光ファイバケーブル及び光ファイバケーブルの配線方法
【課題】壁面に沿って配線した際に角部の曲げよりも光ファイバ心線の曲げを大きくしつつ余分に浮き上がることなく配線可能で且つ伝送損失増加を抑制することのできる光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】光ファイバ心線5の両側に抗張力体6を配置して外被7で被覆されたエレメント部2と、その両側に配置した2本のエレメント支持部3とを、首部4で連結した光ファイバケーブル1。この光ファイバケーブル1では、エレメント部2をエレメント支持部3のケーブル配線面3aから上方に空中状態で支持させる。また、首部4を、ケーブル長さ方向に連続又は不連続とする。
【解決手段】光ファイバ心線5の両側に抗張力体6を配置して外被7で被覆されたエレメント部2と、その両側に配置した2本のエレメント支持部3とを、首部4で連結した光ファイバケーブル1。この光ファイバケーブル1では、エレメント部2をエレメント支持部3のケーブル配線面3aから上方に空中状態で支持させる。また、首部4を、ケーブル長さ方向に連続又は不連続とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角部を含む壁面に配線するのに適した光ファイバケーブル及びその配線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、FTTH(Fiber To The Home)の発展により、ユーザー宅などへの光ファイバケーブルの配線が頻繁に行われるようになってきた。ユーザー宅では、例えば室内の壁や通路等の壁に沿って光ファイバケーブルを配線する必要があるため、特許文献1に記載されるような光ファイバケーブルが使用されている。
【0003】
室内の壁に光ファイバケーブルを配線するには、壁面の梁部や部屋の隅、廊下の曲がり部などで、光ファイバケーブルをそれらの曲り角度に応じて配線する必要がある。光ファイバケーブルを曲り角度に応じて曲げると、その曲り角度に準じたケーブル曲げが光ファイバケーブルに加わる。光ファイバの寿命や伝送損失特性は、光ファイバ自体の曲げRにより低下することが知られており、その曲げRは大きくとることが望ましい。
【0004】
そのような中、光ファイバ自体の性能向上により、光ファイバ自体の曲げによる伝送特性の劣化を大きく抑えた光ファイバケーブルが実用化されている。例えば、ITU−T G.657 B3で規格された光ファイバは、曲げRが5mmでも損失増加量が0.15dB(波長1550nm)以下と非常に小さな曲げに対応することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−128495公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような光ファイバケーブルでは、mm単位での極小さな曲げ半径の違いが、実際にそのケーブルを使用した伝送路の性能を左右することになる。
【0007】
本発明は、上記事情を考慮し、壁面に沿って配線した際に角部の曲げよりも光ファイバ心線の曲げを大きくしつつ余分に浮き上がることなく配線可能で且つ伝送損失増加を抑制することのできる光ファイバケーブル及び光ファイバケーブルの配線方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、光ファイバ心線及び抗張力体を外被で被覆してなるエレメント部と、壁面に接する2つのケーブル配線面を有し、前記エレメント部のケーブル長さ方向と垂直なケーブル厚み方向の厚みを該エレメント部よりも厚くし且つエレメント部の両側に配置される2本のエレメント支持部と、前記エレメント部を前記各ケーブル配線面から上方に空中状態で支持するように、前記エレメント部と前記エレメント支持部とをケーブル長さ方向に連続又は不連続で連結する首部とを備えたことを特徴としている。なお、前記壁面には、各部屋を仕切る壁はもちろんのこと天井壁、床壁、屋外の家屋壁面、集合住宅における廊下壁面なども含むものとする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記エレメント部に設けられた光ファイバ心線及び抗張力体と同一線上に、前記2本のエレメント支持部に別の抗張力体を設けたことを特徴としている。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記首部は、前記壁面へのケーブル配線時に前記エレメント支持部から前記エレメント部を切り離し可能とされていることを特徴としている。
【0011】
第4の発明は、第1〜第3の何れか1つの発明において、前記エレメント部は、光ファイバケーブルの全長に対して0〜1%の余長を有していることを特徴としている。
【0012】
第5の発明は、第1〜第4の何れか1つの発明において、前記エレメント部に、前記光ファイバ心線を取り出すためのノッチ溝がケーブル長さ方向に沿って形成されていることを特徴としている。
【0013】
第6の発明は、第1〜第5の何れか1つの発明の光ファイバケーブルを壁面に沿って配線する光ファイバケーブルの配線方法であって、前記壁面の角部に対応する部分の前記首部を切り離して前記光ファイバケーブルを配線することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光ファイバケーブルによれば、エレメント部の両側に首部を介して連結した2本のエレメント支持部で、該エレメント支持部のケーブル配線面から上方に空中状態で前記エレメント部を支持しているため、光ファイバケーブルをドアの隙間を通して内側の壁から外側の壁へ配線するような場合に、壁面の角部では、壁面に接するケーブル配線面から上方にあるエレメント部の光ファイバ心線までの距離分、角部の曲げRよりも光ファイバ心線の曲げRが大きくなる。そのため、角部の曲げRよりも大きな光ファイバ心線の曲げRで光ファイバケーブルを配線することができることにより、光ファイバ心線の伝送損失増加を抑制することができる。また、エレメント部は、連続又は不連続で連結される首部によってエレメント支持部に連結されているので、角部で大きく壁面から浮き上がることが無く、人の手や足といった部位や物を運ぶ際に引っ掛ける等の危険性がなく、しかも美観を損なわない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1はエレメント部とエレメント支持部を連結する首部を連続させた光ファイバケーブルの平面図である。
