説明

光ピックアップ用光学素子、及び光ピックアップ装置

【課題】光ピックアップ用光学素子の耐摩擦性、耐薬品性(耐溶剤性)及び耐環境性の向上を図る。
【解決手段】光ピックアップ用光学素子が、樹脂組成物からなる基材と、基材の上面に形成された、主成分が同一の3層の薄膜からなるアンダーコートと、アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、を備え、アンダーコートの第1層目及び第3層目の薄膜は、酸素を導入しないで成膜した薄膜であり、第2層目の薄膜は、酸素を導入して成膜した薄膜であり、アンダーコートの膜厚は、160nm〜270nmの範囲内であり、アンダーコートを構成する各薄膜の膜厚が略等しいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、所定の規格の光ディスクに対する情報の記録又は再生を行うのに適した光ピックアップ用光学素子、及び光ピックアップ装置に関連し、特に、基材の上面にアンダーコートと機能性薄膜とを形成した光ピックアップ用光学素子及び該光ピックアップ用光学素子を搭載した光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクには、従来、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray Disc)といった記録密度や保護層厚が異なる複数種類の規格が存在する。そして、これら光ディスクの情報記録層にレーザ光束を照射して情報の記録及び/又は再生を行うために、対物レンズやコリメートレンズ等の光学素子(光ピックアップ用光学素子)を搭載した光ピックアップ装置が使用されている。
【0003】
光ピックアップ装置により光ディスクの記録又は再生を行う際、光ピックアップ用光学素子の光学面で発生する不要な反射光や散乱光が信号光に干渉して、記録又は再生される信号が劣化することがある。このため、光ピックアップ用光学素子の光学面には、反射防止膜や、埃の付着を抑制する帯電防止膜等の機能性薄膜が設けられることが多い。
【0004】
光ピックアップ装置の組み立て時、光ピックアップ用光学素子の表面に付着した埃や指紋は、溶剤によって拭き取られる。従って、反射防止膜等の機能性薄膜には、耐摩擦性及び耐薬品性、並びに基材に対する密着性が求められる。そして、これらの性能を向上させるために、酸化シリコンを主成分とする所定の膜厚に成膜された薄膜を反射防止膜のアンダーコートとして用いる技術が開発されている(特許文献1)。また、耐光性を向上させるために、酸化シリコンを主成分とする異なる屈折率の薄膜を交互に積層し、これを反射防止膜のアンダーコートとして用いる技術も開発されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−273601号公報
【特許文献2】特開2006−228285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
耐摩擦性及び耐薬品性の観点からは、アンダーコートの膜厚を厚くすることが有効である。しかし、アンダーコートの膜厚を厚くすると、成膜後に膜浮きが発生するという問題がある。
【0007】
特許文献1又は特許文献2のアンダーコートは、このような問題を解決しようとするものであるが、顕著な効果を得ようとすると300nm以上の膜厚が必要となり、この膜厚のアンダーコートを樹脂の基材上に成膜すると、高温下でクラックや剥離が発生する等、依然として耐環境性において著しい劣化がみられる。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、耐摩擦性、耐薬品性(耐溶剤性)及び耐環境性の性能を併せ持つことが可能な光ピックアップ用光学素子及び該光ピックアップ用光学素子を搭載した光ピックアップ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る光ピックアップ用光学素子は、光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、樹脂組成物からなる基材と、基材の上面に形成された、主成分が同一の3層の薄膜からなるアンダーコートと、アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、を備え、アンダーコートの第1層目及び第3層目の薄膜は、酸素を導入しないで成膜した薄膜であり、第2層目の薄膜は、酸素を導入して成膜した薄膜であり、アンダーコートの膜厚は、160nm〜270nmの範囲内であり、アンダーコートを構成する各薄膜の膜厚が略等しいことを特徴とする。
【0010】
このような構成により、アンダーコートの膜厚を薄くすることが可能となるため、従来の耐摩擦性及び耐薬品性(耐溶剤性)を維持しながら耐環境性の向上を図ることが可能になる。
【0011】
また、本発明の一形態に係る光ピックアップ用光学素子は、光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、樹脂組成物からなる基材と、基材の上面に形成された、主成分が同一の3層の薄膜からなるアンダーコートと、アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、を備え、アンダーコートの第1層目及び第3層目の薄膜は、酸素を導入しないで成膜した薄膜であり、第2層目の薄膜は、酸素を導入して成膜した薄膜であり、アンダーコートの膜厚は、120nm〜270nmの範囲内であり、第2層目の薄膜の膜厚は、90nm〜240nmの範囲であることを特徴とする。この場合、アンダーコートの第1層目の膜厚と第3層目の膜厚とが異なるように構成してもよい。
【0012】
