光パルス試験器
【課題】光パルス試験器において、多心光ファイバの支障移転工事における工事後の損失値の合否判定作業の利便性を高める。
【解決手段】多心光ファイバの被測定心線に光パルスを入射し、入射端に戻ってくる光を時間領域で測定する測定処理部と、操作受付部と、表示部と、ある心線について、表示部に測定波形を表示させ、操作受付部を介して、損失値を測定するためのマーカ位置の指定を受け付けると、他の心線についても指定を受け付けたマーカ位置において損失値を測定する測定制御部と、を備えた光パルス試験器。
【解決手段】多心光ファイバの被測定心線に光パルスを入射し、入射端に戻ってくる光を時間領域で測定する測定処理部と、操作受付部と、表示部と、ある心線について、表示部に測定波形を表示させ、操作受付部を介して、損失値を測定するためのマーカ位置の指定を受け付けると、他の心線についても指定を受け付けたマーカ位置において損失値を測定する測定制御部と、を備えた光パルス試験器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パルス試験器に関し、特に、多心の光ファイバケーブルの支障移転工事における工事後の損失値合否判定作業の利便性を高める光パルス試験器に関する。
【背景技術】
【0002】
光信号によってデータ通信等を行なう光通信システムでは、光ファイバが光信号を伝送する媒体として用いられている。光ファイバの敷設、支障移転、保守等においては、光ファイバの長さ、接続箇所の損失、反射等を評価する必要があるが、そのための測定器として光パルス試験器(OTDR:Optical Time Domain Reflectometer)が使用される。光パルス試験器は、被測定光ファイバに光パルスを入射し、入射端に戻ってくる光を時間領域で測定し、表示・解析等を行なう装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−249471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、局間を結ぶ光ファイバは、多心の光ファイバケーブルが用いられている。例えば、図10(a)に示す多心の光ファイバ200cの各心線を切断し、図10(b)に示すように接続点aと接続点bとで、新たに敷設された光ファイバ200dの各心線を接続する支障移転工事を行なう場合を考える。
【0005】
この場合、接続点における損失値が各心線について一定範囲に収まることを確認する必要がある。このため、光パルス試験器が用いられ、図10(c)に示すように、各心線の接続箇所について工事後の損失を測定して工事の合否を心線毎に判定している。
【0006】
従来、損失測定による合否判定は、測定波形を表示させ、損失を測定する位置をマーカで指定することにより損失値を測定し、その値に基づいてユーザが判断しており、この作業を心線毎に行なっていた。
【0007】
このように、多心の光ファイバケーブルの支障移転工事の合否判定では、心線毎に個別にマーカを設定する必要があるため、処理に時間を要し、また、損失値に基づいてユーザが合否を判断していたため、判定結果にもバラツキが生じたり、判定ミスが生じる場合があった。
【0008】
支障移転工事は、使用中の既存ケーブルに対して経路変更を行なうため、データ通信等が不通となる工事を長時間行なうことは避ける必要がある。このため、光パルス試験器を用いた損失値の合否判定もできるだけ迅速に行なえ、さらに、判定結果の精度を高めるために、合否判定作業の利便性を高めることが望ましい。
【0009】
そこで、本発明は、光パルス試験器において、多心光ファイバの支障移転工事における工事後の損失値の合否判定作業の利便性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の光パルス試験器は、多心光ファイバの被測定心線に光パルスを入射し、入射端に戻ってくる光を時間領域で測定する測定処理部と、操作受付部と、表示部と、ある心線について、前記表示部に測定波形を表示させ、前記操作受付部を介して、損失値を測定するためのマーカ位置の指定を受け付けると、他の心線についても前記指定を受け付けたマーカ位置において損失値を測定する測定制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで、前記測定制御部は、前記マーカ位置の指定に加え、損失値の閾値に関する指定を受け付け、前記マーカ位置において測定した損失値と前記閾値とに基づいて心線毎に合否判定を行なうことができる。
【0012】
また、前記表示部は、前記多心光ファイバの心線の識別子を一覧表示し、前記測定制御部は、測定済の心線に対応する識別子に測定済を示すマークを付して前記表示部に表示させることができる。
【0013】
あるいは、前記表示部は、前記多心光ファイバの心線の識別子を一覧表示し、前記測定制御部は、測定済の心線に対応する識別子に測定済を示すマークおよび合否判定結果を付して前記表示部に表示させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光パルス試験器において、多心光ファイバの支障移転工事における工事後の損失値の合否判定作業の利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る光パルス試験器の構成を示すブロック図である。
【図2】操作受付部と表示部の外観例を示す図である。
【図3】基本的な支障移転工事について説明する図である。
【図4】光ファイバの支障移転工事に使用する場合の光パルス試験器の基本的な動作について説明するフローチャートである。
【図5】工事前の測定波形と、工事後の測定データの最新波形とを同一画面に表示した画面例を示す図である。
【図6】スプリッタ下部の支障移転工事について説明する図である。
【図7】スプリッタ下部の支障移転工事に使用する場合の光パルス試験器の動作について説明するフローチャートである。
【図8】スプリッタ下部の支障移転工事における工事前の測定波形と、工事後の測定データの最新波形とを同一画面に表示した画面例を示す図である。
【図9】差分波形Dを工事前の波形および工事後の波形に重ねて表示した画面例を示す図である。
【図10】多心の光ファイバの支障移転工事について説明する図である。
【図11】損失値を利用した測定波形の合否判定に使用する場合の光パルス試験器の動作について説明するフローチャートである。
【図12】合否判定マーカについて説明する図である。
【図13】合否判定結果を示す画面例を示す図である。
【図14】心線の一覧に合否判定結果を示した画面例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る光パルス試験器の構成を示すブロック図である。本図に示すように、光パルス試験器100は、測定対象の光ファイバ200に光パルスを入射し、入射端に戻ってくる光を時間領域で測定し、表示・解析等を行なう装置であり、測定処理部110、コネクタ115、測定制御部120、操作受付部130、表示部140、記憶部150を備えている。本実施形態において、光ファイバ200は、多数の心線を含んだ多心光ファイバであるものとし、測定対象となる心線をコネクタ115に接続して測定を行なうものとする。もちろん、試験対象の光ファイバ200は、単心であってもよい。
