40とを備えている。第一固定基部10、第二固定基部20、および第三固定基部40とは、支持層L1、Box層L2、および活性層L3の積層構造からなる。一方、可動部30は活性層L3のみからなる。
【0020】
つぎに、図2を用いて光スイッチ素子100の構成について具体的に説明する。第一固定基部10は、ブロック状の支持部11と、支持部11に設けられた固定櫛歯電極12とを備える。なお、符号12aは櫛歯部を示している。また、第二固定基部20は、支持部11と所定の隙間を設けて配置したブロック状の支持部21と、支持部21から固定櫛歯電極12と略平行に延伸したアーム22とを備える。
【0021】
可動部30は、バネ部31、可動櫛歯電極32、支持部33、バネ部34、およびミラー部35を備える。バネ部31は、アーム22と可動櫛歯電極32とを接続し、可動部30全体を支持している。また、可動櫛歯電極32は、固定櫛歯電極12と所定の間隙Gを有して噛み合うように配置されている。間隙Gの幅はたとえば3〜10μmである。なお、符号32aは櫛歯部を示している。また、支持部33は、可動櫛歯電極32の一端に接続しており、バネ部34を介してミラー部35を支持している。ミラー部35の幅は略100μm、長さは300μmである。また、ミラー部35の上面35aには金メッキが施されている(以下、ミラー面35aと称する)。
【0022】
また、第三固定基部40は、ブロック形状であり、ミラー部35の一端に配置されている。
【0023】
つぎに、この光スイッチ素子100の動作について説明する。この光スイッチ素子100は、固定櫛歯電極12と可動櫛歯電極32とからなる静電アクチュエータと、ミラー部35と第二固定基部40とからなる静電アクチュエータとにより、ミラー部35が二軸回転するように構成されたものである。以下、図を用いて具体的に説明する。
【0024】
はじめに、固定櫛歯電極12と可動櫛歯電極32とからなる静電アクチュエータについて説明する。図3は、図2に示す光スイッチ素子のA−A線断面図である。図3に示すように、この静電アクチュエータは、固定櫛歯電極12のうち静電引力が働くべき部分は支持層L1に形成されており、可動櫛歯電極32は活性層L3に形成されているため、段差櫛歯構造となっている。
【0025】
つぎに、この静電アクチュエータの動作について説明する。まず、Box層L2により絶縁されている活性層L3と支持層L1との間に電圧信号を印加する。すると、活性層L3からなる可動櫛歯電極32と、固定櫛歯電極12の支持層L1からなる部分との間に静電引力が働く。なお、この静電引力は特に櫛歯部12aと櫛歯部32aとの側壁間に働く。ここで、バネ部31は可動櫛歯電極32よりも薄く形成されているので、この静電引力によってたわみ、これによって可動櫛歯電極32は固定櫛歯電極12の支持層L1からなる部分に引き寄せられる。その結果、ミラー部35を含めた可動部30全体が、矢印Ar1が示すように、バネ部31のアーム22側の根元付近を軸として所定の角度範囲内で回転する。なお、この回転の角度は、活性層L3と支持層L1との間に印加する電圧信号の大きさに応じたものとなる。また、回転時に可動部30がその長手方向に傾かないように、バネ部31はハの字型となっている。
【0026】
つぎに、ミラー部35と第三固定基部40とからなる静電アクチュエータについて説明する。図4は、図2に示す光スイッチ素子のB矢視図である。この静電アクチュエータでは、ミラー部35が可動電極、第三固定基部40の支持層L1からなる部分が固定電極となっている。そして、ミラー部35のミラー面35aとは反対側の下面35bと、第三固定基部40の側面40aとが傾斜角が略90度で傾斜対向配置している。
【0027】
つぎに、この静電アクチュエータの動作について説明する。上述の場合と同様に、まず、Box層L2により絶縁されている活性層L3と支持層L1との間に電圧信号を印加する。すると、活性層L3からなるミラー部35の下面35bと、第三固定基部40の支持層L1からなる側面40aとの間に静電引力が働く。ここで、バネ部34は支持部33、ミラー部35よりも薄く形成されているので、この静電引力によってたわみ、これによってミラー部35は第三固定基部40の側面40aに引き寄せられる。その結果、ミラー部35が、矢印Ar2が示すように、バネ部34の支持部33側の根元付近を軸として所定の角度範囲内で回転する。なお、この回転の大きさは、活性層L3と支持層L1との間に印加する電圧信号の大きさに応じたものとなる。
【0028】
