説明

光パルス幅変換装置および光パルス幅変換方法

【課題】 超短光パルス発生装置などでパルス圧縮またはパルス伸長のために用いられる光パルス幅変換装置において、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビームの拡大をはかることを目的としている。
【解決手段】 光パルス幅変換装置において、入力した光パルスのビームを第1の方向で第2の方向より大きくなるように拡大するビーム拡大部と、前記ビーム拡大部からの光パルスを波長に応じて第2の方向に沿って遅延させる波長分散部と、を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超短光パルス発生装置などでパルス圧縮またはパルス伸長のために用いられる光パルス幅変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光パルスをパルス圧縮するための光パルス圧縮装置において、1組の回折格子を対向させた回折格子対に、円形ビームとしての光パルスを入力させるようにしたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
また、従来、光パルス圧縮装置において、回折格子対で周波数(波長)に応じて空間的に分散させた光パルスの波長成分毎に、変調器で振幅変調または位相変調を与えるようにしたものが知られている(例えば特許文献2または特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−211504号公報
【特許文献2】特開平9−197355号公報
【特許文献3】特開2002−131710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回折格子に入力させる光パルスの平均パワーのエネルギー密度が大きくなると、回折格子の表面が熱によって歪み、パルス圧縮性能が劣化するようになる。従って、光パルスの平均パワーを大きくする必要がある場合、エネルギー密度がある程度以上大きくならないように、例えば光パルスのビーム径を大きくしなければならない。ここで、特許文献1に開示されたような円形ビームとしての光パルスについて、円形ビームとしてビーム径を大きくし、例えば特許文献2または特許文献3に開示された従来の光パルス圧縮装置の回折格子対に入力させた場合、ビーム径が波長分散によるビーム位置のずれよりも大きいと、変調器に入射する光パルスの波長成分間に空間的な重なりが生じ、波長成分毎に異なる振幅変調または位相変調を与えることができなくなるという問題点があった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、光パルス圧縮装置を含む光パルス幅変換装置において、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビームの拡大をはかることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る光パルス幅変換装置は、入力した光パルスのビームを第1の方向で第2の方向より大きくなるように拡大するビーム拡大部と、前記ビーム拡大部からの光パルスを波長に応じて第2の方向に沿って遅延させる波長分散部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明は、光パルス幅変換装置において、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビームを拡大できるようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1による光パルス幅変換装置は、ビーム径拡大部を含むビーム拡大部において、入力した光パルスのビーム径をY方向(第1の方向)に拡大し、Y方向と平行な溝が配列した回折格子を含む回折格子対と振幅・位相調整部と全反射鏡とからなる波長分散部において、Y方向と垂直なX方向(第2の方向)に沿って波長に応じて空間的に光パルスを分散させるようにしたので、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビームを拡大できるようにすることができるものである。
【0009】
図1は、この発明の実施の形態1による光パルス幅変換装置を用いた超短光パルス発生装置を示す構成図である。図1(a)は上面図であり、紙面内の上方向を第2の方向としてのX方向、紙面に垂直な前方向を第1の方向としてのY方向、紙面内の右方向をZ方向とする。図1(b)は側面図であり、紙面に垂直な後方向をX方向、紙面内の上方向をY方向、紙面内の右方向をZ方向とする。なお、各図において、同一符号は同一または相当部分を示す。
【0010】
図1において、超短光パルス発生装置は、パルス生成装置10、パルス伸張装置20、光パルス幅変換装置としてのパルス圧縮装置30、から構成されている。パルス圧縮装置30は、ハーフミラー31、ビーム拡大部としてのビーム径拡大部32、波長分散素子としての回折格子対33、振幅・位相調整部34、反射部としての全反射鏡35、から構成されている。回折格子対33は、Y方向と平行な溝が配列した回折格子33a、Y方向と平行な溝が配列した回折格子33b、から構成されている。なお、回折格子対33と、振幅・位相調整部34と、全反射鏡35と、で波長分散部を構成する。
【0011】
また、図1において、100はパルス生成装置10で生成された光パルス、101はパルス伸長装置20を通過後の光パルス、102はハーフミラー31を通過後の往路の光パルス、103はビーム径拡大部32を通過後の往路の光パルス、104は回折格子対33を通過後の往路の光パルス、105は振幅・位相調整部34を通過後の往路の光パルス、106は全反射鏡35による反射後の復路の光パルス、107は振幅・位相調整部34を通過後の復路の光パルス、108は回折格子対33を通過後の復路の光パルス、109はビーム径拡大部32を通過後の復路の光パルス、110はハーフミラー31による反射後の光パルス、の進行方向を示す矢印である。
【0012】
なお、ビーム径拡大部32として、図1に示すように、Y方向に曲率をもつシリンドリカルレンズを2枚組み合わせた構成を用いることができる。また、例えば、ビーム径拡大部32として、同一形状のプリズムを2つ組み合わせて構成した、アナモルフィックプリズムを用いることができる。
【0013】
