説明

光センサ

【課題】炎と人体のように異なる性質の対象物を検出することのできる小型の赤外線センサなどの光センサを低コストで提供する。
【解決手段】赤外線受光部4及び温度検知部5を備えるセンサ画素2であって、フィルタもしくは吸収膜の相違に基づいて互いに異なる波長帯の光を吸収する多数のセンサ画素2を熱的及び電気的に分離して面方向に規則的に配列し、同一波長帯の光を吸収する全てのセンサ画素2の温度検知部5を直列に接続したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、配列した複数のセンサ画素が関連付けられて用いられる光センサに関する。
【背景技術】
【0002】
1つのセンシング装置が複数の波長帯の光に感応すれば、異なる性質の対象物を検出することができ、便利である。例えば一般に大気の窓と呼ばれる4.4〜5.5μmの波長帯の赤外線と8〜14μmの波長帯の赤外線の両方に感応するセンサであれば、人体及び火炎の両方を検出することができる。そこで従来、図11(a)に示すように検出波長帯の数に応じた数のセンサを配置(例えば3つの波長帯λ1、λ2、λ3の光に感応させるために3つのレンズ付きセンサSを配置)した装置が知られている。また、発明者等は、これを改良して小型化するべく図11(b)に示すように1つのチップT上に3つのセンサ画素を配列し、レンズLを共有させて集約させた装置を作成した。
【0003】
一方、イメージセンサの分野においては、配列の行ごと又は列ごとに、検出する赤外波長帯の異なるセンサが配置されている熱型赤外アレイセンサが提案されている(特許文献1)。この赤外アレイセンサでは、いずれのセンサ画素も反射膜とダイヤフラムとが空洞を介して対向しており、ダイヤフラムがボロメータ材料薄膜とそれを挟むように形成された上下の保護膜とからなっている。但し、一のセンサ画素Aの保護膜は窒化ケイ素からなり、その隣の行(又は列)のセンサ画素Bの保護膜は赤外線に対して透明な酸化ケイ素からなり、反射膜と対向する面の反対側の保護膜上に吸収膜が設けられている。そして、センサ画素Aは保護膜自体が波長10μmの赤外線を吸収し、センサ画素Bは入射光と反射光との干渉に基づき波長4μmの赤外線を吸収膜が吸収する。
【0004】
吸収された赤外線は熱となってダイアフラムの温度を変化させ、それに伴ってボロメータの抵抗が変わり、電気信号に変換され、その信号がデジタル画像処理で、画像化される(特許文献1、段落0022)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−205944
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、図11(a)に示すように検出波長帯の数に応じた数のセンサSを配置することは装置全体の占有面積を増し、コストも増すうえ、各センサS毎に視野が異なってしまう。レンズを共有化させる図11(b)の装置は、画素毎にレンズによる視野の調整ができないので、画素によって対象物wを検出する領域が異なってしまい、各波長で視野差なく検知するにはセンサ全体の視野に跨る大きさの対象物が必要になる。また、特許文献1のように画像処理手段を設けたりすることは結局装置全体の占有面積を増し、コストも増す。
それ故、この発明の課題は、異なる性質の対象物を検出することのできる小型の光センサを低コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その課題を解決するために、この発明の光センサは、
互いに異なる波長帯の光を吸収する複数のセンサ画素を備え、隣り合うセンサ画素が熱的及び電気的に分離するようにして前記センサ画素を面方向に規則的に配列し、同一波長帯の光を吸収する全てのセンサ画素を直列に接続したことを特徴とする。
この発明のセンサによれば、互いに異なる波長帯の光を吸収するセンサ画素が面方向に規則的に配列しているので、吸収波長帯の異なるセンサ画素間で視野差が無い。しかもそれらのセンサ画素の隣同士が熱的及び電気的に分離しているので、ある波長帯に対応するセンサ画素の光吸収に伴う熱的または電気的物性変化が別の波長帯に対応するセンサ画素の変化に影響しない。そして、複数のセンサ画素が対象物の光を感知したとき、それらの複数の画素が各々出力する。しかも、同一波長帯の光を吸収する画素同士が直列に接続されているので、センサの出力は各波長帯の画素の出力の和信号となり、いずれの波長帯についても大きな出力が得られる。
