説明

光ファイバの曲率の測定方法

【課題】光ファイバの長手方向の曲率変動を容易かつ高精度に測定する方法を提供する。
【解決手段】光ファイバ1の一端を回転可能に把持し、該光ファイバ1の軸方向側面上の所定長離れた2点に対して、該軸方向にほぼ垂直かつ互いに平行な2本のビーム光線6を照射し、前記側面上で散乱した2つの散乱反射光7のそれぞれの代表位置を、該光ファイバ軸と平行な軸上の座標位置として計測し、得られた2つの座標位置の差分を求め、次いで、該光ファイバ1を所定角度回転させ、同様の操作を行って2つの座標位置の差分を求める操作を複数回繰返し、得られたそれぞれの角度での差分から正の値を取る振幅SAの代表値を求め、さらに振幅SAから曲率を求め、これを第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率とし、さらに、光ファイバ1の長手方向にビーム光線を照射する位置を変え、同様の処理を複数回繰り返して前記第1から第mまでの曲率を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの長手方向の曲率、特には長手方向の曲率変動の測定方法に係る。
【背景技術】
【0002】
通信用光ファイバの敷設に際し、ときには光ファイバを融着接続器で接続することがあるが、図1で示すように、一般に、2つの光ファイバ1の融着端近くをV溝2で把持し、光ファイバの先端をアーク放電により融着する。光ファイバがある曲率を持って湾曲している場合、V溝の把持部分で片持ち状態となった光ファイバの先端がV溝の延長線上からズレて、融着端での2つの光ファイバのコア同士にズレが生じ、接続損失の原因となる。このことから、光ファイバの曲率あるいは曲率半径は、精度良く測定する必要がある。なお、符号3はV溝台であり、符号4は把持部材である。
The International Electrotechnical Commission(IEC)発行の規格である技術文献1によると、光ファイバの曲率半径は2m以上とされている。また、リボンケーブルの場合には、数本の光ファイバを一度に融着接続する必要性から、各光ファイバの曲率の影響を受けやすく、その規格は4m以上とされている。
【0003】
光ファイバの曲率、曲率半径の測定方法は幾つか提案されている。技術文献2に述べられているが、主に2つの手法に大別される。
一つは「Side view microscopy」と呼ばれる方法で、図2に示すように、光ファイバの一部を真空チャック方式のV溝などに半固定し、所定量前方に突き出させて片持ち状態にした状態で光ファイバを軸周りに回転させる。このとき、光ファイバの突き出した部分の曲率と、突き出した長さに応じて先端の振れ周り量が変わることを利用して測定する方法である。
先端の振れ周り量を顕微鏡などで測定し、V溝から突き出した部分の曲率が全長に亘って同一と仮定して、曲率を計算する。この手法は、測定装置が簡便な反面、V溝に光ファイバが接しながら回転するため、V溝表面と接する光ファイバ表面の平坦度や清浄度が測定誤差要因となる。また、突き出し部分の長さを十分長くすることによって、振れ周り量の測定精度が上がる反面、光ファイバの自重によるたわみの影響を受けやすくなる問題がある。
【0004】
もう一つは「Laser beam scattering」と呼ばれる方法で、図3の様に、フェルール5を貫通して突き出した光ファイバ1の側面に2本の平行なビーム光線6を当て、反射した散乱光7の軸方向の広がり量を、CCDラインセンサ8などを用いて観測する。光ファイバ1を軸周りに回転させたときの、光ファイバ1の曲率に応じて広がり量の最大振幅が決定されることを利用して、2本のビーム光線6が当たった区間の曲率を測定する方法である。ここでフェルール5は、光ファイバ1をビーム光線6に対してほぼ垂直に保つための支持具に過ぎず、平坦度等の制約が比較的少ないため、比較的高精度な測定が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】IEC 60793-2-50 Edition 3.0 2008-05,Optical fibres-Part 2-50:Product specifications-Sectional specification forclass B single mode fibres.
