説明

光ビーム走査装置

【課題】光ビーム走査装置の走査歪み補正手段として、1個の光学素子によって走査歪みを有効に補正すること。
【解決手段】光ビーム走査装置100において、光ビームを発生する光源1,2,3と、光源から発生された光ビームを偏向ミラーの回転により2次元的に偏向する偏向ミラー装置9と、偏向ミラー装置9で偏向された光ビームのスクリーン11への投射方向を補正する走査歪み補正手段とを備える。走査歪み補正手段は、光ビームの光軸に対して非対称で非球面形状である自由曲面からなる透過面または反射面を有する1個の光学素子(自由曲面レンズ10または自由曲面ミラー15)で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ビーム走査装置に係り、特に偏向ミラーを回転させて光ビームを2次元的に走査することにより、スクリーン等に画像を投射表示する光ビーム走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光源から発せられた光ビームを偏向手段によって2次元的に偏向することでスクリーン上を走査させ、その残像効果によってスクリーン上に2次元画像を投射表示する光ビーム走査装置(または走査型画像表示装置)が提案されている。このような光ビーム走査装置において、光源から出射した光ビームを2次元的に偏向させる偏向手段として、ガルバノミラーやMEMS(Micro Electro−Mechanical Systems)ミラーなどのミラー回転型偏向デバイスが用いられている。
【0003】
しかしながら、このようなミラー回転型偏向デバイスを用いて光ビームを2次元的に偏向した場合、水平方向の回転角(偏向角)と垂直方向の回転角(偏向角)の組み合わせによってそれぞれの走査方向に傾き誤差が生じ、その結果スクリーン上に表示される2次元画像に歪が発生するという問題がある。すなわち、ミラー回転型偏向デバイスを用いた光ビーム走査装置においては、2次元画像を高品位に表示するために、光ビームの走査に伴う2次元画像の歪みを良好に補正する技術が必要となる。
【0004】
例えば特許文献1には画像歪みを補正するための光走査装置が開示され、光源手段から発せられた光束を第1走査方向とそれに直交する第2走査方向に偏向する偏向手段と、偏向された光束を被走査面上に導光する走査光学系を有する。偏向手段は第1走査方向において正弦波駆動する偏向器を有し、走査光学系を構成する1つの光学面は、第1走査方向の中心から周辺部へ向かうに連れて第1走査方向の2階微分値が偏向光束を発散させる方向に変化する形状で、その形状が第2走査方向に連なっているものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−178346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で開示されているような従来の補正手段は、走査歪みの補正に関して有効であるものの、歪み補正用の走査光学系として、自由曲面形状を備えた3枚の光学面(反射面もしくはレンズ面)を必要とし、装置の大型化や複雑化が免れない。
【0007】
以上のような状況に鑑み本発明では、走査歪み補正手段として、1個の光学素子によって走査歪みを有効に補正する光ビーム走査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光ビームをスクリーンへ投射し、光ビームをスクリーン上で2次元的に走査する光ビーム走査装置において、光ビームを発生する光源と、光源から発生された光ビームを偏向ミラーの回転により2次元的に偏向する偏向ミラー装置と、偏向ミラー装置で偏向された光ビームのスクリーンへの投射方向を補正する走査歪み補正手段とを備え、走査歪み補正手段は、光ビームの光軸に対して非対称で非球面形状である自由曲面からなる透過面または反射面を有する1個の光学素子で構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1個の光学素子によって走査歪みを良好に補正することができ、2次元画像を高品位に表示する小型で低コストな光ビーム走査装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による光ビーム走査装置の第1の実施例を示す斜視図。
【図2A】従来の光ビーム走査装置で発生する走査歪みの例を示す図(α=0°)。
【図2B】従来の光ビーム走査装置で発生する走査歪みの例を示す図(α=90°)。
【図3】自由曲面レンズ10のレンズ面形状を設計するための解析モデルを示す図。
