説明

光ピックアップ装置

【課題】 簡単な構成の液晶素子を用いて波面収差補正が行える光ピックアップ装置を提供する。
【解決手段】 光源と対物レンズとの間の光路中に液晶素子を設け、該液晶素子で前記光源からの射出された光の波面収差の補正を行う光ピックアップ装置において、液晶素子を構成するところの一対の透明な基板のいずれか一方の基板に、中心部に設けた円状の中心円電極と、該中心円電極と同心円状に設けた複数の環状電極とからなるセグメント電極部22を有し、更に、前記複数の環状電極を横切り前記中心円電極に向かって設けた1本の第1の給電電極25と、該第1の給電電極25と接続されて前記中心円電極及び前記複数の環状電極にそれぞれ接続する複数の第1の接続電極26とからなる給電電極部27を有することを特徴とする光ピックアップ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デスクなどの光記録媒体の記録・再生を行う光ピックアップ装置に関するもので、特に、波面収差補正に用いる液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
映像情報や音声情報、コンピュータ上のデータなどの保存する手段として、記録容量0.65GBのCD(Compact Disc)や記録容量4.7GBのDVD(Digital Video Disc)などの光記録媒体(以下、ディスクと云う)が用いられてきている。また、近年においては、更なる記録密度の向上と大容量化の要求が強くなってきている。DVDは、大容量のデジタル情報を記録することのできるもので、CDと同じ直径12cmのディスクに動画やコンピュータ情報などのデジタル情報をCDの6〜8倍の記録密度で記録できるようにしたものである。
【0003】
ディスクの記録密度を上げる手段として、ディスクに情報を書き込みまたは呼び出しを行う光ピックアップ装置において、対物レンズの開口数(以下、NAと云う)を大きくすること、或いは、光源の波長を短くすることにより、対物レンズによって集光され、ディスク上に形成されるビームスポットを小径化することが有効な手段とされている。そこで、DVDは光源の波長をCDの780nmよりも短い650nmまたは630nmとし、対物レンズのNAをCDの0.45よりも大きい0.6とし、ディスクの片面に約5GBの高密度記録を達成している。
【0004】
DVDはCDに比べてかなりの高密度記録であるため、ピット情報を再生するためのレーザビームのスポット径をCDに比べてかなり小さくする必要がある。レーザビームのスポット径は使用するレーザの波長λに比例し、対物レンズのNAに反比例する。DVDでは、波長の短いレーザ光源と、NAの大きい対物レンズを用いることによりこれを実現している。
【0005】
更に、記録層を1層ではなく複数の層で形成するいわゆる多層ディスクとすることで一層の高密度化を行ったディスクが実用化されてきている。多層ディスクでは、記録及び再生の際の光ビームの焦点を所望の記録層に合わせて記録再生を行う。
【0006】
このように、ディスクの高密度記録を高めていくためには、レーザの波長を更に短く、そして、対物レンズのNAを更に大きくすることが必要となるが、それに対して、ディスクの厚みのバラツキの許容量に非常に厳しいものが要求される。ディスクの厚みの誤差によって波面収差(球面収差とも云う)が発生し、この波面収差が発生すると、ディスクの情報記録面上に形成されたスポットが劣化するため、正常な記録再生動作が行えなくなる。
【0007】
この波面収差の問題を解決するための技術として、今までに幾多の技術報告が成されてきているが、その中で、下記の特許文献1に液晶素子を用いた技術の開示を見ることができる。
【0008】
【特許文献1】特開平10−269611号公報、
【0009】
以下、従来技術として、上記特許文献1に開示されたところの技術を図6、図7を用いて説明する。図6は上記特許文献1に示されたところの多層ディスクの光ピックアップの構成を示した図で、図7は図6における液晶パネルのパターン分割(図7(a))及び収差補正(図7(b))の説明図を示している。図6において、1はレーザ光源、2は偏光ビームスプリッタ、3は液晶素子としての液晶パネル、4は1/4波長板、5は対物レンズ、610は多層ディスク、7は集光レンズ、8は受光器を示している。
【0010】
レーザ光源1から射出されたレーザビームは、偏光ビームスプリッタ2を通過した後、液晶パネル3、1/4波長板4を通って対物レンズ5で集光され、光ディスクである多層ディスク610の情報記録面に焦点を結ばれる。多層ディスク610の情報記録面から反射したレーザビームの反射光は、対物レンズ5、1/4波長板4、液晶パネル3、偏光ビームスプリッタ2を通り、集光レンズ7を介して受光器8上に像が結ばれる。尚、1/4波長板4の結晶軸は、液晶パネル制御回路10の基準制御レベルに対して偏光ビームスプリッタ2によって直線偏光波とされたレーザビームの偏光面と45°の角度で交わるように配置されている。
【0011】
