光ビーム走査装置
【課題】電気光学素子から出力される偏向された光ビームのビーム形状の歪を抑制して、良好な強度分布を有する光ビームを出力することができる光ビーム走査装置を提供する。
【解決手段】レーザ光発生源3から出力される走査ビームaの波長よりも短い波長のポンプ光bを電気光学結晶基板8内に入射させるポンプ光光源4を設け、レーザ光発生源3から走査ビームaを出力させる際に、ポンプ光光源4から出力されたポンプ光bを、電気光学結晶基板8内の走査ビームaが伝播する領域に入射させる。
【解決手段】レーザ光発生源3から出力される走査ビームaの波長よりも短い波長のポンプ光bを電気光学結晶基板8内に入射させるポンプ光光源4を設け、レーザ光発生源3から走査ビームaを出力させる際に、ポンプ光光源4から出力されたポンプ光bを、電気光学結晶基板8内の走査ビームaが伝播する領域に入射させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビーム偏向素子(以下、「光偏向素子」という)として電気光学効果を有する電気光学素子を用いた光ビーム走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばレーザプリンタやレーザ加工装置などに用いられる光ビーム走査装置には、半導体レーザなどのレーザ光源と、レーザ光源からのレーザ光の進行方向を偏向する光偏向素子を備えている。光偏向素子として従来から一般的に用いられているものとしては、回転ポリゴンミラーやガルバノミラー、MEMSミラーのような光ビームの反射角を制御して光走査を行うものが知られている。
【0003】
ところで、近年、より高速に光ビームを走査することが可能な技術として、電気光学効果(Electro-Optical:EO効果)による光学材料の屈折率変化を利用した電気光学素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前記特許文献1には、三角形等に形成された分極反転ドメインを設けた強誘電体基板の両面に電極が配置された電気光学素子が開示されており、電極間への電圧印加によって分極反転ドメインが屈折率変化を起こすことで、通過する光ビームを偏向させることができる。
【0005】
上記電気光学効果を有する電気光学素子の動作原理について、図13および図14を参照して説明する。なお、図13(a),(b)は、電極を三角形状とした電気光学素子であり、図14(a),(b)は、電気光学材料からなる電気光学結晶基板に三角プリズム形状の分極反転領域を有している電気光学素子である。
【0006】
なお、図13、図14において、X軸方向はレーザ光の偏向方向、Y軸方向は電気光学素子への電圧印加方向、Z軸方向はレーザ光の伝播方向である。
【0007】
図13(a),(b)に示した電気光学素子は、電気光学材料からなる電気光学結晶基板100の両面に電極101a,101bがそれぞれ配置されている。電極101a,101bは、連続した三角形状部101cを有している。
【0008】
そして、電圧源102から電極101a,101b間に電圧を印加すると、その間の電気光学結晶基板100の分極軸(図13(a)の符号A)に平行な電界が形成される。符号Aは分極軸の向きを示している。電気光学結晶基板100の電界が形成された領域は電気光学効果によりその屈折率が変化する。ポッケルス効果による屈折率変化を利用する場合、電気光学結晶基板100の屈折率変化量Δnは、下記の式(1)で表される。
【0009】
【数1】
【0010】
式(1)において、nは電気光学結晶基板100(電気光学材料)の屈折率、rijは電気光学定数(ポッケルス定数)、Vは印加電圧、dは電気光学結晶基板100の厚み(結晶厚)である。
【0011】
そして、電気光学結晶基板100の入射端面にレーザ光aを入力し、電圧源102から電極101a,101b間に電圧を印加することによって、屈折率変化領域も三角形状となり、それぞれが光ビームに対してプリズム部として機能する。すなわち、屈折率変化領域を伝播するにしたがって光ビームは偏向角を与えられる。
【0012】
そして、電気光学結晶基板100の出射面から出力されるレーザ光(光ビーム)aの偏向角θは、電気光学結晶基板100(電気光学材料)の屈折率変化量に比例し、以下の式(2)で表される。
【0013】
【数2】
【0014】
式(2)において、Lはプリズム部全体(三角形状部101c全体)の長さ(図13(a)参照)、Dはプリズム部(三角形状部101c)の幅(図13(a)参照)である。
【0015】
従って、電気光学素子への印加電圧を制御することにより、任意の偏向角θにレーザ光aを出力させることが可能である。
【0016】
また、電気光学材料からなる電気光学結晶基板は、一般的にその分極軸を制御することが可能である。よって、図14(a),(b)に示すように、電気光学材料からなる電気光学結晶基板100に複数の三角形状のプリズム部を並べたような分極反転領域100aを持たせる。そして、この分極反転領域100a全体を覆うように電気光学結晶基板100の両面に配置された各電極層101a,101bを通じて電気光学結晶基板100に電圧を印加することによって、電気光学結晶基板100に三角形状の屈折率変化領域を作りだすことができる。
【0017】
よって、電気光学結晶基板100の屈折率変化領域(分極反転領域100a)とその他の領域で屈折率変化方向が異なることから、電気光学結晶基板100の内部に複数の三角形状のプリズム部を有する構造が得られる。図14(a)において、符号A1,A2は分極軸の向きを示している。
【0018】
そして、電気光学結晶基板100の入射端面にレーザ光aを入力し、電圧源102から電極101a,101b間に電圧を印加することによって、電気光学結晶基板100の三角形状の屈折率変化領域を伝播光ビーム伝播するにしたがって伝播光ビームは偏向角を与えられる。そして、電気光学結晶基板100の出射端面から偏向したレーザ光aが出力される。
【0019】
このように、分極反転領域100aでの分極反転による屈折率変化方向の反転により、屈折率変化量は図13(a),(b)に示した三角形状部の電極を有する電気光学素子の構成に対して2倍となる。よって、電気光学結晶基板100の出射端面から出力されるレーザ光(光ブーム)aの偏向角θは、以下の式(3)で表される。
【0020】
【数3】
【0021】
式(3)において、Lはプリズム部全体(分極反転領域100a全体)の長さ(図14(a)参照)、Dはプリズム部(分極反転領域100a)の幅(図14(a)参照)である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
ところで、電気光学素子の電気光学結晶基板を形成する電気光学材料に対して、一般的に知られている問題点としてフォトリフラクション(光損傷)がある。これは材料に高エネルギーの光が照射されると、その光ビームのビーム形状が大きく乱される現象である。フォトリフラクションの原因としては、光エネルギー励起によって材料内部に発生した自由電子がドリフトし、材料内にランダムな内部電界が形成されることと、この自由電子による内部電界が電気光学効果によって材料内部に不規則な屈折率変化を引き起こすことが考えられている。
【0023】
上記のフォトリフラクションの問題を解決するために、材料の組成を最適化することが試みられている。例えば一般的な電気光学材料および非線形光学材料としてニオブ酸リチウムがあるが、この材料はフォトリフラクション耐性が低く、波長変換素子としてグリーンレーザのような短波長のレーザビーム出力に対応するために、マグネシウム等の金属をドーピングしている。マグネシウムを最適量ドープすることによって材料の導電率を高めることで、光によって励起された電子のドリフト速度が上がり、材料内に均一な電子の分布が形成されるようになると考えられている。
【0024】
従って、光ビーム走査装置に光偏向素子として電気光学素子(電気光学光偏向素子)を使用した場合においても、走査するレーザ光の光強度に応じてフォトリフラクション耐性に優れた電気光学材料を使用することが有効である。
【0025】
ここで、図14(a),(b)に示したような電気光学素子の電気光学結晶基板(電気光学材料)に印加される電圧(電界強度)と、そのときに偏向角の関係を評価した。
【0026】
電気光学結晶基板(電気光学材料)としてニオブ酸リチウム結晶を想定し、屈折率n=2.2、電気光学定数rij=30.8pm/Vとする。
【0027】
また、素子構造として、電気光学結晶基板(電気光学材料)の厚さd=300μm、プリズム部の幅D=1mm、プリズム部全体の長さL=20mmとした場合に、上記の式(1)および式(2)より印加電圧Vと偏向角θの関係を計算すると、1.6kVppの電圧を印加した場合に、出力光ビームの偏向角(走査角)は1度、8.0kVppの電圧を印加した場合に、出力光ビームの偏向角(走査角)は5度となる。そして、電気光学結晶基板(電気光学材料)の内部に形成される電界強度は、それぞれ2.7kV/mm、3.3kV/mmとなり、極めて大きな電界が結晶内部に形成されることになる。
【0028】
ところで、従来から電気光学効果の応用として実用化されている光位相変調器や光強度変調器では、このような大きな電界は必要なく、例えば光強度変調器における結晶内部に形成される電界強度は、0.1kV/mm程度である。
【0029】
したがって、電気光学材料に極めて高電界を形成して動作させることは、光ビーム走査装置に用いる電気光学素子特有のものである。本願発明者は電気光学素子を備えた光ビーム走査装置を実際に製作および評価したことで、高電界形成時特有の下記のような問題点を見出した。
【0030】
即ち、フォトリフラクション耐性を高めるために、マグネシウムをドープしたニオブ酸リチウムを電気光学材料として用いた電気光学素子において、電圧を印加した際に素子内部を伝播する光ビームプロファイルが大きく乱れるという問題が確認された。
【0031】
上記の問題が発生する原因として、電気光学素子に電界を形成した際に、電気光学結晶基板(電気光学材料)内部に過剰な自由電荷が発生してドリフトすることでランダムな電界が形成され、材料の屈折率が不均一な分布を持つことが考えられる。この自由電荷が発生する要因は、二通り考えられる。
【0032】
一つは、電圧印加によって外部から電極を通して電荷が電気光学結晶基板(電気光学材料)内部に注入されることが考えられる。外部から注入された電子または正孔は自由電荷として結晶内部を動き、結晶内部に形成された電界分布を乱す。
【0033】
もう一つは材料内に存在するドナーサイトやアクセプタサイト、不純物準位等の欠陥準位にトラップされていた電荷が電圧印加によって励起され、自由電子として振舞うことが考えられる。いずれにしても電圧印加によって発生した自由電荷によって、電気光学結晶基板(電気光学材料)内部に局所的な電界が発生し、本来材料に形成されていた電界分布を乱す。
【0034】
上記の理由により、電気光学素子を用いた光ビーム走査装置において、電気光学素子から出力される光ビームのビーム形状が歪んでしまうという問題があった。なお、前記特許文献1に記載されているような、三角形等に形成された分極反転ドメインを設けた強誘電体基板の両面に電極が配置された電気光学素子を用いた場合でも、出力される光ビームのビーム形状の歪を抑制することはできなかった。
【0035】
更に、このビーム形状歪みは、一定時間以上所定の偏向角を維持する直流動作の際に顕著に現れる。これは、常に同じ極性で電圧印加が継続するためである。電気光学効果を利用した電気光学素子(光偏向素子)の特徴であるランダムアクセスを利用する場合、直流動作時でのビーム歪みが発生しないことが前提となる。しかしながら、上記ビーム歪みによって、ランダムアクセスを利用したときのビーム歪みが解消できず、光ビーム走査装置の走査性能を著しく低減させるという問題があった。
【0036】
そこで、本発明は、電気光学素子から出力される偏向された光ビームのビーム形状の歪を抑制して、良好な強度分布を有する光ビームを出力することができる光ビーム走査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
