説明

光ビーコン用異常検出装置

【課題】 より簡易に、光ビーコンに生じる異常の有無を検出することができる光ビーコン用異常検出装置を提供する。
【解決手段】 本発明の中央装置3の異常検出部40は、光ビーコン4のビーコンヘッド7が所定期間内に通信を行った車載機2の通信台数、及び、前記所定期間内に光ビーコン4のビーコンヘッド7の通信領域Aを通過した車両Cの通過台数を取得し、前記所定期間内におけるアップリンク率を求める演算部42と、前記アップリンク率に基づいて、光ビーコン4のビーコンヘッド7の異常の有無を判定する判定部43と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載機との間で双方向通信を行う光ビーコンに生じる故障や機能低下等といった異常の有無を検出するための光ビーコン用異常検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
路車間通信システムを利用した交通情報サービスとして、光ビーコン、電波ビーコン又はFM多重放送を用いたいわゆるVICS(Vehicle Information and Communication System:(財)道路交通情報通信システムセンターの登録商標)が既に展開されている。
このうち、光ビーコンは、近赤外線を通信媒体とした光通信を採用しており、車載機との双方向通信が可能となっている。具体的には、車速等の車両に関する情報を含むアップリンク情報が車載機からインフラ側の光ビーコンに送信され、逆に、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報及び車線通知情報等を含むダウンリンク情報が光ビーコンから車載機に送信されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−268925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記光ビーコンでは、その使用に伴って、光通信のための光学系が汚染され通信性能の低下が生じる場合がある。また、光学系の経年劣化や、故障によって、通信性能の低下や通信不能の状態になる場合もある。
光ビーコンに生じる、上記のような光学系の汚染や経年劣化、故障等に起因する通信性能の低下や故障等といった異常は、光ビーコンを直接点検すれば確認することができる。
しかし、一般に、光ビーコンは、道路の上方に設置されており、異常の有無を確認するためだけに、多数の光ビーコンについて直接点検するのは多くの時間や工数を要し、容易ではない。
このため、より簡易に光ビーコンに生じる異常を検出するための方策が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、より簡易に、光ビーコンに生じる異常の有無を検出することができる光ビーコン用異常検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、車載機との間で光信号による双方向通信を行う、道路側に設置された光ビーコンに生じる異常の有無を検出するための光ビーコン用異常検出装置であって、前記光ビーコンが所定期間内に通信を行った車載機の通信台数、及び、前記所定期間内に前記光ビーコンが通信可能な通信領域を通過した車両の通過台数を用いて、前記所定期間内におけるアップリンク率を求める演算部と、前記アップリンク率に基づいて、前記光ビーコンの異常の有無を判定する判定部と、を備えていることを特徴としている。
【0007】
上記のように構成された光ビーコン用異常検出装置によれば、光ビーコンのアップリンク率に基づいて、光ビーコンの異常の有無を判定する判定部を備えているので、光ビーコンに異常が生じることでそのアップリンク率に変化が生じれば、当該光ビーコンに異常が有ると判定し、その異常を検出することができる。このため、光ビーコンを直接点検せずとも、より簡易に光ビーコンに生じる異常の有無を検出することができる。
なお、上記アップリンク率とは、所定期間内に通信領域を通過した車両台数に対する、車載機によるアップリンクを受信し通信を行った車両台数の割合である。
【0008】
(2)上記光ビーコン用異常検出装置において、前記演算部が過去に求めた過去のアップリンク率を記憶するための記憶部をさらに備え、前記判定部は、前記過去のアップリンク率と、現在のアップリンク率とに基づいて、前記光ビーコンの異常の有無を判定するものであることが好ましい。
この場合、例えば、過去のアップリンク率や過去の平均アップリンク率等といった、過去のアップリンク率に基づく値と、現在のアップリンク率とを比較することで経時的な判定を行うことができ、異常の有無をより精度良く検出することができる。