液晶パネル3は、一対のガラス基板に挟まれて屈折率異方性を持つ液晶分子が所定の向きに配向されている。そして、一対のガラス基板のどちらか一方のガラス基板には図7(a)で示すような同心円状の透明電極310〜314のパターンが形成されており、他方のガラス基板には当該電極310〜314のパターンに対向する他方の透明電極が形成されている。
【0012】
このような構成の液晶パネル3の各電極にそれぞれ駆動電圧を印加すると、印加された電圧の電界に従って液晶分子の配向が偏倚される。これにより液晶パネル3を透過する光束の進行方向に垂直な断面内での屈折率分布を任意に設定することができ、光束の波面の位相を分割領域毎に制御する。
【0013】
例えば、図7(a)に示すように、電極310を半径r0である円形電極の領域A0、電極311を外側半径r1で内側半径r0である中空円形電極の領域A1、電極312を外側半径r2で内側半径r1である中空円形電極の領域A2、電極313を外側半径r3で内側半径r2である中空円形電極の領域A3、電極314を内側半径r3の円形で抜かれた電極の領域A4を持つ5分割パターンによる液晶パネルを用いた場合に、液晶パネル3の各電極310〜314に対して図7(b)に示すように、電極310及び電極314には0、電極311及び電極313にはそれぞれd1、d3、電極312にはd2に示すレベルに相当する電圧を印加する。ここで、d1とd3を同じレベルとし、光ビームの中心と各電極の同心円の中心が一致するようになし、各半径r0〜r3を光ビームの半径方向の球面収差量に対応する値に選択することにより、この例では電極310〜314の駆動レベルを0、d1、d3の3値でデジタル信号として簡単な駆動回路で選択切り換えができ、透過光束に対して位相差を与えることにより波面収差を補正することができるとしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この波面収差を補正する方法は液晶パネルの電極を分割し、その分割した電極それぞれに電圧を印加する方法を取る。このため、分割した電極それぞれに電圧印加するための引き出し電極を設ける必要がある。
【0015】
正確に波面収差を補正するためには、電極の分割数を多くして、且つ、細かくしなければならない。しかしながら、電極数の増加は引き出し電極数の増加を招き、更には外部との接続端子の増加が必要とされる。しかしながら、大きさの小さい液晶パネルにあっては、数多くの接続端子の形成は困難で、従って従来は、せいぜい5階調〜7階調の分割が限度なものとなっていた。このため、精度の高い波面収差補正が得られていなかった。また、それぞれの電極に印可する電圧の制御も必要とすることから、駆動回路にも大きな負担がかかるものとなっていた。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑みて成されたもので、電極の分割数を増やして精度の高い波面収差補正を行うと共に、外部との接続端子数を減らす構成の液晶パネルを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するための手段として、本発明の請求項1に記載の発明は、光源と対物レンズとの間の光路中に液晶素子を設け、この液晶素子で光源からの射出された光の波面収差の補正を行う光ピックアップ装置において、液晶素子は、一対の透明な基板のいずれか一方の基板に、中心部に設けた円状の中心円電極と、この中心円電極と同心円状に設けた複数の環状電極とからなるセグメント電極部を有し、更に、複数の環状電極を横切りって中心円電極に向かって設けた1本の第1の給電電極と、この第1の給電電極と接続されて中心円電極及び複数の環状電極にそれぞれ接続する複数の第1の接続電極とからなる給電電極部を有することを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の請求項2に記載の発明は、上記のセグメント電極部には複数の環状電極の一部分にそれぞれ設けた開口部を繋げて形成した電極形成路を持っており、この電極形成路上に第1の給電電極と複数の第1の接続電極を設けたことを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の請求項3に記載の発明は、 上記の電極形成路には、第1の給電電極と平行して第2の給電電極を有し、この第2の給電電極は第2の接続電極を介して中心円電極と接続していることを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の請求項4に記載の発明は、上記の複数の第1の接続電極及び第2の接続電極は、中心円電極や環状電極と同一材料からなって、シート抵抗値の高い酸化金属膜からなることを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の請求項5に記載の発明は、上記の複数の第1の接続電極は、電極の長さがそれぞれ一定の長さであり、電極の幅は設定する印加電圧に応じてそれぞれ調整した幅になっていることを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の請求項6に記載の発明は、上記の第1の給電電極及び第2の