光ファイバを用いた温度測定装置
【課題】光ファイバの後方散乱光の強度から温度分布を測定する温度測定装置では、後方散乱光の強度を電気信号に変換する光電変換部で発生する波形歪みのために、正確な温度分布を測定できなかった。本発明は、簡単な構成で波形歪みを補正し、正確な温度分布を測定できる温度測定装置を提供することを目的にする。
【解決手段】光電変換部の出力信号を増幅する増幅部、あるいは光電変換部内のI−V変換部に、波形歪みを補正する波形整形部を内蔵するようにした。波形整形部はコンデンサあるいはインダクタと抵抗のみで構成できるので、簡単な構成で波形歪みを補正して正確な温度分布を測定できる。
【解決手段】光電変換部の出力信号を増幅する増幅部、あるいは光電変換部内のI−V変換部に、波形歪みを補正する波形整形部を内蔵するようにした。波形整形部はコンデンサあるいはインダクタと抵抗のみで構成できるので、簡単な構成で波形歪みを補正して正確な温度分布を測定できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ中で発生する後方散乱光の強度を検出して、光ファイバが敷設されている場所の温度分布を測定する、光ファイバを用いた温度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温度分布を測定する温度測定装置として、光ファイバにパルス光を入射し、この光ファイバからのラマン散乱光(後方散乱光)の強度を測定して、光ファイバが敷設されている場所の温度分布を測定することが行われている。このような温度測定装置は、光時間領域反射測定器(Optical time-domain reflect-meter)の一種として知られている。
【0003】
図11に、このような光ファイバを用いた温度測定装置の構成を示す。図11において、パルス光源10から出射されたパルス光は波長分波部11を通過して、センサである光ファイバ12に入射される。
【0004】
光ファイバ12で反射された後方散乱光は波長分波部11で分波される。波長分波部11は、入射された後方散乱光を中心波長λsのストークス光(以下ST光と言う)と、中心波長λaのアンチストークス光(以下AS光と言う)に分離する。
【0005】
分波されたST光はAPD(Avalanche PhotoDiode)13でその強度に応じた電流信号に変換される。この電流信号はI−V変換器14で電圧信号に変換され、増幅部15で増幅された後、AD変換部16でデジタルデータに変換される。分波されたAS光も同様にAPD17で電流信号に変換され、I−V変換部18で電圧信号に変換された後、増幅部19で増幅されてAD変換部20でデジタルデータに変換される。
【0006】
AD変換部16と20の出力デジタルデータは、信号処理部21に入力される。信号処理部21は入力されたデジタルデータを加算平均し、演算処理を行って温度を算出して、この算出した温度から光ファイバ12の長さに合わせた温度分布を演算する。この温度分布は表示部22に表示される。
【0007】
タイミング発生部23はパルス光源10、AD変換部16および20、信号処理部21にタイミング信号を出力する。パルス光源10はこのタイミング信号に同期してパルス光を光ファイバ12に出射し、AD変換部16、20はタイミング発生部23の出力信号に同期して、パルス光が出射されてから所定の期間増幅部15、19の出力信号をデジタルデータに変換する動作を繰り返す。信号処理部21は、タイミング発生部23の出力に同期してAD変換部16、20の出力デジタルデータを取り込み、演算処理を行う。
【0008】
図12に、光ファイバ12が敷設されている場所の温度分布が一定の場合のST光、AS光の強度波形の例を示す。横軸は時間であるが、光の速度は一定なので、散乱点からAPD13、17までの距離を表す。縦軸は後方散乱光の強度である。
【0009】
図12(A)は後方散乱光の強度分布の測定値であり、上がST光、下がAS光である。後方散乱光は光ファイバ12内で減衰するので、その強度は距離に応じて指数関数的に減衰する。
【0010】
図12(B)は縦軸を、ノイズレベルを基準とした対数目盛に変換したグラフである。温度分布が一定なので、ST光、AS光の強度曲線は直線になる。このST光、AS光の強度波形に基づいて、光ファイバ12が配置されている場所の温度分布を計算する。
【0011】
特許文献1〜4には、図11と同様構成の温度測定装置が記載されている。特許文献1には、ST光とAS光を用いて温度を測定する原理が記載されている。特許文献1では、ラマン散乱光のラマンシフト波数の分布を考慮した補正テーブルを具備し、ラマンシフト波数の分布を有さないものとして温度を演算し、前記補正テーブルを用いて演算した温度を補正することが記載されている。
【0012】
特許文献2には、波長が異なる第1、第2の光源を備え、第1の光源によるST光またはAS光の光速と第2の光源によるST光とAS光の光速が一致あるいは相互近似するように、前記第1、第2の光源の波長を選択するようにすることにより、温度測定誤差を低減することができる温度分布測定装置が記載されている。
【0013】
特許文献3には、光ファイバの温度変化の影響を補正して、この光ファイバの損失劣化度を演算する損失劣化度演算手段を設けることにより、光ファイバの温度変化の影響を除去できる光ファイバ分布型温度測定装置が記載されている。
【0014】
特許文献4には、ST光とAS光に対する光ファイバの分光屈折率に応じてST光とAS光の検出強度をサンプリングすることにより、正確な温度分布を測定することができる温度分布測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−223831号公報
【特許文献2】特開2011−38871号公報
【特許文献3】特開2011−58815号公報
【特許文献4】特開平6−26940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、このような温度測定装置には次のような課題があった。
後方散乱光の光強度を電流信号に変換するAPDには波形歪みを発生するものがある。このような波形歪みを有する信号を増幅し、デジタルデータに変換した信号に基づいて温度分布を演算すると、温度測定値に誤差が発生してしまうという課題があった。特に、ST光を測定するAPDとAS光を測定するAPDの歪み特性が異なると、大きな温度測定誤差が発生してしまうという課題もあった。
【0017】
このことを、図13、図14を用いて説明する。図13はST光の強度を電流信号に変換するAPD13に波形歪みが発生した例である。なお、光ファイバが敷設されている場所の温度分布は一定であるとする。
【0018】
図13(A)はST光の波形、(B)はAS光の波形であり、左側は生の波形、右側は縦軸を対数目盛に変換した波形である。なお、横軸は時間(距離)、縦軸は光強度である。
【0019】
(A)において、APD13の特性により、左側の波形の24で波形歪みが発生し、点線のようにならなければならない波形が、実線のように変化したとする。右側の波形の25に示すように、縦軸を対数変換した波形でも、点線のように勾配が一定値にならなければならないが、実線のように歪んだ波形になる。APD17は波形歪みを発生しないので、(B)に示すように正常な波形になる。
【0020】