【0009】
(3)また、上記光ビーコン用異常検出装置において、前記演算部は、異なる複数の前記光ビーコンのアップリンク率をそれぞれ演算し、前記判定部は、前記過去のアップリンク率に基づいて前記異なる複数の前記光ビーコンの内の一の光ビーコンにおける現在のアップリンク率の良否を判定する第一の判定と、前記異なる複数の前記光ビーコンそれぞれのアップリンク率に基づいて前記一の光ビーコンにおける現在のアップリンク率の良否を判定する第二の判定と、を行い、両判定の判定結果に基づいて前記一の光ビーコンの異常の有無を判定するものであってもよい。
この場合、一の光ビーコンの異常の有無を、過去のアップリンク率に基づく第一の判定と、複数の光ビーコンそれぞれのアップリンク率に基づく第二の判定とによって判定することで、より多面的な判定を行うことができる。
【0010】
(4)(5)また、上記光ビーコン用異常検出装置において、前記演算部は、異なる複数の前記光ビーコンのアップリンク率をそれぞれ演算し、前記判定部は、前記異なる複数の前記光ビーコンそれぞれのアップリンク率に基づいて、前記異なる複数の前記光ビーコンそれぞれの異常の有無を判定するものであってもよい。
この場合、判定部は、異なる複数の光ビーコンそれぞれの間でアップリンク率を相対的に比較判定することで異常の有無を判定することができる。
さらに、前記異なる複数の前記光ビーコンが、互いに同一の路線上に設置されていれば、各光ビーコンの間で、交通環境に極端な差が生じない。従って、この場合、同一の路線上に設置されている異なる複数の光ビーコンの間で、アップリンク率を相対的に比較判定することで、異常の有無をより精度良く検出することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上の通り、本発明によれば、より簡易に、光ビーコンに生じる異常の有無を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】光ビーコンの通信領域を示す側面図である。
【図3】ある光ビーコンのビーコンヘッドにおける、演算部が求めたアップリンク率と、経過日数との関係を示したグラフである。
【図4】同一の路線上に路線の沿線方向に並んで設置されている複数の光ビーコンのビーコンヘッドの一例を示す平面図である。
【図5】幹線道路の沿線方向に並ぶ各地点に設置された光ビーコンのビーコンヘッドにおける、演算部が求めた、1日間におけるアップリンク率を示したグラフである。
【図6】同一の道路に複数のビーコンヘッドが設置される他の態様を示す図である。
【図7】第三の実施形態に係る判定部のブロック図である。
【図8】ある光ビーコンのビーコンヘッドについて、第一及び第二判定部の判定に対して、包括判定部が行う判定の一例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
〔第一の実施形態〕
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明の第一の実施形態に係る路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態の路車間通信システムは、インフラ側の交通管制システム1と、道路Rを走行する車両C(図2参照)に搭載された車載機2とを備えている。
交通管制システム1は、管制室に設けられた中央装置3と、道路Rの各所に多数設置された光ビーコン(光学式車両感知器)4とを有している。光ビーコン4は、近赤外線を通信媒体とした光通信によって車載機2との間で双方向通信を行う。
【0014】
〔光ビーコン及び車載機の構成〕
光ビーコン4は、電話回線等の通信回線5を介して中央装置3と通信可能に接続されている。
光ビーコン4は、各部の制御機能を備えた本体部6と、この本体部6のセンサ用インターフェースに接続されたビーコンヘッド(投受光器)7とを備えている。
【0015】
本体部6は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)を有するプログラマブルなマイコンよりなり、中央装置3との双方向通信を行うための通信部6aと、ビーコンヘッド7による車載機2との路車間通信を行うための制御部6bとを機能的に備えている。
ビーコンヘッド7は、フォトダイオード(PD)により構成される受光部8と、発光ダイオード(LED)により構成される投光部9と、感知センサ10とを備え、これらは筐体等の内部に収納されている。
【0016】
投光部9は、近赤外線よりなるダウンリンク光DO(ダウンリンク情報を構成する光信号)を後述する通信領域Aに投光(送信)する。
また、受光部8は、車載機2からの近赤外線よりなるアップリンク光UO(アップリンク情報を構成する光信号)を受光(受信)する。