また、本発明の一形態に係る光ピックアップ用光学素子は、光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、樹脂組成物からなる基材と、基材の上面に形成された、主成分が同一の5層の薄膜からなるアンダーコートと、アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、を備え、アンダーコートの第1層目、第3層目及び第5層目の薄膜は、酸素を導入しないで成膜した薄膜であり、第2層目及び第4層目の薄膜は、酸素を導入して成膜した薄膜であり、アンダーコートの膜厚は、150nm〜275nmの範囲内であり、アンダーコートを構成する各薄膜の膜厚が略等しいことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一形態に係る光ピックアップ用光学素子は、光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、樹脂組成物からなる基材と、基材の上面に形成された、主成分が同一の5層の薄膜からなるアンダーコートと、アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、を備え、アンダーコートの第1層目、第3層目及び第5層目の薄膜は、酸素を導入しないで成膜した薄膜であり、第2層目及び第4層目の薄膜は、酸素を導入して成膜した薄膜であり、アンダーコートの膜厚は、125nm〜290nmの範囲内であり、第2層目及び第4層目の薄膜の平均膜厚が、30nm〜120nmの範囲であることを特徴とする。この場合、第1層目、第3層目及び第5層目の薄膜の膜厚がそれぞれ異なるように構成してもよい。また、第2層目及び第4層目の薄膜の膜厚がそれぞれ異なるように構成することもできる。
【0014】
また、酸素を導入して成膜した薄膜は、0.7×10−2Pa〜3.0×10−2Paの流量の酸素を導入して成膜した薄膜であることが好ましい。
【0015】
また、アンダーコートは、金属酸化物を主成分とする薄膜で構成することができる。この場合、金属酸化物が酸化シリコンであることが好ましい。
【0016】
また、基材は、シクロオレフィン系樹脂で構成することが好ましい。
【0017】
また、機能性薄膜が、反射防止膜であることが好ましい。また、この場合においては、反射防止膜が、酸化アルミニウムの薄膜と、酸化シリコンとアルミニウムとの混合物の薄膜とからなることが好ましい。
【0018】
また、別の観点からは、本発明の一形態に係る光ピックアップ用光学素子は、光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、樹脂組成物からなる基材と、基材の上面に形成された、主成分が同一の3層の薄膜からなるアンダーコートと、アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、を備え、アンダーコートの第1層目及び第3層目の薄膜の屈折率は、第2層目の薄膜の屈折率より大きく、アンダーコートの膜厚は、160nm〜270nmの範囲内であり、アンダーコートを構成する各薄膜の膜厚が略等しいことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の一形態に係る光ピックアップ用光学素子は、光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、樹脂組成物からなる基材と、基材の上面に形成された、主成分が同一の3層の薄膜からなるアンダーコートと、アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、を備え、アンダーコートの第1層目及び第3層目の薄膜の屈折率は、第2層目の薄膜の屈折率より大きく、アンダーコートの膜厚は、120nm〜270nmの範囲内であり、第2層目の薄膜の膜厚は、90nm〜240nmの範囲であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の一形態に係る光ピックアップ用光学素子は、光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、樹脂組成物からなる基材と、基材の上面に形成された、主成分が同一の5層の薄膜からなるアンダーコートと、アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、を備え、アンダーコートの第1層目、第3層目及び第5層目の薄膜の屈折率は、第2層目及び第4層目の薄膜の屈折率より大きく、アンダーコートの膜厚は、150nm〜275nmの範囲内であり、アンダーコートを構成する各薄膜の膜厚が略等しいことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の一形態に係る光ピックアップ用光学素子は、光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、樹脂組成物からなる基材と、基材の上面に形成された、主成分が同一の5層の薄膜からなるアンダーコートと、アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、を備え、アンダーコートの第1層目、第3層目及び第5層目の薄膜の屈折率は、第2層目及び第4層目の薄膜の屈折率より大きく、アンダーコートの膜厚は、125nm〜290nmの範囲内であり、第2層目及び第4層目の薄膜の平均膜厚が、30nm〜120nmの範囲であることを特徴とする。
【0022】
また、別の観点からは、本発明の光ピックアップ装置は、上記のいずれかの光ピックアップ用光学素子と、光ピックアップ用光学素子に向けて400〜410nmの範囲の特定波長の単色光を出射する光源とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る光ピックアップ用光学素子によれば、耐摩擦性、耐薬品性(耐溶剤性)及び耐環境性の性能を併せ持つことが可能になる。また、本発明に係る光ピックアップ用光学素子を具備した光ピックアップ装置によれば、組み立て時のハンドリングの容易性を維持しながら、使用可能な環境の拡大を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る光ピックアップ光学系の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る光ピックアップ用光学素子のアンダーコート及び反射防止膜の構成を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係る光ピックアップ用光学素子の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る光ピックアップ用光学素子、及びこの光ピックアップ用光学素子が搭載される光ピックアップ装置について説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る光ピックアップ用光学素子10が搭載される光ピックアップ光学系100の概略構成を表す模式図である。本実施形態の光ピックアップ装置は、光ピックアップ光学系100を搭載し、BD規格に準拠した高記録密度光ディスクD(以下「光ディスクD」という。)に対する情報の記録や再生を行う装置である。