(C)は(A)のST光と(B)のAS光に基づいて算出した温度分布であり、横軸は距離、縦軸は温度である。温度分布は一定なので水平線にならなければならないが、ST光の波形歪みの影響で、26の部分において実線のように温度が上昇し、温度分布が一定でないという結果が得られる。
【0021】
図14は、APD17の特性によって、AS光の強度信号に波形歪みが発生した例であり、(A)はST光の波形、(B)はAS光の波形である。この例ではST光には波形歪みは発生していないが、(B)の27、28に示すように、点線にならなければならない波形が、APD17の特性のために実線のように持ち上がった波形に歪んでいる。このため、(C)に示すように、水平線にならなければならない温度分布が、29の部分で上昇する結果が得られる。
【0022】
図13と図14を比較すると、ST光とAS光の波形歪みは逆方向であるが、温度分布は同じ傾向を示している。従って、APD13と17の歪み特性が逆であると温度分布が加算され、誤差が増大する。
【0023】
このように、APDの波形歪みによって温度分布に誤差が発生し、かつST光とAS光を検出するAPDの波形歪み特性が逆であると、誤差が加算されて増大してしまうという課題があった。
【0024】
特許文献1〜4は、いずれもAPDの波形歪みによる温度分布の誤差を補正するものではない。
【0025】
本発明の目的は、簡単な構成により、波形歪みを補正してより正確な温度分布を測定することができる、光ファイバを用いた温度測定装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
光ファイバにパルス光を入射し、この光ファイバの後方散乱光の強度に基づいて温度分布を測定する光ファイバを用いた温度測定装置において、
前記後方散乱光が入射され、この入射された後方散乱光の強度を電圧信号に変換する光電変換部と、
前記光電変換部で発生した波形歪みを補正する波形整形部と、
前記光電変換部の出力信号に関連する信号が入力され、この信号から温度分布を演算する信号処理部と、
を具備したものである。簡単な構成で、光電変換部で発生した波形歪みを補正して、正確な温度分布を測定できる。
【0027】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記光電変換部の出力信号を増幅する増幅部を具備し、前記波形整形部をこの増幅部に内蔵させたものである。簡単な構成で波形歪みを補正できる。
【0028】
請求項3記載の発明は、請求項1若しくは請求項2に記載の発明において、
前記光電変換部は、後方散乱光を電流信号に変換する光センサと、この光センサの出力電流信号を電圧信号に変換するI−V変換部で構成され、
前記波形整形部を前記I−V変換部に内蔵させたものである。簡単な構成で波形歪みを補正できる。
【0029】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3いずれかに記載の発明において、
前記波形整形部を、コンデンサまたはインダクタで構成したものである。簡単な構成で波形歪みを補正できる。
【0030】
請求項5記載の発明は、
光ファイバにパルス光を入射し、この光ファイバの後方散乱光の強度に基づいて温度分布を測定する光ファイバを用いた温度測定装置において、
前記後方散乱光が入射され、この入射された後方散乱光の強度を電圧信号に変換する光電変換部と、
前記光電変換部の出力信号に関連する信号をデジタルデータに変換するAD変換部と、
前記AD変換部が変換したデジタルデータが入力され、前記光電変換部で発生した波形歪みを補正する波形整形部と、
を具備したものである。簡単な構成で、かつ正確に波形歪みを補正でき、正確な温度分布を測定できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1、2、3、4および5の発明によれば、光ファイバにパルス光を入射し、この光ファイバの後方散乱光の強度から、前記光ファイバが敷設されている場所の温度分布を測定する光ファイバを用いた温度測定装置において、後方散乱光を検出する光電変換部で発生する波形歪みを補正する波形整形部を設けるようにした。また、この波形整形部を、増幅部あるいは光電変換部を構成するI−V変換部に内蔵するようにした。
【0032】
簡単な構成で、光電変換部で発生する波形歪みを補正することができるので、正確な温度分布を測定することができるという効果がある。また、波形歪みを補正する波形整形部を増幅部あるいはI−V変換部に内蔵させることにより、構成をより簡単にすることができるという効果もある。
【0033】
さらに、波形データをデジタルデータに変換し、演算処理によって波形歪みを補正するようにすると、より正確に波形歪みを補正することができ、正確な温度分布を測定することができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施例を示した構成図である。
【図2】波形整形部の構成図である。
【図3】波形整形部の構成図である。
【図4】波形整形部の構成図である。
【図5】波形整形部の構成図である。
【図6】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図7】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図8】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図9】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図10】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図11】従来の光ファイバを用いた温度測定装置の構成図である。
【図12】ST光、AS光の強度波形を示す特性図である。
【図13】ST光、AS光の強度波形を示す特性図である。
【図14】ST光、AS光の強度波形を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る光ファイバを用いた温度測定装置の一実施例を示した構成図である。なお、図11と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。なお、APD13、17は光センサに相当する。また、APD13とI−V変換部14、APD17とI−V変換部18で、それぞれ光電変換部を構成している。
【0036】
図1において、30は増幅部であり、波形整形部31が内蔵されている。増幅部30は、I−V変換部14の出力信号を増幅すると共に、波形歪みを補正してAD変換部16に出力する。32は増幅部であり、波形整形部33が内蔵されている。増幅部32は、I−V変換部18の出力信号を増幅すると共に、波形歪みを補正してAD変換部20に出力する。
【0037】
温度分布を測定する構成は、図11とほぼ同じである。パルス光源10はタイミング発生部23が出力するタイミング信号に同期してパルス光を光ファイバ12に出力する。光ファイバ12の後方散乱光は波長分波部11に入力され、ST光とAS光に分波される。
【0038】
分波されたST光はAPD13で電流信号に変換され、I−V変換部14で電圧信号に変換される。この電圧信号は増幅部30で増幅、波形整形され、AD変換部16でデジタルデータに変換される。このデジタルデータは信号処理部21に入力される。
【0039】
