説明

光パワーモニタ集積DFBレーザ

【課題】高い反射率を維持しながら光パワーモニタとしての機能を併せ持つ光パワーモニタ集積DFBレーザを提供する。
【解決手段】分布ブラッグ反射領域が集積された半導体レーザにおいて、前記半導体レーザの導波路の活性層が細線構造を有し、前記分布ブラッグ反射領域の吸収電流により前記半導体レーザの出力をモニタすることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信装置に用いる光パワーモニタ集積DFBレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザは、光通信分野や光ピックアップ装置など様々な分野で必須なデバイスであり、低電流・高効率で動作する低消費電力化と長期間における安定動作が強く求められている。しかし、半導体レーザは、動作時間とともに徐々に劣化し光出力の低下や波長シフトといった現象が現われる。これらの劣化が所定の限度を超えると故障と見なされるが、故障に至るまで光出力や波長が一定になるように駆動電流等により調整が行われている。
【0003】
半導体レーザの光出力や波長を一定に維持するには、半導体レーザの光出力等の監視が必要であり、一般的な監視方法は半導体から出力される光をフォトダイオード(PD)でモニタする方法である(例えば、非特許文献1参照)。パワーモニタPDの受光量が一定となるように半導体レーザの駆動電流をフィードバック制御することにより、長期間にわたり半導体レーザの光出力や波長を一定に保つことができる。
【0004】
一方、活性層が細線状構造のDFBレーザに分布ブラッグ反射鏡(DBR)を一括集積した分布反射型(DR:distributed reflector)レーザやDRレーザにパワーモニタ領域を加えた3領域の集積レーザも提案されている(例えば、下記非特許文献2参照)。これら半導体レーザは、活性層が細線状構造を有していることにより、低しきい値・高効率動作が可能であるという特徴がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】米津宏雄、「光通信素子工学−発行・受光素子−」、工学図書株式会社発行、1984年2月15日、p.259−260
【非特許文献2】大平和哉、外6名、「細線構造を有する分布反射型(DR)レーザ」、電子情報通信学会技術研究報告〔レーザ・量子エレクトロニクス〕、社団法人電子情報通信学会発行、2002年5月17日、LQE2002−16
【非特許文献3】H.Kogelnik、C.V.Shank、“Coupled−Wave Theory of Distributed Feedback Lasers”、J.Appl.Phys.、43、5、1972年、p.2327−2335
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したPDによるモニタでは、レンズや分波器などの光部品が必要となり製造コストや部品コストが高くなるばかりでなく、小型化が阻害され、さらに作製工程が増えることによる歩留まりの低下を招くという課題がある。
【0007】
また、半導体レーザとの集積型パワーモニタは、一般的に大幅な吸収損失による半導体レーザの特性劣化を防ぐために、半導体レーザとは異なる組成のコア層を再成長する必要があり、作製工程が増え歩留まりの低下が避けられない課題がある。
【0008】
以上のことから、本発明は、上記の問題点を解消し、高い反射率を維持しながら光パワーモニタとしての機能を併せ持つ光パワーモニタ集積DFBレーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための第1の発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザは、
分布ブラッグ反射領域が集積された半導体レーザにおいて、
前記半導体レーザの導波路の活性層が細線構造を有し、
前記分布ブラッグ反射領域の吸収電流により前記半導体レーザの出力をモニタする
ことを特徴とする。
【0010】
上記の課題を解決するための第2の発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザは、第1の発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいて、
各領域の長さLを回折格子の結合係数κを用いて規格化したとき、前記半導体レーザの領域の長さが「3.5<κL<8」、前記分布ブラッグ反射領域の長さが「2<κL<4」、前記分布ブラッグ反射領域の活性層細線の発振波長に対する吸収係数αが「1500cm-1<α<2000cm-1」である
ことを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決するための第3の発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザは、第1の発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいて、
前記半導体レーザの領域中に位相シフトを設けた
ことを特徴とする。
【0012】
上記の課題を解決するための第4の発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザは、第3の発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいて、