また、ビーム径拡大部32として、光パルスをY方向に波長毎に空間的に分離する波長分散素子である回折格子対やプリズム対などを用いることができる。これにより、回折格子対33によって与えられる波長分散に加え、ビーム径拡大部32でも波長分散を与えることができるため、光パルスに与える波長分散量の調節の自由度を向上させることができるという効果を奏する。なお、回折格子対またはプリズム対は、2つの回折格子または2つのプリズムを対向させて配置したものである。
【0014】
また、ビーム径拡大部32としては、光パルス102のY方向のビーム径を拡大する機能をもつものであれば、どのような構成を用いても良い。
【0015】
また、この発明の実施の形態1では、波長分散素子として、回折格子対33を用いている。波長分散素子として回折格子対を用いることにより、回折格子の溝の密度、光パルスの回折格子への入射角、回折格子間距離の調整によって、2次の波長分散量を容易に調整できるという効果を奏する。
【0016】
また、波長分散素子としての回折格子対33の代わりにプリズム対を用いても良い。プリズム対は、Y方向に頂角としての稜が配置された三角柱状の2つのプリズムを対向させたものである。波長分散素子としてプリズム対を用いることにより、回折格子対を用いた場合よりも、光パルスの伝搬効率が高くなるという効果を奏する。また、プリズム対を用いることにより、回折格子対を用いた場合よりも、熱変形しにくいことから、パルス圧縮性能が劣化するエネルギー密度を大きくできるという効果を奏する。
【0017】
また、波長分散素子としては、光パルス103を波長毎に空間的に分離する機能をもつものであれば、どのような構成を用いても良い。
【0018】
また、この発明の実施の形態1では、復路の光パルス109を往路の光パルス102と分離してパルス圧縮装置30から出力させる手段として、ハーフミラー31を用いているが、復路の光パルス109を往路の光パルス102と分離してパルス圧縮装置30から出力させることができるものであれば、どのような手段を用いても良い。
【0019】
次に動作について説明する。図1において、パルス生成装置10で生成された光パルス100は、パルス伸張装置20によって、正の波長分散を与えられてパルス幅が伸張する。パルス伸長装置20を通過後の光パルス101は、パルス圧縮装置30に入力される。
【0020】
パルス圧縮装置30では、回折格子対33、振幅・位相調整部34、全反射鏡35からなる波長分散部において、光パルスを波長に応じて遅延させる(すなわち光パルスに波長に応じて光路差が与えられる)。これにより、光パルスに負の波長分散を与えてパルス幅を圧縮することで、高ピークパワーの超短パルス光が得られる。なお、このパルス圧縮装置30は、波長分散をもたない光パルスを入力することで、光パルスに負の波長分散を与えてパルス幅を拡げることができるため、パルス伸長装置としても機能させることができる。このように、パルス圧縮装置30は、パルス幅の圧縮または伸長、要するにパルス幅の変換を行う光パルス幅変換装置としての機能をもつ。
【0021】
さらにパルス圧縮装置30における動作について詳細に説明する。パルス圧縮装置30に入力され、ハーフミラー31を通過後の往路の光パルス102は、ビーム径拡大部32によって、X方向のビーム径を保ったまま、Y方向のビーム径が拡大される。ビーム径拡大部32を通過後の往路の光パルス103は、回折格子対33によって波長分散を与えられ、波長毎にX方向に空間的に分波される。回折格子対33を通過後の往路の光パルス104は、振幅・位相調整部34によって、空間毎に異なる振幅変化および/または位相変化を与えられる。振幅・位相調整部34を通過後の往路の光パルス105は、全反射鏡35によって反射される。
【0022】
全反射鏡35による反射後の復路の光パルス106は、再び、振幅・位相調整部34によって、空間毎に異なる振幅変化および/または位相変化を与えられる。振幅・位相調整部34を通過後の復路の光パルス107は、回折格子対33によって波長分散を与えられ、光パルスの全ての波長成分が同一の空間領域を通過するように合波される。回折格子対33を通過後の復路の光パルス108は、ビーム径拡大部32に、往路の光パルス102の入射方向と反対方向から入射し、X方向のビーム径を保ったまま、Y方向のビーム径が縮小されて、光パルス109になる。このとき、光パルス109は、光パルス102と同じビーム形状をもつ。光パルス109は、ハーフミラー31によって反射されて、光パルス110としてパルス圧縮装置30から出力される。
【0023】
ここで、回折格子対33において、回折格子間距離を変化させることで、パルス圧縮装置30で生じる2次の波長分散を任意に調整できる。パルス発生装置10と、パルス伸張装置20と、パルス圧縮装置30と、によって生じる2次の波長分散量の総和が0になるように、回折格子対33の回折格子間距離を適切に調整し、圧縮後の光パルス110が2次の波長分散をもたないようにして超短パルスを発生させる。このとき、3次以上の波長分散に対して、パルス発生装置10と、パルス伸張装置20と、パルス圧縮装置30と、によって生じる波長分散量の総和が0になっていないと、圧縮後の光パルスは3次以上の波長分散によるパルス幅の拡がりをもつ。フーリエ限界幅に近いパルス幅を持つ超短パルスを実現するためには、光パルスがパルス圧縮装置30を往復した後に3次以上の波長分散をもたないように、振幅・位相調整部34によって光パルスに対して波長毎に異なる振幅変化や位相変化を与える必要がある。
【0024】
図2は、この発明の実施の形態1によって光パルスのY方向のビーム径が拡大された場合の、ビーム径拡大部32を通過後の位置における光パルス103のビーム形状を示す図である。図2において、103はこの発明の実施の形態1によって光パルスのビーム径がY方向に拡大された場合のビーム形状である。なお、103aは光パルスが円形のまま拡大された場合のビーム形状であり、比較のために参考として示す。
【0025】
この発明の実施の形態1では、Y方向のビーム径を拡大することによって、光パルス103の照射面積が光パルス102よりも大きくなるため、回折格子対33のパルス圧縮性能の劣化を防ぐことができる。そして、光パルス104は、Y方向にのみビーム径が拡大され、かつX方向に空間的に分波されているため、振幅・位相調整部34で光パルスの波長成分間に空間的な重なりを生じさせることなく、光パルス104に対して波長毎に異なる振幅変化や位相変化を与えることができる。これにより、光パルス104のもつ3次以上の波長分散を補償でき、短パルス化が可能になるのである。
【0026】