【特許文献2】IEC 60793-1-34,Optical fibres-Part 1-34:Measurement methodsand test procedures-Fibre curl.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光ファイバの曲率の測定を重ねるうちに、この曲率が1本の光ファイバの長手方向に思いの外バラついていることが判明した。図4は、市販の光ファイバの曲率k[/m]を長手方向に測定した例である。測定には、市販のLaser beam scattering 方式の測定器(タキカワエンジニアリング社製、FB-240)を用いた。ここでは、光ファイバを2cmずつ切り詰めながら測定器に挿入し、測定を繰り返した。図4からは、この光ファイバの曲率は、概ね 0.065±0.04〜0.05/mであり、その変動周期は50〜400mmとまちまちであることが認められる。
光ファイバの曲率を正確に評価するには、このように光ファイバの長手方向に微小区間での曲率を複数点測定しなければならないが、数百mmの区間の曲率変動を、光ファイバを切り詰めながらの測定は人手に頼らなければならず、1本の測定に1時間以上掛かることが普通であった。
【0007】
このような状況に鑑みて、本発明の目的は、光ファイバの長手方向の曲率変動を容易かつ高精度に測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の測定方法は、光ファイバの一端を回転可能に把持し、該光ファイバの他端をフェルールに挿通して所定長露出させ、該露出部分を被測定光ファイバとし、該被測定光ファイバの軸方向側面上の所定長離れた2点に対して、該軸方向にほぼ垂直かつ互いに平行な2本のビーム光線を照射し、前記側面上で散乱した2つの散乱反射光のそれぞれの代表位置を、該被測定光ファイバ軸と平行な軸上の座標位置として計測し、得られた2つの座標位置の差分を求め、次いで、該光ファイバを所定角度回転させ、同様の操作を行って2つの座標位置の差分を求める操作を複数回繰返し、得られたそれぞれの角度での差分から[数1]式を用いて、正の値を取る振幅
A の代表値を求める。
[数1]
=SA ×cos(θ−φ)+Δz
(ここで、dは第iの差分、θは第iの角度、Δzは平行な2本のビーム光線の間隔、φは適当な位相角度をそれぞれ示す)
さらに振幅 SA から[数2]式を用いて曲率kを求め、これを第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率kとする。
[数2]
k=SA /(2LΔz)
(ここで、Lは光ファイバとスクリーンとの距離)
【0009】
次いで、ビーム光線を照射する被測定光ファイバの長手位置を光ファイバの軸方向に沿って所定長移動し、再び同様にして、複数の角度での前記差分及び振幅SA 値を得て曲率を求める[数2]式までの一連の処理を行って、第2の光ファイバ長手位置の第2の曲率を求め、この一連の処理をさらに複数回繰り返して、第mの光ファイバ長手位置の第mの曲率まで求めることを特徴としている。なお、前記第1の曲率から第mの曲率までの値に基づいて、該光ファイバの曲率の代表値が求められる。
【0010】
本発明の第2の測定方法は、光ファイバの一端を回転可能に把持し、該光ファイバの他端をフェルールに挿通して所定長露出させ、該露出部分を第1の被測定光ファイバとし、該第1の被測定光ファイバの軸方向側面上の所定長離れた2点に対して、該軸方向にほぼ垂直かつ互いに平行な2本のビーム光線を照射し、前記側面上で散乱した2つの散乱反射光のそれぞれの代表位置を、該被測定光ファイバ軸と平行な軸上の座標位置として計測し、得られた2つの座標位置の差分を求め、次いで、該光ファイバを所定角度回転させ、同様の操作を行って2つの座標位置の差分を求める操作を複数回繰返し、得られたそれぞれの角度での差分から[数3]式を用いて、正の値を取る振幅SA の代表値を求める。
[数3]
=SA ×cos(θ−φ)+Δz
(ここで、dは第iの差分、θは第iの角度、Δzは平行な2本のビーム光線の間隔、φは位相角度をそれぞれ示す)
さらに振幅 SA から[数4]式を用いて曲率を求め、これを該第1の被測定光ファイバの、第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率kとする。
[数4] k=SA /(2LΔz)
(ここで、Lは光ファイバとスクリーンとの距離)
【0011】