分波されたAS光はAPD17で電流信号に変換され、I−V変換部18で電圧信号に変換される。この電圧信号は増幅部32で増幅、波形整形され、AD変換部20でデジタルデータに変換される。このデジタルデータは信号処理部21に入力される。
【0040】
信号処理部21は入力されたデジタルデータを加算平均し、演算処理を行って温度を算出して、この算出した温度から光ファイバ12が敷設されている場所の温度分布を演算する。この温度分布は表示部22に表示される。
【0041】
図2に、増幅部30、32と波形整形部31、33の一例を示す。図2において、40は増幅器、41〜43は抵抗、44はコンデンサである。抵抗43とコンデンサ44で波形整形部45を構成している。また、46は入力信号の波形、47は出力信号の波形である。
【0042】
抵抗41の両端はそれぞれ増幅器40の反転入力端子と出力端子に接続され、抵抗42の両端はそれぞれ増幅器40の反転入力端子と共通電位点に接続される。入力信号46は増幅器40の非反転入力端子に印加される。増幅器40と抵抗41、42で非反転増幅器を構成している。この非反転増幅器の利得は、帰還抵抗41、42の抵抗値の比で決定される。
【0043】
抵抗43とコンデンサ44は直列接続される。コンデンサ44の他端は増幅器40の反転入力端子に、抵抗43の他端は共通電位点に接続される。すなわち、波形整形部45は、帰還抵抗42に並列に接続される。
【0044】
このような構成において、入力信号46、出力信号47からわかるように、矩形波入力信号46はその立ち上がりがオーバーシュートする波形47に整形される。従って、図13の24のように、立ち上がりが鈍るような特性を有するAPDと組み合わせると、波形歪みを補正できる。コンデンサ44、抵抗43の値を変えることにより、波形整形の特性を変更することができる。
【0045】
図3に、増幅部30、32の他の構成を示す。なお、図2と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0046】
図3において、48は波形整形部であり、波形整形部481、482、選択部483で構成される。波形整形部481、482は、それぞれ、図2の波形整形部45と同じ構成を有し、それぞれ、抵抗、コンデンサの値が異なる。選択部483は、波形整形部481、482を選択し、波形整形部481、482のコンデンサの他端を増幅器40の反転入力端子に接続させている。このように、波形整形部481、482の選択を選択部483で行うと、APD自体の個体差により、波形歪み特性が異なっても、補正を行うことができる。なお、波形整形部481、482の2つの選択を示したが、3以上の波形整形部を選択する構成でもよい。また、選択部485は、波形整形部481、482のどちらか一方の選択だけでなく、両方同時に選択する構成でもよい。両方同時に選択すれば、出力信号の立ち上がりのオーバーシュートをより急峻にすることができる。波形整形部481、482の両方、一方を選択切替の場合、抵抗、コンデンサの値は同一にしてもよい。
【0047】
図4に、増幅部30、32の他の構成を示す。なお、図2と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。53は入力信号の波形、54は出力信号の波形である。
【0048】
図4において、50は波形整形部であり、コンデンサ51と抵抗52が直列接続された構成を有している。波形整形部50は帰還抵抗41に並列に接続される。
【0049】
このような構成において、入力信号53、出力信号54からわかるように、矩形波の入力信号はその立ち上がりが鈍るような波形に変換される。従って、図14の27に示すように、立ち上がりが持ち上がるような特性を有するAPDと組み合わせると、波形歪みを補正することができる。コンデンサ51、抵抗52の値を変えることにより、波形整形の特性を変更することができる。
【0050】
なお、図3に示すように、異なる値の波形整形部50を2以上並列に設け、選択部により選択する構成にしてもよい。
【0051】
図5に、増幅部30、32の他の実施例を示す。この実施例は、増幅器として反転増幅器を用いたものである。なお、66は入力信号の波形を、67は出力信号の波形を表す。
【0052】
図5において、60は増幅器、61、62、65は抵抗、64はコンデンサである。抵抗61の両端はそれぞれ増幅器60の反転入力端子と出力端子に接続される。抵抗62の一端は増幅器60の反転入力端子に接続され、他端には入力信号66が印加される。増幅器60の非反転入力端子は共通電位点に接続される。抵抗61は帰還抵抗、62は入力抵抗である。
【0053】
コンデンサ64と抵抗65は直列接続され、波形整形部63を構成している。この波形整形部63は入力抵抗62に並列に接続される。
【0054】
入力信号66、出力信号67から明らかなように、この増幅部は矩形波入力信号の極性を反転し、かつその出力信号はその立ち下がりでアンダーシュートする特性を有する。コンデンサ64、抵抗65の値を変えることにより、波形整形の特性を変更することができる。
【0055】
なお、波形整形部63を帰還抵抗61と並列に接続するようにしてもよい。また、波形整形部63を2つ以上並列接続するようにしてもよい。また、選択部を設け、2以上の波形整形部を選択する構成にしてもよい。
【0056】
図2〜図5から明らかなように、波形整形部を配置する位置を変え、コンデンサおよび抵抗の値を調整することにより、種々の特性の増幅部を構成することができる。従って、これらの増幅部を波形歪みを発生するAPDと組み合わせることにより、APDの出力波形の歪みを補正することができる。
【0057】
なお、図2〜図5の波形整形部45、48、50、63において、コンデンサ44,51、64をインダクタ(コイル)で置き換えてもよい。このようにすると、波形整形の特性を逆特性にすることができる。また、抵抗43、52、65は省略(短絡)することもできる。
【0058】
また、図1の増幅部30、32は異なる構成であってもよく、波形整形部31、33は異なる特性を有するものであってもよい。要は、組み合わせるAPDが発生する波形歪みを補正するものであればよい。
【0059】
図6に、本発明の他の構成を示す。なお、図1、図11と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。図6において、ST光はAPD13、I−V変換部14で電圧信号に変換されて、増幅部30で増幅、波形整形される。AS光はAPD17、I−V変換部18で電圧信号に変換されて、増幅部19で増幅される。
【0060】
この実施例は、ST光が入力されるAPD13と組み合わせる増幅部のみ波形整形部を内蔵した構成を用い、AS光が入力されるAPD17と組み合わせる増幅部は波形整形部を内蔵しない増幅部を用いたものである。
【0061】
波形整形部31の特性を温度誤差が少なくなるように選択することにより、APD13と17の両方の波形歪みを1つの波形整形部で補正することができる。このようにすることにより、構成をより簡単にすることができる。なお、AS光が入力される側の増幅部に波形整形部を配置するようにしてもよい。
【0062】
図7に、本発明の他の実施例を示す。なお、図1、図11と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。また、APD13とI−V変換部70、APD17とI−V変換部72で、それぞれ光電変換部を構成している。
【0063】