給電電極はシート抵抗値の低い金属膜からなることを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明の請求項7に記載の発明は、上記の第1の給電電極及び第2の給電電極は金金属膜からなることを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明の請求項8に記載の発明は、上記の複数の第1の接続電極及び第2の接続電極はITO膜からなることを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の請求項9に記載の発明は、上記の第1の給電電極のシート抵抗は中心円電極及び環状電極のシート抵抗の1/100以下であることを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の請求項10に記載の発明は、上記の第2の給電電極のシート抵抗は中心円電極のシート抵抗の1/10以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
発明の効果として、本発明の光ピックアップに用いる液晶素子は、一対の透明な基板のいずれか一方の基板に、円状の中心円電極と、この中心円電極と同心円状に設けた複数の環状電極とからなるセグメント電極部を持つ。このところにおける構成は従来技術で述べた液晶パネルと同じ構成を取る。即ち、中心円電極と複数の環状電極にそれぞれ異なる電圧を印加して液晶素子を透過するレーザビームの光束に対して、場所によりそれぞれ所望する位相差を発生させる。また、本発明では、複数の環状電極を横切り中心円電極に向かって設けた1本の第1の給電電極と、この第1の給電電極と接続されて中心円電極及び複数の環状電極にそれぞれ接続する複数の第1の接続電極とからなる給電電極部を持つ。即ち、第1の給電電極と複数の第1の接続電極は中心円電極と複数の環状電極に電圧を印加するための供給電極の働きを成し、1本の第1の給電電極から複数の第1の接続電極にそれぞれ電気的導通を取り、更に、複数の第1の接続電極から中心円電極や複数の環状電極にそれぞれ電気的導通を取る。従って、この構成の下では1本の第1の給電電極に外部から電気導通を図れば良いことになり、外部との接続端子は1個で済む。また、このような構成を取ると環状電極や第1の接続電極は数多く形成することが可能であるから、波面収差の補正は幾階調にも渡って分割補正ができ、精度の高い波面収差補正が可能となる。
【0028】
また、第1の給電電極と第1の接続電極は、請求項2に記載の如く、環状電極の開口部を繋げて形成した電極形成路上に設けている。このような構成を取ると、第1の給電電極、第1の接続電極、中心円電極、環状電極などの配設構造が複雑な構造にならず、第1の給電電極や第1の接続電極を透明な基板上に一体的に、しかも、平面的に設けることができる。このことは、形成工数を小さく押さえることが可能となり、安いコストで製作することができる。
【0029】
また、本発明は、請求項3に記載の如く、第2の給電電極を第1の給電電極と平行に電極形成路上に設けて、第2の接続電極を介して中心円電極に電圧を印加する構成を取っている。これは、温度変化などに影響を受けやすい電位分布を、第1の給電電極と第2の給電電極の2方向より電位を与えることで安定化させる目的で設けている。温度変化などに余り影響を受けない収差量(位相量)が得られ、安定した収差の補正ができる。
【0030】
また、請求項4に記載の如く、第1の接続電極及び第2の接続電極を中心円電極や環状電極と同一材料で、シート抵抗値の高い酸化金属膜から構成する。このようにすると、第1の接続電極と中心円電極、環状電極が、或いは、第1の接続電極及び第2の接続電極と中心円電極、環状電極が一度に、且つ、同じ厚みに形成できるので、品質の安定と形成工数の削減ができる。また、これらの電極をシート抵抗値の高い酸化金属膜から構成し、一方、第1の給電電極や第2の給電電極を、請求項6に記載の如く、シート抵抗値の低い金属膜で構成することで、所望の電位分布が得やすくなる。また、本発明では、そのシート抵抗の比を、請求項9、10に記載の如く、第1の給電電極のシート抵抗を中心円電極及び環状電極のシート抵抗の1/100以下に、第2の給電電極のシート抵抗を中心円電極のシート抵抗の1/10以下に与えるものである。第1の給電電極及び第2の給電電極のシート抵抗をこれ以上に高めると給電電極の導電性が悪くなり、所望の電位分布得られ難くなる。
【0031】
また、複数の第1の接続電極は、請求項5に記載の如く、それぞれの電極の長さが一定の長さにし、それぞれの電極の幅は設定する印加電圧に応じて調整した幅に設定している。即ち、電極の幅を変えて抵抗を変化させ、それによって印加電圧を設定している。このような構成を取ると、1本の第1の給電電極から所要の電圧を受けて、この第1の接続電極でそれぞれ所望の電圧に変えてそれぞれの環状電極に電圧を印加することができる。それぞれの環状電極を横に横断した電極形成路を設けることで本構成が可能となり、電極の配設構造が複雑にならず、非常に簡単な構造で纏めることができる。また、これにより、外部からの電圧印加端子を1個にすることができる。