【0017】
測定処理部110は、発光部111、光カプラ112、受光部113、信号処理部114を備えている。発光部111は、レーザダイオード等により構成することができ、信号処理部114により生成されたパルス信号により、所定間隔で発光し、光パルスを生成する。
【0018】
光カプラ112は、発光部111の発光による光パルスを、コネクタ115を介して測定対象の光ファイバ200に入射するとともに、光ファイバ200からの戻り光を、コネクタ115を介して入射し、受光部113に導く。光ファイバ200からの戻り光には、光ファイバ200内部のレイリー散乱による後方散乱光と、接続点で発生するフレネル反射光とが含まれている。
【0019】
受光部113は、光電素子等により構成することができ、戻り光を電気信号に変換する。信号処理部114は、発光部111に供給するパルスを生成するとともに、受光部113が変換した電気信号をパルスと同期したタイミングでサンプリングする。光ファイバ200からの戻り光は微弱であるため、信号処理部114によるサンプリングは、多数の光パルスについて繰り返し行なわれ、測定制御部120において平均化される。
【0020】
測定制御部120は、操作受付部130、表示部140を介したユーザインタフェースを提供するとともに、光パルス試験器100における測定動作や解析動作の制御を行なう。測定制御部120の具体的な動作については後述する。
【0021】
操作受付部130は、ボタン、スイッチ、ダイヤルノブ、タッチパネル等により構成することができ、ユーザから光パルス試験に関する各種操作を受け付ける。表示部140は、液晶表示パネル等により構成することができ、測定制御部120の制御により測定波形や操作メニュー等の表示を行なう。記憶部150は、ハードディスク装置や半導体記憶装置等により構成することができ、測定制御部120の制御により測定データ等を記録する。
【0022】
図2は、操作受付部130と表示部140の外観例を示す図である。本実施形態において、操作受付部130は、電源スイッチ131、ロータリノブ132、スケールキー133、方向・エンターキー134、セットアップ(SETUP)キー135、リアルタイム測定(REAL TIME)キー136、平均化測定(AVE)キー137、ファンクションキー138を備えている。
【0023】
本実施形態において、ファンクションキー138の操作内容については、表示部140の対応する位置に表示するようにしているが、表示部140をタッチパネルで構成し、画面上で指示できるようにしてもよい。
【0024】
また、表示部140の画面上には、多心の光ファイバ200に対応して心線を識別するための識別子の一覧が表示される。ユーザは、測定対象の心線に対応した識別子を選択することで、測定結果と心線とを対応付けることができる。この一覧では、測定が終了したことを示すチェックマークが心線の識別子に表示されるようになっている。
<第1動作例>
【0025】
上記構成の光パルス試験器100の動作について説明する。まず、光パルス試験器100を光ファイバ200の支障移転工事に使用する場合の基本的な動作について説明する。ここでは、図3に示すように、敷設済の光ファイバ200aの経路を変更する必要が生じ、A地点およびB地点で光ファイバ200aを切断し、新たな経路に敷設した光ファイバ200bを融着接続する工事を行なうものとする。なお、図3(a)は工事前の光ファイバ経路を示し、図3(b)は工事後の光ファイバ経路を示している。この場合、工事後の経路が、工事前の経路と同等の特性が得られることを確認する必要がある。このために光パルス試験器100が用いられ、工事前、工事後の特性をそれぞれ測定する。
【0026】
図4は、光ファイバの支障移転工事に使用する場合の光パルス試験器の基本的な動作について説明するフローチャートである。まず、工事前の測定を行なうために、ユーザから工事前測定指示を受け付ける(S101)。工事前測定指示は、例えば、図2に示したファンクションキー138のうち「工事前」という表示に対応した「F1」により受け付けることができる。このように、本実施形態の光パルス試験器100では、工事前の測定を行なうことを明示的に受け付けることができるようにしており、ユーザが直感的で簡易に操作できるようになっている。
【0027】
そして、ユーザから測定開始指示を受け付ける(S102)。なお、測定開始前に、レンジ、平均化回数等の測定条件の設定を受け付けるようにしてもよい。測定開始指示は、例えば、図2に示したリアルタイム測定(REAL TIME)キー136、平均化測定(AVE)キー137により受け付けることができる。すなわち、ユーザは、測定結果の平均値が逐次更新されるリアルタイム測定と、設定された平均化回数分の測定を行なって測定結果を出力する平均化測定のいずれかを選択することができる。
【0028】
測定開始指示を受け付けると、光パルス試験器100は、測定を実行し、測定データの平均化処理(S103)を、測定が終了するまで繰り返す(S104)。ここで、測定の終了は、例えば、リアルタイム測定の場合、リアルタイム測定(REAL TIME)キー136が再度押下されたとき、平均化測定の場合、設定された平均化回数を繰り返したとき等とすることができる。
【0029】
工事前の測定を終了する(S104:Yes)と、工事前の測定データのファイルを記憶部150に保存する(S105)。このとき、測定対象の心線を識別するための情報をファイルに付加しておく。ファイル名に識別子を含めるようにしてもよい。ファイルの保存は、測定終了をトリガとして自動的に行なうものとする。このため、ユーザはファイル保存のための操作を別途行なう必要がなく、操作が簡易化される。
【0030】
そして、工事担当者が、光ファイバ200aの切替箇所で心線を切断し、新たな経路に敷設された光ファイバ200bの心線を融着接続する心線切替工事を行なう。心線切断後に、光パルス試験器100を用いて、切断を確認するようにしてもよい。
【0031】
心線切替工事が終了すると、工事後の測定を行なうために、ユーザから工事後測定指示を受け付ける(S106)。工事前測定指示は、例えば、図2に示したファンクションキー138のうち「工事後」という表示に対応した「F2」により受け付けることができる。このように、本実施形態の光パルス試験器100では、工事後の測定を行なうことを明示的に受け付けることができるようにしており、ユーザが直感的で簡易に操作できるようになっている。
【0032】
そして、ユーザから測定開始指示を受け付ける(S107)。測定開始指示は、工事前の測定開始指示と同様の方法により受け付けることができる。このときの測定条件、測定方法等は、工事前の測定と同じにしておく。