例えば、パルス生成装置10で生じる光パルス100の中心波長が1041nm、半値全幅としての波長帯域幅が17nmであり、回折格子対33の回折格子33a、33bにおける溝の本数の密度が1500本/mmである場合に、光パルス103が回折格子32aに対して入射角60度で入射する場合を考える。このとき、回折格子の性能劣化の閾値を0.5J/cm2とすると、許容される光パルス103の垂直断面のエネルギー密度は最大で1J/cm2である。光パルスの持つエネルギーが4mJである場合、光パルスのビーム形状が円形の場合を考えると、ガウス関数の半値全幅に対応する光パルス103aのビーム径は1mmとなる。
【0027】
ここで、パルス伸張装置20を通過後にパルス幅が110psである場合、光パルス103の圧縮に最適な回折格子間距離は、垂直距離で151mmである。このとき、波長毎に空間的に分離された光パルス104には、波長帯域幅17nmに対してX方向に10mmのビーム位置のずれ、すなわち1nmあたりでは0.6mmのビーム位置のずれがある。円形ビームとしての光パルス103aのビーム径1mmが、波長分散による1nmあたりのビーム位置のずれ0.6mmよりも大きいため、1nm異なる波長成分が空間的に重なり、振幅・位相調整部34を用いて、光パルスに対して波長毎に異なる振幅変化や位相変化を与えることができなくなる。
【0028】
一方、この発明の実施の形態1に基づき、ビーム径拡大部32によって、例えば、光パルス102のY方向のビーム径を1cmに拡大し、X方向のビーム径を0.1mmのビーム形状にすると、光パルス103の照射面積は、ビーム径が1mmの円形ビームとしての光パルス103aと同じであるため、パルス圧縮装置のパルス圧縮性能の劣化を防ぐことができる。それと同時に、光パルス104、106のX方向のビーム径は0.1mmと小さいため、振幅・位相調整部34で1nm異なる波長成分間に空間的な重なりを生じさせることなく、光パルスに対して波長毎に異なる振幅変化や位相変化を与えることができるのである。
【0029】
以上のように、この発明の実施の形態1によるパルス圧縮装置としての光パルス幅変換装置においては、上述のように構成されているので、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビーム径を拡大することでビームを拡大できる。これにより、光パルスのパワーが大きくなった場合にも、パルス圧縮性能の劣化を防ぐことができ、かつ、光パルスに対して波長毎に異なる振幅変化や位相変化を与えることによって短パルス化を可能にするという効果を奏する。
【0030】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2による光パルス幅変換装置は、ビーム径拡大部を含むビーム拡大部において、入力した光パルスのビーム径をY方向(第1の方向)に拡大し、Y方向と平行な溝が配列した回折格子を含む回折格子対と振幅・位相調整部と180度折り返しプリズムとからなる波長分散部において、Y方向と垂直なX方向(第2の方向)に沿って波長に応じて空間的に光パルスを分散させるようにしたので、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビームを拡大できるようにすることができるものである。
【0031】
図3は、この発明の実施の形態2による光パルス幅変換装置を示す構成図である。図3(a)は上面図であり、紙面内の上方向を第2の方向としてのX方向、紙面に垂直な前方向を第1の方向としてのY方向、紙面内の右方向をZ方向とする。図3(b)は側面図であり、紙面に垂直な後方向をX方向、紙面内の上方向をY方向、紙面内の右方向をZ方向とする。なお、各図において、同一符号は同一または相当部分を示す。
【0032】
図3において、図1と同一または相当部分についての重複する説明は省略する。図3において、31aは全反射鏡、35aは反射部としての180度折り返しプリズム、32aはビーム径縮小部である。パルス圧縮装置30aは、図1に示したパルス圧縮装置30において、ハーフミラー31を全反射鏡31aに代え、全反射鏡35を180度折り返しプリズム35aに代え、ビーム径縮小部32aを追加した構成である。なお、回折格子対33と、振幅・位相調整部34と、180度折り返しプリズム35aと、で波長分散部を構成する。
【0033】
この発明の実施の形態2は、パルス圧縮装置30a内において、180度折り返しプリズム35aによって、光パルスを反射させる際に往路と復路の光パルスの位置をY方向にずらすことを特徴としている。全反射鏡31aは、パルス伸長装置20を通過後の光パルス101が全反射鏡31aによって反射され、ビーム径縮小部32aを通過後の復路の光パルス109が全反射鏡31aに入射されない位置に設置にする。
【0034】
なお、180度折り返しプリズム(180 degree folding prism)35aは、2つの垂直な反射面を有するプリズムである。また、180度折り返しプリズム35aの代わりに、全反射鏡2枚を組み合わせて構成されたルーフミラーなど、光パルスを反射させる際にビーム径をY方向にずらす機能をもつものであれば、どのような構成でも良い。
【0035】
また、ビーム径拡大部32、ビーム径縮小部32aとして、図3に示すように、Y方向に曲率を持つシリンドリカルレンズを2枚組み合わせた構成を用いることができる。また、例えば、ビーム径拡大部32、ビーム径縮小部32aとして、同一形状のプリズムを2つ組み合わせて構成した、アナモルフィックプリズムを用いることができる。
【0036】
また、ビーム径拡大部32、ビーム径縮小部32aとして、光パルスをY方向に波長毎に空間的に分波する波長分散素子である回折格子対やプリズム対などを用いることができる。これにより、光パルスが回折格子対33によって与えられる波長分散に加え、ビーム径拡大部32、ビーム径縮小部32aでも波長分散を与えることができるため、光パルスに与える波長分散量の調節の自由度を向上させることができるという効果を奏する。
【0037】
また、ビーム径拡大部32、ビーム径縮小部32aは、光パルスのY方向のビーム径を拡大し、縮小する機能をもつものであれば、どのような構成を用いても良い。
【0038】
また、この発明の実施の形態2では、波長分散素子として、回折格子対33を用いている。波長分散素子として回折格子対を用いることにより、回折格子の溝の密度、光パルスの回折格子への入射角、回折格子間距離の調整によって、2次の波長分散量を容易に調整できるという効果を奏する。
【0039】