図7において、70、72はI−V変換部、71、73はそれぞれI−V変換部70、72に内蔵された波形整形部である。APD13、17の出力信号はそれぞれI−V変換部70、72で電圧信号に変換、波形整形され、増幅部15、19に出力される。
【0064】
この実施例では、I−V変換部70、72で電流信号を電圧信号に変換すると共に、波形整形を行っている。一般的なI−V変換部は、電流を検出する抵抗と、この抵抗両端の電圧を増幅する差動増幅器で構成される。図2〜図5に示すように、この差動増幅器の入力抵抗あるいは帰還抵抗に並列に波形整形部を接続することにより、波形整形を行うことができる。なお、図6と同様に、I−V変換部70と72のどちらか一方にのみ波形整形部を内蔵する構成とすることもできる。また、波形整形部71、73は異なる特性のものを使用してもよい。
【0065】
図8に、さらに他の実施例を示す。この実施例は、I−V変換部と増幅部の両方に波形整形部を内蔵したものである。なお、図1、6、7と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。また、パルス光源10、波長分波部11、光ファイバ12、タイミング発生部23は記載を省略している。
【0066】
図8において、ST光はAPD13で電流信号に変換され、波形整形部71が内蔵されたI−V変換部70で電圧信号に変換、波形整形される。この電圧信号は、波形整形部31が内蔵された増幅部30で増幅、波形整形され、AD変換部16でデジタルデータに変換される。AS光は、図11と同様に波形整形されずにAD変換部20でデジタルデータに変換される。
【0067】
このように、2段階で波形整形を行うことにより、よりきめ細かく波形整形を行うことができるので、温度誤差をさらに小さくすることができる。なお、AS光が入力される経路のI−V変換部、増幅部に波形整形部を内蔵するようにしてもよく、あるいはST光がとAS光入力される経路の両方のI−V変換部、増幅部に波形整形部を内蔵するようにしてもよい。
【0068】
図9にさらに他の実施例を示す。この実施例は、波形整形部をI−V変換部あるいは増幅部に内蔵せず、独立した構成としたものである。なお、図11と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。また、パルス光源10、波長分波部11、光ファイバ12、タイミング発生部23は記載を省略している。
【0069】
図9において、80は波形整形部であり、I−V変換部14の出力信号が入力される。波形整形部80は、I−V変換部14の出力信号の波形を整形し、増幅部15に出力する。81は波形整形部であり、I−V変換部18の出力信号が入力される。波形整形部81は、I−V変換部18の出力信号の波形を整形し、増幅部19に出力する。波形整形部80、81として、図2〜図5の構成のものを使用することができる。
【0070】
なお、ST光が入力される経路、あるいはAS光が入力される経路のどちらか一方に波形整形部を配置するようにしてもよい。また、増幅部15、19の後に波形整形部80、81を配置するようにしてもよい。また、波形整形部は、複数種類の波形整形部を選択部により選択する構成でもよい。
【0071】
図10にさらに他の実施例を示す。この実施例は信号処理部内に波形整形部を設けたものである。なお、図11と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。また、パルス光源10、波長分波部11、光ファイバ12、タイミング発生部23は記載を省略している。図10において、90は信号処理部、91、92は信号処理部90に内蔵された波形整形部である。
【0072】
波形整形部91にはAD変換部16の出力デジタルデータである波形データが入力される。波形整形部91は、入力された波形データをデジタル的に処理し、波形歪みを補正する。波形整形部92にはAD変換部20の出力デジタルデータである波形データが入力される。波形整形部92は、入力された波形データをデジタル的に処理し、波形歪みを補正する。信号処理部90は、波形整形部90、91で補正された波形データを用いて温度分布を演算する。
【0073】
波形整形部91、92は内部に波形歪みを補正する補正テーブルを具備し、この補正テーブルを用いて入力されたデジタルデータを補正するようにする。また、波形歪みを補正する関数を具備し、この関数を用いて補正するようにしてもよい。なお、波形整形部91、92はどちらか一方のみ用いるようにしてもよく、波形整形部90、91を信号処理部に内蔵せず、独立した構成としてもよい。また、波形整形部90,91は、複数種類の補正テーブルを設け、選択する構成にしてもよい。
【0074】
デジタル的に補正するので、正確に波形歪みを補正することができ、より正確な温度分布を測定することができる。また、波形整形部91、92はソフトウエアで構成することができるので、ハードウエアを簡単にすることができる。
【0075】
なお、これらの実施例では、増幅部15、19は必ずしも必須ではない。I−V変換部14、18、70、72で必要なレベルにまで増幅するようにしてもよい。
【0076】
また、波形整形部31、33、71、73、80、81は必ずしも図2〜図5の構成に限られることはない。要は、APD13、17で発生する波形歪みを補正できる構成であればよい。
【符号の説明】
【0077】
10 パルス光源
11 波長分波部
12 光ファイバ
13、17 APD
14、18、70、72 I−V変換部
19、30、32 増幅部
31、33、45、48、481、482、50、63、71、73 波形整形部
80、81、91、92 波形整形部
16、20 AD変換部
21、90 信号処理部
40、60 増幅器
41〜43、52、61、62、65 抵抗
44、51、64 コンデンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ中で発生する後方散乱光の強度を検出して、光ファイバが敷設されている場所の温度分布を測定する、光ファイバを用いた温度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温度分布を測定する温度測定装置として、光ファイバにパルス光を入射し、この光ファイバからのラマン散乱光(後方散乱光)の強度を測定して、光ファイバが敷設されている場所の温度分布を測定することが行われている。このような温度測定装置は、光時間領域反射測定器(Optical time-domain reflect-meter)の一種として知られている。
【0003】
図11に、このような光ファイバを用いた温度測定装置の構成を示す。図11において、パルス光源10から出射されたパルス光は波長分波部11を通過して、センサである光ファイバ12に入射される。
【0004】
光ファイバ12で反射された後方散乱光は波長分波部11で分波される。波長分波部11は、入射された後方散乱光を中心波長λsのストークス光(以下ST光と言う)と、中心波長λaのアンチストークス光(以下AS光と言う)に分離する。
【0005】
分波されたST光はAPD(Avalanche PhotoDiode)13でその強度に応じた電流信号に変換される。この電流信号はI−V変換器14で電圧信号に変換され、増幅部15で増幅された後、AD変換部16でデジタルデータに変換される。分波されたAS光も同様にAPD17で電流信号に変換され、I−V変換部18で電圧信号に変換された後、増幅部19で増幅されてAD変換部20でデジタルデータに変換される。
