説明

光ディスク及びその再生方式

【目的】 光ディスクのROM部において、磁気的超解像を用いることで記録密度の向上を達成する。
【構成】 透明な基板上に、情報を持たせたピット部を形成し、その上に磁気的超解像を実現する磁性層2層を形成する。ピット部の情報は光磁気効果を検出することで読みだす。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、磁気光学効果(カー効果)を利用して、情報信号の読み出しを行なう光磁気記録媒体に関するものである。特に磁気的超解像を用いた高密度記録に関する。
【0002】
【従来の技術】現在、光ディスクがROM(Read Only Memory)として実用化されている。これは、透明な樹脂基板上に、情報を持たせたピット(凹部)を設けROMとする。そして基板側からレーザー光を入射し、その回折光の反射率の変化を信号として、ROM部を読みだす方式である。この方式では、再生に用いられるレーザー光の回折限界まで記録密度を高めることができる。例えば830nm付近の半導体レーザーを用いれば、5インチディスクの片面に600Mbyteという高い記録密度を実現することができる。またこの方式では、樹脂基板に設けられたピットを射出成形によって形成する。このため1枚のスタンパーから、大量にしかも低コストでROM部の情報を複製できるという利点をもっている。これらのことから、光ディスクは音楽用のメディアとして広く市場に受け入れられている。しかし最近では、画像データなどを扱うマルチメディアの発展にみるように、記憶容量のさらなる増大が望まれている。ところが光ディスクの記録密度は、OTF(Optical Transfer Function)で限定されており、情報ピットの間隔をつめようとすると、読みだそうとするピットの前後のピットからの回折光による波形干渉で、C/Nが劣化してしまうという課題があった。
【0003】一方、光磁気記録の分野では、前後の情報ドメインからの波形干渉をなくすことで、高密度記録を実現させる方法が提案されている。この技術はProc.Int.Symp.Optical.Memory page 203 (1991)で示されており、ここでは磁気的超解像による再生方式と呼ぶことにする。この方式では、キュリー温度、保磁力が共に異なる、再生層と記録層の2層からなる磁性媒体を用いる。熱磁気的に信号を記録した後、外部磁界(初期化磁界)により、再生層の磁区を消す。そして再生時には、記録層の磁区に蓄えられた情報を、再生層へ熱的に転写しながら読み出す方法である。この超解像再生方式では、隣接磁区どうしの波形干渉によるC/Nの劣化が避けられるため、高密度記録を行なう上で重要な技術となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、前記した光ディスクでは、光磁気記録における磁気的超解像と同様の超解像を実現する方法がなかった。そのため記録ピットの高密度化を行なおうとするとき、OTFで決められる限界があった。本発明はこれらの課題を解決しようというものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】透明な基板上に情報を有するピットを形成した光ディスクにおいて、前記基板のピットを有する側に、少なくとも保護層、磁性層、保護層の順に積層し、前記ピット直上の磁性層の膜厚をh1、前記ピット以外の部分の磁性層の膜厚をh2としたときh1>h2であり、前記ピット部と前記ピット部以外との間の光磁気信号の変化を、情報信号として検出することを特徴とする。
【0006】
【作用】図5で示したように、透明な基板101上に第1の磁性層、第2の磁性層を順に積層し、それぞれを再生層103、補助層104とする。ただし図5では、磁性層を挟みこむべき保護層を省略する。再生層、補助層の各物性値を表す記号を表1に示す。ただし磁化、保磁力は室温での値である。
【0007】
【表1】


【0008】このとき各物性値は数1、数2を満たすように選ぶ。
【0009】
【数1】


【0010】
【数2】


【0011】ただし、再生層は室温で遷移金属リッチ(遷移金属の副格子磁化が優勢)、補助層は室温で希土類リッチ(希土類の副格子磁化が優勢)であるものを選ぶ。この条件下で磁化のヒステリシスループは図6 (a)のようになる。図6 (b)は再生層のマイナーループである。マイナーループの反転磁界Ha、Hbは
【0012】
【数3】


【0013】
【数4】


【0014】で表される。ヒステリシスループの各ステップでの磁化の状態を図7、図8に示した。ただし■は、図6のヒステリシスループに記した各ステップに対応する。
【0015】次に、図9で示したように、基板104に情報ピット105を形成し、その上に、ピットに対応して膜厚の異なる再生層101を積層し、次に補助層102を形成する。このときの磁化状態を図10に示す。図10(a)は以下のプロセスの出発点となる磁化状態である。ここで再生層の磁化が下向きの時を”0”状態と呼ぶ。この時、再生層と補助層の間に界面磁壁は存在しない。そして
【0016】
【数5】