【0032】
また、第1の給電電極や第2の給電電極を、請求項7に記載の如く、金金属膜で構成することにより、満足する低いシート抵抗値も得られ、且つ、耐蝕性にも優れた効果を生む。また、第1の接続電極や第2の接続電極を、請求項8に記載の如く、ITO膜から構成することにより、透明で、且つ、満足する高いシート抵抗値が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の最良の実施形態を図1〜図5を用いて説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る光ピックアップに用いる液晶素子の要部断面図を示しており、図2は図1における下基板の平面図、図3は図2におけるD部の拡大図、図4は波面収差補正を説明する説明図を示している。また、図5は本発明の第2実施形態に係る光ピックアップに用いる液晶素子の下基板の平面図を示している。
【0034】
最初に、本発明の第1実施形態に係る光ピックアップに用いる液晶素子の構成を図1、図2、図3を用いて説明する。この液晶素子(従来技術で説明した液晶パネルのことで、以下、液晶素子と呼称して説明する)20は、透明なガラスからなる下基板21と、同じく、透明なガラスからなる上基板31とからなる一対の基板が対向して配置されている。下基板21には、その内面上のほぼ中央部に設けた中心円電極22aとこの中心円電極22aの外周に設けた複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22fからなるセグメント電極部22が設けられており、また、第1の給電電極25と複数の第1の接続電極26からなる給電電極部27が設けられている。この第1の給電電極25と複数の第1の接続電極26は複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22fを横切って中心円電極22aに向かって設けられた電極形成路28上に設けられている。更に、これらの電極の上に配向膜23が設けられている。一方、上基板31には、その内面上にコモン電極32が設けられており、更に、その上に配向膜33が設けられている。そして、スペーサ(図中では省略)の入ったシール材37を介して一定の間隙を設けて液晶35を封入した構成を取っている。また、上基板31の外面には偏光板39を、下基板21の外面には偏光板29を設けた構成を取っている。この構成を取る液晶素子20は、光ピックアップ装置の中では光源と対物レンズの間に配置されて用いられる。即ち、従来技術で図6を用いて説明した配置構造の中で、液晶パネルに入れ替わって本発明の液晶素子20が用いられる構造となる。
【0035】
ここで、上記セグメント電極部22を構成する中心円電極22aは、円状の電極になっており、その中心部が光源から出射されるレーザビーム光束の中心の位置にくるようにしている。また、セグメント電極部22を構成する複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22fは、中心円電極22aの周りにあって、それぞれ分割した状態で複数(図2においては5個)設けてあり、各隣り合わせの環状電極の間は1〜10μmの間隙量を設けて配設してある。
【0036】
また、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22fはその一部分においてそれぞれ開口部、即ち、電極を設けていない部分を持っており、そのそれぞれの開口部は、中心円電極22aに向かってそれぞれの環状電極を串差しするが如くに横切って一直線上の位置に設けられている。そして、それぞれの開口部を繋げると1本の直線的な通路ができあがるようになっていて、この通路が第1の給電電極25と複数の第1の接続電極26を形成するところの電極形成路28になっている。
【0037】
この電極形成路28には、中心円電極22aと各環状電極22b、22c、22d、22e、22fからなるセグメント電極部22に電圧を印加するために、第1の給電電極25と複数の第1の接続電極26からなる給電電極部27を設けている。第1の給電電極25は電極形成路28に沿って1本設けられ、第1の接続電極26は、この第1の給電電極25とセグメント電極部22のそれぞれと接続するところの第1の接続電極26a、26b、26c、26d、26e、26fとに分かれている。そして、各第1の接続電極26a、26b、26c、26d、26e、26fは、それぞれ同じ長さでもって設けられている。また、この第1の接続電極26a、26b、26c、26d、26e、26fの幅は、それぞれ異なっており、中心電極22aや各環状電極22b、22c、22d、22e、22fに印加する所要の電圧量に応じて幅を設定をするようになっている。また、第1の給電電極25は、その一端が下基板21の外縁部にまで延びて設けられており、その外端部が外部と導通を取る端子部を構成するようになっている。従って、端子部を介して外部にある液晶素子20の制御回路などから電流を流すと、第1の給電電極→第1の接続電極→環状電極と電流が流れるようになっている。例えば、環状電極22cは、図3に示すように、第1の給電電極25→第1の接続電極26c→環状電極22cと流れ、また、環状電極22dは、第1の給電電極25→第1の接続電極26d→環状電極22dと流れるようになっている。