【図2】図2は図1のA−A線断面図である。
【図3】図3は角部を持つ壁面に図1の光ファイバケーブルを配線した場合の断面図である。
【図4】図4はエレメント部とエレメント支持部を連結する首部を不連続とした光ファイバケーブルの平面図である。
【図5】図5(A)は図4のB−B線断面図、図5(B)は図4のC−C線断面図である。
【図6】図6は角部が外側に突出する出隅を持つ壁面に図4の光ファイバケーブルを配線した場合の断面図である。
【図7】図7は角部が内側に引っ込む入隅を持つ壁面に図4の光ファイバケーブルを配線した場合の断面図である。
【図8】図8はエレメント部を光ファイバケーブルの全長に対して余長を持たせた場合に出隅を持つ壁面に光ファイバケーブルを配線した断面図であり、(A)は適切な余長の例、(B)は余長が長すぎる例である。
【図9】図9はエレメント部を光ファイバケーブルの全長に対して余長を持たせた場合に入隅を持つ壁面に光ファイバケーブルを配線した断面図であり、(A)は適切な余長の例、(B)は余長が短い例、(C)は余長が長すぎる例である。
【図10】図10はエレメント支持部の無いエレメント部のみからなる光ファイバケーブルを角部を持つ壁面に配線した場合の断面図であり、(A)は出隅の例、(B)は入隅の例である。
【図11】図11はエレメント支持部を横長の長方形状とした別実施形態の光ファイバケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
「第1実施形態」
図1はエレメント部とエレメント支持部を連結する首部を連続させた光ファイバケーブルの平面図、図2は図1のA−A線断面図、図3は角部を持つ壁面に図1の光ファイバケーブルを配線した場合の断面図である。
【0018】
第1実施形態の光ファイバケーブル1は、図1及び図2に示すように、エレメント部2と、このエレメント部2の両側に配置される2本のエレメント支持部3と、エレメント部2とエレメント支持部3とをケーブル長さ方向Aに連続して連結する首部4とを備えている。
【0019】
エレメント部2は、光ファイバ心線5と、この光ファイバ心線5を挟んでその両側にケーブル長さ方向Aに沿って配置された2本の抗張力体6,6と、これら光ファイバ心線5及び抗張力体6,6を被覆する外被7とからなる。
【0020】
光ファイバ心線5は、例えば、中心に設けられるガラス光ファイバと、このガラス光ファイバの外周囲を被覆するファイバ被覆層と、その上から被覆された最外層を形成する着色層とから構成される。
【0021】
抗張力体6,6には、例えば金、銀、鋼、鉄、銅、アルミニウム、アルミ合金、銅クラッドアルミなどの金属材料や、エンジニアプラスチック材料を用いたFRPロッド(例えばアラミド繊維を用いたFRPロッド)、ガラスFRPロッドなどが使用される。抗張力体6,6の形状は、図2に示す円形の他に、方形や楕円形でも構わない。
【0022】
外被7には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの一般的な熱可塑性樹脂が使用される。かかる外被7は、光ファイバ心線5を中心としてその両側に同一線上に2本の抗張力体6,6を配置させた状態でそれら全体を被覆しており、ケーブル長さ方向Aと垂直な断面を横長の長方形状としている。
【0023】
外被7には、光ファイバ心線5を取り出すためのノッチ溝8がケーブル長さ方向Aに沿って形成されている。ノッチ溝8は、先端が光ファイバ心線5に向くようにしてV字溝に形成されている。ノッチ溝8が設けられる位置は、光ファイバ心線5と対応する位置とされる。ノッチ溝8を設けることで、この部位から外被7を剥いて、光ファイバ心線5を取り出すことが可能となる。
【0024】
エレメント支持部3は、ケーブル長さ方向Aに垂直な断面を縦長の長方形状としている。このエレメント支持部3は、壁面9に接する2つのケーブル配線面3aを有している。ケーブル配線面3aは、長方形の2つの短辺とされている。かかるエレメント支持部3は、ケーブル長さ方向Aと垂直なケーブル厚み方向Bの厚みT1を、エレメント部2のケーブル厚み方向Bの厚みT2よりも厚くしている。なお、エレメント支持部3は、エレメント部2の外被7と同じ材料で形成されている。
【0025】
また、エレメント支持部3には、エレメント部2に設けた抗張力体6とは別の抗張力体10がその中心に埋設されている。エレメント支持部3に設けられる抗張力体10は、エレメント部2に設けられる抗張力体6と同一の材料で形成されていても良いし、或いは、先のエレメント部2に使用される材料の組み合わせで設計条件等によりサイズも適宜決定される。抗張力体10の形状は、図2に示す円形の他に、方形や楕円形でも構わない。また、この実施形態では、抗張力体10を設けているが、エレメント支持部3に抗張力体10が無くてもよい。
【0026】
首部4は、エレメント部2とエレメント支持部3とをケーブル長さ方向に連続して連結し、該エレメント部2を壁面9に接するケーブル配線面3aから上方に空中状態で支持している。これにより、ケーブル配線面3aからエレメント部2間には所定距離Hを有した空間部11が形成される。首部4は、エレメント部2の厚みT2よりも薄い厚みT3とされている。また、首部4は、エレメント部2に設けた光ファイバ心線5及び抗張力体6とエレメント支持部3の抗張力体10それぞれの中心を結ぶ同一線12上に設けられている。
【0027】
そして、首部4は、エレメント部2の外被7及びエレメント支持部3と同じ熱可塑性樹脂で形成されている。なお、エレメント部2の外被7、エレメント支持部3及び首部4は、何れも同一の熱可塑性樹脂で一体的に成形されることで形成されている。
【0028】
以上のように構成された光ファイバケーブル1を、外側に突出する角部(出隅)を有する壁面9に配線した状態を図3に示す。光ファイバケーブル1は、エレメント支持部3の何れか一方のケーブル配線面3aを壁面9に接触させて、曲り角に沿って配線される。エレメント部2は、ケーブル配線面3aから所定距離Hを置いて空中状態で支持される。
【0029】
