説明

光ファイバの接続方法

【課題】高温時においても屈折率整合剤が光ファイバの端面に密着して接続特性が劣化しない、屈折率整合剤を用いた光ファイバの突合せ接続方法を提供すること。
【解決手段】接続しようとする空孔構造光ファイバ10A,10Bを、その端面間に当該光ファイバ10A,10B同士の押圧により変形するゼリー状の屈折率整合剤20を介在させた状態で突き合わせ、前記光ファイバ10A,10Bの一端同士間の押圧により変形した屈折率整合剤20が空孔構造光ファイバ10A,10Bの空孔13の内部に20μm以上150μm以下の長さに亘って浸入した状態で保持・固定することで、高温時においても屈折率整合剤20が光ファイバ10A,10Bの端面に密着し、接続特性が劣化しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの接続方法、特に屈折率整合剤を用いた光ファイバの突合せ接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸方向に連続する空孔が複数個、規則正しく配列された構造のクラッドを具備する空孔構造光ファイバ(ホーリーファイバ)は、その構造により広帯域なシングルモード動作や、可視光波長での零分散特性、更には曲げ損失特性の低減など、従来の光ファイバでは不可能であった特性を実現できる。
【0003】
一方、光ファイバの接続技術の一つであるメカニカルスプライスは、2本の光ファイバをV溝基板上でその端面間に屈折率整合剤を介在させた状態で突き合わせて固定することにより接続するもので、簡便かつ安価な光ファイバの接続を可能とする。
【0004】
しかしながら、従来の液状の屈折率整合剤を用いたメカニカルスプライスにより空孔構造光ファイバを接続すると、当該液状の屈折率整合剤が空孔の内部に数100μm以上に亘って浸透・流動し、接続損失が増加するという課題があった。そこで、厚さを数10μmに制御したシート状の屈折率整合剤を用い、屈折率整合剤が空孔内に浸入しないようにした突合せ接続技術が提案された(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したシート状の屈折率整合剤は、各光ファイバの端面とは密着するが、その硬さがゆえに潰れることなく、当該屈折率整合剤の作成時の厚さが2本の光ファイバ間の端面間隔となって保持される。従って、接続損失を低減するためには、屈折率整合剤の厚さを最大でも数10μmに抑えなければならない(非特許文献1)。
【0006】
一方、突合せ接続では、高温時におけるV溝基板の膨張により数μm〜10数μm程度、2本の光ファイバ間の端面間隔が広がる(非特許文献2)。従って、特許文献1のシート状の屈折率整合剤では、高温時において光ファイバの端面と屈折率整合剤との間に間隙が生じ、接続特性が劣化するといった課題があった。
【0007】
本発明はこのような背景を鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高温時においても屈折率整合剤が光ファイバの端面に密着して接続特性が劣化しない、屈折率整合剤を用いた光ファイバの突合せ接続方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、前記目的を達成するため、空孔の内部に屈折率整合剤を適切に浸入させることで課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空孔の内部に屈折率整合剤を適切に浸入させることで、高温時においても屈折率整合剤が光ファイバの端面に密着し、接続特性が劣化しないといった効果を発揮する。
【0010】
具体的には、空孔構造光ファイバにおいて空孔の内部に屈折率整合剤を20μm以上浸入させることにより、高温時においても屈折率整合剤を光ファイバの端面に密着させる効果を発揮する。また、屈折率整合剤が空孔の内部に浸入する長さを150μm以下とすることで接続損失を0.5dB以下に低減する。
【0011】
また、空孔構造光ファイバ以外においても、屈折率整合剤が空孔の内部に浸入することと同様に屈折率整合剤がファイバ側面部に回り込むため、空孔構造を有さない通常の光ファイバに対しても良好な適用性を有するといった効果も発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】空孔構造光ファイバの一例を示す断面構造図である。
【図2】本発明の光ファイバの接続方法の実施の形態の一例を示す接続点近傍の模式図である。
【図3】本願による突合せ接続における屈折率整合剤の浸入長さと接続損失との関係を示すグラフである。
【図4】本願による突合せ接続における温度変化に対する接続損失の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は空孔構造光ファイバの一例、ここではクラッド11よりも屈折率の高いコア12を有し、その周りのクラッド11中に複数の空孔13を規則正しく配列した例を示す断面構造図である。なお、図示しないが、前述した屈折率分布によるコアを持たず、多数の空孔をクラッドに規則正しく配列することでクラッドの実効的な屈折率を下げて、クラッド中心(のコアに該当する部分)との屈折率差を持たせるようにした空孔構造光ファイバもある。
【0015】
図2は本発明の光ファイバの接続方法の実施の形態の一例、ここでは2本の空孔構造光ファイバ10A,10Bを、図示しない光接続器によりその端面間に本発明の屈折率整合剤20を介在させた状態で接続させた接続点近傍の模式図である。
【0016】
なお、ここでいう光接続器とは、前述したV溝基板を用いたメカニカルスプライスのような、接続しようとする2本の光ファイバを調心した状態で互いに突き合わせて保持・固定可能であるが、高温時には膨張などにより前記保持・固定した2本の光ファイバの端面間隔が広がる恐れがあるものとする。
【0017】
屈折率整合剤20は、接続しようとする2本の光ファイバ、ここでは空孔構造光ファイバ10A,10B同士の押圧により変形するゼリー状であるため、空孔構造光ファイバ10A,10Bをその端面間に屈折率整合剤20を介在させた状態で突き合わせると、クラッド11やコア12に挟まれる部分では圧縮変形し、その一方、空孔13の部分では最大で作成時の厚さ程度までその内部に浸入し、一部はファイバ側面部等に回り込む。そのため、この状態で空孔構造光ファイバ10A,10Bを光接続器により保持・固定することで、高温等により当該空孔構造光ファイバ10A,10Bの端面間隔が広がっても、空孔13の内部もしくはファイバ側面部に回り込んだ屈折率整合剤20がファイバ端面間の隙間を充填することができる。