【0038】
ここで、各第1の接続電極26の長さは、即ち、第1の給電電極25とセグメント電極部22のそれぞれと接続するところの長さは一定の長さに設計しており、幅nはセグメント電極部22のそれぞれに印加する所要の電圧量に応じて調整した幅に設定している。即ち、第1の接続電極26の幅nの調整でもってセグメント電極部22のそれぞれに印加する電圧量を設定する構成を取っている。
【0039】
また、第1の給電電極25及び各第1の接続電極26を形成するところの電極形成路28の幅mは50〜100μmの範囲の幅になっている。この範囲であると、第1の接続電極26の幅nの調整だけで十分印加電圧の調整が可能であり、また、何の障害もなく波面収差の補正機能を果たすことができる。
【0040】
またここで、第1の給電電極25はシート抵抗値の低い金属膜で形成し、各第1の接続電極26はシート抵抗値の高い酸化金属膜で形成している。そして、第1の給電電極25のシート抵抗をセグメント電極部22のシート抵抗の1/100以下、好ましくは1/1000以下にする必要がある。またここで、セグメント電極部22と第1の接続電極26とは同一材料で、同一厚みに形成しているので、セグメント電極部22のそれぞれのシート抵抗は第1の接続電極26のシート抵抗と同じシート抵抗になっている。セグメント電極部22、並びに、第1の接続電極26のシート抵抗値が低いと、これらの電極に比較的大きな電流が流れ、第1の給電電極25内に電圧降下が生まれ、所望の電位分布を得ることが困難になる。従って、第1の接続電極26で所望の印加電圧を得ることが困難になり、同時に、セグメント電極部22のそれぞれに所望の電位分布が得られなくなる。この所望の電位分布を得る範囲として、シート抵抗の比を1/100以下に設定している。第1の給電電極25に用いるシート抵抗値の低い金属膜としては、銅,金,アルミニウム,クロムなどの金属膜を挙げることができるが、その中で、耐蝕性などを考慮すると金金属膜がより好適なものとして選択することができる。また、セグメント電極部22と各第1の接続電極26に用いるシート抵抗値の高い酸化金属膜としては、酸化インジウムを錫でドーピングして得られたITOなる酸化金属膜や酸化亜鉛金属膜などが選択できる。特に、透明性などを考慮するとITOなる酸化金属膜が好ましく、透明電極として極一般的に用いられている。セグメント電極部22及び第1の接続電極26をITO蒸着膜で100Å〜200Åの範囲に形成すると約10kΩ/cmのシート抵抗値が示される。一方、第1の給電電極25に金金属膜を1000Å〜3000Åの厚みに形成すると10Ω〜1Ω/cmの範囲のシート抵抗値を得る。何れもシート抵抗値の比が1/1000以下になって十分上記の厚みで対応することができる。
【0041】
このような構成を取ることによって、各第1の接続電極26の幅nを5〜50μmの範囲の中で設定することができ、所望の印加電圧の設定が可能になる。
【0042】
各第1の接続電極26の幅の設定は用いる液晶により異なる。一般に、液晶はネマティック液晶を用いるが、電圧印加で収差(位相差)量が小さくなるP型ネマティック液晶を用いた場合は、電極の幅を細くしていくと収差量は大きくなってくる。一方、電圧印加で収差量が大きくなるN型ネマティック液晶を用いた場合は、電極の幅を太くしていくと収差量は大きくなってくる。図2、図3に示した各第1の接続電極26の電極幅は、N型ネマティック液晶を用いた場合における電極幅で描いてある。
【0043】
以上述べた構成の下で波面収差の補正を行うが、その補正の方法を図4を用いて説明する。図4波面収差補正を説明する説明図で、図4(a)は補正手段を用いない場合の光ディスクへの記録・再生時に発生する波面収差量を示す図で、図4(b)は液晶素子により補正しようとする収差補正量を示す図で、図4(c)は補正によって得られた残存波面収差量を示した図である。尚、横軸の点Oは光軸に相当し、Z−Z’は光軸Oを通り光軸に垂直な直線上の位置(例えば、対物レンズの瞳面)を表している。また、Lは波面収差量を表している。
【0044】
図4(a)において、通常レーザビームは円形のビームスポットであり、波面収差も半径方向に変化する。このため、点Oに対して2つの波面収差のピークを持つ。光ディスクの厚みの誤差が大きくなると2つの波面収差のピークがより大きくる。次に、図4(b)において、本実施形態においての中心円電極22a、各環状電極22b、22c、22d、22e、22fにそれぞれ調整したい収差量に対応する電圧を印可して逆向きの収差量(位相差量)を発生させる。そして、図4(c)において、図4(a)で示した波面収差量に図4(b)の液晶素子による収差補正量を重ね合わせることにより得られる残存波面収差量は小さくなって0に近づいた値となる。
【0045】