【0017】を満たす初期化磁界を、図10(b)中の矢印の方向に加えるのであれば、ピット直上の再生層の磁化のみのを反転させることができる(図10 (b))。この反転部を”1”状態と呼ぶ。従ってピットの有無は、光磁気信号として検知することができる。反転した再生層と、直上の補助層の間には界面磁壁が形成される。図1010 (b)の状態に対して、一定のパワーを有するレーザー光を照射すれば、図10 (a)で示すごとく界面磁壁が解消し、再生層の磁化が反転する。このようなレーザーパワーの、記録トラック方向への連続照射により、ピット部再生層の磁化を反転させながら、次のピット部の光磁気信号を読みだすことが可能となる。この一連の動作は光磁気記録における磁気的超解像となっているため、高密度の情報ピットを光磁気信号として再生できる。以上のプロセスを図4に図示した。再生時に、図4中で示した方向に再生磁界を加えれば、再生層の磁化反転を容易に行うことができる。
【0018】
【実施例】以下実施例に基づいて本発明を説明する。
【0019】図1に示したように、透明な樹脂基板101上に、保護層102、再生層103、補助層104、保護層102の順にマグネトロンスパッタリングにより積層する。保護層は膜厚800ÅのAlSiNよりなる。
【0020】再生層の組成は室温で遷移金属リッチのNd7.2Dy20.1F61.7eCo11.0からなる。また、補助層の組成は室温で希土類リッチのDy25.6Fe43.8Co30.6からなる。再生層、補助層の各物性値を表2に示した。
【0021】
【表2】


【0022】樹脂基板101は厚さ1.2mmのディスク状であり、その片面に200Åの深さを有するピット105を、射出成型によりあらかじめ形成しておく。ピットの形状の立体図を図2に示した。ピットはトラック方向に同一ピッチで繰り返して形成されている。トラック方向のピットの長さ、ならびに隣接ピットとの間隔は4000Åである。またトラック方向に対して垂直方向のピットの幅は4000Åである。図1で示したように、ピット上の再生層の膜厚107は、ピット以外の部分における膜厚108よりも厚く積層する。これは例えば次のようにして達成する。まず再生層をスパッタリングにより積層したあと、バイアスをかけて基板側にRFスパッタリングを行い、再生層をエッチバックする。このときピット部に積層された再生層は、凹部にあるためエッチングされにくく、一方ピット部以外は凸部にあるためエッチングがより進む。このため図1のように、ピット部とそれ以外の場所で、再生層の膜厚を変えることができる。
【0023】ピット部は光磁気信号の変調として検知する。光磁気ヘッドの構成を図3に示す。レーザー波長は830nm、NAは0.55である。光磁気信号は図3に示したように差動検出することで得られる。トラッキングサーボはサンプルサーボにて行なう。このためトッラク上には、サンプルサーボ用のプリピットを別に形成しておく。再生に至る一連のプロセスを模式的に図4に示す。ただし図4では保護層は省略して記している。ディスクの線速は5.7m/secである。13mWのレーザービームを、光磁気ヘッド401によりメディア面に照射しながら、第1の再生磁界402を、図の矢印の方向に500Oe加える。するとキュリー温度が高い補助層の磁化が、第1の再生磁界磁界に従ってまず決定される。次にキュリー温度の低い再生層の磁化が、補助層との間に界面磁壁を作らない方向で凍結する。補助層が希土類リッチであるため、第1の再生磁界と補助層の磁化の方向は、室温で逆向きになる。また再生層と補助層のセンスが互いに逆であるため、界面磁壁が存在しない状態は、それぞれの磁化が室温で逆向きになる状態となっている。次に初期化磁界(403)4.0KOeを、図4で示された方向にかける。このときピット直上の再生層の磁化が初期化磁界に従って反転し、補助層との間に界面磁壁404を形成する。次に第2の再生磁界(402)200Oeを加えながら、光磁気ヘッド401を用いレーザーパワー4.0mWで光磁気再生を行う。ことき再生信号のC/Nは45dBであった。また再生磁界を加えない場合には再生信号のC/Nは41dBであった。
【0024】比較例として、従来方式の光ディスクにおける再生実験を行う。厚み1.2mmの透明な樹脂基板に、射出成型を用いて深さ2000Å、幅4000Å、長さ4000Åのピットを、4000Åの間隔で繰り返し形成する。この基板にアルミの反射膜を800Åの膜厚で積層する。この光ディスクを、図3で示した光ヘッドを用いて再生する。このとき再生信号として、差動光学系の和信号をとることとする。レーザーパワーは1.0mWとする。このとき再生信号のC/Nは20dBである。本実施例と比較例から、本発明の優位性は明らかである。
【0025】なお本実施例において、ピットの深さ、ピットの幅、ピットの長さは前記した値に限定されるものではない。本発明の主旨を逸脱しなければ、本実施例と同様の効果を有する。また本実施例において再生層と補助層の界面は、図1で示したように必ずしもピットに対応した凹凸を有する必要はなく、ピット部とピット部以外で同一平面上に界面があっても、本実施例の結果と同様である。
【0026】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、高密度化が可能な光ディスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の側面断面図。
【図2】樹脂基板に設けられたピットの模式図。
【図3】光磁気ヘッドの構成図。
【図4】再生における一連のプロセスを示す図。
【図5】樹脂基板に設けられたピットの模式図。
【図6】磁化と保磁力の関係を示す図。
【図7】各磁性層の磁化の向きを示す図。
【図8】図7の続きで、各磁性層の磁化の向きを示す図。
【図9】ピット部を有する基板の上に積層した磁性層の、厚さ方向の形状を示す図。
【図10】ピット部を有する基板の上に積層した磁性層の、磁化状態を示す図。
【符号の説明】
101 基板
102 保護層
103 再生層
104 補助層
105 ピット
106 ピットの深さ
107 ピット部直上での再生層の膜厚
108 ピット部以外での再生層の膜厚
401 光磁気ヘッド
402 再生磁界
403 初期化磁界