次いで、ビーム光線を照射する該第1の被測定光ファイバの長手位置を光ファイバの軸方向に沿って所定長移動し、再び同様にして、複数の角度での前記差分及び振幅SA 値を得て曲率を求める[数4]式までの一連の処理を行って、該第1の被測定光ファイバの、第2の光ファイバ長手位置の第2の曲率を求め、この一連の処理をさらに複数回繰り返して、第mの光ファイバ長手位置の第mの曲率まで求める。
【0012】
次に、該光ファイバの回転可能に把持した位置は変えずに、フェルールから露出した部分を切り詰めて前記第1の被測定光ファイバよりも短尺とし、これを第2の被測定光ファイバとし、同様の手順で、該第2の被測定光ファイバの、第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率を求め、該第2の被測定光ファイバの第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率と、前記第1の被測定光ファイバの第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率との差分を求め、同様にして前記第1の被測定光ファイバと該第2の被測定光ファイバとの第1の曲率から第mの曲率までの差分を求め、
前記第1の被測定光ファイバの第1の曲率から第mの曲率までの値を補正することを特徴としている。そして、前記第1の被測定光ファイバの第1の補正された曲率から第mの補正された曲率までの値に基づいて、該光ファイバの曲率の代表値が求められる。
【0013】
前記スクリーン上で検出した2つの散乱光のそれぞれの代表位置は、受光強度の最大点位置、もしくは予め設定した所定の受光強度しきい値を越えた範囲の中点位置としてもよい。
また、第1の角度方向から第nの角度方向までの実質的な移動角度範囲は180°以上とするのが望ましい。なお、nは4以上とするのが望ましい。
前記SA の代表値は、最小2乗近似フィッティングによって、あるいはフーリエ変換によって求めてもよい。
【0014】
また、フェルールと2本の光ビームとの相対位置を一定に保ちつつ、フェルールを挿通する被測定光ファイバの挿通長さを変更することにより、ビーム光線を照射する光ファイバ長手位置を光ファイバの軸方向に沿って所定量移動させるのが望ましい。
光ファイバの曲率kから[数5]式の計算を行なって曲率半径rが求められる。
[数5]
r=1/k
さらに、光ファイバの曲率の代表値kから[数6]式の計算を行なって曲率半径の代表値rが求められる。
[数6]
=1/k
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長手方向の測定動作は自動化も容易で、測定作業を簡略化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】光ファイバの融着作業を説明する概略図である。
【図2】Side view microscopy法と呼ばれる光ファイバの曲率測定方法を説明する概略図である。
【図3】Laser beam scattering法と呼ばれる光ファイバの曲率測定方法を説明する概略図である。
【図4】市販の光ファイバの曲率k[/m]を長手方向Lに測定した例を示すグラフである。
【図5】実施例で使用した曲率測定装置の概略を示す図である。
【図6】d とθとの関係を示すグラフである。
【図7】被測定光ファイバの長手方向の位置zと曲率kとの関係を示すグラフである。
【図8】図7とは別の光ファイバで測定した、被測定光ファイバの長手方向の位置zと曲率kとの関係を示すグラフである。
【図9】被測定光ファイバの下端を切り詰め短くして測定する様子を説明する図である。
【図10】補正した被測定光ファイバの長手方向の位置zと曲率kとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1の測定方法は、光ファイバの一端を回転ホルダに把持し、他端をフェルール(光ファイバの外径と同程度のやや大きめの穴のあいた円筒)に挿通して所定長露出させ、該露出部分を被測定光ファイバとし、該被測定光ファイバの軸方向側面上の所定長離れた2点のそれぞれに対し、前記軸方向に垂直な方向から互いに平行な2本のビーム光線を照射し、前記側面上で散乱したそれぞれのビーム光線の散乱反射光を、該光ファイバから所定長離れた位置に設置したスクリーン上で検出し、それぞれのビーム光線に対する2つの散乱反射光の代表位置を該光ファイバ軸と平行な軸上の座標位置としてそれぞれ計測し、得られた2つの座標位置の差分を算出し、これを第1の角度方向の第1の差分とする。
【0018】