【0027】
図1に示されるように、光ピックアップ光学系100は、光源1、ハーフミラー2、コリメートレンズ3、対物レンズ4、及び受光部5を有している。なお、図1に示される一点鎖線は、光ピックアップ光学系100の基準軸(光軸)AXを示す。また、実線は光ディスクDへの入射光束またはその戻り光を示している。以下、本明細書においては、コリメートレンズ3及び対物レンズ4を総称して光ピックアップ用光学素子10という。
【0028】
光ディスクDは、図示省略された保護層及び記録面を有している。なお、実際の光ディスクDにおいて、記録面は、保護層と基板層(あるいはレーベル層)によって挟持されている。また、光ディスクDは、図示省略されたターンテーブル上にセットされ、回転された状態で記録面に光源1が発生するレーザ光束が当てられて情報の記録又は再生が行われる。
【0029】
光源1は、設計基準波長405nmの青色レーザ光を照射する半導体レーザである。一般に光ピックアップ光学系100に使用されるファブリ・ペロー型半導体レーザの発振波長λ(単位:nm)は、使用環境や製品個体差により数nm〜数十nm程度の範囲(例えば400〜410nm)で変動する。
【0030】
図1に示されるように、光源1から照射されたレーザ光束は、ハーフミラー2により偏向されてコリメートレンズ3に入射する。コリメートレンズ3に入射したレーザ光束は、コリメートレンズ3により平行光束に変換された後、対物レンズ4の第一面41に入射する。第一面41に入射したレーザ光束は、対物レンズ4の第二面42から出射して、情報の記録または再生の対象となる光ディスクDの記録面近傍に収束する。収束したレーザ光束は、光ディスクDの記録面上で収差の少ない良好なスポットを形成する。そして、レーザ光束は、光ディスクDの記録面で反射して、入射時と同一の光路を戻り、ハーフミラー2を透過して受光部5により受光される。
【0031】
受光部5は、受光したレーザ光束を光電変換してアナログ信号を生成し、図示省略された信号処理回路に出力する。信号処理回路は、入力されたアナログ信号をビットストリームに変換して所定の誤り訂正処理を行う。次いで、誤り訂正されたビットストリームをオーディオストリームやビデオストリーム等の各ストリームに分離してデコードする。信号処理回路は、デコードして得られたオーディオ信号やビデオ信号等をアナログ信号に変換してスピーカやディスプレイ(何れも不図示)に出力する。これにより、光ディスクDに記録された音声や映像等がスピーカやディスプレイを通じて再生される。
【0032】
対物レンズ4は、光ディスクDに対する情報の記録や再生が適切に行われるように、使用波長λにおける光ディスクD側の開口数NAが例えば0.8〜0.87の範囲に収まるように構成されている。
【0033】
コリメートレンズ3及び対物レンズ4(すなわち、光ピックアップ用光学素子10)は、公知の射出成型技術によって合成樹脂から成形された樹脂製レンズである。樹脂製レンズはガラス製レンズに比べて軽量であるため、対物レンズ4に樹脂レンズを採用することにより、レンズ駆動用アクチュエータ(不図示)に加える負担を軽くすることができる。また、樹脂は、ガラスと比べてガラス転移温度が格段に低く、低い温度で成形することができる。このため、樹脂製レンズは、ガラス製レンズと比べて、製造が容易であり、製造に必要なエネルギー消費量も少ない。更に、樹脂製レンズは割れ難く、取扱いが容易であり、量産による低コスト化に適している。光ピックアップ用光学素子10の材料には、使用波長λにおける屈折率nが例えば1.4〜1.7の範囲に収まる樹脂が選択される。また、後述するように、光ピックアップ用光学素子10の光学面にアンダーコート4aや反射防止膜4bがコーティングされる場合、高温環境下の光学素子のコーティングされた光学面において光触媒が関与する微細な形状変化が発生する場合がある。このような形状変化は、光ピックアップ用光学素子10を形成する樹脂のガラス転移温度Tgが比較的に低い場合(具体的には、Tgが115℃以下の場合)に頻発する。このため、光ピックアップ用光学素子10の基材に使用する材料には、Tgが115℃(好ましくは120℃)を超える樹脂が選択される。本実施形態においては、コリメートレンズ3及び対物レンズ4の基材には、シクロオレフィン系樹脂を使用する。シクロオレフィン系樹脂は、非晶性樹脂であって、耐薬品性に優れる、複屈折率が低い、吸水率が低い、金型転写性能に優れる、耐光性に優れる等の特徴を有するため、コリメートレンズ3や対物レンズ4等の光学部品に適している。
【0034】
コリメートレンズ3の両面にはアンダーコート4a及び反射防止膜4bがコーティングされる。また、対物レンズ4の片面又は両面にも、必要に応じてアンダーコート4a及び反射防止膜4bがコーティングされる。図2は、本実施形態のアンダーコート4a及び反射防止膜4bの構成を模式的に示す図である。
【0035】
光ピックアップ用光学素子10にコーティングされるアンダーコート4a及び反射防止膜4bは、それぞれ積層された複数層の誘電体薄膜で構成され、スパッタリングや真空蒸着により成膜される。薄膜材料には、光触媒反応を誘起する化合物を構成するチタン(Ti)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、又はクロム(Cr)等の元素を含まない誘電体材料が使用される。これらの元素を含有する膜(例えば酸化チタン膜)を光ピックアップ用光学素子10の光学面にコーティングすると、高温環境において青色レーザ光の吸収によって膜が活性化されて周囲の樹脂に化学変化を起こさせ、変質及び変質に伴う変形を光学面付近の樹脂基材に生じさせる。光触媒作用をもたらす上記元素の含有がコート面付近のレンズ基材の形状変化や変質に与える影響は大きいため、光ピックアップ用光学素子10の寿命を長くするには、アンダーコート4a及び反射防止膜4bはこれらの元素を含まない材料から構成される必要がある。