各領域の長さLを回折格子の結合係数κを用いて規格化したとき、前記半導体レーザの領域の長さが「3<κL<5」、前記分布ブラッグ反射領域の長さが「2<κL<4」、前記分布ブラッグ反射領域の活性層細線の発振波長に対する吸収係数αが「300cm-1<α<2000cm-1」である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い反射率を維持しながら光パワーモニタとしての機能を併せ持つ光パワーモニタ集積DFBレーザを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの構成を示した模式図である。
【図2】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおける図1に示すa−a´における導波路の断面の構成を示した模式図である。
【図3】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおけるDBR領域の反射率の細線幅依存性を示した図である。
【図4】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの作製プロセスにおける第1工程を示した模式図である。
【図5】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの作製プロセスにおける第2工程を示した模式図である。
【図6】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの作製プロセスにおける第3工程を示した模式図である。
【図7】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの作製プロセスにおける第4工程を示した模式図である。
【図8】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの作製プロセスにおける第5工程を示した模式図である。
【図9】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの作製プロセスにおける第6工程を示した模式図である。
【図10】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザのSEM像を示した図である。
【図11】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおけるInP逆メサストライプエッチングのSEM像を示した図である。
【図12】本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおけるInP順メサ方向溝形成エッチングのSEM像を示した図である。
【図13】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおける無バイアス印加時の光強度分布の計算結果を示した図である。
【図14】本発明の実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおけるDBR領域の反射率スペクトルの計算結果を示した図である。
【図15】λ/8位相シフト構造の無バイアス時光強度分布を示した図である。
【図16】均一回折格子構造の無バイアス時光強度分布を示した図である。
【図17】前端面出力効率のDFB領域長依存性を示した図である。
【図18】DBR反射率のDBR領域長依存性を示した図である。
【図19】DBR反射率のDBR領域長依存性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザを実施するための形態について説明する。
本発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザは、ブラッグ反射器としての機能とパワーモニタとしての機能とを併せ持つ領域(DBR領域)とDFBレーザの領域が集積された構造を有し、それらの活性層は細線状構造からなっている。
【0016】
そして、本発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザは、量子井戸活性層を周期的な細線状構造に加工することにより、DFBレーザ領域と同一の活性層を有していながら、大幅な吸収損失を受けることなくモニタリングすることが可能である。
また、光モニタリングの際、光モニタ領域(DBR領域)は、パワーモニタに入射された光の大部分をレーザ共振器に反射するDBR領域としての機能も有しており、DFBレーザ領域の良好な発振特性を維持することができる。
【0017】
さらに、パワーモニタの作製プロセスにおいても再成長工程を増やすことなく、DFBレーザ領域と一括したプロセスで作製可能であるため、低コストで作製することができる。
また、本発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおけるDBR領域の細線状活性層の周期は、DFBレーザ領域とほぼ同じである。
【0018】