【0008】
前記センサ画素は赤外線受光部及び温度検知部を備え、赤外線受光部が赤外線の受光に伴って発熱し、その温度上昇を温度検知部が読み取って出力するものであってよい。この場合、前記「センサ画素を直列に接続した」とは、この温度検知部が直列に接続されていることを指す。温度センサとしては、サーモパイル、ボロメーター、ダイオードなどを用いることができる。
【0009】
前記センサ画素がフィルタを備え、フィルタの通過帯域の相違によって吸収する波長帯がセンサ画素間で異ならせられているものであってよい。この場合、全てのセンサ画素に同じ赤外線受光部を適用できる。また、赤外線受光部は吸収膜自体が画素間で互いに異なる波長帯の光を吸収するものであってもよいし、吸収膜を反射膜と組み合わせて吸収膜に干渉光を吸収させるようにし、吸収膜と反射膜との光学距離を画素間で異ならせても良い。この場合、フィルタなどの追加部材を要しない。
【0010】
この発明の光センサは、単独で用いられてもよいし、面方向に複数個並べて配置されて組センサとして用いられても良い。組センサとして用いるときは、検出対象物の位置を検知し、位置の時間変化により、移動の有無、方向、速度などを検知することができる。
【発明の効果】
【0011】
複数の波長を検出するために、各波長に対応するセンサを複数並べることがないので、センサ画素間で視野差の無い小型のセンサを低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態1に係る赤外線センサを示す平面視ブロック図である。
【図2】図1におけるA部平面図である。
【図3】図2におけるBB断面図である。
【図4】同センサに適用される温度検知部の配線図である。
【図5】同センサに適用される画素の視野を示す図である。
【図6】同センサが対象とする物体の赤外線放射量と波長との関係を示すグラフである。
【図7】(a)は実施形態2に係る赤外線センサの要部を示す断面図、(b)は(a)のB部拡大図である。
【図8】実施形態3に係る赤外線センサの要部を示す断面図である。
【図9】同センサに適用されるフィルタの透過領域を説明する図である。
【図10】実施形態4に係る赤外線アレイ組センサを示し、(a)はその組センサの平面視ブロック図、(b)はその組センサに適用されるセンサの平面視ブロック図である。
【図11】従来のセンサの視野を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
−実施形態1−
図1は第一の実施形態に係る赤外線センサを模式的に示す平面視ブロック図、図2は図1におけるA部平面図、図3は図2におけるBB断面図である。
赤外線センサ1は、図1に示すように6行6列の格子状に配列し、波長帯λ1、λ2及びλ3のいずれかに対応する36個のセンサ画素2及び1個のレンズ9を備える。そして、波長帯λ1に対応する画素2の行方向の隣には波長帯λ2またはλ3、列方向の隣には波長帯λ3またはλ2に対応する画素2が配置されることにより、各波長帯に対応するセンサ画素2が均等に並べられている。レンズ9を含む光学系は、対象物からの光がレンズ9で絞られて集光する際、互いに異なる波長帯に対応し隣り合う3つの画素2に入射するように調整されている。
【0014】
赤外線センサ1は、図2及び図3に示すように、1枚の単結晶シリコン基板3の主面にフォトリソ技術にて36組の赤外線受光部4、温度検知部5及び梁6を形成するとともにこれらを図略のエッチング保護マスクで覆った状態でエッチングすることにより、製造される。各組の赤外線受光部4、温度検知部5及び梁6とその周囲の基板3部分が一つのセンサ画素2を構成する。
【0015】
各センサ画素2においては、異方性ウェットエッチングによって形成された逆四角錐台のキャビティ7内に赤外線受光部4が梁6を介して基板3に支持されている。赤外線受光部4は、それ自体が特定範囲の波長帯の赤外線を吸収する薄膜材料からなる。例えば酸化ケイ素膜は波長10μm前後をピークとする波長帯、窒化ケイ素膜は波長13μm前後をピークとする波長帯をそれぞれ吸収する。そして、前記の通り行方向及び列方向に隣り合う画素2間で吸収波長帯が異なるように薄膜材料が画素2ごとに選択されている。その他の構成は画素2間で異なるところは無い。
【0016】