以上のように、この光スイッチ素子100は、電圧信号の印加によってミラー部35が二軸回転し、その角度が様々に変えられるものとなる。
【0029】
ちなみに、上述したような、可動電極と固定電極との静電力を働かせるべき面同士が傾斜対向配置した構造の静電アクチュエータは、可動させても電極同士がくっ付きにくく、また電極面積を大きくしやすく、電極間に働く静電力を強くできる。その結果、可動範囲を広くできるし、消費電力を低くすることができる。また、構造が簡易であるため、作製も容易である。なお、傾斜対向配置する面は平面や曲面、凹凸を有する面でもよい。また、傾斜対向配置する面同士の傾斜角は、略90度が好ましいが、それ以外の角度でもよい。
【0030】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2に係る製造方法として、図1に示す光スイッチ素子100の製造方法の一例について説明する。以下では、図2に示す光スイッチ素子100のC−C線断面に則して説明を行なうものとする。図5は、図1に示す光スイッチ素子100のC−C線断面図である。図5に示すように、このC−C断面には、支持部11、櫛歯部12a、32a、支持部33、バネ部34、ミラー部35、および第三固定基部40を含んでいる。なお、櫛歯部12a、32aは両端部のもののみ示しており、他のものは省略している。
【0031】
図6〜図9は、本実施の形態2に係る光スイッチ素子100の製造方法を説明する説明図である。はじめに、図6に示すように、Siからなる支持層L1、SiOからなるBox層L2、およびSiからなる活性層L3を備える、たとえば直径4インチ(101.6mm)のSOI基板Sを準備する。なお、支持層L1、Box層L2、活性層L3の厚さは、たとえばそれぞれ200μm、1μm、10μmである。つぎに、SOI基板Sを酸化性雰囲気中で熱処理して支持層L1、活性層L3の表面を酸化し、たとえば厚さ1.5μm程度の熱酸化膜O1、O2をそれぞれ形成する。以下、活性層L3側の表面を上面とし、支持層L1側の表面を下面と適宜記載する。つぎに、上面側に厚さ50nm程度のクロム(Cr)膜を成膜し、ネガ型のレジストを用いたフォトリソグラフィとエッチングとにより、アラインメントマークMを形成する。その後、アラインメントマークM上のレジストR1を除去する。
【0032】
つぎに、図7に示すように、上面に保護用のポジ型のレジストR2を塗布してポストベイクし、下面にポジ型のレジストR3を塗布してプリベイクする。その後、IRモニタ等によってアラインメントマークMの位置を確認し、このアラインメントマークMをもとに位置を調整して下面にフォトリソグラフィを行い、ポストベイク後、フッ酸液等を用いて熱酸化膜O1をウェットエッチングする。このとき、熱酸化膜O1をウェットエッチングする領域E1は、第一固定基部10、第二固定基部20、および第三固定基部40を形成するべき領域を除いた領域である。その後、レジストR2、R3を剥離する。なお、以下の工程ではポジ型のレジストを用いる。
【0033】
さらに、下面に保護用のレジストR4を塗布してポストベイクし、上面にレジストR5を塗布してプリベイクする。その後、アラインメントマークMをもとに位置を調整して上面にフォトリソグラフィを行い、ポストベイク後、フッ酸液等を用いて熱酸化膜O2をウェットエッチングする。このとき、熱酸化膜O2をウェットエッチングする領域E2は、バネ部31、34を形成すべき領域である。その後、レジストR4、R5を剥離する。なお、以降はアラインメントマークMを使用しないので、記載を省略する。
【0034】
つぎに、図8に示すように、下面に保護用のレジストR6を塗布してポストベイクし、上面にレジストR7を塗布してプリベイクする。その後、領域E2のパターン等をもとに位置を調整して上面にフォトリソグラフィを行い、ポストベイク後、フッ酸液等を用いて熱酸化膜O2をウェットエッチングする。このとき、熱酸化膜O2をウェットエッチングする領域E3は、図2の平面図で示される構造のうち、活性層L3側から支持層L3側まで貫通している全ての貫通空隙部である。
【0035】