従来、DFBレーザ領域で光出力を安定させるには、一般に出力光のパワーを監視して光出力変動を光出力制御回路の出力に反映するフィードバック機構が必要であった。このうち、出力光のパワーを監視する部分では、出力光の一部をプリズム等の光部品により取り出すか、又は、DFBレーザ領域の出力端の逆側からもれ出てくる光を用いてPDにて観測する方法が用いられていた。しかし、前者の方法はプリズム等のディスクリート部品が必要になり大型化が避けられない上、光出力の一部を損なうこと、後者の方法はDFBレーザ領域とは別にPDを半導体基板上に作製する必要がある等の課題があった。
【0019】
これに対し、本発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいては、活性層分離型DFBレーザの出力端と逆側の反射鏡としてDBR領域を用い、その部分で一部光が吸収されて発生する光電流をモニタすることでPDとしての機能をも兼ねさせることを特徴としている。
【0020】
これにより、DBR領域自体は、DFBレーザ領域を作製する際に同時に作製することができ、さらに、PDとしての機能付加も基本的に光電流の取り出し電極をDBR領域上に設けるだけで済ませることができる。そして、本発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの構成により、作製工程を増やすことなく、また、活性層分離型DFBレーザに集積したコンパクトな形で出力光のパワーを監視する機能を活性層分離型DFBレーザに持たせることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの実施例について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの構成を示した模式図である。また、図2は、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおける図1に示すa−a´における導波路の断面の構成を示した模式図である。
【0022】
図1,2に示すように、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザは、DFBレーザ領域と、DBR領域から構成されており、DFBレーザ領域で発生する光はDBR領域の高反射率の反射器で反射されると同時に、光パワーモニタとして光吸収されDFBレーザ領域端から出力される。なお、両端面には無反射膜や高反射膜は形成されていない。
【0023】
本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザは、InP下部クラッド層(cladding layer)10、GaInAsP二重量子井戸活性層(DQW active layers)11、下部光閉じ込め層(OCL)12、上部光閉じ込め層(OCL)13、上部InPクラッド層14、ベンゾシクロブデン(BCB)樹脂15、コンタクト層16、SiO2絶縁膜17、DFBレーザ用電極18、光パワーモニタ用電極19及び下部電極20から構成されている。
【0024】
図2において、LDFBはDFBレーザ領域長を、ΛaはDFBレーザ周期を、WaはDFBレーザ細線幅を、LDBRはDBR領域長を、ΛpはDBR周期を、WpはDBR細線幅を、phase−shiftはλ/8位相シフト位置を示している。DFBレーザ領域の活性層は、位相シフト領域を含む不連続の分離した構造であり、DBR領域の活性層は、数10nm程度に細線化された量子井戸細線が光進行方向に対し周期的に配列した構造である。
【0025】
細線化によって活性層領域の体積が減るだけではなく、量子閉じ込め効果に伴う遷移エネルギー拡大が行われ、発振波長に対して吸収の少ない低損失な導波路を作製することができ、DBR領域の高反射率を実現することができる。
また、導波路の損失が低いことにより、DBR領域は高反射率領域となるため、光出力を片端面に集中させて、低しきい値動作を維持したまま出力効率の増加が可能となる。
また、図1に示すDFBレーザ領域側からの光出力ηdfは、DBR領域の光パワーモニタ用電極19に電圧を印可して得られる吸収電流によりモニタすることができる。
【0026】
結合波理論(上記非特許文献3参照)は、回折格子などの周期的に分布した屈折率及び利得の構造中を光が伝搬する様子を解析するもので、回折格子構造の屈折率分布及び利得の分布を正弦波関数で近似的に表記し、その構造中での光の伝搬を解析することができる。
【0027】
本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいては、DFBレーザ領域及びDBR領域のそれぞれにおいて回折格子構造の屈折率分布、あるいは利得分布を正弦波関数で表記し、光の結合波方程式を求めることで、各領域における伝達関数F行列を導出することができる。本実施例においては、それぞれの領域及び端面のF行列の積を用いて、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザ内での光の強度分布や、透過、反射スペクトルを求めた。
【0028】
本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいては、DBR領域の細線構造についてはDFBレーザとして最も低しきい値・高効率で動作するように設計し、この場合でもDBR領域ではモニタとして十分な光吸収が得られている。
【0029】
