説明

光ドロップケーブル外被用難燃性樹脂組成物および光ドロップケーブル

【課題】外被材料に要求される樹脂組成物の物性・加工性や難燃性を維持しつつ、優れた耐クマゼミ性を持つ光ドロップケーブル用外被用難燃性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)(a−1)エチレン−α−オレフィン共重合体44〜75質量%、(a−2)エチレン−酢酸ビニル共重合体18〜35質量%および(a−3)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された高密度ポリエチレン7〜21質量%からなる樹脂100質量部に対し、(B)水酸化マグネシウム40〜100質量部、(C)赤リン5〜15質量部を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ドロップケーブル外被用難燃性樹脂組成物に関し、詳しくは、光ドロップケーブル外被被覆のための物性・加工性および難燃性を持ち、さらにクマゼミの産卵の際の産卵管の突き入れに対して、優れた耐性を持つ難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光ドロップケーブルは、幹線系の光ケーブルに設けられたアクセス点(クロジャー)から各家庭等に引き込まれるケーブルで、少心光ファイバーケーブルとも呼ばれ、主テンションメンバをもつ支持線に支持され、通常2本の副テンションメンバの間に位置する光ファイバー心線(複数の場合もある)が、2本の溝をもつ長方形あるいは扁平な楕円の横断面を持つ外被によって被覆された構造を持つ。
近年の温暖化の影響のためか、クマゼミの北限が北に移動し、西日本において生息するようになり、クマゼミが架空に布設した光ドロップケーブルの外被に産卵管を突き刺し、内部の光ファイバー心線が損傷される被害が多発するようになった。光ファイバー心線が損傷すると、信号の伝送の信頼性が落ち、光ドロップケーブルとして使えなくなる。
【0003】
従来の光ドロップケーブルでは、外被の材料に、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの樹脂を主体とし、また安全性の観点からハロゲン系難燃剤でなく、水酸化マグネシウムを難燃剤として使用する難燃ポリオレフィンを使用するのが一般的である。
この際、不飽和カルボン酸など官能基含有化合物で変性されたポリオレフィン系樹脂を配合し、樹脂と難燃剤の相溶性を改善することも一般的である(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
しかしながら、エチレン−酢酸ビニル共重合体を主体とする難燃ポリオレフィンを外被材料に使用する場合には、物性・加工性および難燃性は満足するものを得ることができるが、比較的やわらかい材料で、クマゼミの産卵管突き刺しに対しては、耐性はなく、内部の光ファイバー心線の損傷を防ぐことはできないという問題が認められた。
【0005】
そのため、光ドロップケーブルにおいて、クマゼミの産卵管突き刺しに抵抗する耐性(以下、単に「耐クマゼミ性」とも称する。)を持たせ、突き刺しによる信号の伝送問題がなくなることが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001- 166188号公報
【特許文献2】特開2008−286940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、外被材料に要求される樹脂組成物の物性・加工性や難燃性を維持しつつ、優れた耐クマゼミ性を持つ光ドロップケーブル用外被用難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性される樹脂として高密度ポリエチレンを採用し、変性された高密度ポリエチレンと、エチレン−α−オレフィン共重合体と、エチレン−酢酸ビニル共重合体とを特定の割合で含有してなる樹脂成分を使用することにより、外被材料に要求される物性・加工性、難燃性ならびに耐クマゼミ性の全てを満たす樹脂組成物が得られることを見出すとともに、樹脂組成物における耐クマゼミ性の評価において、針の進入後の応力を測定することによりはじめて正確に評価できることを確認し、かかる知見に基いて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明は、(A)(a−1)エチレン−α−オレフィン共重合体44〜75質量%、(a−2)エチレン−酢酸ビニル共重合体18〜35質量%および(a−3)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された高密度ポリエチレン(以下、単に「酸変性高密度ポリエチレン」ともいう。)7〜21質量%からなる樹脂100質量部に対し、(B)水酸化マグネシウム40〜100質量部、(C)赤リン5〜15質量部を含有することを特徴とする光ドロップケーブル外被用難燃性樹脂組成物である。