また、この発明の実施の形態2では、波長分散素子として、回折格子対33の代わりにプリズム対を用いても良い。プリズム対は、Y方向に頂角としての稜が配置された三角柱状の2つのプリズムを対向させたものである。波長分散素子としてプリズム対を用いることにより、回折格子対を用いた場合よりも、光パルスの伝搬効率が高くなるという効果を奏する。また、プリズム対を用いることにより、回折格子対を用いた場合よりも、熱変形しにくいことから、パルス圧縮性能が劣化するエネルギー密度を大きくできるという効果を奏する。
【0040】
また、波長分散素子としては、光パルス103を波長毎に空間的に分離する機能をもつものであればどのような構成を用いても良い。
【0041】
また、この発明の実施の形態2では、パルス伸長装置20からの光パルス101をパルス圧縮装置30aに入力させる手段として、全反射鏡31aを用いているが、全反射鏡31aの代わりにハーフミラーを用いても良い。また、復路の光パルス109をパルス圧縮装置30aから出力させることを妨げることなく、往路の光パルス101をパルス圧縮装置30aに入力させることができれば、どのような手段を用いても良い。
【0042】
次にパルス圧縮装置30aにおける動作について詳細に説明する。図3において、パルス圧縮装置30aに入力された光パルス101は、全反射鏡31aによって往路の光パルス102として反射され、ビーム径拡大部32によって、X方向のビーム径を保ったまま、Y方向のビーム径が拡大される。ビーム径拡大部32を通過後の往路の光パルス103は、回折格子対33によって波長分散を与えられ、波長毎にX方向に空間的に分波される。回折格子対33を通過後の往路の光パルス104は、振幅・位相調整部34によって、空間毎に異なる振幅変化および/または位相変化を与えられる。振幅・位相調整部34を通過後の往路の光パルス105は、180度折り返しプリズム35aによって反射される。
【0043】
このとき、図4に示すように、180度折り返しプリズム35a内において、光パルス105は2つの垂直な反射面で2回反射され、光パルス106のビーム位置はY方向にずれる。このように、180度折り返しプリズム35aで反射された復路の光パルス106は、再び、振幅・位相調整部34によって、空間毎に異なる振幅変化および/または位相変化を与えられる。振幅・位相調整部34を通過後の復路の光パルス107は、回折格子対33によって波長分散を与えられ、光パルスの全ての波長成分が同一の空間領域を通過するように合波される。回折格子対33を通過後の復路の光パルス108は、ビーム径縮小部32aに入射し、X方向のビーム径を保ったまま、Y方向のビーム径が縮小されて、光パルス109になる。このとき、光パルス109は、光パルス102と同じビーム形状をもつ。光パルス109は、パルス圧縮装置30aから出力される。
【0044】
このように、この発明の実施の形態2では、パルス圧縮装置30a内において、往路と復路の光パルスのビーム位置をY方向に重ならないようにずらすことによって、回折格子対33に単位面積あたりに照射される光パルスの平均パワーを、実施の形態1の場合と比べて半分に減らすことができる。これにより、熱による回折格子33a、33bの歪みを軽減することができ、パルス圧縮性能の劣化を軽減できる。
【0045】
図5に、振幅・位相調整部34の位置でZ方向から見た往路の光パルス105と復路の光パルス106のビーム形状を示す。図5(a)は、図3に示すように、ビーム径拡大部32およびビーム径縮小部32aとして、Y方向に曲率を持つシリンドリカルレンズを2枚組み合わせた構成を用いた場合のものである。また、図5(b)は、ビーム径拡大部32およびビーム径縮小部32aとして、Y方向に波長毎に空間的に合分波する波長分散素子である回折格子対やプリズム対などを用いた場合のものである。
【0046】
図5において、ビーム径拡大部32でY方向にビーム径が拡大し、回折格子対33で波長毎にX方向に空間的に分波され、光パルスの異なる波長の波長成分が同じ空間領域を通ることがないため、振幅・位相調整部34において波長毎に異なる振幅変化や位相変化を与えることができる。そのため、光パルスの持つ3次以上の波長分散を補償でき、短パルス化を可能にする。さらに、図5において、往路の光パルス105と復路の光パルス106のビーム位置が重ならないため、例えば、振幅・位相調整部34において、往路の光パルスに振幅変調を与え、かつ復路の光パルスに位相変調を与えることなどで、振幅・位相調整の自由度を向上させることができるという効果を奏する。
【0047】
以上のように、この発明の実施の形態2によるパルス圧縮装置としての光パルス幅変換装置においては、上述のように構成されているので、実施の形態1と同様に、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビーム径を拡大することでビームを拡大できる。そして、往路と復路の光パルスのビーム位置をずらすことによって、光パルスの平均パワーが大きくなった場合にも、パルス圧縮性能の劣化をさらに軽減することができ、かつ、光パルスに対して波長毎に異なる振幅変化や位相変化を与えることによって短パルス化を可能にするという効果を奏する。
【0048】
また、この発明の実施の形態2では、往路と復路の光パルスのビーム位置をずらすことによって、実施の形態1のようにハーフミラー31によって往路と復路の光パルスを分離する必要がなくなるという効果を奏する。
【0049】
なお、上述のように、この発明の実施の形態2では、振幅・位相調整部34において、往路と復路の両方で光パルスに振幅・位相変調を与える場合を示したが、例えば、図6に示すように、振幅・位相調整部34を往路のみに配置する構成などにより、往路または復路の片方のみで光パルスに振幅変調および/または位相変調を与えるようにしても良い。
【0050】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3による光パルス幅変換装置は、ビーム分配部を含むビーム拡大部において、入力した光パルスを複数のビームに分配することでY方向(第1の方向)にビームを拡大し、Y方向と平行な溝が配列した回折格子を含む回折格子対と振幅・位相調整部と180度折り返しプリズムとからなる波長分散部において、Y方向に垂直なX方向(第2の方向)に沿って波長に応じて空間的に光パルスを分散させるようにしたので、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビームを拡大できるようにすることができるものである。
【0051】
図7は、この発明の実施の形態3による光パルス幅変換装置を示す構成図である。図7(a)は上面図であり、紙面内の上方向を第2の方向としてのX方向、紙面に垂直な前方向を第1の方向としてのY方向、紙面内の右方向をZ方向とする。図7(b)は側面図であり、紙面に垂直な後方向をX方向、紙面内の上方向をY方向、紙面内の右方向をZ方向とする。なお、各図において、同一符号は同一または相当部分を示す。