温度検知部5は、図4に配線図を平面視で示すように互いに異種の2つの導体a、bの測温接点(温接点)同士が電気的に接続されて梁6内に形成されたサーモパイルである。測温接点は赤外受光部4の下にあり、導体aの基準接点(冷接点)側端子が同じ波長帯に対応する行(列)方向の3つ隣の画素2の導体bの基準接点側端子に基板3を通って接続されている。サーモパイル間はアルミニウム配線で接続されている。従って、梁6は赤外線受光部4及び温度検知部5の両方を支持する機能を有する。こうして全ての温度検知部5が同一波長帯ごとに電気的に直列に接続され、波長帯毎に個別の出力端子に接続されている。このため、いずれの波長帯についても大きな出力が得られる。また、各赤外線受光部4及び各温度検知部5は幾何学的に隣の赤外線受光部4及び温度検知部5とキャビティ7により熱的にも電気的にも分離されており、ある波長帯に対応する画素2の光吸収に伴う出力変化が別の波長帯に対応する画素2の変化に影響しない。
【0017】
この赤外線センサ1によれば、検出対象物がその波長に対応する画素2の視野内に入ったとき、赤外線受光部4が対象物から発せられる赤外線を吸収して発熱する。それに伴って温度検知部5の測温接点と基準接点との間に起電力が生じる。一つの対象物が同一波長帯に対応する複数の画素2の視野内に入ったときはそれらの起電力が合算されて出力端子より取り出される。図5に示すように、センサ1の視野d内にある対象物wからの光は光学系で集光され、対象物のサイズが互いに異なる波長帯λ1、λ2及びλ3の光を吸収する3つの画素2の1組分より大きい限り、それらの少なくとも1組に入射する。そして、3種類の画素2が面方向に規則的に配列しているので、対象物wの大小に関わらず吸収波長帯の異なる画素間2で視野差が無い。よって、精度良く対象物の有無を検出することができる。また、対象物の位置を検出したい場合は、後述の実施形態4のように組センサとするか、又はセンサ1を機械的に動かせて、その移動量をエンコーダなどで読み取ればよい。
【0018】
尚、ある波長帯に対応するセンサ画素の吸収帯域と、別の波長帯に対応するセンサ画素の吸収帯域とは重なる部分があってもよい。例えば、波長4.4μmにCO2の共鳴放射による特異的な強い放射が観測される炎(図6(a))と、放射量がプランクの放射則に基づいて波長に対してブロードな曲線を示す高温物体(図6(b))との2つが検出対象であるとする。すると、一般的には、図6において、波長帯p1に対応するセンサ画素Pと、波長帯qに対応するセンサ画素Qとが組み合わされて、画素Pが出力し、画素Qが出力しないことにより炎を検出し、画素P及びQの出力により高温物体を検出するが、画素Pが波長帯p2に対応するものであっても、画素Pのみが出力する場合に炎であることを検知することができるからである。
【0019】
−実施形態2−
図7(a)は第二の実施形態に係る赤外線センサの要部を示す断面図、図7(b)は(a)のB部拡大図である。
赤外線センサ10は、実施形態1と同様に6行6列の格子状に規則性をもって配列し、波長帯λ1、λ2及びλ3のいずれかに対応する36個のセンサ画素12及びレンズ9を備える。
【0020】
但し、実施形態1と異なり、赤外線受光部14は、受光面側(即ち図面の上側)よりシート抵抗377Ωの窒化チタン薄膜からなる吸収膜14a、厚さdの酸化ケイ素薄膜からなる透過膜14b及びアルミニウムからなる反射膜14cの積層体である。厚さdは、nを酸化ケイ素の屈折率、λを吸収すべき波長、mを整数とするとき、n・d=(2m+1)λ/4を充足するように画素12毎に定められている。また、温度検知部15は、電気抵抗値が温度によって変化する抵抗体からなり、同じ波長帯に対応する行(列)方向の3つ隣の画素12の抵抗体と直列に接続されている。各直列回路の一方の端部は負荷抵抗を介して共通のグランド端子に接続され、他方の端部は個別の電源端子に接続されている。
【0021】
そして、吸収膜14a及び透過膜14bを透過した赤外線が反射膜14cで反射されて入射光と反射光とが干渉し、共振波長が吸収膜14aにて吸収されることにより、吸収膜14aが発熱する。それに伴って温度検知部15の抵抗値が変化する。一つの対象物が同一波長帯に対応する複数の画素12の視野内に入ったときはそれらの抵抗値が合算される。合算された抵抗値の変化は、負荷抵抗の両端にかかる電圧変化として取り出される。
【0022】
−実施形態3−
図8は第三の実施形態に係る赤外線センサの要部を示す断面図である。
赤外線センサ20は、実施形態1と同様に6行6列の格子状に規則性をもって配列し、波長帯λ1及びλ2のいずれかに対応する36個のセンサ画素22及びレンズ9を備える。
【0023】