【0010】
本発明の第2の発明は、第1の発明において、さらに、(D)メラミンシアヌレート10質量部以下、好ましくは5質量部以下を含有することを特徴とする光ドロップケーブル外被用難燃性樹脂組成物である。
本発明の第3の発明は、第1または2の発明において、さらに、(E)シリコーン1質量部以下を含有することを特徴とする光ドロップケーブル外被用難燃性樹脂組成物である。
本発明の第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明の光ドロップケーブル外被用難燃性樹脂組成物を外被に設けた光ドロップケーブルである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光ドロップケーブル外被用難燃性樹脂組成物は、良好な物性・加工性および難燃性を維持しつつ、優れた耐クマゼミ性を有している。
本発明の光ドロップケーブルは、これを構成する外被の物性・加工性および難燃性が良好で、かつ、優れた耐クマゼミ性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例において、樹脂組成物の耐クマゼミ性を評価するための装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、(A)樹脂と、(B)水酸化マグネシウムと、(C)赤リンとを必須の成分として含有する。
【0014】
(A)樹脂:
本発明の樹脂組成物を構成する(A)樹脂は、(a−1)エチレン−α−オレフィン共重合体、(a−2)エチレン−酢酸ビニル共重合体、および(a−3)酸変性高密度ポリエチレンからなる。
【0015】
(a−1)エチレン−α−オレフィン共重合体:
本発明で使用されるエチレン−α−オレフィン共重合体は、直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体とも呼ばれ、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体である。α−オレフィンの具体例としては、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1、オクテン−1、デセン−1、ドデセン−1等を挙げることができる。好ましく用いることができるエチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体およびエチレン−オクテン−1共重合体を挙げることができる。
本発明において、エチレン−α−オレフィン共重合体は、1種単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0016】
なお、得られる樹脂組成物の物性・加工性、難燃性、耐クマゼミ性をバランスよく満足させるために、使用するエチレン−α−オレフィン共重合体のメルトマスフローレート(JIS K7210(荷重2.16kg)に準拠して測定)は0.1 〜50g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜10g/10分とされる。また、エチレン−α−オレフィン共重合体の密度(JIS K7112に準拠して測定)は0.91〜0.96g/cm3 であることが好ましく、さらに好ましくは0.92〜0.95g/cm3 とされる。
エチレン−α−オレフィン共重合体は、市販のものを使用でき、(株)プライムポリマー、ダウ・ケミカル日本(株)、日本ポリケム(株)等から入手できる。
【0017】
(A)樹脂中に占める(a−1)エチレン−α−オレフィン共重合体の割合は44〜75質量%とされ、好ましくは50〜70質量%、さらに好ましくは50〜64質量%とされる。
(A)樹脂中に占める(a−1)成分の割合が44質量%未満であると、得られる樹脂組成物が十分な硬さを示さなくなり、耐クマゼミ性が満たされなくなる(後述する比較例4参照)。一方、この割合が75質量%を超えると、得られる樹脂組成物の難燃性やケーブルの柔軟性に影響が出て望ましくない(後述する比較例7参照)。
【0018】
(a−2)エチレン−酢酸ビニル共重合体:
本発明で使用されるエチレン−酢酸ビニル共重合体としては、ケーブルの外被材料として使用されてきた従来公知のものを使用することができ、これらは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
なお、得られる樹脂組成物の物性・加工性や難燃性を十分満足させるために、使用するエチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトマスフローレート(JISK7210(荷重2.16kg)に準拠して測定)は0.1 〜50g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜10g/10分とされる。また、酢酸ビニルモノマー含有量が5〜45質量%、好ましくは10〜35質量%であるものが好適に使用される。