感知センサ10は、近赤外線又は超音波等の検出波を送信してその反射波を受信する送受信器よりなり、その検出波を自装置直下の路面に向けて間欠的(例えば50ミリ秒ごと)に照射し、その検出波の反射波が車両からのものか路面からのものかを判定することによって車両の存在を感知する機能を有している。
【0017】
制御部6bは、ビーコンヘッド7の各部を制御することで、車載機2との間で路車間通信の制御を行う機能を有している。また、制御部6bは、感知センサ10の制御を行い感知された車両の台数をカウントする機能を有している。
さらに制御部6bは、例えば、1時間単位や1日単位といった所定の単位期間内に路車間通信を行った車載機2の台数を示す情報である通信台数情報、及び、前記単位期間内に感知センサ10により感知された車両の台数を示す情報である感知台数情報を生成し、通信部6aを介して中央装置3に随時送信する機能も有している。
【0018】
なお、制御部6bは、ビーコンヘッド7が車載機2からのアップリンク情報を受信した段階で、当該車載機2との間で路車間通信を行ったと判断する。ビーコンヘッド7において、少なくとも、後述の第一のダウンリンク情報の送信と、アップリンク情報の受信とが、正常に行われていると判断できるからである。
【0019】
本体部6は、道路脇に立設した支柱等に設置される。ビーコンヘッド7は、前記支柱から道路側に架設された架設バー等に取り付けられ、道路の直上に配置される。
各ビーコンヘッド7の投光部9は、道路上、自装置の直下よりも車両進行方向の上流側に向けて近赤外線を発光しており、これにより、車載機2との間で路車間通信を行うための通信領域が当該ヘッド7の上流側に設定されている。
【0020】
車載機2は、制御部と、車載ヘッドと呼ばれる投受光器とを備えている(いずれも図示せず)。
前記車載ヘッドは、光ビーコンのビーコンヘッド7と同様に、発光ダイオード(LED)からなる投光部とフォトダイオードからなる受光部とを備えている(図示せず)。
投光部は、近赤外線よりなるアップリンク光UO(アップリンク情報)を送信し、受光部は、通信領域Aに発光された近赤外線よりなるダウンリンク光DO(ダウンリンク情報)を受光する。前記制御部は、車載ヘッドによる光ビーコン4との路車間通信の制御処理を行う。また、制御部は、所定の各機能を実行するプログラムを自装置の記憶装置に格納しており、このプログラムが実行する機能として、ドライバに対して必要な情報を提供したり、距離認識及び安全運転支援等の機能を備えている。
【0021】
〔光ビーコンと車載機との通信領域について〕
図2は、光ビーコン4の通信領域Aを示す側面図である。
図2に示すように、光ビーコン4が路車間通信可能な通信領域Aは、車載機2がダウンリンク情報を受信できるダウンリンク領域(図2において実線のハッチングを設けた領域)DAと、光ビーコン4のビーコンヘッド7が車載機2からのアップリンク情報を受信できるアップリンク領域(図2において破線のハッチングを設けた領域)UAとからなる。
【0022】
図2において、ダウンリンク領域DAは、ビーコンヘッド7の投受光位置d、道路面から1.0mレベルの位置a及びcを頂点とする△dacで示された範囲であり、アップリンク領域UAは、投受光位置d、道路面から1.0mレベルの位置b及びcを頂点とする△dbcで示された範囲である。
従って、ダウンリンク領域DAとアップリンク領域UAの上流端cは互いに一致し、アップリンク領域UAは、ダウンリンク領域DAの車両進行方向の上流部分(図2の右側部分)と重複している。また、ダウンリンク領域DAの車両進行方向長さは通信領域A全体の同方向長さと一致している。
【0023】
光ビーコン4の「近赤外線式インタフェース規格」によれば、ダウンリンク領域DA及びアップリンク領域UAの正式な領域寸法が規定されている。
一般道向けの光ビーコン4の場合には、アップリンク領域UAの上流端cは、路面から1mの高さ位置においてヘッド直下から約6.04mとされ、アップリンク領域UAの下流端bは、同高さ位置に置いてヘッド直下から3.4mとされている。従って、正式な通信領域Aの車両進行方向の全長(bc間の長さ)は約3.6mとなる。
【0024】
また、図2に示すように、ビーコンヘッド7の感知センサ10は、その検出波を当該ビーコンヘッド7の直下の路面に向けて照射し、道路R上の通信領域Aの下流側の直近に照射面Kを形成している。従って、感知センサ10は、照射面Kを通過する車両を感知することで、ビーコンヘッド7による通信領域Aを通過した車両を感知することができる。
また、制御部6bがカウントする感知センサ10により感知された車両の台数は、通信領域Aを通過した通過台数を示している。
【0025】