一般的に、DBR領域の活性層を量子細線構造に加工すると、横方向量子閉じ込め効果が生じ、それに伴うバンドギャップの広がり(ブルーシフト効果)により光の吸収損失を低減させることが可能となる。一方、DBR領域の結合係数は、活性層の細線化に伴い低下する傾向を示す。このように、活性層細線化による導波路損失と結合係数とはトレードオフの関係にあるため、設計の際にはまず必要な吸収率、反射率を設定し、それに合わせた細線幅を決定する手順となる。
【0030】
図3は、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおけるDBR領域の反射率の細線幅依存性を示した図である。
図3に示すように、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいては、DBR細線幅WDBRを40nm程度に加工した際が最も高い反射率を得ることができ、レーザの高性能化が可能であることが、光の伝搬解析の結果から分かった。
【0031】
なお、結合波理論を用いたプログラムによる計算は、DFBレーザ領域長LDFB=100μm、DFBレーザ周期Λa=241.25nm、DFBレーザ細線幅Wa=90nm、DBR領域長LDBR=200μm、DBR周期Λp=242.5nm、DBR細線幅Wp=40nm、DFBレーザ側の前端面より80μmの位置にλ/8位相シフト領域を有する構造で行った。
【0032】
図4〜9は、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの作製プロセスを示した模式図である。
図4に示すように、第1工程においては、後の工程にてInP下部クラッド層10としても用いる、主面方位が(001)であるp−InP基板10を成長用半導体基板として用い、その上に有機金属気相成長法(OMVPE)によって、GaInAsP下部光閉じ込め層(OCL)12、GaInAsPの2重量子井戸構造(1%圧縮歪量子井戸:6nm、0.15%引っ張り歪バリア層:10nm)11、GaInAsP上部光閉じ込め層(OCL)13を順次積層し、レーザ素子作製用のエピ基板を作製する。次に、ドライエッチングのマスクとなるSiO2マスク30をCVD法により約20nm堆積し、電子線レジスト31を用いて線幅を変調した回折格子を電子ビーム(EB)露光法により描画する。
【0033】
図5に示すように、第2工程においては、CF4反応性イオンエッチングにより電子線レジストパターン31をSiO2マスク30に転写しドライエッチングのマスクとした後に、CH4/H2反応性イオンエッチング(RIE)により活性層を直接加工し、垂直性に優れた回折格子を形成する。
【0034】
図6に示すように、第3工程においては、ドライエッチングによる損傷層をウェットエッチングにより除去した後、溝部分をOMVPEによりi−InP32により埋め込み、上部光閉じ込め層13、上部InPクラッド層14、コンタクト層16を積層する。
【0035】
図7に示すように、第4工程においては、ドライエッチングとウェットエッチングにより電極分離用の溝33を形成し、ストライプ構造を形成する。
図8に示すように、第5工程においては、ベンゾシクロブデン(BCB)樹脂15により平坦化し、SiO2絶縁膜17を形成する。
図9に示すように、第6工程においては、電極窓開けの後、金属蒸着(Ti/Au)をDFB領域とDBR領域及びパワーモニタ(PM)領域のそれぞれの領域に行いDFBレーザ用電極18、光パワーモニタ用電極19及び下部電極20を形成する。
【0036】
本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおけるDFB領域とDBR領域は、細線幅のEB露光パターンを変更するだけで作製できるため、余計なプロセスを行わなくとも活性領域と受動領域が一括形成できるという利点がある。
さらに、活性領域と受動領域の導波路構造がほとんど同じであることから、領域間の結合損失をほぼゼロにできるという利点がある。
また、低損傷エッチングプロセスによりレーザ素子作製用のエピ基板の結晶品位を落とさずに活性領域及び受動領域の一括作製が可能であるという利点もある。
【0037】
図10は、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザのSEM像を示した図である。
図10に示すように、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいては、細線状の活性層が周期的に形成されていることがわかる。
【0038】
また、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいては、DBR領域に電極を形成するにあたり、前方のDFBレーザ領域との電気的な絶縁を得るために、DFBレーザ用電極18と光パワーモニタ用電極19との間に電極分離用の溝33を形成する必要があるが、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザによれば、DFBレーザ領域とDBR領域の電極分離用の溝33をハイメサ導波路形成時に一括作製が可能であるという利点がある。
【0039】
ちなみに、半導体レーザなどの光半導体素子の導波路構造は、ハイメサ型、ローメサ型、埋込型が一般的である。ハイメサ構造は活性層の部分までメサが形成されており、活性層の両側が空気層であるため光閉じ込め効果が高い点に特徴がある。ローメサ導波路構造は活性層の上部の積層までメサが形成されている構造であり、埋込型構造はハイメサ又はローメサの両側が半導体層で埋め込まれた構造を指しており、放熱性が良い等の特徴を有する。