【図4】自由曲面レンズ10の入射面形状を3次元状に図形化した図。
【図5】自由曲面レンズ10による走査歪み低減効果を示す図。
【図6】本発明による光ビーム走査装置の第2の実施例を示す平面図。
【図7】自由曲面ミラー15の反射面形状を設計するための解析モデルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明による光ビーム走査装置の第1の実施例を示す斜視図である。光ビーム走査装置100の構成を説明する。
【0013】
レーザ光源1は例えば波長520nm帯の緑色光ビームを出射し、出射された緑色光ビームは、コリメートレンズ4にて略平行な光ビーム21に変換される。レーザ光源2は例えば波長640nm帯の赤色光ビームを出射し、出射された赤色光ビームは、コリメートレンズ5にて略平行な光ビーム22に変換される。レーザ光源3は例えば波長440nm帯の青色光ビームを出射し、出射された赤色光ビームは、コリメートレンズ6にて略平行な光ビーム23に変換される。各レーザ光源1,2,3からは、画像信号の各色成分の信号に応じた強度の光ビームが出射される。
【0014】
波長選択性ミラー7は、前記緑色光ビーム21を透過し前記赤色光ビーム22を反射する。波長選択性ミラー8は、前記緑色光ビーム21と前記赤色光ビーム22を透過し、前記青色光ビーム23を反射する。波長選択性ミラー7,8を透過あるいは反射した各光ビーム21,22,23は1本の光ビーム24に合成されて進行する。その際各光ビームは、それらの光束断面が互いに重なり合うよう各光軸の傾きと位置が調整されている。合成された光ビーム24は、光ビーム走査用の偏向ミラー装置9に入射する。
【0015】
偏向ミラー装置9は、入射した光ビーム24を反射する1個の反射ミラー(以下、偏向ミラーと呼ぶ)と該偏向ミラーを2次元的に回転駆動する駆動機構(図示せず)を有し、入射光ビーム24を反射光ビーム27に変換して所定距離離れたスクリーン11上に投射する。偏向ミラーは駆動機構により、図中のZ軸に略平行な回転軸30およびX−Y平面に略平行な回転軸31の回りに、それぞれ所定角度(偏向角)だけ周期的に反復回転運動を行う。このような構成の偏向ミラー装置9は、2軸1面型偏向ミラー装置と呼ばれるが、この構成は光ビーム走査装置の小型化あるいは光学部品点数の削減の観点から有利である。偏向ミラー装置9は、例えばMEMSミラーやガルバノミラー等を用いて構成できる。
【0016】
本実施例では、偏向ミラー装置9に対する入射光ビーム24の光軸をX軸方向としたとき、反射光ビーム27の光軸が略Y軸方向となるよう、両者が略直交するように設定している。すなわち、反射光ビーム27がスクリーン11上の中央位置(走査原点)を投射している状態で、2つの光ビーム24,27のなす角度αが略90°となる。言い換えれば、偏向ミラー装置9内の偏向ミラー面に対する入射光ビーム24の入射角度(偏向ミラー面の法線方向となす角度)は、α/2=略45°に設定されている。このように、偏向ミラー装置9に対する入射光ビーム24と反射光ビーム27の光軸を略直交させることで、光ビーム走査装置100の構成を簡略化し、小型化することができる。
【0017】
偏向ミラー装置9からスクリーン11上に投射された反射光ビーム27は、スクリーン11上において水平方向(H軸方向)および垂直方向(V軸方向)に2次元的に走査される。その際、スクリーン11上における反射光ビーム27の走査位置に同期して各レーザ光源1,2,3の光出力をそれぞれに独立に変調させることで、人間の眼の残像現象を利用してスクリーン11上に2次元状のカラー画像を表示させる。
【0018】
本実施例では、偏向ミラー装置9とスクリーン11の間の反射光ビーム27の光路中に、走査歪みを低減する走査歪み補正手段として自由曲面レンズ10を配置している。自由曲面レンズ10の形状は、中心光軸に対して非対称で所定の非球面形状を有するレンズであり、以下このような形状を「自由曲面」と呼ぶことにする。このように本実施例では、自由曲面レンズ10という1個の光学素子によって走査歪みを補正するものであり、装置の小型化と低コスト化を実現することができる。
【0019】
次に、走査歪み補正手段としての自由曲面レンズ10の機能について説明する。
はじめに、従来の光ビーム走査装置において発生する走査歪みについて説明する。偏向ミラー装置9から反射した光ビーム27をそのまま直接スクリーン11に投射した場合、スクリーン上を2次元的に走査させると、表示される画像には走査歪みが発生する。
【0020】