〔路車間通信の内容〕
光ビーコン4の制御部6bは、ビーコンヘッド7から、ダウンリンクの切り替え前の第一情報として、車線通知情報等を含む第一のダウンリンク情報を、ダウンリンク領域DAに所定の送信周期で常に送信し続けている。
【0026】
車載機2を搭載した車両Cが実際のダウンリンク領域DAに進入すると、車載機2が第一のダウンリンク情報(車両ID無し)を受信する。
これにより、車載機2は、当該車両Cが実際の通信領域A内に存在していることを認識する。その後、車載機2は、アップリンク情報の送信を開始し、このアップリンク情報をビーコンヘッド7に対して所定の送信周期で送信する。
車載機2は、車両Cに割り当てられている特定の車両IDを上記アップリンク情報に格納して当該アップリンク情報を送信する。
【0027】
一方、光ビーコン4のビーコンヘッド7が前記アップリンク情報受信すると、光ビーコン4の制御部6bは、ダウンリンクの切り替えを行い、第二情報として、第二のダウンリンク情報の送信を開始し、この第二のダウンリンク情報の送信を所定時間内において可能な限り繰り返す。
【0028】
第二のダウンリンク情報には、前記車載機2に送信していることを示すための前記車両IDの他、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報、及び、ドライバに対する安全運転支援のための支援情報等が含まれている。
【0029】
車載機2は、第二のダウンリンク情報を受信した時点で光ビーコン4でのダウンリンクの切り替えを認識し、この時点でアップリンク情報の送信を停止する。
【0030】
車載機2は、受信した前記第二のダウンリンク情報から、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報、及び、支援情報等を取得し、これらを利用して車両Cのドライバに対して、必要な情報を提供したり、安全運転支援を行う。
【0031】
〔中央装置の機能について〕
図1に戻って、中央装置3は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)等を有するプログラマブルなマイコンよりなり、各光ビーコン4から送信される情報を取得するとともに、各光ビーコン4に必要な情報の送信を行い、各光ビーコン4を包括的に制御する通信制御部31を機能的に有している。
また、通信制御部31は、各光ビーコン4から送信される、各ビーコンヘッド7ごとの前記単位期間内に路車間通信を行った車載機2の台数を示す情報である通信台数情報、及び、前記単位期間内に感知センサ10により感知された車両の台数を示す情報である感知台数情報を随時取得する。
【0032】
また、中央装置3は、各光ビーコン4のビーコンヘッド7において生じる異常の有無を検出するための異常検出部40を機能的に有している。
異常検出部40は、通信制御部31が各光ビーコン4から取得した前記情報(通信台数情報、感知台数情報)を記憶する記憶部41と、前記情報に基づいて所定期間内におけるアップリンク率を求める演算部42と、演算部42が求めたアップリンク率に基づいて、各光ビーコン4の異常の有無を判定する判定部43と、出力部44とを備えている。
【0033】
記憶部41には、前記単位時間ごとの通信台数情報、及び、感知台数情報が記憶される。これら両情報は、各光ビーコン4のビーコンヘッド7ごとに、その情報が取得された日時と対応付けたデータベース41aに随時登録されて記憶される。
【0034】
演算部42は、記憶部41のデータベース41aから、各光ビーコン4ごとに、所定期間としての1日(24時間)の間に路車間通信を行った車載機2の台数を示す通信台数を取得するとともに、1日間の間に感知センサ10により感知された車両の台数、すなわち、通信領域Aを通過した通過台数を取得する。
さらに、演算部42は、記憶部41から取得した前記通信台数を、前記通過台数で除算することで、1日の間に通信領域Aを通過した車両台数に対する、路車間通信を行った車両台数の割合であるアップリンク率を求める。
演算部42は、求めたアップリンク率を判定部43に与えるとともに、記憶部41のデータベース41aに日時と対応付けて随時登録する。従って、記憶部41には、演算部42が過去に求めた過去のアップリンク率が記憶されている。
【0035】
判定部43は、演算部42から与えられるアップリンク率に基づいて、各光ビーコン4のビーコンヘッド7ごとに、異常の有無を判定する機能を有している。