つぎに、領域E3に対して、ドライエッチングによる活性層L3のエッチング、ウェットエッチングもしくはドライエッチングによるBox層L2のエッチング、ドライエッチングによる支持層L1のエッチングを順次行ない、SOI基板Sを貫通する貫通パターン孔Hを形成する。なお、ドライエッチングについては、サイドエッチングを防止するために、反応性ガスとしてSFガスやCF系ガスを用いた誘起結合プラズマによる反応性イオンエッチング(Inductively Coupled Plasma-Reactive Ion Etching、ICP−RIE)を用いることが好ましい。また、反応性ガスにOガスを加えるいわゆるBosch法を用いれば、サイドエッチングがさらに防止され、貫通パターン孔Hを高精度で形成できるのでさらに好ましい。
【0036】
上述した図8に示す工程によって形成した貫通パターン孔Hは、可動櫛歯電極32と固定櫛歯電極12との噛み合わせを形成する間隙Gの形状を含むものである。このように間隙Gを形成すれば、可動櫛歯電極32と固定櫛歯電極12とが最初から噛み合わされた状態で形成されるため、所定の間隙Gにて容易にかつ確実に噛み合うように、噛み合わせ構造を形成できる。したがって、従来2つの基板を別々に櫛歯電極状に加工して噛み合わせる工程のような、2つの櫛歯電極の位置合わせが困難であるという問題が全く生じず、かつ異物の混入や櫛歯の加工精度の低さにより、噛み合せが困難または不可能になるという問題も全く生じない。
【0037】
つぎに、図9に示すように、レジストR6、R7を除去し、熱酸化膜O2をマスクとして、バネ部31、34を形成すべき領域E2をわずかにドライエッチングし、活性層L3の厚さを薄くする。これによって、バネ部31、34をたわみやすくする。つぎに、SOI基板Sをひっくり返して、熱酸化膜O1をマスクとして、可動部30を形成すべき領域E4をドライエッチングする。その後、ウェットエッチングによって熱酸化膜O1、O2を除去し、さらにアラインメントマークMを除去し、ミラー部35に金メッキを施して、光スイッチ素子100が完成する。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態2に係る製造方法によれば、櫛歯電極の噛み合せが困難または不可能という問題が全く生じないため、光スイッチ素子の製造が容易であり、かつ製造歩留まりが高いものとなる。
【0039】
なお、活性層L3側から支持層L1のエッチングをする際に、必ずしも支持層L1を貫通するまでエッチングを行う必要はなく、必要に応じて途中で止めてもよい。たとえば、SOI基板Sの支持層L1が厚く、活性層L3側から支持層L1を貫通エッチングすることが困難な場合は、エッチングによって活性層L3側からBox層L2に到る貫通パターン孔を形成し、その後貫通パターン孔を通して活性層L3側から支持層L1にエッチングによってパターンを形成する際に、支持層L1内の途中までパターンを形成した時点でエッチングを止め、必要であれば、その後支持層L1側から、残りの部分をエッチングして貫通させればよい。このように必ずしも支持層L1を貫通するまでエッチングを行わなくても、可動櫛歯電極32と固定櫛歯電極12との位置合わせの問題は生じない。
【0040】
すなわち、静電容量は電極間距離に反比例するため、固定櫛歯電極12と可動櫛歯電極32との間に働く静電力の強さを考えると、可動櫛歯電極32との間に主な静電力が働くのは、固定櫛歯電極12のうち可動櫛歯電極32と近接している部分であり、その近接部分から離れるにしたがって電極間静電力は急に弱くなる。そのため、活性層L3側からのエッチングを支持層L1内の途中で止めたとしても、これによって可動櫛歯電極32と、固定櫛歯電極12のうちの可動櫛歯電極32との近接部分までとを形成するようにすれば、電極間静電力が主に働くこととなる部分は適切な位置関係で形成されることとなる。したがって、その後に支持層L1側から、エッチングによって固定櫛歯電極12の残りの部分を形成した場合に、たとえその固定櫛歯電極12の残りの部分が可動櫛歯電極32に対して位置ずれしていたとしても、その位置ずれによって位置合わせの問題が発生することはない。
【0041】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3に係る光スイッチ装置について説明する。本実施の形態3に係る光スイッチ装置は、入力した波長多重信号から所定の波長の光信号を選択し、その光信号の波長ごとに経路を切り換えて出力する波長選択光スイッチ装置である。
【0042】