エチレン−酢酸ビニル共重合体は、市販のものを使用でき、三井デュポンポリケミカル(株)、東ソー(株)、ダウ・ケミカル日本(株)等から入手できる。
【0019】
(A)樹脂中に占める(a−2)エチレン−酢酸ビニル共重合体の割合は18〜35質量%とされ、好ましくは20〜30質量%、さらに好ましくは21〜30質量%とされる。
(A)樹脂中に占める(a−2)成分の割合が18質量%未満であると、得られる樹脂組成物の難燃性やその他の配合物の充填性に影響し、一方35質量%を超えると、得られる樹脂組成物が十分な硬さを示さなくなり、耐クマゼミ性が満たされなくなる(後述する比較例4参照)。
【0020】
(a−3)酸変性高密度ポリエチレン:
本発明で使用される酸変性高密度ポリエチレンは、高密度ポリエチレンを不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性させることにより得られるものである。
本発明で、高密度ポリエチレンとは、その密度が0.935〜0.975g/cm3 のものをいう。酸変性により高密度ポリエチレンの密度は、ほとんど変化しないので、酸変性高密度ポリエチレンも、その密度は、好ましくは、0.935〜0.975g/cm3 のものである。
【0021】
酸変性高密度ポリエチレンを得るために使用する不飽和カルボン酸としては、例えばフマル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、ソルビン酸、クロトン酸またはシトラコン酸等、酸無水物、例えば無水マレイン酸、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物または4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等を例示することができる。この中では、無水マレイン酸が望ましい。
上記高密度ポリエチレンに付加変性させるために使用する不飽和カルボン酸またはその誘導体の量は、高密度ポリエチレンに対して0.05〜10質量%の範囲が好ましい。
この付加変性方法としては公知の方法、例えば溶液法、懸濁法、溶融法等を採用することができる。
【0022】
上記方法のうち溶液法により付加させる場合は、無極性有機溶媒中に高密度ポリエチレンと不飽和カルボン酸またはその誘導体を投入し、さらにラジカル開始剤を添加して100〜160℃の高温に加熱する。これにより、酸変性高密度ポリエチレンを得ることができる。
この際使用される無極性溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、テトラクロルエタン等が挙げられる。またラジカル開始剤としては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3およびベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられる。
【0023】
また、懸濁法によって付加変性する場合は、水等の極性溶媒中に高密度ポリエチレンと不飽和カルボン酸またはその誘導体を投入し、さらに前記のラジカル開始剤を添加し、高圧下で100℃以上の高温に加熱することにより酸変性高密度ポリエチレンを得ることができる。
さらに、溶融法によって付加変性する場合は、合成樹脂の分野において慣用の溶融混練機、例えば押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等を用いて、高密度ポリエチレン、不飽和カルボン酸またはその誘導体およびラジカル開始剤を溶融混練することにより酸変性高密度ポリエチレンを得ることができる。
【0024】
なお、得られる樹脂組成物の物性・加工性や耐クマゼミ性を十分満足させるために、高密度ポリエチレンのメルトマスフローレート(JISK7210(荷重2.16kg)に準拠して測定)は0.1 〜50g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜10g/10分とされる。
【0025】
酸変性高密度ポリエチレンを得るための高密度ポリエチレンは、市販のものを使用でき、日本ポリエチレン(株)、ダウ・ケミカル日本(株)、旭化成ケミカルズ(株)等から入手できる。
また、酸変性高密度ポリエチレンは、ダウ・ケミカル日本(株)、三井化学(株)等から入手可能である。
本発明において、酸変性高密度ポリエチレンは、1種単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0026】
(A)樹脂中に占める(a−3)酸変性高密度ポリエチレンの割合は7〜21質量%とされ、好ましくは10〜20質量%、さらに好ましくは15〜20質量%とされる。
(A)樹脂中に占める(a−3)成分の割合が7質量%未満であると、耐クマゼミ性及び難燃性を満足する樹脂組成物を得ることができない(後述する比較例5参照)。一方、この割合が21質量%を超えると、得られる樹脂組成物の引張破壊歪が低くなりすぎ、物性に問題が生じる(後述する比較例6参照)。
