説明

光ピックアップ、および光ディスク装置

【課題】記録再生時において低コストに電磁放射を低減させることが出来る光ピックアップおよびそれを用いた光ディスク装置を提供する。
【解決手段】レーザ光をライトストラテジ信号などの駆動電流に基づいて変調するレーザダイオードと、レーザダイオード駆動電流の第一の出力端を有するドライバと、ドライバの第一の出力端と前記レーザダイオードの第一の端子とが電気的に接続される第一の線路と、信号線路と少なくとも1箇所以上で隣接して配線されかつレーザダイオードの第二の端子とが電気的に接続される第二の線路と、第一及び第二の線路とを含むプリント基板と、ドライバの放熱用金属カバーと、レンズなどを具備する光ピックアップ本体とを備え、第一及び第二の線路は上下に配置される二層構造となり、二層構造において第一及び第二の線路のうち放熱カバーに近い方の線路における線路幅をもう一方の線路幅よりも拡幅する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ピックアップ、およびそれを用いた光ディスク装置に関するものであって、特に電磁放射低減に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を用いて情報をディスクに記録・再生を行なう光ピックアップおよびそれを用いた光ディスク装置では、記録・再生時に機器外部への電磁放射・電磁妨害を発生する問題が多発している。光ディスク装置の電磁放射が規格で定められた制限値を超えた場合は装置の出荷自体が出来なくなるため、その根本的な原因解析と対策考案が課題であった。
【0003】
記録・再生時における電磁放射は、光ピックアップ内でレーザダイオードドライバ(LDD:Laser Diode Driver)からレーザダイオード(LD:Laser Diode)までの伝送路を、LD駆動電流が流れることに伴う電磁放射が要因と考えられている。光ピックアップにはLDDやLDを放熱するための少なくとも1つ以上の放熱カバーが具備されているが、上記の電磁放射が光ピックアップの外部へ漏洩しないようにシールドする目的としても用いられている。これに関連する技術として、例えば特許文献1や特許文献2などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−86336号公報
【特許文献2】特開2009−15998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の光ディスク装置では記録倍速がますます高速化しており、それに応じて記録信号(ライトストラテジ信号)波形すなわちLD駆動電流は高周波化するとともに、振幅も増大する。一方、再生時はディスクからの反射光がLD出力端面へと戻りノイズとなること(戻り光ノイズ)を防ぐために、数百MHzの高周波重畳信号でLDを変調してマルチモード発光させて再生を行なっている。しかし、再生倍速の高速化に伴って再生信号の周波数成分がこの高周波重畳信号の周波数に近づいて再生エラーを引き起こすため、これを防止するために、重畳する信号の周波数の高周波化が進んでいる。
【0006】
上記のような理由から、記録・再生の高倍速化が進んだ近年の光ディスク装置では、機器内部における信号の高周波化や大振幅化が進んでいる。これにより、これまで考慮していなかった部品間・線路間の浮遊容量により予期せぬノイズ伝播経路が形成される。また、より小さな物理的寸法で共振・電磁放射が起こり得るようになるため、これまで以上に電磁放射の問題が多発することとなる。
【0007】
その一方で、装置の低コスト化も急ピッチで進んでいる。例えば、LDやレンズ、ミラーなどの光学部品が組み込まれる光ピックアップ本体部分は、従来の金属製(図6、光ピックアップ本体21)から非金属製(例えば樹脂製)(図5A、光ピックアップ本体6)への変更が進んでいる。従来、大きな体積を占める金属製の光ピックアップ本体は安定的な接地電位として用いられており、放熱カバーを光ピックアップ本体と多くの箇所で電気的に接続(例えば図6、放熱カバーと光ピックアップの接続点23)することで放射効率を低下させている(特許文献2)。しかし、光ピックアップ本体が樹脂化したことにより、接地電位から見た放熱カバーのインピーダンスは上昇し、放射効率が高くなると考えられる。また、高倍速化が進んだ背景も加わり、電磁放射の問題が頻発するようになった。
【0008】
電磁妨害低減の一般的な取り組みとして、例えば放熱カバーの形状変更や導通条件変更の実施、LDDとLDを接続する伝送路周辺に電磁波吸収シートや導電性テープ(シールド)の貼付などを実施したのち、その効果を測定によって確認するといったカット&トライの作業が行なわれている。この場合、開発の遅延や部材追加のコストが大きな問題となる。