【0033】
工事後の測定では、測定開始指示を受け付けると、光パルス試験器100は、工事前の測定データファイルを読み出して、その波形を表示部140に参照用として表示する(S108)。このため、ユーザは、工事後の測定時に工事前の測定データを確認することができる。
【0034】
そして、測定を実行し、測定データの平均化処理を行ない(S109)、工事後の測定データの最新波形を、工事前の測定波形と同一画面に表示する(S110)。
【0035】
図5は、工事前の測定波形と、工事後の測定データの最新波形とを同一画面に表示した画面例を示している。このように、本実施形態の光パルス試験器100では、工事後の測定波形と、工事前の測定波形との比較を、工事後の測定実行と同時に行なうことができ、工事後の特性の変化を容易に確認することができる。このため、工事後の測定の終了後に、工事前の測定データファイルを呼び出して比較する必要がなくなり、作業時間を大幅に短縮することができる。
【0036】
工事後の測定データの平均化(S109)と工事後の測定データの最新波形の表示(S110)は、測定が終了するまで繰り返す(S111)。ある程度の平均化回数で工事結果を確認できれば、ユーザは測定を中止することができる。これにより、工事時間を一層短縮することができる。
【0037】
工事後の測定を終了すると(S111:Yes)、工事後の測定データのファイルを記憶部150に保存する(S112)。このとき、測定対象の心線を識別するための情報を付加しておく。ファイルの保存は、測定終了をトリガとして自動的に行なうものとする。その後、図2に示した光ファイバの心線識別子の一覧を表示したメイン画面に自動的に戻ることで、次の心線の測定に迅速に移行することができる。このとき、測定済の心線の識別子に測定済を示すチェックマークを重ねて表示する。また、測定済の心線の識別子がフォーカスされた場合には、例えば、右下領域に、工事前後の測定波形を表示するようにしている。
【0038】
このように、本実施形態の光パルス試験器100は、支障移転工事の作業フローに特化した処理を行なえるようになっており、実際の作業に即した画面情報と操作感を自動で作業者に提供できる。このため、作業者の手順の煩雑さを解消することができる。
<第2動作例>
【0039】
次に、光パルス試験器100をスプリッタ下部の支障移転工事に使用する場合の動作について説明する。ここでは、図6(a)に示すように、スプリッタ300の下部がA接続点、B接続点、C接続点の3つに分岐している場合に、図6(b)に示すようにA接続点までの経路を変更する工事を行なうものとする。
【0040】
このとき、図6(a)および図6(b)の右側に示すように、B接続点、C接続点からのフレネル反射の位置は工事前後で変化せずに、A接続点からのフレネル反射の位置のみが変化することを確認する必要がある。このため、光パルス試験器100が用いられ、工事前、工事後の特性をそれぞれ測定する。
【0041】
図7は、スプリッタ下部の支障移転工事に使用する場合の光パルス試験器100の動作について説明するフローチャートである。基本的な動作は第1動作例と同様であり、第1動作例と同じ動作については説明を簡略化する。
【0042】
まず、工事前の測定を行なうために、ユーザから工事前測定指示を受け付ける(S201)。そして、ユーザから測定開始指示を受け付ける(S202)。
【0043】
測定開始指示を受け付けると、光パルス試験器100は、測定を実行し、測定データの平均化処理(S203)を、測定が終了するまで繰り返す(S204)。工事前の測定を終了する(S204:Yes)と、工事前の測定データのファイルを記憶部150に保存する(S205)。
【0044】
そして、工事担当者が、スプリッタ300下部のA接続点までの経路の切替箇所で心線を切断し、新たな経路に敷設された心線を融着接続する心線切替工事を行なう。心線切断後に、光パルス試験器100を用いて、切断を確認するようにしてもよい。
【0045】
心線切替工事が終了すると、工事後の測定を行なうために、ユーザから工事後測定指示を受け付ける(S206)。次いで、ユーザから測定開始指示を受け付ける(S207)。
【0046】
工事後の測定では、測定開始指示を受け付けると、光パルス試験器100は、工事前の測定データファイルを読み出して、その波形を表示部140に参照用として表示する(S208)。そして、測定を実行し、測定データの平均化処理を行ない(S209)、工事後の測定データの最新波形を、工事前の測定波形と同一画面に表示する(S210)。
【0047】
図8は、工事前の測定波形と、工事後の測定データの最新波形とを同一画面に表示した画面例を示している。本画面で、ユーザは工事前後波形の差分波形の表示を指示することができる。差分波形の表示は、例えば、ファンクションキー138のうち「差分波形OFF ON」という表示に対応した「F3」により受け付けることができる。
【0048】
光パルス試験器100は、差分波形表示の指示があった場合には(S211:Yes)、工事前の波形と工事後の波形との差分波形を、工事前の波形および工事後の波形に重ねて表示する(S212)。このとき、3つの波形の横軸を揃えるようにする。
【0049】
図9は、差分波形Dを工事前の波形および工事後の波形に重ねて表示した画面例を示している。差分波形では、工事前後の波形変化分が抽出されるため、スプリッタ300下部の支障移転工事によるフレネル反射の移動箇所を容易に確認することができるようになる。本図の例では、D1は、A接続点の工事前のフレネル反射位置を示し、D2は、A接続点の工事後のフレネル反射位置を示している。他の箇所は工事前後で変化しないため、差分が生じていない。
【0050】
工事後の測定データの平均化(S109)と工事後の測定データの最新波形の表示(S110)および表示指示された場合の差分波形表示(S212)は、測定が終了するまで繰り返す(S213)。
【0051】
工事後の測定を終了すると(S213:Yes)、工事後の測定データのファイルを記憶部150に保存する(S214)。このとき、測定対象の心線を識別するための情報を付加しておく。ファイルの保存は、測定終了をトリガとして自動的に行なうものとする。
【0052】
このように、本実施形態の光パルス試験器100は、工事前波形と工事後波形の差分波形を工事後の測定時に表示することができるため、スプリッタ下部の支障移転工事前後の波形特性の比較を容易に、迅速に行なうことができる。
<第3動作例>
【0053】
次に、光パルス試験器100を、損失値を利用した測定波形の合否判定に使用する場合の動作について説明する。ここでは、図10(a)に示す多心の光ファイバ200cの各心線を切断し、図10(b)に示すように接続点aと接続点bとで、新たに敷設された光ファイバ200dの各心線を接続する工事を行なうものとする。
【0054】