次いで、該光ファイバを該軸を中心に所定角度回転させ、上記と同様の操作を行って2つの座標位置の差分を求め、これを第2の角度方向の第2の差分とし、さらに、該光ファイバを該軸を中心に所定角度回転させて前記座標位置の差分を求める操作を繰返し、i回目の回転に対して第(i+1)の角度方向の第(i+1)の差分とし、この操作を複数回繰返して、第nの角度方向の第nの差分まで求める。
【0019】
これらn個の差分を対応するそれぞれの角度に対して、前記[数1]式を用いて
正の値を取る振幅 SA の代表値を求める。なお、[数1]式で用いる位相角度φもフィッティグによってSaとともに得られる適当な代表値であり、物理的にはファイバの屈曲している方向の角度を示す。これらは、通常は例えば最小2乗近似アルゴリズムを用いてdiとSa×cos(θi-φ)+Δzとの誤差が最小になる様に決定される。また、diの値の中に測定不具合等による特異値が存在する場合に、それを予め設定したしきい値等により検出し、近似計算操作から除外するアルゴリズムを用いることもできる。
【0020】
次いで、ビーム光線を照射する光ファイバ長手位置を光ファイバの軸方向に沿って所定長移動し、再び同様にして、複数の角度での前記差分及び振幅SA 値を得て曲率kを求める前記[数2]式までの一連の処理を行って、第2の光ファイバ長手位置の第2の曲率kを求め、この一連の処理をさらに複数回繰り返して、第mの光ファイバ長手位置の第mの曲率までが求められる。得られた第1から第mまでの曲率の値に基づいて、該光ファイバの曲率の代表値を求める。
【0021】
本発明の第2の測定方法は、光ファイバの一端を回転ホルダに把持し、他端はフェルールに挿通して所定長露出させ、これを第1の被測定光ファイバとし、該第1の被測定光ファイバの軸方向側面上の所定長離れた2点のそれぞれに対し、前記軸方向に垂直な方向から互いに平行な2本のビーム光線を照射し、前記側面上で散乱したそれぞれのビーム光線の散乱反射光を、該光ファイバから所定長離れた位置に設置したスクリーン上で検出し、それぞれのビーム光線に対する2つの散乱反射光の代表位置を該被測定光ファイバの軸と平行な軸上の座標位置としてそれぞれ計測し、得られた2つの座標位置の差分を算出し、これを第1の角度方向の第1の差分とする。
【0022】
次いで、該光ファイバを該軸を中心に所定角度回転させ、上記と同様の操作を行って2つの座標位置の差分を求め、これを第2の角度方向の第2の差分とし、さらに、該光ファイバを該軸を中心に所定角度回転させて前記座標位置の差分を求める操作を繰返し、i回目の回転に対して第(i+1)の角度方向の第(i+1)の差分とし、この操作を複数回繰返して、第nの角度方向の第nの差分まで求める。
【0023】
これらn個の差分を対応するそれぞれの角度に対して、前記[数3]式を用いて正の値を取る振幅 SA の代表値を求める。
さらに、算出した振幅SA 値を前記[数4]式に代入して曲率kを求め、これを第1の被測定光ファイバの、第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率とする。
【0024】
次いで、ビーム光線を照射する該第1の被測定光ファイバの長手位置を光ファイバの軸方向に沿って所定長移動し、再び同様にして、複数の角度での前記差分及び振幅SA 値を得て曲率を求める[数4]式までの一連の処理を行って、第1の被測定光ファイバの、第2の光ファイバ長手位置の第2の曲率を求め、この一連の処理をさらに複数回繰り返して、第mの光ファイバ長手位置の第mの曲率までを求める。
【0025】
次に、該光ファイバの回転可能に把持した位置は変えずに、フェルールから露出した部分を切り詰めて前記第1の被測定光ファイバよりも短尺とし、これを第2の被測定光ファイバとし、同様の手順で、該第2の被測定光ファイバの第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率を求める。
【0026】
該第2の被測定光ファイバの第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率と、前記第1の被測定光ファイバの第1の長手位置の第1の曲率との差分を求め、同様にして前記第1の被測定光ファイバと該第2の被測定光ファイバとの第1の曲率から第mの曲率までの差分を求め、前記第1の被測定光ファイバの第1の曲率から第mの曲率までの値を補正する。
そして、前記第1の被測定光ファイバの第1の補正された曲率から第mの補正された曲率までの値に基づいて、該光ファイバの曲率の代表値が求められる。
【0027】