【0009】
したがって本発明の目的は、記録再生時において低コストに電磁放射を低減させることが出来る光ピックアップおよびそれを用いた光ディスク装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する手段の一例を挙げるならば以下の通りである。すなわち、本発明における光ピックアップは、レーザ光を用いて光ディスクに情報を記録または再生の少なくとも一方を行なう光ピックアップであって、光学レンズ及び光学ミラーを具備する光ピックアップ光学系と、前記光ピックアップ光学系の上方に設置されたフレキシブルプリント基板と、前記フレキシブルプリント基板の上方に設置された放熱カバーと、ライトストラテジ信号または高周波重畳信号を生成するレーザダイオードドライバと、前記ライトストラテジ信号または前記高周波重畳信号を駆動電流とし、前記駆動電流に基づいて変調されたレーザ光を出力する第1のレーザダイオードと、前記フレキシブルプリント基板に形成され、前記第1のレーザダイオードの第1の端子と固定電位を与える端子とを接続する第1の線路と、前記フレキシブルプリント基板に形成され、前記第1のレーザダイオードの第2の端子と前記レーザダイオードドライバの出力端子とを接続する第2の線路と、を有し、前記第1の線路と前記第2の線路とは、少なくとも一箇所以上で前記フレキシブルプリント基板の積層方向となる上下方向に対向する二層構造を形成し、前記第1の線路および前記第2の線路のうち、前記放熱カバー側に形成された線路は、前記光ピックアップ光学系側に形成された線路よりも前記積層方向に直交する方向に線路幅が広いことを特徴とする。
【0011】
また、本発明における光ディスク装置は、レーザ光を用いて光ディスクに情報を記録または再生の少なくとも一方を行なう光ディスク装置であって、光学レンズ及び光学ミラーを具備する光ピックアップ光学系と、前記光ピックアップ光学系の上方に設置されたフレキシブルプリント基板と、前記フレキシブルプリント基板の上方に設置された放熱カバーと、前記光ディスクに記録または再生する情報に基づいて、ライトストラテジ信号または高周波重畳信号の生成を指示する制御信号を生成するデジタルシグナルプロセッサと、前記制御信号に基づいて、前記ライトストラテジ信号または前記高周波重畳信号を生成するレーザダイオードドライバと、前記ライトストラテジ信号または前記高周波重畳信号を駆動電流とし、前記駆動電流に基づいて変調されたレーザ光を出力する第1のレーザダイオードと、前記フレキシブルプリント基板に形成され、前記第1のレーザダイオードの第1の端子と固定電位を与える端子とを接続する第1の線路と、前記フレキシブルプリント基板に形成され、前記第1のレーザダイオードの第2の端子と前記レーザダイオードドライバの出力端子とを接続する第2の線路と、を有し、前記第一の線路と前記第二の線路とは、少なくとも一箇所以上で前記フレキシブルプリント基板の積層方向となる上下方向に対向する二層構造を形成し、前記第1の線路および前記第2の線路のうち、前記放熱カバー側に形成された線路は、前記光ピックアップ光学系側に形成された線路よりも前記積層方向に直交する方向に線路幅が広いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、記録再生時の電磁放射を低減させることが出来る。また、電磁放射低減のために実施していた様々な対策を省略することが出来るため、コスト低減にも繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】本発明における光ピックアップのLDDとLDを接続する伝送路に関する構成であって、伝送路の二層構造部分において信号線路よりも電源線路の幅が広い場合を示す図である。
【図1B】図1Aの斜視図であって、高さ方向の縮尺を広げたものである。
【図1C】図1Aにおいて、信号線路よりも電源線路の幅が広い部分の断面図である。
【図1D】図1Cにおいて、電源線路の上部に配線層が形成された断面図である。
【図2】本発明における光ピックアップのLDDとLDを接続する伝送路に関する構成であって、伝送路の二層構造部分において電源線路よりも信号線路の幅が広い場合を示す図である。
【図3】本発明における光ピックアップのLDDとLDを接続する伝送路に関する構成であって、伝送路の二層構造部分において信号線路よりも接地線路の幅が広い場合を示す図である。
【図4A】本発明における光ピックアップのLDDと第一のLDと第二のLDを接続する伝送路に関する構成であって、伝送路の二層構造部分において第一および第二の信号線幅及び線路間の間隔の和よりも接地線路の線路幅の方が広い場合を示す図である。
【図4B】図4Aにおいて、信号線路よりも電源線路の幅が広い部分の断面図である。