【0036】
図2に示すように、本実施形態のアンダーコート4aには、光触媒作用のない金属酸化物である酸化シリコンの薄膜が使用され、3層の酸化シリコンの薄膜が真空蒸着により成膜されている。3層の酸化シリコンの薄膜は、真空蒸着装置のチャンバ内に酸素を導入しないで成膜した層と酸素を導入して成膜した層とを交互に積層して形成されており、基材4側から数えて第2層目は、酸素を導入して成膜した酸化シリコンの薄膜である。アンダーコート4aの基材4側から数えて第1層目及び第3層目は、それぞれ基材4及び反射防止膜4bとの密着性を高める必要性から酸素を導入しないで成膜した酸化シリコンの薄膜で構成されている。後述するように、本発明の発明者らは、酸素を導入しないで成膜した酸化シリコン層と酸素を導入して成膜した酸化シリコン層とを交互に積層してアンダーコート4aを形成することにより、アンダーコート4aの上面に形成される反射防止膜4bの耐摩擦性、耐薬品性(耐溶剤性)及び耐環境性を飛躍的に向上させることができることを発見した。
【0037】
詳細は後述するが、本発明者らが行った実験結果によれば、所定の条件で製造した光ピックアップ用光学素子10(後述する実施例1〜31)の反射防止膜4bは、いずれも密着性、耐摩耗性及び耐薬品性に優れており、これらの特性は、高温、低温、高温高湿等の厳しい環境においても大きく損なわれないことが判った。そして、この効果は、アンダーコート4aを構成する酸化シリコンの薄膜の構成に起因しており、アンダーコート4a全体を奇数層の酸化シリコンの薄膜で構成し、奇数層(すなわち、基材4側から数えて第1層目、第3層目)については酸素を導入しないで成膜し、偶数層(すなわち、基材4側から数えて第2層目)については酸素を導入しながら成膜することが極めて有効であることが判った。
【0038】
反射防止膜4bには、光触媒作用のない材料、例えば酸化シリコン、酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、又は、これらの二以上の混合物(例えば酸化シリコンと酸化アルミニウムの混合物)が使用されることが望ましく、本実施形態においては、酸化シリコンと酸化アルミニウムの混合物が使用される。このような成分から構成される反射防止膜4bは、コリメートレンズ3や対物レンズ4のアンダーコート4aの上面(両面)に形成される。コリメートレンズ3や対物レンズ4の両面に反射防止膜4bを設けることにより、不要な反射による信号レベルの低下やノイズの発生を効果的に軽減することができる。なお、対物レンズ4の第一面41、第二面42では中心部から周辺にかけての入射角度の変化が大きく、第一面41、第二面42で反射する反射光は広角に拡散する。このため、第一面41、第二面42で反射した光が光ディスクDに対する情報の記録・再生に与える影響は比較的に小さい。従って、設計によっては、対物レンズ4の第一面41や第二面42には必ずしも反射防止膜4bを設ける必要は無い。
【0039】
また、コリメートレンズ3及び対物レンズ4の光学面に形成される反射防止膜4bは、それぞれ別の構成であってもよい。また、コリメートレンズ3及び対物レンズ4の光学面毎に異なる構成の反射防止膜4bを設けてもよい。例えば、コリメートレンズ3及び対物レンズ4の光学面に入射する青色レーザ光のパワー密度や光学面の曲率等に応じて、光学面毎に反射防止膜4bの構成を決定することが望ましい。
【0040】
また、アンダーコート4aは、3層の構成に限定されるものではなく、全体として奇数層となる酸化シリコンの薄膜によって構成することが可能である。図3は、図2の本実施形態のアンダーコート4aの変形例を示す図である。本変形例においては5層の酸化シリコンの薄膜がアンダーコート40aとして成膜されている。5層の酸化シリコンの薄膜は、酸素を導入しないで成膜した層と酸素を導入して成膜した層とを交互に積層して形成されている。基材4側から数えて第2層目及び第4層目は、酸素を導入して成膜した酸化シリコンの薄膜であり、基材4側から数えて第1層目、第3層目及び第5層目は、酸素を導入しないで成膜した酸化シリコンの薄膜である。このように、アンダーコートを奇数層の酸化シリコンの薄膜によって構成し、偶数層は酸素を導入して成膜し、奇数層は酸素を導入しないで成膜することにより、上述の実施形態と同様、反射防止膜4bの耐摩擦性、耐薬品性(耐溶剤性)及び耐環境性を飛躍的に向上させることができる。
【実施例】
【0041】
上述した本発明の実施形態及びその変形例に係る光ピックアップ用光学素子10について、以下に幾つかの実施例及び比較例を示し、さらに詳細に説明する。
【0042】
<光ピックアップ用光学素子10の製造方法>
各実施例及び比較例に係る光ピックアップ用光学素子10の製造方法について説明する。先ず、シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン株式会社製:Zeonex 350R)からなる成型品(基材4)を製造する。次いで、基材4の上面に、真空蒸着装置を用いて、3層又は5層(比較例においては、1層〜5層)の酸化シリコンのアンダーコート4a(40a)を蒸着する。ここで、(後述する比較例1〜3、9を除き、)アンダーコート4a(40a)の奇数層(すなわち、基材4側から数えて第1層目、第3層目及び第5層目)は、真空蒸着装置のチャンバに酸素を導入しないで所定の膜厚となるように成膜し、偶数層(すなわち、基材4側から数えて第2層目及び第4層目)は、真空蒸着装置のチャンバに所定の流量(例えば、「0.7×10−2Pa」〜「3.0×10−2Pa」)の酸素を導入しながら所定の膜厚となるように成膜する。次いで、アンダーコート4a(40a)の上面に、更に真空蒸着装置を用いて、酸化アルミニウムの薄膜及び酸化シリコンと少量のアルミニウムとの混合物の薄膜を順に蒸着して反射防止膜4bを形成する。
【0043】
<実施例及び比較例の説明>