【0040】
なお、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいては、p型の成長用半導体基板(p−InP基板)上にレーザ素子作製用の層構造を作製しており、その層構造の上部は高移動度のn型半導体となっているため、電気的な絶縁を得るためにはある程度の深い溝が必要となるが、深すぎる溝は光の損失ともなる。
【0041】
また、第4工程におけるハイメサ導波路構造の形成においては、InP部分を塩酸系のウェットエッチングを用い、GaInAsPのOCL及び活性層はCH4/H2の反応性イオンエッチング(RIE)を用いた。成長用半導体基板に対して、110方向にストライプパターンを形成しており、HCl/CH3COOH=1:4の混合液を用いてInP層をエッチングすることで、InPのハイメサ構造は逆メサ構造とすることができる。
【0042】
これに対し、電極分離用の溝33はストライプ方向に対して垂直方向になるのでInP層は111面の53°程度の浅い順メサ方向になる。したがって、電極分離用の溝33の間隔を調節することで、ハイメサ構造形成と同時に任意の深さの電極分離用の溝33を形成することが可能である。
【0043】
図11は、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおけるInP逆メサストライプエッチングのSEM像を示した図である。また、図12は、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおけるInP順メサ方向溝形成エッチングのSEM像を示した図である。
図12に示すように、DFBレーザ領域とDBR領域の境界の溝幅Wを調整してエッチングすることにより、任意の深さの電極分離用の溝33を形成することが可能である。
【0044】
図13,14及び後述する表1は、本実施例に係るパワーモニタ集積DFBレーザの結合波理論を用いたプログラムによる計算結果である。
図13は、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおける無バイアス印加時の光強度分布の計算結果を示した図である。また、図14は、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおけるDBR領域の反射率スペクトルの計算結果を示した図である。
【0045】
DBR領域の反射率は、活性層幅(リッジ幅)や量子井戸細線数、DBR領域の長さに依存しており、例えば、活性層幅を小さくすると損失は小さくなるが、結合係数も減ることになる。結合係数を大きくするため細線数を増やすこと、又はDBR領域長を長くすることにより反射率を上げることはできるが、損失も大きくなるという問題がある。本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの構成は、これらの点及び実際の作製の容易さを考慮して決定された構成である。
【0046】
図13は、DBR領域に電圧を印可しない場合であり、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザのレーザとしての特性を表し、λ/8位相シフト部の光強度が大きく、DFBレーザ側端面の光出力が大きいことを示している。例えば、λ/4位相シフト部が共振器の中央にある対称λ/4位相シフト構造の一般的DFBレーザでは、位相シフト部から見た前後領域のブラッグ波長に対する電界の位相が整合するため、光がλ/4位相シフト周辺に強く閉じ込められ、光強度はほぼ前後対称の分布となり、前端面と後端面の両側からの光出力はほぼ等しくなる。
【0047】
また、λ/4位相シフト位置が中央から前方にある非対称λ/4位相シフト構造のDFBレーザにおいては、光強度はλ/4位相シフト位置で強くなるため、前端面側の光強度が後端面側に比較し大きくなり、前端面の光出射強度が大きくなる。一般的に、非対称λ/4位相シフト構造のDFBレーザは、内部光強度分布が位相シフト部の素子中央からのシフト量によって決まるので、単一モード安定性やスロープ効率も位相シフト位置に強く依存する。しかし、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいては、λ/8位相シフト部に光が集中しており、単一モードの安定性が高い。
【0048】
図17、図18及び図19は、位相シフトのあるDFBレーザと位相シフトのないDFBレーザの各場合における、前端面出力効率のDFB領域長依存性、しきい値電流値の共振器長依存性の計算結果を示している。
図17及び図18から、位相シフトの有る場合にも、無い場合にも、前端面からの出力効率ηdfが約50%以上、及びパワーモニタDBR領域からの反射率Rも約90%以上を両立するようなDFB領域及びDBR領域の結合係数κLが存在することがわかる。
また、図19から、κLを小さくした場合(領域長LDFBを短くする)には、しきい値が増大することがわかる。なお、縦軸のしきい値電流値はストライプ幅1μmに規格化した値を示している。
【0049】
図17において、前端面からの出力効率ηdfが約50%以上である結合係数κLの値は、位相シフトのあるDFBレーザの場合ではκLDFB<5であり、位相シフトのないDFBレーザの場合ではκLDFB<8である。ここで、デバイスの要求仕様にもよるが、最小しきい値の3倍程度を許容範囲(下限値)として設定すると、位相シフトのあるDFBレーザの場合では3<κLDFBが要求され、位相シフトのないDFBレーザの場合では3.5<κLDFBが要求される。