このように配線された光ファイバケーブル1では、図3に示すように、壁面9の角部において光ファイバ心線5の曲げ半径Rが、角部の曲げ半径R1よりも大きくなる。つまり、壁面9に接するケーブル配線面3aから所定距離Hにてエレメント部2を空中状態で支持しているため、そのケーブル配線面3aから光ファイバ心線5までの距離分、光ファイバ心線5の曲げ半径Rが角部の曲げ半径R1よりも大きくなる。
【0030】
これに対して、図10(A)に示すように、エレメント支持部3及び首部4を有しないエレメント部2のみからなる光ファイバケーブル100を、外側に突出する角部を有した出隅を持つ壁面9に配線すると、エレメント部2の長辺である上下面2a,2aのうち下面2a(或いは上面2a)が壁面9と接触する。このような配線形態の場合、角部の曲げ半径R1が小さくなればなる程、光ファイバ心線5の曲げ半径Rは小さくなり、該光ファイバ心線5の伝送損失が増加する。しかし、本実施形態では、エレメント部2を壁面9から浮かしているので、その浮いた分だけ光ファイバ心線5の曲げ半径Rを大きくすることができ、角部の曲げ半径R1の影響を受け難くなる。
【0031】
本実施形態の光ファイバケーブル1では、角部を持つ壁面9に配線された時に壁面9から所定距離Hだけエレメント部2が浮いた状態になるが、エレメント部2はエレメント支持部3に首部4を介して連結されているので、エレメント部2が角部で大きく出っ張ることがない。そのため、人の手や足といった部位や物を運ぶ際に光ファイバケーブル1を引っ掛けることなどが無く、しかも大きく出っ張らないので美観を損なうことも無い。
【0032】
「第2実施形態」
図4はエレメント部とエレメント支持部を連結する首部を不連続とした光ファイバケーブルの平面図、図5(A)は図4のB−B線断面図、図5(B)は図4のC−C線断面図、図6は角部が外側に突出する出隅を持つ壁面に図4の光ファイバケーブルを配線した場合の断面図である。
【0033】
第2実施形態の光ファイバケーブル101は、第1実施形態の光ファイバケーブル1に対して、首部4がケーブル長さ方向Aに連続ではなく不連続としている。その他の構成に関しては、この第2実施形態の光ファイバケーブル101は、第1実施形態の光ファイバケーブル1と同一であり、同一構成部分については同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0034】
首部4は、図4に示すように、ケーブル長さ方向Aに間欠的に設けられている。首部4が設けられた位置では、図5(A)のように、エレメント部2とエレメント支持部3とが連結されている。首部4が無い位置では、図5(B)のように、エレメント部2とエレメント支持部3とが離れており、エレメント支持部3からエレメント部2が自由に動けるようになっている。
【0035】
以上のように構成された光ファイバケーブル101を、外側に突出する角部(出隅)を有する壁面9に配線した状態を図6に示す。光ファイバケーブル101は、エレメント支持部3の何れか一方のケーブル配線面3aを壁面9に接触させて、曲り角に沿って配線される。この光ファイバケーブル101では、首部4が無い部位が角部にくるように配線する。首部4が無い部位は、エレメント部2が両側のエレメント支持部3と連結されていないため、図6に示すように大きく湾曲して光ファイバ心線5の曲げ半径Rが角部の曲げ半径R1よりも大きくなる。なお、この角部に対応するエレメント部2は、大きく湾曲してもエレメント支持部3より外側へ飛び出ない。
【0036】
また、この光ファイバケーブル101を、角部が内側に引っ込む入隅を持つ壁面9に配線した状態を図7に示す。入隅の場合も出隅同様、光ファイバ心線5の曲げ半径Rは、エレメント部2が大きく湾曲するため、角部の曲げ半径R1よりも大きくなる。なお、この角部に対応するエレメント部2は、エレメント支持部3よりも外側に飛び出ない。
【0037】
これに対して、図10(B)に示すように、エレメント支持部3及び首部4を有しないエレメント部2のみからなる光ファイバケーブル100を、角部が内側に引っ込む入隅を持つ壁面9に配線すると、エレメント部2の長辺である上下面2a,2aのうち下面2a(或いは上面2a)が壁面9と接触する。このような配線形態の場合、角部の曲げ半径R1が小さくなればなる程、光ファイバ心線5の曲げ半径Rは小さくなり、該光ファイバ心線5の伝送損失が増加する。しかし、本実施形態では、エレメント部2を壁面9から浮かしているので、その浮いた分だけ光ファイバ心線5の曲げ半径Rを大きくすることができ、角部の曲げ半径Rの影響を受け難くなる。
【0038】
第2実施形態の光ファイバケーブル101では、出隅及び入隅の何れの場合に対しても光ファイバ心線5の曲げ半径Rが角部の曲げ半径R1よりも大きくなるので、人の手や足といった部位や物を運ぶ際に光ファイバケーブル101を引っ掛けることなどが無く、しかも大きく出っ張らないので美観を損なうことも無い。
【0039】
例えば、首部4を連続して形成した第1実施形態の光ファイバケーブル1では、角部に対応する部位において首部4を切り離すことで、首部4を不連続とした第2実施形態の光ファイバケーブル101と同様の効果を得ることができる。つまり、角部に光ファイバケーブル101を配線するには、角部に対応する首部4を切り離すようにする。このような配線方法を採用すれば、首部4が連続する光ファイバケーブル101でも光ファイバ心線5の曲げ半径Rを角部の曲げ半径R1よりも大きくすることが可能となる。
【0040】
「第3実施形態」
図8はエレメント部を光ファイバケーブルの全長に対して余長を持たせた場合に出隅を持つ壁面に光ファイバケーブルを配線した断面図であり、(A)は適切な余長の例、(B)は余長が長すぎる例、図9はエレメント部を光ファイバケーブルの全長に対して余長を持たせた場合に入隅を持つ壁面に光ファイバケーブルを配線した断面図であり、(A)は適切な余長の例、(B)は余長が短い例、(C)は余長が長すぎる例である。
【0041】
第3実施形態の光ファイバケーブル102では、第2実施形態の光ファイバケーブル101に対して、エレメント部2の全長を光ファイバケーブル102の全長よりも長くしている。例えば、ケーブル長さ方向Aの前後の首部4,4間で考えると、この首部4,4間のエレメント部2の長さは、前後首部4,4間の直線距離Lよりも長くなっている。