この場合、接続点における損失値が各心線について一定範囲に収まることを確認する必要がある。このため、光パルス試験器100が用いられ、図10(c)に示すように、各心線の接続箇所について工事後の損失を測定する。光ファイバ200cの各心線は同じ箇所で切断、接続しているため、各心線について基本的に同じ箇所で損失が生じる。
【0055】
図11は、損失値を利用した測定波形の合否判定に使用する場合の光パルス試験器100の動作について説明するフローチャートである。ここでは、工事後の測定に着目して説明する。
【0056】
まず、測定対象の心線を特定する(S301)。測定対象の心線の特定は、測定対象とする心線の識別子を図2に示した画面上で選択することにより行なうことができる。この操作は、例えば、方向・エンターキー134を用いて行なうことができる。
【0057】
そして、ユーザから測定開始の指示を受け付けると(S302)、工事前の測定波形を参照用に表示する(S303)。そして、工事後の測定を実行して、平均化処理を行ない(S304)、工事後の測定波形を表示する(S305)。
【0058】
本実施形態では、多心の光ファイバの支障移転工事における損失を簡易に確認できるように、合否判定マーカを用いることができる。合否判定マーカは、すべての心線について適用されるマーカであり、マーカ位置と、損失評価方法と、合否判定の閾値について設定することができる。合否判定マーカを用いることにより、各心線ついて一斉に共通のマーカを設定することができるため、各心線の損失を確認するために、心線毎に個別にマーカを設定する必要がなくなる。ここで、従来のマーカは、接続損失等のイベントが生じている位置に設定することで、その位置における損失値・減衰量等を算出するツールである。
【0059】
ユーザから合否判定マーカ設定の指示を受け付けると(S306:Yes)、光パルス試験器100は、合否判定マーカの設定を受け付ける処理に移行する(S307)。合否判定マーカの設定の指示は、例えば、図2に示したファンクションキー138のうち「合否判定マーカ」という表示に対応した「F4」により受け付けることができる。
【0060】
合否判定マーカは、例えば、図12に示すように、工事前、工事後の波形を表示する画面上で設定することができる。ユーザは、損失の評価として波形上の2点を指定する2点法と、4点を指定する4点法等を選択することができる。もちろん、他の方法を選択できるようにしてもよい。
【0061】
ユーザは、2点法を選択した場合、例えば、ロータリノブ132を操作して、画面に表示されるカーソルを移動させることで、損失を確認する2点を設定する。2点は、画面上で損失が生じているイベント箇所とする。この2点の位置は、ある心線について設定されると、すべての心線について共通に適用される。多心の光ファイバの支障移転工事では、接続損失が発生する箇所は同一であるため、ある心線について損失位置を設定すると、他の心線についてもその位置を適用することができる。なお、工事箇所の位置が特定できれば、合否判定マーカの設定は、対象心線の特定前や工事後の測定前に行なうようにしてもよい。
【0062】
また、ユーザは、損失値の合否判定に用いる閾値を設定することができる。すなわち、合否判定マーカで設定された箇所の損失値が閾値以内であれば、その心線は合格であると判定される。合否判定マーカで設定された閾値についても、すべての心線について共通に適用される。
【0063】
工事後の測定において、合否判定マーカが設定済みであれば(S308:Yes)、合否判定マーカで得られる損失値と設定された閾値とを比較することにより合否判定を行なう(S309)。合否判定は、工事後の測定実行中において、逐次行ない、判定結果を表示する(S310)。図13は、合否判定結果を示す画面例を示している。本図の例では、合否判定マーカの位置を(1)(2)で示し、右上に合否判定の結果を表示している。合否判定の結果は、平均化毎に更新される。合否判定結果が変化した場合に、ブザー等を鳴らすことにより、ユーザに注意を喚起させるようにしてもよい。
【0064】
本実施形態の合否判定は、ユーザの目視ではなく、損失値と閾値とに基づいて行なわれるため、バラツキや判定ミスのない安定した判定を行なうことができる。
【0065】
以上の処理を測定が終了まで繰り返す(S311)。なお、ユーザは、ある程度の平均化回数で合格を確認すると、その心線についての工事後の測定を終了させ、別の心線についての測定を行なうことができる。これにより、測定時間を短縮することができる。
【0066】
ある心線について測定が終了すると(S311:Yes)、測定データをファイルとして保存するとともに、判定結果を記録する(S312)。判定結果は、図14に示すように、心線の一覧表示に重ねて表示する。本図の例では、合格した心線については、測定が終了したことを示すチェックマークに○を重ねて表示し、不合格の心線については、測定が終了したことを示すチェックマークに「!」を重ねて表示するようにしている。これにより、ユーザは、心線の測定結果を容易に確認することができる。
【0067】
他に測定対象の心線がある場合(S313:Yes)には、対象心線を特定する処理(S301)に戻って、以降の処理を繰り返す。他に測定対象の心線がない場合(S313:No)には、本処理を終了する。
【符号の説明】
【0068】
100…光パルス試験器、110…測定処理部、111…発光部、112…光カプラ、113…受光部、114…信号処理部、115…コネクタ、120…測定制御部、130…操作受付部、131…電源スイッチ、132…ロータリノブ、133…スケールキー、134…方向・エンターキー、135…SETUPキー、136…リアルタイム測定キー、137…平均化測定キー、138…ファンクションキー、140…表示部、150…記憶部、200…光ファイバ、300…スプリッタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パルス試験器に関し、特に、多心の光ファイバケーブルの支障移転工事における工事後の損失値合否判定作業の利便性を高める光パルス試験器に関する。
【背景技術】
【0002】
光信号によってデータ通信等を行なう光通信システムでは、光ファイバが光信号を伝送する媒体として用いられている。光ファイバの敷設、支障移転、保守等においては、光ファイバの長さ、接続箇所の損失、反射等を評価する必要があるが、そのための測定器として光パルス試験器(OTDR:Optical Time Domain Reflectometer)が使用される。光パルス試験器は、被測定光ファイバに光パルスを入射し、入射端に戻ってくる光を時間領域で測定し、表示・解析等を行なう装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−249471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、局間を結ぶ光ファイバは、多心の光ファイバケーブルが用いられている。例えば、図10(a)に示す多心の光ファイバ200cの各心線を切断し、図10(b)に示すように接続点aと接続点bとで、新たに敷設された光ファイバ200dの各心線を接続する支障移転工事を行なう場合を考える。