ここで、セグメント電極部22の分割数を数多くして、それぞれに緻密な収差補正量を与えていけば残存波面収差量は非常に小さくなって殆ど0に近い波面収差が得られる。本発明の構成を取れば、20〜100階調の分割も可能である。そして、光ディスクへの精度の高い記録・再生が可能となる。
【0046】
次に、上記下基板21に設けた中心円電極22a、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22f、及び、第1の給電電極25、複数の第1の接続電極26の形成方法について説明する。先ず最初に、下基板21上にITOからなる蒸着膜を真空蒸着法でもって、厚みを100Å〜200Åにして下基板21のセグメント電極22を形成する領域全面に形成する。次に、有機金に酸化性の樹脂を混ぜ合わせたペーストを作り、このペーストを用いて第1の給電電極25を設ける場所にスクリーン印刷機を用いて金ペーストの印刷膜を5〜10μmの厚みで形成する。有機溶剤は沸点が余り高くないのを用い、500°C程度の温度で樹脂分が蒸発して残らないものを選択する。この金ペーストの印刷膜はITOの蒸着膜の上に形成されることになる。次に、500°C位の温度で焼成し、金ペーストの印刷膜の樹脂分を完全に蒸発させ、金をITO蒸着膜の上に焼き付ける。これによって、1000Å〜2000Å膜厚の金金属膜からなる第1の給電電極25が得られる。
【0047】
次に、ITO蒸着膜及び金金属膜の上にポジ型のホトレジスト膜を印刷などの方法で形成する。このポジ型のホトレジスト膜は紫外線照射によって分解して現像液に可溶性となり、現像時に基板表面から除去できる特性を持つ感光性材料である。次に、中心円電極22a、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22f、及び、第1の給電電極25、複数の第1の接続電極26に当たる部分を不透明にしたポジ型のフォトマスクをレジスト膜上に配置し、紫外線を照射する。フォトマスク上の中心円電極22a、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22f、及び、第1の給電電極25、複数の接続電極26以外の部分は透明であるから紫外線が透過してレジスト膜に照射する。これによって、中心円電極22a、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22f、及び、第1の給電電極25、複数の第1の接続電極26以外の部分のレジスト膜は分解して現像液に可溶性となるので、現像液で中心円電極22a、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22f、及び、第1の給電電極25、複数の第1の接続電極26以外の部分のレジスト膜を剥離する。次に、第1の給電電極25用の金金属膜を所要の寸法に仕上げるために金金属膜の剥離液に漬けて露出した部分の金金属膜を剥離する。次に、ITO用のエッチング液に浸漬して中心円電極22a、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22f、及び、第1の給電電極25、複数の第1の接続電極26以外の部分の露出したITO膜を除去する。最後に、残されているレジスト膜、即ち、中心円電極22a、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22f、及び、第1の給電電極25、複数の第1の接続電極26上のレジスト膜をレジスト剥離液に浸漬して除去する。これによって、中心円電極22a、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22f、及び、第1の給電電極25、複数の第1の接続電極26のパターンが得られる。
【0048】
以上のような形成方法によって、中心円電極22a、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22f、及び、第1の給電電極25、複数の第1の接続電極26を得る。複数の第1の接続電極26は中心円電極22a、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22fの形成と一緒に形成することができるので、新たな形成工程を設ける必要もない。また、ホトレジスト、ホトマスク方法での形成方法を取っているので寸法精度も高く、中心円電極22a、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22fとのそれぞれの間隙も精度良く形成でき、また、各接続電極26a、26b、26c、26d、26e、26fの幅もそれぞれ所望の寸法で精度良く仕上げることができる。また、精度良く寸法管理ができることから数多くの環状電極を設けることができる。DVDなどの光ディスクに用いられる液晶素子は5mm四方程度の大きさであり、また、その動作部の電極は3.5mm程度の大きさであることからして、20〜100階調の電極分割も可能であり、精度の高い波面収差補正ができる。
【0049】