【0042】
このように光ファイバケーブル102の全長よりもエレメント部2の全長を長くして余長を持つ場合、その余長が適切であれば、図8(A)に示すように、光ファイバ心線5の曲げ半径Rが、角部の曲げ半径R1よりも大きくなる。光ファイバ心線5の曲げ半径Rが最大となるのは、エレメント部2の描く曲線が角部に一点で接触する場合(但し、エレメント部2の角部から受ける垂直抗力は零とする)である。これ以上の余長を持つと、図8(B)に示すように、逆に光ファイバ心線5の曲げ半径Rが小さくなるばかりか、エレメント部2がエレメント支持部3より外側に飛び出てしまう。そのため、人の手や足といった部位や物などを運ぶ際にエレメント部2に引っ掛ける危険性が生じる他、美観も損なわれる。
【0043】
入隅を持つ壁面9に光ファイバケーブル102を配線した場合は、その余長が適切であれば、図9(A)に示すように、光ファイバ心線5の曲げ半径Rが、角部の曲げ半径R1よりも大きくなる。この最適余長では、エレメント部2が角部において壁面9に二点で接触する。この一方、余長が短い場合は、図9(B)に示すように、エレメント部2がエレメント支持部3から外側に飛び出てしまう。余長が長すぎる場合は、図9(C)に示すように、光ファイバ心線5の曲げ半径Rが、角部の曲げ半径R1よりも小さくなると共にエレメント部2がエレメント支持部3から外側へ大きく飛び出す。
【実施例】
【0044】
出隅及び入隅を持つ壁面に余長を持たせた光ファイバケーブルを配線して、余長率(((エレメント部−ケーブル全長)/ケーブル全長)×100%)に対する曲げ緩和効果を調べた。検証として、光ファイバ心線の曲げ半径Rが10mm以下、特にITU−T G.657 B3の規格では、前記曲げ半径Rが5.0mmにおける損失増加量が求められているため、宅内における配線において最も曲げ半径Rが厳しいとされる一般的なドア、サッシなどの設計である2mmにて検証した。なお、検証において、サッシなどにおける隙間の幅は2mm程度であるため、エレメント支持部の高さを1.6mm、エレメント部の高さを1.0mm、長径を2.0mmとして設計し検証している。
【0045】
光ファイバ心線の曲げ半径Rが2.0mmにおいて、曲げが緩和され、エレメント支持部よりもエレメント部が外側へ出ないものを○、曲げは緩和されるが、エレメント支持部よりもエレメント部が外側へ飛び出てしまうのを△、曲げが緩和されずエレメント支持部よりもエレメント部が外側へ飛び出てしまうのを×として評価する。その結果を、表1に示す。
【表1】
【0046】
表1の結果を見ると、マイナス余長では、出隅においてエレメント部が伸ばされ壁面角部に押し付けられてしまうため、×となった。エレメント部の余長率が0〜1.0%の場合は、何れも美観を保ったまま曲げの緩和効果が期待できる。これにより、光ファイバ心線に掛かる歪みが低減し、極小曲げ半径時における伝送損失増加量の低減及び光ファイバ心線の破断寿命の低下を抑制することが可能であった。また、角部に接触する位置に首部が存在する場合、エレメント部の自由度が失われてしまい、曲げを緩和する効果が充分に得ることができないが、首部を切断することによって充分な自由度を得ることができ、曲げが緩和される。
【0047】
以上、本発明を適用した具体的な実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、図2では、エレメント支持部3は、ケーブル長さ方向Aに垂直な断面を縦長の長方形状としているが、このエレメント支持部3を、図11に示すような横長の長方形状としてもよい。エレメント支持部3を、横長の長方形状とすると、壁面9に接するケーブル配線面3aが縦長の長方形状としたエレメント支持部3よりも広くなるため、例えば壁面9への固定に両面接着テープ等を用いた場合、接着面が広くなることで安定した固定を実現させることができる。なお、図11は、エレメント支持部3の形状が異なる他は、図2の光ファイバケーブルと同一である。この他、エレメント支持部3は、正方形状、三角形状、或いは台形状であってもよい
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、角部を含む壁面に配線するのに適した光ファイバケーブルに利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1、101,102…光ファイバケーブル
2…エレメント部
3…エレメント支持部
4…首部
5…光ファイバ心線
6、10…抗張力体
7…外被
8…ノッチ溝
9…壁面
【技術分野】
【0001】
本発明は、角部を含む壁面に配線するのに適した光ファイバケーブル及びその配線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、FTTH(Fiber To The Home)の発展により、ユーザー宅などへの光ファイバケーブルの配線が頻繁に行われるようになってきた。ユーザー宅では、例えば室内の壁や通路等の壁に沿って光ファイバケーブルを配線する必要があるため、特許文献1に記載されるような光ファイバケーブルが使用されている。
【0003】
室内の壁に光ファイバケーブルを配線するには、壁面の梁部や部屋の隅、廊下の曲がり部などで、光ファイバケーブルをそれらの曲り角度に応じて配線する必要がある。光ファイバケーブルを曲り角度に応じて曲げると、その曲り角度に準じたケーブル曲げが光ファイバケーブルに加わる。光ファイバの寿命や伝送損失特性は、光ファイバ自体の曲げRにより低下することが知られており、その曲げRは大きくとることが望ましい。
【0004】
そのような中、光ファイバ自体の性能向上により、光ファイバ自体の曲げによる伝送特性の劣化を大きく抑えた光ファイバケーブルが実用化されている。例えば、ITU−T G.657 B3で規格された光ファイバは、曲げRが5mmでも損失増加量が0.15dB(波長1550nm)以下と非常に小さな曲げに対応することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−128495公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような光ファイバケーブルでは、mm単位での極小さな曲げ半径の違いが、実際にそのケーブルを使用した伝送路の性能を左右することになる。