【図5A】従来の光ピックアップのLDDとLDを接続する伝送路に関する構成であって、伝送路の二層構造部分において信号線路と電源線路の幅が等しい場合を示す図である。
【図5B】図5Aにおいて、信号線路と電源線路との幅が等しい場合の断面図である。
【図6】従来の金属製の光ピックアップ本体を有する光ピックアップのLDDとLDを接続する伝送路に関する構成であって、伝送路の二層構造部分において信号線路と電源線路の幅が等しい場合を示す図である。
【図7A】図5Bの構成において信号線路にLD駆動電流を流した場合に生じる電界強度分布を示す図である。
【図7B】図1Cの構成において信号線路にLD駆動電流を流した場合に生じる電界強度分布を示す図である。
【図8A】従来の構成の光ピックアップおよびそれを用いた光ディスク装置において、Blu−ray Discに16倍速記録を行なった場合における電界強度の周波数分布を10m法に基づいて測定した結果を示す図である。
【図8B】本発明を適用した構成の光ピックアップおよびそれを用いた光ディスク装置において、Blu−ray Discに16倍速記録を行なった場合における電界強度の周波数分布を10m法に基づいて測定した結果を示す図である。
【図9A】本発明における光ピックアップのLDを実装する二層構造のFPCにおいて、電源線路が折り曲げ部分では他の部分よりも細くなっているとともに信号線路よりも広いことを示す図である。
【図9B】図9Aの斜視図を示す図である。
【図10】本発明における光ディスク装置全体の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を各実施例として、図面を参照しながら示す。なお、図面では本発明に関する部分は模式的に明示されているが、例えば光ピックアップの光学レンズやその他の回路素子など、本発明に関係しない部材や配線は適宜省略されており、また、図示する形状及び寸法に関する情報は概略を示したものとなっている。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の第1の実施例を示す図である。第一のフレキシブルプリント基板(FPC)7上にレーザダイオード(LD)1を駆動するためのレーザダイオードドライバ(LDD)2が実装されており、第二のフレキシブルプリント基板(FPC)8にLD1が実装されている。FPC7、8の上側にはLD1やLDD2を放熱するための少なくとも1つ以上の放熱カバー5が配置されており、下側には非金属(例えば樹脂製)の光ピックアップ本体6が配置されている。また、FPC7,8にはLDD2の第一の出力端とLD1のカソード端を接続するとともにLD電流を伝送する信号線路3と、LD1に十分なオン電圧(閾値電圧)を供給するLD駆動用の電源端子10とLD1のアノード端と接続された電源線路4が信号線路3と隣接して配線される。また、信号線路3と電源線路4は少なくとも1箇所以上で上下に対抗して配置される二層構造を有している。
【0016】
本実施例における光ピックアップおよびそれを用いた光ディスク装置では、二層構造部分において電源線路4が放熱カバー5側に配線されており、かつ信号線路3の線路幅よりも両側に拡幅されている。
【0017】
なお、電源線路4と接続される第一の電源端子10と、LDD2を駆動するための第二の電源端子9と、LDD2の接地電位11は、光ディスク装置内で信号処理等を行なうプリント回路基板上の所定の端子と接続されるが、ここでは光ピックアップ以外の構成は省略して表記した。
【0018】
また、FPC7、8の接続点付近やFPC8とLD1の接続点付近においては、同一層に両者を接続するための接続パッドが設けられているため、信号線路3と電源線路4もまた同一層に配線されるが、配線長が短いため図1における表記は二層構造部分14のみを表記した。
【0019】
また、FPC7はLDD2などの部材を実装するためのものであって、その形状を湾曲させたり折り曲げたりする必要がない場合などは、通常のプリント基板が用いられることもあるが、その場合においても本実施例における効果は何ら変わりない。
【0020】
また、FPC7とFPC8が一つのFPCにて構成される場合もあるが、その場合においても本実施例における効果は何ら変わりない。
【0021】
また、FPC7における電源線路4は信号線路3と隣接して配線されることが望ましいが、バイパスコンデンサ13などを介して接地電位と高周波的に短絡されている場合、接地電位を提供する線路と信号線路3が隣接して配線されていても良い。
【0022】
本実施例の上記構成によれば、低コストに電磁放射を抑制可能な光ピックアップおよびそれを用いた光ディスク装置を提供出来るが、その理由、すなわち上記構成から上記効果がもたらされるメカニズムを以下に示す。