【0052】
図7において、図3と同一または相当部分についての重複する説明は省略する。図7において、32bはビーム拡大部としてのビーム分配部、32cはビーム結合部である。パルス圧縮装置30bは、図3に示したパルス圧縮装置30aにおいて、ビーム径拡大部32をビーム分配部32bに代え、ビーム径縮小部32aをビーム結合部32cに代えた構成である。
【0053】
なお、ビーム分配部32b、ビーム結合部32cとして、1つの光パルスの光強度をY方向に並んだ少なくとも2つの光パルスに分配し、また結合する光強度分配型ビーム分配装置を用いることができる。光強度分配型ビーム分配装置として、例えば、図7(a)と図7(b)に示すような配置で、少なくとも2枚のハーフミラーを組み合わせた構成を用いることができる。ビーム拡大部として、光強度分配型ビーム分配装置を用いることにより、光パルスの平均パワーが大きい場合に、シリンドリカルレンズやアナモルフィックプリズムを用いて光パルスを拡大する構成では波面収差が生じてしまうような場合にも、光パルスに波面収差を生じさせることなく光パルスを分配することでビームを拡大できるという効果を奏する。
【0054】
また、ビーム分配部32b、ビーム結合部32cとして、1つの光パルスを波長毎に分離して、Y方向に並んだ少なくとも2つの光パルスに分配し、また結合する波長分離型分配装置を用いることができる。波長分離型分配装置として、例えば、波長によって透過率の異なる特性をもつミラー(フィルタ)を、図7(a)と図7(b)に示すような配置で、少なくとも2枚組み合わせた構成を用いることができる。ビーム拡大部として、波長分離型ビーム分配装置を用いることにより、光強度分配型ビーム分配装置を用いた場合よりも、光パルスのパワーの損失を小さくできるという効果を奏する。
【0055】
また、ビーム分配部32b、ビーム結合部32cとして、1つの光パルスを偏光方向によって分離して、Y方向に並んだ少なくとも2つの光パルスに分配し、また結合する偏光分離型ビーム分配装置を用いることができる。偏光分離型ビーム分配装置として、例えば、1/4波長板と偏光子を組み合わせた構成を用いることができる。この構成では、例えば、直線偏光の光パルスを1/4波長板に入射させて円偏光の光パルスに変換し、その後、偏光子に入射させて偏光方向の異なる成分を分離することで、1つの光パルスを偏光方向の異なる2つの光パルスに分配することができる。ビーム拡大部として、偏光分離型ビーム分配装置を用いることにより、光強度分配型ビーム分配装置や波長分離型ビーム分配装置を用いた場合よりも、光パルスのパワーの損失を小さくできるという効果を奏する。
【0056】
また、ビーム分配部32b、ビーム結合部32cとしては、光パルス102をY方向に並んだ少なくとも2つの光パルスに分配し、また結合する機能を持つものであれば、どのような構成を用いても良い。
【0057】
次に動作について説明する。パルス圧縮装置30bにおける基本的な動作は、パルス圧縮装置30aと同様なので、重複する説明を省略し、ここでは、ビーム分配部32b、ビーム結合部32cに関する動作について説明する。図7において、光パルス102は、ビーム分配部32bによって、Y方向に並んだ3つのビームに分配される。また、3つのビームに分配された光パルス108は、ビーム結合部32cによって、光パルス109として1つのビームに結合される。このとき、3つに分配された光パルスの光路長をすべて等しくすることで、結合後の光パルス109を時間的に1つのピークを持つ短パルスにでき、Y方向に曲率を持つシリンドリカルレンズを2枚組み合わせた構成を用いた場合と同様の効果が得られる。また、3つに分配された光パルスの間に光路長に差をつけることで、結合後の光パルス109を任意の時間間隔をもつパルス列とすることも可能である。
【0058】
図8に、振幅・位相調整部34の位置でZ方向から見た往路の光パルス105と復路の光パルス106のビーム形状を示す。図8(a)は、図7に示すように、ビーム分配部32b、ビーム結合部32cとして、1つの光パルスの光強度をY方向に並んだ3つの光パルスに分配し、また結合する光強度分配型ビーム分配装置を用いた場合のものである。また、図8(b)は、ビーム分配部32b、ビーム結合部32cとして、1つの光パルスを波長毎に分離して、Y方向に並んだ3つの光パルスに分配し、また結合する波長分離型分配装置を用いた場合のものである。
【0059】
図8において、ビーム分配部32bでY方向にビームが分配されることで拡大し、回折格子対33で波長毎にX方向に空間的に分波され、光パルスの異なる波長の波長成分が同じ空間領域を通ることがないため、振幅・位相調整部34において波長毎に異なる振幅変化や位相変化を与えることができる。そのため、光パルスの持つ3次以上の波長分散を補償でき、短パルス化を可能にする。さらに、図8において、往路の光パルス105と復路の光パルス106のビーム位置が重ならないため、例えば、振幅・位相調整部34において、往路の光パルスに振幅変調を与え、かつ復路の光パルスに位相変調を与えることなどで、振幅・位相調整の自由度を向上させることができるという効果を奏する。
【0060】
以上のように、この発明の実施の形態3によるパルス圧縮装置としての光パルス幅変換装置においては、上述のように構成されているので、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビームを分配することでビームを拡大できる。そして、実施の形態2と同様に、往路と復路の光パルスのビーム位置をずらすことによって、光パルスの平均パワーが大きくなった場合にも、パルス圧縮性能の劣化をさらに軽減することができ、かつ、光パルスに対して波長毎に異なる振幅変化や位相変化を与えることによって短パルス化を可能にするという効果を奏する。
【0061】
また、この発明の実施の形態3では、往路と復路の光パルスのビーム位置をずらすことによって、実施の形態1のようにハーフミラー31によって往路と復路の光パルスを分離する必要がなくなるという効果を奏する。
【0062】
なお、上述のように、この発明の実施の形態3では、振幅・位相調整部34において、往路と復路の両方で光パルスに振幅・位相変調を与える場合を示したが、例えば、図6と同様に、振幅・位相調整部34を往路のみに配置する構成などにより、往路または復路の片方のみで光パルスに振幅変調および/または位相変調を与えるようにしても良い。
【0063】
実施の形態4.