【0005】
この場合、接続点における損失値が各心線について一定範囲に収まることを確認する必要がある。このため、光パルス試験器が用いられ、図10(c)に示すように、各心線の接続箇所について工事後の損失を測定して工事の合否を心線毎に判定している。
【0006】
従来、損失測定による合否判定は、測定波形を表示させ、損失を測定する位置をマーカで指定することにより損失値を測定し、その値に基づいてユーザが判断しており、この作業を心線毎に行なっていた。
【0007】
このように、多心の光ファイバケーブルの支障移転工事の合否判定では、心線毎に個別にマーカを設定する必要があるため、処理に時間を要し、また、損失値に基づいてユーザが合否を判断していたため、判定結果にもバラツキが生じたり、判定ミスが生じる場合があった。
【0008】
支障移転工事は、使用中の既存ケーブルに対して経路変更を行なうため、データ通信等が不通となる工事を長時間行なうことは避ける必要がある。このため、光パルス試験器を用いた損失値の合否判定もできるだけ迅速に行なえ、さらに、判定結果の精度を高めるために、合否判定作業の利便性を高めることが望ましい。
【0009】
そこで、本発明は、光パルス試験器において、多心光ファイバの支障移転工事における工事後の損失値の合否判定作業の利便性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の光パルス試験器は、多心光ファイバの被測定心線に光パルスを入射し、入射端に戻ってくる光を時間領域で測定する測定処理部と、操作受付部と、表示部と、ある心線について、前記表示部に測定波形を表示させ、前記操作受付部を介して、損失値を測定するためのマーカ位置の指定を受け付けると、他の心線についても前記指定を受け付けたマーカ位置において損失値を測定する測定制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで、前記測定制御部は、前記マーカ位置の指定に加え、損失値の閾値に関する指定を受け付け、前記マーカ位置において測定した損失値と前記閾値とに基づいて心線毎に合否判定を行なうことができる。
【0012】
また、前記表示部は、前記多心光ファイバの心線の識別子を一覧表示し、前記測定制御部は、測定済の心線に対応する識別子に測定済を示すマークを付して前記表示部に表示させることができる。
【0013】
あるいは、前記表示部は、前記多心光ファイバの心線の識別子を一覧表示し、前記測定制御部は、測定済の心線に対応する識別子に測定済を示すマークおよび合否判定結果を付して前記表示部に表示させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光パルス試験器において、多心光ファイバの支障移転工事における工事後の損失値の合否判定作業の利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る光パルス試験器の構成を示すブロック図である。
【図2】操作受付部と表示部の外観例を示す図である。
【図3】基本的な支障移転工事について説明する図である。
【図4】光ファイバの支障移転工事に使用する場合の光パルス試験器の基本的な動作について説明するフローチャートである。
【図5】工事前の測定波形と、工事後の測定データの最新波形とを同一画面に表示した画面例を示す図である。
【図6】スプリッタ下部の支障移転工事について説明する図である。
【図7】スプリッタ下部の支障移転工事に使用する場合の光パルス試験器の動作について説明するフローチャートである。
【図8】スプリッタ下部の支障移転工事における工事前の測定波形と、工事後の測定データの最新波形とを同一画面に表示した画面例を示す図である。
【図9】差分波形Dを工事前の波形および工事後の波形に重ねて表示した画面例を示す図である。
【図10】多心の光ファイバの支障移転工事について説明する図である。
【図11】損失値を利用した測定波形の合否判定に使用する場合の光パルス試験器の動作について説明するフローチャートである。
【図12】合否判定マーカについて説明する図である。
【図13】合否判定結果を示す画面例を示す図である。
【図14】心線の一覧に合否判定結果を示した画面例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る光パルス試験器の構成を示すブロック図である。本図に示すように、光パルス試験器100は、測定対象の光ファイバ200に光パルスを入射し、入射端に戻ってくる光を時間領域で測定し、表示・解析等を行なう装置であり、測定処理部110、コネクタ115、測定制御部120、操作受付部130、表示部140、記憶部150を備えている。本実施形態において、光ファイバ200は、多数の心線を含んだ多心光ファイバであるものとし、測定対象となる心線をコネクタ115に接続して測定を行なうものとする。もちろん、試験対象の光ファイバ200は、単心であってもよい。
【0017】
測定処理部110は、発光部111、光カプラ112、受光部113、信号処理部114を備えている。発光部111は、レーザダイオード等により構成することができ、信号処理部114により生成されたパルス信号により、所定間隔で発光し、光パルスを生成する。
【0018】
光カプラ112は、発光部111の発光による光パルスを、コネクタ115を介して測定対象の光ファイバ200に入射するとともに、光ファイバ200からの戻り光を、コネクタ115を介して入射し、受光部113に導く。光ファイバ200からの戻り光には、光ファイバ200内部のレイリー散乱による後方散乱光と、接続点で発生するフレネル反射光とが含まれている。
【0019】
受光部113は、光電素子等により構成することができ、戻り光を電気信号に変換する。信号処理部114は、発光部111に供給するパルスを生成するとともに、受光部113が変換した電気信号をパルスと同期したタイミングでサンプリングする。光ファイバ200からの戻り光は微弱であるため、信号処理部114によるサンプリングは、多数の光パルスについて繰り返し行なわれ、測定制御部120において平均化される。
【0020】
測定制御部120は、操作受付部130、表示部140を介したユーザインタフェースを提供するとともに、光パルス試験器100における測定動作や解析動作の制御を行なう。測定制御部120の具体的な動作については後述する。
【0021】
操作受付部130は、ボタン、スイッチ、ダイヤルノブ、タッチパネル等により構成することができ、ユーザから光パルス試験に関する各種操作を受け付ける。表示部140は、液晶表示パネル等により構成することができ、測定制御部120の制御により測定波形や操作メニュー等の表示を行なう。記憶部150は、ハードディスク装置や半導体記憶装置等により構成することができ、測定制御部120の制御により測定データ等を記録する。
【0022】