【0023】
まず、本実施例における上記の構成において、電磁放射の主要因となるLD駆動電流の振る舞いについて説明する。LD電流はLDD2の出力端、信号線路3、LD1、電源線路4、バイパスコンデンサ13、LDDの接地電位11を通る電流ループを流れる。しかし、FPC7,8と放熱カバー5が近接している場合は、LD電流に伴って発生する電磁放射によって放熱カバー5にも電流が流れる可能性がある。放熱カバー5はLDD接地面11とネジなどの接触点16で電気的に接続されているため、放熱カバーと結合した電流はこの帰還電流経路15を介してLDD接地面11へと戻るループを流れる。
【0024】
この電流ループを構成する経路のうち、放熱カバー5とLDD接地面との接続点16の数は一般に1〜2箇所程度と少ないために、接地面から見た電流ループのインピーダンスが高い場合は、光ディスク装置内の他の部品と二次的に電磁結合することで新たな電流ループを流れることも考えられる。光ディスク装置内の構成は非常に複雑なために、上記二次的な電流ループを特定することは困難であり、経路途中の様々な部品における物理的寸法との共振(電磁放射)を特定することも困難と言える。
【0025】
従って、伝送路からの電磁放射を放熱カバー5などのシールドによって光ピックアップ内に閉じ込めるよりも、伝送路からの放射を減らす、または放熱カバー5への放射を減らすことが光ディスク装置の電磁放射低減にとって最も効果的である。そこで、従来はFPC7,8における二層構造部分14の信号線路3と電源線路4の線路幅が等しかったことに対し(図5B)、本実施例では放熱カバー5に近い電源線路4の幅を広げることとした。すなわち、図1Cに示すように、左右対称に線路幅を拡幅した。
【0026】
従来、信号線路3と電源線路4の線路幅が等しく設計されていた背景として、様々な制約条件のもとで設計されていたことが挙げられる。例えば、高速パルス応答のためのLD入力インピーダンスに対する特性インピーダンスや、LD駆動電流を伝送するための電流容量、LD実装に伴う曲げ応力、および外力に対する強度、および光ピックアップの小型・薄型化のために省スペース(小面積)指針による制限などである。
【0027】
しかし、この構造ではLD駆動電流が流れたときのFPC周辺の電磁界の強度はほぼ同心円状に広がるため、放熱カバー5などの金属導体が近接する場合は電磁結合し易くなる。図7Aは従来構成のFPC8の断面方向の電界強度分布を計算した結果を示す図であり、ほぼ同心円状に電磁界が広がっていることが確認出来る。このため、FPC8と近接する放熱カバー5に対して強い電磁界が放射されることになる。
【0028】
本実施例によれば、電磁界強度の分布を放熱カバー5と逆側(光ピックアップ本体側)に集中させられるため、放熱カバー5との電磁結合を低減可能となり、結果的に光ディスク装置内を流れる予測不能な電流経路を流れる電流の絶対量を削減可能となる。図7Bは本実施例を適用したFPC8の断面方向の電界強度分布を計算した結果を示す図であり、放熱カバー5と逆側に電磁界が広がっていることが確認出来る。すなわち、放熱カバー5に対して放射される電磁界強度は図7Aの場合よりも低減する効果がある。
【0029】
なお、片側を広げたことによる特性インピーダンスの変化はLDの個体ばらつきに比べて小さいため、インピーダンス整合すなわちLD電流波形品質の点では問題がないことが確認されている。また、FPCの材質や製造ベンダによって異なるが、ある一定の線路幅以下であれば応力による屈曲性能等の信頼性低下は問題とならないため、その範囲内で幅を広げることで本実施例の構造が採用可能となる。
【0030】
次に、本実施例の上記の効果を確認するため、発明者らが独自に実施した実験の結果に基づき、信号線路3と電源線路4の寸法変更の詳細と、それを実施したことに伴う電磁放射低減効果について、具体的な例を以って説明する。尚、ここで示す数値はあくまでも一例であって、本発明は必ずしもこれに限定されない。
【0031】
従来の光ピックアップおよびそれを用いた光ディスク装置でBD(Blu−ray(登録商標)Disc)に16倍速記録を行なった場合の電磁放射を、電波法に基づいた規格(例えばCISPRなど)で定められた10m法により電界強度を測定したところ、図8Aに示すように最大39dBμV/mという結果が得られた。二層構造部分の信号線路3と電源線路4の幅はそれぞれ300umであり、測定で観測された放射スペクトル成分は、上記で説明した電磁放射によるものと考えられる。
【0032】