前記目的を達成するために本発明に係る光ビーム走査装置は、所定波長の光ビームを出射する光ビーム光源と、電気光学材料からなる電気光学結晶基板の両側に電極が配置された電気光学素子とを備え、前記各電極間に印加される電圧に応じて前記電気光学結晶基板に形成された屈折率変調領域の屈折率を変化させることにより、前記光ビーム光源から前記電気光学結晶基板に前記光ビームを入射させ、該電気光学結晶基板内を伝播する光ビームに対して所望の偏向角を与えて出射端面から外部へ出力する光ビーム走査装置において、前記光ビームの波長よりも短い波長のポンプ光を前記電気光学結晶基板内に入射させるポンプ光光源を設け、前記ポンプ光光源から出射された前記ポンプ光を、前記電気光学結晶基板内の前記光ビームが伝播する領域に入射させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る光ビーム走査装置によれば、ポンプ光光源から出射されたポンプ光を、電気光学結晶基板内の光ビームが伝播する領域に入射させることにより、電気光学結晶基板内の光ビームが伝播する領域の電界分布が乱されることなく、電気光学素子から出力される光ビームのビーム形状歪みを抑制することができる。よって、ビーム形状歪みのない光ビームによって良好な光ビーム走査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は、本発明の実施形態1に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図、(b)は、この光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図レンズ鏡筒を示す概略断面図。
【図2】(a)は、実施形態1に係る光ビーム走査装置の電気光学素子内を伝播する走査ビームとポンプ光の形状を模式的に示した図、(b)は、この光ビーム走査装置の電気光学素子の一部を示す概略側面図。
【図3】ポンプ光と走査ビームの光強度の関係を示した図。
【図4】本発明の実施形態2に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図。
【図5】(a)は、本発明の実施形態3に係る光ビーム走査装置の要部構成を示す概略側面図、(b)は、この光ビーム走査装置の要部構成を示す概略平面図。
【図6】本発明の実施形態4に係る光ビーム走査装置の要部構成を示す概略側面図。
【図7】本発明の実施形態5に係る光ビーム走査装置の要部構成を示す概略側面図。
【図8】(a)は、本発明の実施形態6に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図、(b)は、この光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図。
【図9】本発明の実施形態7に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図。
【図10】(a)は、本発明の実施形態8に係る光ビーム走査装置の電気光学素子の走査ビーム入射面側を示す図、(b)は、本実施形態に係る光ビーム走査装置の電気光学素子の一部を示す概略側面図。
【図11】(a)は、本発明の実施形態9に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図、(b)は、この光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図。
【図12】(a),(b)は、それぞれ実施形態9の変形例に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図。
【図13】電気光学効果を有する電気光学素子の動作原理を示す図。
【図14】電気光学効果を有する電気光学素子の動作原理を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。
【0041】
〈実施形態1〉
図1(a)は、本発明の実施形態1に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図、図1(b)は、この光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図である。
【0042】
図1(a),(b)に示すように、本実施形態に係る光ビーム走査装置1は、筐体2内に、レーザ光を発生するレーザ光発生源3、ポンプ光を発生するポンプ光発生源4、光偏向素子としての電気光学素子5、光コンバイナ6、および光分離素子7を主用構成部材として備えている。なお、本実施形態では、レーザ光発生源3から出力されたレーザ光が平行ビームして出射される光を走査ビームaという。
【0043】
なお、図1(a),(b)において、X軸方向は走査ビームaの偏向方向、Y軸方向は電気光学素子5への電圧印加方向、Z軸方向は走査ビームaの光伝播方向である。以下の図面においても同様である。
【0044】
レーザ光発生源3は、半導体レーザとコリーメントレンズ等で構成されており、所定波長のレーザ光(走査ビームa)を出力する。ポンプ光発生源4は、半導体レーザとコリーメントレンズ等で構成されており、所定波長のポンプ光bを走査ビームaの出射方向と直交する方向へ出力する。
【0045】
電気光学素子5は、電気光学材料からなる電気光学結晶基板8の両面に電極9a,9bが対向するようして配置された周知の構成である。電気光学結晶基板8は、複数の三角形状のプリズムを並べたような屈折率変化領域としての分極反転領域8aが形成されており、この分極反転領域8a全体を覆うように電気光学結晶基板8の両面に電極9a,9bが配置されている。そして、電極9a,9b間に電圧源10から電圧を印加することによって、電気光学効果により電気光学結晶基板8の分極反転領域8a(屈折率変化領域)の屈折率を変化させることができる。
【0046】
電気光学結晶基板8を構成する電気光学材料として、本実施形態ではマグネシウムをドープしたニオブ酸リチウム(以下、「Mg−LN」という)を用いた。
【0047】
光コンバイナ6は、レーザ光発生源3から出射された走査ビームaとポンプ光発生源4から出射されたポンプ光bとを結合させて電気光学素子5の電気光学結晶基板8へ入力させる機能を有している。光コンバイナ6として、例えばダイクロイックプリズム等を用いることができる。
【0048】
光分離素子7は、電気光学素子5の出射面から出力される走査ビームaとポンプ光bとを分離して走査ビームaのみを透過させる機能を有する波長選択フィルタ素子によって形成されている。
【0049】
そして、この光ビーム走査装置1において、ポンプ光発生源4からポンプbを出射させない場合、レーザ光発生源3から出力されたレーザ光は平行ビームとなり、走査ビームaとして光コンバイナ6を通して電気光学素子5の電気光学結晶基板8に入力される。なお、電気光学素子5には、電圧が印加された両側の電極9a,9bを介して電圧が印加されている。
【0050】
入力された走査ビームaは、電気光学素子5の電気光学結晶基板8内の伝播に伴い、分極反転領域8a(屈折率変化領域)によって所定の偏向角を与えられて出射面から出力され、光分離素子7を透過して筐体2に設けた透明な窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。そして、電気光学素子5への印加電圧を制御することにより、任意の偏向角(走査角)に走査ビームaを出力させることができる。
【0051】
ところで、本実施形態では、電気光学素子5の電気光学結晶基板8を構成する電気光学材料としてMg−LNを用いている。Mg−LNは、フォトリフラクション耐性に優れた非線形光学材料として知られており、光変調器、スイッチ、偏向器の他、波長変換用の材料などとしても広く用いられている。
【0052】
Mg-LNは、通常のマグネシウムドープされていないニオブ酸リチウムと比べて、材料の導電率が高く、高強度の光が照射された際に光励起によって発生する自由電荷のドリフト速度が速いため、自由電荷が材料内で均一に分布し、ビーム形状の歪みが抑制されると考えられている。
【0053】
しかしながら、高い光損傷耐性を有する電気光学素子への適用を意図してMg−LNを電気光学材料として用いたところ、電気光学素子からの出力光ビームが歪んでしまうという問題点が明らかになった。発明者の考察によりこのビーム歪みの原因は以下の原理で発生すると結論づけた。
【0054】
すなわち、電気光学素子5の電極9a,9b間に高電圧を印加した際に、Mg-LN材料内部に過剰な自由電荷が発生してドリフトする。この自由電荷によって材料内部に局所的な電界が形成され、材料の屈折率が不均一な分布をもつことがビーム歪みの原因である。
【0055】
更に、この自由電荷が発生する起源は二通り考えられる。一つは電圧印加によって外部から電極を通して電荷が電気光学材料内部に注入されることが考えられる。外部から注入された電子または正孔は自由電荷として結晶内部を動き、結晶内部に形成された電界分布を乱す。もう一つは材料内に存在するドナーサイトやアクセプタサイト、不純物準位等の欠陥準位にトラップされていた電荷が電圧印加によって励起され、自由電子として振舞うことが考えられる。
【0056】
一方で、電圧印加によって発生した過剰な自由電子を走査ビームaの伝播領域外に誘導すれば、走査ビームのビーム形状歪みを抑制できること、その自由電子の誘導方法として、走査ビームaよりも高エネルギーの光をポンプ光bとして照射することが有効であることが確かめられた。具体的なポンプ光bとしては、波長400nm〜550nm、100mW程度以上の光強度が好適であった。また、この効果は温度依存性を有し、電気光学素子5の温度が高いほど誘導の速度が速いことも分かった。
【0057】
そこで、本実施形態では、図1の光ビーム走査装置1において、レーザ光発生源3から走査ビームaを出力させる際に、同時にポンプ光発生源4からポンプ光bを出力させるようにした。これにより、この走査ビームaとポンプ光bは光コンバイナ6に入力されて結合され、結合された走査ビームaとポンプ光bが電気光学素子5に入力される。この際、ポンプ光bは、波長が400nm〜550nmであり、100mW程度以上の光強度を有している。一方、走査ビームaは、波長はポンプ光bの波長よりも長く、ポンプ光bよりも低エネルギーとなるように設定されている。
【0058】
更に、本実施形態では、筐体2内の電気光学素子5の下方側に加熱装置20が配置されており、加熱装置20によって電気光学素子5を所定温度に加熱することができる。電気光学素子5の加熱によって、電圧印加によって発生した過剰な自由電子を走査ビームaの伝播領域外に効果的に誘導することが可能となる。
【0059】
そして、電気光学素子5の電気光学結晶基板8を構成する電気光学材料(Mg−LN)に高エネルギーのポンプ光bを照射すると、電圧印加によって発生した自由電荷を一定方向にドリフト移動させ、ポンプ光bの照射領域境界に偏在させることができる(以下、この現象を「光スクリーニング効果」という)。
【0060】
ポンプ光bの照射による光スクリーニング効果を利用することで、走査ビームaの光伝播領域では自由電子がランダムな分布で発生せず、局所的な内部電界が形成されない。従って、走査ビームaの伝播領域では、本来のビーム走査を目的として形成した電界が乱されることなく、走査ビームaのビーム形状歪みが抑制される。
【0061】
なお、電気光学素子5の出射端面から走査ビームaとポンプ光bが出力されるが、電気光学素子5の出射面の下流側に配置された光分離素子7で走査ビームaのみを透過させて、窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。一方、ポンプ光bは光分離素子7で全反射され、筐体2の外に出力されることはない。なお、光分離素子7で全反射されたポンプ光bは、筐体2の内周面等で吸収される。
【0062】
また、図2(a)は、本実施形態に係る光ビーム走査装置の電気光学素子内を伝播する走査ビームとポンプ光の形状を模式的に示した図、図2(b)は、本実施形態に係る光ビーム走査装置の電気光学素子の一部を示す概略側面図である。
【0063】