【0007】
本発明は、上記事情を考慮し、壁面に沿って配線した際に角部の曲げよりも光ファイバ心線の曲げを大きくしつつ余分に浮き上がることなく配線可能で且つ伝送損失増加を抑制することのできる光ファイバケーブル及び光ファイバケーブルの配線方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、光ファイバ心線及び抗張力体を外被で被覆してなるエレメント部と、壁面に接する2つのケーブル配線面を有し、前記エレメント部のケーブル長さ方向と垂直なケーブル厚み方向の厚みを該エレメント部よりも厚くし且つエレメント部の両側に配置される2本のエレメント支持部と、前記エレメント部を前記各ケーブル配線面から上方に空中状態で支持するように、前記エレメント部と前記エレメント支持部とをケーブル長さ方向に連続又は不連続で連結する首部とを備えたことを特徴としている。なお、前記壁面には、各部屋を仕切る壁はもちろんのこと天井壁、床壁、屋外の家屋壁面、集合住宅における廊下壁面なども含むものとする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記エレメント部に設けられた光ファイバ心線及び抗張力体と同一線上に、前記2本のエレメント支持部に別の抗張力体を設けたことを特徴としている。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記首部は、前記壁面へのケーブル配線時に前記エレメント支持部から前記エレメント部を切り離し可能とされていることを特徴としている。
【0011】
第4の発明は、第1〜第3の何れか1つの発明において、前記エレメント部は、光ファイバケーブルの全長に対して0〜1%の余長を有していることを特徴としている。
【0012】
第5の発明は、第1〜第4の何れか1つの発明において、前記エレメント部に、前記光ファイバ心線を取り出すためのノッチ溝がケーブル長さ方向に沿って形成されていることを特徴としている。
【0013】
第6の発明は、第1〜第5の何れか1つの発明の光ファイバケーブルを壁面に沿って配線する光ファイバケーブルの配線方法であって、前記壁面の角部に対応する部分の前記首部を切り離して前記光ファイバケーブルを配線することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光ファイバケーブルによれば、エレメント部の両側に首部を介して連結した2本のエレメント支持部で、該エレメント支持部のケーブル配線面から上方に空中状態で前記エレメント部を支持しているため、光ファイバケーブルをドアの隙間を通して内側の壁から外側の壁へ配線するような場合に、壁面の角部では、壁面に接するケーブル配線面から上方にあるエレメント部の光ファイバ心線までの距離分、角部の曲げRよりも光ファイバ心線の曲げRが大きくなる。そのため、角部の曲げRよりも大きな光ファイバ心線の曲げRで光ファイバケーブルを配線することができることにより、光ファイバ心線の伝送損失増加を抑制することができる。また、エレメント部は、連続又は不連続で連結される首部によってエレメント支持部に連結されているので、角部で大きく壁面から浮き上がることが無く、人の手や足といった部位や物を運ぶ際に引っ掛ける等の危険性がなく、しかも美観を損なわない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1はエレメント部とエレメント支持部を連結する首部を連続させた光ファイバケーブルの平面図である。
【図2】図2は図1のA−A線断面図である。
【図3】図3は角部を持つ壁面に図1の光ファイバケーブルを配線した場合の断面図である。
【図4】図4はエレメント部とエレメント支持部を連結する首部を不連続とした光ファイバケーブルの平面図である。
【図5】図5(A)は図4のB−B線断面図、図5(B)は図4のC−C線断面図である。
【図6】図6は角部が外側に突出する出隅を持つ壁面に図4の光ファイバケーブルを配線した場合の断面図である。
【図7】図7は角部が内側に引っ込む入隅を持つ壁面に図4の光ファイバケーブルを配線した場合の断面図である。
【図8】図8はエレメント部を光ファイバケーブルの全長に対して余長を持たせた場合に出隅を持つ壁面に光ファイバケーブルを配線した断面図であり、(A)は適切な余長の例、(B)は余長が長すぎる例である。
【図9】図9はエレメント部を光ファイバケーブルの全長に対して余長を持たせた場合に入隅を持つ壁面に光ファイバケーブルを配線した断面図であり、(A)は適切な余長の例、(B)は余長が短い例、(C)は余長が長すぎる例である。
【図10】図10はエレメント支持部の無いエレメント部のみからなる光ファイバケーブルを角部を持つ壁面に配線した場合の断面図であり、(A)は出隅の例、(B)は入隅の例である。
【図11】図11はエレメント支持部を横長の長方形状とした別実施形態の光ファイバケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
「第1実施形態」
図1はエレメント部とエレメント支持部を連結する首部を連続させた光ファイバケーブルの平面図、図2は図1のA−A線断面図、図3は角部を持つ壁面に図1の光ファイバケーブルを配線した場合の断面図である。
【0018】
第1実施形態の光ファイバケーブル1は、図1及び図2に示すように、エレメント部2と、このエレメント部2の両側に配置される2本のエレメント支持部3と、エレメント部2とエレメント支持部3とをケーブル長さ方向Aに連続して連結する首部4とを備えている。
【0019】
エレメント部2は、光ファイバ心線5と、この光ファイバ心線5を挟んでその両側にケーブル長さ方向Aに沿って配置された2本の抗張力体6,6と、これら光ファイバ心線5及び抗張力体6,6を被覆する外被7とからなる。
【0020】
光ファイバ心線5は、例えば、中心に設けられるガラス光ファイバと、このガラス光ファイバの外周囲を被覆するファイバ被覆層と、その上から被覆された最外層を形成する着色層とから構成される。
【0021】
抗張力体6,6には、例えば金、銀、鋼、鉄、銅、アルミニウム、アルミ合金、銅クラッドアルミなどの金属材料や、エンジニアプラスチック材料を用いたFRPロッド(例えばアラミド繊維を用いたFRPロッド)、ガラスFRPロッドなどが使用される。抗張力体6,6の形状は、図2に示す円形の他に、方形や楕円形でも構わない。