なお、図8Aに示す測定結果が広帯域に分布している理由は以下の通りである。すなわち、光ディスクの記録にはいくつかの方式があり、今回実施した実験における記録方式はCAV(Constant Angular Velocity)方式と呼ばれるもので、ディスク回転の角速度が一定でディスクの内周から外周へと記録が進むに従い記録速度が連続的に高速化(クロック周波数が高周波化)する。BD16倍速CAV記録の場合は約400MHz(最内周)から1056MHz(最外周)まで変化するために図8Aに示すように周波数が掃引されたようなスペクトル分布となっている。
【0033】
次に、本実施例の構成を適用した光ピックアップおよび光ディスク装置において、上記と同様の実験を行なった。具体的には、FPC8において放熱カバー5に近い電源線路4の幅を2mm前後とし、そのほかの条件については上記と全く同様である。その結果、図8Bに示すように最大電界強度は32dBμV/mまで低下しており、本実施例の適用により電磁放射が低減可能であることが確認された。
【0034】
以上のことから、二層構造部分において信号線路3と電源線路4のうち放熱カバー5に近い電源線路4における線路幅を信号線路3の線路幅よりも広くすることで、放熱カバー5への電磁結合を低減させることが出来る。その結果光ディスク装置自身からの電磁放射を低減可能で、追加の部材なしで対策することが可能となるため、低コストに電磁放射を低減した光ピックアップおよび光ディスク装置を提供可能である。
【0035】
なお、上述したように線路幅の広さは応力による制限があるが、幅を広げるほど電磁界を放熱カバー5と逆側に集中させられるためより高い電磁放射の低減効果が得られる。
【0036】
また、線路幅を広げた電源線路4の線路幅は一定である必要はなく、任意に線路幅を変えて配線しても電磁放射の低減効果が得られるが、上記の通りなるべく広い方が好適である。
【0037】
また、図1Cに示したように、線路幅を広げた電源線路4は、信号線路3に対して左右にバランス良く線路幅を広げることで、より効率よく電磁放射の低減効果が得られる。
【0038】
また、図1CではFPC8と放熱カバーの間には何も配置されていないが、例えば図1Dのように第三のFPCとその配線24やFPC7などの配線基板が間に設置されても、放熱カバー5に近い方の電源線路4の線路幅を広くすれば同様の効果が得られることは自明である。
【実施例2】
【0039】
本発明における第2の実施例を図2に示す。図2は図1に示す光ピックアップの二層構造部分において、信号線路3が放熱カバー5側に配置されており、かつ電源線路4の線路幅よりも広いことを示している。
【0040】
本実施例によれば、信号線路3にLD駆動電流を流した場合に生じる電磁界強度分布は放熱カバー5と逆側に集中するため、放熱カバーへの結合を低減させることが出来る。また、二層構造部分14における特性インピーダンスは実施例1の構成と同じになるため、LD駆動電流波形の品質を劣化させることなく実施可能である。上記効果が得られる理由については、実施例1と同様である。
【実施例3】
【0041】
本発明における第3の実施例を図3に示す。FPC7上にLD1を駆動するためのLDD2が実装されており、FPC8にLD1が実装されている。FPC7、8の上側にはLD1やLDD2を放熱するための少なくとも1つ以上の放熱カバー5が配置されており、下側には非金属(例えば樹脂製)の光ピックアップ本体6が配置されている。また、FPC7,8にはLDDの第一の出力端とLDのアノード端とを接続するとともにLD駆動電流を伝送する信号線路3と、LDDに接地電位を与えるとともにLDのカソード端と接続された接地線路17が信号線路3と隣接して配線される。また、信号線路3と接地線路17は少なくとも1箇所以上で上下に対抗して配置される二層構造を形成しており、FPC8における二層構造部分14においては信号線路3が接地線路17よりも広くなっている。また、LDD駆動用の電源端子9は、LDDの電源入力端子と接続されており、更にLDDの近傍に設置されたバイパスコンデンサ13を介して接地線路17と接続されている。そのほかの構成要素については実施例1,2と同様である。
【0042】
本実施例の構成を適用することにより、信号線路3にLD駆動電流を流した場合に生じる電磁界強度分布は放熱カバー5と逆側に集中するため、放熱カバーへの結合を低減させることが出来、上記効果が得られる理由については、実施例1、2と同様である。
【0043】
また、実施例1に対する実施例2のように、FPC8における二層構造部分14において、接地線路17を放熱カバー側に配置して線路幅を信号線路3よりも広げることによっても同等の効果が得られるが、この理由についても実施例2で説明したものと全く同様である。
【0044】
なお、本実施例におけるLD1はCDやDVD用のLD(波長600〜800nm)に代表されるもので、オン電圧が2V前後で微分抵抗値が4Ω前後と小さい。このため、数百mAの電流でLD駆動しても、5Vで動作するLDDに対して十分な駆動力が確保出来るため、アノード側に駆動電流を入力し、カソード側に接地電位を与えている。