表1Aは、光ピックアップ用光学素子10のアンダーコート4a及び反射防止膜4bの具体的構成を示す実施例(実施例1〜13)であり、表1Bは、光ピックアップ用光学素子10のアンダーコート40a及び反射防止膜4bの具体的構成を示す実施例(実施例14〜31)である。また、表2は、実施例1〜31に対する比較例(比較例1〜12)を示している。表1A、表1B及び表2中、「アンダーコート」及び「反射防止膜」の各欄の数字は各薄膜の膜厚であり、SiO(1)は基材4側から数えて第1層目の薄膜を示し、SiO(2)は基材4側から数えて第2層目の薄膜を示し、SiO(3)は基材4側から数えて第3層目の薄膜を示し、SiO(4)は基材4側から数えて第4層目の薄膜を示し、SiO(5)は基材4側から数えて第5層目の薄膜を示している。また、酸素を導入しながら成膜した薄膜は、「(O)」で示し、酸素の流量は真空度(例えば、「1.0E−2Pa」(すなわち、1.0×10−2Pa)、「2.0E−2Pa」(すなわち、2.0×10−2Pa)等)で示している。ここで、「1.0×10−2Pa」は、約25〜30sccm(standard cc/min)の流量に相当し、「2.0×10−2Pa」は、約65〜70sccmの流量に相当する。酸素の流量は、各酸化シリコンの薄膜の屈折率に影響することが知られている。酸素を導入しないで成膜した場合の薄膜の屈折率は、1.466(λ=500nm)、真空度が「1.0×10−2Pa」の場合、1.456(λ=500nm)、真空度が「2.0×10−2Pa」の場合、1.441(λ=500nm)となる。すなわち、酸素を導入しない層と酸素を導入する層とを交互に蒸着することによって、屈折率の異なる酸化シリコンの層が交互に蒸着されることとなる。
【表1A】

【表1B】

【表2】

【0044】
実施例1〜13の光ピックアップ用光学素子10には、3層の酸化シリコンの薄膜で構成されたアンダーコート4aが蒸着されている。実施例1〜5は、アンダーコート4aを構成する各薄膜の膜厚を略同一に構成したものであり、実施例6〜13は、奇数層の膜厚を偶数層の膜厚よりも薄く構成したものである。
【0045】
実施例14〜31の光ピックアップ用光学素子10には、5層の酸化シリコンの薄膜で構成されたアンダーコート40aが蒸着されている。実施例14〜20は、アンダーコート40aを構成する各薄膜の膜厚を略同一に構成したものであり、実施例21〜31は、奇数層の平均の膜厚が偶数層の平均の膜厚よりも薄くなるように構成したものである。
【0046】
各実施例の光ピックアップ用光学素子10には、アンダーコート4a(40a)の上面に、膜厚67nmの酸化アルミニウムの薄膜及び膜厚69nmの酸化シリコンと少量のアルミニウムとの混合物の薄膜が順に蒸着されている。酸化アルミニウムの薄膜と、酸化シリコンと少量のアルミニウムとの混合物の薄膜とによって反射防止膜4bが構成されており、本実施例及び比較例においては、屈折率1.65(λ=500nm)の酸化アルミニウムの薄膜と、屈折率1.48(λ=500nm)の酸化シリコンとアルミニウムの混合物の薄膜とで構成した反射防止膜4bを蒸着した。なお、アンダーコート4a(40a)全体の膜厚が290nmを超えると、後述する信頼性試験で、アンダーコート4a及び反射防止膜4bにクラックや剥離が発生することが実験によって判明しているため、各実施例のアンダーコート4a(40a)全体の膜厚は、290nm以下となっている。また、真空蒸着による成膜においては、15nmよりも薄くなると正確な膜厚制御が困難となるため、最薄の酸化シリコンの膜厚を15nmとしているが、膜厚制御が可能であれば、酸化シリコンの膜厚をさらに薄くすることも可能である。
【0047】
比較例1のアンダーコートは、酸素を導入しないで成膜した膜厚50nmの酸化シリコンの薄膜を4層積層(すなわち、4回のプロセスで積層)したものである。比較例2のアンダーコートは、酸素を導入しながら成膜した膜厚207nmの酸化シリコンの薄膜である。比較例3のアンダーコートは、酸素を導入しないで成膜した膜厚207nmの酸化シリコンの薄膜である。比較例4及び5は、アンダーコートを構成する酸化シリコンの薄膜を実施例3よりも更に薄くした場合の比較例である。比較例6及び7は、アンダーコートの偶数層(すなわち、第2層目)の膜厚を実施例7よりも更に薄くした場合の比較例である。比較例8は、アンダーコートの奇数層の膜厚を偶数層の膜厚よりも厚く構成したもの(すなわち、奇数層の平均の膜厚を偶数層の平均の膜厚よりも厚く構成したもの)である。比較例9は、酸素を導入しないで成膜した膜厚40nmの酸化シリコンの薄膜を5層積層(すなわち、5回のプロセスで積層)したものである。比較例10は、アンダーコートの奇数層及び偶数層の膜厚を実施例18よりも薄く構成した場合の比較例である。比較例11は、アンダーコートの偶数層(すなわち、第2層目)の膜厚を実施例21よりも更に薄くした場合の比較例である。比較例12は、アンダーコートの奇数層の膜厚を偶数層の膜厚よりも厚く構成したもの(すなわち、奇数層の平均の膜厚を偶数層の平均の膜厚よりも厚く構成したもの)である。
【0048】
このように構成された各実施例及び比較例に係る光ピックアップ用光学素子10について、以下のような摩擦剥離試験及び信頼性試験を行った。表3A及び表3Bは、表1A及び表1Bに示した実施例(実施例1〜31)の摩擦剥離試験結果及び信頼性試験結果を示す表であり、表4は、表2に示した比較例(比較例1〜12)の摩擦剥離試験結果及び信頼性試験結果を示す表である。
【表3A】

【表3B】

【表4】

【0049】
<摩擦剥離試験>
摩擦剥離試験は、綿棒に少量のIPA(Isopropyl Alcohol)を含ませて反射防止膜4bの表面を一定荷重の負荷で擦り、その際の反射防止膜4bの剥離荷重を評価することによって行った。この時に負荷する荷重は50gから500gの範囲で、25g刻みで荷重を増やし、反射防止膜4bの表面を各荷重において10回ずつ擦って評価した。そして、反射防止膜4bの剥離が発生しない最大の荷重を以って摩擦剥離荷重とし、500gの負荷によっても剥離が発生しない場合には、500gと評価した。なお、一部の比較例においては、予想以上に少ない負荷で剥離が発生したため、1g刻みで負荷を増やして評価を行っている。また、摩擦剥離試験は、真空蒸着装置のチャンバの上段、中段、下段にそれぞれ収容して蒸着した、各実施例及び比較例の複数の光ピックアップ用光学素子10について行った。そして、チャンバの上段、中段、下段毎に摩擦剥離荷重の平均を求め、上段、中段、下段の全てにおいて200g以上の摩擦剥離荷重である場合には合格(判定「○」:実用レベル以上)と判定し、上段、中段、下段のいずれか1段において200gよりも小さい摩擦剥離荷重がある場合には、製品化可能レベル(判定「△」:ほぼ実用レベル)と判定し、上段、中段、下段のいずれか2段以上において200gよりも小さい摩擦剥離荷重がある場合には、不合格(判定「×」:実用レベルに達していない)と判定した。なお、摩擦剥離試験は、成膜後、一週間を経過した各実施例及び比較例の光ピックアップ用光学素子10を用いて行った。