【0018】
図3に前記屈折率整合剤を用いた突合せ接続における屈折率整合剤の浸入長さと接続損失との関係を示す。用いた屈折率整合剤の硬さは、ショアA4〜7であった。整合剤浸入長さz(横軸)が100μm以下の測定結果については屈折率整合剤の厚さが100μmの測定条件での結果であり、また整合剤浸入長さz(横軸)が100μmを超える値の測定結果は100μmを超える厚さの屈折率整合剤を用いた測定条件の結果である。
【0019】
図3より、本例の屈折率整合剤において、屈折率整合剤は20μm以上空孔の内部へ浸入していることが分かる。先に述べたように高温時におけるV溝基板の寸法の変動は最大で10数μmであるので、20μm以上に亘る空孔の内部への屈折率整合剤の浸入は、当該V溝基板の膨張による端面間隔の増大に十分追従することが可能になると考えられる。
【0020】
また図3より、接続損失を0.5dB以下とするには屈折率整合剤の浸入長さzを150μm以下に制御すれば良いことが分かる。ここで、本例のゼリー状の屈折率整合剤20では、屈折率整合剤の厚みを100〜150μmとすることで空孔の内部への浸入長さを20〜150μmとすることができる。
【0021】
また、空孔内部への屈折率整合剤の浸入長さの制御方法として、通常は空孔の内部に浸入可能な流動性を有する状態であるが、所定の物理的作用を加えることにより流動性を有しない状態に変化する一定の性質を有する屈折率整合剤を用い、ファイバを突き合わせた後に前記作用を加える方法がある。ここで前述した一定の性質としては、熱を加えることにより硬化する性質、または紫外線を照射することにより硬化する性質、または湿気を与えることにより硬化する性質などがある。
【0022】
さらに、通常は流動性を有しない状態であるが、所定の物理的作用を加えたときのみ空孔の内部に浸入可能な流動性を有する状態に変化する一定の性質を有する屈折率整合剤を用い、前記作用を加えた状態でファイバの突き合わせを行う方法もある。ここで前述した一定の性質としては、熱を加えたときのみ流動化する性質、または高周波振動を加えたときのみ流動化する性質などがある。なお、屈折率整合剤に熱を加える方法として、光ファイバへのハイパワー光の入力によって接続部分で生じる熱を用いることもできる。
【0023】
図4に本願の屈折率整合剤を用いた突合せ接続における温度変化に対する接続損失の変化を示す。図中、破線矢印で示した特性は空孔構造光ファイバ同士を接続した際の結果であり、また、2点鎖線矢印で示した特性はシングルモードファイバ同士を接続した際の結果である。本例での屈折率整合剤の浸入長さは20μmであった。図4より、高温時においても損失増加を生じないことが分かる。
【符号の説明】
【0024】
10A,10B:空孔構造光ファイバ、11:クラッド、12:コア、13:空孔、20:屈折率整合剤。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開2006−221031号公報
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】Y. Kato, K. Suzuki, and K. Ohsono, "field installable connector optimized for holey fiber," Optical fiber communication conference, OFC 2007, NThA2
【非特許文献2】長沢 真二, 三川 泉, "多心光ファイバV溝接続部の信頼性−接続損失温度特性の向上", 信学論(B), J67-B, No. 4, pp. 369-376(1984)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が空孔構造光ファイバである2本の光ファイバを調心した状態で互いに突き合わせて保持・固定可能な光接続器により接続する方法であって、
前記2本の光ファイバを、その端面間に当該2本の光ファイバ同士の押圧により変形するゼリー状の屈折率整合剤を介在させた状態で突き合わせ、
前記2本の光ファイバの一端同士間の押圧により変形した前記屈折率整合剤が空孔構造光ファイバの空孔の内部に20μm以上150μm以下の長さに亘って浸入した状態で保持・固定する
ことを特徴とする光ファイバの接続方法。
【請求項2】
前記屈折率整合剤として、ショアA4〜7の硬度と、100〜150μmの厚みとを有する屈折率整合剤を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの接続方法。
【請求項3】
前記屈折率整合剤として、通常は空孔の内部に浸入可能な流動性を有する状態であるが、所定の物理的作用を加えることにより流動性を有しない状態に変化する一定の性質を有する屈折率整合剤を用い、突き合わせた後に前記作用を加える
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの接続方法。
【請求項4】
前記一定の性質とは、熱を加えることにより硬化する性質、または紫外線を照射することにより硬化する性質、または湿気を与えることにより硬化する性質である
ことを特徴とする請求項3に記載の光ファイバの接続方法。
【請求項5】
前記屈折率整合剤として、通常は流動性を有しない状態であるが、所定の物理的作用を加えたときのみ空孔の内部に浸入可能な流動性を有する状態に変化する一定の性質を有する屈折率整合剤を用い、前記作用を加えた状態で突き合わせを行う
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの接続方法。
【請求項6】
前記一定の性質とは、熱を加えたときのみ流動化する性質、または高周波振動を加えたときのみ流動化する性質である
ことを特徴とする請求項5に記載の光ファイバの接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−109273(P2013−109273A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256023(P2011−256023)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】