【特許請求の範囲】
【請求項1】 透明な基板上に情報を有するピットを形成した光ディスクにおいて、前記基板のピットを有する側に、少なくとも保護層、磁性層、保護層の順に積層し、前記ピット直上の磁性層の膜厚をh1、前記ピット以外の部分の磁性層の膜厚をh2としたときh1>h2であり、前記ピット部と前記ピット部以外との間の光磁気信号の変化を、情報信号として検出することを特徴とする光ディスク。
【請求項2】 請求項1記載の光ディスクにおいて、前記磁性層が磁気特性の異なる2つの磁性層からなり、基板側からみて第1の磁性層を再生層、第2の磁性層を補助層と呼ぶとき、以下の(1)(2)(3)を同時に満たすことを特徴とする光ディスク。
(1)前記ピット直上の再生層の膜厚をh3、前記ピット部以外の部分の再生層の膜厚をh4としたときh3>h4である。
(2)前記再生層が希土類と遷移金属の合金、前記補助層が希土類と遷移金属の合金からなり前記再生層は室温で遷移金属の副格子磁化が優勢、前記補助層は室温で希土類の副格子磁化が優勢とする。
(3)前記再生層前記補助層の保磁力をそれぞれ、HC1、HC2としたとき、HC1<HC2であり、前記再生層、前記補助層のキュリー温度をそれぞれTC1、TC2としたとき、TC1<TC2とする。
【請求項3】 請求項2記載の光ディスクにおいて、以下の(1)(2)(3)(4)を順次行なうことを特徴とする光ディスクの再生方式。
(1)前記再生層と前記補助層の間に界面磁壁を生じない第1の状態を作る。
(2)再生動作の前に、前記補助層の磁化とは逆方向の初期化磁界Hinit、ただしHC1<Hinit<HC2を加え、前記ピット部直上の前記再生層と前記補助層の間に界面磁壁つくる第2の状態を作る。
(3)光磁気ヘッドを用い、前記ピット部と前記ピット部以外の場所との間の光磁気信号の変化を、情報信号として検出し再生する。
(4)再生時に、前記ピット部の界面磁壁を解消させ、前記再生層の磁化を反転して前記第1の状態を達成する。
【請求項4】 請求項3記載の光ディスクの再生方式において、再生時に初期化磁界とは逆方向の磁界を加えることを特徴とする光ディスクの再生方式。
【請求項5】 請求項3記載の光ディスクの再生方式において、前記初期化磁界とは逆方向の磁界を加えながら、同時に、前記磁性層の温度が前記補助層のキュリー温度付近に達するのに十分なパワーのレーザーを照射することで、前記第1の状態を達成することを特徴とする光ディスクの再生方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図9】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開平6−150417
【公開日】平成6年(1994)5月31日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−297348
【出願日】平成4年(1992)11月6日
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)