【0006】
AD変換部16と20の出力デジタルデータは、信号処理部21に入力される。信号処理部21は入力されたデジタルデータを加算平均し、演算処理を行って温度を算出して、この算出した温度から光ファイバ12の長さに合わせた温度分布を演算する。この温度分布は表示部22に表示される。
【0007】
タイミング発生部23はパルス光源10、AD変換部16および20、信号処理部21にタイミング信号を出力する。パルス光源10はこのタイミング信号に同期してパルス光を光ファイバ12に出射し、AD変換部16、20はタイミング発生部23の出力信号に同期して、パルス光が出射されてから所定の期間増幅部15、19の出力信号をデジタルデータに変換する動作を繰り返す。信号処理部21は、タイミング発生部23の出力に同期してAD変換部16、20の出力デジタルデータを取り込み、演算処理を行う。
【0008】
図12に、光ファイバ12が敷設されている場所の温度分布が一定の場合のST光、AS光の強度波形の例を示す。横軸は時間であるが、光の速度は一定なので、散乱点からAPD13、17までの距離を表す。縦軸は後方散乱光の強度である。
【0009】
図12(A)は後方散乱光の強度分布の測定値であり、上がST光、下がAS光である。後方散乱光は光ファイバ12内で減衰するので、その強度は距離に応じて指数関数的に減衰する。
【0010】
図12(B)は縦軸を、ノイズレベルを基準とした対数目盛に変換したグラフである。温度分布が一定なので、ST光、AS光の強度曲線は直線になる。このST光、AS光の強度波形に基づいて、光ファイバ12が配置されている場所の温度分布を計算する。
【0011】
特許文献1〜4には、図11と同様構成の温度測定装置が記載されている。特許文献1には、ST光とAS光を用いて温度を測定する原理が記載されている。特許文献1では、ラマン散乱光のラマンシフト波数の分布を考慮した補正テーブルを具備し、ラマンシフト波数の分布を有さないものとして温度を演算し、前記補正テーブルを用いて演算した温度を補正することが記載されている。
【0012】
特許文献2には、波長が異なる第1、第2の光源を備え、第1の光源によるST光またはAS光の光速と第2の光源によるST光とAS光の光速が一致あるいは相互近似するように、前記第1、第2の光源の波長を選択するようにすることにより、温度測定誤差を低減することができる温度分布測定装置が記載されている。
【0013】
特許文献3には、光ファイバの温度変化の影響を補正して、この光ファイバの損失劣化度を演算する損失劣化度演算手段を設けることにより、光ファイバの温度変化の影響を除去できる光ファイバ分布型温度測定装置が記載されている。
【0014】
特許文献4には、ST光とAS光に対する光ファイバの分光屈折率に応じてST光とAS光の検出強度をサンプリングすることにより、正確な温度分布を測定することができる温度分布測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−223831号公報
【特許文献2】特開2011−38871号公報
【特許文献3】特開2011−58815号公報
【特許文献4】特開平6−26940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、このような温度測定装置には次のような課題があった。
後方散乱光の光強度を電流信号に変換するAPDには波形歪みを発生するものがある。このような波形歪みを有する信号を増幅し、デジタルデータに変換した信号に基づいて温度分布を演算すると、温度測定値に誤差が発生してしまうという課題があった。特に、ST光を測定するAPDとAS光を測定するAPDの歪み特性が異なると、大きな温度測定誤差が発生してしまうという課題もあった。
【0017】
このことを、図13、図14を用いて説明する。図13はST光の強度を電流信号に変換するAPD13に波形歪みが発生した例である。なお、光ファイバが敷設されている場所の温度分布は一定であるとする。
【0018】
図13(A)はST光の波形、(B)はAS光の波形であり、左側は生の波形、右側は縦軸を対数目盛に変換した波形である。なお、横軸は時間(距離)、縦軸は光強度である。
【0019】
(A)において、APD13の特性により、左側の波形の24で波形歪みが発生し、点線のようにならなければならない波形が、実線のように変化したとする。右側の波形の25に示すように、縦軸を対数変換した波形でも、点線のように勾配が一定値にならなければならないが、実線のように歪んだ波形になる。APD17は波形歪みを発生しないので、(B)に示すように正常な波形になる。
【0020】
(C)は(A)のST光と(B)のAS光に基づいて算出した温度分布であり、横軸は距離、縦軸は温度である。温度分布は一定なので水平線にならなければならないが、ST光の波形歪みの影響で、26の部分において実線のように温度が上昇し、温度分布が一定でないという結果が得られる。
【0021】
図14は、APD17の特性によって、AS光の強度信号に波形歪みが発生した例であり、(A)はST光の波形、(B)はAS光の波形である。この例ではST光には波形歪みは発生していないが、(B)の27、28に示すように、点線にならなければならない波形が、APD17の特性のために実線のように持ち上がった波形に歪んでいる。このため、(C)に示すように、水平線にならなければならない温度分布が、29の部分で上昇する結果が得られる。
【0022】
図13と図14を比較すると、ST光とAS光の波形歪みは逆方向であるが、温度分布は同じ傾向を示している。従って、APD13と17の歪み特性が逆であると温度分布が加算され、誤差が増大する。
【0023】
このように、APDの波形歪みによって温度分布に誤差が発生し、かつST光とAS光を検出するAPDの波形歪み特性が逆であると、誤差が加算されて増大してしまうという課題があった。
【0024】
特許文献1〜4は、いずれもAPDの波形歪みによる温度分布の誤差を補正するものではない。
【0025】
本発明の目的は、簡単な構成により、波形歪みを補正してより正確な温度分布を測定することができる、光ファイバを用いた温度測定装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
光ファイバにパルス光を入射し、この光ファイバの後方散乱光の強度に基づいて温度分布を測定する光ファイバを用いた温度測定装置において、
前記後方散乱光が入射され、この入射された後方散乱光の強度を電圧信号に変換する光電変換部と、
前記光電変換部で発生した波形歪みを補正する波形整形部と、
前記光電変換部の出力信号に関連する信号が入力され、この信号から温度分布を演算する信号処理部と、
を具備したものである。簡単な構成で、光電変換部で発生した波形歪みを補正して、正確な温度分布を測定できる。
【0027】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記光電変換部の出力信号を増幅する増幅部を具備し、前記波形整形部をこの増幅部に内蔵させたものである。簡単な構成で波形歪みを補正できる。
【0028】
請求項3記載の発明は、請求項1若しくは請求項2に記載の発明において、
前記光電変換部は、後方散乱光を電流信号に変換する光センサと、この光センサの出力電流信号を電圧信号に変換するI−V変換部で構成され、
前記波形整形部を前記I−V変換部に内蔵させたものである。簡単な構成で波形歪みを補正できる。