図2は、操作受付部130と表示部140の外観例を示す図である。本実施形態において、操作受付部130は、電源スイッチ131、ロータリノブ132、スケールキー133、方向・エンターキー134、セットアップ(SETUP)キー135、リアルタイム測定(REAL TIME)キー136、平均化測定(AVE)キー137、ファンクションキー138を備えている。
【0023】
本実施形態において、ファンクションキー138の操作内容については、表示部140の対応する位置に表示するようにしているが、表示部140をタッチパネルで構成し、画面上で指示できるようにしてもよい。
【0024】
また、表示部140の画面上には、多心の光ファイバ200に対応して心線を識別するための識別子の一覧が表示される。ユーザは、測定対象の心線に対応した識別子を選択することで、測定結果と心線とを対応付けることができる。この一覧では、測定が終了したことを示すチェックマークが心線の識別子に表示されるようになっている。
<第1動作例>
【0025】
上記構成の光パルス試験器100の動作について説明する。まず、光パルス試験器100を光ファイバ200の支障移転工事に使用する場合の基本的な動作について説明する。ここでは、図3に示すように、敷設済の光ファイバ200aの経路を変更する必要が生じ、A地点およびB地点で光ファイバ200aを切断し、新たな経路に敷設した光ファイバ200bを融着接続する工事を行なうものとする。なお、図3(a)は工事前の光ファイバ経路を示し、図3(b)は工事後の光ファイバ経路を示している。この場合、工事後の経路が、工事前の経路と同等の特性が得られることを確認する必要がある。このために光パルス試験器100が用いられ、工事前、工事後の特性をそれぞれ測定する。
【0026】
図4は、光ファイバの支障移転工事に使用する場合の光パルス試験器の基本的な動作について説明するフローチャートである。まず、工事前の測定を行なうために、ユーザから工事前測定指示を受け付ける(S101)。工事前測定指示は、例えば、図2に示したファンクションキー138のうち「工事前」という表示に対応した「F1」により受け付けることができる。このように、本実施形態の光パルス試験器100では、工事前の測定を行なうことを明示的に受け付けることができるようにしており、ユーザが直感的で簡易に操作できるようになっている。
【0027】
そして、ユーザから測定開始指示を受け付ける(S102)。なお、測定開始前に、レンジ、平均化回数等の測定条件の設定を受け付けるようにしてもよい。測定開始指示は、例えば、図2に示したリアルタイム測定(REAL TIME)キー136、平均化測定(AVE)キー137により受け付けることができる。すなわち、ユーザは、測定結果の平均値が逐次更新されるリアルタイム測定と、設定された平均化回数分の測定を行なって測定結果を出力する平均化測定のいずれかを選択することができる。
【0028】
測定開始指示を受け付けると、光パルス試験器100は、測定を実行し、測定データの平均化処理(S103)を、測定が終了するまで繰り返す(S104)。ここで、測定の終了は、例えば、リアルタイム測定の場合、リアルタイム測定(REAL TIME)キー136が再度押下されたとき、平均化測定の場合、設定された平均化回数を繰り返したとき等とすることができる。
【0029】
工事前の測定を終了する(S104:Yes)と、工事前の測定データのファイルを記憶部150に保存する(S105)。このとき、測定対象の心線を識別するための情報をファイルに付加しておく。ファイル名に識別子を含めるようにしてもよい。ファイルの保存は、測定終了をトリガとして自動的に行なうものとする。このため、ユーザはファイル保存のための操作を別途行なう必要がなく、操作が簡易化される。
【0030】
そして、工事担当者が、光ファイバ200aの切替箇所で心線を切断し、新たな経路に敷設された光ファイバ200bの心線を融着接続する心線切替工事を行なう。心線切断後に、光パルス試験器100を用いて、切断を確認するようにしてもよい。
【0031】
心線切替工事が終了すると、工事後の測定を行なうために、ユーザから工事後測定指示を受け付ける(S106)。工事前測定指示は、例えば、図2に示したファンクションキー138のうち「工事後」という表示に対応した「F2」により受け付けることができる。このように、本実施形態の光パルス試験器100では、工事後の測定を行なうことを明示的に受け付けることができるようにしており、ユーザが直感的で簡易に操作できるようになっている。
【0032】
そして、ユーザから測定開始指示を受け付ける(S107)。測定開始指示は、工事前の測定開始指示と同様の方法により受け付けることができる。このときの測定条件、測定方法等は、工事前の測定と同じにしておく。
【0033】
工事後の測定では、測定開始指示を受け付けると、光パルス試験器100は、工事前の測定データファイルを読み出して、その波形を表示部140に参照用として表示する(S108)。このため、ユーザは、工事後の測定時に工事前の測定データを確認することができる。
【0034】
そして、測定を実行し、測定データの平均化処理を行ない(S109)、工事後の測定データの最新波形を、工事前の測定波形と同一画面に表示する(S110)。
【0035】
図5は、工事前の測定波形と、工事後の測定データの最新波形とを同一画面に表示した画面例を示している。このように、本実施形態の光パルス試験器100では、工事後の測定波形と、工事前の測定波形との比較を、工事後の測定実行と同時に行なうことができ、工事後の特性の変化を容易に確認することができる。このため、工事後の測定の終了後に、工事前の測定データファイルを呼び出して比較する必要がなくなり、作業時間を大幅に短縮することができる。
【0036】
工事後の測定データの平均化(S109)と工事後の測定データの最新波形の表示(S110)は、測定が終了するまで繰り返す(S111)。ある程度の平均化回数で工事結果を確認できれば、ユーザは測定を中止することができる。これにより、工事時間を一層短縮することができる。
【0037】
工事後の測定を終了すると(S111:Yes)、工事後の測定データのファイルを記憶部150に保存する(S112)。このとき、測定対象の心線を識別するための情報を付加しておく。ファイルの保存は、測定終了をトリガとして自動的に行なうものとする。その後、図2に示した光ファイバの心線識別子の一覧を表示したメイン画面に自動的に戻ることで、次の心線の測定に迅速に移行することができる。このとき、測定済の心線の識別子に測定済を示すチェックマークを重ねて表示する。また、測定済の心線の識別子がフォーカスされた場合には、例えば、右下領域に、工事前後の測定波形を表示するようにしている。
【0038】
このように、本実施形態の光パルス試験器100は、支障移転工事の作業フローに特化した処理を行なえるようになっており、実際の作業に即した画面情報と操作感を自動で作業者に提供できる。このため、作業者の手順の煩雑さを解消することができる。
<第2動作例>
【0039】