図2Aと図2Bは、従来の光ビーム走査装置で発生する走査歪みの例を示す図である。偏向ミラー装置9は、偏向ミラーを水平方向に最大±12°、垂直方向に最大±9°の偏向角で反復回転させる。そして、偏向ミラー装置9から約1m離れた位置にあるスクリーン11上に長方形枠のテスト画像を表示させたものである。横軸は水平方向(図1のH軸方向)の寸法、縦軸は垂直方向(図1のV軸方向)の寸法を表す。
【0021】
図2Aは、走査原点における偏向ミラー装置9に対する入射光ビーム24の光軸と反射光ビーム27の光軸がなす角度α=0°の場合を示す。図2Bは、走査原点における偏向ミラー装置9に対する入射光ビーム24の光軸と反射光ビーム27の光軸がなす角度α=90°の場合を示す。両図とも記号(ア)で示す破線の枠が本来表示されるべき正しい長方形枠の画像であるのに対し、記号(イ)で示す実線の枠が実際に表示される長方形枠の画像を示す。
【0022】
両図から明らかなように、スクリーン11上に実際に表示される画像(イ)には、本来表示されるべき正しい画像(ア)に対して画像歪みが生じている。走査歪みの発生は、偏向ミラーに対し水平方向の回転と垂直方向の回転とを同時に組み合わせると、偏向ミラー面に対する入射光ビームの立体的な入射角が所望の角度からずれてしまうことによるもので、偏向ミラー方式の光ビーム走査装置においては避け得ない現象である。そして図2Aと図2Bを比較すると、発生する走査歪み量は入射光ビーム24の光軸と反射光ビーム27の光軸がなす角度α(または偏向ミラー面に対する入射角α/2)に依存し、図2Bのようにα=90°の場合に歪み量は増大し、かつ歪み量が左右方向で非対称になり画像左側では縦幅歪みが顕著になる。
【0023】
次に、走査歪み補正用の自由曲面レンズ10のレンズ面形状について説明する。
図3は、自由曲面レンズ10のレンズ面形状を設計するための解析モデルを示す図である。ここでは解析に関わる主要部品である偏向ミラー装置9、自由曲面レンズ10、スクリーン11を示し、図1と同一の部品には同一の符号を付している。なお、偏向ミラー装置9から自由曲面レンズ10までの光ビームを符号25、自由曲面レンズ10内の光ビームを符号26、自由曲面レンズ10からスクリーン11までの光ビームを符号27として区別する。
【0024】
まず、レーザ光源側から偏向ミラー装置9に入射する光ビーム24の光線ベクトル(光ビームの進行方向を表す単位ベクトル、以下に述べる各光線ベクトルについても同様)をIとする。偏向ミラー装置9の偏向ミラー面9aの面法線ベクトル(単位ベクトル)をNとする。偏向ミラー装置9では、偏向ミラーを互いに垂直な回転軸30および31の回りに反復回転駆動させている。この偏向ミラーの各々の回転角から偏向ミラー面9aの面法線ベクトルNが決まる。偏向ミラー装置9を反射して自由曲面レンズ10に向かう光ビーム25の光線ベクトルAは、反射の基本式により(1)式で表される。
A=I−2・(I*N)・N (1)
ただし(1)式において、各ベクトルは3次元ベクトルであり、記号「・」は単純なスカラー積、「*」は、ベクトルの内積を表す。以後の数式においても同様に記述する。
【0025】
(1)式から、偏向ミラー装置9に対する入射光ビーム24の光線ベクトルIと、反射光ビーム25の光線ベクトルAの関係が求まり、両者の光線ベクトルのなす立体角θが決定される。なお、この時決定される立体角θは、図3では簡単のため図中のX−Y平面(すなわち紙面)と平行な面内で形成されているように描いているが、実際にはZ方向も含んだ3次元空間内の立体角となることは言うまでもない。
【0026】
次に、偏向ミラー装置9で反射された光線ベクトルAで示される光ビーム25は、自由曲面レンズ10に向い、入射面10a上の点Pに入射する。図3の例では、この入射面10aは自由曲面形状としており、点Pにおける入射面10aの面法線ベクトルをVとする。自由曲面レンズ10の設計ではこのベクトルVを求めることになるが、この時点ではベクトルVは未知である。また自由曲面レンズ10の屈折率をnとする。点Pにて屈折してレンズ10内を進行する光ビーム26の光線ベクトルBは、屈折の基本式により(2)式で表される。
B=−V・{1−(1/n)・[1−(A*V)]}(1/2)
+(1/n)・[A−(A*V)・V] (2)
【0027】
次に、自由曲面レンズ10内を進行する光線ベクトルBで示される光ビーム26は、レンズ10の出射面10b上の点Qに達する。点Qにおける出射面10bの面法線ベクトルをW(図示せず)とする。点Qにて再び屈折して自由曲面レンズ10外へ出射する光ビーム27の光線ベクトルCは、屈折の基本式により(3)式で表される。
C=−W・{1−n・[1−(B*W)]}(1/2)