この発明の実施の形態4による光パルス幅変換装置は、ビーム径拡大部を含むビーム拡大部において、入力した光パルスのビーム径をY方向(第1の方向)に拡大し、Y方向と平行な溝が配列した回折格子を含む回折格子対と振幅・位相調整部と第2の回折格子対とからなる波長分散部において、Y方向に垂直なX方向(第2の方向)に沿って波長に応じて空間的に光パルスを分散させるようにしたので、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビームを拡大できるようにすることができるものである。
【0064】
図9は、この発明の実施の形態4による光パルス幅変換装置を示す構成図である。図9(a)は上面図であり、紙面内の上方向を第2の方向としてのX方向、紙面に垂直な前方向を第1の方向としてのY方向、紙面内の右方向をZ方向とする。図9(b)は側面図であり、紙面に垂直な後方向をX方向、紙面内の上方向をY方向、紙面内の右方向をZ方向とする。なお、各図において、同一符号は同一または相当部分を示す。
【0065】
図9において、図1と同一または相当部分についての重複する説明は省略する。図9において、36は第2の波長分散素子としての回折格子対、32aはビーム径縮小部である。回折格子対36は、Y方向と平行な溝が配列した回折格子36a、Y方向と平行な溝が配列した回折格子36b、から構成されている。パルス圧縮装置30cは、図1に示したパルス圧縮装置30において、ハーフミラー31、全反射鏡35を取り除き、回折格子対36、ビーム径縮小部32aを追加した構成である。なお、回折格子対33と、振幅・位相調整部34と、回折格子対36と、で波長分散部を構成する。
【0066】
なお、ビーム径拡大部32、ビーム径縮小部32aとして、図9に示すように、Y方向に曲率を持つシリンドリカルレンズを2枚組み合わせた構成を用いることができる。また、例えば、ビーム径拡大部32、ビーム径縮小部32aとして、同一形状のプリズムを2つ組み合わせて構成した、アナモルフィックプリズムを用いることができる。
【0067】
また、ビーム径拡大部32、ビーム径縮小部32aとして、光パルスをY方向に波長毎に空間的に分波する波長分散素子である回折格子対やプリズム対などを用いることができる。これにより、光パルスが回折格子対33、36によって与えられる波長分散に加え、ビーム径拡大部32、ビーム径縮小部32aでも波長分散を与えることができるため、光パルスに与える波長分散量の調節の自由度を向上させることができるという効果を奏する。
【0068】
また、ビーム径拡大部32、ビーム径縮小部32aは、光パルス102のY方向のビーム径を拡大し、縮小する機能をもつものであれば、どのような構成を用いても良い。
【0069】
また、この発明の実施の形態4では、波長分散素子、第2の波長分散素子として、回折格子対32、36を用いている。波長分散素子、第2の波長分散素子として回折格子対を用いることにより、回折格子の溝の密度、光パルスの回折格子への入射角、回折格子間距離の調整によって、2次の波長分散量を容易に調整できるという効果を奏する。
【0070】
また、この発明の実施の形態4では、波長分散素子、第2の波長分散素子として、回折格子対32、36の代わりにプリズム対を用いても良い。プリズム対は、Y方向に頂角としての稜が配置された三角柱状の2つのプリズムを対向させたものである。波長分散素子、第2の波長分散素子としてプリズム対を用いることにより、回折格子対を用いた場合よりも、光パルスの伝搬効率が高くなるという効果を奏する。また、プリズム対を用いることにより、回折格子対を用いた場合よりも、熱変形しにくいことから、パルス圧縮性能が劣化するエネルギー密度を大きくできるという効果を奏する。
【0071】
また、波長分散素子、第2の波長分散素子としては、光パルス103を波長毎に空間的に分離し、光パルス105を合波する機能をもつものであればどのような構成を用いても良い。
【0072】
次にパルス圧縮装置30cにおける動作について詳細に説明する。図9において、パルス圧縮装置30cに入力された光パルス102は、ビーム径拡大部32によって、X方向のビーム径を保ったまま、Y方向のビーム径が拡大される。ビーム径拡大部32を通過後の光パルス103は、回折格子対33によって波長分散を与えられ、波長毎にX方向に空間的に分波される。回折格子対33を通過後の光パルス104は、振幅・位相調整部34によって、空間毎に異なる振幅変化および/または位相変化を与えられる。振幅・位相調整部34を通過後の光パルス105は、回折格子対36によって波長分散を与えられ、光パルスの全ての波長成分が同一の空間領域を通過するように合波される。回折格子対36を通過後の光パルス108は、ビーム径縮小部32aに入射し、X方向のビーム径を保ったまま、Y方向のビーム径が縮小されて、光パルス109になる。このとき、光パルス109は、光パルス102と同じビーム形状をもつ。光パルス109は、パルス圧縮装置30cから出力される。
【0073】
以上のように、この発明の実施の形態4によるパルス圧縮装置としての光パルス幅変換装置においては、上述のように構成されているので、実施の形態1と同様に、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビーム径を拡大することでビームを拡大できる。これにより、光パルスのパワーが大きくなった場合にも、パルス圧縮性能の劣化を防ぐことができ、かつ、光パルスに対して波長毎に異なる振幅変化や位相変化を与えることによって短パルス化を可能にするという効果を奏する。
【0074】
また、この発明の実施の形態4では、実施の形態1のようにハーフミラー31によって往路と復路の光パルスを分離する必要がないため、装置の設計が容易になるという効果を奏する。
【0075】
実施の形態5.