次に、光パルス試験器100をスプリッタ下部の支障移転工事に使用する場合の動作について説明する。ここでは、図6(a)に示すように、スプリッタ300の下部がA接続点、B接続点、C接続点の3つに分岐している場合に、図6(b)に示すようにA接続点までの経路を変更する工事を行なうものとする。
【0040】
このとき、図6(a)および図6(b)の右側に示すように、B接続点、C接続点からのフレネル反射の位置は工事前後で変化せずに、A接続点からのフレネル反射の位置のみが変化することを確認する必要がある。このため、光パルス試験器100が用いられ、工事前、工事後の特性をそれぞれ測定する。
【0041】
図7は、スプリッタ下部の支障移転工事に使用する場合の光パルス試験器100の動作について説明するフローチャートである。基本的な動作は第1動作例と同様であり、第1動作例と同じ動作については説明を簡略化する。
【0042】
まず、工事前の測定を行なうために、ユーザから工事前測定指示を受け付ける(S201)。そして、ユーザから測定開始指示を受け付ける(S202)。
【0043】
測定開始指示を受け付けると、光パルス試験器100は、測定を実行し、測定データの平均化処理(S203)を、測定が終了するまで繰り返す(S204)。工事前の測定を終了する(S204:Yes)と、工事前の測定データのファイルを記憶部150に保存する(S205)。
【0044】
そして、工事担当者が、スプリッタ300下部のA接続点までの経路の切替箇所で心線を切断し、新たな経路に敷設された心線を融着接続する心線切替工事を行なう。心線切断後に、光パルス試験器100を用いて、切断を確認するようにしてもよい。
【0045】
心線切替工事が終了すると、工事後の測定を行なうために、ユーザから工事後測定指示を受け付ける(S206)。次いで、ユーザから測定開始指示を受け付ける(S207)。
【0046】
工事後の測定では、測定開始指示を受け付けると、光パルス試験器100は、工事前の測定データファイルを読み出して、その波形を表示部140に参照用として表示する(S208)。そして、測定を実行し、測定データの平均化処理を行ない(S209)、工事後の測定データの最新波形を、工事前の測定波形と同一画面に表示する(S210)。
【0047】
図8は、工事前の測定波形と、工事後の測定データの最新波形とを同一画面に表示した画面例を示している。本画面で、ユーザは工事前後波形の差分波形の表示を指示することができる。差分波形の表示は、例えば、ファンクションキー138のうち「差分波形OFF ON」という表示に対応した「F3」により受け付けることができる。
【0048】
光パルス試験器100は、差分波形表示の指示があった場合には(S211:Yes)、工事前の波形と工事後の波形との差分波形を、工事前の波形および工事後の波形に重ねて表示する(S212)。このとき、3つの波形の横軸を揃えるようにする。
【0049】
図9は、差分波形Dを工事前の波形および工事後の波形に重ねて表示した画面例を示している。差分波形では、工事前後の波形変化分が抽出されるため、スプリッタ300下部の支障移転工事によるフレネル反射の移動箇所を容易に確認することができるようになる。本図の例では、D1は、A接続点の工事前のフレネル反射位置を示し、D2は、A接続点の工事後のフレネル反射位置を示している。他の箇所は工事前後で変化しないため、差分が生じていない。
【0050】
工事後の測定データの平均化(S109)と工事後の測定データの最新波形の表示(S110)および表示指示された場合の差分波形表示(S212)は、測定が終了するまで繰り返す(S213)。
【0051】
工事後の測定を終了すると(S213:Yes)、工事後の測定データのファイルを記憶部150に保存する(S214)。このとき、測定対象の心線を識別するための情報を付加しておく。ファイルの保存は、測定終了をトリガとして自動的に行なうものとする。
【0052】
このように、本実施形態の光パルス試験器100は、工事前波形と工事後波形の差分波形を工事後の測定時に表示することができるため、スプリッタ下部の支障移転工事前後の波形特性の比較を容易に、迅速に行なうことができる。
<第3動作例>
【0053】
次に、光パルス試験器100を、損失値を利用した測定波形の合否判定に使用する場合の動作について説明する。ここでは、図10(a)に示す多心の光ファイバ200cの各心線を切断し、図10(b)に示すように接続点aと接続点bとで、新たに敷設された光ファイバ200dの各心線を接続する工事を行なうものとする。
【0054】
この場合、接続点における損失値が各心線について一定範囲に収まることを確認する必要がある。このため、光パルス試験器100が用いられ、図10(c)に示すように、各心線の接続箇所について工事後の損失を測定する。光ファイバ200cの各心線は同じ箇所で切断、接続しているため、各心線について基本的に同じ箇所で損失が生じる。
【0055】
図11は、損失値を利用した測定波形の合否判定に使用する場合の光パルス試験器100の動作について説明するフローチャートである。ここでは、工事後の測定に着目して説明する。
【0056】
まず、測定対象の心線を特定する(S301)。測定対象の心線の特定は、測定対象とする心線の識別子を図2に示した画面上で選択することにより行なうことができる。この操作は、例えば、方向・エンターキー134を用いて行なうことができる。
【0057】
そして、ユーザから測定開始の指示を受け付けると(S302)、工事前の測定波形を参照用に表示する(S303)。そして、工事後の測定を実行して、平均化処理を行ない(S304)、工事後の測定波形を表示する(S305)。
【0058】
本実施形態では、多心の光ファイバの支障移転工事における損失を簡易に確認できるように、合否判定マーカを用いることができる。合否判定マーカは、すべての心線について適用されるマーカであり、マーカ位置と、損失評価方法と、合否判定の閾値について設定することができる。合否判定マーカを用いることにより、各心線ついて一斉に共通のマーカを設定することができるため、各心線の損失を確認するために、心線毎に個別にマーカを設定する必要がなくなる。ここで、従来のマーカは、接続損失等のイベントが生じている位置に設定することで、その位置における損失値・減衰量等を算出するツールである。
【0059】
ユーザから合否判定マーカ設定の指示を受け付けると(S306:Yes)、光パルス試験器100は、合否判定マーカの設定を受け付ける処理に移行する(S307)。合否判定マーカの設定の指示は、例えば、図2に示したファンクションキー138のうち「合否判定マーカ」という表示に対応した「F4」により受け付けることができる。
【0060】
合否判定マーカは、例えば、図12に示すように、工事前、工事後の波形を表示する画面上で設定することができる。ユーザは、損失の評価として波形上の2点を指定する2点法と、4点を指定する4点法等を選択することができる。もちろん、他の方法を選択できるようにしてもよい。
【0061】