より具体的に、演算部42は、アップリンク率を1日単位で求める。判定部43は、記憶部41のデータベース41aに登録されている過去のアップリンク率(直近の1日を除く過去一定期間内に求めたアップリンク率)に基づいて、光ビーコン4のビーコンヘッド7に異常が生じているか否かを判定するための第一閾値を各ビーコンヘッド7ごとに設定し、現在のアップリンク率(直近の1日のアップリンク率)が前記第一閾値以上であればそのビーコンヘッド7に異常はないと判定し、前記第一閾値より小さければ、異常が有ると判定する。
本実施形態の判定部43は、過去一定期間内におけるアップリンク率の平均値を、各光ビーコン4ごとに求め、この平均値から所定の誤差マージンを差し引いた値を各光ビーコン4ごとの第一閾値として設定する。なお、第一閾値は、本実施形態のように過去のアップリンク率に基づいて設定される値だけでなく、例えば、車両の通行量やその他の各光ビーコンの立地条件等で定まる値に基づいて計算により求められる値も採用することができる。
【0036】
図3は、ある光ビーコン4のビーコンヘッド7における、演算部42が求めたアップリンク率と、経過日数との関係を示したグラフである。図中、横軸は、経過日数を示しており、縦軸は、アップリンク率及び車両台数を示している。また、図中、棒グラフは、前記光ビーコン4の1日間の通信台数及び通過台数を示しており、折れ線グラフは、前記光ビーコン4のアップリンク率を示している。
【0037】
この光ビーコン4は、経過日数1日目から7日目の範囲では、アップリンク率が通常5.5%〜6%程度であるが、図中、経過日数8日目で、2%程度と急激に減少し、その後、アップリンク率が2〜4%の範囲を上下している。
ここで、第一閾値が、図に示すように、4%よりやや大きい値に設定されているとすると、判定部43は、経過日数8日目以降において、当該光ビーコン4には異常が有ると判定する。
【0038】
つまり、ある光ビーコン4のビーコンヘッド7における通過台数の内、車載機2を搭載している車両が含まれる確率が一定であるとすると、ビーコンヘッド7が正常に稼働していれば、図3中の経過日数1日目〜7日目に示すように、通過台数に変動があったとしても、アップリンク率は、ほぼ一定の値を示すと考えられる。
【0039】
しかし、ビーコンヘッド7の光学系に汚れが付着して汚染されたり、経年劣化、あるいは故障が生じると、正常に路車間通信が行われる確率が低下するので、図3中の経過日数8日目のように、アップリンク率に急激な低下が現れる。
本実施形態の判定部43は、上記のようなアップリンク率に生じる値の低下を各ビーコンヘッド7ごとに経時判定(絶対判定)することで、各ビーコンヘッド7の異常の有無を検出することができる。
【0040】
判定部43は、判定結果を出力部44に出力する。出力部44は、前記判定結果をディスプレイ等に表示することで、管制室のオペレータ等に、各ビーコンヘッド7の異常の有無を認識させる。
【0041】
〔効果について〕
上記のように、本実施形態の中央装置3は、車両Cに搭載された車載機2との間で光信号による双方向通信を行う、道路R側に設置された光ビーコン4に生じる異常の有無を検出する異常検出部40を有しており、光ビーコン用異常検出装置を構成している。
本実施形態の中央装置3の異常検出部40は、光ビーコン4のビーコンヘッド7が所定期間内に通信を行った車載機2の通信台数、及び、前記所定期間内に光ビーコン4のビーコンヘッド7の通信領域Aを通過した車両Cの通過台数を用いて、前記所定期間内におけるアップリンク率を求める演算部42と、前記アップリンク率に基づいて、光ビーコン4のビーコンヘッド7の異常の有無を判定する判定部43と、を備えていることを特徴としている。
【0042】
このような異常検出部40を備えた中央装置3によれば、光ビーコン4のビーコンヘッド7のアップリンク率に基づいて、光ビーコン4のビーコンヘッド7の異常の有無を判定する判定部43を備えているので、光ビーコン4のビーコンヘッド7に異常が生じることでそのアップリンク率に変化が生じれば、当該光ビーコン4のビーコンヘッド7に異常が有ると判定し、その異常を検出することができる。このため、光ビーコン4のビーコンヘッド7を直接点検せずとも、より簡易に光ビーコン4のビーコンヘッド7に生じる異常の有無を検出することができる。
【0043】
また、異常検出部40は、演算部42が過去に求めた過去のアップリンク率を記憶する記憶部41をさらに備え、判定部43は、アップリンク率の平均値等を用いることで前記過去のアップリンク率と、現在のアップリンク率とに基づいて、光ビーコン4のビーコンヘッド7の異常の有無を判定するように構成されている。
このため、本実施形態の判定部43は、アップリンク率の平均値といった、過去のアップリンク率に基づく値と、現在のアップリンク率とを比較することで経時的な判定を行うことができ、異常の有無をより精度良く検出することができる。
【0044】