【0050】
<信頼性試験>
信頼性試験では、各実施例及び比較例に係る光ピックアップ用光学素子10について高温試験、低温試験及び高温高湿試験を行い、各実施例及び比較例の反射防止膜4bの外観を観察して評価した。高温試験では、各実施例及び比較例の光ピックアップ用光学素子10を温度85℃の環境下に168時間放置し、その後、室温環境下に置いて、反射防止膜4bの外観を観察した。低温試験では、各実施例及び比較例の光ピックアップ用光学素子10を温度−40℃の環境下に168時間放置し、その後、室温環境下に置いて、反射防止膜4bの外観を観察した。高温高湿試験では、各実施例及び比較例の光ピックアップ用光学素子10を温度60℃、湿度90%の環境下に168時間放置し、その後、室温環境下に置いて、反射防止膜4bの外観を観察した。そして、各試験において、クラック又は剥離が認められなかった場合には合格(判定「○」:実用レベル以上)と判定し、一部のサンプルに多少のクラック又は剥離が認められたものの実用上問題ないレベルであった場合には製品化可能レベル(判定「△」:ほぼ実用レベル)と判定し、明らかなクラック又は剥離が認められた場合には不合格(判定「×」:実用レベルに達していない)と判定した。なお、比較例4〜8、12については、摩擦剥離試験において不合格と判定されたため、信頼性試験は行わなかった。
【0051】
<総合評価>
上記摩擦剥離試験と信頼性試験の結果から、総合的な評価を行った。具体的には、摩擦剥離試験と信頼性試験のいずれかにおいて不合格(判定「×」:実用レベルに達していない)と判定された項目がある場合には不合格(判定「×」:実用レベルに達していない)と判定し、不合格と判定された項目が無い場合には合格(判定「○」:実用レベル以上)と判定した。
【0052】
表3A及び表3Bから、本実施例1〜31の反射防止膜4bは、いずれも密着性、耐摩耗性及び耐薬品性に優れており、これらの特性は、高温、低温、高温高湿等の厳しい環境においても大きく損なわれないことが判る。そして、本実施例1〜31と、比較例1〜12とを比較すると判るように、この効果は、アンダーコート4a(40a)を構成する酸化シリコンの薄膜の構成に起因していることが理解できる。以下、詳細に考察する。
【0053】
<考察>
先ず、実施例1〜31と比較例1〜3、9とを比較すると、アンダーコート4a(40a)全体を奇数層の酸化シリコンの薄膜で構成し、奇数層(すなわち、基材4側から数えて第1層目、第3層目及び第5層目)は、酸素を導入しないで成膜し、偶数層(すなわち、基材4側から数えて第2層目及び第4層目)は、酸素を導入しながら成膜することが有効であることが判る。
【0054】
そして、実施例1〜5と比較例4、5とを比較すると判るように、アンダーコートを3層の酸化シリコンの薄膜で構成する場合(すなわち、アンダーコート4aの場合)であって、第1層目及び第3層目(すなわち、酸素を導入しないで成膜した層)と第2層目(すなわち、酸素を導入しながら成膜した層)とを略同一の膜厚の薄膜で構成する場合には、アンダーコート4a全体の膜厚が160nm〜270nmの範囲(すなわち、各薄膜の膜厚が53nm〜90nmの範囲)となるように構成すると有効である。
【0055】
また、実施例6〜11と比較例6〜8とを比較すると判るように、アンダーコートを3層の酸化シリコンの薄膜で構成する場合(すなわち、アンダーコート4aの場合)であって、第1層目及び第3層目(すなわち、酸素を導入しないで成膜した層)と第2層目(すなわち、酸素を導入しながら成膜した層)とを異なる膜厚の薄膜で構成する場合には、第1層目及び第3層目の膜厚を第2層目の膜厚よりも薄くし、アンダーコート4a全体の膜厚が120nm〜270nmの範囲で、且つ、第2層目の膜厚を90nm〜240nmの範囲となるように構成すると有効である。なお、実施例12及び13に示すように、第1層目及び第3層目の膜厚は、必ずしも同一である必要はなく、実施例1〜5を考慮すると、酸素を導入しながら成膜した層(すなわち、第2層目)の膜厚が、酸素を導入しないで成膜した層(すなわち、第1層目及び第3層目)の平均の膜厚以上であれば、同様の効果を得ることができるといえる。
【0056】
また、実施例9と比較例5、8とを比較すると、アンダーコートを3層の酸化シリコンの薄膜で構成する場合(すなわち、アンダーコート4aの場合)、アンダーコート4a全体の膜厚が同じ場合には、酸素を導入しながら成膜した層(すなわち、第2層目)の膜厚が厚いほど良好な結果を示すといえる。
【0057】
また、実施例14〜20と比較例9、10とを比較すると判るように、アンダーコートを5層の酸化シリコンの薄膜で構成する場合(すなわち、アンダーコート40aの場合)であって、各層を略同一の膜厚の薄膜で構成する場合には、アンダーコート40a全体の膜厚が150nm〜275nmの範囲(すなわち、各薄膜を30nm〜55nmの範囲)となるように構成すると有効である。また、第2層目及び第4層目を成膜する際の酸素の流量は、0.7×10−2Pa〜3.0×10−2Paの範囲内であれば同様の効果を得られることが判る。
【0058】
また、実施例21〜29と比較例11、12とを比較すると判るように、アンダーコートを5層の酸化シリコンの薄膜で構成する場合(すなわち、アンダーコート40aの場合)であって、第1層目、第3層目及び第5層目(すなわち、酸素を導入しないで成膜した層)と、第2層目及び第4層目(すなわち、酸素を導入しながら成膜した層)とを異なる膜厚の薄膜で構成する場合には、第1層目、第3層目及び第5層目の膜厚を第2層目及び第4層目の膜厚よりも薄くし、アンダーコート40a全体の膜厚が125nm〜290nmの範囲で、且つ、第2層目及び第4層目の膜厚を30nm〜120nmの範囲となるように構成すると有効である。なお、実施例30及び31に示すように、各層の膜厚は、それぞれ異なっていてもよく、実施例14〜20を考慮すると、酸素を導入しながら成膜した層(すなわち、第2層目及び第4層目)の平均の膜厚が、酸素を導入しないで成膜した層(すなわち、第1層目、第3層目及び第5層目)の平均の膜厚以上であれば、同様の効果を得ることができるといえる。