ユーザは、2点法を選択した場合、例えば、ロータリノブ132を操作して、画面に表示されるカーソルを移動させることで、損失を確認する2点を設定する。2点は、画面上で損失が生じているイベント箇所とする。この2点の位置は、ある心線について設定されると、すべての心線について共通に適用される。多心の光ファイバの支障移転工事では、接続損失が発生する箇所は同一であるため、ある心線について損失位置を設定すると、他の心線についてもその位置を適用することができる。なお、工事箇所の位置が特定できれば、合否判定マーカの設定は、対象心線の特定前や工事後の測定前に行なうようにしてもよい。
【0062】
また、ユーザは、損失値の合否判定に用いる閾値を設定することができる。すなわち、合否判定マーカで設定された箇所の損失値が閾値以内であれば、その心線は合格であると判定される。合否判定マーカで設定された閾値についても、すべての心線について共通に適用される。
【0063】
工事後の測定において、合否判定マーカが設定済みであれば(S308:Yes)、合否判定マーカで得られる損失値と設定された閾値とを比較することにより合否判定を行なう(S309)。合否判定は、工事後の測定実行中において、逐次行ない、判定結果を表示する(S310)。図13は、合否判定結果を示す画面例を示している。本図の例では、合否判定マーカの位置を(1)(2)で示し、右上に合否判定の結果を表示している。合否判定の結果は、平均化毎に更新される。合否判定結果が変化した場合に、ブザー等を鳴らすことにより、ユーザに注意を喚起させるようにしてもよい。
【0064】
本実施形態の合否判定は、ユーザの目視ではなく、損失値と閾値とに基づいて行なわれるため、バラツキや判定ミスのない安定した判定を行なうことができる。
【0065】
以上の処理を測定が終了まで繰り返す(S311)。なお、ユーザは、ある程度の平均化回数で合格を確認すると、その心線についての工事後の測定を終了させ、別の心線についての測定を行なうことができる。これにより、測定時間を短縮することができる。
【0066】
ある心線について測定が終了すると(S311:Yes)、測定データをファイルとして保存するとともに、判定結果を記録する(S312)。判定結果は、図14に示すように、心線の一覧表示に重ねて表示する。本図の例では、合格した心線については、測定が終了したことを示すチェックマークに○を重ねて表示し、不合格の心線については、測定が終了したことを示すチェックマークに「!」を重ねて表示するようにしている。これにより、ユーザは、心線の測定結果を容易に確認することができる。
【0067】
他に測定対象の心線がある場合(S313:Yes)には、対象心線を特定する処理(S301)に戻って、以降の処理を繰り返す。他に測定対象の心線がない場合(S313:No)には、本処理を終了する。
【符号の説明】
【0068】
100…光パルス試験器、110…測定処理部、111…発光部、112…光カプラ、113…受光部、114…信号処理部、115…コネクタ、120…測定制御部、130…操作受付部、131…電源スイッチ、132…ロータリノブ、133…スケールキー、134…方向・エンターキー、135…SETUPキー、136…リアルタイム測定キー、137…平均化測定キー、138…ファンクションキー、140…表示部、150…記憶部、200…光ファイバ、300…スプリッタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多心光ファイバの被測定心線に光パルスを入射し、入射端に戻ってくる光を時間領域で測定する測定処理部と、
操作受付部と、
表示部と、
ある心線について、前記表示部に測定波形を表示させ、前記操作受付部を介して、損失値を測定するためのマーカ位置の指定を受け付けると、他の心線についても前記指定を受け付けたマーカ位置において損失値を測定する測定制御部と、
を備えたことを特徴とする光パルス試験器。
【請求項2】
前記測定制御部は、
前記マーカ位置の指定に加え、損失値の閾値に関する指定を受け付け、
前記マーカ位置において測定した損失値と前記閾値とに基づいて心線毎に合否判定を行なうことを特徴とする請求項1に記載の光パルス試験器。
【請求項3】
前記表示部は、前記多心光ファイバの心線の識別子を一覧表示し、
前記測定制御部は、測定済の心線に対応する識別子に測定済を示すマークを付して前記表示部に表示させることを特徴とする請求項1または2に記載の光パルス試験器。
【請求項4】
前記表示部は、前記多心光ファイバの心線の識別子を一覧表示し、
前記測定制御部は、測定済の心線に対応する識別子に測定済を示すマークおよび合否判定結果を付して前記表示部に表示させることを特徴とする請求項2に記載の光パルス試験器。
【請求項1】
多心光ファイバの被測定心線に光パルスを入射し、入射端に戻ってくる光を時間領域で測定する測定処理部と、
操作受付部と、
表示部と、
ある心線について、前記表示部に測定波形を表示させ、前記操作受付部を介して、損失値を測定するためのマーカ位置の指定を受け付けると、他の心線についても前記指定を受け付けたマーカ位置において損失値を測定する測定制御部と、
を備えたことを特徴とする光パルス試験器。
【請求項2】
前記測定制御部は、
前記マーカ位置の指定に加え、損失値の閾値に関する指定を受け付け、
前記マーカ位置において測定した損失値と前記閾値とに基づいて心線毎に合否判定を行なうことを特徴とする請求項1に記載の光パルス試験器。
【請求項3】
前記表示部は、前記多心光ファイバの心線の識別子を一覧表示し、
前記測定制御部は、測定済の心線に対応する識別子に測定済を示すマークを付して前記表示部に表示させることを特徴とする請求項1または2に記載の光パルス試験器。
【請求項4】
前記表示部は、前記多心光ファイバの心線の識別子を一覧表示し、
前記測定制御部は、測定済の心線に対応する識別子に測定済を示すマークおよび合否判定結果を付して前記表示部に表示させることを特徴とする請求項2に記載の光パルス試験器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−40817(P2013−40817A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176916(P2011−176916)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(596157780)横河メータ&インスツルメンツ株式会社 (43)
【上記1名の代理人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(596157780)横河メータ&インスツルメンツ株式会社 (43)
【上記1名の代理人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
【Fターム(参考)】
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