【0029】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3いずれかに記載の発明において、
前記波形整形部を、コンデンサまたはインダクタで構成したものである。簡単な構成で波形歪みを補正できる。
【0030】
請求項5記載の発明は、
光ファイバにパルス光を入射し、この光ファイバの後方散乱光の強度に基づいて温度分布を測定する光ファイバを用いた温度測定装置において、
前記後方散乱光が入射され、この入射された後方散乱光の強度を電圧信号に変換する光電変換部と、
前記光電変換部の出力信号に関連する信号をデジタルデータに変換するAD変換部と、
前記AD変換部が変換したデジタルデータが入力され、前記光電変換部で発生した波形歪みを補正する波形整形部と、
を具備したものである。簡単な構成で、かつ正確に波形歪みを補正でき、正確な温度分布を測定できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1、2、3、4および5の発明によれば、光ファイバにパルス光を入射し、この光ファイバの後方散乱光の強度から、前記光ファイバが敷設されている場所の温度分布を測定する光ファイバを用いた温度測定装置において、後方散乱光を検出する光電変換部で発生する波形歪みを補正する波形整形部を設けるようにした。また、この波形整形部を、増幅部あるいは光電変換部を構成するI−V変換部に内蔵するようにした。
【0032】
簡単な構成で、光電変換部で発生する波形歪みを補正することができるので、正確な温度分布を測定することができるという効果がある。また、波形歪みを補正する波形整形部を増幅部あるいはI−V変換部に内蔵させることにより、構成をより簡単にすることができるという効果もある。
【0033】
さらに、波形データをデジタルデータに変換し、演算処理によって波形歪みを補正するようにすると、より正確に波形歪みを補正することができ、正確な温度分布を測定することができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施例を示した構成図である。
【図2】波形整形部の構成図である。
【図3】波形整形部の構成図である。
【図4】波形整形部の構成図である。
【図5】波形整形部の構成図である。
【図6】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図7】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図8】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図9】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図10】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図11】従来の光ファイバを用いた温度測定装置の構成図である。
【図12】ST光、AS光の強度波形を示す特性図である。
【図13】ST光、AS光の強度波形を示す特性図である。
【図14】ST光、AS光の強度波形を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る光ファイバを用いた温度測定装置の一実施例を示した構成図である。なお、図11と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。なお、APD13、17は光センサに相当する。また、APD13とI−V変換部14、APD17とI−V変換部18で、それぞれ光電変換部を構成している。
【0036】
図1において、30は増幅部であり、波形整形部31が内蔵されている。増幅部30は、I−V変換部14の出力信号を増幅すると共に、波形歪みを補正してAD変換部16に出力する。32は増幅部であり、波形整形部33が内蔵されている。増幅部32は、I−V変換部18の出力信号を増幅すると共に、波形歪みを補正してAD変換部20に出力する。
【0037】
温度分布を測定する構成は、図11とほぼ同じである。パルス光源10はタイミング発生部23が出力するタイミング信号に同期してパルス光を光ファイバ12に出力する。光ファイバ12の後方散乱光は波長分波部11に入力され、ST光とAS光に分波される。
【0038】
分波されたST光はAPD13で電流信号に変換され、I−V変換部14で電圧信号に変換される。この電圧信号は増幅部30で増幅、波形整形され、AD変換部16でデジタルデータに変換される。このデジタルデータは信号処理部21に入力される。
【0039】
分波されたAS光はAPD17で電流信号に変換され、I−V変換部18で電圧信号に変換される。この電圧信号は増幅部32で増幅、波形整形され、AD変換部20でデジタルデータに変換される。このデジタルデータは信号処理部21に入力される。
【0040】
信号処理部21は入力されたデジタルデータを加算平均し、演算処理を行って温度を算出して、この算出した温度から光ファイバ12が敷設されている場所の温度分布を演算する。この温度分布は表示部22に表示される。
【0041】
図2に、増幅部30、32と波形整形部31、33の一例を示す。図2において、40は増幅器、41〜43は抵抗、44はコンデンサである。抵抗43とコンデンサ44で波形整形部45を構成している。また、46は入力信号の波形、47は出力信号の波形である。
【0042】
抵抗41の両端はそれぞれ増幅器40の反転入力端子と出力端子に接続され、抵抗42の両端はそれぞれ増幅器40の反転入力端子と共通電位点に接続される。入力信号46は増幅器40の非反転入力端子に印加される。増幅器40と抵抗41、42で非反転増幅器を構成している。この非反転増幅器の利得は、帰還抵抗41、42の抵抗値の比で決定される。
【0043】
抵抗43とコンデンサ44は直列接続される。コンデンサ44の他端は増幅器40の反転入力端子に、抵抗43の他端は共通電位点に接続される。すなわち、波形整形部45は、帰還抵抗42に並列に接続される。
【0044】
このような構成において、入力信号46、出力信号47からわかるように、矩形波入力信号46はその立ち上がりがオーバーシュートする波形47に整形される。従って、図13の24のように、立ち上がりが鈍るような特性を有するAPDと組み合わせると、波形歪みを補正できる。コンデンサ44、抵抗43の値を変えることにより、波形整形の特性を変更することができる。
【0045】
図3に、増幅部30、32の他の構成を示す。なお、図2と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0046】
図3において、48は波形整形部であり、波形整形部481、482、選択部483で構成される。波形整形部481、482は、それぞれ、図2の波形整形部45と同じ構成を有し、それぞれ、抵抗、コンデンサの値が異なる。選択部483は、波形整形部481、482を選択し、波形整形部481、482のコンデンサの他端を増幅器40の反転入力端子に接続させている。このように、波形整形部481、482の選択を選択部483で行うと、APD自体の個体差により、波形歪み特性が異なっても、補正を行うことができる。なお、波形整形部481、482の2つの選択を示したが、3以上の波形整形部を選択する構成でもよい。また、選択部485は、波形整形部481、482のどちらか一方の選択だけでなく、両方同時に選択する構成でもよい。両方同時に選択すれば、出力信号の立ち上がりのオーバーシュートをより急峻にすることができる。波形整形部481、482の両方、一方を選択切替の場合、抵抗、コンデンサの値は同一にしてもよい。