【0027】
(B)水酸化マグネシウム:
本発明において使用される水酸化マグネシウムとしては、海水等から製造された合成水酸化マグネシウム及び天然産ブルーサイト鉱石を粉砕して製造された水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱石のいずれも好適に用いることができ、その平均粒径は、分散性、難燃性の効果から40μm以下が好ましく、特に0.2〜6μmのものが好ましい。
本発明の樹脂組成物における(A)樹脂は、非極性のものを含むので、水酸化マグネシウムの表面は、表面処理をされたものが好ましい。
【0028】
表面処理剤としては、例えば、高級脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、カプリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸等)、高級脂肪酸金属塩(上記高級脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩、アルミニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、バリウム塩、コバルト塩、錫塩、チタニウム塩、鉄塩等)、高級脂肪酸アミド(上記高級脂肪酸のアミド)、チタネートカップリング剤(イソプロピル−トリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、チタニウム(オクチルフォスフェート)オキシアセテート等)、シランカップリング剤(ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等)を挙げることができる。
好ましい表面処理剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
水酸化マグネシウムに対する表面処理剤の処理量としては0.5〜5.0質量%が好ましく、更に好ましくは1.0〜4.0質量%、特に好ましくは1.5〜3.5質量%である。
表面処理量が0.5質量%未満であると、水酸化マグネシウムの表面全体を覆うことが困難となり、相溶剤としての効果が低下する。一方、表面処理量が5.0質量%を超えると、効果が飽和してコストがかかることとなる。
表面処理された水酸化マグネシウムは、市販のものを使用でき、協和化学工業(株)、神島化学工業(株)等から入手できる。
本発明において水酸化マグネシウムは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
本発明の樹脂組成物における(B)水酸化マグネシウムの含有量は、(A)樹脂100質量部に対し、40〜100質量部とされ、好ましくは、45〜80質量部、さらに好ましくは50〜70質量部とされる。水酸化マグネシウムの含有量が40質量部未満であると、得られる樹脂組成物の難燃性、耐クマゼミ性に影響し、この含有量が100質量部を超えると、得られる樹脂組成物がもろくなり物性・加工性や柔軟性に影響がでる。
【0030】
(C)赤リン:
本発明において、赤リンは難燃助剤として作用する。赤リンは、比較的不安定な化合物であり、発火しやすく、特に粉塵爆発を起こし易く、経時的に樹脂を劣化させやすいので、赤リン粒子の表面を安定化剤で被覆した赤リンを好適に使用できる。
安定化剤としては、金属、金属酸化物、熱硬化性樹脂などが用いられ、金属としては、アルミニウム、鉄、クロム、ニッケル、亜鉛、マンガン、アンチモン、ジルコニウム、チタン等が挙げられ、また、金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン等が挙げられる。さらに、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。安定化剤としては、1種或いは2種以上を使用して、赤リン粒子の表面を被覆しても良い。
安定化剤の表面被覆量は、赤リン粒子に対して、金属、金属酸化物については金属として0.5〜15質量%、熱硬化性樹脂としては固形分として5〜30質量%の範囲に設計することが望ましい。
赤リンの平均粒子径は、樹脂への分散性、難燃助剤としての効果から50μm以下が好ましく、1〜40μmのものが更に好ましい。
赤リンは、市販のものを使用でき、燐化学工業(株)、日本化学工業(株)等から入手できる。
本発明において、赤リンは1種あるいは2種以上混合して使用してよい。
【0031】
本発明の樹脂組成物における(C)赤リンの含有量は、(A)樹脂100質量部に対し、5〜15質量部とされ、好ましくは、6〜12質量部、さらに好ましくは6〜10質量部とされる。赤リンの含有量が5質量部未満であると、得られる樹脂組成物の難燃性が低下し、この含有量が15質量部を超えると得られる樹脂組成物の物性・加工性に影響がでる。
【0032】