電気光学素子5に入力された走査ビームaは、電気光学結晶基板8の分極反転領域8a(屈折率変化領域)を通過することにより、この素子内を伝播するのに伴って所定の偏向角を与えられる。一方で電気光学素子5に入力されたポンプ光bは、そのビームプロファイルの境界に自由電子を誘導する。
【0064】
従って、図2(a)に示すように、ポンプ光bの照射領域は、走査ビームaのビームプロファイルを完全に包含するようにすることが望ましい。即ち、ポンプ光bの照射断面積が走査ビームaのビーム径よりも大きくなるようにしている。更に、ポンプ光bの照射領域の幅Hは、電気光学素子5の電極9a,9bの幅hよりも大きくなるようにしている。
【0065】
図3は、ポンプ光と走査ビームの光強度の関係を示したものである。図3において、C1はポンプ光bの光強度分布であり、C2は走査ビームaの光強度分布である。なお、図3において、hは電極9a,9bの幅である(図2(a)参照)。
【0066】
ポンプ光bの光強度が大きいほど光スクリーニング効果の影響が高まり、電気光学素子5の電極9a,9b間に高電圧を印加した際のビーム歪みが解消されるまでの時間が短くなる。よって、図3のように、ポンプ光bの光強度ピークを走査ビームaの光強度ピークよりも大きくなるように設定する。
【0067】
このように、本実施形態の光ビーム走査装置1によれば、ポンプ光bの照射断面積が走査ビームaのビーム径よりも大きくなるように設定し、更に、ポンプ光bの光強度ピークを走査ビームaの光強度ピークよりも大きくなるように設定している。
【0068】
よって、高い光損傷耐性を有するように電気光学素子5の電気光学結晶基板8を構成する電気光学材料としてMg−LNを用いた場合でも、走査ビームaが伝播する領域の電界分布が乱されることなく、電気光学素子5から出力される走査ビームaのビーム形状歪みを抑制することができる。よって、ビーム形状歪みのない走査ビームaによって良好な光ビーム走査を行うことができる。
【0069】
〈実施形態2〉
図4は、本発明の実施形態2に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図である。なお、実施形態1の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0070】
図4に示すように、本実施形態の光ビーム走査装置1aは、走査ビームaとポンプ光bの偏光方向が互いに直交するように構成されている。また、電気光学素子5の出射面側に、光分離素子7aとしての偏向フィルタ機能を有する偏向分離素子が配置されている。他の構成は実施形態1の光ビーム走査装置と同様である。なお、図4において、符号p1は走査ビームaの偏光方向、符号p2はポンプ光bの偏光方向を示している。
【0071】
前記式(1)に示したように、電気光学素子の電極間に電圧を印加したときの偏向角は電気光学定数に比例する。したがって、低電圧で大きな偏向角を得るために、電気光学定数の大きな結晶方位に電界を形成することが望ましい。
【0072】
例えば、電気光材料がニオブ酸リチウムである場合、結晶のc軸と平行な電界を形成すると、ポッケルス係数rijによって屈折率変化量が決定され、他の方位に電界を形成する場合より大きな偏向角が得られる。図4では、電気光学素子5の前記c軸をY軸方向にとっており、したがって電界はY軸方向に形成している。また、そのときの走査ビームaの偏光方向も定められ、この場合はY軸方向に電界成分を有することが必要である。
【0073】
これに対して、ポンプ光bの偏光方向はY軸方向に限定される必要はなく、図4のように、走査ビームaと直交していても光スクリーニング効果の発現の妨げにならない。また、走査ビームaとポンプ光bの偏光方向を互いに直交させる構成においては、電気光学素子5の出射面から出力される走査ビームaとポンプ光bは、光分離素子7aとしての偏向フィルタ機能を有する偏向分離素子によって分離される。
【0074】
そして、光分離素子7a(偏向分離素子)は走査ビームaのみを透過させて、窓材11を通じて筐体2の外側へ出力する。一方、ポンプ光bは光分離素子7a(偏向分離素子)で全反射され、筐体2の外に出力されることはない。なお、光分離素子7aで全反射されたポンプ光bは、筐体2の内周面等で吸収される。
【0075】
このように、本実施形態の光ビーム走査装置1aによれば、走査ビームaとポンプ光bの波長が比較的近い場合や、ポンプ光bの波長帯域が広い場合においても、電気光学素子5の出射面から出力される走査ビームaのビーム形状歪みを良好に抑制することができる。
【0076】
〈実施形態3〉
図5(a)は、本発明の実施形態3に係る光ビーム走査装置の要部構成を示す概略側面図、図5(b)は、この光ビーム走査装置の要部構成を示す概略平面図である。なお、実施形態1の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0077】
図5(a),(b)に示すように、本実施形態の光ビーム走査装置1bは、電気光学素子5側に凹状の反射面7b’を有する光分離素子7bを電気光学光偏向素子5の出射面側に配置した構成である。他の構成は実施形態1の光ビーム走査装置と同様である。
【0078】
本実施形態の光分離素子7bは、実施形態1の光分離素子7と同様に電気光学素子5の出射面から出力される走査ビームaとポンプ光bとを分離して、走査ビームaのみを透過させる波長選択フィルタ素子としての機能を有している。更に、この光分離素子7bは、反射面7b’で波長の異なるポンプ光bを全反射させて電気光学素子5の出射端面方向へ集光させるように構成されている。なお、この光分離素子7bとして、実施形態2の光分離素子7aとしての偏向フィルタ機能を有する偏向離素子に同様に凹状の反射面を設けた構成のものでもよい。
【0079】
反射面7b’で反射されたポンプ光bは、集光されて電気光学素子5の出射端面側から入射される。
【0080】
上記したようにポンプ光bの光強度が大きいほどスクリーニング効果による自由空間電荷の誘導は高速になり、走査ビームaのビーム形状歪みの抑制に好ましい。よって、本実施形態のように、反射面7b’で反射されたポンプ光bを集光して電気光学素子5の出射端面側から入射させることによって、ポンプ光bを効率よく電気光学素子5の電気光学結晶基板8を構成する電気光学材料に再結合させることができる。
【0081】
これにより、実効的なポンプ光bの光強度を高めることが可能となるので、電気光学素子5の出射端面から出力される走査ビームaのビーム形状歪みを良好に抑制することができる。
【0082】
なお、電気光学素子5の出射端面から出力される走査ビームaの偏向角(走査角)は10度程度と小さく、光分離素子7bの反射面7b’の凹面形状の曲率半径が大きくても光分離素子7bのサイズは大きくならない。例えば、電気光学素子5の出射端面から出力される走査ビームaの偏向角が全角10度、光分離素子7b(反射面7b’)の曲率半径が10mmであるとき、X軸方向のビーム変位量は1.7mmであり、光分離素子7bのX軸方向の幅を2mm程度以上にすればよい。
【0083】
〈実施形態4〉
図6は、本発明の実施形態4に係る光ビーム走査装置の要部構成を示す概略側面図である。なお、実施形態1の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0084】
図6に示すように、本実施形態の光ビーム走査装置1cは、電気光学素子5の出射端面側に、光分離素子7cとしてプリズム素子を配置した構成である。また、この光分離素子7cの出射端面側のポンプ光bの通過位置に光吸収体12が配置されている。他の構成は実施形態1の光ビーム走査装置と同様である。
【0085】
実施形態1〜3では、走査ビームaのみを光分離素子で透過させてポンプ光bを光分離素子で反射させて筐体外に出力させないようにしていたが、走査ビームaとポンプ光bのZ軸方向に対する伝播角度を異ならせて互いを分離させ、走査ビームaのみを筐体外に出力させるようにしてもよい。
【0086】
即ち、走査ビームaとポンプ光bの波長が異なるため、本実施形態のように、光分離素子7cとしてプリズム素子を用いて2つの光(走査ビームaとポンプ光b)を分離するようにした。そして、光分離素子7cで分離された走査ビームaのみが、窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。一方、光分離素子7cで分離されたポンプ光bは、光吸収体12で吸収され、筐体2外に出力されることはない。
【0087】
〈実施形態5〉
前記実施形態4では光分離素子7cとしてプリズム素子を用いて2つの光(走査ビームaとポンプ光b)を分離する構成であったが、図7に示すように、本実施形態の光ビーム走査装置1dは、電気光学素子5の出射端面側に、光分離素子7dとして回折光学素子を配置した構成である。他の構成は実施形態4の光ビーム走査装置と同様である。
【0088】
走査ビームaとポンプ光bは波長が異なり、異なる波長によって回折光の回折角度が異なるため、本実施形態のように、光分離素子7dとして回折光学素子を用いて2つの光(走査ビームaとポンプ光b)を分離するようにした。そして、光分離素子7cで分離された走査ビームaのみが、窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。一方、光分離素子7cで分離されたポンプ光bは、光吸収体12で吸収され、筐体2外に出力されることはない。
【0089】
このように、実施形態4、5の光ビーム走査装置1c、1dにおいても、同様に電気光学素子5の出射端面から出力される走査ビームaのビーム形状歪みを良好に抑制することができる。
【0090】
〈実施形態6〉
図8(a)は、本発明の実施形態6に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図、図8(b)は、この光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図である。なお、実施形態1の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0091】
前記した各実施形態では、ポンプ光bは走査ビームaと同一方向(Z軸方向)から電気光学素子5の入射端面に入力する構成であったが、電気光学素子5に入力される走査ビームaとポンプ光bとの伝播方向がそれぞれ異なっていても、ポンプ光L2の照射による前記光スクリーニング効果は変わらない。
【0092】
そこで、図8(a),(b)に示すように、本実施形態の光ビーム走査装置1eは、ポンプ光発生源4を筐体2内の電気光学素子5の上方側(図8(a)の上側)に配置して、ポンプ光bを電気光学素子5の上方側からレンズ13を通して照射させるようにした。走査ビームaは、前記した各実施形態と同様にレーザ光発生源3からZ軸方向に沿って電気光学素子5に入力される。よって、走査ビームaとポンプ光bは、電気光学素子5に対して互いに直交する方向に伝播する。
【0093】
また、電気光学素子5に照射されるポンプ光bは、図8(b)に示すように、電気光学素子5(電気光学結晶基板8)の長手方向(Z軸方向)に沿った全域を略覆うような照射範囲となるように設定されている。なお、電気光学素子5に照射されたポンプ光bは、電気光学素子5(電気光学結晶基板8)から出た後は、ポンプ光発生源4と反対側の筐体2の内周面付近等で吸収される。よって、本実施形態では、電気光学素子5と窓材11との間に光分離素子を設ける必要はない。
【0094】
そして、電気光学素子5に入力された走査ビームaは、電気光学素子5の電気光学結晶基板8内の伝播に伴い、所定の偏向角を与えられて出射端面から出力され、筐体2に設けた透明な窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。
【0095】
このように、本実施形態の光ビーム走査装置1eにおいても同様に、電気光学素子5の出射端面から出力される走査ビームaのビーム形状歪みを良好に抑制することができる。
【0096】
〈実施形態7〉
図9は、本発明の実施形態7に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図である。なお、実施形態1の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0097】