+n・[B−(B*W)・W] (3)
【0028】
ここで、簡単のため、出射面10bは図中のX軸に平行な平面と仮定する。すると点Qにおける出射面10bの面法線ベクトルWのXYZ成分は、(0,1,0)となる。
【0029】
従って、上記(1)、(2)及び(3)式から、自由曲面レンズ10を出射しスクリーン11に向かう光ビーム27の光線ベクトルCは、偏向ミラー装置9に入射する光線ベクトルIと、偏向ミラー装置9の偏向ミラー面9aの面法線ベクトルNと、自由曲面レンズ10の入射面10aの入射点Pにおける面法線ベクトルVと、レンズの屈折率nによって求められる。そしてこの光線ベクトルCが分かれば、光線ベクトルCに沿って進行する光ビーム27が到達するスクリーン11上の位置Rも求められる。
【0030】
ここで、走査歪みがない理想的な走査状態において、偏向ミラー装置9の各回転軸30および31に与える回転角(すなわち偏向ミラー装置9の偏向ミラー面9aの面法線ベクトルN)と、それによりスクリーン11上で光ビーム27を到達させる目標点Rの座標(すなわち光ビーム27の光線ベクトルC)との関係は別途定められている。よって、理想状態での面法線ベクトルNと光線ベクトルCの数値を前記(1)、(2)、(3)式に代入して、これらの式が満足するように自由曲面10aの面法線ベクトルVを逆算する。これにより、スクリーン11の任意の目標点Rに対して、自由曲面レンズ10の対応する入射点Pにおける面法線ベクトルV(すなわち自由曲面である入射面10aの傾きの値)を求めることができる。そして、スクリーン11の目標点Rの座標とそれに対する偏向ミラー装置9の回転角の条件を順次与えてやれば、自由曲面レンズ10の対応する入射点での傾きの値が順次得られる。スクリーン11の走査中心を原点にこれらの傾きの値を順次積分することで、最終的に自由曲面レンズ10の入射面10aの形状を決定することができる。
【0031】
【表1】

【0032】
表1は、上記の手順で求めた自由曲面レンズ10の入射面形状の具体例を示したものである。また図4は、表1の係数値で示される自由曲面の形状を3次元状に図形化したものである。
【0033】
表1では、自由曲面レンズ10の曲面形状の係数値として曲率半径、円錐定数、非球面定数等を、非球面レンズのレンズ面記述方式に従い示している。上段の数値は、曲面10aを図4のX−Y面で切断した場合の断面形状データを表し、下段の数値は、Y−Z面で切断した場合の断面形状データを表している。このように、縦断面(Y−Z断面)と横断面(X−Y断面)で異なる曲率を有する曲面形状であり、このような形状はアナモルフィック形状と呼ばれる。
【0034】
一方、最右欄の偏芯量は、上記曲率半径、円錐定数、非球面定数で決められた軸対称な断面をX軸に沿って偏芯させる距離を表している。この偏芯の項が存在することは、求められた曲面が原点を通る中心光軸に対してX軸方向に非対称であることを示している。この非対称性は本実施例の自由曲面レンズ10の特徴であり、図2Bで示したような左右非対称に発生する走査歪を補正するために有効となる。
【0035】
図5は、自由曲面レンズ10による走査歪み低減効果を示す図である。光ビーム走査装置に、表1や図4で示した自由曲面レンズ10を配置した場合に、スクリーンに表示される長方形枠の画像を示したものである。投射条件は図2B(α=90°)と同様であり、記号(ア)で示す破線の枠が本来表示されるべき長方形枠の画像、記号(イ)で示す実線の枠が実際に表示される長方形枠の画像を示す。
【0036】
図5の結果を走査歪補正なしの前記図2Bの結果と比較すると、自由曲面レンズ10を設けることで、走査歪みを良好に低減し、図2Bで見られた左右非対称の縦幅歪みをほぼ解消できることが分かる。
【0037】
ところで、図3、図4および表1で説明した自由曲面レンズ10は、説明を簡単にするため、光ビームの入射面10aのみを自由曲面とし、光ビームの出射面10bを平面形状とした。自由曲面レンズ10はこの形状に限定されず、出射面10bを自由曲面形状とすることで、さらに走査歪みを低減しより理想的な補正を行うことが可能である。
【0038】
更には、互いに異なる屈折率あるいは屈折率分散値を備えたガラス材から作製された複数の自由曲面レンズを組み合わせることによって、ガラス材の屈折率波長依存性に起因するいわゆる色収差を良好に抑圧することもできる。
【0039】
なお、図5の例においては左右非対称の縦幅歪みは良好に低減されているものの、記号(ウ)で示す横ずれ方向歪み(すなわち縦方向の直線の歪み)は未だ相当量残留している。この残留横ずれ歪みに対しては、上記したようにレンズ出射面10b側も自由曲面形状とし、さらにレンズ曲面形状の係数に高次の項を追加することで解消することができる。