本発明の樹脂組成物には、上記の必須成分とともに(D)メラミンシアヌレートおよび/または(E)シリコーンが特定の割合で含有されていてもよい。
【0033】
(D)メラミンシアヌレート:
本発明の樹脂組成物の物性・加工性や耐クマゼミ性を維持しつつ、難燃性をさらに強めるために、(A)樹脂100質量部に対して、10質量部以下のメラミンシアヌレートを配合することができる。他の難燃剤との相乗効果を発揮させるため、および物性・加工性や耐クマゼミ性の維持のために、その配合量は1〜5質量部であることが好ましい。
メラミンシアヌレートは、市販のものを使用でき、堺化学工業(株)等から入手できる。
【0034】
(E)シリコーン
本発明者らは、光ドロップケーブル外被の摩擦性を低くすれば、クマゼミが止まりにくくなるのではないかと考え、また、耐磨耗性や布設作業にも好都合であると考え、滑剤としてのシリコーンの配合を検討し、その結果、シリコーンの配合が、良好な結果となることを確認した。
本発明において使用されるシリコーンは、分子構造が直鎖状、分岐鎖状、環状、網状、立体網状等のいずれものであってよいが、直鎖状のものが好適である。具体的には、シリコーンオイル、シリコーンオリゴマー、シリコーンゴム、シリコーンガムストックなどが挙げられる。
シリコーンは、市販のものを使用でき、信越化学工業(株)、東レ・ダウコーニング(株)等から入手できる。
本発明において、シリコーンは1種あるいは2種以上混合して使用してよい。
本発明の樹脂組成物における(E)シリコーンの配合量は、(A)樹脂100質量部に対して1質量部以下とされ、好ましくは0.1〜0.9質量部とされる。
【0035】
(F)その他の成分:
本発明の樹脂組成物には、耐侯性付与のためにカーボンブラックを、慣用量配合することが望ましい。
カーボンブラックとしては、黒鉛化カーボン、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等があり、三菱化学(株)、キャボットジャパン(株)等から入手できる。
本発明の樹脂組成物におけるカーボンブラックの配合量は、(A)樹脂100質量部に対して3〜15質量部であることが好ましく、更に好ましくは4〜10質量部、特に好ましくは5〜8質量部とされる。
【0036】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の特性を損なわない範囲で使用目的に応じて、各種添加剤や補助資材を配合することができる。この各種添加剤や補助資材としては、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、シリコーン以外の滑剤、加工性改良剤、充填剤、分散剤、中和剤、着色剤等を挙げることができる。また、本発明の樹脂組成物には、その使用目的に応じて樹脂成分に本発明の特性を損なわれない範囲で他のオレフィン系樹脂を少量配合することもできる。
なお、本発明の樹脂組成物を構成する各成分は、マスターバッチを調製して配合することもできる。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、上記の必須成分(A)〜(C)および任意成分(D)〜(F)を所定の割合で配合し、また、必要に応じて上記各種添加剤、補助資材等を適当量配合して、一般的な方法、例えばニーダー、バンバリーミキサー、コンティニュアスミキサーあるいは押出機を用いて均一に混合し、溶融混練することにより調製することができる。
次いで、本発明の光ドロップケーブルは、本発明の樹脂組成物を慣用の方法で、光ケーブルの芯線上に外被層として、厚さ1mm程度に押出成形して被覆することにより製造することができる。
【実施例】
【0038】
次に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本明細書中で用いられた物性値及び実施例で評価された評価物性値は、調製した樹脂組成物又はそれをプレス(圧縮)成形して得られた試料を用いて、各々次にまとめた測定方法・評価方法によるものである。
【0039】
(1)加工性:
JIS K 7210(荷重21.6kg)に準拠して測定したメルトマスフローレートにより評価した。
光ドロップケーブルの外被材料としての加工性等の観点から、メルトマスフローレートは15〜50g/10分であることが好ましい。
【0040】
(2)物性:
JIS K7113に準拠して引張試験を行い、引張破壊応力(引張強度)および引張破壊歪(破断伸び)を測定した。
光ドロップケーブルの外被材料として、引張破壊応力は15MPa以上、引張破壊歪は300%以上であることが好ましい。
【0041】
(3)難燃性:
JIS K6911に準拠した。厚さ2.5mmの試料を調製し、V−0級、V−1級、規格外(NG)で評価した。光ドロップケーブルの用途には、V−0級が必要である。
【0042】
(4)摩擦性(実施例1および実施例9〜10のみ):
JIS K7125に準拠して動摩擦係数を測定した。
【0043】
(5)耐クマゼミ性:
JIS K−7215に準拠してデュロメーター硬さを測定した。光ドロップケーブルの用途には60以上が好ましいと考えられる。
【0044】
(6)耐クマゼミ性(模擬評価):
本発明者は、デュロメータ硬さでは、耐クマゼミ性について十分に正確な評価ができないと考え、そのための評価法として、針の進入後の応力こそが重要であることを確認し、その評価法を考案した。
すなわち、クマゼミが産卵管を突き刺し、内部の光ファイバーが損傷され被害を受けた光ドロップケーブルを観察すると、クマゼミは、産卵管を、光ドロップケーブルの外表面の接線に対して20〜40度の角度で刺入し、外被の突き刺し傷の深さは、平均1mmであった。従って、この深さ1mmに達するときの応力が、耐クマゼミ性の境界応力であると考えられる。そのために、図1に示したような装置を用い、クマゼミの産卵管を模擬した直径1mmのメリケン針(JIS S 3008)1を、樹脂組成物をプレス成形して得られた3mm厚のシートからなる試料2に直角に押し込み刺入し、メリケン針1の進入深さが0.5mmであるときの応力を、ロードセル3「島津オートグラフAGS−G」((株)島津製作所製)を用いて測定した。図1において、4は固定用治具、5は試料台である。
クマゼミによる被害を受けたドロップケーブルの外被を試験片として、この方法で応力を測定すると、針の進入深さ0.5mmの点で2N未満であった。この結果を勘案して、5.5N以上を合格とした。
【0045】
実施例、比較例で各成分として、下記のものを用いた。
(A)樹脂:
・(a−1)エチレン−α−オレフィン共重合体:
・(a−1−1)エチレン−ヘキセン−1共重合体
〔商品名:DHDA−1184NTJ、密度=0.935g/cm3 、販売元:ダウ・ケミカル日本(株)〕
・(a−1−2)エチレン−ブテン−1共重合体
〔商品名:NUCG−7101、密度=0.920g/cm3 、販売元:ダウ・ケミカル日本(株)〕
・(a−2)エチレン−酢酸ビニル共重合体
〔商品名:NUC−3195、酢酸ビニル含量=25質量%、販売元:ダウ・ケミカル日本(株)〕
・(a−3)酸変性高密度ポリエチレン(無水マレイン酸変性高密度ポリエチレン)
〔商品名:AMPLIFY GR205、マレイン酸変性(変性量1.0質量%)、密度=0.96g/cm3 、販売元:ダウ・ケミカル日本〕
【0046】
(B)水酸化マグネシウム:
・(B−1)キスマ5A〔ステアリン酸表面処理品、販売元:協和化学工業(株)〕
・(B−2)マグシーズS−4〔シランカップリング剤表面処理品、販売元:神島化学工業(株)〕
【0047】
(C)赤リン:
・(C−1)ノーバエクセル140F〔販売元:燐化学工業(株)〕
・(C−2)ヒシガードLP−F〔販売元:日本化学工業(株)〕
【0048】
(D)メラミンシアヌレート:
〔商品名:Stabiace MC−5S、販売元:堺化学工業(株)〕
【0049】
(E)シリコーン:
〔商品名:NER−1、販売元:信越化学工業(株)〕
【0050】
(F)その他の成分:
・(F−1)カーボンブラック
〔商品名:CSX−709、販売元:キャボットスペシャリティケミカルズ〕
・(F−2)酸化防止剤
〔ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕
【0051】
(G)比較例で用いた樹脂成分:
・(G−1)高密度ポリエチレン
〔商品名:HY430、密度=0.956g/cm3 、販売元:日本ポリエチレン(株)〕
・(G−2)無水マレイン酸変性エチレン−ヘキセン−1共重合体
〔商品名:AMPLIFY GR213、マレイン酸変性(変性量0.25質量%)、密度=0.921g/cm3 、販売元:ダウ・ケミカル日本(株)〕
【0052】
<実施例1〜7>
下記表1に示す配合処方に従って、(a−1−1)エチレン−ヘキセン−1共重合体、(a−2)エチレン−酢酸ビニル共重合体および(a−3)酸変性高密度ポリエチレンを含有してなる(A)樹脂100質量部に対して、(B−2)マグシーズS−4と、(C−1)ノーバエクセル140Fと、(F−1)カーボンブラックと、(F−2)酸化防止剤とを下記表1に示した質量部で添加して混合し、ニーダーを用い、180℃で10分間にわたり溶融混練し、平均粒径4mmに造粒して、本発明の樹脂組成物を得た。
なお、表1において、配合量の単位は「質量部」である。
【0053】
<実施例8〜10>
下記表1に示す配合処方に従って、(D)メラミンシアヌレートおよび/または(E)シリコーンを配合したこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物を得た。
【0054】
<実施例11>
下記表1に示す配合処方に従って、(B)水酸化マグネシウムの種類を(B−1)キスマ5Aに変更し、(C)赤リンの種類を(C−2)ヒシガードLP−Fに変更したこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物を得た。
【0055】