図10は、実施の形態3に係る光スイッチ装置の構成を示すブロック図である。図10に示すように、この光スイッチ装置1000は、紙面奥行き方向に配列し、各々が異なる経路の光ファイバ伝送路に接続した4本の入出力光ファイバ51〜54と、入出力光ファイバ51〜54に対して順次配置された、アナモルフィックプリズムペア55と、回折格子56と、集光レンズ57と、λ/4波長板58と、実施の形態1に係る光スイッチ素子100と同様の構成を有し、アレイ状に配置された3つの光スイッチ素子102〜104とを備えている。さらに、この光スイッチ装置1000は、3つの光スイッチ素子102〜104を制御するためのモニタ素子59と制御回路60とを備えている。なお、実際には回折格子56において光路は曲げられるので、アナモルフィックプリズムペア55から光スイッチ素子102〜104までの各素子は回折格子56の前後で角度を持って配置されるが、図10においては、簡略化のために直列に配置して示している。
【0043】
つぎに、光スイッチ装置1000の動作について説明する。図11は、光スイッチ装置1000の動作を説明する説明図である。なお、図11は、光スイッチ装置1000を図10の方向とは垂直の方向から見た図である。はじめに、入出力光ファイバ51は、或る光ファイバ伝送路を伝送して入力した波長多重信号光信号OS1をアナモルフィックプリズムペア55に出力する。アナモルフィックプリズムペア55は、波長多重信号光信号OS1のビーム径を、回折格子56の格子の配列方向に広げて、波長多重信号光信号OS1が多くの格子に当たるように、波長選択の分解能を高めるようにしている。回折格子56は、入射した波長多重信号光信号OS1に含まれる所定の波長の光信号OS1aを所定の角度に出力する。集光レンズ57は、λ/4波長板58を通して、光信号OS1aを光スイッチ素子102に集光する。光スイッチ素子102はそのミラー面によって、集光した光信号OS1aを反射させる。このときの反射光は、反射光信号OS2として、λ/4波長板58、集光レンズ57、回折格子56、アナモルフィックプリズムペア55を順次経由して、入出力光ファイバ52へと入力し、入出力光ファイバ52に接続した光ファイバ伝送路へと出力する。なお、λ/4波長板58は、光信号OS1aと反射光信号OS2との光の偏光状態が互いに直交するように、その偏光状態を変化させる。これによって、アナモルフィックプリズムペア55および回折格子56の偏波依存性を補償するようにしている。
【0044】
また、回折格子56は、波長多重信号光信号OS1に含まれる他の所定の波長の光信号OS1b、OS1cをそれぞれ他の所定の角度に出力する。各光信号OS1b、OS1cは、それぞれ光スイッチ素子103、104で反射され、反射光信号OS3または反射光信号OS4として、λ/4波長板58、集光レンズ57、回折格子56、アナモルフィックプリズムペア55を順次経由して、入出力光ファイバ53または入出力光ファイバ54へと入力し、入出力光ファイバ53または入出力光ファイバ54に接続した光ファイバ伝送路へと出力する。
【0045】
ここで、光スイッチ素子102〜104は、モニタ素子59が反射光信号OS2〜OS4の一部を分岐した光の波長および強度をモニタし、このモニタの結果をもとに光スイッチ素子102〜104の各ミラー部を独立に可動させることによって、それぞれの反射光信号OS2〜OS4の反射角度が最適になるように制御される。反射光信号OS2〜OS4の分岐は、たとえば入出力光ファイバ51〜54の一部に分岐カプラを設けたり、光スイッチ装置1000内の適当な位置に分岐用のミラーを設けたりすることによって行うことができる。なお、モニタ素子59は、たとえばAWG(Arrayed Waveguide Grating)素子と複数のフォトダイオードとから構成される。
【0046】
なお、上記実施の形態2に係る製造方法では、アラインメントマークMを形成し、間隙Gの形状を含むように貫通パターン孔Hを形成しているが、アラインメントマーク用の貫通パターン孔を形成して、これをアラインメントマークとして、別途間隙Gを形成してもよい。この場合も、実施の形態2の場合と同様に、櫛歯電極の噛み合せが困難または不可能という問題が全く生じないため、光スイッチ素子の製造が容易であり、かつ製造歩留まりが高いものとなる。また、この場合は、たとえばSOI基板Sの上面側と下面側の両側から別々にエッチングを行なって、SOI基板Sを貫通する間隙Gを形成してもよい。このようにしても、上面と下面のそれぞれに現われている貫通パターン孔をもとに間隙Gを形成しているので、上下面からのエッチング孔の間の面内での位置ずれが起こりにくく、高精度に間隙Gを形成できる。
【0047】