【0045】
一方、実施例1、2におけるLD1はBD用のLD(波長400nm程度)に代表されるもので、オン電圧が約3Vで微分抵抗値が10〜40Ω程度と高いため、数百mAの電流でLD駆動した場合、5Vで動作するLDDに対して十分な駆動力が確保できない。そのため、アノード側に外部からの電源を供給し、カソード側に駆動電流を入力している。
【実施例4】
【0046】
図4は、本発明の第4の実施例を示す図である。FPC7上にLD1とLD19を駆動するためのLDD2が実装されており、FPC8にLD1とLD19が実装されている。FPC7、8の上側にはLD1やLD19、LDD2を放熱するための少なくとも1つ以上の放熱カバー5が配置されており、下側には非金属(例えば樹脂製)の光ピックアップ本体6が配置されている。また、FPC7,8にはLDD2の第一の出力端とLD1のアノード端を接続するとともにLD駆動電流を伝送する信号線路3と、LDD2の第二の出力端とLD19のアノード端を接続するとともにLD駆動電流を伝送する信号線路18と、LDD2に接地電位を供給するとともにLD1のカソード端とLD19のカソード端に接続された接地線路17が信号線路3ならびに信号線路18と隣接して配線される。また、信号線路3と信号線路18は少なくとも1箇所以上で接地線路17に対して上下に対抗して配置される二層構造を形成しており、FPC8における二層構造部分14においては信号線路3と信号線路18の線路幅とそれらの線路間隔を足した寸法よりも接地線路17の線路幅の方が広くなっている。そのほかの構成要素については実施例1,2と同様である。
【0047】
本実施例の構成を適用することにより、信号線路3にLD1を駆動する電流を流した場合、ならびに信号線路18にLD19を駆動する電流を流した場合に生じる電磁界強度分布は放熱カバー5と逆側に集中するため、放熱カバーへの結合を低減させることが出来、上記効果が得られる理由については、実施例1と同様である。
【実施例5】
【0048】
本発明における第5の実施例を図9に示す。図5Aは図1に示す光ピックアップの二層構造部分を有する第二のFPC8における上面部、図5Bは斜視図を示す。LD1はLDD2などの実装面に対して三次元的に配置されるため、FPC8の折り曲げ部25を有する。この部分において接地線路4の線路幅をそれ以外の部分に比べて狭くするとともに信号線路3の線路幅よりは広いことを示している。
【0049】
本実施例によれば、信号線路3にLD駆動電流を流した場合に生じる電磁界強度分布は放熱カバー5と逆側に集中するため、放熱カバーへの結合を低減させることが出来る。また、FPC8の折り曲げ部分では応力が低下するため、信頼性を維持しながら上記効果も得ることが出来るという利点がある。上記効果が得られる理由については、実施例1と同様である。
【0050】
また、上記信号線路3と接地線路4が実施例2のように配線されている場合や、実施例3,4のように配線されている場合でも得られる効果は本実施例と同等である。
【0051】
また、本実施例は複数箇所に渡って実施することも可能で、湾曲または折り曲げ部を有する箇所であればそれらの部分に対して本実施例を実施することで、上記と同様の効果が得られる。
【0052】
最後に、図10に本発明における光ディスク装置全体の構成図を示す。デジタルシグナルプロセッサ(DSP)では、ディスクに情報を記録するためのレーザ光を変調するためのライトストラテジ信号の情報を生成し、その情報をデジタル変換して出力する。出力されたライトストラテジ信号の情報は伝送路26を介してLDDへ伝送される。ここで通信される信号にはLow voltage differential signaling(LVDS)方式が用いられることが多い。LDDはDSPからの信号をアナログ変換すなわちライトストラテジ信号に変換して、LDの駆動電流として出力する。LDは駆動電流に従ってレーザ光を照射し、光ディスクに対して記録を行なう。
【0053】
LDDとLDが接続される伝送路26では、シングルエンド方式等が用いられ、本発明を適用することでその上方に形成された放熱カバーへの電磁放射を減らすことが出来る。また、放熱カバーへの電磁放射に起因して光ディスク装置内に流れる電流の量も低減出来るため、光ディスク装置が持つ構造(シャーシ28やカバー29など)の物理的寸法による共振すなわち電磁放射も低減可能となり、電磁放射の少ない光ディスク装置を提供することが可能となる。また、上記放熱カバーへの電磁放射に起因して光ディスク装置内に流れる電流は、他のチップや信号配線、電源配線などに漏洩することもあるため誤動作を引き起こす可能性もあるが、本発明の適用により誤動作のリスクを低減することが出来る。