【0022】
外被7には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの一般的な熱可塑性樹脂が使用される。かかる外被7は、光ファイバ心線5を中心としてその両側に同一線上に2本の抗張力体6,6を配置させた状態でそれら全体を被覆しており、ケーブル長さ方向Aと垂直な断面を横長の長方形状としている。
【0023】
外被7には、光ファイバ心線5を取り出すためのノッチ溝8がケーブル長さ方向Aに沿って形成されている。ノッチ溝8は、先端が光ファイバ心線5に向くようにしてV字溝に形成されている。ノッチ溝8が設けられる位置は、光ファイバ心線5と対応する位置とされる。ノッチ溝8を設けることで、この部位から外被7を剥いて、光ファイバ心線5を取り出すことが可能となる。
【0024】
エレメント支持部3は、ケーブル長さ方向Aに垂直な断面を縦長の長方形状としている。このエレメント支持部3は、壁面9に接する2つのケーブル配線面3aを有している。ケーブル配線面3aは、長方形の2つの短辺とされている。かかるエレメント支持部3は、ケーブル長さ方向Aと垂直なケーブル厚み方向Bの厚みT1を、エレメント部2のケーブル厚み方向Bの厚みT2よりも厚くしている。なお、エレメント支持部3は、エレメント部2の外被7と同じ材料で形成されている。
【0025】
また、エレメント支持部3には、エレメント部2に設けた抗張力体6とは別の抗張力体10がその中心に埋設されている。エレメント支持部3に設けられる抗張力体10は、エレメント部2に設けられる抗張力体6と同一の材料で形成されていても良いし、或いは、先のエレメント部2に使用される材料の組み合わせで設計条件等によりサイズも適宜決定される。抗張力体10の形状は、図2に示す円形の他に、方形や楕円形でも構わない。また、この実施形態では、抗張力体10を設けているが、エレメント支持部3に抗張力体10が無くてもよい。
【0026】
首部4は、エレメント部2とエレメント支持部3とをケーブル長さ方向に連続して連結し、該エレメント部2を壁面9に接するケーブル配線面3aから上方に空中状態で支持している。これにより、ケーブル配線面3aからエレメント部2間には所定距離Hを有した空間部11が形成される。首部4は、エレメント部2の厚みT2よりも薄い厚みT3とされている。また、首部4は、エレメント部2に設けた光ファイバ心線5及び抗張力体6とエレメント支持部3の抗張力体10それぞれの中心を結ぶ同一線12上に設けられている。
【0027】
そして、首部4は、エレメント部2の外被7及びエレメント支持部3と同じ熱可塑性樹脂で形成されている。なお、エレメント部2の外被7、エレメント支持部3及び首部4は、何れも同一の熱可塑性樹脂で一体的に成形されることで形成されている。
【0028】
以上のように構成された光ファイバケーブル1を、外側に突出する角部(出隅)を有する壁面9に配線した状態を図3に示す。光ファイバケーブル1は、エレメント支持部3の何れか一方のケーブル配線面3aを壁面9に接触させて、曲り角に沿って配線される。エレメント部2は、ケーブル配線面3aから所定距離Hを置いて空中状態で支持される。
【0029】
このように配線された光ファイバケーブル1では、図3に示すように、壁面9の角部において光ファイバ心線5の曲げ半径Rが、角部の曲げ半径R1よりも大きくなる。つまり、壁面9に接するケーブル配線面3aから所定距離Hにてエレメント部2を空中状態で支持しているため、そのケーブル配線面3aから光ファイバ心線5までの距離分、光ファイバ心線5の曲げ半径Rが角部の曲げ半径R1よりも大きくなる。
【0030】
これに対して、図10(A)に示すように、エレメント支持部3及び首部4を有しないエレメント部2のみからなる光ファイバケーブル100を、外側に突出する角部を有した出隅を持つ壁面9に配線すると、エレメント部2の長辺である上下面2a,2aのうち下面2a(或いは上面2a)が壁面9と接触する。このような配線形態の場合、角部の曲げ半径R1が小さくなればなる程、光ファイバ心線5の曲げ半径Rは小さくなり、該光ファイバ心線5の伝送損失が増加する。しかし、本実施形態では、エレメント部2を壁面9から浮かしているので、その浮いた分だけ光ファイバ心線5の曲げ半径Rを大きくすることができ、角部の曲げ半径R1の影響を受け難くなる。
【0031】
本実施形態の光ファイバケーブル1では、角部を持つ壁面9に配線された時に壁面9から所定距離Hだけエレメント部2が浮いた状態になるが、エレメント部2はエレメント支持部3に首部4を介して連結されているので、エレメント部2が角部で大きく出っ張ることがない。そのため、人の手や足といった部位や物を運ぶ際に光ファイバケーブル1を引っ掛けることなどが無く、しかも大きく出っ張らないので美観を損なうことも無い。
【0032】
「第2実施形態」
図4はエレメント部とエレメント支持部を連結する首部を不連続とした光ファイバケーブルの平面図、図5(A)は図4のB−B線断面図、図5(B)は図4のC−C線断面図、図6は角部が外側に突出する出隅を持つ壁面に図4の光ファイバケーブルを配線した場合の断面図である。
【0033】
第2実施形態の光ファイバケーブル101は、第1実施形態の光ファイバケーブル1に対して、首部4がケーブル長さ方向Aに連続ではなく不連続としている。その他の構成に関しては、この第2実施形態の光ファイバケーブル101は、第1実施形態の光ファイバケーブル1と同一であり、同一構成部分については同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0034】
首部4は、図4に示すように、ケーブル長さ方向Aに間欠的に設けられている。首部4が設けられた位置では、図5(A)のように、エレメント部2とエレメント支持部3とが連結されている。首部4が無い位置では、図5(B)のように、エレメント部2とエレメント支持部3とが離れており、エレメント支持部3からエレメント部2が自由に動けるようになっている。
【0035】