【0059】
また、実施例28〜30と比較例12とを比較すると、アンダーコートを5層の酸化シリコンの薄膜で構成する場合(すなわち、アンダーコート40aの場合)、アンダーコート40a全体の膜厚が同じ場合には、酸素を導入しながら成膜した層(すなわち、第2層目及び第4層目)の平均の膜厚が厚いほど良好な結果を示すといえる。
【0060】
以上が本発明の実施形態および該実施形態の具体的実施例の説明であるが、本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内において様々な変形が可能である。例えば、コリメートレンズ3及び対物レンズ4は、複数の光学素子により構成されてもよい。
【0061】
また、本実施形態及び実施例においては、アンダーコート4a(40a)の上面に反射防止膜4bを蒸着する構成を説明したが、反射防止膜4bに限定されるものではなく、帯電防止膜等の他の機能性を有した薄膜であってもよい。
【0062】
また、本実施形態及び実施例においては、アンダーコート4a(40a)の偶数層に酸素を導入して成膜したが、これに限定されるものではなく、酸素とアルゴンの混合ガスを導入して成膜してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 光源
2 ハーフミラー
3 コリメートレンズ
4 対物レンズ
41 第一面
42 第二面
5 受光部
10 光ピックアップ用光学素子
100 光ピックアップ光学系
AX 基準軸
D 光ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、
樹脂組成物からなる基材と、
前記基材の上面に形成された、主成分が同一の3層の薄膜からなるアンダーコートと、
前記アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、
を備え、
前記アンダーコートの第1層目及び第3層目の薄膜は、酸素を導入しないで成膜した薄膜であり、第2層目の薄膜は、酸素を導入して成膜した薄膜であり、
前記アンダーコートの膜厚は、160nm〜270nmの範囲内であり、前記アンダーコートを構成する各薄膜の膜厚が略等しい
ことを特徴とする光ピックアップ用光学素子。
【請求項2】
光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、
樹脂組成物からなる基材と、
前記基材の上面に形成された、主成分が同一の3層の薄膜からなるアンダーコートと、
前記アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、
を備え、
前記アンダーコートの第1層目及び第3層目の薄膜は、酸素を導入しないで成膜した薄膜であり、第2層目の薄膜は、酸素を導入して成膜した薄膜であり、
前記アンダーコートの膜厚は、120nm〜270nmの範囲内であり、前記第2層目の薄膜の膜厚は、90nm〜240nmの範囲である
ことを特徴とする光ピックアップ用光学素子。
【請求項3】
前記第1層目の膜厚と前記第3層目の膜厚とが異なることを特徴とする請求項2に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項4】
光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、
樹脂組成物からなる基材と、
前記基材の上面に形成された、主成分が同一の5層の薄膜からなるアンダーコートと、
前記アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、
を備え、
前記アンダーコートの第1層目、第3層目及び第5層目の薄膜は、酸素を導入しないで成膜した薄膜であり、第2層目及び第4層目の薄膜は、酸素を導入して成膜した薄膜であり、
前記アンダーコートの膜厚は、150nm〜275nmの範囲内であり、前記アンダーコートを構成する各薄膜の膜厚が略等しい
ことを特徴とする光ピックアップ用光学素子。
【請求項5】
光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、
樹脂組成物からなる基材と、
前記基材の上面に形成された、主成分が同一の5層の薄膜からなるアンダーコートと、
前記アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、
を備え、
前記アンダーコートの第1層目、第3層目及び第5層目の薄膜は、酸素を導入しないで成膜した薄膜であり、第2層目及び第4層目の薄膜は、酸素を導入して成膜した薄膜であり、
前記アンダーコートの膜厚は、125nm〜290nmの範囲内であり、前記第2層目及び第4層目の薄膜の平均膜厚が、30nm〜120nmの範囲である
ことを特徴とする光ピックアップ用光学素子。
【請求項6】
前記第1層目、第3層目及び第5層目の薄膜の膜厚がそれぞれ異なることを特徴とする請求項5に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項7】
前記第2層目及び第4層目の薄膜の膜厚がそれぞれ異なることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項8】
前記酸素を導入して成膜した薄膜は、0.7×10−2Pa〜3.0×10−2Paの流量の酸素を導入して成膜した薄膜であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項9】
前記アンダーコートは、金属酸化物を主成分とする薄膜からなることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項10】
前記金属酸化物が、酸化シリコンであることを特徴とする請求項9に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項11】
前記基材は、シクロオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項12】