なお、上記説明では、判定部43は、求めたアップリンク率が第一閾値を下回れば、その光ビーコン4には異常があると判定する場合を示したが、例えば、第一閾値を下回ってから、予め定めた待機日数はそのまま異常が無いと判定し、前記待機日数(例えば、3日程度)が経過した段階で異常が有ると判定するように構成してもよい。この場合、異常によるアップリンク率の低下ではなく、他の要因によって突発的にアップリンク率が低下した場合に、誤って異常があると判定するのを防止できる。
【0045】
〔第二の実施形態について〕
上記実施形態では、光ビーコン4のビーコンヘッド7ごと個別に、アップリンク率の平均値といった過去のアップリンク率の値に基づいて経時的に判定(絶対判定)を行う場合を示したが、例えば、同一の路線上に並んで設置されている複数の光ビーコン4のビーコンヘッド7同士であれば、そのアップリンク率がほぼ同じであることが考えられる。同一路線上においては、異なる地点であっても、交通環境が類似していると考えられるからである。
従って、同一の路線上に設置されている複数の異なる光ビーコン4のビーコンヘッド7同士間で、相対的に比較し判定(相対判定)することもできる。
以下、本発明の第二の実施形態に係る異常検出部40の判定部43が相対判定を行う態様について説明する。
【0046】
図4は、同一の路線上に路線の沿線方向に並んで設置されている複数の光ビーコン4のビーコンヘッド7の一例を示す平面図である。
図4において、各光ビーコン4のビーコンヘッド7は、多数の支線R2が交差する幹線道路R1の沿線方向に並ぶ所定の地点A〜Oに設置されている。
異常検出部40は、これら各地点A〜Oに設置されている各光ビーコン4のビーコンヘッド7それぞれの1日間におけるアップリンク率を求め、各地点に設置された光ビーコン4のビーコンヘッド7同士の間で、アップリンク率を相対的に比較判定を行う。
【0047】
より具体的に、判定部43は、記憶部41のデータベース41aに登録されている各地点のビーコンヘッド7の現在のアップリンク率(直近に求めたアップリンク率)に基づいて、ビーコンヘッド7に異常が生じているか否かを判定するための第二閾値を設定する。この場合、判定部43は、各地点A〜Oのビーコンヘッド7に対して、共通の第二閾値を設定し、各ビーコンヘッド7の判定を行う。判定部43は、各ビーコンヘッド7ごとに、現在のアップリンク率が前記第二閾値以上であればそのビーコンヘッド7に異常はないと判定し、前記第二閾値より小さければ、異常が有ると判定する。
【0048】
判定部43は、過去一定期間内における各地点のビーコンヘッド7のアップリンク率(直近の1日を除く過去一定期間内に求めたアップリンク率)の平均値を合計しその合計値をビーコンヘッド7の台数で除算して得られる平均値を求め、この平均値から所定の誤差マージンを差し引いた値を第二閾値として設定する。
また、判定部43は、現在における各地点のビーコンヘッド7のアップリンク率(直近の1日のアップリンク率)の平均値を合計しその合計値をビーコンヘッド7の台数で除算して得られる平均値を求め、これに基づいて第二閾値を設定してもよい。
【0049】
図5は、幹線道路Rの沿線方向に並ぶ地点A〜Oに設置された光ビーコン4のビーコンヘッド7における、演算部42が求めた、1日間におけるアップリンク率を示したグラフである。図中、横軸は、各地点A〜Oを示している。縦軸は、1日間におけるアップリンク率及び車両台数を示している。また、図中、棒グラフは、各ビーコンヘッド7の1日間の通信台数及び通過台数を示しており、折れ線グラフは、各ビーコンヘッド7のアップリンク率を示している。
【0050】
地点A〜F,H,I,M〜Oに設置されたビーコンヘッド7のアップリンク率は、図中、約5.6%に設定された第二閾値よりも大きい値となっている。このため、判定部43は、これら地点A〜F,H,I,M〜Oに設置されたビーコンヘッド7については、異常が無いと判定する。
【0051】
一方、地点G,J〜Lに設置されたビーコンヘッド7のアップリンク率は、第二閾値よりも小さい値となっている。このため、判定部43は、地点G,J〜Lに設置されたビーコンヘッド7については、異常が有ると判定する。
【0052】
つまり、上述したように、同一の幹線道路R上に並んで設置されている複数の光ビーコン4のビーコンヘッド7同士であれば、そのアップリンク率がほぼ同じであることが考えられる。
しかし、ビーコンヘッド7の光学系に汚れが付着して汚染されたり、経年劣化、あるいは故障が生じると、正常に路車間通信が行われる確率が低下するので、自装置とは異なる他のビーコンヘッド7と相対的に比較したときに、アップリンク率の低下が現れる。
本実施形態の判定部43は、上記のようなアップリンク率に生じる値の低下を位置関係に基づいて相対的に判定(相対判定)することで、ビーコンヘッド7の異常の有無を検出することができる。