以上のように構成された光ファイバケーブル101を、外側に突出する角部(出隅)を有する壁面9に配線した状態を図6に示す。光ファイバケーブル101は、エレメント支持部3の何れか一方のケーブル配線面3aを壁面9に接触させて、曲り角に沿って配線される。この光ファイバケーブル101では、首部4が無い部位が角部にくるように配線する。首部4が無い部位は、エレメント部2が両側のエレメント支持部3と連結されていないため、図6に示すように大きく湾曲して光ファイバ心線5の曲げ半径Rが角部の曲げ半径R1よりも大きくなる。なお、この角部に対応するエレメント部2は、大きく湾曲してもエレメント支持部3より外側へ飛び出ない。
【0036】
また、この光ファイバケーブル101を、角部が内側に引っ込む入隅を持つ壁面9に配線した状態を図7に示す。入隅の場合も出隅同様、光ファイバ心線5の曲げ半径Rは、エレメント部2が大きく湾曲するため、角部の曲げ半径R1よりも大きくなる。なお、この角部に対応するエレメント部2は、エレメント支持部3よりも外側に飛び出ない。
【0037】
これに対して、図10(B)に示すように、エレメント支持部3及び首部4を有しないエレメント部2のみからなる光ファイバケーブル100を、角部が内側に引っ込む入隅を持つ壁面9に配線すると、エレメント部2の長辺である上下面2a,2aのうち下面2a(或いは上面2a)が壁面9と接触する。このような配線形態の場合、角部の曲げ半径R1が小さくなればなる程、光ファイバ心線5の曲げ半径Rは小さくなり、該光ファイバ心線5の伝送損失が増加する。しかし、本実施形態では、エレメント部2を壁面9から浮かしているので、その浮いた分だけ光ファイバ心線5の曲げ半径Rを大きくすることができ、角部の曲げ半径Rの影響を受け難くなる。
【0038】
第2実施形態の光ファイバケーブル101では、出隅及び入隅の何れの場合に対しても光ファイバ心線5の曲げ半径Rが角部の曲げ半径R1よりも大きくなるので、人の手や足といった部位や物を運ぶ際に光ファイバケーブル101を引っ掛けることなどが無く、しかも大きく出っ張らないので美観を損なうことも無い。
【0039】
例えば、首部4を連続して形成した第1実施形態の光ファイバケーブル1では、角部に対応する部位において首部4を切り離すことで、首部4を不連続とした第2実施形態の光ファイバケーブル101と同様の効果を得ることができる。つまり、角部に光ファイバケーブル101を配線するには、角部に対応する首部4を切り離すようにする。このような配線方法を採用すれば、首部4が連続する光ファイバケーブル101でも光ファイバ心線5の曲げ半径Rを角部の曲げ半径R1よりも大きくすることが可能となる。
【0040】
「第3実施形態」
図8はエレメント部を光ファイバケーブルの全長に対して余長を持たせた場合に出隅を持つ壁面に光ファイバケーブルを配線した断面図であり、(A)は適切な余長の例、(B)は余長が長すぎる例、図9はエレメント部を光ファイバケーブルの全長に対して余長を持たせた場合に入隅を持つ壁面に光ファイバケーブルを配線した断面図であり、(A)は適切な余長の例、(B)は余長が短い例、(C)は余長が長すぎる例である。
【0041】
第3実施形態の光ファイバケーブル102では、第2実施形態の光ファイバケーブル101に対して、エレメント部2の全長を光ファイバケーブル102の全長よりも長くしている。例えば、ケーブル長さ方向Aの前後の首部4,4間で考えると、この首部4,4間のエレメント部2の長さは、前後首部4,4間の直線距離Lよりも長くなっている。
【0042】
このように光ファイバケーブル102の全長よりもエレメント部2の全長を長くして余長を持つ場合、その余長が適切であれば、図8(A)に示すように、光ファイバ心線5の曲げ半径Rが、角部の曲げ半径R1よりも大きくなる。光ファイバ心線5の曲げ半径Rが最大となるのは、エレメント部2の描く曲線が角部に一点で接触する場合(但し、エレメント部2の角部から受ける垂直抗力は零とする)である。これ以上の余長を持つと、図8(B)に示すように、逆に光ファイバ心線5の曲げ半径Rが小さくなるばかりか、エレメント部2がエレメント支持部3より外側に飛び出てしまう。そのため、人の手や足といった部位や物などを運ぶ際にエレメント部2に引っ掛ける危険性が生じる他、美観も損なわれる。
【0043】
入隅を持つ壁面9に光ファイバケーブル102を配線した場合は、その余長が適切であれば、図9(A)に示すように、光ファイバ心線5の曲げ半径Rが、角部の曲げ半径R1よりも大きくなる。この最適余長では、エレメント部2が角部において壁面9に二点で接触する。この一方、余長が短い場合は、図9(B)に示すように、エレメント部2がエレメント支持部3から外側に飛び出てしまう。余長が長すぎる場合は、図9(C)に示すように、光ファイバ心線5の曲げ半径Rが、角部の曲げ半径R1よりも小さくなると共にエレメント部2がエレメント支持部3から外側へ大きく飛び出す。
【実施例】
【0044】
出隅及び入隅を持つ壁面に余長を持たせた光ファイバケーブルを配線して、余長率(((エレメント部−ケーブル全長)/ケーブル全長)×100%)に対する曲げ緩和効果を調べた。検証として、光ファイバ心線の曲げ半径Rが10mm以下、特にITU−T G.657 B3の規格では、前記曲げ半径Rが5.0mmにおける損失増加量が求められているため、宅内における配線において最も曲げ半径Rが厳しいとされる一般的なドア、サッシなどの設計である2mmにて検証した。なお、検証において、サッシなどにおける隙間の幅は2mm程度であるため、エレメント支持部の高さを1.6mm、エレメント部の高さを1.0mm、長径を2.0mmとして設計し検証している。
【0045】
光ファイバ心線の曲げ半径Rが2.0mmにおいて、曲げが緩和され、エレメント支持部よりもエレメント部が外側へ出ないものを○、曲げは緩和されるが、エレメント支持部よりもエレメント部が外側へ飛び出てしまうのを△、曲げが緩和されずエレメント支持部よりもエレメント部が外側へ飛び出てしまうのを×として評価する。その結果を、表1に示す。
【表1】
【0046】
表1の結果を見ると、マイナス余長では、出隅においてエレメント部が伸ばされ壁面角部に押し付けられてしまうため、×となった。エレメント部の余長率が0〜1.0%の場合は、何れも美観を保ったまま曲げの緩和効果が期待できる。これにより、光ファイバ心線に掛かる歪みが低減し、極小曲げ半径時における伝送損失増加量の低減及び光ファイバ心線の破断寿命の低下を抑制することが可能であった。また、角部に接触する位置に首部が存在する場合、エレメント部の自由度が失われてしまい、曲げを緩和する効果が充分に得ることができないが、首部を切断することによって充分な自由度を得ることができ、曲げが緩和される。