この発明の実施の形態5による光パルス幅変換装置は、ビーム分配部を含むビーム拡大部において、入力した光パルスを複数のビームに分配することでY方向(第1の方向)にビームを拡大し、Y方向と平行な溝が配列した回折格子を含む回折格子対と振幅・位相調整部と第2の回折格子対とからなる波長分散部において、Y方向に垂直なX方向(第2の方向)に沿って波長に応じて空間的に光パルスを分散させるようにしたので、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビームを拡大できるようにすることができるものである。
【0076】
図10は、この発明の実施の形態5による光パルス幅変換装置を示す構成図である。図10(a)は上面図であり、紙面内の上方向を第2の方向としてのX方向、紙面に垂直な前方向を第1の方向としてのY方向、紙面内の右方向をZ方向とする。図10(b)は側面図であり、紙面に垂直な後方向をX方向、紙面内の上方向をY方向、紙面内の右方向をZ方向とする。なお、各図において、同一符号は同一または相当部分を示す。
【0077】
図10において、図9と同一または相当部分についての重複する説明は省略する。図10において、32bはビーム拡大部としてのビーム分配部、32cはビーム結合部である。パルス圧縮装置30dは、図9に示したパルス圧縮装置30cにおいて、ビーム径拡大部32をビーム分配部32bに代え、ビーム径縮小部32aをビーム結合部32cに代えた構成である。
【0078】
なお、ビーム分配部32b、ビーム結合部32cとして、1つの光パルスの光強度をY方向に並んだ少なくとも2つの光パルスに分配し、また結合する光強度分配型ビーム分配装置を用いることができる。光強度分配型ビーム分配装置として、例えば、図10(a)と図10(b)に示すような配置で、少なくとも2枚のハーフミラーを組み合わせた構成を用いることができる。ビーム拡大部として、光強度分配型ビーム分配装置を用いることにより、光パルスの平均パワーが大きい場合に、シリンドリカルレンズやアナモルフィックプリズムを用いて光パルスを拡大する構成では波面収差が生じてしまうような場合にも、光パルスに波面収差を生じさせることなく光パルスを分配することでビームを拡大できるという効果を奏する。
【0079】
また、ビーム分配部32b、ビーム結合部32cとして、1つの光パルスを波長毎に分離して、Y方向に並んだ少なくとも2つの光パルスに分配し、また結合する波長分離型分配装置を用いることができる。波長分離型分配装置として、例えば、波長によって透過率の異なる特性をもつミラー(フィルタ)を、図10(a)と図10(b)に示すような配置で、少なくとも2枚組み合わせた構成を用いることができる。ビーム拡大部として、波長分離型ビーム分配装置を用いることにより、光強度分配型ビーム分配装置を用いた場合よりも、光パルスのパワーの損失を小さくできるという効果を奏する。
【0080】
また、ビーム分配部32b、ビーム結合部32cとして、1つの光パルスを偏光方向によって分離して、Y方向に並んだ少なくとも2つの光パルスに分配し、また結合する偏光分離型ビーム分配装置を用いることができる。偏光分離型ビーム分配装置として、例えば、1/4波長板と偏光子を組み合わせた構成を用いることができる。この構成では、例えば、直線偏光の光パルスを1/4波長板に入射させて円偏光の光パルスに変換し、その後、偏光子に入射させて偏光方向の異なる成分を分離することで、1つの光パルスを偏光方向の異なる2つの光パルスに分配することができる。ビーム拡大部として、偏光分離型ビーム分配装置を用いることにより、光強度分配型ビーム分配装置や波長分離型ビーム分配装置を用いた場合よりも、光パルスのパワーの損失を小さくできるという効果を奏する。
【0081】
また、ビーム分配部32b、ビーム結合部32cとしては、光パルスをY方向に並んだ少なくとも2つの光パルスに分配し、また結合する機能を持つものであれば、どのような構成を用いても良い。
【0082】
次に動作について説明する。パルス圧縮装置30dにおける基本的な動作は、パルス圧縮装置30cと同様なので、重複する説明を省略し、ここでは、ビーム分配部32b、ビーム結合部32cに関する動作について説明する。図10において、光パルス102は、ビーム分配部32bによって、Y方向に並んだ4つのビームに分配される。また、4つのビームに分配された光パルス108は、ビーム結合部32cによって、光パルス109として1つのビームに結合される。このとき、4つに分配された光パルスの光路長をすべて等しくすることで、結合後の光パルス109を時間的に1つのピークを持つ短パルスにでき、Y方向に曲率を持つシリンドリカルレンズを2枚組み合わせた構成を用いた場合と同様の効果が得られる。また、4つに分配された光パルスの間に光路長に差をつけることで、結合後の光パルス109を任意の時間間隔をもつパルス列とすることも可能である。
【0083】
以上のように、この発明の実施の形態5によるパルス圧縮装置としての光パルス幅変換装置においては、上述のように構成されているので、実施の形態3と同様に、波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビームを分配することでビームを拡大できる。これにより、光パルスのパワーが大きくなった場合にも、パルス圧縮性能の劣化を防ぐことができ、かつ、光パルスに対して波長毎に異なる振幅変化や位相変化を与えることによって短パルス化を可能にするという効果を奏する。
【0084】
また、この発明の実施の形態5では、実施の形態4と同様に、実施の形態1のようにハーフミラー31によって往路と復路の光パルスを分離する必要がないため、装置の設計が容易になるという効果を奏する。
【0085】
なお、上述のように、この発明の実施の形態1〜5では、光パルスのビームを拡大する第1の方向をY方向に設定し、波長に応じて空間的に光パルスを分散させる第2の方向をX方向に設定して、第1の方向が第2の方向と垂直な場合を示したが、第1の方向と第2の方向との角度は、これに限られるものではない。波長分散による光パルスの波長成分間の空間的な重なりを抑えつつ光パルスのビームを拡大できるようにするという効果は、第1の方向が第2の方向と垂直な場合に最適となるものの、第1の方向が第2の方向と異なる方向であれば、円形ビームの場合に対して同様の効果を奏するのである。