【0047】
図4に、増幅部30、32の他の構成を示す。なお、図2と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。53は入力信号の波形、54は出力信号の波形である。
【0048】
図4において、50は波形整形部であり、コンデンサ51と抵抗52が直列接続された構成を有している。波形整形部50は帰還抵抗41に並列に接続される。
【0049】
このような構成において、入力信号53、出力信号54からわかるように、矩形波の入力信号はその立ち上がりが鈍るような波形に変換される。従って、図14の27に示すように、立ち上がりが持ち上がるような特性を有するAPDと組み合わせると、波形歪みを補正することができる。コンデンサ51、抵抗52の値を変えることにより、波形整形の特性を変更することができる。
【0050】
なお、図3に示すように、異なる値の波形整形部50を2以上並列に設け、選択部により選択する構成にしてもよい。
【0051】
図5に、増幅部30、32の他の実施例を示す。この実施例は、増幅器として反転増幅器を用いたものである。なお、66は入力信号の波形を、67は出力信号の波形を表す。
【0052】
図5において、60は増幅器、61、62、65は抵抗、64はコンデンサである。抵抗61の両端はそれぞれ増幅器60の反転入力端子と出力端子に接続される。抵抗62の一端は増幅器60の反転入力端子に接続され、他端には入力信号66が印加される。増幅器60の非反転入力端子は共通電位点に接続される。抵抗61は帰還抵抗、62は入力抵抗である。
【0053】
コンデンサ64と抵抗65は直列接続され、波形整形部63を構成している。この波形整形部63は入力抵抗62に並列に接続される。
【0054】
入力信号66、出力信号67から明らかなように、この増幅部は矩形波入力信号の極性を反転し、かつその出力信号はその立ち下がりでアンダーシュートする特性を有する。コンデンサ64、抵抗65の値を変えることにより、波形整形の特性を変更することができる。
【0055】
なお、波形整形部63を帰還抵抗61と並列に接続するようにしてもよい。また、波形整形部63を2つ以上並列接続するようにしてもよい。また、選択部を設け、2以上の波形整形部を選択する構成にしてもよい。
【0056】
図2〜図5から明らかなように、波形整形部を配置する位置を変え、コンデンサおよび抵抗の値を調整することにより、種々の特性の増幅部を構成することができる。従って、これらの増幅部を波形歪みを発生するAPDと組み合わせることにより、APDの出力波形の歪みを補正することができる。
【0057】
なお、図2〜図5の波形整形部45、48、50、63において、コンデンサ44,51、64をインダクタ(コイル)で置き換えてもよい。このようにすると、波形整形の特性を逆特性にすることができる。また、抵抗43、52、65は省略(短絡)することもできる。
【0058】
また、図1の増幅部30、32は異なる構成であってもよく、波形整形部31、33は異なる特性を有するものであってもよい。要は、組み合わせるAPDが発生する波形歪みを補正するものであればよい。
【0059】
図6に、本発明の他の構成を示す。なお、図1、図11と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。図6において、ST光はAPD13、I−V変換部14で電圧信号に変換されて、増幅部30で増幅、波形整形される。AS光はAPD17、I−V変換部18で電圧信号に変換されて、増幅部19で増幅される。
【0060】
この実施例は、ST光が入力されるAPD13と組み合わせる増幅部のみ波形整形部を内蔵した構成を用い、AS光が入力されるAPD17と組み合わせる増幅部は波形整形部を内蔵しない増幅部を用いたものである。
【0061】
波形整形部31の特性を温度誤差が少なくなるように選択することにより、APD13と17の両方の波形歪みを1つの波形整形部で補正することができる。このようにすることにより、構成をより簡単にすることができる。なお、AS光が入力される側の増幅部に波形整形部を配置するようにしてもよい。
【0062】
図7に、本発明の他の実施例を示す。なお、図1、図11と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。また、APD13とI−V変換部70、APD17とI−V変換部72で、それぞれ光電変換部を構成している。
【0063】
図7において、70、72はI−V変換部、71、73はそれぞれI−V変換部70、72に内蔵された波形整形部である。APD13、17の出力信号はそれぞれI−V変換部70、72で電圧信号に変換、波形整形され、増幅部15、19に出力される。
【0064】
この実施例では、I−V変換部70、72で電流信号を電圧信号に変換すると共に、波形整形を行っている。一般的なI−V変換部は、電流を検出する抵抗と、この抵抗両端の電圧を増幅する差動増幅器で構成される。図2〜図5に示すように、この差動増幅器の入力抵抗あるいは帰還抵抗に並列に波形整形部を接続することにより、波形整形を行うことができる。なお、図6と同様に、I−V変換部70と72のどちらか一方にのみ波形整形部を内蔵する構成とすることもできる。また、波形整形部71、73は異なる特性のものを使用してもよい。
【0065】
図8に、さらに他の実施例を示す。この実施例は、I−V変換部と増幅部の両方に波形整形部を内蔵したものである。なお、図1、6、7と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。また、パルス光源10、波長分波部11、光ファイバ12、タイミング発生部23は記載を省略している。
【0066】
図8において、ST光はAPD13で電流信号に変換され、波形整形部71が内蔵されたI−V変換部70で電圧信号に変換、波形整形される。この電圧信号は、波形整形部31が内蔵された増幅部30で増幅、波形整形され、AD変換部16でデジタルデータに変換される。AS光は、図11と同様に波形整形されずにAD変換部20でデジタルデータに変換される。
【0067】
このように、2段階で波形整形を行うことにより、よりきめ細かく波形整形を行うことができるので、温度誤差をさらに小さくすることができる。なお、AS光が入力される経路のI−V変換部、増幅部に波形整形部を内蔵するようにしてもよく、あるいはST光がとAS光入力される経路の両方のI−V変換部、増幅部に波形整形部を内蔵するようにしてもよい。
【0068】
図9にさらに他の実施例を示す。この実施例は、波形整形部をI−V変換部あるいは増幅部に内蔵せず、独立した構成としたものである。なお、図11と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。また、パルス光源10、波長分波部11、光ファイバ12、タイミング発生部23は記載を省略している。
【0069】
図9において、80は波形整形部であり、I−V変換部14の出力信号が入力される。波形整形部80は、I−V変換部14の出力信号の波形を整形し、増幅部15に出力する。81は波形整形部であり、I−V変換部18の出力信号が入力される。波形整形部81は、I−V変換部18の出力信号の波形を整形し、増幅部19に出力する。波形整形部80、81として、図2〜図5の構成のものを使用することができる。