また、上記実施の形態では、回転運動を実現する段差櫛歯構造の静電アクチュエータを形成するために、SOI基板を用いているが、絶縁層を介して積層した2つの半導体層を有する他の半導体基板を用いてもよい。また、本発明は、櫛歯電極を噛み合わせた他の構造を形成する場合にも適用することができる。また、基板の材料も他の半導体、金属等の導電性の材質からなるものを用いてもよい。
【0048】
また、上記実施の形態は、光スイッチ素子に係るものであるが、本発明は光スイッチ素子に限らず、固定電極と、固定電極と所定の間隙を有して配置された可動電極とを備えた他のMEMS素子にも適用できる。すなわち、上記のような固定電極と可動電極とを備えたMEMS素子を製造する際に、表面導電層と絶縁層と裏面導電層とを有する多層基板を材料とし、この多層基板の表面導電層から絶縁層に到る貫通パターン孔を形成し、その貫通パターン孔を通して表面側から裏面導電層にパターンを形成することによって、容易に、かつ製造歩留まり高くMEMS素子を製造することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 第一固定基部
11 支持部
12 固定櫛歯電極
12a 櫛歯部
20 第二固定基部
21 支持部
22 アーム
30 可動部
31 バネ部
32 可動櫛歯電極
32a 櫛歯部
33 支持部
34 バネ部
35 ミラー部
35a 上面(ミラー面)
35b 下面
40 第三固定基部
40a 側面
51〜54 入出力光ファイバ
55 アナモルフィックプリズムペア
56 回折格子
57 集光レンズ
58 λ/4波長板
59 モニタ素子
60 制御回路
100、102〜104 光スイッチ素子
1000 光スイッチ装置
Ar1、Ar2 矢印
E1〜E4 領域
G 間隙
H 貫通パターン孔
L1 支持層
L2 BOX層
L3 活性層
M アラインメントマーク
O1、O2 熱酸化膜
OS1 波長多重信号光信号
OS1a〜OS1c 光信号
OS2〜OS4 反射光信号
R1〜R7 レジスト
S SOI基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定電極と、前記固定電極と所定の間隙を有して配置された可動電極と、前記可動電極に接続したミラーとを備えた光スイッチ素子の製造方法であって、
表面導電層と絶縁層と裏面導電層とを有する多層基板の該表面導電層から該絶縁層に到る貫通パターン孔を形成し、前記貫通パターン孔を通して表面側から前記裏面導電層にパターンを形成することを特徴とする光スイッチ素子の製造方法。
【請求項2】
前記間隙の形状を含むように前記貫通パターン孔を形成することを特徴とする請求項1に記載の光スイッチ素子の製造方法。
【請求項3】
前記導電性基板として、絶前記2つの電極のうち一方の電極を前記表面導電層および裏面導電層のうちの一方の導電層に形成し、他方の電極を他方の導電層に形成することを特徴とする請求項1または2に記載の光スイッチ素子の製造方法。
【請求項4】
前記多層基板として、SOI基板を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の光スイッチ素子の製造方法。
【請求項5】
可動電極と固定電極とを有する静電アクチュエータを備え、前記可動電極と固定電極との静電力を働かせるべき面同士が傾斜対向配置していることを特徴とする光スイッチ素子。
【請求項6】
前記面同士の傾斜角は略90度であることを特徴とする請求項5に記載の光スイッチ素子。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の製造方法により製造した光スイッチ素子、または請求項5もしくは6に記載の光スイッチ素子を備えることを特徴とする光スイッチ装置。
【請求項8】
固定電極と、前記固定電極と所定の間隙を有して配置された可動電極とを備えたMEMS素子の製造方法であって、
表面導電層と絶縁層と裏面導電層とを有する多層基板の該表面導電層から該絶縁層に到る貫通パターン孔を形成し、前記貫通パターン孔を通して表面側から前記裏面導電層にパターンを形成することを特徴とするMEMS素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−95621(P2011−95621A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251154(P2009−251154)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】