【0054】
なお、図10に示す構成は一般的な光ディスク装置におけるものであるが、本実施例は他の構成を有する光ディスク装置に対しても同様の効果を得ることが可能である。
【0055】
以上、本発明における各実施例によれば、低コストに電磁放射を低減可能な光ピックアップおよびそれを用いた光ディスク装置を提供可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1.レーザダイオード
2.レーザダイオードドライバ
3.レーザダイオード変調信号線路
4.電源線路
5.光ピックアップ放熱カバー
6.光ピックアップ本体(樹脂製)
7.第一のフレキシブルプリント基板
8. 第二のフレキシブルプリント基板
9.LDD駆動用の電源端子
10.LD駆動用の電源端子
11.接地電位
13.バイパスコンデンサ
14. 二層構造部分
15.放熱カバーから回り込む帰還電流経路
16.放熱カバーとレーザドライバの接地電位の接続点
17.接地線路
18.第二の信号線路
19.第二のレーザダイオード
20.放熱カバーと光ピックアップ本体の接続点
21.光ピックアップ本体(金属製)
22.光ピックアップ本体から回り込む帰還電流経路
23.レーザダイオードドライバの接地電位との接続点
24.第三のフレキシブルプリント基板とその配線
25.第二のフレキシブルプリント基板の折り曲げ部
26.伝送路
27.光ピックアップ
28.光ピックアップを搭載するシャーシ
29.光ディスク装置のカバー
30.光ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いて光ディスクに情報を記録または再生の少なくとも一方を行なう光ピックアップであって、
光学レンズ及び光学ミラーを具備する光ピックアップ光学系と、
前記光ピックアップ光学系の上方に設置されたフレキシブルプリント基板と、
前記フレキシブルプリント基板の上方に設置された放熱カバーと、
ライトストラテジ信号または高周波重畳信号を生成するレーザダイオードドライバと、
前記ライトストラテジ信号または前記高周波重畳信号を駆動電流とし、前記駆動電流に基づいて変調されたレーザ光を出力する第1のレーザダイオードと、
前記フレキシブルプリント基板に形成され、前記第1のレーザダイオードの第1の端子と固定電位を与える端子とを接続する第1の線路と、
前記フレキシブルプリント基板に形成され、前記第1のレーザダイオードの第2の端子と前記レーザダイオードドライバの出力端子とを接続する第2の線路と、を有し、
前記第1の線路と前記第2の線路とは、少なくとも一箇所以上で前記フレキシブルプリント基板の積層方向となる上下方向に対向する二層構造を形成し、
前記第1の線路および前記第2の線路のうち、前記放熱カバー側に形成された線路は、前記光ピックアップ光学系側に形成された線路よりも前記積層方向に直交する方向に線路幅が広い
ことを特徴とする光ピックアップ。
【請求項2】
請求項1において、
前記二層構造は前記光ピックアップ光学系の筺体を納めるケースに沿って折り曲げまたは湾曲している曲げ部分を有し、
前記フレキシブルプリント基板における前記曲げ部分は、前記第1の線路と前記第2の線路とが形成され前記折り曲げまたは湾曲が生じない部分より細く形成される
ことを特徴とする光ピックアップ。
【請求項3】
請求項1において、
前記光ピックアップはさらに、
駆動電流に基づいて変調されたレーザ光を出力する第2のレーザダイオードと、
前記フレキシブルプリント基板に形成され、前記第2のレーザダイオードの第1の端子と前記レーザダイオードドライバの出力端子とを接続する第3の線路と、を有し、
前記第2のレーザダイオードの第2の端子は前記第1の線路に接続され、
前記第1の線路と前記第3の線路とは、前記フレキシブルプリント基板の積層方向となる上下方向に対向する二層構造を形成し、
前記第3の線路は前記フレキシブルプリント基板における前記第2の線路が形成された層に形成され、
前記第1の線路の幅は、前記第2の線路幅と前記第3の線路幅と第2及び第3の線路間隔との和よりも広い
ことを特徴とする光ピックアップ。
【請求項4】
請求項1において、
前記第1のレーザダイオードの前記第1の端子がアノードである場合、前記固定電位を与える端子は電源端子であり、
前記第1のレーザダイオードの前記第1の端子がカソードである場合、前記固定電位を与える端子は接地端子である
ことを特徴とする光ピックアップ。
【請求項5】
請求項1において、
前記光ピックアップ光学系を納める筺体は非金属製の材質である
ことを特徴とする光ピックアップ。
【請求項6】
請求項1において、
前記放熱カバーは金属製の材質である