図9に示すように、本実施形態の光ビーム走査装置1fは、ポンプ光発生源4を筐体2内の電気光学素子5の電極9b側(図9の上側)に配置して、ポンプ光bを電気光学素子5の電極9b側から照射させるようにした。走査ビームaは、前記した各実施形態と同様にレーザ光発生源3からZ軸方向に沿って電気光学素子5に出力される。よって、走査ビームaとポンプ光bは、電気光学素子5に対して互いに直交する方向に伝播する。
【0098】
ポンプ光発生源4として、LEDやUVランプのようなインコヒーレント光のポンプ光bを電極9b側から照射することにより、電気光学素子5(電気光学結晶基板8)の長手方向(Z軸方向)に沿った全域を略覆うような照射範囲を得ることができる。なお、ポンプ光bが照射される側の電極9bは、その表面でポンプ光bを反射することなく入力されるように、ITO(Indium Tin Oxide)やZnO(Zinc Oxide)等の透明電極材料で形成されている。他方の電極9aも同様に透明電極材料(ITOやZnO等)で形成されている。
【0099】
電気光学素子5に電極9b側から照射されたポンプ光bは、電気光学素子5(電気光学結晶基板8)から出た後は、ポンプ光発生源4と反対側の筐体2の内周面付近等で吸収される。よって、本実施形態では、電気光学素子5と窓材11との間に光分離素子を設ける必要はない。
【0100】
そして、電気光学素子5に入射された走査ビームaは、電気光学素子5の電気光学結晶基板8内の伝播に伴い、所定の偏向角を与えられて出射面から出力され、筐体2に設けた透明な窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。
【0101】
このように、本実施形態の光ビーム走査装置1fにおいても同様に、電気光学素子5の出射面から出力される走査ビームaのビーム形状歪みを良好に抑制することができる。
【0102】
〈実施形態8〉
図10(a)は、本発明の実施形態8に係る光ビーム走査装置の電気光学素子の走査ビーム入射面側を示す図、図10(b)は、本実施形態に係る光ビーム走査装置の電気光学素子の一部を示す概略側面図である。なお、実施形態1の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0103】
図10(a),(b)に示すように、本実施形態に係る光ビーム走査装置の電気光学素子5の電気光学結晶基板8と各電極9a,9bとの間に、電気光学結晶基板8を形成する電気光学材料より屈折率の小さい材料からなるクラッド層14a,14bを設けて光導波路構造とした。他の構成は、例えば実施形態1の光ビーム走査装置と同様である。
【0104】
一般に電気光学素子の電気光学効果による屈折率変化量は微小であり、本発明のような光ビーム走査装置における電気光学素子を駆動する際には高い印加電圧を必要とする。印加電圧を下げるためには、前記式(1)に示すように、電気光学材料の厚さを薄くすることが有効である。
【0105】
一方で、電気光学材料からなる電気光学結晶基板8の厚みを薄くすると、走査ビームaは電気光学結晶基板8内を自由空間伝播することが困難となる。これは走査ビームaのビーム径を電気光学結晶基板8の厚みに合わせて小さく絞ると、空間伝播時のビーム広がりが大きくなり、電気光学結晶基板8内を伝播する途中で、該電気光学結晶基板8と電極9a,9bとの境界面に達してしまうからである。
【0106】
そこで、電気光学素子5の電気光学結晶基板8の厚みを薄くする場合には、図10(a)に示したように、電気光学結晶基板8と電極9a,9bとの間にクラッド層14a,14bを設けることが有効である。クラッド層14a,14bの条件は、透明でかつ電気光学結晶基板8を形成する電気光学材料より屈折率が小さいことである。具体的には、屈折率が1.46程度のSiO2や2.1程度のTa2O5等のガラス材料が好適であり、これらの材料の混合ガラスでも構わない。また、PMMA等のポリマー材料でクラッドを構成してもよい。
【0107】
このように、クラッド層14a,14bを設けることにより、クラッド層14a,14bと電気光学結晶基板8との屈折率差による全反射を利用して光導波させることができるので、電気光学結晶基板8の厚みを薄くしても効率よく光伝播が可能となる。
【0108】
〈実施形態9〉
図11(a)は、本発明の実施形態9に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図、図11(b)は、この光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図である。なお、実施形態1、8の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0109】
前記実施形態8のように、電気光学素子5を光導波路構造とすることで電気光学結晶基板8の厚みを薄くすることが可能となる一方で、電気光学素子5の走査ビームaが入力(入射)される入射端面から走査ビームaおよびポンプ光bを入力する際の許容誤差が小さくなる。このため、特に波長の異なる走査ビームaおよびポンプ光bをともに高効率で入力することが困難となることが懸念される。
【0110】
そこで、図11(a),(b)に示すように、本実施形態に係る光ビーム走査装置1gは、電気光学素子5の走査ビームaが入力される入射端面側の一方の側面(クラッド層14b)に回折格子15を設けて、この回折格子15の斜め前方側にポンプ光発生源4を配置した構成である。他の構成は、図10(a),(b)に示した実施形態8の光ビーム走査装置と同様である。
【0111】
この光ビーム走査装置1gでは、レーザ光発生源3から出力された走査ビームaはZ軸方向に沿って電気光学素子5の入射端面に入力される。そして、入力された走査ビームaは、電気光学光偏向素子5の電気光学結晶基板8とクラッド層14a,14bによる光導波路構造によって伝播される。そして、電気光学結晶基板8内の伝播に伴い、所定の偏向角を与えられて出射面から出力され、光分離素子7を透過して筐体2に設けた透明な窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。
【0112】
一方、ポンプ光発生源4から出力されたポンプ光bは、回折格子15による回折効果によって電気光学素子5内に入力される。回折格子15による回折効果によって電気光学素子5内に入力されたポンプ光bは電気光学結晶基板8内を伝播し、電気光学素子5の出射端面から出力される。そして、電気光学素子5の出射面から出力されたポンプ光bは、光分離素子7で全反射され、筐体2の外に出力されることはない。なお、光分離素子7で全反射されたポンプ光bは、筐体2の内周面等で吸収される。
【0113】
このように、本実施形態の光ビーム走査装置1gによれば、ポンプ光bを回折格子15による回折効果によって電気光学素子5の側面側から内部に入力させる構成である。この構成により、走査ビームaとポンプ光bの電気光学素子5への入射位置を異ならせることができるので、電気光学素子5を光導波路構造として電気光学結晶基板8の厚みを薄くした場合でも、走査ビームaおよびポンプ光bをともに高効率で電気光学素子5へ入力することが可能となる。
【0114】
なお、本実施形態では、ポンプ光発生源4から出力されるポンプ光bを、回折格子15による回折効果によって電気光学素子5内に入力させる構成であったが、この構成に限らず、図12(a)に示すように、ポンプ光発生源4とレーザ光発生源3の位置を逆にして、レーザ光発生源3から出力される走査ビームaを、回折格子15による回折効果によって電気光学素子5内に入力させるようにしてよい。
【0115】
更に、図12(b)に示すように、電気光学結晶基板8の両側にそれぞれ回折格子15を設け、レーザ光発生源3から出力される走査ビームa、およびポンプ光発生源4から出力されるポンプ光bの両方を、各回折格子15による回折効果によって電気光学素子5内に入力させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1、1a〜1g 光ビーム走査装置
2 筐体
3 レーザ光発生源
4 ポンプ光発生源
5 電気光学素子
6 光コンバイナ
7、7a〜7d 光分離素子
8 電気光学結晶基板
9a,9b 電極
10 電圧源
14a,14b クラッド層
15 回折格子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0117】
【特許文献1】特開平9−146128号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビーム偏向素子(以下、「光偏向素子」という)として電気光学効果を有する電気光学素子を用いた光ビーム走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばレーザプリンタやレーザ加工装置などに用いられる光ビーム走査装置には、半導体レーザなどのレーザ光源と、レーザ光源からのレーザ光の進行方向を偏向する光偏向素子を備えている。光偏向素子として従来から一般的に用いられているものとしては、回転ポリゴンミラーやガルバノミラー、MEMSミラーのような光ビームの反射角を制御して光走査を行うものが知られている。
【0003】
ところで、近年、より高速に光ビームを走査することが可能な技術として、電気光学効果(Electro-Optical:EO効果)による光学材料の屈折率変化を利用した電気光学素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前記特許文献1には、三角形等に形成された分極反転ドメインを設けた強誘電体基板の両面に電極が配置された電気光学素子が開示されており、電極間への電圧印加によって分極反転ドメインが屈折率変化を起こすことで、通過する光ビームを偏向させることができる。
【0005】
上記電気光学効果を有する電気光学素子の動作原理について、図13および図14を参照して説明する。なお、図13(a),(b)は、電極を三角形状とした電気光学素子であり、図14(a),(b)は、電気光学材料からなる電気光学結晶基板に三角プリズム形状の分極反転領域を有している電気光学素子である。
【0006】
なお、図13、図14において、X軸方向はレーザ光の偏向方向、Y軸方向は電気光学素子への電圧印加方向、Z軸方向はレーザ光の伝播方向である。
【0007】
図13(a),(b)に示した電気光学素子は、電気光学材料からなる電気光学結晶基板100の両面に電極101a,101bがそれぞれ配置されている。電極101a,101bは、連続した三角形状部101cを有している。
【0008】
そして、電圧源102から電極101a,101b間に電圧を印加すると、その間の電気光学結晶基板100の分極軸(図13(a)の符号A)に平行な電界が形成される。符号Aは分極軸の向きを示している。電気光学結晶基板100の電界が形成された領域は電気光学効果によりその屈折率が変化する。ポッケルス効果による屈折率変化を利用する場合、電気光学結晶基板100の屈折率変化量Δnは、下記の式(1)で表される。
【0009】
【数1】
【0010】
式(1)において、nは電気光学結晶基板100(電気光学材料)の屈折率、rijは電気光学定数(ポッケルス定数)、Vは印加電圧、dは電気光学結晶基板100の厚み(結晶厚)である。
【0011】
そして、電気光学結晶基板100の入射端面にレーザ光aを入力し、電圧源102から電極101a,101b間に電圧を印加することによって、屈折率変化領域も三角形状となり、それぞれが光ビームに対してプリズム部として機能する。すなわち、屈折率変化領域を伝播するにしたがって光ビームは偏向角を与えられる。
【0012】
そして、電気光学結晶基板100の出射面から出力されるレーザ光(光ビーム)aの偏向角θは、電気光学結晶基板100(電気光学材料)の屈折率変化量に比例し、以下の式(2)で表される。
【0013】
【数2】
【0014】
式(2)において、Lはプリズム部全体(三角形状部101c全体)の長さ(図13(a)参照)、Dはプリズム部(三角形状部101c)の幅(図13(a)参照)である。