前記機能性薄膜が、反射防止膜であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項13】
前記反射防止膜が、酸化アルミニウムの薄膜と、酸化シリコンとアルミニウムとの混合物の薄膜と、からなることを特徴とする請求項12に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項14】
光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、
樹脂組成物からなる基材と、
前記基材の上面に形成された、主成分が同一の3層の薄膜からなるアンダーコートと、
前記アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、
を備え、
前記アンダーコートの第1層目及び第3層目の薄膜の屈折率は、第2層目の薄膜の屈折率より大きく、
前記アンダーコートの膜厚は、160nm〜270nmの範囲内であり、前記アンダーコートを構成する各薄膜の膜厚が略等しい
ことを特徴とする光ピックアップ用光学素子。
【請求項15】
光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、
樹脂組成物からなる基材と、
前記基材の上面に形成された、主成分が同一の3層の薄膜からなるアンダーコートと、
前記アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、
を備え、
前記アンダーコートの第1層目及び第3層目の薄膜の屈折率は、第2層目の薄膜の屈折率より大きく、
前記アンダーコートの膜厚は、120nm〜270nmの範囲内であり、前記第2層目の薄膜の膜厚は、90nm〜240nmの範囲である
ことを特徴とする光ピックアップ用光学素子。
【請求項16】
前記第1層目の膜厚と前記第3層目の膜厚とが異なることを特徴とする請求項15に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項17】
前記機能性薄膜の屈折率が、前記第1層目及び第3層目の薄膜の屈折率より大きいことを特徴とする請求項14から請求項16のいずれか一項に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項18】
前記第2層目の薄膜は、0.7×10−2Pa〜3.0×10−2Paの流量の酸素を導入して成膜した薄膜であることを特徴とする請求項14から請求項17のいずれか一項に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項19】
光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、
樹脂組成物からなる基材と、
前記基材の上面に形成された、主成分が同一の5層の薄膜からなるアンダーコートと、
前記アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、
を備え、
前記アンダーコートの第1層目、第3層目及び第5層目の薄膜の屈折率は、第2層目及び第4層目の薄膜の屈折率より大きく、
前記アンダーコートの膜厚は、150nm〜275nmの範囲内であり、前記アンダーコートを構成する各薄膜の膜厚が略等しい
ことを特徴とする光ピックアップ用光学素子。
【請求項20】
光ディスクの記録層に特定波長のレーザ光束を集光させる光ピックアップ用光学素子であって、
樹脂組成物からなる基材と、
前記基材の上面に形成された、主成分が同一の5層の薄膜からなるアンダーコートと、
前記アンダーコートの上面に形成された機能性薄膜と、
を備え、
前記アンダーコートの第1層目、第3層目及び第5層目の薄膜の屈折率は、第2層目及び第4層目の薄膜の屈折率より大きく、
前記アンダーコートの膜厚は、125nm〜290nmの範囲内であり、前記第2層目及び第4層目の薄膜の平均膜厚が、30nm〜120nmの範囲である
ことを特徴とする光ピックアップ用光学素子。
【請求項21】
前記第1層目、第3層目及び第5層目の薄膜の膜厚がそれぞれ異なることを特徴とする請求項20に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項22】
前記第2層目及び第4層目の薄膜の膜厚がそれぞれ異なることを特徴とする請求項20又は請求項21に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項23】
前記機能性薄膜の屈折率が、前記第1層目、第3層目及び第5層目の薄膜の屈折率より大きいことを特徴とする請求項19から請求項22のいずれか一項に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項24】
前記第2層目及び第4層目の薄膜は、0.7×10−2Pa〜3.0×10−2Paの流量の酸素を導入して成膜した薄膜であることを特徴とする請求項19から請求項23のいずれか一項に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項25】
前記アンダーコートは、金属酸化物を主成分とする薄膜からなることを特徴とする請求項14から請求項24のいずれか一項に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項26】
前記金属酸化物が、酸化シリコンであることを特徴とする請求項25に記載の光ピックアップ用光学素子。
【請求項27】
請求項1から請求項26のいずれか一項に記載の光ピックアップ用光学素子と、
前記光ピックアップ用光学素子に向けて400〜410nmの範囲の特定波長の単色光を出射する光源と、
を備えることを特徴とする光ピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−65390(P2013−65390A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−177613(P2012−177613)
【出願日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLU−RAY DISC
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】