<実施例12>
下記表1に示す配合処方に従って、(a−1)エチレン−α−オレフィン共重合体の種類を(a−1−2)エチレン−ブテン−1共重合体に変更して(A)樹脂を構成したこと以外は実施例1と同様にして本発明の樹脂組成物を得た。
【0056】
<比較例1〜7>
下記表2に示す配合処方に従って樹脂成分を構成したこと以外は実施例1と同様にして比較用の樹脂組成物を得た。なお、表2において、配合量の単位は「質量部」である。
比較例1に係る樹脂成分は、(a−1)成分の割合が過小で、(a−2)成分の割合が過大であり、(a−3)成分を含有していない。
比較例2に係る樹脂成分は、(a−1)成分の割合が過小で、(a−3)成分を含有していない。
比較例3に係る樹脂成分は、(a−1)成分の割合が過大で、(a−2)成分の割合が過小で、(a−3)成分の割合が過小である。
比較例4に係る樹脂成分は、(a−1)成分の割合が過小で、(a−2)成分の割合が過大である。
比較例5に係る樹脂成分は、(a−3)成分の割合が過小である。
比較例6に係る樹脂成分は、(a−3)成分の割合が過大である。
比較例7に係る樹脂成分は、(a−1)成分の割合が過大で、(a−2)成分の割合が過小である。
【0057】
実施例1〜12および比較例1〜7で得られた樹脂組成物の各々から評価用の試料を作製し、加工性、物性、難燃性および耐クマゼミ性を評価した。また、実施例1、実施例9〜10について摩擦性を評価した。結果を併せて下記表1および表2に示す。
【0058】

【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
上記表1に示したように、実施例1〜12で得られた本発明の樹脂組成物は、加工性、物性、難燃性および耐クマゼミ性のすべてにおいて優れていた。
また、(E)シリコーンを配合した実施例9〜10に係る樹脂組成物は、実施例1に係る樹脂組成物と比較して摩擦性が低い(クマゼミが止まりにくい)ものであった。
【0061】
これに対して、上記表2に示したように、比較例1で得られた樹脂組成物は、引張破壊応力が低く、硬さが不足して耐クマゼミ性を有するものでなかった。
また、比較例2で得られた樹脂組成物は、引張破壊応力が低く、難燃性が悪く、硬さが不足して耐クマゼミ性を有するものでなかった。
また、比較例3で得られた樹脂組成物は、難燃性に劣り、硬さが不足して耐クマゼミ性を有するものでなかった。
また、比較例4で得られた樹脂組成物は、難燃性に劣り、硬さが不足して耐クマゼミ性を有するものでなかった。
また、(a−3)成分の割合が過小な比較例5で得られた樹脂組成物は、難燃性が不足し、また硬さが不足して耐クマゼミ性を有するものでなかった。
また、(a−3)成分の割合が過大な比較例6で得られた樹脂組成物は、物性(引張破壊歪)が不足し、もろいものであった。
また、(a−1)成分の割合が過大な比較例7で得られた樹脂組成物は、難燃性に劣るものであった。
【符号の説明】
【0062】
1 メリケン針
2 試料
3 ロードセル
4 固定用治具
5 試料台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a−1)エチレン−α−オレフィン共重合体44〜75質量%、(a−2)エチレン−酢酸ビニル共重合体18〜35質量%および(a−3)不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された高密度ポリエチレン7〜21質量%からなる樹脂100質量部に対し、(B)水酸化マグネシウム40〜100質量部、(C)赤リン5〜15質量部を含有することを特徴とする光ドロップケーブル外被用難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、(D)メラミンシアヌレート10質量部以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の光ドロップケーブル外被用難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(E)シリコーン1質量部以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の光ドロップケーブル外被用難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光ドロップケーブル外被用難燃性樹脂組成物を外被に設けた光ドロップケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2012−163624(P2012−163624A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21987(P2011−21987)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000230331)日本ユニカー株式会社 (20)
【Fターム(参考)】