【0015】
従って、電気光学素子への印加電圧を制御することにより、任意の偏向角θにレーザ光aを出力させることが可能である。
【0016】
また、電気光学材料からなる電気光学結晶基板は、一般的にその分極軸を制御することが可能である。よって、図14(a),(b)に示すように、電気光学材料からなる電気光学結晶基板100に複数の三角形状のプリズム部を並べたような分極反転領域100aを持たせる。そして、この分極反転領域100a全体を覆うように電気光学結晶基板100の両面に配置された各電極層101a,101bを通じて電気光学結晶基板100に電圧を印加することによって、電気光学結晶基板100に三角形状の屈折率変化領域を作りだすことができる。
【0017】
よって、電気光学結晶基板100の屈折率変化領域(分極反転領域100a)とその他の領域で屈折率変化方向が異なることから、電気光学結晶基板100の内部に複数の三角形状のプリズム部を有する構造が得られる。図14(a)において、符号A1,A2は分極軸の向きを示している。
【0018】
そして、電気光学結晶基板100の入射端面にレーザ光aを入力し、電圧源102から電極101a,101b間に電圧を印加することによって、電気光学結晶基板100の三角形状の屈折率変化領域を伝播光ビーム伝播するにしたがって伝播光ビームは偏向角を与えられる。そして、電気光学結晶基板100の出射端面から偏向したレーザ光aが出力される。
【0019】
このように、分極反転領域100aでの分極反転による屈折率変化方向の反転により、屈折率変化量は図13(a),(b)に示した三角形状部の電極を有する電気光学素子の構成に対して2倍となる。よって、電気光学結晶基板100の出射端面から出力されるレーザ光(光ブーム)aの偏向角θは、以下の式(3)で表される。
【0020】
【数3】
【0021】
式(3)において、Lはプリズム部全体(分極反転領域100a全体)の長さ(図14(a)参照)、Dはプリズム部(分極反転領域100a)の幅(図14(a)参照)である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
ところで、電気光学素子の電気光学結晶基板を形成する電気光学材料に対して、一般的に知られている問題点としてフォトリフラクション(光損傷)がある。これは材料に高エネルギーの光が照射されると、その光ビームのビーム形状が大きく乱される現象である。フォトリフラクションの原因としては、光エネルギー励起によって材料内部に発生した自由電子がドリフトし、材料内にランダムな内部電界が形成されることと、この自由電子による内部電界が電気光学効果によって材料内部に不規則な屈折率変化を引き起こすことが考えられている。
【0023】
上記のフォトリフラクションの問題を解決するために、材料の組成を最適化することが試みられている。例えば一般的な電気光学材料および非線形光学材料としてニオブ酸リチウムがあるが、この材料はフォトリフラクション耐性が低く、波長変換素子としてグリーンレーザのような短波長のレーザビーム出力に対応するために、マグネシウム等の金属をドーピングしている。マグネシウムを最適量ドープすることによって材料の導電率を高めることで、光によって励起された電子のドリフト速度が上がり、材料内に均一な電子の分布が形成されるようになると考えられている。
【0024】
従って、光ビーム走査装置に光偏向素子として電気光学素子(電気光学光偏向素子)を使用した場合においても、走査するレーザ光の光強度に応じてフォトリフラクション耐性に優れた電気光学材料を使用することが有効である。
【0025】
ここで、図14(a),(b)に示したような電気光学素子の電気光学結晶基板(電気光学材料)に印加される電圧(電界強度)と、そのときに偏向角の関係を評価した。
【0026】
電気光学結晶基板(電気光学材料)としてニオブ酸リチウム結晶を想定し、屈折率n=2.2、電気光学定数rij=30.8pm/Vとする。
【0027】
また、素子構造として、電気光学結晶基板(電気光学材料)の厚さd=300μm、プリズム部の幅D=1mm、プリズム部全体の長さL=20mmとした場合に、上記の式(1)および式(2)より印加電圧Vと偏向角θの関係を計算すると、1.6kVppの電圧を印加した場合に、出力光ビームの偏向角(走査角)は1度、8.0kVppの電圧を印加した場合に、出力光ビームの偏向角(走査角)は5度となる。そして、電気光学結晶基板(電気光学材料)の内部に形成される電界強度は、それぞれ2.7kV/mm、3.3kV/mmとなり、極めて大きな電界が結晶内部に形成されることになる。
【0028】
ところで、従来から電気光学効果の応用として実用化されている光位相変調器や光強度変調器では、このような大きな電界は必要なく、例えば光強度変調器における結晶内部に形成される電界強度は、0.1kV/mm程度である。
【0029】
したがって、電気光学材料に極めて高電界を形成して動作させることは、光ビーム走査装置に用いる電気光学素子特有のものである。本願発明者は電気光学素子を備えた光ビーム走査装置を実際に製作および評価したことで、高電界形成時特有の下記のような問題点を見出した。
【0030】
即ち、フォトリフラクション耐性を高めるために、マグネシウムをドープしたニオブ酸リチウムを電気光学材料として用いた電気光学素子において、電圧を印加した際に素子内部を伝播する光ビームプロファイルが大きく乱れるという問題が確認された。
【0031】
上記の問題が発生する原因として、電気光学素子に電界を形成した際に、電気光学結晶基板(電気光学材料)内部に過剰な自由電荷が発生してドリフトすることでランダムな電界が形成され、材料の屈折率が不均一な分布を持つことが考えられる。この自由電荷が発生する要因は、二通り考えられる。
【0032】
一つは、電圧印加によって外部から電極を通して電荷が電気光学結晶基板(電気光学材料)内部に注入されることが考えられる。外部から注入された電子または正孔は自由電荷として結晶内部を動き、結晶内部に形成された電界分布を乱す。
【0033】
もう一つは材料内に存在するドナーサイトやアクセプタサイト、不純物準位等の欠陥準位にトラップされていた電荷が電圧印加によって励起され、自由電子として振舞うことが考えられる。いずれにしても電圧印加によって発生した自由電荷によって、電気光学結晶基板(電気光学材料)内部に局所的な電界が発生し、本来材料に形成されていた電界分布を乱す。
【0034】
上記の理由により、電気光学素子を用いた光ビーム走査装置において、電気光学素子から出力される光ビームのビーム形状が歪んでしまうという問題があった。なお、前記特許文献1に記載されているような、三角形等に形成された分極反転ドメインを設けた強誘電体基板の両面に電極が配置された電気光学素子を用いた場合でも、出力される光ビームのビーム形状の歪を抑制することはできなかった。
【0035】
更に、このビーム形状歪みは、一定時間以上所定の偏向角を維持する直流動作の際に顕著に現れる。これは、常に同じ極性で電圧印加が継続するためである。電気光学効果を利用した電気光学素子(光偏向素子)の特徴であるランダムアクセスを利用する場合、直流動作時でのビーム歪みが発生しないことが前提となる。しかしながら、上記ビーム歪みによって、ランダムアクセスを利用したときのビーム歪みが解消できず、光ビーム走査装置の走査性能を著しく低減させるという問題があった。
【0036】
そこで、本発明は、電気光学素子から出力される偏向された光ビームのビーム形状の歪を抑制して、良好な強度分布を有する光ビームを出力することができる光ビーム走査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
前記目的を達成するために本発明に係る光ビーム走査装置は、所定波長の光ビームを出射する光ビーム光源と、電気光学材料からなる電気光学結晶基板の両側に電極が配置された電気光学素子とを備え、前記各電極間に印加される電圧に応じて前記電気光学結晶基板に形成された屈折率変調領域の屈折率を変化させることにより、前記光ビーム光源から前記電気光学結晶基板に前記光ビームを入射させ、該電気光学結晶基板内を伝播する光ビームに対して所望の偏向角を与えて出射端面から外部へ出力する光ビーム走査装置において、前記光ビームの波長よりも短い波長のポンプ光を前記電気光学結晶基板内に入射させるポンプ光光源を設け、前記ポンプ光光源から出射された前記ポンプ光を、前記電気光学結晶基板内の前記光ビームが伝播する領域に入射させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る光ビーム走査装置によれば、ポンプ光光源から出射されたポンプ光を、電気光学結晶基板内の光ビームが伝播する領域に入射させることにより、電気光学結晶基板内の光ビームが伝播する領域の電界分布が乱されることなく、電気光学素子から出力される光ビームのビーム形状歪みを抑制することができる。よって、ビーム形状歪みのない光ビームによって良好な光ビーム走査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は、本発明の実施形態1に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図、(b)は、この光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図レンズ鏡筒を示す概略断面図。
【図2】(a)は、実施形態1に係る光ビーム走査装置の電気光学素子内を伝播する走査ビームとポンプ光の形状を模式的に示した図、(b)は、この光ビーム走査装置の電気光学素子の一部を示す概略側面図。
【図3】ポンプ光と走査ビームの光強度の関係を示した図。
【図4】本発明の実施形態2に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図。
【図5】(a)は、本発明の実施形態3に係る光ビーム走査装置の要部構成を示す概略側面図、(b)は、この光ビーム走査装置の要部構成を示す概略平面図。
【図6】本発明の実施形態4に係る光ビーム走査装置の要部構成を示す概略側面図。
【図7】本発明の実施形態5に係る光ビーム走査装置の要部構成を示す概略側面図。
【図8】(a)は、本発明の実施形態6に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図、(b)は、この光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図。
【図9】本発明の実施形態7に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図。
【図10】(a)は、本発明の実施形態8に係る光ビーム走査装置の電気光学素子の走査ビーム入射面側を示す図、(b)は、本実施形態に係る光ビーム走査装置の電気光学素子の一部を示す概略側面図。
【図11】(a)は、本発明の実施形態9に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図、(b)は、この光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図。
【図12】(a),(b)は、それぞれ実施形態9の変形例に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図。
【図13】電気光学効果を有する電気光学素子の動作原理を示す図。
【図14】電気光学効果を有する電気光学素子の動作原理を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。
【0041】
〈実施形態1〉
図1(a)は、本発明の実施形態1に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図、図1(b)は、この光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図である。
【0042】