光ファイバの曲率を測定する従来の方法は、先に説明した Laser beam scattering方式を応用したものであるが、その従来方式では、光ファイバの先端を40〜50mm程度被覆除去を行い、この部分を被測定光ファイバとして測定器に挿入し、光ファイバを軸方向に手動回転させながらスクリーン上の散乱光の幅(差分)dを観察し、2本の平行なビーム光線の間隔Δzとから、振幅が最大値SmaxとなるS(=d-Δz)をピークホールドによって求めるものである。
【0028】
これに対して、本発明の第1の測定方法では、光ファイバの先端を200〜300mmあるいはそれ以上被覆を除去し、この部分を被測定光ファイバとし、測定器に挿入する。ここでフェルールと2本のビーム光線とスクリーン(CCDラインセンサなど)との相対的な位置関係は一定であり、フェルールに挿通した光ファイバの露出長さを可変にしたのが特徴であり、被測定光ファイバの長手方向の任意の位置にビーム光線を当てることができる。すなわち被測定光ファイバの長手方向の任意の位置の局所的な曲率を容易に測定できることになる。それぞれの測定位置では、回転ステージの回転角度θと散乱光の幅dの組み合わせを複数点、少なくとも4点求め、これらを前記[数1]式に当てはめて、Sを求める。ここで、最小2乗近似によるフィッティングを行なっても良く、フーリエ変換を行なっても良い。こうすることによって、散乱光のノイズによる測定誤差を最小限に抑えることができる。また、光ファイバを切り詰めずに長尺のまま測定するので、位置合わせも自動化が可能になり、作業者による作業が最小限で済む。
【0029】
第1の発明の測定方法で注意しなければならないのは、(1)被測定光ファイバの曲率が全体的に大きい場合、(2)被測定光ファイバが概ね100mmを超える長さとなった場合、である。この様な場合、フェルールから突き出した光ファイバが重力によって撓む影響で、曲率の値が真の値よりも小さくなってしまいがちである。
そこで、第2の発明の測定方法では、一旦長尺の光ファイバで長手方向の曲率を評価した後、被測定光ファイバを概ね100mm以下の長さに切り詰めて、再度測定を行い、長尺光ファイバの曲率測定値を補正するものである。第1の発明に比べると、1回短尺に切り詰めなければならないため若干手間がかかるものの、曲率の測定精度は向上する。
【実施例1】
【0030】
図5に装置の概観を示す。光ファイバ1の一端は回転ステージ9に固定され、その他端はフェルール5に挿通されており、フェルール5に挿通された被測定光ファイバは側面の被覆が除去されている。被測定光ファイバの側面に2本の平行なビーム光線6が照射され、これはフェルール5の穴の延長線に対してほぼ直角の位置関係にある。すなわち、フェルール5に挿通された被測定光ファイバに対してもほぼ直角の関係を有している。フェルール5の直下約5mmに第1のビーム光線6、そこから約20mm直下に第2のビーム光線6が照射される位置関係にある。被測定光ファイバの側面で散乱した散乱光は、フェルールの穴の延長線に平行かつ光ファイバ1からL=242.8mm離れた位置に設置したCCDラインセンサ8で検出される。これらフェルール5と平行なビーム光線6とラインセンサ8との位置関係は測定中一定に保たれる。回転ステージ9は、上下に移動可能なZ軸ステージに取り付けられており、回転ステージ9とともに光ファイバ1が軸方向に移動し、フェルール5からの貫通量が調整可能になっている。すなわち、2本のビーム光線6の照射位置が調整可能であるため、被測定光ファイバの長手方向の任意の位置で、光ファイバの曲率を測定することができる。ここで、光ファイバ1を上方で把持し、鉛直下向きに設置した理由は、光ファイバの被測定光ファイバが重力によって撓む影響を軽減するためである。
【0031】
光ファイバの全長は400mmで、被覆を除去した被測定光ファイバの長さは約250mmである。光ファイバをフェルール下端から50mm貫通させた時の曲率の測定例を示す。光ファイバ下端から約25mm上方に第2のビーム光線が照射され、同約45mm上方に第1のビーム光線を照射した。回転ステージにより光ファイバを軸周りに10°刻みで回転させ、0°〜360°の合計37点の計測を行なった。各計測点ではスクリーン上の散乱光の位置を検出し、各ビーム光線の散乱光の適当なしきい値を超えた強度の中点を散乱光位置の代表値とし、2つのビームの散乱光の代表位置の差分すなわち間隔d(i=1、2、...、37)を計測した。これら角度θ と d との関係を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