【0086】
また、上述のように、この発明の実施の形態1〜5では、ビーム拡大部がビーム径拡大部またはビーム分配部のいずれか1つを含む場合を示したが、ビーム拡大部がビーム径拡大部とビーム分配部の両方を含むようにしても良い。これは、例えば、実施の形態3では、図7において、全反射鏡31aとビーム分配部32bとの間に、ビーム径拡大部32を追加することで実現可能である。
【0087】
また、上述のように、この発明の実施の形態1〜5では、パルス圧縮装置として機能させる場合を示したが、波長分散をもたない光パルスを入力することで、光パルスに負の波長分散を与えてパルス幅を拡げることができるため、パルス伸長装置としても機能させることができる。このように、この発明に係る光パルス幅変換装置は、光パルスのパルス幅の圧縮または伸長、要するにパルス幅の変換を行う機能をもつのである。
【0088】
また、上述のように、この発明に係る光パルス幅変換装置は、超短光パルス発生装置への適用に有用であるが、用途はこれに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】この発明の実施の形態1による光パルス幅変換装置を用いた超短光パルス発生装置を示す構成図
【図2】この発明の実施の形態1による光パルス幅変換装置を説明するための説明図
【図3】この発明の実施の形態2による光パルス幅変換装置を示す構成図
【図4】この発明の実施の形態2による光パルス幅変換装置を説明するための説明図
【図5】この発明の実施の形態2による光パルス幅変換装置を説明するための説明図
【図6】この発明の実施の形態2による光パルス幅変換装置を示す構成図
【図7】この発明の実施の形態3による光パルス幅変換装置を示す構成図
【図8】この発明の実施の形態3による光パルス幅変換装置を説明するための説明図
【図9】この発明の実施の形態4による光パルス幅変換装置を示す構成図
【図10】この発明の実施の形態5による光パルス幅変換装置を示す構成図
【符号の説明】
【0090】
30、30a、30b、30c、30d パルス圧縮装置
32 ビーム径拡大部
32b ビーム分配部
33、36 回折格子対
33a、33b、36a、36b 回折格子
34 振幅・位相調整部
35 全反射鏡
35a 180度折り返しプリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した光パルスのビームを第1の方向で第2の方向より大きくなるように拡大するビーム拡大部と、
前記ビーム拡大部からの光パルスを波長に応じて第2の方向に沿って遅延させる波長分散部と、
を備えたことを特徴とする光パルス幅変換装置。
【請求項2】
第1の方向は、第2の方向と垂直なことを特徴とする請求項1に記載の光パルス幅変換装置。
【請求項3】
前記ビーム拡大部は、入力した光パルスのビーム径を第1の方向で第2の方向より大きくなるように拡大するビーム径拡大部を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光パルス幅変換装置。
【請求項4】
前記ビーム径拡大部は、レンズ、プリズム、または回折格子を含むことを特徴とする請求項3に記載の光パルス幅変換装置。
【請求項5】
前記ビーム拡大部は、入力した光パルスを第1の方向に空間的に分配するビーム分配部を含むことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の光パルス幅変換装置。
【請求項6】
前記ビーム分配部は、ハーフミラー、フィルタ、または偏光子を含むことを特徴とする請求項5に記載の光パルス幅変換装置。
【請求項7】
前記波長分散部は、前記ビーム拡大部からの光パルスを波長に応じて第2の方向に空間的に分波する波長分散素子と、この分波した空間毎に光パルスの振幅および/または位相を調整する振幅・位相調整部と、含むことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の光パルス幅変換装置。
【請求項8】
前記波長分散素子は、第2の方向と垂直な溝が配列された回折格子、または、第2の方向と垂直方向に頂角としての稜が配置された三角柱状のプリズムで構成されることを特徴とする請求項7に記載の光パルス幅変換装置。
【請求項9】
前記波長分散部は、前記振幅・位相調整部で振幅および/または位相が調整された光パルスを反射する反射部と、を含むとともに、前記波長分散素子は、前記反射部で反射されて戻った光パルスを合波することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の光パルス幅変換装置。
【請求項10】
前記反射部は、前記波長分散素子内の分波時と合波時のビーム位置をずらして光パルスを戻すことを特徴とする請求項9に記載の光パルス幅変換装置。
【請求項11】
前記波長分散部は、前記振幅・位相調整部で振幅および/または位相が調整された光パルスを合波する第2の波長分散素子と、を含むことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の光パルス幅変換装置。
【請求項12】
入力した光パルスのビームを第1の方向で第2の方向より大きくなるように拡大するビーム拡大ステップと、
前記ビーム拡大ステップによる光パルスを波長に応じて第2の方向に沿って遅延させる波長分散ステップと、
を備えたことを特徴とする光パルス幅変換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−334225(P2007−334225A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168785(P2006−168785)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】