図1(a),(b)に示すように、本実施形態に係る光ビーム走査装置1は、筐体2内に、レーザ光を発生するレーザ光発生源3、ポンプ光を発生するポンプ光発生源4、光偏向素子としての電気光学素子5、光コンバイナ6、および光分離素子7を主用構成部材として備えている。なお、本実施形態では、レーザ光発生源3から出力されたレーザ光が平行ビームして出射される光を走査ビームaという。
【0043】
なお、図1(a),(b)において、X軸方向は走査ビームaの偏向方向、Y軸方向は電気光学素子5への電圧印加方向、Z軸方向は走査ビームaの光伝播方向である。以下の図面においても同様である。
【0044】
レーザ光発生源3は、半導体レーザとコリーメントレンズ等で構成されており、所定波長のレーザ光(走査ビームa)を出力する。ポンプ光発生源4は、半導体レーザとコリーメントレンズ等で構成されており、所定波長のポンプ光bを走査ビームaの出射方向と直交する方向へ出力する。
【0045】
電気光学素子5は、電気光学材料からなる電気光学結晶基板8の両面に電極9a,9bが対向するようして配置された周知の構成である。電気光学結晶基板8は、複数の三角形状のプリズムを並べたような屈折率変化領域としての分極反転領域8aが形成されており、この分極反転領域8a全体を覆うように電気光学結晶基板8の両面に電極9a,9bが配置されている。そして、電極9a,9b間に電圧源10から電圧を印加することによって、電気光学効果により電気光学結晶基板8の分極反転領域8a(屈折率変化領域)の屈折率を変化させることができる。
【0046】
電気光学結晶基板8を構成する電気光学材料として、本実施形態ではマグネシウムをドープしたニオブ酸リチウム(以下、「Mg−LN」という)を用いた。
【0047】
光コンバイナ6は、レーザ光発生源3から出射された走査ビームaとポンプ光発生源4から出射されたポンプ光bとを結合させて電気光学素子5の電気光学結晶基板8へ入力させる機能を有している。光コンバイナ6として、例えばダイクロイックプリズム等を用いることができる。
【0048】
光分離素子7は、電気光学素子5の出射面から出力される走査ビームaとポンプ光bとを分離して走査ビームaのみを透過させる機能を有する波長選択フィルタ素子によって形成されている。
【0049】
そして、この光ビーム走査装置1において、ポンプ光発生源4からポンプbを出射させない場合、レーザ光発生源3から出力されたレーザ光は平行ビームとなり、走査ビームaとして光コンバイナ6を通して電気光学素子5の電気光学結晶基板8に入力される。なお、電気光学素子5には、電圧が印加された両側の電極9a,9bを介して電圧が印加されている。
【0050】
入力された走査ビームaは、電気光学素子5の電気光学結晶基板8内の伝播に伴い、分極反転領域8a(屈折率変化領域)によって所定の偏向角を与えられて出射面から出力され、光分離素子7を透過して筐体2に設けた透明な窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。そして、電気光学素子5への印加電圧を制御することにより、任意の偏向角(走査角)に走査ビームaを出力させることができる。
【0051】
ところで、本実施形態では、電気光学素子5の電気光学結晶基板8を構成する電気光学材料としてMg−LNを用いている。Mg−LNは、フォトリフラクション耐性に優れた非線形光学材料として知られており、光変調器、スイッチ、偏向器の他、波長変換用の材料などとしても広く用いられている。
【0052】
Mg-LNは、通常のマグネシウムドープされていないニオブ酸リチウムと比べて、材料の導電率が高く、高強度の光が照射された際に光励起によって発生する自由電荷のドリフト速度が速いため、自由電荷が材料内で均一に分布し、ビーム形状の歪みが抑制されると考えられている。
【0053】
しかしながら、高い光損傷耐性を有する電気光学素子への適用を意図してMg−LNを電気光学材料として用いたところ、電気光学素子からの出力光ビームが歪んでしまうという問題点が明らかになった。発明者の考察によりこのビーム歪みの原因は以下の原理で発生すると結論づけた。
【0054】
すなわち、電気光学素子5の電極9a,9b間に高電圧を印加した際に、Mg-LN材料内部に過剰な自由電荷が発生してドリフトする。この自由電荷によって材料内部に局所的な電界が形成され、材料の屈折率が不均一な分布をもつことがビーム歪みの原因である。
【0055】
更に、この自由電荷が発生する起源は二通り考えられる。一つは電圧印加によって外部から電極を通して電荷が電気光学材料内部に注入されることが考えられる。外部から注入された電子または正孔は自由電荷として結晶内部を動き、結晶内部に形成された電界分布を乱す。もう一つは材料内に存在するドナーサイトやアクセプタサイト、不純物準位等の欠陥準位にトラップされていた電荷が電圧印加によって励起され、自由電子として振舞うことが考えられる。
【0056】
一方で、電圧印加によって発生した過剰な自由電子を走査ビームaの伝播領域外に誘導すれば、走査ビームのビーム形状歪みを抑制できること、その自由電子の誘導方法として、走査ビームaよりも高エネルギーの光をポンプ光bとして照射することが有効であることが確かめられた。具体的なポンプ光bとしては、波長400nm〜550nm、100mW程度以上の光強度が好適であった。また、この効果は温度依存性を有し、電気光学素子5の温度が高いほど誘導の速度が速いことも分かった。
【0057】
そこで、本実施形態では、図1の光ビーム走査装置1において、レーザ光発生源3から走査ビームaを出力させる際に、同時にポンプ光発生源4からポンプ光bを出力させるようにした。これにより、この走査ビームaとポンプ光bは光コンバイナ6に入力されて結合され、結合された走査ビームaとポンプ光bが電気光学素子5に入力される。この際、ポンプ光bは、波長が400nm〜550nmであり、100mW程度以上の光強度を有している。一方、走査ビームaは、波長はポンプ光bの波長よりも長く、ポンプ光bよりも低エネルギーとなるように設定されている。
【0058】
更に、本実施形態では、筐体2内の電気光学素子5の下方側に加熱装置20が配置されており、加熱装置20によって電気光学素子5を所定温度に加熱することができる。電気光学素子5の加熱によって、電圧印加によって発生した過剰な自由電子を走査ビームaの伝播領域外に効果的に誘導することが可能となる。
【0059】
そして、電気光学素子5の電気光学結晶基板8を構成する電気光学材料(Mg−LN)に高エネルギーのポンプ光bを照射すると、電圧印加によって発生した自由電荷を一定方向にドリフト移動させ、ポンプ光bの照射領域境界に偏在させることができる(以下、この現象を「光スクリーニング効果」という)。
【0060】
ポンプ光bの照射による光スクリーニング効果を利用することで、走査ビームaの光伝播領域では自由電子がランダムな分布で発生せず、局所的な内部電界が形成されない。従って、走査ビームaの伝播領域では、本来のビーム走査を目的として形成した電界が乱されることなく、走査ビームaのビーム形状歪みが抑制される。
【0061】
なお、電気光学素子5の出射端面から走査ビームaとポンプ光bが出力されるが、電気光学素子5の出射面の下流側に配置された光分離素子7で走査ビームaのみを透過させて、窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。一方、ポンプ光bは光分離素子7で全反射され、筐体2の外に出力されることはない。なお、光分離素子7で全反射されたポンプ光bは、筐体2の内周面等で吸収される。
【0062】
また、図2(a)は、本実施形態に係る光ビーム走査装置の電気光学素子内を伝播する走査ビームとポンプ光の形状を模式的に示した図、図2(b)は、本実施形態に係る光ビーム走査装置の電気光学素子の一部を示す概略側面図である。
【0063】
電気光学素子5に入力された走査ビームaは、電気光学結晶基板8の分極反転領域8a(屈折率変化領域)を通過することにより、この素子内を伝播するのに伴って所定の偏向角を与えられる。一方で電気光学素子5に入力されたポンプ光bは、そのビームプロファイルの境界に自由電子を誘導する。
【0064】
従って、図2(a)に示すように、ポンプ光bの照射領域は、走査ビームaのビームプロファイルを完全に包含するようにすることが望ましい。即ち、ポンプ光bの照射断面積が走査ビームaのビーム径よりも大きくなるようにしている。更に、ポンプ光bの照射領域の幅Hは、電気光学素子5の電極9a,9bの幅hよりも大きくなるようにしている。
【0065】
図3は、ポンプ光と走査ビームの光強度の関係を示したものである。図3において、C1はポンプ光bの光強度分布であり、C2は走査ビームaの光強度分布である。なお、図3において、hは電極9a,9bの幅である(図2(a)参照)。
【0066】
ポンプ光bの光強度が大きいほど光スクリーニング効果の影響が高まり、電気光学素子5の電極9a,9b間に高電圧を印加した際のビーム歪みが解消されるまでの時間が短くなる。よって、図3のように、ポンプ光bの光強度ピークを走査ビームaの光強度ピークよりも大きくなるように設定する。
【0067】
このように、本実施形態の光ビーム走査装置1によれば、ポンプ光bの照射断面積が走査ビームaのビーム径よりも大きくなるように設定し、更に、ポンプ光bの光強度ピークを走査ビームaの光強度ピークよりも大きくなるように設定している。
【0068】
よって、高い光損傷耐性を有するように電気光学素子5の電気光学結晶基板8を構成する電気光学材料としてMg−LNを用いた場合でも、走査ビームaが伝播する領域の電界分布が乱されることなく、電気光学素子5から出力される走査ビームaのビーム形状歪みを抑制することができる。よって、ビーム形状歪みのない走査ビームaによって良好な光ビーム走査を行うことができる。
【0069】
〈実施形態2〉
図4は、本発明の実施形態2に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図である。なお、実施形態1の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0070】
図4に示すように、本実施形態の光ビーム走査装置1aは、走査ビームaとポンプ光bの偏光方向が互いに直交するように構成されている。また、電気光学素子5の出射面側に、光分離素子7aとしての偏向フィルタ機能を有する偏向分離素子が配置されている。他の構成は実施形態1の光ビーム走査装置と同様である。なお、図4において、符号p1は走査ビームaの偏光方向、符号p2はポンプ光bの偏光方向を示している。
【0071】
前記式(1)に示したように、電気光学素子の電極間に電圧を印加したときの偏向角は電気光学定数に比例する。したがって、低電圧で大きな偏向角を得るために、電気光学定数の大きな結晶方位に電界を形成することが望ましい。
【0072】
例えば、電気光材料がニオブ酸リチウムである場合、結晶のc軸と平行な電界を形成すると、ポッケルス係数rijによって屈折率変化量が決定され、他の方位に電界を形成する場合より大きな偏向角が得られる。図4では、電気光学素子5の前記c軸をY軸方向にとっており、したがって電界はY軸方向に形成している。また、そのときの走査ビームaの偏光方向も定められ、この場合はY軸方向に電界成分を有することが必要である。
【0073】
これに対して、ポンプ光bの偏光方向はY軸方向に限定される必要はなく、図4のように、走査ビームaと直交していても光スクリーニング効果の発現の妨げにならない。また、走査ビームaとポンプ光bの偏光方向を互いに直交させる構成においては、電気光学素子5の出射面から出力される走査ビームaとポンプ光bは、光分離素子7aとしての偏向フィルタ機能を有する偏向分離素子によって分離される。
【0074】
そして、光分離素子7a(偏向分離素子)は走査ビームaのみを透過させて、窓材11を通じて筐体2の外側へ出力する。一方、ポンプ光bは光分離素子7a(偏向分離素子)で全反射され、筐体2の外に出力されることはない。なお、光分離素子7aで全反射されたポンプ光bは、筐体2の内周面等で吸収される。
【0075】
このように、本実施形態の光ビーム走査装置1aによれば、走査ビームaとポンプ光bの波長が比較的近い場合や、ポンプ光bの波長帯域が広い場合においても、電気光学素子5の出射面から出力される走査ビームaのビーム形状歪みを良好に抑制することができる。