これを前記[数1]式に当てはめて、振幅SAを最小2乗近似法によって計算したところ、図6の様な近似曲線が得られ、振幅SA= 1.0255[mm]、Δz= 20.1212[mm]という代表値が得られた。
次に、得られた振幅SAを前記[数2]式に当てはめて曲率kを計算すると、k = 0.1050[/m]が得られた。
次に、同様の測定を、被測定光ファイバの長手方向の位置を移動しながら行なった。長手方向の曲率の測定結果を図7に示す。曲率の平均値(メジアン)は0.622[/m]であった。これは曲率半径になおすと16.1[m]である。
【実施例2】
【0034】
実施例1と同様の装置構成で別の光ファイバの曲率の測定を行った。先ず、光ファイバを約400mm切出し、約250mmの区間の被覆を除去して被測定光ファイバとして、装置に固定しフェルールに挿通した。この被測定光ファイバの曲率の長手方向の測定結果を図8において●印で示した。この測定で得られた曲率の平均値(メジアン)は0.255[/m]であり、曲率半径3.92[m]に相当する。ところが、この様な曲率の大きい光ファイバの場合、鉛直に吊下げた場合でも、湾曲した被測定光ファイバ下端に重力が作用し、曲率の測定値への影響が無視できない。
【0035】
そこで、図9の左側の状態で測定後、図の右側に示すように、同じ光ファイバの下端を約150mm程度切り詰め、被測定光ファイバを短尺にした状態で光ファイバの曲率を再度測定した。その結果を図8の□印で示した。明らかに曲率の測定値が大きくなっている。短尺の測定値と長尺の測定値との差分を評価したものが図8の◇印である。これに、直線近似によるフィッティングを行ったところ、傾き= 0.00055の直線となった。
【0036】
そこで、次式により長手方向の曲率測定値の補正を行なった。
(補正された曲率) = (長尺時の曲率) +(測定位置z)×0.00055
得られた補正された曲率の光ファイバ長手方向の分布を図10に示した。補正された曲率の平均値(メジアン)は0.31184[/m]で、曲率半径3.21[m]相当であることが判明した。このように第2の発明の方式によれば、特に光ファイバの曲率が大きいときに、さらに精度良く曲率を評価することが可能になる。
【符号の説明】
【0037】
1.光ファイバ、
2.V溝、
3.V溝台、
4.把持部材、
5.フェルール、
6.ビーム光線、
7. 散乱光、
8.スクリーン(CCDラインセンサ)、
9.回転ステージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの一端を回転可能に把持し、該光ファイバの他端をフェルールに挿通して所定長露出させ、該露出部分を被測定光ファイバとし、該被測定光ファイバの軸方向側面上の所定長離れた2点に対して、該軸方向にほぼ垂直かつ互いに平行な2本のビーム光線を照射し、前記側面上で散乱した2つの散乱反射光のそれぞれの代表位置を、該被測定光ファイバ軸と平行な軸上の座標位置として計測し、得られた2つの座標位置の差分を求め、次いで、該光ファイバを所定角度回転させ、同様の操作を行って2つの座標位置の差分を求める操作を複数回繰返し、得られたそれぞれの角度での差分から[数1]式を用いて、正の値を取る振幅
A の代表値を求め、
[数1]
= SA ×cos(θ−φ)+Δz
(ここで、dは第iの差分、θは第iの角度、Δzは平行な2本のビーム光線の間隔、φは位相角度をそれぞれ示している)
さらに振幅 SA から[数2]式を用いて曲率kを求め、これを第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率kとし、
[数2]
k=SA /(2 L Δz)
(ここで、Lは光ファイバとスクリーンとの距離)
次いで、ビーム光線を照射する被測定光ファイバの長手位置を光ファイバの軸方向に沿って所定長移動し、再び同様にして、複数の角度での前記差分及び振幅SA 値を得て曲率を求める[数2]式までの一連の処理を行って、第2の光ファイバ長手位置の第2の曲率を求め、この一連の処理をさらに複数回繰り返して、第mの光ファイバ長手位置の第mの曲率まで求めることを特徴とする光ファイバの曲率の測定方法。
【請求項2】
前記第1の曲率から第mの曲率までの値に基づいて、該光ファイバの曲率の代表値を求める請求項1に記載の光ファイバの曲率の測定方法。
【請求項3】