各センサ画素22は、実施形態1と同様に赤外線受光部4、温度検知部5及び梁6を有し、それらに加えて赤外線受光部4の上方に設置されたフィルタ8を有する。赤外線受光部4は、実施形態1と同様にそれ自体が特定範囲の波長帯の赤外線を吸収する薄膜材料からなるが、実施形態2のように積層体からなっていてもよい。また、赤外線受光部4は隣り合う画素22間で吸収波長帯が異なるように構成されていても良いし、全て同一のものであってもよい。
【0024】
例えば、赤外線受光部4が全て同一であって且つ広範囲の波長帯域で一様に吸収するものであっても、一つのフィルタ8(フィルタ8Aとする)とその隣の画素のフィルタ8(フィルタ8Bとする)とで透過領域を異ならせることにより(図9(a))、隣り合う画素22間で吸収波長帯を異ならせることができる(図9(b))。尚、実施形態1で説明したように、ある波長帯に対応するセンサ画素の吸収帯域と、別の波長帯に対応するセンサ画素の吸収帯域とは重なる部分があってもよいことから、赤外線センサ20は、フィルタを設けたセンサ画素と設けないセンサ画素とを組み合わせた構成であってもよい。
【0025】
−実施形態4−
図10は第四の実施形態に係る赤外線アレイ組センサを示し、(a)はその組センサの平面視ブロック図、(b)はその組センサに適用されるセンサの平面視ブロック図である。組センサ100は面方向2行3列に6個並べて配置された赤外線センサA、B、C、D、E、Fを備え、各赤外線センサが4行4列の合計16個の画素を備える。赤外線センサA〜Fは、実施形態1〜3のいずれかのものを用いても良いが、ここでは各センサは波長帯λ1に対応する画素とλ2対応する画素からなるものとする。組センサ100によれば、当初はセンサAだけが対象物を検出し、時間が経過した後に他のセンサ(例えばB)が検出するなどしたときに、対象物の移動の有無、方向、速度などを検知することができる。
【符号の説明】
【0026】
1、10、20、A、B、C、D、E、F 赤外線センサ
2、12、22 センサ画素
3 基板
4、14 赤外線受光部
5、15 温度検知部
6 梁
7 キャビティ
8 フィルタ
9 レンズ
100 組センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる波長帯の光を吸収する複数のセンサ画素を備え、隣り合うセンサ画素が熱的及び電気的に分離するようにして前記センサ画素を面方向に規則的に配列し、同一波長帯の光を吸収する全てのセンサ画素を直列に接続したことを特徴とする光センサ。
【請求項2】
前記センサ画素が赤外線受光部及び温度検知部を備え、この温度検知部が直列に接続されている請求項1に記載の光センサ。
【請求項3】
前記センサ画素がフィルタを備え、このフィルタによって吸収する波長帯がセンサ画素間で異ならせられている請求項1又は2に記載の光センサ。
【請求項4】
前記赤外線受光部がそれ自体特定範囲の波長帯の赤外線を吸収する吸収膜を有し、この吸収膜の相違によって吸収する波長帯がセンサ画素間で異ならせられている請求項2に記載の光センサ。
【請求項5】
前記赤外線受光部が吸収膜及び反射膜を有し、入射光と反射光との干渉光を吸収膜が吸収するとともに、この吸収膜と反射膜との光学距離の相違によって吸収する波長帯がセンサ画素間で異ならせられている請求項2に記載の光センサ。
【請求項6】
前記センサ画素の全てが共通のグランド端子に接続されているとともに、波長帯毎に個別の出力端子に接続されている請求項1〜5のいずれかに記載の光センサ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の光センサが面方向に複数個並べて配置されていることを特徴とする組センサ。
【請求項8】
前記光センサの全てのセンサ画素が共通のグランド端子に接続されているとともに、各光センサ毎に且つ波長帯毎に個別の出力端子に接続されている請求項7に記載の組センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−123024(P2011−123024A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283127(P2009−283127)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000143031)コーデンシ株式会社 (18)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】