【0076】
〈実施形態3〉
図5(a)は、本発明の実施形態3に係る光ビーム走査装置の要部構成を示す概略側面図、図5(b)は、この光ビーム走査装置の要部構成を示す概略平面図である。なお、実施形態1の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0077】
図5(a),(b)に示すように、本実施形態の光ビーム走査装置1bは、電気光学素子5側に凹状の反射面7b’を有する光分離素子7bを電気光学光偏向素子5の出射面側に配置した構成である。他の構成は実施形態1の光ビーム走査装置と同様である。
【0078】
本実施形態の光分離素子7bは、実施形態1の光分離素子7と同様に電気光学素子5の出射面から出力される走査ビームaとポンプ光bとを分離して、走査ビームaのみを透過させる波長選択フィルタ素子としての機能を有している。更に、この光分離素子7bは、反射面7b’で波長の異なるポンプ光bを全反射させて電気光学素子5の出射端面方向へ集光させるように構成されている。なお、この光分離素子7bとして、実施形態2の光分離素子7aとしての偏向フィルタ機能を有する偏向離素子に同様に凹状の反射面を設けた構成のものでもよい。
【0079】
反射面7b’で反射されたポンプ光bは、集光されて電気光学素子5の出射端面側から入射される。
【0080】
上記したようにポンプ光bの光強度が大きいほどスクリーニング効果による自由空間電荷の誘導は高速になり、走査ビームaのビーム形状歪みの抑制に好ましい。よって、本実施形態のように、反射面7b’で反射されたポンプ光bを集光して電気光学素子5の出射端面側から入射させることによって、ポンプ光bを効率よく電気光学素子5の電気光学結晶基板8を構成する電気光学材料に再結合させることができる。
【0081】
これにより、実効的なポンプ光bの光強度を高めることが可能となるので、電気光学素子5の出射端面から出力される走査ビームaのビーム形状歪みを良好に抑制することができる。
【0082】
なお、電気光学素子5の出射端面から出力される走査ビームaの偏向角(走査角)は10度程度と小さく、光分離素子7bの反射面7b’の凹面形状の曲率半径が大きくても光分離素子7bのサイズは大きくならない。例えば、電気光学素子5の出射端面から出力される走査ビームaの偏向角が全角10度、光分離素子7b(反射面7b’)の曲率半径が10mmであるとき、X軸方向のビーム変位量は1.7mmであり、光分離素子7bのX軸方向の幅を2mm程度以上にすればよい。
【0083】
〈実施形態4〉
図6は、本発明の実施形態4に係る光ビーム走査装置の要部構成を示す概略側面図である。なお、実施形態1の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0084】
図6に示すように、本実施形態の光ビーム走査装置1cは、電気光学素子5の出射端面側に、光分離素子7cとしてプリズム素子を配置した構成である。また、この光分離素子7cの出射端面側のポンプ光bの通過位置に光吸収体12が配置されている。他の構成は実施形態1の光ビーム走査装置と同様である。
【0085】
実施形態1〜3では、走査ビームaのみを光分離素子で透過させてポンプ光bを光分離素子で反射させて筐体外に出力させないようにしていたが、走査ビームaとポンプ光bのZ軸方向に対する伝播角度を異ならせて互いを分離させ、走査ビームaのみを筐体外に出力させるようにしてもよい。
【0086】
即ち、走査ビームaとポンプ光bの波長が異なるため、本実施形態のように、光分離素子7cとしてプリズム素子を用いて2つの光(走査ビームaとポンプ光b)を分離するようにした。そして、光分離素子7cで分離された走査ビームaのみが、窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。一方、光分離素子7cで分離されたポンプ光bは、光吸収体12で吸収され、筐体2外に出力されることはない。
【0087】
〈実施形態5〉
前記実施形態4では光分離素子7cとしてプリズム素子を用いて2つの光(走査ビームaとポンプ光b)を分離する構成であったが、図7に示すように、本実施形態の光ビーム走査装置1dは、電気光学素子5の出射端面側に、光分離素子7dとして回折光学素子を配置した構成である。他の構成は実施形態4の光ビーム走査装置と同様である。
【0088】
走査ビームaとポンプ光bは波長が異なり、異なる波長によって回折光の回折角度が異なるため、本実施形態のように、光分離素子7dとして回折光学素子を用いて2つの光(走査ビームaとポンプ光b)を分離するようにした。そして、光分離素子7cで分離された走査ビームaのみが、窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。一方、光分離素子7cで分離されたポンプ光bは、光吸収体12で吸収され、筐体2外に出力されることはない。
【0089】
このように、実施形態4、5の光ビーム走査装置1c、1dにおいても、同様に電気光学素子5の出射端面から出力される走査ビームaのビーム形状歪みを良好に抑制することができる。
【0090】
〈実施形態6〉
図8(a)は、本発明の実施形態6に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図、図8(b)は、この光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図である。なお、実施形態1の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0091】
前記した各実施形態では、ポンプ光bは走査ビームaと同一方向(Z軸方向)から電気光学素子5の入射端面に入力する構成であったが、電気光学素子5に入力される走査ビームaとポンプ光bとの伝播方向がそれぞれ異なっていても、ポンプ光L2の照射による前記光スクリーニング効果は変わらない。
【0092】
そこで、図8(a),(b)に示すように、本実施形態の光ビーム走査装置1eは、ポンプ光発生源4を筐体2内の電気光学素子5の上方側(図8(a)の上側)に配置して、ポンプ光bを電気光学素子5の上方側からレンズ13を通して照射させるようにした。走査ビームaは、前記した各実施形態と同様にレーザ光発生源3からZ軸方向に沿って電気光学素子5に入力される。よって、走査ビームaとポンプ光bは、電気光学素子5に対して互いに直交する方向に伝播する。
【0093】
また、電気光学素子5に照射されるポンプ光bは、図8(b)に示すように、電気光学素子5(電気光学結晶基板8)の長手方向(Z軸方向)に沿った全域を略覆うような照射範囲となるように設定されている。なお、電気光学素子5に照射されたポンプ光bは、電気光学素子5(電気光学結晶基板8)から出た後は、ポンプ光発生源4と反対側の筐体2の内周面付近等で吸収される。よって、本実施形態では、電気光学素子5と窓材11との間に光分離素子を設ける必要はない。
【0094】
そして、電気光学素子5に入力された走査ビームaは、電気光学素子5の電気光学結晶基板8内の伝播に伴い、所定の偏向角を与えられて出射端面から出力され、筐体2に設けた透明な窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。
【0095】
このように、本実施形態の光ビーム走査装置1eにおいても同様に、電気光学素子5の出射端面から出力される走査ビームaのビーム形状歪みを良好に抑制することができる。
【0096】
〈実施形態7〉
図9は、本発明の実施形態7に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図である。なお、実施形態1の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0097】
図9に示すように、本実施形態の光ビーム走査装置1fは、ポンプ光発生源4を筐体2内の電気光学素子5の電極9b側(図9の上側)に配置して、ポンプ光bを電気光学素子5の電極9b側から照射させるようにした。走査ビームaは、前記した各実施形態と同様にレーザ光発生源3からZ軸方向に沿って電気光学素子5に出力される。よって、走査ビームaとポンプ光bは、電気光学素子5に対して互いに直交する方向に伝播する。
【0098】
ポンプ光発生源4として、LEDやUVランプのようなインコヒーレント光のポンプ光bを電極9b側から照射することにより、電気光学素子5(電気光学結晶基板8)の長手方向(Z軸方向)に沿った全域を略覆うような照射範囲を得ることができる。なお、ポンプ光bが照射される側の電極9bは、その表面でポンプ光bを反射することなく入力されるように、ITO(Indium Tin Oxide)やZnO(Zinc Oxide)等の透明電極材料で形成されている。他方の電極9aも同様に透明電極材料(ITOやZnO等)で形成されている。
【0099】
電気光学素子5に電極9b側から照射されたポンプ光bは、電気光学素子5(電気光学結晶基板8)から出た後は、ポンプ光発生源4と反対側の筐体2の内周面付近等で吸収される。よって、本実施形態では、電気光学素子5と窓材11との間に光分離素子を設ける必要はない。
【0100】
そして、電気光学素子5に入射された走査ビームaは、電気光学素子5の電気光学結晶基板8内の伝播に伴い、所定の偏向角を与えられて出射面から出力され、筐体2に設けた透明な窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。
【0101】
このように、本実施形態の光ビーム走査装置1fにおいても同様に、電気光学素子5の出射面から出力される走査ビームaのビーム形状歪みを良好に抑制することができる。
【0102】
〈実施形態8〉
図10(a)は、本発明の実施形態8に係る光ビーム走査装置の電気光学素子の走査ビーム入射面側を示す図、図10(b)は、本実施形態に係る光ビーム走査装置の電気光学素子の一部を示す概略側面図である。なお、実施形態1の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0103】
図10(a),(b)に示すように、本実施形態に係る光ビーム走査装置の電気光学素子5の電気光学結晶基板8と各電極9a,9bとの間に、電気光学結晶基板8を形成する電気光学材料より屈折率の小さい材料からなるクラッド層14a,14bを設けて光導波路構造とした。他の構成は、例えば実施形態1の光ビーム走査装置と同様である。
【0104】
一般に電気光学素子の電気光学効果による屈折率変化量は微小であり、本発明のような光ビーム走査装置における電気光学素子を駆動する際には高い印加電圧を必要とする。印加電圧を下げるためには、前記式(1)に示すように、電気光学材料の厚さを薄くすることが有効である。
【0105】
一方で、電気光学材料からなる電気光学結晶基板8の厚みを薄くすると、走査ビームaは電気光学結晶基板8内を自由空間伝播することが困難となる。これは走査ビームaのビーム径を電気光学結晶基板8の厚みに合わせて小さく絞ると、空間伝播時のビーム広がりが大きくなり、電気光学結晶基板8内を伝播する途中で、該電気光学結晶基板8と電極9a,9bとの境界面に達してしまうからである。
【0106】
そこで、電気光学素子5の電気光学結晶基板8の厚みを薄くする場合には、図10(a)に示したように、電気光学結晶基板8と電極9a,9bとの間にクラッド層14a,14bを設けることが有効である。クラッド層14a,14bの条件は、透明でかつ電気光学結晶基板8を形成する電気光学材料より屈折率が小さいことである。具体的には、屈折率が1.46程度のSiO2や2.1程度のTa2O5等のガラス材料が好適であり、これらの材料の混合ガラスでも構わない。また、PMMA等のポリマー材料でクラッドを構成してもよい。
【0107】
このように、クラッド層14a,14bを設けることにより、クラッド層14a,14bと電気光学結晶基板8との屈折率差による全反射を利用して光導波させることができるので、電気光学結晶基板8の厚みを薄くしても効率よく光伝播が可能となる。
【0108】
〈実施形態9〉