【0070】
なお、ST光が入力される経路、あるいはAS光が入力される経路のどちらか一方に波形整形部を配置するようにしてもよい。また、増幅部15、19の後に波形整形部80、81を配置するようにしてもよい。また、波形整形部は、複数種類の波形整形部を選択部により選択する構成でもよい。
【0071】
図10にさらに他の実施例を示す。この実施例は信号処理部内に波形整形部を設けたものである。なお、図11と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。また、パルス光源10、波長分波部11、光ファイバ12、タイミング発生部23は記載を省略している。図10において、90は信号処理部、91、92は信号処理部90に内蔵された波形整形部である。
【0072】
波形整形部91にはAD変換部16の出力デジタルデータである波形データが入力される。波形整形部91は、入力された波形データをデジタル的に処理し、波形歪みを補正する。波形整形部92にはAD変換部20の出力デジタルデータである波形データが入力される。波形整形部92は、入力された波形データをデジタル的に処理し、波形歪みを補正する。信号処理部90は、波形整形部90、91で補正された波形データを用いて温度分布を演算する。
【0073】
波形整形部91、92は内部に波形歪みを補正する補正テーブルを具備し、この補正テーブルを用いて入力されたデジタルデータを補正するようにする。また、波形歪みを補正する関数を具備し、この関数を用いて補正するようにしてもよい。なお、波形整形部91、92はどちらか一方のみ用いるようにしてもよく、波形整形部90、91を信号処理部に内蔵せず、独立した構成としてもよい。また、波形整形部90,91は、複数種類の補正テーブルを設け、選択する構成にしてもよい。
【0074】
デジタル的に補正するので、正確に波形歪みを補正することができ、より正確な温度分布を測定することができる。また、波形整形部91、92はソフトウエアで構成することができるので、ハードウエアを簡単にすることができる。
【0075】
なお、これらの実施例では、増幅部15、19は必ずしも必須ではない。I−V変換部14、18、70、72で必要なレベルにまで増幅するようにしてもよい。
【0076】
また、波形整形部31、33、71、73、80、81は必ずしも図2〜図5の構成に限られることはない。要は、APD13、17で発生する波形歪みを補正できる構成であればよい。
【符号の説明】
【0077】
10 パルス光源
11 波長分波部
12 光ファイバ
13、17 APD
14、18、70、72 I−V変換部
19、30、32 増幅部
31、33、45、48、481、482、50、63、71、73 波形整形部
80、81、91、92 波形整形部
16、20 AD変換部
21、90 信号処理部
40、60 増幅器
41〜43、52、61、62、65 抵抗
44、51、64 コンデンサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバにパルス光を入射し、この光ファイバの後方散乱光の強度に基づいて温度分布を測定する光ファイバを用いた温度測定装置において、
前記後方散乱光が入射され、この入射された後方散乱光の強度を電圧信号に変換する光電変換部と、
前記光電変換部で発生した波形歪みを補正する波形整形部と、
前記光電変換部の出力信号に関連する信号が入力され、この信号から温度分布を演算する信号処理部と、
を具備したことを特徴とする光ファイバを用いた温度測定装置。
【請求項2】
前記光電変換部の出力信号を増幅する増幅部を具備し、前記波形整形部をこの増幅部に内蔵させたことを特徴とする請求項1記載の光ファイバを用いた温度測定装置。
【請求項3】
前記光電変換部は、後方散乱光を電流信号に変換する光センサと、この光センサの出力電流信号を電圧信号に変換するI−V変換部で構成され、
前記波形整形部を前記I−V変換部に内蔵させたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2記載の光ファイバを用いた温度測定装置。
【請求項4】
前記波形整形部は、コンデンサまたはインダクタで構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれかに記載の光ファイバを用いた温度測定装置。
【請求項5】
光ファイバにパルス光を入射し、この光ファイバの後方散乱光の強度に基づいて温度分布を測定する光ファイバを用いた温度測定装置において、
前記後方散乱光が入射され、この入射された後方散乱光の強度を電圧信号に変換する光電変換部と、
前記光電変換部の出力信号に関連する信号をデジタルデータに変換するAD変換部と、
前記AD変換部が変換したデジタルデータが入力され、前記光電変換部で発生した波形歪みを補正する波形整形部と、
を具備したことを特徴とする光ファイバを用いた温度測定装置。
【請求項1】
光ファイバにパルス光を入射し、この光ファイバの後方散乱光の強度に基づいて温度分布を測定する光ファイバを用いた温度測定装置において、
前記後方散乱光が入射され、この入射された後方散乱光の強度を電圧信号に変換する光電変換部と、
前記光電変換部で発生した波形歪みを補正する波形整形部と、
前記光電変換部の出力信号に関連する信号が入力され、この信号から温度分布を演算する信号処理部と、
を具備したことを特徴とする光ファイバを用いた温度測定装置。
【請求項2】
前記光電変換部の出力信号を増幅する増幅部を具備し、前記波形整形部をこの増幅部に内蔵させたことを特徴とする請求項1記載の光ファイバを用いた温度測定装置。
【請求項3】
前記光電変換部は、後方散乱光を電流信号に変換する光センサと、この光センサの出力電流信号を電圧信号に変換するI−V変換部で構成され、
前記波形整形部を前記I−V変換部に内蔵させたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2記載の光ファイバを用いた温度測定装置。
【請求項4】
前記波形整形部は、コンデンサまたはインダクタで構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれかに記載の光ファイバを用いた温度測定装置。
【請求項5】
光ファイバにパルス光を入射し、この光ファイバの後方散乱光の強度に基づいて温度分布を測定する光ファイバを用いた温度測定装置において、
前記後方散乱光が入射され、この入射された後方散乱光の強度を電圧信号に変換する光電変換部と、
前記光電変換部の出力信号に関連する信号をデジタルデータに変換するAD変換部と、
前記AD変換部が変換したデジタルデータが入力され、前記光電変換部で発生した波形歪みを補正する波形整形部と、
を具備したことを特徴とする光ファイバを用いた温度測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−96710(P2013−96710A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236614(P2011−236614)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】
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