上記の方法で下基板21上に中心円電極22aと複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22fからなるセグメント電極部22と、第1の給電電極25と複数の第1の接続電極26からなる給電電極部27を形成した後、配向膜23を設ける。一方、透明なガラスからなる上基板31の内面にコモン電極32を所要の形状で一面にITOからなる蒸着膜で形成し、更に、その上に配向膜33を設ける。そして、下基板21と上基板31とを位置を合わせて一定の隙間を設けて対向に配置し、シール材37を介して液晶35を封止する。更に、上基板31の外面に偏光板39を、下基板21の外面に偏光板29を貼り付ける。これによって本発明の液晶素子20が得られる。尚、図示はしていないが、上基板31に設けたコモン電極32の一部分からは引き出し電極が上基板31の外縁部にまで延設されて設けられ、下基板21に設けたコモン電極用端子部と接続されるようになっている。
【0050】
本実施形態の液晶素子は、下基板21に設けた中心円電極22a、複数の環状電極22b、22c、22d、22e、22fからなるセグメント電極部22に外部から電圧を供給する端子部を1個、上基板31に設けたコモン電極32に電圧を供給する端子部を1個、計2個の端子部を設ければ良い。また、各電極の形状も比較的単純な形状に仕上げているので液晶素子の構造が複雑にならず、5mm四方の素子の大きさの中に十分余裕をもって設けることができる。また、製作工程も難しくなく、工程数も比較的少ない工程数でできることから、製造コストも安くすることができる。また、外部の制御回路からこの液晶素子に供給する信号は第1の給電電極25とコモン電極32への2系統で良いので、制御回路が複雑にならずに済む。
【0051】
次に、本発明の第2実施形態に係る液晶素子を図5を用いて説明する。図5は本発明の第2実施形態に係る光ピックアップに用いる液晶素子の下基板の平面図を示している。ここでの液晶素子は、前述の第1実施形態の液晶素子と対比して、下基板に設ける電極形成路における給電電極部の構成のみが第1実施形態の液晶素子と異なっている。従って、同じ構成を取るところの部品についての説明はここでは省略し、異なるところの構成のみを説明することにする。
【0052】
本実施形態の液晶素子は、下基板に設ける電極の構成のみが前述の第1実施形態の構成と異なっている。下基板41は、図5に示すように、セグメント電極部42を構成するところの中心円電極42aと、その外周に同心円状に複数の環状電極42b、42c、42d、42e、42fが設けられてセグメント電極部42を構成している。また、複数の環状電極42b、42c、42d、42e、42fには、前述の第1実施形態の液晶素子と同様に、中心円電極42aに向かって一直線になる位置に開口部を持っており、その開口部を繋げての一直線になる通路が形成され、その通路が電極形成路48をなしている。
【0053】
電極形成路48には、前述の第1実施形態の液晶素子と同様に、シート抵抗値の低い金属膜からなる1本の第1の給電電極45aと、この第1の給電電極45aと接続して中心円電極42aや複数の環状電極42b、42c、42d、42e、42fに接続するシート抵抗値の高い酸化金属膜からなる複数の第1の接続電極46が設けられている。この複数の第1の接続電極46は、図5の中においては、第1の接続電極46a、46b、46c、46d、46e、46fから構成されており、長さはそれぞれ同一長さを持ち、幅はそれぞれ調整された幅を持っている。また、第1の給電電極45aと並んで、1本の第2の給電電極45bが設けられており、その一端側に、第2の給電電極45bと接続して中心円電極42aと接続する第2の接続電極46hが1個設けられている。第2の給電電極45bの下基板41の外縁に延びた他方端側は端子部になっている。本実施形態においては、第1の給電電極45a、第1の接続電極46、第2の給電電極45b、第2の接続電極46hとでもって給電電極部47を構成している。
【0054】
ここで、中心円電極42aと複数の環状電極42b、42c、42d、42e、42fからなるセグメント電極部42、第1の給電電極45a、及び複数の第1の接続電極46a、46b、46c、46d、46e、46fは、前述の第1実施形態で述べたものの仕様と全く同じ仕様で形成している。第2の給電電極45bと第2の接続電極46hは、温度変化などに影響を受けやすいセグメント電極部42の電位分布を安定化させる目的で設けるもので、中心円電極42aに第2の給電電極45bと第2の接続電極46hを介して一定の電圧を印加している。ここでの第2の接続電極46hは第1の接続電極46と同じ仕様で形成する。即ち、シート抵抗値の高いITOの酸化金属膜から形成する。また、ここでの第2の給電電極45bはシート抵抗値の低い金属膜で構成するが、第1の給電電極45aのシート抵抗値ほど低くなくても良く、シート抵抗は中心円電極42aのシート抵抗の1/10以下であれば良いものである。耐蝕性の面から見て金金属膜で構成するのが好ましく、第1の給電電極45aと同じ厚みにし、第1の給電電極45aの形成工程でこの第2の給電電極45bを形成する方法を取ると、製造コストは安くできる。
【0055】