図11(a)は、本発明の実施形態9に係る光ビーム走査装置の構成を示す概略側面図、図11(b)は、この光ビーム走査装置の構成を示す概略平面図である。なお、実施形態1、8の光ビーム走査装置と同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0109】
前記実施形態8のように、電気光学素子5を光導波路構造とすることで電気光学結晶基板8の厚みを薄くすることが可能となる一方で、電気光学素子5の走査ビームaが入力(入射)される入射端面から走査ビームaおよびポンプ光bを入力する際の許容誤差が小さくなる。このため、特に波長の異なる走査ビームaおよびポンプ光bをともに高効率で入力することが困難となることが懸念される。
【0110】
そこで、図11(a),(b)に示すように、本実施形態に係る光ビーム走査装置1gは、電気光学素子5の走査ビームaが入力される入射端面側の一方の側面(クラッド層14b)に回折格子15を設けて、この回折格子15の斜め前方側にポンプ光発生源4を配置した構成である。他の構成は、図10(a),(b)に示した実施形態8の光ビーム走査装置と同様である。
【0111】
この光ビーム走査装置1gでは、レーザ光発生源3から出力された走査ビームaはZ軸方向に沿って電気光学素子5の入射端面に入力される。そして、入力された走査ビームaは、電気光学光偏向素子5の電気光学結晶基板8とクラッド層14a,14bによる光導波路構造によって伝播される。そして、電気光学結晶基板8内の伝播に伴い、所定の偏向角を与えられて出射面から出力され、光分離素子7を透過して筐体2に設けた透明な窓材11を通じて筐体2の外側へ出力される。
【0112】
一方、ポンプ光発生源4から出力されたポンプ光bは、回折格子15による回折効果によって電気光学素子5内に入力される。回折格子15による回折効果によって電気光学素子5内に入力されたポンプ光bは電気光学結晶基板8内を伝播し、電気光学素子5の出射端面から出力される。そして、電気光学素子5の出射面から出力されたポンプ光bは、光分離素子7で全反射され、筐体2の外に出力されることはない。なお、光分離素子7で全反射されたポンプ光bは、筐体2の内周面等で吸収される。
【0113】
このように、本実施形態の光ビーム走査装置1gによれば、ポンプ光bを回折格子15による回折効果によって電気光学素子5の側面側から内部に入力させる構成である。この構成により、走査ビームaとポンプ光bの電気光学素子5への入射位置を異ならせることができるので、電気光学素子5を光導波路構造として電気光学結晶基板8の厚みを薄くした場合でも、走査ビームaおよびポンプ光bをともに高効率で電気光学素子5へ入力することが可能となる。
【0114】
なお、本実施形態では、ポンプ光発生源4から出力されるポンプ光bを、回折格子15による回折効果によって電気光学素子5内に入力させる構成であったが、この構成に限らず、図12(a)に示すように、ポンプ光発生源4とレーザ光発生源3の位置を逆にして、レーザ光発生源3から出力される走査ビームaを、回折格子15による回折効果によって電気光学素子5内に入力させるようにしてよい。
【0115】
更に、図12(b)に示すように、電気光学結晶基板8の両側にそれぞれ回折格子15を設け、レーザ光発生源3から出力される走査ビームa、およびポンプ光発生源4から出力されるポンプ光bの両方を、各回折格子15による回折効果によって電気光学素子5内に入力させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1、1a〜1g 光ビーム走査装置
2 筐体
3 レーザ光発生源
4 ポンプ光発生源
5 電気光学素子
6 光コンバイナ
7、7a〜7d 光分離素子
8 電気光学結晶基板
9a,9b 電極
10 電圧源
14a,14b クラッド層
15 回折格子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0117】
【特許文献1】特開平9−146128号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定波長の光ビームを出射する光ビーム光源と、電気光学材料からなる電気光学結晶基板の両側に電極が配置された電気光学素子とを備え、
前記各電極間に印加される電圧に応じて前記電気光学結晶基板に形成された屈折率変調領域の屈折率を変化させることにより、前記光ビーム光源から前記電気光学結晶基板に前記光ビームを入射させ、該電気光学結晶基板内を伝播する光ビームに対して所望の偏向角を与えて出射端面から外部へ出力する光ビーム走査装置において、
前記光ビームの波長よりも短い波長のポンプ光を前記電気光学結晶基板内に入射させるポンプ光光源を設け、
前記ポンプ光光源から出射された前記ポンプ光を、前記電気光学結晶基板内の前記光ビームが伝播する領域に入射させることを特徴とする光ビーム走査装置。
【請求項2】
前記光ビームと前記ポンプ光は、前記電気光学結晶基板の入射端面から出射端面側に向けて前記電気光学結晶基板内を伝播され、
前記電気光学結晶基板の前記出射端面の下流側に、前記光ビームと前記ポンプ光とを分離し、前記光ビームのみを外部へ出力させ、かつ前記ポンプ光が外部へ出力されないようにする光分離手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の光ビーム走査装置。
【請求項3】
前記電気光学結晶基板内を伝播する前記ポンプ光の断面積は、前記電気光学結晶基板内を伝播する前記光ビームのビーム径よりも大きくなるように設定され、かつ前記ポンプ光の光強度は前記光ビームの光強度よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光ビーム走査装置。
【請求項4】
前記光ビームの偏光方向と前記ポンプ光の偏光方向は互いに直交していることを特徴とする請求項2または3に記載の光ビーム走査装置。
【請求項5】
前記光分離手段は、前記電気光学結晶基板の前記出射端面から出射された前記ポンプ光を前記出射端面側へ反射させる反射面を有し、
前記反射面で反射された前記ポンプ光を、前記出射端面から前記電気光学結晶基板内へ伝播させることを特徴とする請求項2または3に記載の光ビーム走査装置。
【請求項6】
前記ポンプ光は、前記光ビームが前記電気光学結晶基板に入射される方向に対して直交する方向から前記電気光学結晶基板に入射され、
前記電気光学結晶基板に入射される前記ポンプ光のビーム幅を、前記光ビームが前記電気光学結晶基板内を伝播する方向に沿った前記電気光学結晶基板の全長よりも大きくしたことを特徴とする請求項1に記載の光ビーム走査装置。
【請求項7】
前記各電極を透明な材料で形成し、
前記ポンプ光を、一方の前記電極側から該電極を透過させて前記電気光学結晶基板に入射させることを特徴とする請求項1に記載の光ビーム走査装置。
【請求項8】
前記電気光学素子の前記電気光学結晶基板と前記各電極との間に、透明な材料で、かつ前記電気光学材料よりも屈折率の小さい材料からなるクラッド層を設けて光導波路を形成したことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光ビーム走査装置。
【請求項9】
前記電気光学結晶基板の前記出射端面と反対側に位置する入射端面側の前記クラッド層が設けられた面に回折格子を配置するととともに、前記ポンプ光光源を前記回折格子の斜め前方側に配置し、
前記ポンプ光光源から出射されたポンプ光を、前記回折格子で回折させることで前記電気光学結晶基板内に入射させることを特徴とする請求項8項に記載の光ビーム走査装置。
【請求項10】
前記電気光学材料は、マグネシウムをドープしたニオブ酸リチウムであり、前記屈折率変調領域は、複数の三角形状のプリズムを並べたような分極反転領域であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光ビーム走査装置。
【請求項1】
所定波長の光ビームを出射する光ビーム光源と、電気光学材料からなる電気光学結晶基板の両側に電極が配置された電気光学素子とを備え、
前記各電極間に印加される電圧に応じて前記電気光学結晶基板に形成された屈折率変調領域の屈折率を変化させることにより、前記光ビーム光源から前記電気光学結晶基板に前記光ビームを入射させ、該電気光学結晶基板内を伝播する光ビームに対して所望の偏向角を与えて出射端面から外部へ出力する光ビーム走査装置において、
前記光ビームの波長よりも短い波長のポンプ光を前記電気光学結晶基板内に入射させるポンプ光光源を設け、
前記ポンプ光光源から出射された前記ポンプ光を、前記電気光学結晶基板内の前記光ビームが伝播する領域に入射させることを特徴とする光ビーム走査装置。
【請求項2】
前記光ビームと前記ポンプ光は、前記電気光学結晶基板の入射端面から出射端面側に向けて前記電気光学結晶基板内を伝播され、
前記電気光学結晶基板の前記出射端面の下流側に、前記光ビームと前記ポンプ光とを分離し、前記光ビームのみを外部へ出力させ、かつ前記ポンプ光が外部へ出力されないようにする光分離手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の光ビーム走査装置。
【請求項3】
前記電気光学結晶基板内を伝播する前記ポンプ光の断面積は、前記電気光学結晶基板内を伝播する前記光ビームのビーム径よりも大きくなるように設定され、かつ前記ポンプ光の光強度は前記光ビームの光強度よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光ビーム走査装置。
【請求項4】
前記光ビームの偏光方向と前記ポンプ光の偏光方向は互いに直交していることを特徴とする請求項2または3に記載の光ビーム走査装置。
【請求項5】
前記光分離手段は、前記電気光学結晶基板の前記出射端面から出射された前記ポンプ光を前記出射端面側へ反射させる反射面を有し、
前記反射面で反射された前記ポンプ光を、前記出射端面から前記電気光学結晶基板内へ伝播させることを特徴とする請求項2または3に記載の光ビーム走査装置。
【請求項6】
前記ポンプ光は、前記光ビームが前記電気光学結晶基板に入射される方向に対して直交する方向から前記電気光学結晶基板に入射され、
前記電気光学結晶基板に入射される前記ポンプ光のビーム幅を、前記光ビームが前記電気光学結晶基板内を伝播する方向に沿った前記電気光学結晶基板の全長よりも大きくしたことを特徴とする請求項1に記載の光ビーム走査装置。
【請求項7】
前記各電極を透明な材料で形成し、
前記ポンプ光を、一方の前記電極側から該電極を透過させて前記電気光学結晶基板に入射させることを特徴とする請求項1に記載の光ビーム走査装置。
【請求項8】
前記電気光学素子の前記電気光学結晶基板と前記各電極との間に、透明な材料で、かつ前記電気光学材料よりも屈折率の小さい材料からなるクラッド層を設けて光導波路を形成したことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光ビーム走査装置。
【請求項9】
前記電気光学結晶基板の前記出射端面と反対側に位置する入射端面側の前記クラッド層が設けられた面に回折格子を配置するととともに、前記ポンプ光光源を前記回折格子の斜め前方側に配置し、
前記ポンプ光光源から出射されたポンプ光を、前記回折格子で回折させることで前記電気光学結晶基板内に入射させることを特徴とする請求項8項に記載の光ビーム走査装置。
【請求項10】
前記電気光学材料は、マグネシウムをドープしたニオブ酸リチウムであり、前記屈折率変調領域は、複数の三角形状のプリズムを並べたような分極反転領域であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光ビーム走査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−61454(P2013−61454A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199247(P2011−199247)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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