光ファイバの一端を回転可能に把持し、該光ファイバの他端をフェルールに挿通して所定長露出させ、該露出部分を第1の被測定光ファイバとし、該第1の被測定光ファイバの軸方向側面上の所定長離れた2点に対して、該軸方向にほぼ垂直かつ互いに平行な2本のビーム光線を照射し、前記側面上で散乱した2つの散乱反射光のそれぞれの代表位置を、該被測定光ファイバ軸と平行な軸上の座標位置として計測し、得られた2つの座標位置の差分を求め、次いで、該光ファイバを所定角度回転させ、同様の操作を行って2つの座標位置の差分を求める操作を複数回繰返し、得られたそれぞれの角度での差分から[数3]式を用いて、正の値を取る振幅
A の代表値を求め、
[数3]
=SA ×cos(θ−φ)+Δz
(ここで、dは第iの差分、θは第iの角度、Δzは平行な2本のビーム光線の間隔、φは位相角度をそれぞれ示す)
さらに振幅 SA から[数4]式を用いて曲率を求め、これを該第1の被測定光ファイバの、第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率kとし、
[数4]
k=SA /(2LΔz)
(ここで、Lは光ファイバとスクリーンとの距離)
次いで、ビーム光線を照射する該第1の被測定光ファイバの長手位置を光ファイバの軸方向に沿って所定長移動し、再び同様にして、複数の角度での前記差分及び振幅SA 値を得て曲率を求める[数4]式までの一連の処理を行って、該第1の被測定光ファイバの、第2の光ファイバ長手位置の第2の曲率を求め、この一連の処理をさらに複数回繰り返して、第mの光ファイバ長手位置の第mの曲率まで求め、
次に、該光ファイバの回転可能に把持した位置は変えずに、フェルールから露出した部分を切り詰めて前記第1の被測定光ファイバよりも短尺とし、これを第2の被測定光ファイバとし、
同様の手順で、該第2の被測定光ファイバの、第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率を求め、該第2の被測定光ファイバの第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率と、前記第1の被測定光ファイバの第1の光ファイバ長手位置の第1の曲率との差分を求め、同様にして前記第1の被測定光ファイバと該第2の被測定光ファイバとの第1の曲率から第mの曲率までの差分を求め、
前記第1の被測定光ファイバの第1の曲率から第mの曲率までの値を補正することを特徴とする光ファイバの曲率の測定方法。
【請求項4】
前記第1の被測定光ファイバの第1の補正された曲率から第mの補正された曲率までの値に基づいて、該光ファイバの曲率の代表値を求める請求項3に記載の光ファイバの曲率の測定方法。
【請求項5】
前記スクリーン上で検出した2つの散乱光のそれぞれの代表位置が、受光強度の最大点位置である請求項1乃至4のいずれかに記載の光ファイバの曲率の測定方法。
【請求項6】
前記スクリーン上で検出した2つの散乱光のそれぞれの代表位置が、予め設定した所定の受光強度しきい値を越えた範囲の中点位置である請求項1乃至4のいずれかに記載の光ファイバの曲率の測定方法。
【請求項7】
第1の角度方向から第nの角度方向までの実質的な移動角度範囲が180°以上である請求項1乃至6のいずれかに記載の光ファイバの曲率の測定方法。
【請求項8】
前記nが、4以上である請求項7に記載の光ファイバの曲率の測定方法。
【請求項9】
前記SA の代表値が、最小2乗近似フィッティングによって求められる請求項1乃至8のいずれかに記載の光ファイバの曲率の測定方法。
【請求項10】
前記SA の代表値が、フーリエ変換によって求められる請求項1乃至8のいずれかに記載の光ファイバの曲率の測定方法。
【請求項11】
フェルールと2本の光ビームとの相対位置を一定に保ちつつ、フェルールを貫通する被測定光ファイバの貫通長さを変更することにより、ビーム光線を照射する光ファイバ長手位置を光ファイバの軸方向に沿って所定量移動させる請求項1乃至10のいずれかに記載の光ファイバの曲率の測定方法。
【請求項12】
光ファイバの曲率kから[数5]式の計算を行なって曲率半径rを求める請求項1乃至11記載の光ファイバの曲率の測定方法。
[数5]
r = 1 / k
【請求項13】
光ファイバの曲率の代表値kから[数6]式の計算を行なって曲率半径の代表値rを求める請求項2または4乃至12のいずれかに記載の光ファイバの曲率の測定方法。
[数6]
=1/k

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−92399(P2013−92399A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233156(P2011−233156)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】