以上の構成を取ることにより、温度変化に影響を受けない電位分布が得られ、収差量(位相量)の変動が小さくなり、安定した収差の補正ができる。また、この構成においても、外部からの信号入力端子は3個で済ますことができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光ピックアップに用いる液晶素子の要部断面図である。
【図2】図1における下基板の平面図である。
【図3】図2におけるD部の拡大図である。
【図4】波面収差補正を説明する説明図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る光ピックアップに用いる液晶素子の下基板の平面図である。
【図6】上記特許文献1に示されたところの多層ディスクの光ピックアップの構成を示した図である。
【図7】図6における液晶パネルのパターン分割(図7(a))及び収差補正(図7(b))の説明図である。
【符号の説明】
【0057】
20 液晶素子
21、41 下基板
22、42 セグメント電極部
22a、42a 中心円電極
22b、22c、22d、22e、22f、42b、42c、42d、42e、42f 環状電極
23、33 配向膜
25、45a 第1の給電電極
26、26a、26b、26c、26d、26e、26f、46、46a、46b、46c、46d、46e、46f 第1の接続電極
27、47 給電電極部
28、48 電極形成路
29、39 偏光板
31 上基板
32 コモン電極
35 液晶
37 シール材
45b 第2の給電電極
46h 第2の接続電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と対物レンズとの間の光路中に液晶素子を設け、該液晶素子で前記光源からの射出された光の波面収差の補正を行う光ピックアップ装置において、前記液晶素子は、一対の透明な基板のいずれか一方の基板に、中心部に設けた円状の中心円電極と、該中心円電極と同心円状に設けた複数の環状電極とからなるセグメント電極部を有し、更に、前記複数の環状電極を横切り前記中心円電極に向かって設けた1本の第1の給電電極と、該第1の給電電極と接続されて前記中心円電極及び前記複数の環状電極にそれぞれ接続する複数の第1の接続電極とからなる給電電極部を有することを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項2】
前記セグメント電極部には前記複数の環状電極の一部分にそれぞれ設けた開口部を繋げて形成した電極形成路を有し、該電極形成路上に前記第1の給電電極と前記複数の第1の接続電極を設けたことを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ装置。
【請求項3】
前記電極形成路には、前記第1の給電電極と平行して第2の給電電極を有し、該第2の給電電極は第2の接続電極を介して前記中心円電極と接続していることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ピックアップ装置。
【請求項4】
前記複数の第1の接続電極及び前記第2の接続電極は、前記中心円電極及び前記環状電極と同一材料からなって、シート抵抗値の高い酸化金属膜からなることを特徴とする請求項1、2、3のいずれか1項に記載の光ピックアップ装置。
【請求項5】
前記複数の第1の接続電極は、電極の長さがそれぞれ一定の長さであり、電極の幅は設定する印加電圧に応じてそれぞれ調整した幅になっていることを特徴とする請求項1、2、4のいずれか1項に記載の光ピックアップ装置。
【請求項6】
前記第1の給電電極及び前記第2の給電電極はシート抵抗値の低い金属膜からなることを特徴とする請求項1、2、3のいずれか1項に記載の光ピックアップ装置。
【請求項7】
前記第1の給電電極及び前記第2の給電電極は金金属膜からなることを特徴とする請求項1、2、3、6のいずれか1項に記載の光ピックアップ装置。
【請求項8】
前記複数の第1の接続電極及び前記第2の接続電極はITO膜からなることを特徴とする請求項1、2、3、4、5のいずれか1項に記載の光ピックアップ装置。
【請求項9】
前記第1の給電電極のシート抵抗は前記中心円電極及び前記環状電極のシート抵抗の1/100以下であることを特徴とする請求項1、2、6、7のいずれか1項に記載の光ピックアップ装置。
【請求項10】
前記第2の給電電極のシート抵抗は前記中心円電極のシート抵抗の1/10以下であることを特徴とする請求項3、6、7のいずれか1項に記載の光ピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−12344(P2006−12344A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190828(P2004−190828)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000124362)シチズンセイミツ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】