【0050】
また、図18から、約90%以上の反射率が得られるパワーモニタDBR領域の結合係数κLは、位相シフトのあるDFBレーザの場合も、位相シフトのない場合でも、約2<κLDBRである。また、κLDBRの上限はデバイスの大きさに依存するが、デバイスサイズが大きくなりすぎないように、DFB領域長400μm、DBR領域長400μm(κLDFBの上限を4)として設定した。
【0051】
図14は、DBR領域に電圧を印可し光パワーをモニタしている場合におけるDBR領域の反射率の計算結果であり、DBR領域にバイアスを−1V印可した場合も、−5V印可した場合も、1545nm付近で高い反射率を維持できることがわかる。
【0052】
本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいて特徴的な構造となっているのは、上記のパラメータの中のDFBレーザ領域長と位相シフト位置である。本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザでは、DBR領域をパワーモニタとして機能させるために、ある程度DBR領域の光強度分布が大きくなるように、DFBレーザ領域中に位相シフトを導入し、DFBレーザ領域長を100μm程度の短共振器に設計した。
【0053】
図15は、λ/8位相シフト構造の無バイアス時光強度分布を示した図である。また、図16は、位相シフトのない均一回折格子構造の無バイアス時光強度分布を示した図である。
図15の結果は、位相シフトを導入したDFBレーザでは、DBR領域を最適な設計にした場合(LDBR>200μm)に、無バイアス時においても高いPM量子効率(パワーモニタとしてのDBR領域での量子効率)が得られることを示している。一方、位相シフトのないDFBレーザでは、DBR領域を最適な設計にした場合(LDBR>200μm)でも、図16からDBR領域の光強度分布が全体の光強度分布に対して0.6%程度となり、無バイアス時には十分な値が得られないことがわかる。
【0054】
すなわち、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザのように、λ/8位相シフトをDFBレーザ領域中の前端面から約80μm程度のDFBレーザ領域の中央よりもやや後ろ寄りに導入し、DFBレーザ領域長100μmの短共振器に設計することで、図15に示すように、DBR領域の光強度分布が全体の光強度に対して18%と高めることができ、パワーモニタとして用いる際に十分な量子効率8.8%が実現できる。また、設計どおりに、DFBレーザの発振特性も低しきい値及び高効率動作を実現することができている。
【0055】
なお、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザは、細線状活性層を有しており、それによる利得整合効果から、一般的なλ/4位相シフトよりもλ/8程度の小さめの位相シフト量のほうが低しきい値で発振が可能であり、より適した構造であるが、λ/4位相シフトの構造でもよい。
【0056】
光パワーモニタ集積DFBレーザのDBR領域を光パワーモニタとする場合、DBR領域への電圧印可によりDFBレーザ領域の特性も影響を受けるため、DFBレーザ領域とDBR領域の構造に制限がある一方、それらの影響は共振器長や細線幅や周期等の構造パラメータで制御が可能である。
【0057】
表1は、DBR領域に電圧を印可し光パワーをモニタしている場合の、DBR領域及びDFB領域の計算結果を示した表である。
【表1】

【0058】
例えば、DBR領域の光吸収特性は、DFBレーザの発振波長やDBR領域の細線幅により制御可能である。本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザにおいて、DFBレーザ領域長が100μm、DBR領域長が200μm、両領域の位相シフトがλ/8、DBR領域の活性層細線の間隔が40nmという構成の光パワーモニタ集積DFBレーザを対象として、電圧を印可してDBR領域を光パワーモニタとした場合の、DFBレーザ領域とDBR領域の特性変化の計算結果が表1である。
【0059】
なお、表1は上記構造を対象に計算した結果であるが、DFBレーザ領域長、DBR領域長、DBR領域の活性層細線の間隔等の長さは上記数値に限定されるわけではない。それぞれの図からわかるように、前端面出力効率、DBR反射率、しきい値電流値は長さパラメータに対し連続的に滑らかに変化しており、図15〜図19や表1等から導き出されたκLの範囲やPM領域における活性層吸収損失の値は、長さパラメータ等の多少の変化に対しても適した範囲や値を与えるものである。
【0060】
DBR領域に電圧を印可し光パワーモニタとする場合に、DFBレーザの発振モードの不安定化や光出力低下が大きな問題となる。すなわち、電圧印可によりDBR領域の屈折率は変化し、活性層吸収損失や反射率の変化が生じる。光パワーモニタは、DFBレーザの光出力に対応した光吸収電流により光出力をモニタする構成であり、高い量子効率と低い活性層吸収損失と反射率とは相反する関係にある。
【0061】