【0047】
以上、本発明を適用した具体的な実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、図2では、エレメント支持部3は、ケーブル長さ方向Aに垂直な断面を縦長の長方形状としているが、このエレメント支持部3を、図11に示すような横長の長方形状としてもよい。エレメント支持部3を、横長の長方形状とすると、壁面9に接するケーブル配線面3aが縦長の長方形状としたエレメント支持部3よりも広くなるため、例えば壁面9への固定に両面接着テープ等を用いた場合、接着面が広くなることで安定した固定を実現させることができる。なお、図11は、エレメント支持部3の形状が異なる他は、図2の光ファイバケーブルと同一である。この他、エレメント支持部3は、正方形状、三角形状、或いは台形状であってもよい
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、角部を含む壁面に配線するのに適した光ファイバケーブルに利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1、101,102…光ファイバケーブル
2…エレメント部
3…エレメント支持部
4…首部
5…光ファイバ心線
6、10…抗張力体
7…外被
8…ノッチ溝
9…壁面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線及び抗張力体を外被で被覆してなるエレメント部と、
壁面に接する2つのケーブル配線面を有し、前記エレメント部のケーブル長さ方向と垂直なケーブル厚み方向の厚みを該エレメント部よりも厚くし且つエレメント部の両側に配置される2本のエレメント支持部と、
前記エレメント部を前記各ケーブル配線面から上方に空中状態で支持するように、前記エレメント部と前記エレメント支持部とをケーブル長さ方向に連続又は不連続で連結する首部とを備えた
ことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
請求項1記載の光ファイバケーブルであって、
前記エレメント部に設けられた光ファイバ心線及び抗張力体と同一線上に、前記2本のエレメント支持部に別の抗張力体を設けた
ことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の光ファイバケーブルであって、
前記首部は、前記壁面へのケーブル配線時に前記エレメント支持部から前記エレメント部を切り離し可能とされている
ことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1つに記載の光ファイバケーブルであって、
前記エレメント部は、光ファイバケーブルの全長に対して0〜1%の余長を有している
ことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1つに記載の光ファイバケーブルであって、
前記エレメント部に、前記光ファイバ心線を取り出すためのノッチ溝がケーブル長さ方向に沿って形成されている
ことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1つに記載の光ファイバケーブルを壁面に沿って配線する光ファイバケーブルの配線方法であって、
前記壁面の角部に対応する部分の前記首部を切り離して前記光ファイバケーブルを配線する
ことを特徴とする光ファイバケーブルの配線方法。
【請求項1】
光ファイバ心線及び抗張力体を外被で被覆してなるエレメント部と、
壁面に接する2つのケーブル配線面を有し、前記エレメント部のケーブル長さ方向と垂直なケーブル厚み方向の厚みを該エレメント部よりも厚くし且つエレメント部の両側に配置される2本のエレメント支持部と、
前記エレメント部を前記各ケーブル配線面から上方に空中状態で支持するように、前記エレメント部と前記エレメント支持部とをケーブル長さ方向に連続又は不連続で連結する首部とを備えた
ことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
請求項1記載の光ファイバケーブルであって、
前記エレメント部に設けられた光ファイバ心線及び抗張力体と同一線上に、前記2本のエレメント支持部に別の抗張力体を設けた
ことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の光ファイバケーブルであって、
前記首部は、前記壁面へのケーブル配線時に前記エレメント支持部から前記エレメント部を切り離し可能とされている
ことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1つに記載の光ファイバケーブルであって、
前記エレメント部は、光ファイバケーブルの全長に対して0〜1%の余長を有している
ことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1つに記載の光ファイバケーブルであって、
前記エレメント部に、前記光ファイバ心線を取り出すためのノッチ溝がケーブル長さ方向に沿って形成されている
ことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1つに記載の光ファイバケーブルを壁面に沿って配線する光ファイバケーブルの配線方法であって、
前記壁面の角部に対応する部分の前記首部を切り離して前記光ファイバケーブルを配線する
ことを特徴とする光ファイバケーブルの配線方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−97318(P2013−97318A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242539(P2011−242539)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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