【0040】
一方において、このような横ずれ方向歪み(縦方向の直線の歪み)は、電気的な処理によっても良好に解消することができる。光ビーム走査装置においては、偏向ミラー装置9のミラー偏向駆動に同期して、各レーザ光源の光出力をそれぞれ独立に変調させている。そこで、光ビームを水平方向に走査中にこの光出力変調のタイミングを上記横ずれ歪に相当する時間だけずらすようにする。そして画面内の垂直方向位置に応じてタイミングずらし量を可変とすることで、実際に目視される画像の横ずれ方向歪みを解消することができる。
【0041】
本実施例では、偏向ミラー装置9に対する入射光ビーム24と反射光ビーム27のなす角度αが90°の場合を述べたが、本実施例はこの角度に限定されるものではない。角度αの大きさに応じて発生する走査歪みの程度は変化するが、いずれの場合でも自由曲面レンズ10を設けることでその走査歪みを同様に低減することができる。
【0042】
また上記実施例では、偏向ミラー装置9は互いに垂直な2つの回転軸で1個の偏向ミラーを回転駆動する2軸1面型偏向ミラー装置としたが、本実施例はこれに限定されない。例えば、互いに略垂直な回転軸からなる2面の偏向ミラーを備え、入射した光ビームを2面の偏向ミラーに順次反射させる構成とした1軸2面型の偏向ミラー装置においても、同様に走査歪みが発生するから、本実施例の自由曲面レンズ10を同様に適用できる。
【0043】
このように本実施例によれば、自由曲面レンズ10という1個の光学素子によって走査歪みを良好に補正することができ、2次元画像を高品位に表示する小型で低コストな光ビーム走査装置を実現できる。
【実施例2】
【0044】
図6は、本発明による光ビーム走査装置の第2の実施例を示す平面図である。前記実施例1(図1)では、走査歪み補正手段として透過型の自由曲面レンズ10を用いたが、本実施例では反射型の自由曲面ミラー15を用いている。図1と同じ構成要素については同じ符号を付しており、それらの繰り返しの説明は省略する。
【0045】
レーザ光源1,2,3側から出射され合成された光ビーム24は、偏向ミラー装置9で反射されて光ビーム25となる。偏向ミラー装置9に対する入射光ビーム24と出射光ビーム25の光軸のなす角度をβとする。偏向ミラー装置9で反射された光ビーム25は走査歪み補正用の自由曲面ミラー15に入射し、さらに反射されて反射光ビーム27となりスクリーン11に向って投射される。自由曲面ミラー15に対する入射光ビーム25と出射光ビーム27の光軸のなす角度をγとする。
【0046】
本実施例では光ビームを2回反射することになるが、それらの反射時の角度βとγをいずれも略45°とすることで、レーザ光源側から入射した光ビーム24(X軸方向)を、これに略直交する光ビーム27(Y軸方向)に変換してスクリーン11へ出射している。偏向ミラー装置9では装置内の偏向ミラーを所定角度(偏向角)だけ周期的に反復回転駆動することで、スクリーン11上に投射される光ビーム27は、水平方向(X方向)および垂直方向(Z方向)に2次元的に走査されて画像を表示する。
【0047】
本実施例における自由曲面ミラー15は、その反射面形状を反射面中心に対して非対称で所定の非球面形状を有する自由曲面形状としている。これにより、偏向ミラー装置9による光ビームの2次元走査に起因する走査歪みを良好に低減する。次に、走査歪み補正用の自由曲面ミラー15の反射面形状について説明する。
【0048】
図7は、自由曲面ミラー15の反射面形状を設計するための解析モデルを示す図である。
まず、偏向ミラー装置9の偏向ミラー面9aに入射する光ビーム24の光線ベクトルをIとし、偏向ミラー面9aの面法線ベクトルをNとする。この偏向ミラーを反射する光ビーム25の光線ベクトルAは、前記(1)式と同様に(4)式で表される。
A=I−2・(I*N)・N (4)
【0049】
次に、偏向ミラー装置9で反射された光線ベクトルAで示される光ビーム25は、自由曲面ミラー15に向い、反射面15a上の点Pに入射する。点Pにおける反射面15aの面法線ベクトルをVとするとき、この点Pで反射された光ビーム27の光線ベクトルCは、(5)式で表される。
C=A−2・(A*V)・V (5)
【0050】
従って上記(4)及び(5)式から、自由曲面ミラー15で反射しスクリーン11に向かう光ビーム27の光線ベクトルCは、偏向ミラー装置9に入射する光線ベクトルIと、偏向ミラー装置9の偏向ミラー面9aの面法線ベクトルNと、自由曲面ミラー15の反射面15aの面法線ベクトルVによって求められる。そしてこの光線ベクトルCが分かれば、光線ベクトルCに沿って進行する光ビーム27が到達するスクリーン11の位置Qも求められる。