【0053】
上記の場合、各ビーコンヘッド7が、互いに同一の幹線道路Rの沿線方向に並ぶ各地点A〜Oに設置されているので、各ビーコンヘッド7間で、交通環境に極端な差が生じない。従って、この場合、判定部43が、各ビーコンヘッド7の間で、アップリンク率を比較判定することで、異常の有無をより精度よく検出することができる。
【0054】
上記実施形態では、互いに同一の幹線道路Rの沿線方向に並ぶ各地点A〜Oに設置された光ビーコン4のビーコンヘッド7間で、アップリンク率の相対比較を行った。
これに対して、例えば、図6に示すように、同一の道路に異なる複数のビーコンヘッド7が設置される態様として、幹線道路Rが4つの車線R11〜R14を有する片側4車線の道路であって、各車線R11〜R14の上方それぞれに、支柱13から架設された架設バー14によって光ビーコン4のビーコンヘッド7が幹線道路Rの幅方向に沿って並べて設置されているものが考えられる。
【0055】
この場合においても、各車線R11〜R14に設置された各ビーコンヘッド7は、同一の幹線道路Rに設置されているので、各ビーコンヘッド7間で、交通環境に極端な差が生じない。従って、判定部43は、上記同様、異常の有無をより精度よく検出することができる。
【0056】
なお、図6の例では、本体部6の制御部6bは、各ビーコンヘッド7を個々に制御する。また、制御部6bは、各ビーコンヘッド7ごとに、前記通信台数情報、及び、前記感知台数情報を、通信部6aを介して中央装置3に随時送信する。
【0057】
〔第三の実施形態〕
図7は、第三の実施形態に係る判定部43のブロック図である。本実施形態の判定部43は、上述の絶対判定によって判定を行う機能を有している第一判定部43aと、上述の相対判定によって判定を行う機能を有している第二判定部43bと、これら両判定部43a,43bの判定結果に基づいて各光ビーコン4のビーコンヘッド7の異常の有無を包括的に判定する包括判定部43cとを備えている。
【0058】
第一判定部43aは、前記第一の実施形態にて示したように、光ビーコン4のビーコンヘッド7ごと個別に、平均値等の自装置の過去のアップリンク率の値に基づいて、現在のビーコンヘッド7のアップリンク率の良否を経時的に判定(絶対判定)する(第一の判定)。第一判定部43aは、判定した各ビーコンヘッド7についての判定結果を包括判定部43cに与える。
【0059】
第二判定部43bは、前記第二の実施形態にて示したように、同一の幹線道路R上に並んで設置されている、互いに異なる複数の光ビーコン4のビーコンヘッド7同士間で、相対的にアップリンク率を比較し、現在のビーコンヘッド7のアップリンク率の良否を位置関係に基づいて相対的に判定(相対判定)する(第二の判定)。第二判定部43bは、判定した各ビーコンヘッド7についての判定結果を包括判定部43cに与える。
【0060】
包括判定部43cは、両判定結果に基づいて各ビーコンヘッド7の異常の有無を判定する。
図8は、一の光ビーコン4のビーコンヘッド7について、第一及び第二判定部43a,43bの判定に対して、包括判定部43cが行う判定の一例を示す表である。
なお、図中、丸印は、良判定であり、異常無しと判定することを示している。三角印は、要注意判定であり、異常がある可能性があると判定することを示している。ばつ印は、異常判定であり、異常があると判定することを示している。
【0061】
包括判定部43cは、図8に示すように、第一の判定と第二の判定が、共に良判定である場合、前記一のビーコンヘッド7に異常がなく問題なしと判定する。前記一のビーコンヘッド7の状況としては、問題なしと判断することができる。
第一の判定が良判定、第二の判定が異常判定である場合、包括判定部43cは、前記一のビーコンヘッド7に異常がある可能性があるため、要注意と判定する。前記一のビーコンヘッド7の状況としては、アップリンク率の値としては問題ないが、位置関係においては相対的に低下していると判断することができる。
【0062】
第一の判定が異常判定、第二の判定が良判定である場合も、包括判定部43cは、前記一のビーコンヘッド7に異常がある可能性があるため、要注意と判定する。前記一のビーコンヘッド7の状況としては、アップリンク率の値として低いが、位置関係においては相対的に問題ないと判断できる。
第一の判定と第二の判定が、共に異常判定である場合、包括判定部43cは、前記一のビーコンヘッド7に異常があると判定する。前記一のビーコンヘッド7の状況としては、アップリンク率の値として低く、かつ、相対的にも低下していると判断できる。
【0063】