電圧−1Vの印可では、PM量子効率は無バイアス時に比べ7%程度増加し、15.4%とモニタとしては十分な量子効率であることが確認できた。一方、DFBレーザと反射率の低下は2%程度に留まっており、電圧印可の負の影響は小さいことが確認できた。
【0062】
また、印可電圧―5Vでは、DBR領域での量子効率は13%程度の増加に対し、DFBレーザと反射率の低下はそれぞれ4%、3%の低下であった。しかし、電圧−5印可を電圧−1V印可と比べると、反射率は1%の低下にとどまってはいるものの、5倍の電圧印可にもかかわらず、DBR領域の量子効率の増加は小さいことから、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの構成では、電圧−1V程度の印加によるモニタが適していることが計算結果から分かった。
【0063】
また、DBR領域の吸収係数を下げるとPM量子効率が低下することから、パワーモニタとして動作可能な量子効率が下限となる。パワーモニタとして動作可能な下限を1%程度と仮定すると、位相シフトのないデバイスでは、DBR領域への光強度分布が少ないため(図16参照)、吸収係数の下限は1000cm-1程度が必要となる。一方、位相シフトのあるデバイスでは、DBR領域への光強度分布が高く(図15参照)、300cm-1程度でも1%以上のPM量子効率を維持できる。
【0064】
すなわち、位相シフトのないデバイスでは、吸収係数αが1500cm-1<α<2000cm-1以下の範囲となり、位相シフトのあるデバイスでは、吸収係数αが300cm-1<α<2000cm-1以下となる。
【0065】
このように、本実施例に係る光パワーモニタ集積DFBレーザの構成によれば、光モニタ動作時においても半導体レーザの特性はほとんど劣化することなく、PD等の光モニタを別個に用いる必要がなく、しかもDFBレーザの作製工程を複雑にすることなくDFBレーザの光出力をモニタすることが可能である。
【0066】
以上説明したように、本発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザによれば、DFBレーザ領域とDBR領域を分離した構造とすることで、DFBレーザ領域とDBR領域の屈折率差を大きくすることができ、光パワーモニタとして光を吸収させてもDBR領域の反射率はほとんど低下せず、高光反射率というブラッグ反射器としての機能が低下しないため、DFBレーザの高出力及び低しきい値を維持したまま、光パワーをモニタできるという効果が得られる。
【0067】
さらに、本発明に係る光パワーモニタ集積DFBレーザによれば、高反射領域とは別に光パワーモニタ領域を作製する必要もなく、DBR領域の周期はDFBレーザ領域とほぼ同じにできることから、作製工程が簡易化できるため低コスト化、歩留まり向上が可能であるという効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、光送信装置に用いる光パワーモニタ集積DFBレーザに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 InP下部クラッド層(p−InP基板)
11 GaInAsP二重量子井戸活性層
12 下部光閉じ込め層
13 上部光閉じ込め層
14 上部InPクラッド層
15 ベンゾシクロブデン(BCB)樹脂
16 コンタクト層
17 SiO2絶縁膜
18 DFBレーザ用電極
19 光パワーモニタ用電極
20 下部電極
30 SiO2マスク
31 電子線レジスト
32 i−InP
33 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分布ブラッグ反射領域が集積された半導体レーザにおいて、
前記半導体レーザの導波路の活性層が細線構造を有し、
前記分布ブラッグ反射領域の吸収電流により前記半導体レーザの出力をモニタする
ことを特徴とする光パワーモニタ集積DFBレーザ。
【請求項2】
各領域の長さLを回折格子の結合係数κを用いて規格化したとき、前記半導体レーザの領域の長さが「3.5<κL<8」、前記分布ブラッグ反射領域の長さが「2<κL<4」、前記分布ブラッグ反射領域の活性層細線の発振波長に対する吸収係数αが「1500cm-1<α<2000cm-1」である
ことを特徴とする請求項1に記載の光パワーモニタ集積DFBレーザ。
【請求項3】
前記半導体レーザの領域中に位相シフトを設けた
ことを特徴とする請求項1に記載の光パワーモニタ集積DFBレーザ。
【請求項4】
各領域の長さLを回折格子の結合係数κを用いて規格化したとき、前記半導体レーザの領域の長さが「3<κL<5」、前記分布ブラッグ反射領域の長さが「2<κL<4」、前記分布ブラッグ反射領域の活性層細線の発振波長に対する吸収係数αが「300cm-1<α<2000cm-1」である
ことを特徴とする請求項3に記載の光パワーモニタ集積DFBレーザ。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図2】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−186419(P2012−186419A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50063(P2011−50063)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】