【0051】
ここで、走査歪みがない理想的な走査状態において、偏向ミラー装置9の各回転軸30および31に与える回転角(すなわち偏向ミラー装置9の偏向ミラー面9aの面法線ベクトルN)と、それによりスクリーン11上で光ビーム27を到達させる目標点Qの座標(すなわち光ビーム27の光線ベクトルC)との関係は別途定められている。よって、理想状態での面法線ベクトルNと光線ベクトルCの関係を前記(4)、(5)式に代入して、これらの式が満足するように自由曲面ミラー15の面法線ベクトルVを逆算する。これにより、スクリーン11の任意の目標点Qに対して、自由曲面ミラー15の対応する入射点Pにおける面法線ベクトルV(すなわち反射面15aの傾きの値)を求めることができる。そして、スクリーン11の目標点Qの座標とそれに対する偏向ミラー装置9の回転角の条件を順次与えてやれば、自由曲面ミラー15の対応する入射点での傾きの値が順次得られる。スクリーン11の走査中心を原点にこれらの傾きの値を順次積分することで、最終的に自由曲面ミラー15の反射面15aの形状を決定することができる。
【0052】
このようにして決定した自由曲面ミラー15を用いることで、実施例1の場合と同様に、走査歪みを良好に低減し、また画面内の非対称歪みも解消することができる。このように本実施例によれば、自由曲面レンズ10という1個の光学素子によって走査歪みを良好に補正することができ、2次元画像を高品位に表示する小型で低コストな光ビーム走査装置を実現できる。
【0053】
なお本実施例では、走査歪み補正手段として反射型の自由曲面ミラー15を用いているので、透過型の自由曲面レンズを用いる実施例1と比較し、レンズ屈折率の波長依存性に起因する色収差の問題が原理的に発生しないという特徴がある。
【符号の説明】
【0054】
1,2,3…レーザ光源、
4,5,6…コリメートレンズ、
7,8…波長選択性ミラー、
9…偏向ミラー装置、
10…自由曲面レンズ、
11…スクリーン、
15…自由曲面ミラー、
100…光ビーム走査装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビームをスクリーンへ投射し、該光ビームを該スクリーン上で2次元的に走査する光ビーム走査装置において、
前記光ビームを発生する光源と、
前記光源から発生された光ビームを偏向ミラーの回転により2次元的に偏向する偏向ミラー装置と、
該偏向ミラー装置で偏向された光ビームの前記スクリーンへの投射方向を補正する走査歪み補正手段とを備え、
該走査歪み補正手段は、光ビームの光軸に対して非対称で非球面形状である自由曲面からなる透過面または反射面を有する1個の光学素子で構成したことを特徴とする光ビーム走査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光ビーム走査装置において、
前記光学素子は、入射面または出射面の少なくとも一方が自由曲面である自由曲面レンズである自由曲面レンズであることを特徴とする光ビーム走査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光ビーム走査装置において、
前記光学素子は、反射面が自由曲面である自由曲面ミラーであることを特徴とする光ビーム走査装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光ビーム走査装置において、
前記光学素子の自由曲面は、縦断面と横断面で異なる曲率を有するアナモルフィックな自由曲面であることを特徴とする光ビーム走査装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光ビーム走査装置において、
前記光学素子の自由曲面は、前記光ビームの光軸に対し前記非球面形状の対称軸が所定距離だけ偏芯していることを特徴とする光ビーム走査装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−247603(P2012−247603A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118884(P2011−118884)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000153535)株式会社日立メディアエレクトロニクス (452)
【Fターム(参考)】