ことを特徴とする光ピックアップ。
【請求項7】
請求項1において、
前記放熱カバーと前記レーザダイオードドライバの接地電位配線は少なくとも1箇所以上で電気的に接続されている、
ことを特徴とする光ピックアップ。
【請求項8】
レーザ光を用いて光ディスクに情報を記録または再生の少なくとも一方を行なう光ディスク装置であって、
光学レンズ及び光学ミラーを具備する光ピックアップ光学系と、
前記光ピックアップ光学系の上方に設置されたフレキシブルプリント基板と、
前記フレキシブルプリント基板の上方に設置された放熱カバーと、
前記光ディスクに記録または再生する情報に基づいて、ライトストラテジ信号または高周波重畳信号の生成を指示する制御信号を生成するデジタルシグナルプロセッサと、
前記制御信号に基づいて、前記ライトストラテジ信号または前記高周波重畳信号を生成するレーザダイオードドライバと、
前記ライトストラテジ信号または前記高周波重畳信号を駆動電流とし、前記駆動電流に基づいて変調されたレーザ光を出力する第1のレーザダイオードと、
前記フレキシブルプリント基板に形成され、前記第1のレーザダイオードの第1の端子と固定電位を与える端子とを接続する第1の線路と、
前記フレキシブルプリント基板に形成され、前記第1のレーザダイオードの第2の端子と前記レーザダイオードドライバの出力端子とを接続する第2の線路と、を有し、
前記第一の線路と前記第二の線路とは、少なくとも一箇所以上で前記フレキシブルプリント基板の積層方向となる上下方向に対向する二層構造を形成し、
前記第1の線路および前記第2の線路のうち、前記放熱カバー側に形成された線路は、前記光ピックアップ光学系側に形成された線路よりも前記積層方向に直交する方向に線路幅が広い
ことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記二層構造は前記光ピックアップ光学系の筺体を納めるケースに沿って折り曲げまたは湾曲している曲げ部分を有し、
前記曲げ部分は、前記第一の線路と前記第二の線路が形成され、前記折り曲げまたは湾曲が生じない部分よりも前記フレキシブルプリント基板が細く形成される、
ことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項10】
請求項8において、
前記光ピックアップはさらに、
駆動電流に基づいて変調されたレーザ光を出力する第2のレーザダイオードと、
前記フレキシブルプリント基板に形成され、前記第2のレーザダイオードの第1の端子と前記レーザダイオードドライバの出力端子とを接続する第3の線路と、を有し、
前記第2のレーザダイオードの第2の端子は前記第1の線路に接続され、
前記第1の線路と前記第3の線路とは、前記フレキシブルプリント基板の積層方向となる上下方向に対向する二層構造を形成し、
前記第3の線路は前記フレキシブルプリント基板における前記第2の線路が形成された層に形成され
前記第1の線路の幅は、前記第2の線路幅と前記第3の線路幅と第2及び第3の線路間隔との和よりも広い
ことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項11】
請求項8において、
前記第1のレーザダイオードの前記第1の端子がアノードである場合、前記固定電位を与える端子は電源端子であり、
前記第1のレーザダイオードの前記第1の端子がカソードである場合、前記固定電位を与える端子は接地端子である
ことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項12】
請求項8において、
前記光ピックアップ光学系を納める筺体は非金属製の材質である
ことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項13】
請求項8において、
前記放熱カバーは金属製の材質である
ことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項14】
請求項8において、
前記放熱カバーと前記レーザダイオードドライバの接地電位配線は少なくとも1箇所以上で電気的に接続されている、
ことを特徴とする光ディスク装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−93075(P2013−93075A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233517(P2011−233517)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【出願人】(501009849)株式会社日立エルジーデータストレージ (646)
【Fターム(参考)】