上記のように、本実施形態の判定部43は、平均値等の過去のアップリンク率の値に基づいて、複数の光ビーコン4のビーコンヘッド7の内の一のビーコンヘッド7における現在のアップリンク率の良否を判定する第一の判定と、同一の幹線道路R上に並んで設置されている複数の光ビーコン4のビーコンヘッド7それぞれのアップリンク率に基づいて、前記一のビーコンヘッド7における現在のアップリンク率の良否を判定する第二の判定とを行い、両判定の結果に基づいて前記一のビーコンヘッド7の異常の有無を判定する。
この場合、光ビーコン4のビーコンヘッド7の異常の有無を、過去のアップリンク率に基づく判定と、他の光ビーコン4のビーコンヘッド7のアップリンク率に基づく判定とによって判定することができるので、より多面的な判定を行うことができる。
【0064】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上記実施形態ではなく、特許請求の範囲と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
例えば、上記各実施形態では、ビーコンヘッド7の通信領域Aを通過する車両を感知するための感知センサ10を設けたが、ビーコンヘッド7と別個独立した、通信領域Aを通過する車両を感知するための感知器を道路上に設置してもよい。
【0065】
また、上記各実施形態では、中央装置3に異常検出部40を設けることで、中央装置3が光ビーコン用の異常検出装置を構成する場合を示したが、中央装置3とは独立した異常検出装置として、交通管制システムに設けることもできる。この場合、当該異常検出装置を管制室に設置してもよいが、各光ビーコン4のビーコンヘッド7が出力する必要な情報を取得することができれば、システム中のどの場所に設置してもよい。
【0066】
また、上記各実施形態では、演算部42は、アップリンク率を1日単位で求めたが、例えば12時間単位や1時間単位といったようにより短い期間で求めることもできるし、2日単位や1週間単位といったようにより長い期間で求めることもできる。
【符号の説明】
【0067】
2 車載機
3 中央装置
4 光ビーコン
40 異常検出部
41 記憶部
42 演算部
43 判定部
43a 第一判定部
43b 第二判定部
43c 包括判定部
C 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載機との間で光信号による双方向通信を行う、道路側に設置された光ビーコンに生じる異常の有無を検出するための光ビーコン用異常検出装置であって、
前記光ビーコンが所定期間内に通信を行った車載機の通信台数、及び、前記所定期間内に前記光ビーコンが通信可能な通信領域を通過した車両の通過台数を用いて、前記所定期間内におけるアップリンク率を求める演算部と、
前記アップリンク率に基づいて、前記光ビーコンの異常の有無を判定する判定部と、
を備えていることを特徴とする異常検出装置。
【請求項2】
前記演算部が過去に求めた過去のアップリンク率を記憶するための記憶部をさらに備え、
前記判定部は、前記過去のアップリンク率と、現在のアップリンク率とに基づいて、前記光ビーコンの異常の有無を判定する請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記演算部は、異なる複数の前記光ビーコンのアップリンク率をそれぞれ演算し、
前記判定部は、前記過去のアップリンク率に基づいて前記異なる複数の前記光ビーコンの内の一の光ビーコンにおける現在のアップリンク率の良否を判定する第一の判定と、前記異なる複数の前記光ビーコンそれぞれのアップリンク率に基づいて前記一の光ビーコンにおける現在のアップリンク率の良否を判定する第二の判定と、を行い、両判定の判定結果に基づいて前記一の光ビーコンの異常の有無を判定する請求項2に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記演算部は、異なる複数の前記光ビーコンのアップリンク率をそれぞれ演算し、
前記判定部は、前記異なる複数の前記光ビーコンそれぞれのアップリンク率に基づいて、前記異なる複数の前記光ビーコンそれぞれの異常の有無を判定する請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記異なる複数の前記光ビーコンは、互いに同一の路線上に設置されている請求項4に記載の異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−198779(P2012−198779A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62727(P2011−62727)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】